特許第5797764号(P5797764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5797764連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797764
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/56 20060101AFI20151001BHJP
   C21D 11/00 20060101ALI20151001BHJP
   F27D 19/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   C21D9/56 101D
   C21D11/00 102
   F27D19/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-535243(P2013-535243)
(86)(22)【出願日】2011年4月14日
(65)【公表番号】特表2013-544969(P2013-544969A)
(43)【公表日】2013年12月19日
(86)【国際出願番号】CN2011072769
(87)【国際公開番号】WO2012055213
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2013年6月24日
(31)【優先権主張番号】201010519941.8
(32)【優先日】2010年10月26日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118625
【弁理士】
【氏名又は名称】大畠 康
(74)【代理人】
【識別番号】100176463
【弁理士】
【氏名又は名称】磯江 悦子
(72)【発明者】
【氏名】劉 永鋒
(72)【発明者】
【氏名】顧 華中
(72)【発明者】
【氏名】銭 国強
(72)【発明者】
【氏名】尹 斌
(72)【発明者】
【氏名】文 徳建
(72)【発明者】
【氏名】黒 紅旭
(72)【発明者】
【氏名】張 軍
(72)【発明者】
【氏名】胡 徳揚
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−303407(JP,A)
【文献】 特開平07−233420(JP,A)
【文献】 特開平02−008331(JP,A)
【文献】 特開平09−241761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/52−9/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための方法であって、
連続焼き鈍し炉の各セクションに配置された石炭ガス流量検出器及び空気流量検出器を用いて、各セクションの石炭ガス流量及び空気流量を検出し、各セクションで検出された石炭ガス流量を合計して総インプット石炭ガス流量を得、各セクションで検出された空気流量を合計して総インプット空気流量を得、上記総インプット石炭ガス流量と上記総インプット空気流量とに基づいて炉内の燃焼前ガス圧力を計算するステップと、
成分検出器を用いて、上記石炭ガスの成分と石炭ガス対空気比とを検出するステップと、
熱電対を用いて、炉内の燃焼前ガス温度を検出するステップと、
化学燃焼反応式に基づき、かつ、上記総インプット石炭ガス流量、上記総インプット空気流量、上記石炭ガス成分、及び上記石炭ガス対空気比に基づいて、燃焼後ガス成分とガス総量とを予測するステップと、
炉内の石炭ガスと空気とに点火し、熱電対によって炉内の燃焼後ガス温度を検出するステップと、
上記炉内の燃焼前ガス圧力、上記炉内の燃焼前ガス温度、及び上記炉内の燃焼後ガス温度に基づいて、炉内の燃焼後ガス圧力を計算するステップと、
上記炉内の燃焼前ガス圧力及び上記炉内の燃焼後ガス圧力に基づき、かつ、以下の式(1)によりガスのインクリメントFAN DISVを計算することにより、排気ガスファンのための開度を計算し、この開度を排気ガスファンを制御するために用いるステップと
を備えたことを特徴とする方法。
FAN_DISV=((Flow_air+Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))*Burn_Parameter+(Flow_gas-Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))+Nflow_1)*(temp_pv+273.15)/(Fan_Flow_Max*273.15)*100 .....(1)
ここで、Flow_airは空気流量、Flow_gasは石炭ガス流量、Burn_Parameterはバーナーのパラメータ、Gas_airは石炭ガス対空気比、Fan_Flow_Max はファンの流量の最大値、temp_pv は炉内の実際の温度、Nflow_1は基準値としてのプリセット流量である。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
上記石炭ガスの成分は、57.78%のH2、0.61%のO2、 4.54%のN2、24.80%のCH4、6.47%のCO、2.87%のCO2、0.68%のC2H4、 0.2%のC3H6を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
上記化学燃焼反応式は、
2H2+O2=2H2O
CH4+2O2=2H2O+CO2
2CO+O2=2CO2
C2H4+3O2=2CO2+2H2O
2C2H6+7O2=4CO2+6H2O
2C3H6+9O2=6CO2+6H2O
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための装置であって、
それぞれが上記連続焼き鈍し炉の各セクションに配置され、各セクションの石炭ガス流量を検出するように構成されている複数の石炭ガス流量検出器と、
それぞれが上記連続焼き鈍し炉の各セクションに配置され、各セクションの空気流量を検出するように構成されている複数の空気流量検出器と、
上記石炭ガス流量検出器及び上記空気流量検出器に接続され、各セクションで検出された石炭ガス流量を合計して総インプット石炭ガス流量を得ると共に、各セクションで検出された空気流量を合計して総インプット空気流量を得るように構成された、炉内のガス総量を計算するための計算装置と、
上記石炭ガスの成分と石炭ガス対空気比とを検出するように構成された成分検出器と、
炉内のガス温度を検出するように構成された熱電対と、
炉内のガス圧力を計算するための計算装置と上記成分検出器とに接続され、化学燃焼反応式を用いると共に上記総インプット石炭ガス流量、上記総インプット空気流量、上記石炭ガスの成分、及び上記石炭ガス対空気比に基づいて、燃焼後のガスの成分及び燃焼後のガスの総量を予測するように構成された燃焼予測ユニットと、
炉内の上記石炭ガスと上記空気とに点火するよう構成された点火装置と、
上記炉内のガス総量を計算するための計算装置に接続され、燃焼前の上記総インプット石炭ガス流量及び上記総インプット空気流量に基づいて炉内の燃焼前ガス圧力を計算するように構成されると共に、上記熱電対にも接続されて、炉内の上記燃焼前ガス圧力、炉内の燃焼前ガス温度、及び炉内の燃焼後ガス温度に基づいて炉内の燃焼後ガス圧力を計算するように構成された、炉内のガス圧力を計算するための上記計算装置と、
上記炉内のガス圧力を計算するための計算装置と排気ガスファンとに接続され、上記炉内の燃焼前ガス圧力及び上記炉内の燃焼後ガス圧力に基づき、かつ、以下の式(1)によりガスのインクリメントFAN DISVを計算することにより、上記排気ガスファンのための開度を計算するために用いられ、この開度を上記排気ガスファンを制御するために用いる排気ガスファン開度制御装置と
を備えたことを特徴とする装置。
FAN_DISV=((Flow_air+Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))*Burn_Parameter+(Flow_gas-Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))+Nflow_1)*(temp_pv+273.15)/(Fan_Flow_Max*273.15)*100 .....(1)
ここで、Flow_airは空気流量、Flow_gasは石炭ガス流量、Burn_Parameterはバーナーのパラメータ、Gas_airは石炭ガス対空気比、Fan_Flow_Max はファンの流量の最大値、temp_pv は炉内の実際の温度、Nflow_1は基準値としてのプリセット流量である。
【請求項5】
請求項4に記載の装置において、
上記石炭ガスの成分は、57.78%のH2、0.61%のO2、 4.54%のN2、24.80%のCH4、6.47%のCO、2.87%のCO2、0.68%のC2H4、 0.2%のC3H6を含むことを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項4に記載の装置において、
上記化学燃焼反応式は、
2H2+O2=2H2O
CH4+2O2=2H2O+CO2
2CO+O2=2CO2
C2H4+3O2=2CO2+2H2O
2C2H6+7O2=4CO2+6H2O
2C3H6+9O2=6CO2+6H2O
を含むことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製錬装置の分野に関し、特に、連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための方法及び装置する。
【背景技術】
【0002】
焼き鈍し炉の圧力は,重要な制御インジケータである。変動する炉圧は製品の品質及び性能に大きく影響する場合がある。炉圧が非常に低いと、酸化された帯鋼に空気が入る原因となり、炉圧が非常に高いと、排気ガスが次の炉セクションに流入して炉内の雰囲気に悪影響を及ぼす原因となる。連続焼き鈍し用の加熱炉全体は幾つかのセクションに分かれており、各セクションは、個別に独立して、例えば、石炭ガス流量、温度、圧力に関して、制御される。現在一般に使用されている焼き鈍し炉の炉温は、大抵、ダブルクロス振幅制限制御法によって制御されている。炉に流入する石炭ガスの流量および空気の流量は変動し、異なるパワーが必要とされる。これは、炉内の燃焼によって生じる排気ガスの体積を常に変動させることとなり、これにより炉圧の変動を発生させることとなる。現在、一般的に、既存の連続焼き鈍し炉の炉圧制御を行うために従来のPIDダブルクロス振幅制限制御法を用いるのが通常である。従来のPIDダブルクロス振幅制限制御法の制御論理の概略図を図3に示す。その制御プロセスは以下の通りである。炉温度を2つの熱電対で測定し、2つの測定値のうち高い方を意味あるものとして、炉温度の設定値との比較のために送り、測定値と設定値との差をPID制御モジュールへのインプットとする。演算の後、上記PID制御モジュールは、ダブルクロス振幅制限制御モジュールが演算を行うようにこのモジュールに制御信号を出力する。ダブルクロス振幅制限制御モジュールは石炭ガス流量と空気流量との新しい設定値を計算し、その2つの新しい設定値と実際の値とをそれぞれ比較し、新しい設定値と実際の値との差を出し、そして、それらの差を石炭ガスのPIDモジュールと空気のPIDモジュールとにそれぞれ送る。演算を行った後、石炭ガスのPIDモジュール及び空気のPIDモジュールは、石炭ガス制御弁の必要な調節量を表す信号及び空気制御弁の必要な調節量を表す信号をそれらのアクチュエータにそれぞれ送る。最後に、石炭ガス制御弁及び空気制御弁のアクチュエータは、石炭ガス流量および空気流量の実際値が新しい設定値に対応したものとなるよう、これらの制御弁をそれぞれ調節する。調節中、炉に流入する石炭ガス流量および空気流量は常に変動している。ある連続焼き鈍し炉は、多くのバーナーを備え、すべてのバーナーの負荷は絶えず変化しており、炉内の石炭ガスおよび空気の体積は比較的大きな範囲で常に変動している。さらに、炉圧が測定点に伝達されるのに少し時間がかかる。さらに、焼き鈍し炉は、大きい慣性と、遅れの性質を有する。これら全ての理由により、連続焼き鈍し炉の従来の炉圧制御は、炉圧の安定性と調節の迅速性という2つの要件のいずれも満たすことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、炉圧に対する熱膨張の影響を考慮して、連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明による制御方法及び制御装置の基本的制御論理は、炉のセクションに入力された温度、バーナーのパワー、石炭ガス流量、および空気流量のすべての設定値とそれらの実際値とを入力として取り、多変数予測制御アルゴリズムを用いて、排気ガスファンの現在の最適回転数を計算し、排気ガスファンのこの現在の最適回転数と調節弁の開度の組み合わせを用いて炉圧の制御を実現するということである。この制御方法及び制御装置は、燃焼前後の炉内のガスの体積変動が炉圧に及ぼす効果(影響)を計算すると共に炉内のガスの熱膨張が炉圧に及ぼす効果(影響)を考慮することにより、制御精度及び炉圧のダイナミック特性(ダイナミック応答)を改善する。
【0005】
本発明の一側面においては、連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための方法であって、
連続焼き鈍し炉の各セクションに配置された石炭ガス流量検出器及び空気流量検出器を用いて、各セクションの石炭ガス流量及び空気流量を検出し、各セクションで検出された石炭ガス流量を合計して総インプット石炭ガス流量を得、各セクションで検出された空気流量を合計して総インプット空気流量を得、上記総インプット石炭ガス流量と上記総インプット空気流量とに基づいて炉内の燃焼前ガス圧力を計算するステップと、
成分検出器を用いて、上記石炭ガスの成分と石炭ガス対空気比とを検出するステップと、
熱電対を用いて、炉内の燃焼前ガス温度を検出するステップと、
化学燃焼反応式に基づき、かつ、上記総インプット石炭ガス流量、上記総インプット空気流量、上記石炭ガス成分、及び上記石炭ガス対空気比に基づいて、燃焼後ガス成分とガス総量とを予測するステップと、
炉内の石炭ガスと空気とに点火し、熱電対によって炉内の燃焼後ガス温度を検出するステップと、
上記炉内の燃焼前ガス圧力、上記炉内の燃焼前ガス温度、及び上記炉内の燃焼後ガス温度に基づいて、炉内の燃焼後ガス圧力を計算するステップと、
上記炉内の燃焼前ガス圧力及び上記炉内の燃焼後ガス圧力に基づき、かつ、以下の式(1)によりガスのインクリメントFAN DISVを計算することにより、排気ガスファンのための開度を計算し、この開度を排気ガスファンを制御するために用いるステップと
を備えたことを特徴とする方法が提供される。
FAN_DISV=((Flow_air+Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))*Burn_Parameter+(Flow_gas-Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))+Nflow_1)*(temp_pv+273.15)/(Fan_Flow_Max*273.15)*100 .....(1)
ここで、Flow_airは空気流量、Flow_gasは石炭ガス流量、Burn_Parameterはバーナーのパラメータ、Gas_airは石炭ガス対空気比、Fan_Flow_Max はファンの流量の最大値、temp_pv は炉内の実際の温度、Nflow_1は基準値としてのプリセット流量である。
【0006】
本発明の別の側面においては、連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための装置であって、
それぞれが上記連続焼き鈍し炉の各セクションに配置され、各セクションの石炭ガス流量を検出するように構成されている複数の石炭ガス流量検出器と、
それぞれが上記連続焼き鈍し炉の各セクションに配置され、各セクションの空気流量を検出するように構成されている複数の空気流量検出器と、
上記石炭ガス流量検出器及び上記空気流量検出器に接続され、各セクションで検出された石炭ガス流量を合計して総インプット石炭ガス流量を得ると共に、各セクションで検出された空気流量を合計して総インプット空気流量を得るように構成された、炉内のガス総量を計算するための計算装置と、
上記石炭ガスの成分と石炭ガス対空気比とを検出するように構成された成分検出器と、
炉内のガス温度を検出するように構成された熱電対と、
炉内のガス圧力を計算するための計算装置と上記成分検出器とに接続され、化学燃焼反応式を用いると共に上記総インプット石炭ガス流量、上記総インプット空気流量、上記石炭ガスの成分、及び上記石炭ガス対空気比に基づいて、燃焼後のガスの成分及び燃焼後のガスの総量を予測するように構成された燃焼予測ユニットと、
炉内の上記石炭ガスと上記空気とに点火するよう構成された点火装置と、
上記炉内のガス総量を計算するための計算装置に接続され、燃焼前の上記総インプット石炭ガス流量及び上記総インプット空気流量に基づいて炉内の燃焼前ガス圧力を計算するように構成されると共に、上記熱電対にも接続されて、炉内の上記燃焼前ガス圧力、炉内の燃焼前ガス温度、及び炉内の燃焼後ガス温度に基づいて炉内の燃焼後ガス圧力を計算するように構成された、炉内のガス圧力を計算するための上記計算装置と、
上記炉内のガス圧力を計算するための計算装置と排気ガスファンとに接続され、上記炉内の燃焼前ガス圧力及び上記炉内の燃焼後ガス圧力に基づき、かつ、以下の式(1)によりガスのインクリメントFAN DISVを計算することにより、上記排気ガスファンのための開度を計算するために用いられ、この開度を上記排気ガスファンを制御するために用いる排気ガスファン開度制御装置と
を備えたことを特徴とする装置が提供される。
FAN_DISV=((Flow_air+Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))*Burn_Parameter+(Flow_gas-Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))+Nflow_1)*(temp_pv+273.15)/(Fan_Flow_Max*273.15)*100 .....(1)
ここで、Flow_airは空気流量、Flow_gasは石炭ガス流量、Burn_Parameterはバーナーのパラメータ、Gas_airは石炭ガス対空気比、Fan_Flow_Max はファンの流量の最大値、temp_pv は炉内の実際の温度、Nflow_1は基準値としてのプリセット流量である。

【0007】
連続焼き鈍し炉のための従来の制御ソリューションにおいては、PIDコントローラのみが採用されている。この制御モードでは、調節はフィードバックにより行われるので、不可避的に調節の遅延またはオーバーシュートとなる。このことを考慮して、本発明による連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための装置は、フィードフォワード制御素子を備える。そのような制御装置を用いると、連続焼き鈍し炉のセクションの石炭ガス流量および空気流量(石炭ガス流量と空気流量とを、焼き鈍し対象物を酸化するかもしれない余分の酸素を含まないように、燃焼化学反応でマッチさせる。)に基づいて、燃焼によって生成される排気ガスの体積や、炉圧の設定値を維持するのに必要な排気ガスファンの最適速度を計算することが可能である。炉圧を調節する際、排気ガスファンのコントローラは排気ガスファンを直接制御して、その最適速度で運転させる。これらの制御動作において、炉圧を制御動作に迅速に応答させ、かつオーバーシュートを大きく低減して、安定的な炉圧を維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための方法の流れ図である。
図2】本発明の連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための装置の概略図である。
図3】連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための従来のPIDダブルクロス振幅制限制御法の制御論理を示す。
図4】従来の制御方法を用いた場合の炉圧のグラフを示す。
図5】本発明の制御方法及び制御装置を用いた場合の炉圧のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照すると、本発明に係る連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための方法が示されている。この方法は、次のステップを備える。
【0010】
S101: 連続焼き鈍し炉の各セクションに設置された石炭ガス流量検出器および空気流量検出器を用いて各セクションの石炭ガス流量および空気流量を検出し、各セクションで検出された石炭ガス流量を合計して総インプット石炭ガス流量を得、各セクションで検出された空気流量を合計して総インプット空気流量を得、上記総インプット石炭ガス流量と上記総インプット空気流量とに基づいて炉内の燃焼前ガス圧力を算出する。
【0011】
一実施形態において、総インプット石炭ガス流量Vgasと総インプット空気流量Vairとを次の式を用いて計算する。
Vgas=Vg1+Vg2+…+ Vgn
Vair=Va1+Va2+…+Van
ここで、
Vgas は総インプット石炭ガス流量を表し、
Vgn はn番目のセクションで検出された石炭ガス流量を表し、
Vair は総インプット空気流量を表し、
Van はn番目のセクションで検出された空気流量を表す。
【0012】
総インプット石炭ガス流量Vgas および 総インプット空気流量Vairを得たのち、連続焼き鈍し炉の内部容積を測定する。石炭ガスと空気との総体積V1を、総インプット石炭ガス流量Vgasおよび総インプット空気流量Vairに基づいて計算して、炉内の燃焼前圧力P1を導き出す。
【0013】
S102: 成分検出器を用いて、石炭ガスの成分と、石炭ガス対空気比(空気に対する石炭ガスの比率)とを検出する。例えば、一実施形態において、石炭ガスの検出成分は、H2: 57.78%、O2: 0.61%、N2: 4.54%、CH4: 24.80%、CO: 6.47%、CO2: 2.87%、C2H4: 0.68%、C3H6: 0.2%を含む。石炭ガス対空気比は1:4である。通常、石炭ガス対空気比は、予め、そして、焼き鈍しプロセスの必要に応じて、1:4程度に設定される。このステップでは、上記石炭ガス対空気比は、成分検出器によって再度検証される。
【0014】
S103: 熱電対によって炉内の燃焼前ガス温度T1を検出し、取得する。
【0015】
S104: 化学燃焼反応式を用い、上記総インプット石炭ガス流量、上記総インプット空気流量、上記石炭ガス成分、及び上記石炭ガス対空気比に基づいて、燃焼後ガス成分と燃焼によって生じるガスの総量V2とを予測する。
【0016】
一実施形態において、上記化学燃焼反応式は次のものを含む。
2H2+O2=2H2O
CH4+2O2=2H2O+CO2
2CO+O2=2CO2
C2H4+3O2=2CO2+2H2O
2C2H6+7O2=4CO2+6H2O
2C3H6+9O2=6CO2+6H2O
【0017】
上記の化学燃焼反応式を用い、上記総インプット石炭ガス流量、上記総インプット空気流量、上記石炭ガス成分、及び上記石炭ガス対空気比に基づいて、燃焼後ガス成分と燃焼後のガスの総量V2とを正確に予測することが可能である。
【0018】
S105: 炉内の石炭ガスと空気との混合物に点火し、熱電対によって炉内の燃焼後ガス温度T2を検出する。
【0019】
S106: 上記炉内の燃焼前ガス圧力、上記炉内の燃焼前ガス温度、及び上記炉内の燃焼後ガス温度に基づいて、炉内の燃焼後ガス圧力を算出する。
【0020】
燃焼によって生じる熱は炉内の排気ガスの温度を上昇させる。と同時に、炉内の固有温度によって、その排気ガスが加熱されて膨張する。熱力学方程式P1V1/T1=P2V2/T2を用いることによって、炉内の燃焼後ガス圧力を計算することが可能である。ここで、P1は炉内の燃焼前ガス圧力、V1は炉内の燃焼前ガス体積、T1は炉内の燃焼前ガス温度、P2は炉内の燃焼後ガス圧力、V2は炉内の燃焼後ガス体積、そしてT2は炉内の燃焼後ガス温度である。これらのうち、P1及びV1はステップS101から導き出され、T1はステップS103から導き出され、V2はステップS104から導き出され、T2はS105から導き出され、炉内の燃焼後ガス圧力P2はステップS106で計算される。
【0021】
S107: 炉内の燃焼前ガス圧力P1及び炉内の燃焼後ガス圧力P2に基づき、かつ、ガスインクリメントパスアルゴリズムを用いることにより、排気ガスファンのための開度を算出し、排気ガスファンを制御するためにこの開度を用いる。
【0022】
一実施形態において、上記ガスインクリメントパスアルゴリズムは次の式によってガスインクリメントFAN DISVを計算することを含む。
【0023】
FAN_DISV=((Flow_air+Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))*Burn_Parameter+(Flow_gas-Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))+Nflow_1)*(temp_pv+273.15)/(Fan_Flow_Max*273.15)*100
ここで、Flow_airは空気流量、Flow_gasは石炭ガス流量、Burn_Parameterはバーナーのパラメータ、Gas_airは石炭ガス対空気比、Fan_Flow_Max はファンの流量の最大値、temp_pv は炉内の実際の温度、Nflow_1は基準値としてのプリセット流量である。
【0024】
ステップ S107で得られた排気ガスファンの開度は、炉圧に対して制御前効果を及ぼすことができる。炉圧を調整するときは、排気ガスファンが所望の開度に到達できるように排気ガスファンの開度を排気ガスファンに直接出力し、排気ガス弁のPIDレギュレータによって微調整を行い、最適回転速度の調節動作と、排気ガス弁の微調整の調節動作とを重ね合わせて行い、これら2つを重ね合わせたものを排気ガスファンのための最終設定値として扱う。これら全ての制御動作によって、炉圧を制御動作に対して迅速に応答させ、かつ、オーバーシュートを大幅に減らして、安定的な炉圧を維持することが可能である。
【0025】
本発明は、図2に示すように、連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための装置も提供する。このシステムは、複数の石炭ガス流量検出器201、複数の空気流量検出器202、炉内のガス総量を計算するための計算装置(演算ユニット)203、成分検出器204、熱電対205,燃焼予測ユニット206,点火装置207、炉内のガス圧力を計算するための計算装置208、排気ガスファン開度制御装置209、および排気ガスファン210を備えている。
【0026】
各石炭ガス流量検出器201は、炉の各セクションに配置され、各セクションの石炭ガス流量を検出するのに用いられる。
【0027】
各空気流量検出器202は、炉の各セクションに配置され、各セクションの空気流量を検出するのに用いられる。
【0028】
炉内のガス総量を計算するための計算装置203は、石炭ガス流量検出器201及び空気流量検出器202に接続されている。計算装置203は、各セクションで検出された石炭ガス流量を合計して、総インプット石炭ガス流量を得ると共に、各セクションで検出された空気流量を合計して、総インプット空気流量を得る。一実施形態において、総インプット石炭ガス流量Vgas及び総インプット空気流量Vairは次の式によって求められる。
【0029】
Vgas=Vg1+Vg2+…+ Vgn
Vair=Va1+Va2+…+Van
ここで、
Vgas は総インプット石炭ガス流量、
Vgn はn番目のセクションで検出された石炭ガス流量、
Vair は総インプット空気流量、
Van はn番目のセクションで検出された空気流量
を表す。
【0030】
総インプット石炭ガス流量Vgas及び総インプット空気流量Vairを得た後、連続焼き鈍し炉の内部容積を測定する。炉内の燃焼前圧力P1を得るべく、石炭ガスと空気との総体積V1を総インプット石炭ガス流量Vgas及び総インプット空気流量Vairに基づいて計算する。
【0031】
成分検出器204は、石炭ガスの成分と石炭ガス対空気比とを検出するのに用いられる。一実施形態において、検出された石炭ガスの成分は、H2: 57.78%、O2: 0.61%、N2: 4.54%、CH4:24.80%、CO: 6.47%、CO2: 2.87%、C2H4: 0.68%、C3H6: 0.2%を含む。石炭ガス対空気比は1:4である。通常、石炭ガス対空気比は、予め、そして、焼き鈍しプロセスの必要に応じて設定される。このステップでは、上記石炭ガス対空気比は、成分検出器204によって再度検証される。

【0032】
熱電対205は、炉内のガス温度を検出するのに用いられる。
【0033】
燃焼予測ユニット206は計算装置203と成分検出器204とに接続されている。化学燃焼反応式を用い、総インプット石炭ガス流量、総インプット空気流量、石炭ガス成分、及び石炭ガス対空気比に基づいて、燃焼後のガス成分と燃焼後のガス総量V2とを予測することができる。
【0034】
一実施形態において、化学燃焼反応式は次のものを含む。
2H2+O2=2H2O
CH4+2O2=2H2O+CO2
2CO+O2=2CO2
C2H4+3O2=2CO2+2H2O
2C2H6+7O2=4CO2+6H2O
2C3H6+9O2=6CO2+6H2O
【0035】
上記の化学燃焼反応式を用い、総インプット石炭ガス流量、総インプット空気流量、石炭ガス成分、及び石炭ガス対空気比に基づいて、燃焼後ガス成分と燃焼後のガスの総体積V2とを正確に予測することが可能である。
【0036】
炉内に設置された点火装置207は、炉内の石炭ガスと空気との混合物に点火するのに用いられる。
【0037】
炉内のガス圧力を計算するための計算装置208は、炉内のガス総量を計算するための計算装置203に接続され、総インプット石炭ガス流量及び総インプット空気流量に基づいて炉内の燃焼前ガス圧力を計算するのに用いられる。この計算装置208は熱電対205及び燃焼予測ユニット206にも接続され、炉内の燃焼前ガス圧力、炉内の燃焼前ガス温度、及び炉内の燃焼後ガス温度に基づいて炉内の燃焼後ガス圧力を計算するのに用いられる。燃焼によって生じた熱は炉内の排気ガスの温度を上昇させる。と同時に、炉内の固有温度によって、その排気ガスが加熱されて膨張する。熱力学方程式P1V1/T1=P2V2/T2を用いることによって、石炭ガスと空気とが燃焼した後の炉内のガス圧力を計算することが可能である。ここで、P1は炉内の燃焼前ガス圧力、V1は炉内の燃焼前ガス体積、T1は炉内の燃焼前ガス温度、P2は炉内の燃焼後ガス圧力、V2は炉内の燃焼後ガス体積、そしてT2は炉内の燃焼後ガス温度である。これらのうち、P1及びV1は、炉内のガス総量を計算するための計算装置203によって得られる。また、T1は熱電対205によって得られる。V2は燃焼予測ユニット206によって得られる。T2も熱電対205によって得られる。炉内の燃焼後ガス圧力P2は、炉内のガス圧力を計算するための計算装置208によって計算され、与えられる。
【0038】
排気ガスファン開度制御装置209は、炉内のガス圧力を計算するための計算装置208と排気ガスファン210とに連結され、炉内の燃焼前ガス圧力P1及び炉内の燃焼後ガス圧力P2に基づき、かつ、ガスインクリメントパスアルゴリズムに基づき、排気ガスファンのための開度を計算する。この開度は、排気ガスファン210を制御するのに用いられる。
【0039】
一実施形態において、上記ガスインクリメントパスアルゴリズムは次の式によってガスインクリメントFAN DISVを計算することを含む。
【0040】
FAN_DISV=((Flow_air+Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))*Burn_Parameter+(Flow_gas-Flow_air/(Flow_gas*Gas_air))+Nflow_1)*(temp_pv+273.15)/(Fan_Flow_Max*273.15)*100
ここで、Flow_airは空気流量、Flow_gasは石炭ガス流量、Burn_Parameterはバーナーのパラメータ、Gas_airは石炭ガス対空気比、Fan_Flow_Max はファンの流量の最大値、temp_pv は炉内の実際の温度、Nflow_1は基準値としてのプリセット流量である。
【0041】
排気ガスファン開度制御装置209によって得られた排気ガスファンの開度は、炉圧に対して制御前効果を及ぼすことができる。炉圧を調節するときは、排気ガスファンが所望の開度に到達できるように排気ガスファンの開度を排気ガスファンに直接出力し、排気ガス弁のPIDレギュレータによって微調節を行い、最適回転速度の調整動作と排気ガス弁の微調整の調節動作とを重ね合わせて行い、これら2つを重ね合わせたものを排気ガスファンのために設定される最終値として扱う。これら全ての制御動作によって、炉圧を制御動作に対して迅速に応答させ、かつ、オーバーシュートを大幅に減らして、安定的な炉圧を維持することが可能である。
【0042】
図4及び図5は異なる制御方法によって与えられた炉圧のグラフを示す。両図のうち、図4は従来の制御方法による炉圧変動のグラフを示し、図5は本発明の制御方法及び制御装置による炉圧変動のグラフを示す。
【0043】
図4において、曲線1は空気流量を示す。石炭ガス流量の変動傾向は基本的に同じである。なぜならば、石炭ガス対空気比は本質的に一定だからである。石炭ガス及び空気の両方の流量が減れば、炉圧(曲線2)も同時に減る。制御および調節動作が十分早くには行われないためである。そして、最後には、排気ガス弁が過度に閉じられることとなり、炉圧が70Paまで急激に上昇して炉圧の変動を生じさせるオーバーシュート現象を引き起こすのである。
【0044】
図5では、本発明によって提供されるフィードフォワードモジュールによって調節が行われるので、たとえ空気流量(曲線1)が大きく変動しても、炉圧(曲線2)は、20Pa以内でわずかに変動するのみで負圧となることもない。
【0045】
連続焼き鈍し炉のための従来の制御ソリューションにおいては、PIDコントローラのみが採用されている。フィードバックにより調節を行うこの制御モードでは、必然的に遅延及び調節のオーバーシュートとなる。このことを考慮して、本発明によれば、フィードフォワード制御素子を備えた、連続焼き鈍し炉の炉圧を制御するための装置が提供される。このような制御装置を用いると、連続焼き鈍し炉の複数のセクションの石炭ガス流量および空気流量(石炭ガス流量及び空気流量は、焼き鈍し対象物を酸化するかもしれない余分の酸素を含まないように、燃焼化学反応において整合されるものとする。)に基づいて、排気ガス量(体積)や、炉圧の設定値を維持するのに必要な排気ガスファンの開度を計算することが可能である。炉圧を調節する際、弁が所望の開度に達することができるように、排気ガスファンのための開度は弁に直接出力される。そして、微調節のためにPID調節が用いられる。これらの制御動作によって、炉圧をこれらの制御動作に迅速に応答させ、かつ、オーバーシュートを大幅に減少させて、安定した炉圧を維持することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5