【文献】
Tetrahedron: Asymmetry,2001年 2月 5日,Vol.12, No.1,p.63-67
【文献】
N.Usami, et al,Chemico-Biological Interactions,2003年,Vol.143-144,p.353-361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化還元酵素が、カンジダ・マグノリア(Candida magnolia)、カンジダ・バクチニ(Candida vaccinii)またはアナウサギ(Oryctolagus cuniculus)から単離することができる請求項2に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の別の態様は、下記一般式(2)で表されるアリールケトンのエナンチオ選択的酵素的還元を介して、下記一般式(3)で表されるアルコール化合物を製造する新規な方法が提供する:
【0017】
[式中、R
1及びR
2は、独立して、水素、ハロゲン、ペルフルオロアルキル、炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のチオアルコキシ及び炭素数1〜8のアルコキシよりなる群から選択され;そして
A
1及びA
2の一方はCHであり、他方はNである]
【0018】
上記還元は、上記一般式(2)の化合物、アミノ酸配列の配列番号:1、配列番号:2,配列番号:3または配列番号:4と少なくとも60%相同性を有する酸化還元酵素、還元工程中に酸化され且つ続いて再生される補因子(cofactor)としてのNADHまたはNADPH、一般式R
xR
yCHOH[ここで、R
xはxが1〜10の整数の炭素を表し、R
yはyがxの値の2倍に2を加えたものに等しい整数の水素を表す)で表される第2級アルコールを含む補基質(cosubstrate)、及び適切な緩衝液を含む反応混合物内で行われる。
【0019】
本発明の実施形態に従えば、下記一般式(2)で表されるアリールケトンのエナンチオ選択的酵素的還元及び下記一般式(3)で表されるアルコール化合物のカルバメート化を含む方法は、下記一般式(1)で表されるカルバミン酸(R)−1−アリール−2−テトラゾリル−エチルエステルの製造のために提供される。
【0021】
[式中、R
1及びR
2は、独立して、水素、ハロゲン、ペルフルオロアルキル、炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のチオアルコキシ及び炭素数1〜8のアルコキシよりなる群から選択され;そして
A
1及びA
2の一方はCHであり、他方はNである]
【0022】
本発明の上記製造方法において、出発物質として用いられる一般式(2)で表されるアリールケトンは、例えば、下記一般式(4)のアリールケトンと下記一般式(5)のテトラゾールとの置換反応で合成することができる。
【0024】
[式中、R
1及びR
2は上記定義のとおりであり;
Xはハライドまたはスルホネートのような離脱基である]
【0025】
一般式(4)及び(5)で表される化合物は商業的に入手可能な安価な化合物であるので、これらの化合物からの一般式(2)のアリールケトンの合成は経済的に有利である。さらに、上記置換反応は、(R)−2−アリール−オキシランとテトラゾールと間の開環反応と比べて、比較的温和な反応条件で行うことができる。本発明に係る方法は、したがって、潜在的に爆発性のテトラゾールを使用するが、工程安全性が確保され、不要なベンジル位置における位置異性体が生成せず、製造収率が高く、精製が容易である。
【0026】
テトラゾールとの置換反応によって合成することができる一般式(2)で表されるアリールケトンは、下記一般式(2a)で表される1Nアリールケトン及び下記一般式(2b)で表される2Nアリールケトンを含む位置異性体の混合物で存在することができ、それらは商業的に利用可能な結晶化により単離精製することができる。
【0028】
本発明において有用な結晶化は、上記置換反応の生成物、即ち、位置異性体の混合物に溶解剤を加え、ついで沈殿剤を加えることを含むことができる。上記結晶化は、場合により、沈殿後、沈澱物をろ過し、ろ液を濃縮し、沈殿剤を更に加えることを更に含んでいてもよい。
【0029】
上記溶解剤の非制限的な例は、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、1,4−ジオキサン及び炭素数1〜4の低級アルコール、ならびにこれらの混合溶媒を含む。上記溶解剤は、上記位置異性体の混合物の重量(g)に基づいて、0〜20mL(v/w)の量で使用することができる。本明細書で、溶解剤が0mL(v/w)の量で添加することは、上記ろ液を希釈することなく、後続の添加剤を直ちに加えることを意味する。
【0030】
上記沈殿剤の例は、水、C1〜C4低級アルコール、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン及びこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。上記沈殿剤は上記位置異性体の混合物の重量(g)に基づいて、0〜40mL(v/w)の量でゆっくり加えることができる。本明細書で、沈殿剤が0mL(v/w)の量で加えることは、沈澱剤を加えることなく、放置または冷却して沈澱物を生じさせることを意味する。
【0031】
沈殿剤の添加によって得られる結晶をろ過することにより、一般式(2a)の1Nアリールケトンが高純度の結晶として生成する。
【0032】
他方、ろ過工程後に得られるろ液は濃縮し、沈殿剤対溶解剤の比率を高め、一般式(2b)の2Nアリールケトンを高純度で得ることができる。ろ液の濃縮比は当業者によって適切に決定することができる。例えば、濃縮は溶媒が完全に除去されるまで行い、次に上述したような溶解剤と沈殿剤を加える。
【0033】
上記結晶化は、カラムクロマトグラフィー方法と異なり、何ら困難なく商業的に利用することができる。
【0034】
上記エナンチオ選択的酵素的還元は、一般式(2)のアリールケトンの下記一般式(3)で表される(R)−立体配置を有するアルコール化合物への転換を可能にする。
【0036】
[式中、R
1及びR
2は、独立して、水素、ハロゲン、ペルフルオロアルキル、炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のチオアルコキシ及び炭素数1〜8のアルコキシよりなる群から選択され;そして
A
1及びA
2の一方はCHであり、他方はNである]
【0037】
上記エナンチオ選択的酵素的還元は、反応混合物に懸濁されているか、または通常の方法で固定化された酸化還元酵素により行うことができる。上記酵素は、完全に精製された状態、部分的に精製された状態、またはそれらが発現された微生物細胞の状態で利用することができる。上記細胞それ自体は、天然(native)状態、透過可能な(permeabilized)状態または溶解された(lysed)状態であってもよい。細胞の状態で酵素を使用することが、コスト面で大幅な節約を示すので、当業界によって本発明の工程の実施のために好まれる。最も好ましくは、酵素がE.coliで発現され、天然細胞の懸濁液として使用される。
【0038】
一般式(2)のアリールケトン化合物の酵素的還元工程は、上記一般式(2)を含む化合物、酸化還元酵素、補因子としてのNADHまたはNADPH、補基質及び適切な緩衝液を含む反応混合物中で行うことができ、ここで、酸化還元酵素は、アミノ酸の少なくとも60%がアミノ酸配列の配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3または配列番号:4の一つと同じであるアミノ酸配列を含む。
【0039】
アミノ酸配列の配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3または配列番号:4の一つを含むポリペプチド、またはアミノ酸配列の配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3または配列番号:4の一つと少なくとも60%、好ましくは少なくとも90%同じであるアミノ酸配列を含み且つ酸化還元酵素活性を保持するポリペプチドは、高い転換率及びエナンチオ選択的に一般式(2)の化合物を一般式(3)(R−立体配置)の化合物に還元するために使用することができる。エナンチオ選択的酵素的還元で生成するR−アルコールの鏡像体過剰率(enantiomeric excess)は、少なくとも約89%、好ましくは少なくとも約95%及び最も好ましくは少なくとも約99%である。
【0040】
エナンチオ選択的酵素的還元に有用な酸化還元酵素ポリペプチドを生産する有機体は、野生株(wild strain)または変種であってもよく、好ましくはカンジダ・マグノリア(C
andida magnolia)、カンジダ・バクチニ(Candida vaccinii)、及びアナウサギ(Oryctolagus cuniculus)から選択される。カンジダ属(genus)の酵母が、本方法で利用される酸化還元酵素を生産するために好ましい。ポリペプチドの誘導体は、上述した配列番号等と少なくとも60パーセントの相同性を有し且つ酸化還元酵素活性を保持するものである。当業者は配列相同性を正確に判定するために利用可能なシステム及び技術が存在していることを知っている。
【0041】
配列番号:1を含むポリペプチドは、例えば、ブダペスト条約の条件下にDeutsche Sammlung fur Mikroorganismen und Zellkulturen, Mascheroder Weg 1b, 38124に受託番号DSMZ 22167として寄託された有機体アナウサギ、特にラビットDSMZ 22167として得ることができるDNA配列の配列番号:5、またはそこにハイブリダイズ(hybridize)する核酸配列によりコード化することができる。配列番号:2を含むポリペプチドは、例えば、有機体カンジダ・マグノリアエ(Candida magnoliae)DSMZ 22052から得ることができるDNA配列の配列番号:6、またはそこにハイブリダイズする核酸配列によりコード化することができる。
【0042】
配列番号:3を含むポリペプチドは、例えば、有機体カンジダ・バクチニ(Candida vaccinii)CBS7318から得ることができるDNA配列の配列番号:7、またはそこにハイブリダイズする核酸配列によりコード化することができる。配列番号:4を含むポリペプチドは、例えば、有機体カンジダ・マグノリアエ(Candida magnoliae)CBS6396から得ることができるDNA配列の配列番号:8、またはそこにハイブリダイズする核酸配列によりコード化することができる。
【0043】
上述したポリペプチド配列の一つを有する酸化還元酵素は、当業者に知らされた通常のプロセスによって利用可能な量で得られる。アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、適切なベクターにクローニングし、その後、上記配列をコードする遺伝子を発現できる宿主有機体に導入される。このようなペプチドを発現できるように形質転換できる微生物は、当業界によく知られている。好ましい微生物は大腸菌である。上述したように、形質転換されたE.coliによって発現される酸化還元酵素は、本方法で利用するために、E.coli細胞から抽出し、部分的にまたは完全に精製するか、天然、透過可能なまたは溶解された状態の細胞自体で利用することができる。エナンチオ選択的酵素的還元の好ましい具体例は、天然状態の細胞懸濁液を利用することである。これらの形態のどれでも、遊離または固定された状態で利用することができる。
【0044】
還元反応は、その中に懸濁された酵素を含有する細胞を有する単相システムで行うことができる。また、上記反応は、米国特許出願公開2009/0017510号明細書及び米国特許7,371,903に説明された通りに、2相の水性/有機溶媒システムで行うことができる。上記反応は通常のバッチ反応、または連続工程(continous process)として行うことができる。商業的適用のためのエナンチオ選択的酵素的還元の顕著な長所の一つは連続操作が可能であることである。
【0045】
反応混合物は、好ましくは添加された反応物1kg当りの約35g〜350gの細胞を含む。懸濁液は、反応混合物の水性部分であり、また、緩衝液、例えば、TEA(トリエタノールアミン)、ホスフェート、Tris/HClまたはグリシン緩衝液を含む。緩衝液は、更に、酵素の安定化のために、イオン、例えば、マグネシウムイオンの供給源を含んでいてもよい。酵素を安定化するために、緩衝液に存在しうる追加の添加剤は、グリセロール、ソルビトールなどのポリオール、1,4−DL−ジチオトレイトール、グルタチオン、システインなどの硫黄化合物、アミノ酸及びペプチド、またはDMSOのような洗剤を含むことができる。酵素のための好ましい安定剤は、ポリオール、特にグリセロールであり、これは細胞懸濁液重量に対して約10重量%〜80重量%、好ましくは約50重
量%で存在することができる。
【0046】
エナンチオ選択的酵素的還元工程は、反応混合物が、補因子または補酵素の再生性のために補基質を用いて、アリールケトン基質の還元のための水素を提供する共役基質原理(coupled substrate principle)を用いて、有利に行うことができる。補因子は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADP)またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)が好ましく、これらはそれぞれ還元状態、即ち、NADPHまたはNADHで利用される。補因子は、反応混合物で約0.01mM〜5mM、好ましくは0.05mM〜0.5mMの濃度で存在する。反応において、補基質は酸化されることによって、NADPHまたはNADH補因子を再生する機能を果たす。補基質は、一般式R
xR
yCHOHで表される第2級アルコールであり、ここでR
xはxが1〜10の整数の炭素を表し、R
yはyがxの値の2倍に2を加えたものに等しい整数の水素を表す。適切な補基質の例は、2−プロパノール、2−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ペンタノール、2−ヘプタノール、2−オクタノールなどを含む。好ましい補基質の例は、2−ブタノールである。補基質は、反応混合物で約10体積%〜80体積%、好ましくは約40体積%〜60体積%、最も好ましくは約50体積%で存在する。
【0047】
アリールケトンの還元中に生成される酸化された補因子は、酸化還元酵素により触媒となりうる、補基質の酸化により再生される。したがって、本発明の特別な経済的利点は、酸化還元酵素が一般式(1)のアリールケトンの還元及び補基質の酸化に影響を与えるので、補因子再生に追加の酵素を必要としないことである。また、アリールケトンの還元速度を増進させるために、さらに別の酵素を反応混合物に加えて、補因子を再生することも本発明の範囲内にある。
【0048】
さらに別の実施形態において、補因子の再生に関与しない有機溶媒を反応混合物及び水性有機2相システム(aqueous organic 2-phase system)で行われる還元工程に添加することができる。このような溶媒の非制限的な例は、ジエチルエーテル、第3級ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、酢酸エチル、ブチルアセテート、ヘプタン、ヘキサンまたはシクロヘキサンを含む。このような溶媒は、反応混合物の体積に基づいて、約1体積%〜50体積%で存在することができる。
【0049】
反応混合物でアリールケトン基質の量は、好ましくは約0.1重量%を超えて、約50重量%まで増加することができ、好ましい濃度は約5〜30重量%である。基質の量は、本発明の製造方法が精製された状態の基質または不純物の様々な含量及び形態を含む原料生成物(raw product)で行うことができるため、基質の純度に依存する。全ての成分を添加した後、反応混合物のpHは5〜10の範囲であり、好ましくは7〜9であり、最適のpHは約8である。本発明に係る酵素的還元は、約10〜45℃、好ましくは約20〜40℃、最も好ましくは約25〜35℃の温度で行われる。
【0050】
エナンチオ選択的還元方法は、一般式(3)のアルコールを高収率及び高いエナンチオ選択的に提供に加えて、費用節減を可能にして親環境的である。従って、高い光学純度の(R)−立体配置を有するアルコール化合物は、約12〜96時間、好ましくは約24〜48時間内に、上述した反応条件下に酵素の存在下で得ることができる。培養中、混合物のpHは、これを周期的に測定し、それぞれナトリウムカーボネート及びナトリウムヒドロオキシドのような通常の酸性または塩基性試薬を添加して上記範囲に維持する。エナンチオ選択的酵素的還元の効率は、総回転数(total turnover number)(TTN)で示すことができ、これは最初に加えられた補因子1モル当たり生成された一般式(2)のキラルアルコールのモル数である。エナンチオ選択的酵素的還元のTTNは、約10
2〜10
5、好ましくは10
3以上である。
【0051】
上記エナンチオ選択的酵素的還元により得られるアルコール化合物は、一般式(3a)のアルコール1N及び一般式(3b)のアルコール2Nの位置異性体の混合物として存在することができ、それは結晶化により高純度を有する個々の位置異性体に単離精製することができる:
【0053】
上記結晶化は、上記還元から生成される位置異性体の混合物に溶解剤を加え、沈殿剤を加え、そして、場合により、沈澱物をろ過し、ろ液を濃縮し、追加の沈殿剤を更に含むことができる。
【0054】
上記結晶化に有用な溶解剤の例は、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、1,4−ジオキサン、炭素数1〜4の低級アルコール、及びこれらの混合物を含むが、それらに制限されない。上記溶解剤は上記位置異性体混合物の重量(g)に基づいて、0〜20mL(v/w)の量で加えることができる。
【0055】
上記沈殿剤の非制限的な例は、水、炭素数1〜4の低級アルコール、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン及びこれらの混合物を含む。上記沈殿剤は上記位置異性体混合物の重量(g)に基づいて、0〜40mL(v/w)の量でゆっくり加えることができる。
【0056】
沈殿剤の添加後、ろ過により1Nアルコール(3a)を高純度の沈澱物として得ることができる。
【0057】
また、ろ液を濃縮し、溶解剤対沈殿剤の比率を高めることによって、2Nアルコール(3b)が非常に高い純度の結晶形態で得ることができる。
【0058】
これら結晶化工程は、一般式(2)のアリールケトンの位置異性体が既に単離精製されている場合には、省略することができる。
【0059】
一般式(3)の(R)−立体配置を有するアルコール化合物へのカルバモイル基の導入により、一般式(1)で表される(R)−立体配置を有するカルバメートが得られる:
【0061】
[式中、R
1及びR
2は、独立して、水素、ハロゲン、ペルフルオロアルキル、炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のチオアルコキシ及び炭素数1〜8のアルコキシよりなる群から選択され;そして
A
1及びA
2の一方はCHであり、他方はNである]
【0062】
上記カルバメート化工程において、例えば、無機シアネート−有機酸、イソシアネート−水またはカルボニル化合物−アンモニアを、カルバモイル基を導入するために使用することができる。
【0063】
上記無機シアネート−有機酸を用いるカルバメート化のために、一般式(3)の(R)−立体配置を有するアルコール化合物を有機溶媒、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルムまたはこれらの混合物中に溶解し、1〜4当量のナトリウムシアネートのような無機シアネートと有機酸、例えば、メタンスルホン酸または酢酸と混合した後、約−10℃〜約70℃で反応させる。
【0064】
イソシアネート−水を使用する場合については、一般式(3)の(R)−立体配置を有するアルコールの有機溶媒、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルムまたはこれらの混合溶媒の溶液に、1〜4当量のイソシアネート、例えば、クロロスルホン酸イソシアネート、トリクロロアセチルイソシアネート、トリメチルシリルイソシアネートを加え、約−50℃〜40℃で反応させる。次に、精製することなく、加水分解を誘導するために1〜20当量の水を加える。
【0065】
上記カルボニル化合物−アンモニアの使用については、一般式(3)の(R)−立体配置を有するアルコール化合物の有機溶媒、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルムまたはこれらの混合溶媒中の溶液に、1〜4当量のカルボニル化合物、例えば、1,1’−カルボニルジイミダゾール、カルバモイルクロリド、ジスクシニルカルボネート、ホスゲン、トリホスゲンまたはクロロホルメートを加え、約−10℃〜70℃で反応させた後、精製することなく、1〜10当量のアンモニアを加える。
【0066】
上記カルバメート化後、かくして得られる一般式(1)のカルバメート化合物は、以下に記述する結晶化により更に高い光学的と化学的純度に精製することができる。結晶化は、カルバメート化の生成物に溶解剤を加え、次いで沈殿剤を加え、そして場合により、沈澱をろ過し、追加の沈殿剤を添加することを含む。製薬学的用途のために、カルバメート化生成物を最終的に精製するが、本方法のより早い段階で結晶化行ってもよい。
【0067】
上記溶解剤の非制限的な例は、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、1,4−ジオキサン及び炭素数1〜4の低級アルコール及びこれらの混合物を含む。上記溶解剤は上記反応生成物の重量(g)に基づいて、0〜20mL(v/w)の量で加えることができる。
【0068】
上記沈殿剤の非制限的な例は、水、炭素数1〜4の低級アルコール、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン及びこれらの混合物を含む。上記沈殿剤は上記反応生成物の重量(g)に基づいて、0〜40mL(v/w)の量でゆっくり加えることができる。
【0069】
エナンチオ選択的酵素的還元を含む、本発明の方法により、光学的純度の高いカルバメート化合物を提供することができる。また、本発明の方法は、温和な反応条件で行われるので、工程安定性を確保することができる。さらに、エナンチオ選択的酵素的還元の前後またはカルバメート化の後に、大規模生産に適用可能な結晶化工程を遂行することによって、化学的純度が更に高いカルバメート化合物が生じる。本発明によって製造された上記カルバメート化合物は、痙攣のような中枢神経系(CNS)障害の治療に極めて有用である。
【0070】
以下に記載する実施例により本発明をよりよく理解することができるが、これらは本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0071】
製造例1:1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−1−イル)エタン−1−オンの製造
アセトニトリル(2000mL)中の2−ブロモ−2'−クロロアセトフェノン(228.3g、0.978mol)及び炭酸カリウム(161.6g、1.170mol)の懸濁液に、35w/w%1H-テトラゾールジメチルホルムアミド溶液(215.1g、1.080mol)を室温で加えた。反応物を45℃で2時間撹拌し、減圧蒸留して約1500mLの溶媒を除去した。濃縮液を酢酸エチル(2000mL)で希釈し、10%食塩水(3回×2000mL)で洗浄した。分離された有機層を減圧蒸留し、216.4gの油状の固体残渣を得た。固体残渣の酢酸エチル(432mL)に、ヘプタン(600mL)をゆっくり加えた。生成した結晶を室温でろ過し洗浄して、90.1g(0.405mol)の1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−1−イル)エタン−1−オン(以下、‘1Nケトン’と称する)を得た。
1H-NMR(CDCl
3)d8.87(s,1H),d7.77(d,1H),d7.39-7.62(m,3H),d5.98(s,2H)
【0072】
製造例2:1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オンの製造
上記製造例1のろ過後、ろ液を濃縮し、イソプロパノール(100mL)に溶かし、それにヘプタン(400mL)をゆっくり加えて結晶化を完結させた。ろ過し5℃で洗浄して、94.7g(0.425mol)の1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オン(以下、「2Nケトン」と称する)を得た。
1H-NMR(CDCl
3)d8.62(s,1H),d7.72(d,1H),d7.35-7.55(m,3H),d6.17(s,2H)
【0073】
製造例3:種々の酸化還元酵素に介したエナンチオ選択的酵素的還元による(R)−立体配置のアルコール化合物の製造
下記4つの溶液を以下のようにして製造した。
【0074】
酵素溶液1
大腸菌StarBL21(De3)コンピテント(competent)細胞(nvitrogen)を、酸化還元酵素配列番号1をコードする発現構成体(expression construct)pET21−MIXで形質転換した。上記生じた発現構成体で形質転換された大腸菌群を、550nmで測定時、光学密度が0.5になるまで、それぞれ50μg/mLのアンピシリンまたは40μg/mLのカナマイシンが添加された200mLのLB培地(1%トリップトン、0.5%酵母及び1%塩化ナトリウム)で培養した。所望の組換えタンパク質の発現は、イソプロピルチオガラクトサイド(IPTG)を0.1mM濃度で加えることにより誘導した。25℃及び16時間、220rpmで誘導後、細胞を採取し、−20℃に凍結した。酵素溶液の調製において、30gの細胞を150mLのトリエタノールアミン緩衝液(TEA 100nM、2mM MgCl
2、10%グリセロール、pH8)で再懸濁し、高圧ホモジナイザー(homogenizer)で均質化した。結果酵素溶液を150mLグリセロールと混合し、−20℃で保管した。
【0075】
酵素溶液2
RB791細胞(E.coli genetic stock, Yale, USA)を、酸化還元酵素配列番号2をコードする発現構成体pET−MIXで形質転換した。上記生成した発現構成体で形質転換された大腸菌群を、550nmで測定時、光学密度が0.5になるまで、それぞれ50μg/mLのアンピシリンまたは40μg/mLのカナマイシンが添加された200mLのLB培地(1%トリップトン、0.5%酵母及び1%塩化ナトリウム)で培養した。所望の組換えタンパク質の発現は、イソプロピルチオガラクトサイド(IPTG)を0.1mM濃度で加えることにより誘導した。25℃及び16時間、220rpmで誘導後、細胞を採取し、−20℃に凍結した。酵素溶液の調製において、30gの細胞を150mLのトリエタノールアミン緩衝液(TEA 100nM、2mM MgCl
2、10%グリセロール、pH8)で再懸濁し、高圧ホモジナイザー(homogenizer)で均質化した。結果酵素溶液を150mLグリセロールと混合し、−20℃で保管した。
【0076】
酵素溶液3
酵素溶液3は、酸化還元酵素配列番号1をコードするpET21−MIX発現構成体の代わりに酸化還元酵素配列番号3をコードするpET21−MIX発現構成体を使用した以外は、酵素溶液1と同様の方法で製造された。
【0077】
酵素溶液4
酵素溶液4は、酸化還元酵素配列番号2をコードするpET21−MIX発現構成体の代わりに酸化還元酵素配列番号4をコードするpET21−MIX発現構成体を使用した以外は、酵素溶液2と同様の方法で製造された。
【0078】
それぞれの酵素溶液1〜4に含まれる異なる酸化還元酵素を、1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−1−イル)エタン−1−オン(1Nケトン)及び1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オン(2Nケトン)をそれぞれ、相応する1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−1−イル)エタン−1−オル(以下、「1Nアルコール」と称する)及び1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オル(以下、「2Nアルコール」と称する)に転換するため
に下記のとおり試験した。
【0079】
反応バッチA
160μL 緩衝液(TEA 100nM、2mM MgCl
2、10%グリセロール、pH8)
100μL NADPH(40mg/mL)
40μL 2−プロパノール
50μL 酵素溶液1
2mg 1Nケトンまたは2Nケトン
【0080】
反応バッチB
160μL 緩衝液(TEA 100nM、2mM MgCl
2、10%グリセロール、pH8)
100μL NADPH(40mg/mL)
40μL 2−プロパノール
50μL 酵素溶液2
2mg 1Nケトンまたは2Nケトン
【0081】
反応バッチC
350μL 緩衝液(TEA 100nM、2mM MgCl
2、10%グリセロール、pH8)
0.05mg NADP
50μL 酵素溶液3
10mg 1Nケトンまたは2Nケトン
250μL 4−メチル−2−ペンタノール
50μL 補因子の再生のための酵素(サーモアネロビウム・ブロッキイ由来の酸化還元酵素)溶液
【0082】
反応バッチD
350μL 緩衝液(TEA 100nM、2mM MgCl
2、10%グリセロール、pH8)
0.05mg NADP
50μL 酵素溶液4
10mg 1Nケトンまたは2Nケトン
250μL 4−メチル−2−ペンタノール
50μL 補因子の再生のための酵素(サーモアネロビウム・ブロッキイ由来の酸化還元酵素)溶液
【0083】
各反応バッチA、B、C及びDを24時間培養した後、遠心分離して、鏡像体過剰率(enantiomeric excess)及び転換率(conversion)を判定するために、HPLC分析容器に移した各反応バッチに、1mLのアセトニトリルを加えた。表1に記載された生成物の転換率及びee−値は下記式を利用して求めた。
転換率(%)=[(生成物の面積)/(反応物の面積+生成物の面積)]×100
ee−値(%)=[(R−立体配置の面積−S−立体配置の面積)/(R−立体配置の面積+S−立体配置の面積)]×100
【0084】
【表1】
【0085】
製造例4:酸化還元酵素配列番号:2を介した酵素的還元
1N/2NケトンをR−1N/R−2Nアルコールに転換するために、酸化還元酵素配列番号:2を含む30μLの酵素溶液2を、300μLの緩衝液(100mM TEA、pH8、1mM MgCl
2、10%グリセロール)、100mgの1Nケトン及び2Nケトンの混合物(1N:2N=14%:86%)、0.04mgのNADP及び300μLの2−ブタノールの混合物に加えた。反応混合物を持続的に十分に混合しながら室温で培養した。48時間後、98%以上のケトンが下記の組成(R−2Nアルコール80%;S−2Nアルコール0%;R−1Nアルコール20%、S−1Nアルコール0%;1Nケトン0%;2Nケトン0%)のアルコール混合物に還元された。
【0086】
一般的な処理(workup)及び酢酸エチル/ヘキサンでの再結晶化の後、光学的に純粋なアルコールを下記のとおり得た:
(R)−1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−1−イル)エタン−1−オル(1Nアルコール)
1H-NMR(CDCl
3)d8.74(s,1H),d7.21-7.63(m,4H),d5.57(m,1H),d4.90(d,1H),d4.50(d,1H),d3.18(d,1H);
(R)−1−(2-クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オル(2Nアルコール)
1H-NMR(CDCl
3)d8.55(s,1H),d7.28-7.66(m,4H),d5.73(m,1H),d4.98(d,1H),d4.83(d,1H),d3.38(br,1H).
【0087】
カルバメートの製造
【0088】
製造例5:カルバミン酸(R)−1−(2−クロロフェニル)−2−(テトラゾール−2−イル)エチルエステルの製造
酸化還元酵素配列番号:2を含む50mLの酵素溶液2を250mLの緩衝液(100mM TEA、pH8、1mM MgCl
2、10%グリセロール)、50g(225mmol)の1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オン(2Nケトン)、4mgのNAD、300mLの2−プロパノール及び150mLのブチルアセテートの混合物に加えた。上記反応混合物を室温で撹拌した。48時間後、98%以上の2Nケトンは99%ee値の相応する(R)−1−(2-クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オル(R−2Nアルコール)に還元された。上記生じた混合物に、500mLの酢酸エチルを加えた。分離後、形成された有機層を10%食塩水(3回×500mL)で)洗浄した。かくして形成された有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、ろ液を減圧蒸留して、50
.4g(224mmol)の1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オル(R−2Nアルコール、光学純度99.9%)の油状残渣を得た。−15℃に冷却後、38g(267mmol)のクロロスルホニルイソシアネートをゆっくり加え、−10℃で2時間撹拌した。水をゆっくり加えた反応の終了を誘導した。上記最終溶液を約300mLの溶媒が除去されるまで減圧濃縮した。濃縮液を600mLの酢酸エチルで希釈し、10%塩水(3×500mL)で洗浄した。有機層を減圧濃縮し、濃縮液をイソプロパノール(90mL)に溶解した後、ヘプタン(180mL)をゆっくり加えて、結晶化を完了した。得られた沈澱をろ過し、洗浄して、51.8g(194mmol)のカルバミン酸(R)−1−(2−クロロフェニル)−2-(テトラゾール−2−イル)エチルエステル(光学純度99.9%)を得た。
1H-NMR(Acetone-d
6) d8.74(s, 1H), d7.38-7.54(m, 4H), d6.59(m, 1H), d6.16(Br, 2H), d4.90(d, 1H), d5.09(m, 2H)
【0089】
上述したとおり、本発明に従い、光学的及び化学的純度の高いカルバメート化合物を経済的に製造することができる。
【0090】
本発明の好ましい形態を例示の目的のために開示したが、当業者は、添付の特許請求の範囲に開示された発明の範囲及び精神から逸脱することなく、種々の修正、追加及び代替が可能であることを認識するであろう。
【0091】
配列目録フリーテキスト(Sequence Listing Free Text)
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】