特許第5797811号(P5797811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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5797811ゴングの振動モードを選択する手段を備えた時報機構
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797811
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】ゴングの振動モードを選択する手段を備えた時報機構
(51)【国際特許分類】
   G04B 21/06 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
   G04B21/06 Z
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-104016(P2014-104016)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2014-232104(P2014-232104A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2014年5月20日
(31)【優先権主張番号】13169516.5
(32)【優先日】2013年5月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ポリクロニス・ナキス・カラパティス
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・ファーヴル
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・サルチ
(72)【発明者】
【氏名】ユーネス・カドミリ
(72)【発明者】
【氏名】ファビオ・シャシャ
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−128420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴング支持体(2)に固定された少なくとも1つのゴング(3);
所定の時刻に前記ゴングを打つための少なくとも1つのハンマー;及び
前記ゴングの少なくとも1つの振動モードを選択する手段
を含む、時報機構(1)であって、
前記可動式又は固定式選択手段は、少なくとも1つのセレクタ要素(4)を有し、
前記セレクタ要素(4)は、前記ゴングの一部と接するよう設けられ、前記ゴングの振動モードのうちの1つの振動ノードに保持され、これによって、他の振動モードを完全に又は部分的に除去することを特徴とする、時報機構(1)。
【請求項2】
前記セレクタ要素(4)は、前記選択する手段を移動させることによって前記ゴング(3)上を移動でき、これによって前記セレクタ要素を前記ゴングの選択された振動モードの振動ノードに位置決めできることを特徴とする、請求項1に記載の時報機構(1)。
【請求項3】
前記セレクタ要素(4)は、前記セレクタ要素を前記ゴング上に配設して前記ゴング上を摺動できるようにする貫通開口(4a)を有することを特徴とする、請求項1に記載の時報機構(1)。
【請求項4】
前記セレクタ要素(4)は、前記ゴング(3)に摺動可能に設けられている、請求項1の時報機構(1)であって、
前記選択する手段はねじ(16)を更に有し、
前記ねじ(16)は、磁化された端部(16a)を有するか、又はねじ頭とは反対側の前記ねじの端部に永久磁石(16a)を備え、
前記選択する手段は、前記ねじを受承するためのねじ山付き支持台(17)を更に有し、
前記ねじは、前記ゴングに対して平行に配設された長さ方向をもつシャフトを有し、
前記ねじ山付き支持台内での前記ねじの回転に続いて、前記ねじは前記ゴングの長さ方向に移動でき、
前記ねじの前記磁気化された端部又は前記第1の永久磁石(16a)の磁気分極の方向は、前記ゴングの前記長さ方向であること、並びに、
前記セレクタ要素(4)は、前記ゴングの前記長さ方向において、前記ねじの前記磁気化された端部又は前記ねじの前記永久磁石とは反対の磁気分極となっている、セレクタ用永久磁石(15)を有し、
前記セレクタ要素(4)は、磁力によって、前記ねじの前記磁気化された端部又は前記ねじの前記永久磁石に隣接するように位置し、
前記ねじ山付き支持台内での前記ねじの回転により、選択された振動モードの振動ノードに前記セレクタ要素(4)を位置決めする
ことを特徴とする、請求項1に記載の時報機構(1)。
【請求項5】
前記セレクタ要素(4)は、前記セレクタ要素の外側部分に、前記ゴングに対して平行な延長部分(5)を有すること、及び
前記選択手段は、ホイール(6)を有し、
前記ホイール(6)は、前記延長部分(5)に接触し、前記時報機構内に、回転軸(7)の周りで回転可能に設けられ、
これによって前記セレクタ要素(4)を前記ゴング上で移動させ、前記セレクタ要素を選択された前記ゴングの振動モードの振動ノードに保持する
ことを特徴とする、請求項1に記載の時報機構(1)。
【請求項6】
前記セレクタ要素(4)の前記延長部分(5)は、前記歯付きホイール(6)の歯(6a)と噛み合うための一連の歯(5a)を有することを特徴とする、請求項5に記載の時報機構(1)。
【請求項7】
前記ゴング(3)は直線状であり、前記セレクタ要素(4)の前記直線状延長部分(5)に対して平行であること、及び
前記ホイールを回転させるステム(7)は、前記ゴング(3)の長さに対して直交するように配設されていること
を特徴とする、請求項5に記載の時報機構(1)。
【請求項8】
一方の端部において前記ゴング支持体(2)に固定された2つの平行な前記ゴング(3、3’)を有すること、及び
前記セレクタ要素(4)は、前記セレクタ要素を前記2つのゴング上に設けて前記2つのゴング上を摺動できるようにする2つの前記貫通開口(4a)を有すること
を特徴とする、請求項1に記載の時報機構(1)。
【請求項9】
前記2つのゴングは直線状であること、及び
前記セレクタ要素(4)は、中央部品によって連続された2つのリングを含むこと
を特徴とする、請求項8に記載の時報機構(1)。
【請求項10】
前記2つの平行なリングは、各前記ゴング(3、3’)の断面の直径と等しいか又はこれより大きい内径を有することを特徴とする、請求項9に記載の時報機構(1)。
【請求項11】
前記セレクタ要素(4)は、前記中央部品上に、前記ゴング(3、3’)に対して平行な直線状延長部分(5)を有すること、
前記選択する手段は、ホイール(6)を有し、
前記ホイール(6)は、前記延長部分(5)に接触し、前記時報機構内に、前記ステム(7)の周りで回転可能に設けられ、
これによって前記セレクタ要素(4)を前記ゴング上で移動させ、前記セレクタ要素を選択された前記ゴングの振動モードの振動ノードに保持する
ことを特徴とする、請求項9に記載の時報機構(1)。
【請求項12】
前記セレクタ要素(4)の前記延長部分(5)は、前記歯付きホイール(6)の歯(6a)と噛み合うための一連の歯(5a)を有することを特徴とする、請求項11に記載の時報機構(1)。
【請求項13】
前記時報機構は、腕時計ケース内に設置されるよう構成され、
前記ホイール(6)は、駆動用クラウン(8)を有する巻き上げステム(7)によって回転するように構成されていることを特徴とする、請求項11に記載の時報機構(1)。
【請求項14】
前記選択する手段はねじ(16)を更に有し、
前記ねじ(16)は、磁化された端部(16a)を有するか、又はねじ頭とは反対側の前記ねじの端部に第1の永久磁石(16a)を備え、
前記選択手段は、前記ねじを受承するためのねじ山付き支持台(17)を更に有し、
前記ねじは、前記ゴングに対して平行に配設された長さ方向をもつ軸を有し、
前記ねじ山付き支持台内での前記ねじの回転に続いて、前記ねじは2つの前記ゴングの間を移動でき、
前記ねじの前記磁気化された端部又は前記第1の永久磁石(16a)の磁気分極の方向は、前記ゴングの前記長さ方向であること、
前記ゴング支持体(2)は、前記ねじの前記磁気化された端部又は前記第1の永久磁石(16a)と同一の磁気分極の第2の永久磁石(18)を含むこと、並びに
前記セレクタ要素(4)は、前記2つの開口の間に、前記ねじの前記磁気化された端部又は前記ねじの前記第1の永久磁石(16a)と、前記第2の永久磁石(18)との間に配設された、前記第1及び第2の永久磁石とは反対の磁気分極を有するセレクタ用永久磁石(15)を有し、
前記セレクタ要素は、前記第2の永久磁石(18)の反発力と等しい前記第1の永久磁石(16a)の反発力によって、前記ゴング上に位置決め及び保持される
ことを特徴とする、請求項8に記載の時報機構(1)。
【請求項15】
前記セレクタ要素(4)の前記1つ又は複数の開口(4a)は、前記セレクタ要素が設置された前記1つ又は複数のゴングと分離して接触する又は線状に接触するために、オリーブ型宝石孔又は微小ボールを有することを特徴とする、請求項3又は8に記載の時報機構(1)。
【請求項16】
前記セレクタ要素(4)は、前記1つ又は複数のゴングの振動モードの少なくとも1つの振動ノードに、前記1つ又は複数のゴング(3、3’)を挟んで固定するための、クランプの形態であることを特徴とする、請求項1に記載の時報機構(1)。
【請求項17】
前記セレクタ要素(4)は、シリコン又はシリコン酸化物又はLIGA等のNiP製の、マイクロメートルレベルの厚さの2つ以上のストリップで形成されている、可撓性ガイド部材の形態をとり、
各前記ストリップは、2つの支持台に固定され、屈曲して変形し、前記1つ又は複数のゴングの振動モードの少なくとも1つのノードに、前記1つ又は複数のゴング(3、3’)を挟んで固定している
ことを特徴とする、請求項1に記載の時報機構(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ又は複数のゴングの少なくとも1つの振動モードを選択する手段を備えた時報機構に関する。腕時計用であるこの時報機構は、更にゴング支持体に固定された少なくとも1つのゴング及び所定の時刻にゴングを打つための少なくとも1つのハンマーを含む。
【背景技術】
【0002】
腕時計製作の分野では、従来の構造を用いて、ミニッツリピーター等の時報機構を備えたムーブメントを製作している。このタイプの実施形態では、使用するゴングは金属ワイヤであり、これは断面が円形又は矩形であってもよい。この円形断面をもつ金属ワイヤを、腕時計フレームの内側においてムーブメントの周囲に設けている。ゴングを少なくとも1つのゴング支持体に固定し、このゴング支持体を腕時計の地板に固定している。ゴングの振動は、通常はゴング支持体近傍における少なくとも1つのハンマーの衝突によって生成される。この振動は複数の自然周波数からなり、特に可聴領域におけるその数及び強度は、ゴングの幾何学的形状、ゴングの固定又は支持条件、衝撃条件及び材料の物理的特性に依存する。ゴングの振動は、またゴング支持体を介して腕時計ケース内の下流の要素へと伝達され、空気中に放散される。
【0003】
打刻モードにおいて時報機構のハンマーが1つ又は複数のゴングを打つと、ゴングはその全ての自然振動モードが重なった状態で振動し始める。このようにゴングは、100Hz〜20kHzの可聴周波数範囲において様々な振動モードで振動できる。例えば直径0.6mm、長さ約90mmの金又は鋼鉄製ゴングに関して、第1の自然振動モードは一般に約100Hzであり、振動モードの密度は、特に3kHz〜10kHzの周波数範囲内において最高3kHz-1となる。1kHz未満の第1の振動モードは、一般に腕時計の要素によって効率的に放散させることができない。従って、腕時計の要素の作動は音響エネルギーの損失を表し、これは欠点である。更に、過剰に大きいスペクトル密度によって、過剰に豊かな音声が生成されることがあり、これは不協和音となる場合があり、これもまた従来の時報機構の欠点である。
【0004】
協和音を生成するためには、ゴングを打つ際に生成される振動の周波数寄与度を制御することが通常必要である。ハンマーによるゴングへの衝撃の条件の最適化は、所望の周波数組成及びそれに伴う協和的なチューニングを選択するためには不十分である。特に、生成される音声の純度はこれによって向上しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ハンマーが打つ少なくとも1つのゴングの特定の振動モードを選択でき、かつ製造が簡単な、特に腕時計用の時報機構を提供することによって、従来技術の欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明は、上述のような時報機構に関し、この時報機構は独立請求項1に定義された特徴を含む。
【0007】
時報機構の具体的な実施形態は、従属請求項2〜17に定義されている。
【0008】
本発明による時報機構の1つの利点は、少なくとも1つのゴングの振動モードのノード上の、少なくとも1つのセレクタ要素の一によって、ゴングを打った時に固有の音声が提供される点である。このモードの作動は、上記セレクタによって促進される。従って、このタイプの音声は、容易に識別可能な主音を有する。このタイプの振動モードセレクタは、偶発的な微細な衝撃を受けた場合のゴングの望ましくない振動を有意に制限するという追加の利点を有する。従って、これによって望ましくないノイズが除去される。
【0009】
本発明による時報機構の別の利点は、エネルギーの使用がより良好となる点である。セレクタ要素によって低周波数振動モードをブロックでき、従ってこのような振動モードがエネルギーを消費することがない。
【0010】
本発明の時報機構の別の利点は、1つのゴングに配設した複数のセレクタ要素を用いて、複数の音色を生成することもできる点である。これにより、例えば深夜0時から正午まで及び正午から深夜0時までにおける音声の使用及び区別によって音色を選択できるようになる。更に、振動モード選択手段を低コストで実現することができ、又は逆に、必要に応じてこれを貴金属製とすることもできる。従ってこれは腕時計の審美的価値及び希少価値に大きく寄与する。
【0011】
有利には、1つ又は複数のゴングに対するセレクタ要素の移動は、セレクタ要素と時報機構を動かす手段との間のラック装置を介して機械的に、又は磁気構成部品装置を介して磁気的に達成できる。
【0012】
腕時計用時報機構の目的、特徴及び利点は、以下の説明において(特に図面を参照すると)より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、ハンマーの衝撃に続く様々な振動モードを有する一方の端部に固定されたゴングの偏向曲線及び振動モードセレクタ要素の配置を簡略化したグラフである。
図2図2は、本発明による1つ又は2つのゴングの振動モードを選択する手段を有する時報機構の第1の実施形態の概略斜視図である。
図3a図3aは、本発明による1つ又は2つのゴングの振動モードを選択する磁気手段を有する時報機構の第2の実施形態の概略斜視図である。
図3b図3bは、本発明による1つ又は2つのゴングの振動モードを選択する磁気手段を有する時報機構の第2の実施形態の概略上面図である。
図4a図4aは、本発明による少なくとも1つのゴングの振動モードを選択する磁気手段を有する時報機構の第3の実施形態の概略上面図である。
図4b図4bは、本発明による少なくとも1つのゴングの振動モードを選択する磁気手段を有する時報機構の第3の実施形態の概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明において、本技術分野で知られている腕時計用時報機構の部品の全てについては、ごく簡単にしか説明しない。1つのゴング又は複数のゴングの少なくとも1つの振動モードを選択する手段に関して排他的に言及を行い、1つ又は複数のハンマー及び1つ又は複数のゴングを打つための機構におけるこれらハンマーの配置に関しては詳細に言及しない。
【0015】
図1は、長さLのゴングの偏向曲線のグラフを示し、このゴングは例えばその一方の端部において、腕時計内部部品(例えば地板)に固定されたゴング支持体に固定されている。図1は、ハンマーの衝撃に続くゴングの様々な振動モードを示す。振動モード選択手段を用いない場合、ゴングは、n=1で表される第1の振動モード、n=2で表される第2の振動モード、n=3で表される第3の振動モードの組み合わせで振動する傾向がある。複数のその他の振動モードも、これら初めの3つの振動モードと組み合わさることはあるが、図1が複雑となるのを回避するため、これらを図示していない。
【0016】
図1のグラフは例えば、直径1mm未満(例えば0.6mm)、長さ約90mmのゴングに関して定義されている。グラフのx軸の始点に示すように、この例のゴングはその一方の端部においてゴング支持体に固定されている。ゴングの材料には、鋼鉄又は金又は金属ガラス、即ち金属又は非晶質金属合金を選択してもよい。この金属ガラスは、例えばジルコニウム、金、白金、又は金−パラジウム、白金及び銀若しくは非晶質形態で固化可能ないずれの他の金属をベースとして作製してもよい。
【0017】
このため時報機構は、ゴングの少なくとも1つの振動モードを選択する手段を有する。この選択手段は、図1に記号で示すように、少なくとも1つのセレクタ要素又は2つのセレクタ要素を有する。1つ又は複数のセレクタ要素を移動させ位置決めする手段を設けてもよい。これらセレクタ要素は、第3の振動モードの振動ノードの位置に設けられ、即ちこれらのセレクタ要素は、第3のモードの振動ノードをクランプ留めしてもよい。このような状態において、他の全ての振動モードはより高い周波数に押し上げられ、従ってこれらセレクタ要素によって大幅に除去される。このためゴングは主として、セレクタ要素が存在しない場合に第3の振動モードとなるはずであった状態で振動する。
【0018】
当然、より低い周波数モード(特に、セレクタ要素が存在しない場合にノードを有さない基本振動モードとなるはずのもの)の除去は、第3の振動モードの第1の振動ノードに設けられた単一のセレクタ要素によっても達成できる。第3のモードの周波数よりも高いか又は低い周波数を有する別の振動モードを、別に設けた1つ又は複数のセレクタ要素によって選択してもよい。従って、以下で議論する実施形態では、1つの振動モードセレクタ要素についてのみ言及するが、図1に示すように、各ゴングに対して複数のセレクタ要素を設けてもよい。
【0019】
また、本発明の時報機構は、少なくとも1つのモードセレクタ要素の存在及び縁部の状態が固定−自由、固定−被支持又は固定−固定である少なくとも1つのゴングの存在を特徴とすることに留意されたい。モードセレクタ要素は、固定−自由、固定−被支持又は固定−固定モードのうちの1つのノードに対応する位置における単純な機械的支持状態をゴングがとることができるようにする固定又は可動構成部品として物理的に定義する。数学的には、x方向に配向されたゴングの主軸上の位置X0と対応するよう位置決めされたモードセレクタ要素は、以下の単純な物理的支持状態によって定義される。
【0020】
w(X0,t)=0 (1)
(w’(x,t)|x=X0)≠0 (2)
【0021】
ここで、w(x,t)は、ゴングの軸と直交する2つの方向のうちの一方におけるゴングの移動であり、w’(x,t)は、座標x及び時間tの関数としての移動の1次導関数である。状態(1)は、ゴングがセレクタ要素に対応して移動できないことを必要とし、その一方で状態(2)は、セレクタ要素に対応して、ゴングの軸がその静止位置に対して傾斜できることを保証する。
【0022】
モードセレクタ要素の導入により、選択されたモード以外のゴングの全てのモードの周波数及びモード形状が修正され、ノードがセレクタ要素の位置に対応し、状態(1)(2)が観察できるようになる。
【0023】
図2は、少なくとも1つのゴングの少なくとも1つの振動モードを選択する手段を有する時報機構1の第1の実施形態を示す。この第1の実施形態では、直線状の2つのゴング3、3’が設けられ、これらはそれぞれその一方の端部において同一のゴング支持体2に固定されている。従って、2つのゴング3、3’は、互いに対して平行に配設されている。2つのゴングの長さ及び断面は好ましくは同一であるか、又はハンマーのうちの一方若しくは他方がゴングを打つ際に放散される音色に応じて異なっていてもよい。ゴング支持体2及び1つ又は複数の回転ハンマー(図示せず)は一般に、腕時計の地板(図示せず)に設けられている。
【0024】
時報機構1の振動モード選択手段は、まず、ゴング3、3’上に配設されたセレクタ要素4を有する。セレクタ要素4は、一方の振動するゴング又は他方の、望ましくない振動モードを除去するために選択されるゴングの振動モードのうちの1つのノードに対応するゴング上の位置に設けてもよい。よってこのセレクタ要素4は、移動又は位置決め手段によって選択された振動モードに応じた所定の位置をとるようにゴング3、3’の長さに沿って移動できる。好ましくは、このセレクタ要素4は、中央部品で連結された2つのリングで形成されている。2つの平行なリングは同一の内径を有していてもよく、この内径は、各ゴングの断面の直径と略同じであるか又はわずかに大きい。2つのリングの中心間の距離は、2つのゴングの中心間の距離と同一である。セレクタ要素4がゴング3、3’の長さにわたって摺動できるように、2つのリングは各ゴングの自由端部から導入又は挿入される。
【0025】
各ゴングの外側表面と接するセレクタ要素4の2つのリングの内側部分4aは、オリーブ型宝石孔で形成してもよい。これは、1つ又は複数のゴング3、3’上でのセレクタ要素の摺動を容易にし、また、所望の振動モードを選択するために各ゴング上に接点又は接線を形成する。オリーブ型宝石孔の代わりに微小ボールを用いてもよい。このような微小ボールによって、分離した接触が保証され、回転をロックしない(関係2)まま、振動ノードに対応するゴングの軸に直交する方向での並進をロックできる(関係1)。
【0026】
振動モード選択手段は更にホイール6を有し、ホイール6の周縁部は、セレクタ要素4の中央部品の直線延長部分5と接続している。ホイール6の回転軸7は、好ましくはゴング3、3’に対して垂直に設けられ、これによって回転r中のホイール6は、直線延長部分5を介して、セレクタ要素4をゴング3、3’の長さ方向dにわたって摺動する。直線延長部分5は、2つのゴング3、3’の間に平行に延在し、その長さがホイール6と協働することにより、ゴングの振動モード選択に関連するゴングの少なくとも1つの位置にセレクタ要素4を移動させることができる。
【0027】
時報機構1の第1の実施形態では、ホイール6は歯6aを有するホイールであり、延長部分5は、延長部分の長さ方向に一連の歯5aを有し、これは歯付きホイールの歯と噛み合うラック装置を構成する。このようなラック装置によって延長部分5を2つのゴング3、3’の方向dに移動させることができる。ホイール6は巻き上げステム7によって回転rするように回転され、この巻き上げステム7は腕時計ケースの外側へ、クラウン8まで続く。このクラウン8は通常、腕時計ケースの外側から引き出したり、腕時計ケースの外側へ押し込んだりすることができ、これによってホイール6を回転させ、セレクタ要素4をゴング3、3’上に位置決めする。
【0028】
セレクタ要素4は、また上述のものとは異なる形態を有してもよいことに留意されたい。セレクタ要素4は、各ゴングの断面の直径と等しいか又はこれよりわずかに大きい直径の2つの貫通孔を有する平行六面体形状であってもよい。2つの開口の中心間の距離は、2つのゴングの中心間の距離と同一であり、これによってセレクタ要素は、ゴング全体にわたって摺動できる。これにより、2つの開口は、各ゴングの外側表面との接触を保証するために、オリーブ型宝石孔と嵌合していてもよい。
【0029】
ラック装置及び巻き上げステムを用いてセレクタ要素を移動させるための押しボタンを設けてもよい。この押しボタンを作動ステムに接続することによって、ボタンを押す度にセレクタ要素を1つ又は複数のゴング上の所望の位置に位置決めできるようにしてもよい。これによって、チャイムを必要に応じて修正でき、又は時報機構1によって腕時計の昼又は夜に対して異なる音声を生成できる。
【0030】
セレクタ要素4は、また、単一のリングの形態又は単一のゴング上に支持されるための貫通開口を有する平行六面体形状のユニットの形態で配設してもよい。リング又はユニットの開口は円形でなくてもよく、例えばゴングの断面に応じて矩形又は六角形であってもよい。直線延長部分を、リング又はユニットの外側部分に設けてもよく、またゴングの長さに対して平行に設けてもよい。セレクタ要素4は、ホイール6によって延長部分を介して駆動され、ゴングに沿って移動できる。延長部分は、歯付きホイールの歯と噛み合う一連の歯を有してもよい。セレクタ要素の位置が所望の振動モードに達するまで、ホイール6を、腕時計の主ゼンマイによって作動する歯車装置によって駆動してもよい。2つのセレクタ要素を、各ゴング上で互いに独立して摺動するように設けてもよく、これによって同一の振動モード又は2つの異なる振動モードを選択できる。
【0031】
図3a、3bは、1つ又は複数のゴングの少なくとも1つの振動モードを選択する磁気手段を有する時報機構1の第2の実施形態を示す。図2のものと同一である図3a、3b中の要素については、同一の参照番号を付すことに留意されたい。従って簡略化のため、これらの要素については詳細に説明しない。この第2の実施形態では、2つの直線状のゴング3、3’が設けられ、これらはそれぞれ一方の端部において同一のゴング支持体2に固定されている。
【0032】
この第2の実施形態は、1つ又は複数のゴング3、3’上でセレクタ要素4を移動させるために磁気構成部品を使用する点で第1の実施形態とは異なる。この第2の実施形態では、セレクタ要素の移動に影響を与えないよう、ゴングを非強磁性材料、例えば金又は金属ガラスで設計するのが好ましい。セレクタ要素4は、中央部品で連続された2つのリングの形態で示されている。第1の実施形態と同様、オリーブ型宝石孔を備えていてもいなくてもよい2つのリングによって、セレクタ要素4を1つ又は複数のゴング3、3’上で摺動させることができる。永久磁石15である磁気要素は、セレクタ要素の中央部品に設けるか、又は中央部品の材料内に設けられる。永久磁石15の磁気分極のN−S方向は、1つ又は複数のゴングの長さ方向となる。
【0033】
選択手段は更にねじ16を有し、このねじ16は磁化された端部16aを有するか、又はねじ頭とは反対側のねじの端部に第1の永久磁石16aを備える。ねじの端部の磁気分極の方向は、ゴング3、3’の長さ方向であるが、セレクタ要素4の永久磁石15とは反対の分極となっている。ねじ16はねじ山付き支持台17に差し込まれる。この支持台はまた、腕時計の地板に固定することによって設ける。ねじの長手方向軸はゴングに対して平行に配設されている。支持台17のねじ山内でのねじ16の回転rは、ねじ16の磁化部分16aをセレクタ要素4に向かって又はその反対方向に移動させる。ねじの磁化部分16aがセレクタの永久磁石15に近づくように移動すると、これは図3bに点線矢印で示すように、この磁石に対して反発する作用、及びセレクタ要素4をゴング上で摺動させる作用を有する。
【0034】
セレクタ要素をゴング3、3’上の所定の位置に保持するために、振動モード選択手段は、更に、ゴング支持体2への2つのゴング3、3’の固定端部間に配設された第2の永久磁石18を有する。第2の永久磁石18の磁気分極の方向もまたゴングの長さ方向であり、セレクタ要素4の永久磁石15とは反対の分極となっている。この第2の永久磁石18は、図3bに点線矢印で示すように、ねじの第1の磁石16aと同様、セレクタ要素に対して反発する。第1の永久磁石16aがセレクタ要素の永久磁石15に対して発生させる反発力が、第2の永久磁石18が永久磁石15に対して発生させる反発力と等しい場合に均衡が確立される。このようにして、振動する1つ又は複数のゴングの振動モードを選択するためのセレクタ要素4の所定の位置を位置付けることができる。
【0035】
図4a、4bは、少なくとも1つのゴングの少なくとも1つの振動モードを選択する磁気手段を有する時報機構1の第3の実施形態を概略的に示す。図2、3a、3bのものと同一である図4a、4b中の要素については、同一の参照番号を付すことに留意されたい。従って、簡略化のために、これらの要素については詳細に説明しない。
【0036】
この第3の実施形態の時報機構1は、単一の直線状のゴング3を有し、これはその一方の端部においてゴング支持体2に固定されている。リング又は貫通開口を有する平行六面体ブロックの形態のセレクタ要素4は、ゴング3上に摺動可能に設けられる。セレクタ要素4は永久磁石を有し、これはセレクタ要素4の材料の一部分として直接作製してもよく、又はセレクタ要素の一部分に固定してもよい。セレクタ要素4のこの永久磁石の磁気分極のN−S方向は、ゴング3の長さ方向である。
【0037】
時報機構1は、更に選択手段としてねじ16を有し、このねじ16は磁化された端部16aを有するか、又はねじ頭とは反対側のねじの端部に第1の永久磁石16aを備えている。このねじ16はねじ山付き支持台17に差し込まれ、この支持台17は、腕時計の地板に固定して設置してよい。ねじの磁化端部又はねじの端部の永久磁石の磁気分極の方向は、ゴング3の長さ方向であるが、セレクタ要素4の磁石とは反対方向の分極となっている。ねじはゴングに対して平行に、永久磁石16aがセレクタ要素の永久磁石に隣接しかつセレクタ要素4の磁石と接触しないように設けられている。
【0038】
図4aでは、ねじ16の永久磁石16aが、反対方向の磁気分極を有するセレクタ要素の永久磁石と隣接するために、2つの永久磁石の間に磁気牽引が発生する。セレクタ要素4が全く移動しない静止位置において、セレクタ要素の位置は、ねじ16の永久磁石16aとの相互作用、即ち磁気牽引によってはっきりと形成されている。2つの永久磁石間に存在する磁力と、ゴングの弾気復帰力とが組み合わさることで、セレクタ要素4の磁石の並進、即ちゴング3の長さ方向及びゴング3に対して垂直な方向への運動が排除される。反対に、ゴングの回転運動は、2つの平行ではない永久磁石で形成される系の磁気相互のエネルギーを実質的に改変しないために、ゴングの回転運動は排除されない。ハンマーがゴングを打つと、選択される周波数の振動モードのノードにセレクタ要素を位置決めしなければならない。
【0039】
図4bは、支持台17内でのねじ16の回転に続く、上記ねじの磁石16aの移動を示す。このような状態では、セレクタ要素4の永久磁石の牽引力Fが存在し、この牽引力Fはこの永久磁石に、ゴング3全体にわたる摺動力を与え、これによってこの永久磁石はねじ16の永久磁石16aに隣接するように移動する。均衡において、セレクタ要素4は選択された振動モードに対応する位置にあってもよい。
【0040】
磁気構成部品の装置を介して1つ又は複数のセレクタ要素を移動させる原理を、円形のゴング(図示せず)に拡張することも十分に可能であることに留意されたい。このような状態では、永久磁石を、ゴングの円形の中心に対してセンタリングされたディスク上に設けてもよい。このディスクが永久磁石と共に回転すると、ディスク上の永久磁石の磁気反発によってセレクタ要素及びゴング上の別の永久磁石を移動させることができる。
【0041】
また、上述の実施形態のうちのいずれかのセレクタ要素4を、選択手段としてのクランプの形態としてもよいことに留意されたい。即ち、このクランプは、1つ又は複数のゴング3、3’を挟んで、ゴングの振動モードの少なくとも1つのノードに固定できる。このクランプタイプのセレクタ要素を、オリーブ型宝石孔によって得られる接触の代わりに選択してもよい。クランプタイプのセレクタ要素は、1つ又は複数のゴングと、振動モードセレクタ要素との間の接触面積を最小化する。このセレクタ要素4は可撓性ガイド部材の形態をとってもよく、これはシリコン又はシリコン酸化物又はLIGA等のNiP製の、マイクロメートルレベルの厚さの2つ以上のストリップで形成される。これらのストリップはそれぞれ2つの支持台に固定され、屈曲して変形し、1つ又は複数のゴングの振動モードの少なくとも1つのノードに、1つ又は複数のゴング3、3’を挟んで固定する。このタイプのクランプに関して、接触幅は約5μm以下であってもよい。
【0042】
セレクタ要素4のオリーブ型宝石孔の代わりに2つの微小磁石を設けてもよく、これらはゴング3の両側に配設され、ゴング3は強磁性材料製であるか、又はニッケルなどの強磁性材料で被覆される。このようにして、2つの微小磁石及びゴングによって画定される平面は、ゴングの振動の平面と直交する。
【0043】
上述の全ての実施形態は、ゴング支持体に固定される一方の端部と、自由に動くことができる他方の端部とを有する1つ又は複数のゴングに関する。しかしながら、両端部が第1のゴング支持体及び第2のゴング支持体に固定された1つ又は複数のゴングを有することも想定できる。また、一方の端部がゴング支持体に固定され、他方の端部が支持台上に支持され、これによって簡単な支持状態が形成される1つ又は複数のゴングを有することも想定できる。本明細書に記載のモードセレクタシステムは、いずれの大幅な修正を行うことなく、この様々なタイプのゴングに即座に適用できる。
【0044】
オリーブ型宝石孔で形成されるセレクタ要素の代わりに、支持台を有さない、1つ又は複数のゴング上で摺動する1つ又は複数のチューブを設けてもよい。これらのチューブは、50μm超の長さにわたるゴングの屈曲を排除する。このような状態では、ハンマーが打刻を行うと、チューブに対応するノードを有するモードのみを作動させることができ、これはノードと対応してゴングの屈曲が最小であるためである。
【0045】
このタイプの時報機構に関して、2つのハンマーがゴングを打つことができる。第1のハンマーは、セレクタ要素の固定嵌合と可動嵌合との間に位置決めしてもよく、第2のハンマーは、ゴングの可動嵌合と自由端部との間にある。この解決法の利点は、同一のハンマーの打刻から時及び分を示す音声を得ることができる点である。
【0046】
当業者は以上の説明から、請求項によって定義される本発明の範囲を逸脱することなく、1つ又は複数のゴングの少なくとも1つの振動モードを選択する手段を備えた時報機構の複数の変形例を考案できる。上述の解決法は全て、いずれの大幅な修正を行うことなく、1つ又は複数のゴングが均質でない断面を有する場合に適用できる。2つの材料又は外部コーティングを有する1つ又は複数のゴングも、いずれの大幅な修正を行うことなく使用してよい。
【符号の説明】
【0047】
1 時報機構
2 ゴング支持体
3、3’ゴング
4 セレクタ要素
5 直線延長部分
5a 歯
6 ホイール
6a 歯
7 巻き上げステム
8 クラウン
15 永久磁石、セレクタ用永久磁石
16 ねじ
16a ねじの磁化された端部、第1の永久磁石
17 支持台
18 第2の永久磁石
d 方向
r 回転
F 牽引力
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b