(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797647
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】電気光学変調器の両側に置かれた2つの光伝導層を含む光アドレス型光弁
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20151001BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20151001BHJP
G02F 1/061 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/13 505
G02F1/061 505
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-520091(P2012-520091)
(86)(22)【出願日】2010年7月15日
(65)【公表番号】特表2012-533098(P2012-533098A)
(43)【公表日】2012年12月20日
(86)【国際出願番号】GB2010001350
(87)【国際公開番号】WO2011007144
(87)【国際公開日】20110120
【審査請求日】2013年6月24日
(31)【優先権主張番号】0912258.1
(32)【優先日】2009年7月15日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】0916102.7
(32)【優先日】2009年9月15日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】390040604
【氏名又は名称】イギリス国
【氏名又は名称原語表記】THE SECRETARY OF STATE FOR DEFENCE IN HER BRITANNIC MAJESTY’S GOVERNMENT OF THE UNETED KINGDOM OF GREAT BRITAIN AND NORTHERN IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バージエス,クリストフアー・デイビツド
【審査官】
小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−127544(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/116719(WO,A2)
【文献】
英国特許出願公開第02230346(GB,A)
【文献】
特開平05−257160(JP,A)
【文献】
C.James, et,al.,"Compact Silicon Carbide Switch For High Voltage Operation",Proceedings of the 2008 IEEE International Power Modulators and High Voltage Conference,米国,2008年 5月27日,p.17−20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02F 1/061
G02F 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学システムまたは撮像装置の焦平面における点に集められる光の透過を、高輝度光が遮断される一方、低輝度光の透過が許容されるように空間的に制限するための光アドレス型光弁(21)であって、
入力光および対応する出力光の間の透過比が入力エネルギーに応じて変化する非線形の光学装置であり、
入力偏光子および出力偏光子と、
電圧依存性の偏光変調器と
を備え、
電圧依存性の偏光変調器が、第1および第2の透明電極(22)の間に配置された第1および第2のフォトレジスタ層(23、23a)の間に挟まれ、高輝度光を遮断する一方、低輝度光の透過を許容するように、第1の透明電極(22)は、第1のフォトレジスタ層(23)と接触し、第2の透明電極(22)は、第2のフォトレジスタ層(23a)と接触する、光アドレス型光弁(21)。
【請求項2】
電圧依存性の偏光変調器(24)が、液晶の層内で形成された90°で捩じられたネマチック層を含む、請求項1に記載の光アドレス型光弁(21)。
【請求項3】
フォトレジスタ層(23、23a)が、ビスマスシリコンオキサイド(BSO)を含む、請求項1または2に記載の光アドレス型光弁(21)。
【請求項4】
フォトレジスタ層(23、23a)が、バナジウムでドープされた炭化ケイ素(V−SiC)を含む、請求項1または2に記載の光アドレス型光弁(21)。
【請求項5】
入力偏光子および出力偏光子が、クロスニコルに配置された、請求項4に記載の光アドレス型光弁(21)。
【請求項6】
第1および第2の透明電極(22)が、フォトレジスタ層の外側表面に施されたインジウムスズ酸化物(ITO)コーティングを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の光アドレス型光弁(21)。
【請求項7】
第1および第2の透明電極(22)が、インジウムスズ酸化物(ITO)でコーティングされたガラス板を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の光アドレス型光弁(21)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の光アドレス型光弁(21)を備える光学システムであって、光アドレス型光弁(21)が当該システムで形成される像の焦平面に配置された、光学システム。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の光アドレス型光弁(21)を備える撮像装置であって、光アドレス型光弁(21)が当該装置で形成される像の焦平面に配置された、撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形の光学装置、より詳細には高輝度光源からの放射の透過を選択的に限定するのに適した光アドレス型光弁に関する。
【背景技術】
【0002】
高輝度光源による眩しさは、光学システムまたは撮像装置における共通の問題であり、センサに対する損傷、画像品質の低下、またはユーザの状況認識の損失を引き起こす。問題は、太陽光、溶接アーク、車のヘッドランプまたはレーザなどの高輝度光源が、システムまたは装置に向けられたときに起こる。特にレーザによる飽和または眩しさは現在、レーザ自体が、より小型に、より安価に、かつより容易に入手可能になるにつれて軍隊環境および民間環境の両方における共通の問題である。これは、さらに、センサへの光の透過を限定するまたはフィルタをかけるために電気光学的保護対策(EOPM)を備えたそのようなシステムおよび装置を提供する必要性をもたらしている。EOPMに対する1つの手法は、光アドレス型光弁(OALV)を用いて空間的にブロックすることによって眩しさの効果を限定することである。
【0003】
OALVの1つのタイプは、フォトレジスタ(PR)を、2つの偏光子の間に配置された90°で捩じられたネマチックになり得る電圧依存性の偏光変調器に結合させることによって機能する。偏光子は、特有の入来する波長を除去するために、互いに対して所定の角度で設定され得る。PRおよび液晶層の両方は、電極として作用する透明なインジウムスズ酸化物(ITO)でコーティングされたガラス板の間に位置している。正弦波電圧または矩形波電圧が、結晶性固体インジウムを用いて取り付けられたワイヤを介してこれらのITO層に印加される。PRは、光の存在によって変更され得る大きい導電性を有する材料である。通常、光生成電荷は、光に応答して抵抗性を低下させる。このようにして、液晶層上の電圧低下は、装置上に落ちる光の輝度プロファイルによって決定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
OALVの1つのタイプは、ビスマスシリコンオキサイド(BSO)から製作されたフォトレジスタを組み込む。BSOは、高い暗伝導度(光の不在下での伝導度)を含む優れた光伝導特性を有し、BSOをOALVに対して完璧なふさわしいものにする。しかしながら、BSOは、それ自体光学的に活性である。これは、BSOが、結晶媒体を通過する線形に偏光された光の波長依存の回転を引き起こすことを意味する。この光学活性は、知られているBSO OALVが、単一の所定の有害波長を選択的に限定するのに効果的であることを意味する。異なる波長が、異なる量だけPRによって回転されるため、分析偏光子は、特有の入来する波長をブロックするように所定の角度で設定される必要がある。
【0005】
知られているOALVをカメラ、暗視装置、照準器、安全ゴーグルなどの光学システムまたは撮像装置に組み込むことにより、センサは、1つの所定の有害波長によって眩しさから効果的に保護され得る。
【0006】
本発明の目的は、改良された空間的な光学的限定パフォーマンスをもたらすように適合されたOALVを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高輝度光の透過を限定するための光アドレス型光弁(OALV)であって、
入力偏光子および出力偏光子と、
第1の透明電極と第2の透明電極の間に配置された第1のフォトレジスタ層と第2のフォトレジスタ層の間に挟まれた電圧依存性の偏光変調器とを備える、光アドレス型光弁(OALV)を提供する。
【0008】
各々の電極をフォトレジスタ材料のそれ自体の個々の層に関連付けることにより、装置のパフォーマンスが高められる。
【0009】
本発明は、紫外線および赤外線を含むあらゆる高輝度光源に適用可能であることが留意されなければならない。
【0010】
電圧依存性の偏光変調器は、好ましくは、液晶の層内に形成された捩じられたネマチック層を含む。これは、液晶層の2つの主要面に隣接して一定方向にラビング処理されたポリマーコーティングを施すことによって形成され得る。局所的な液晶の向きは、隣接するポリマー層のラビング処理方向によって決定され、それにより、たとえばラビング処理方向が直交する場合、90°のらせん液晶構造が、液晶層の厚さを貫通して確立される。
【0011】
単一のPR層を、液晶の両側に位置するPRの2つの層に置き換えることにより、液晶層の電場誘起された再配向が増大され得、したがって装置のパフォーマンスが改良され得る。実際には、液晶層は、少なくとも10ミクロンの厚さになる必要があるが、フォトレジスタ上に落ちる高輝度光によって発生した増大した電場強度によって引き起こされた、捩じられたネマチックのらせん構造の崩壊は、液晶を約1〜3ミクロンで突き抜けやすくする。したがって、フォトレジスタの2つの層間に液晶を配置することにより、液晶厚さのより大きい割合が、その効果に寄与する。故にパフォーマンスが高められる。
【0012】
フォトレジスタ層は、ビスマスシリコンオキサイド(BSO)、または良好な光伝導特性および高い暗伝導度(光の不在下での伝導度)を有する任意の他の適切な材料を含むことができる。
【0013】
バナジウムでドープされた炭化ケイ素(V−SiC)をフォトレジスタ層として利用することにより、広帯域の保護という付加された利点が、達成され得る。V−SiCなどのフォトレジスタ層が不活性であるところでは、眩しさに対して広帯域の保護をもたらすために、偏光子は交差され得る。BSOなどの活性なフォトレジスタが使用される場合、偏光子の角度は、除去される必要がある入来する波長によって調整される。OALV装置でV−SiCを使用する利点が、本出願人の同時係属中の英国優先権特許出願の英国特許出願第0912241.7号明細書でより完全に記載されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0014】
透明電極は、フォトレジスタ材料の外側表面にコーティングとして施されたインジウムスズ酸化物(ITO)を含むことができる。
【0015】
あるいは、第1の透明電極および第2の透明電極は、好都合には、インジウムスズ酸化物(ITO)でコーティングされたガラス板を含むが、等価の構成が当技術分野で知られている。
【0016】
本発明によるOALVを光学システムまたは画像装置のほぼ焦平面に配置することにより、高輝度の入射光が、一点に集光される。したがって、装置は眩しさの集光された点のみをブロックして、ユーザが画像の残りのものを明確に見ることを可能にする。
【0017】
本発明がより十分に理解され得るように、次にその実施形態が、添付の図を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】偏光変調に使用される捩じられたネマチック層のらせん構造を示す図である。
【
図3】BSO OALVの非線形応答を示す図である。
【
図4】本発明によるOALV(偏光子は図示されず)を示す図である。
【
図5】本発明による2PR式OALVの非線形の光学応答を示す図である。
【
図6】単一PR式OALVおよび2PR式OALVの光学密度(OD)の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、標準的なOALV設計1を示している。2枚のガラス板は、ガラス電極2を提供するために、透明なインジウムスズ酸化物(ITO)でコーティングされている。フォトレジスタ3は、液晶層4に結合され、このときスペーサ5は、液晶が毛管作用によって中に充填される空隙を形成するように配置されている。ガラス電極2は、電圧6およびアース7に電気的に接続されている。これらの電気的接続6および7は、正弦波電圧または矩形波電圧をガラス電極2上に印加することを可能にする。これらのガラス電極2は、ポリマー層でスピンコートされており、局所的な液晶層4の配向がラビング処理方向によって決定されるように一方向にラビング処理される。2つのラビング処理方向が直交するように装置を構築することにより、90°のらせん構造が、液晶層4内に築かれる。これは、捩じられたネマチックとして知られている。捩じられたネマチック層は、電圧依存性の偏光変調器である。
【0020】
図2は、OALV組立体11内の交差された偏光子13、18間に配置された捩じられたネマチック層16の効果を示している。低輝度光12が、入力直線偏光子13を通ってOALV組立体11内に入る。低輝度光12は、ITOコーティングされたガラス電極14を通って進行する。光が、捩じられたネマチック層16を通って伝播するとき、偏光の方向は、捩じられたネオマチックらせんと共に回転される。捩じられたネマチック層16の総捩じり角度は、90度である。したがって、総捩じり角度は、交差された偏光子13、18の間の角度と合致するため、低輝度光19は、出力線形偏光子18によって透過される。高輝度光が、装置上に入射する場合、光伝導が、PR15の抵抗性を局所的に低下させ、それに関連して液晶層内の電場強度を増大させる。この電場は、捩じられたネマチック層16のらせん構造の崩壊を引き起こして、その捩じり効果が切れる。したがって、そのような高輝度光は、低輝度光のように回転されず、出力線形偏光子18によって吸収される。
【0021】
OALVは非線形光学装置であるため、その機能は、入力エネルギーが変更されたときに装置の透過されたエネルギーが測定される、パワースキャン測定によって特徴付けられ得る。線形装置(ガラス板または吸収フィルタなど)は、入力光のいくらかの固定された分量を常に透過し、それにより、出力エネルギーは、入力エネルギーの一次関数となるが、一方で非線形装置による透過は、入力エネルギーによって変わる。
図3は、線形装置と比較した標準的なBSO OALVの非線形応答を示している。線形応答からの逸脱は、光学的スイッチとしてのBSO OALVの効果性を示している。
図3では、PRおよび偏光子における吸収効果は、取り除かれている。
【0022】
本出願人は、単一のBSO PR
層が、液晶層の両側に位置するBSO PRの2つの層によって置き換えられた改良されたOALV構造を首尾よく作り上げた。
図4は、本発明による2PR
(2層フォトレジスタ)式OALVを組立体21として示している(偏光子は図示せず)。
図1と共通して、この実施形態は、ガラス電極22、フォトレジスタ(PR)層23
(「第1のフォトレジスタ」の一態様であり、この実施形態の説明において、「PR層」または「BSO PR層」ともいう)、液晶層24、スペーサ25、電圧に接続する電気接続2
6および接地に接続する電気接続27を備える。この実施形態では、追加のフォトレジスタ層23aが存在
し、これは、「第2のフォトレジスタ層」の一態様であり、「PR層」または「BSO PR層」ともいう。この構造では、各々のフォトレジスタには、それ自体の電極が関連付けられ、各々の電極は、いかなるときも、一方の電極の電圧が+Vである場合、他方の電圧は−Vになるように矩形波の電圧によって駆動される。装置との光の相互作用の計算は、第2のフォトレジスタの追加によって劇的に変更される。
【0023】
装置は、次の説明に従って構築された。ガラス電極22は、IngCrys Laser Systems Ltdから入手されたインジウムスズ酸化物(ITO)でコーティングされたBK7ガラスの3.5mmの板であった。PR層23、23aは、いずれの25×25mm面も光学的に研磨された25×25×0.3mmのBSOウエハであった。メタノール中に溶解されたポリイミドのアライメント膜が、次いで、各々のBSOウエハの1つの面上にスピンコートされた。これらのポリイミド層は、次いで、ベロア布を用いてラビング処理された。BSO PR層23、23aは、それらのコーティングされていない面が、ITOと接触し、ガラス電極22とBSO PR層23、23aの間に空隙が存在しないようにガラス電極22上に置かれた。スペーサボール25(15ミクロンのガラス玉)が、次いで、ポリイミドでコーティングされた面がスペーサ25と接触するように2つのBSO PR層23、23a間に施された。ガラス電極22aの面上のポリイミドコーテイングに適用されるラビング処理方向は、直交でなければならない。BSO PR層23、23a間の空隙は、次いで、毛管作用を介して液晶24で充填された。
【0024】
充填された時点で、装置は、のり(図示せず)を用いて縁周りにおいてシールされ、電気ワイヤ26、27が、ITO表面上にはんだ付けされた。代替の実施形態では、ITOは、BSO PR層23および23aの外側表面に施され、ITOは、ガラスではなくBSOに施される。
【0025】
図5は、実験的な2BSO PR式OALVの非線形の光学応答(ダイアモンド)ならびに線形応答(点線)を示している。
図5では、PRおよび偏光子における吸収効果は、取り除かれている。明確なことに、DPR
(2層フォトレジスタ式)OALVは、2つの線のずれによって明白である、非線形装置として作用している。液晶層の両側の2つの別個のPRの配置は、両方の表面における液晶構造の局所的摂動を可能にし、したがって液晶の総摂動量の増大を可能にする。この増大された摂動は、結果として改良された装置パフォーマンスをもたらす。
【0026】
この増大されたパフォーマンスは、
図6に示されており、
図6では、同一の条件下で測定された装置の各々のタイプの光学密度(OD)を示している。ODは、
【0028】
より高いODは、入来する光のより多くがブロックされており、したがって装置は、光学的光弁としてより良好に機能していることを意味する。点線の曲線は、単一のフォトレジスタを備えて作製された装置に関するデータを示している。実線の曲線は、2フォトレジスタ式装置から得られたデータを示している。5〜20ボルトの電圧範囲では、DPR OALVのODは、SPR
(単層フォトレジスタ式)OALVのものよりも高かったことを見ることができる。これは、DPRが、光学システムまたは撮像装置の焦平面に配置される場合、改良された光学的限定パフォーマンスが達成されることを示している。