(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜5のいずれか一項に記載の大型電解槽を用いた電解を停止するときに、隣り合う前記電解槽間の電流を前記電気遮断装置によって遮断する工程を備える、電解停止方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電解槽の設備が大型化しており、直列に並べる電解セルの数が100対から200対程度まで増えてきている。それに伴い、電解の停止時に発生する逆電流(電解電流とは逆向きの電流)が大きくなり、それによって、陰極が酸化して劣化し易くなる。
【0005】
陰極の劣化防止のため、電解停止前に微弱な防食電流を電解槽に流す措置がとられている。しかしながら、この電解停止方法では、運転操作が煩雑となることや、付帯設備を要することによって電解のコストが上がること等が問題となる。これらは経済的観点から改善されるべき点である。そのため、電解停止時に防食電流を流すことなく陰極の劣化を防止する方法が求められている。
【0006】
本発明は、電解停止時の逆電流を低減することができる大型電解槽及び電解停止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、電解停止時に、電気的に接続された電解槽間を電気的に切断することにより、逆電流を大幅に低減できることを見出し、本発明を成すに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
本発明に係る大型電解槽の一態様は、電気的に直列接続された複数の電解槽を備え、電解槽が、複数の電解セルを有し、電解セルが、電気的に接続された陽極及び陰極を有し、電解セル内において、陽極が設置された陽極室と、陰極が設置された陰極室とが、隔壁を介して配置され、電解槽内において、複数の電解セルが直列に連結され、電解槽内において隣接する2つの電解セルのうち一方の電解セルの陽極室と他方の電解セルの陰極室との間にイオン交換膜が配置され、少なくとも2つの
隣り合う電解槽が、電気遮断装置を介して
のみ、導電体で直列に接続されている。なお、大型電解槽とは、複数の電解槽を構成要素とする電解装置のことである。
【0009】
本発明に係る電解停止方法の一態様は、上記大型電解槽を用いた電解を停止するときに、隣り合う電解槽間の電流を電気遮断装置によって遮断する工程を備える。
【0010】
本発明の一態様によれば、電解停止時の逆電流を低減することができる。
【0011】
本発明の一態様では、全ての電解槽が、電気遮断装置を介して、導電体で直列に接続されていることが好ましい。これにより、電解停止時の逆電流を低減し易くなる。
【0012】
本発明の一態様は、2つの電解槽を備えることが好ましい。これにより、設備が簡素になる。
【0013】
本発明の一態様では、電解槽内において、直列に連結された複数の電解セルが、プレス器により連結方向に加圧されていることが好ましい。これにより、電解中に電解セル内の内容物(電解液等)の漏れを抑制することができる。
【0014】
本発明の一態様では、電解を停止するときに、前記電気遮断装置が、隣り合う前記電解槽間の電流を自動的に遮断することが好ましい。これにより、電解停止時の逆電流を確実に低減し易くなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電解停止時の逆電流を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は以下の内容に限定されない。また、添付図面は実施形態の一例を示したものであり、形態はこれに限定して解釈されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。なお、図面中上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づく。図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0018】
下記の各実施形態において、「電解槽」とは、2つ以上の電解セルが直列に連続して連結された電解装置を意味する。また、「大型電解槽」とは、2つ以上の電解槽が導電体で電気的に直列接続された電解装置を意味する。
【0019】
(第一実施形態)
本実施形態の大型電解槽は、電気的に直列接続された複数(2つ)の電解槽を備える。各電解槽は、イオン交換膜を介して直列に連結された複数の電解セルを有する。2つの電解槽は、電気遮断装置を介して、導電体で直列に接続される。なお、「複数の電解セルが直列に連結される」とは、各電解セルが備える陽極及び陰極が所定の方向に沿って交互に並ぶように複数の電解セルが配置されることを意味する。直列に並んだ多数の電解セルを有する電解槽は、一般的に、複極式イオン交換膜法電解槽と呼ばれるものである。
【0020】
図1は、電解槽4を構成する電解セル2の断面図(概念図)である。電解セル2は、一対の陽極24と陰極22を有する。1つの電解セル2に属する一対の陽極24と陰極22とは、電気的に接続されている。電解セル2内において、陰極22を取り付けた陰極室枠と、陽極24を取り付けた陽極室枠とが、隔壁25(背面板)を介して背中合わせに配置されている。つまり、陽極室23と陰極室21とは隔壁25によって区分されている。また、電解セル2の上部には、生成する気体と液体を分離する気液分離室27がある。電解セル2の枠にはガスケット26が配置されている。
【0021】
図2は、本実施形態における電解槽4の一部の断面図(概念図)である。
図2に示すように、電解セル2、イオン交換膜28、電解セル2がこの順序で直列に並べられている。塩水の電解を行なう場合、陽極室23には塩水が供給され、陰極室21は純水又は低濃度の水酸化ナトリウム水溶液が供給される。各電解セル2はイオン交換膜28を介して直列に連結され、右側の電解セル2の陽極室23と左側の電解セル2の陰極室21とを、イオン交換膜28で分離して、電解が行われる。電解において、塩水中のナトリウムイオンは、一方の電解セル2の陽極室23から、イオン交換膜28を通過して、隣の電解セル2の陰極室21へ移動する。よって、電解中の電流は、電解セル2が直列に連結された方向に沿って、流れることになる。つまり、電流は、イオン交換膜28を介して陽極室23から陰極室21に向かって流れる。塩水の電解に伴い、陽極24側で塩素ガスが生成し、陰極22側で水酸化ナトリウム(溶質)と水素ガスが生成する。
【0022】
1つの電解槽4内において直列に並べられる電解セル2の個数は、特に限定されないが、2〜300個程度であることが好ましい。電解槽4の片端(電解槽内で直列に連結した複数の電解セルの一端)には、陽極室のみを有する電解セル(陽極ターミナルセル)が配置されていてもよい(
図6参照。)。もう一方の片端は、陰極室のみを有する電解セル(陰極ターミナルセル)が配置されていてもよい(
図6参照。)。
【0023】
図3は、本実施形態の大型電解槽1の側面図(模式図)である。本実施形態に係る大型電解槽1は、2つの電解槽4を備える。各電解槽4内では、複数の電解セル2が直列に連結されている。各電解セル2は、ボルト、ネジなどで連結すればよい。
【0024】
大型電解槽1は、電源に接続される陽極端子7と陰極端子6とを有する。一方の電解槽4(電解槽4A)内で直列に連結された複数の電解セル2のうち最も端に位置する電解セルの陽極24は、陽極端子7に電気的に接続される。他方の電解槽4(電解槽4B)内で直列に連結された複数の電解セル2のうち最も端に位置する電解セルの陰極22は、陰極端子6に電気的に接続される。
【0025】
電解槽4A内で直列に連結された複数の電解セル2のうち陽極端子7に接続された陽極24と反対側の端に位置する電解セルの陰極22は、導電体5を介して電解遮断装置3に接続される。電解槽4B内で直列に連結された複数の電解セル2のうち陰極端子6に接続された陰極22と反対側の端に位置する電解セルの陽極24は、導電体5を介して電解遮断装置3に接続される。このようにして、2つの電解槽4は電解遮断装置3を介して導電体5で直列接続される。
【0026】
電解時には、陽極端子7から電解槽4Aへ流れる電流は、電解槽4A内の各電解セル2の陽極から陰極へ通過し、導電体5を経由して、電解槽4B内の各電解セル2の陽極から陰極を通過し、陰極端子6へ流れる。また、電解時において、各電解セル2に供給される電解液は、電解液供給管9から、電解液供給ホース8を経由して、各電解セル2に供給される。また、電解液及び電解による生成物は、電解液回収管10より、回収される。
【0027】
本実施形態の電解停止方法では、大型電解槽1における塩水の電解を停止する時に、2つの電解槽4間の電流を電気遮断装置3によって遮断(絶縁)する。その結果、逆電流を大幅に減少させ、各電解セル2が備える陰極22の酸化及び劣化が抑制される。また、電気遮断装置3の作動という簡易な運転操作によって逆電流を低減できるため、微弱な防食電流を流すための煩雑な装置やその運転操作が不要となる。
【0028】
以下では、電気遮断装置3がない場合における逆電流の発生機構と、本実施形態の電解停止方法によって逆電流を低減する機構についてより具体的に説明する。
【0029】
逆電流は、電解停止時において、電解セル2と、地絡している電解液供給管9又は電解液回収管10と、の間の電圧(電位差)によって発生する。逆電流は、電解液供給ホース8を介して、電解液供給管9又は電解液回収管10に流れる。逆電流は、電解時の電流の向きとは逆方向に流れる。
【0030】
この逆電流は、電解停止時に、塩素を反応種とする電池が形成される状態に起因して発生する。電解時は、陽極室23側で発生した塩素が、陽極室23内の電解液(食塩水等)に溶存している。そして、この陽極室23内に溶存した塩素の反応性が高いため、電解停止時において、塩素が陽極24で分解される反応が起こる。それによって、電解停止時に、電解セル2と、地絡している電解液供給管9又は電解液回収管10との間に電圧が生じて、逆電流が流れる。
【0031】
また、直列に連結された電解セル2の個数が多いほど、地絡した電解液供給管9や電解液回収管10に対する各電解セル2の電圧(電位)が大きくなり、逆電流の値も大きくなる。理論計算によると、逆電流の大きさは、直列に連結された電解セルの個数の2乗に比例する。
【0032】
さらに、電解時には、陰極22では水素、陽極24では塩素が発生するが、陽極室23内の溶存塩素量は、陰極室21内の溶存水素量に比べて桁違いに大きい。そのため、陰極22での水素発生反応の逆反応だけでは逆電流(酸化電流)を消費しきれず、陰極22自身で逆電流(酸化電流)を消費することになる。このため、陽極室23内に溶存塩素が多量に含まれている状態で電解を停止した場合、逆電流によって陰極22の劣化(陰極22の酸化、陰極触媒の溶解又は酸化)が起こる。例えば、RuやSnなど、逆電流により溶解するような触媒材料を陰極触媒として使用した場合、電解停止時の逆電流により陰極触媒が溶解し、陰極22の触媒量が減少し、陰極22の寿命が極端に短くなる。
【0033】
一方、Ni、Ptなどの逆電流により溶解しない触媒材料を陰極触媒として使用した場合、電解停止時の逆電流により陰極22側で酸素発生反応が起こる。そして逆電流が大きい場合、陰極室21内で水素と酸素の混合気体が生じてしまう。さらに、電解停止による酸化、再通電による還元により、陰極触媒が脱落しやすくなり、陰極22の寿命が短くなる。
【0034】
従来は、逆電流量を低減するために、電解停止時に電解電流の100分の1程度の防食電流を流し、この間に、溶存塩素が含まれていない塩水を陽極室23へ供給して、陽極室23内の溶存塩素量を少なくしていた。しかし、このように防食電流を流して電解を停止する方法では、運転操作が煩雑となる。また、防食電流が流れなかった場合には、陰極22の触媒が溶解してその寿命が短くなることもある。
【0035】
一方、本実施形態の電解停止方法では、電解槽4間に電気遮断装置3を設け、電解停止時に、電解槽4間を電気的に絶縁することで、逆電流を大幅に減少させ、陰極22の酸化及び劣化を抑制することができる。そのため、本実施形態では、従来の電解停止方法とは異なり、電解停止時に防食電流を流す必要がなくなる。理論計算によると、逆電流の大きさは、連結する電解セルの個数の2乗に比例する。一方の電解槽4A内の電解セル2の個数と他方の電解槽4B内の電解セル2の個数が等しいと仮定した場合、2つの電解槽4間を電気遮断装置3で絶縁することにより、電気的に連結された電解セル2の個数の最大値は、2つの電解槽4間を絶縁しない場合の1/2になる。よって、逆電流の大きさは1/2の2乗、すなわち約1/4程度になる。
【0036】
電気遮断装置3としては、電解時に正方向の電流が流れ、電解停止時に逆方向の電流が流れない装置であれば、どのような装置を用いても良い。具体的には、一般的に使用されている整流作用のあるダイオードを用いた装置、機械的に断線させる装置、電気抵抗を大きくする装置、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。正電流が流れる電解時の発熱による電力ロスが少ない点において、機械的に遮断する装置が好ましい。機械的に遮断する装置としては、スイッチ等が挙げられ、例えば、Mersen社製、品名Short Circuit Switch等が挙げられる。
【0037】
また、電気遮断装置3と並列にフューズを取り付け、電解停止時に電気断装置3が開いたときに、フューズを飛ばして電解槽間を電気的に遮断する方法でも良い。なお、電気遮断装置3を開くとは、電解槽間を電気的に遮断することを意味する。
【0038】
電解槽間を機械的に遮断した場合には、スパークが飛ぶことがある。スパークが飛ばないようにするために、電気遮断装置3と可変抵抗器とを電解槽間で並列に接続してもよい。この場合、例えば以下の2つの方法により、電解及び電解停止を行なえばよい。
【0039】
方法(1) 電解中は、電気遮断装置3を閉じ、また可変抵抗器も閉じて、可変抵抗を最小にして可変抵抗器での電力ロスを抑制する。電解停止時には、電気遮断装置3を開き、可変抵抗器の抵抗を最大にすることで、逆電流を小さくする。なお、電気遮断装置3を閉じるとは、電解槽間を電気的に接続することを意味する。可変抵抗器を閉じるとは、可変抵抗器を介して電解槽間を電気的に接続することを意味する。
【0040】
方法(2) 電解中は電気遮断装置3を閉じて電解を行い、電解停止する直前に、可変抵抗器を経由する経路を閉じ、且つ可変抵抗器の抵抗を最大にした後、電解を停止して、電気遮断装置3を開いて、逆電流を小さくする。
【0041】
また、操作性の観点から、電気遮断装置3が電解停止時に自動的に電気を遮断する機能を有することが好ましい。具体的には電解停止時に整流器から停止の信号を受信し、自動的にアクチュエータが作動し、電気的遮断を行なう電気遮断装置が好ましい。なお、信号を受信しなかった場合には手動で電極槽間の電気的遮断を行なうことができる。
【0042】
導電体5としては、金属板、電線等が挙げられる。金属板としては、可撓性を付与した金属板などが挙げられる。電線としては、耐熱性および弾力性を有する樹脂ないしゴム類で被覆された電線等が挙げられる。電線に用いる金属としては、発熱が小さく、電気抵抗も低い銅やアルミが用いられる。その具体例としては、硬銅線、耐熱硬銅線、硬アルミ線、耐熱硬アルミ合金線が挙げられる。電線の本数は、通電する電流量に依って異なるが、8〜24本程度であることが好ましく、各電線の径はφ325〜φ1000であることが好ましい。
【0043】
以上、本発明の大型電解槽及び電解停止方法の好適な実施形態(第一実施形態)について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明の他の実施形態として、以下の第二実施形態、第三実施形態及び第四実施形態等が挙げられる。以下では、第一実施形態と第二実施形態、第三実施形態及び第四実施形態との共通事項については説明を省略する。以下では、第一実施形態と第二実施形態、第三実施形態及び第四実施形態との相違点についてのみ説明する。第二実施形態、第三実施形態及び第四実施形態によれば、第一実施形態と同様に、逆電流を低減して、陰極の酸化及び劣化を抑制することが可能となる。
【0044】
(第二実施形態)
図4は、第二実施形態に係る大型電解槽1の側面図(模式図)である。
図4の大型電解槽1においては、各電解槽4内において直列に連結された複数の電解セル2が、可変式のプレス器11により連結方向に加圧されている。直列に連結された複数の電解セル2を、プレス器11で連結方向に加圧することにより、各電解セル2及びイオン交換膜28を互いに密着させ、電解中に電解セル2内の内容物(電解液等)の漏れを抑制することができる。プレス器11の具体例としては、油圧プレスなどが挙げられる。
【0045】
(第三実施形態)
図5は、第三実施形態に係る大型電解槽1の側面図(模式図)である。
図5の大型電解槽1は、一般的に、ダブルプレス型電解槽と呼ばれる。
図5の大型電解槽1においては、2つの電解槽4の間に固定ヘッド12が配置されている。また、各電解槽4内において直列に連結された複数の電解セル2が可変式のプレス器11により連結方向に加圧されている。
【0046】
図5の大型電解槽1の中央に位置する固定ヘッド12には、電流を流すために、一対のブスバーと呼ばれる端子が付いている。ブスバーとは、大電流を流すための端子である。ブスバーの具体例としては、銅製の長方形の板等が挙げられる。一対のブスバーのうち一方は、一方の電解槽4内に位置する電解セルと電気的に接続される。一対のブスバーのうち他方は、他方の電解槽4内に位置する電解セルと電気的に接続される。このブスバー同士を導電体で繋ぐことで、2つの電解槽4が電気的に接続される。ブスバー間に、電気遮断装置3を介在させることで、電解停止時において、電解槽4間を電気的に遮断することができる。これにより、逆電流を大幅に低減することが可能となる。
【0047】
電気遮断装置3の取り付け位置としては、固定ヘッド12の下部又は床下が好ましい。その理由としては、通常、電解槽4の上側付近は、空気より軽い水素の存在を配慮して、防爆エリアとされることが多いためである。
【0048】
各電解槽のブスバー間を銅製の板で電気的に接続した大型電解槽の場合や、各電解槽が有するL字銅製板が背中合わせに配置され、L字銅製板同士をネジで固定して電気的に接続した大型電解槽の場合も、ブスバーと電気遮断装置とを、又は各銅製の板と電気遮断装置3とを、導電体で接続してもよい。
【0049】
(第四実施形態)
図7(b)は、第四実施形態に係る大型電解槽1の側面図(模式図)である。
図7(a)は電解槽の一例を示す側面図(模式図)である。本実施形態においては、
図7(a)に示す1つの電解槽を2つの電解槽に分離することにより、
図7(b)に示す大型電解槽1が作製される。より具体的には、
図7(b)に示すように、1つの電解槽内の直列接続された複数の電解セルの中央に、陽極室のみからなる陽極ターミナルセル14及び陰極室のみからなる陰極ターミナルセル13が導入される。陽極ターミナルセル14と陰極ターミナルセル13の間には絶縁板15が設置される。また、陽極ターミナルセル14と陰極ターミナルセル13とは電気遮断装置3を介して導電体5で接続される。これにより、1つの電解槽を2つの電解槽に分離し、
図7(b)に示す大型電解槽1を作製することができる。本実施形態の大型電解槽も本発明の効果を奏するこができる。本実施形態においては、1つの電解槽の中央付近にターミナルセルを導入して、1つの電解槽内で連結された複数の電解セルを二等分することが好ましい。つまり、1つの電解槽の分離によって作製された2つの電解槽内の電解セルの個数が互いに等しいことが好ましい。これにより、逆電流を低減する効果がより顕著になる。
【0050】
(その他の実施形態)
上記実施形態に係る大型電解槽が備える電解槽の個数は2つであったが、大型電解槽が3つ以上の電解槽を備えてもよい。3つの以上の電解槽が直列に接続される場合、そのうちの少なくとも2つの隣り合う電解槽の間に電気遮断装置を設置すれば、本発明の効果を奏することが可能である。3つの以上の電解槽の全てが、電気遮断装置を介して、導電体で直列に接続されることが好ましい。つまり、各電解槽間を直列に接続する導電体の全てに電気遮断装置が介在することにより、逆電流を低減する効果が顕著になる。また、大型電解槽は、電解槽を2個有し、2つの電解槽が、電気遮断装置を介して、導電体で直列に接続されていてもよい。これにより、簡素な構成とすることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例をもとに本発明について説明する。なお、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0052】
図6に示す大型電解槽1を用いて塩水の電解を行なった。大型電解槽1は直列に並んだ2つの電解槽4を備える。各電解槽4は、その内側に、直列に並んだ5個の電解セル2を備える。各電解セル2は、横幅48mm、縦幅58mmの通電面積(陰極及び陽極の各面積)を有する。その寸法はラボサイズである。各電解槽4において、5個の電解セル2の片端には、同じ導電面積をもつ陰極ターミナルセル13を配置した。5個の電解セル2のもう一方の片端には、同じ導電面積をもつ陽極ターミナルセル14を配置した。一方の電解槽4の陰極ターミナルセル13と、他方の電解槽4の陽極ターミナルセル14とを、電気遮断装置3を介して、導電体5(電線)で直列に接続した。別の陽極ターミナルセル14と陽極端子7とを接続し、別の陰極ターミナルセル13と陰極端子6とを接続した。陽極端子7及び陰極端子6を電源に接続した。
【0053】
電気遮断装置3としては、スイッチを用いた。また、液供給管9と液排出管10は電気的に地絡した。
【0054】
陰極としては、ニッケル製エキスパンド基材と、当該基材上に固定された酸化ルテニウムとからなる陰極を用いた。陽極としては、チタン基材と、当該基材上に固定された酸化ルテニウム、酸化イリジウム及び酸化チタンと、からなる、いわゆるDSA(Dimension Stable Anode:寸法安定性陽極))を用いた。
【0055】
電解セル2の陽極室と、それに隣接する電解セル2の陰極室との間には、EPDM(エチレンプロピレンジエン)製のゴムガスケットを用いて、イオン交換膜を挟んだ。イオン交換膜としては「Aciplex」(登録商標)F6801(旭化成ケミカルズ社製)を使用した。陽極とイオン交換膜とを密着させ、陰極とイオン交換膜との間には幅2mmの間隔を設けた。
【0056】
〔実施例1〕
上記大型電解槽1を用いて、下記の条件で電解を行なった。
陽極室の塩水濃度:205g/L
陰極室の水酸化ナトリウム濃度:32wt%
電解セル内の温度:90℃
電解電流密度:4kA/m
2【0057】
電解停止時に、電気遮断装置3により電解槽4間を電気的に遮断し、電解セル(各ターミナルセル)と電解液供給管9との電位差を測定した。陽極端子7側から数えて1個目の電解セル(陽極端子7に接続された陽極ターミナルセル14)と電解液供給管9との電位差は7.0Vであった。陽極端子7側から数えて7個目の電解セル(陰極ターミナルセル13)と電解液供給管9との電位差は−6.8Vであった。陽極端子7側から数えて8個目の電解セル(陽極ターミナルセル14)と電解液供給管9との電位差は6.7Vであった。陽極端子7側から数えて14個目の電解セル(陰極端子6に接続された陰極ターミナルセル13)と電解液供給管9との電位差は−6.9Vであった。
【0058】
〔比較例1〕
電解停止時に電気遮断装置3により電解槽4間を電気的に遮断しなかったこと以外は実施例と同様に、各ターミナルセルと電解液供給管9との電位差を測定した。陽極端子1側から数えて1個目の電解セル(陽極ターミナルセル14)と電解液供給管9との電位差は13.5Vであった。陽極端子1側から数えて14個目の電解セル(陰極端子6側の陰極ターミナルセル13)と電解液供給管9との電位差は−12.9Vであった。
【0059】
〔考察〕
逆電流の大きさは、電気的に接続されている電解セルの個数の2乗に比例する。そして、電気的に接続された電解セルの個数は、大型電解槽における最大電圧(電解セルの電位の最大値)に比例する。そのため、逆電流の大きさは、最大電圧の2乗に比例する。
【0060】
実施例1における電解セルと電解液供給管との電位差の最大値は7.0Vであった。比較例1における電解セルと電解液供給管との電位差の最大値は13.5Vであった。実施例1の電位差の最大値は、比較例1の電位差の最大値の0.52倍である。よって、実施例1の逆電流の大きさは、比較例1の逆電流に比べて、0.52の2乗、つまり0.27倍小さいことがわかった。
【0061】
実施例1では、隣り合う電解槽4間を電気遮断装置3によって電気的に遮断することで、1個目から7個目までの電解セルから構成されるブロックと、8個目から14個目までの電解セルから構成されるブロックとが、電気的に切り離された。その結果、地絡している電解液供給管と電解セル(各ターミナルセル)との電位差が比較例1に比べて約半分になったことがわかった。