特許第5797845号(P5797845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5797845リクライニング機構のラチェット、リクライニング機構のラチェット製造方法及びリクライニング機構のラチェット製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797845
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】リクライニング機構のラチェット、リクライニング機構のラチェット製造方法及びリクライニング機構のラチェット製造装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/235 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
   B60N2/235
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-525659(P2014-525659)
(86)(22)【出願日】2014年3月13日
(86)【国際出願番号】JP2014056706
(87)【国際公開番号】WO2014148357
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2014年5月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-54606(P2013-54606)
(32)【優先日】2013年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】590001164
【氏名又は名称】シロキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083286
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】東 淳一
【審査官】 永安 真
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4131650(JP,B2)
【文献】 特開2011−225071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/235
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースプレートに対して傾動可能に支持され、上記ベースプレートと対向する表面側に凹部を囲む環状の内歯ギヤが形成されたリクライニング機構のラチェットにおいて、
上記ラチェットの上記表面側と反対側の裏面側に、上記内歯ギヤのピッチ円と歯先円との間の径方向位置に外周面が位置する裏側環状部を有することを特徴とするリクライニング機構のラチェット。
【請求項2】
請求項1記載のリクライニング機構のラチェットにおいて、上記裏側環状部の外周面は上記内歯ギヤのピッチ円と歯先円の中間位置に位置しているリクライニング機構のラチェット。
【請求項3】
請求項2記載のリクライニング機構のラチェットにおいて、上記裏側環状部の外周面は上記内歯ギヤのピッチ円と歯先円から等距離の位置に位置しているリクライニング機構のラチェット。
【請求項4】
ベースプレートに対して傾動可能に支持され、上記ベースプレートと対向する表面側に凹部を囲む環状の内歯ギヤが形成されたリクライニング機構のラチェットの製造方法において、
上記ラチェットの上記内歯ギヤを形成する外歯形状を外周部に有する第1の金型と;
上記内歯ギヤのピッチ円と歯先円との間の径方向位置に内周面が位置する凹部を有する第2の金型と;
を備え、
上記第1の金型を上記ラチェットの表面側、上記第2の金型を上記ラチェットの裏面側に位置させて互いの金型を接近させて上記内歯ギヤを形成することを特徴とするリクライニング機構のラチェット製造方法。
【請求項5】
ベースプレートに対して傾動可能に支持され、上記ベースプレートと対向する表面側に凹部を囲む環状の内歯ギヤが形成されたリクライニング機構のラチェットの製造装置において、
上記ラチェットの上記内歯ギヤを形成する外歯形状を外周部に有する第1の金型と;
上記内歯ギヤのピッチ円と歯先円との間の径方向位置に内周面が位置する凹部を有する第2の金型と;
を有することを特徴とするリクライニング機構のラチェット製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートバックをシートクッションに対して傾動させるリクライニング機構を構成するラチェット、その製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートクッションとシートバックの一方と他方にベースプレートとラチェットを設け、ベースプレートに対するラチェットの傾動によってシートバックの角度調整を行わせるリクライニング機構が知られている。ラチェットには環状の内歯ギヤが形成され、内歯ギヤに対するポール等の外歯部材の噛合によってシートバックの角度が固定され、噛合解除によってシートバックの傾動が可能となる。
【0003】
ラチェットの小型化等の目的で内歯ギヤの小型化を行う場合、ラチェットの成形で一般的に用いられるプレス加工では、内歯ギヤの加工工程で生じる歯ダレや歯断、内歯ギヤを形成する金型の強度的な制約が問題となる。歯ダレや歯断を防ぎつつ内歯ギヤを小型にすることが難しく、また微細な形状の内歯ギヤを形成するための金型は、耐久性の確保が難しくなる。特許文献1に係る発明では、ラチェットにおける内歯ギヤの裏側の形状設定によって歯ダレや歯断のリスクを軽減すると共に、金型の型持ちを向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4131650号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年ではラチェットのより一層の小型化が求められている。この要求を満たすべく、本発明は、内歯ギヤが高精度に形成されて小型化が可能であり、かつ内歯ギヤを形成するための金型の耐久性に優れるリクライニング機構のラチェット、その製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ベースプレートに対して傾動可能に支持され、ベースプレートと対向する表面側に凹部を囲む環状の内歯ギヤが形成されたリクライニング機構のラチェットにおいて、ラチェットの裏面側に、内歯ギヤのピッチ円と歯先円との間の径方向位置に外周面が位置する裏側環状部を形成したことを特徴としている。
【0007】
裏側環状部の外周面は、内歯ギヤのピッチ円と歯先円の中間位置に位置していることが好ましい。さらに、裏側環状部の外周面は、内歯ギヤのピッチ円と歯先円から等距離の位置に位置していることが好ましい。
【0010】
本発明の製造方法の態様では、ラチェットの内歯ギヤを形成する外歯形状を外周部に有する第1の金型と、内歯ギヤのピッチ円と歯先円との間の径方向位置に内周面が位置する凹部を有する第2の金型とを備え、第1の金型をラチェットの表面側、第2の金型をラチェットの裏面側に位置させて互いの金型を接近させて内歯ギヤを形成することを特徴としている。
【0013】
本発明の製造装置の態様では、ラチェットの内歯ギヤを形成する外歯形状を外周部に有する第1の金型と、内歯ギヤのピッチ円と歯先円との間の径方向位置に内周面が位置する凹部を有する第2の金型を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、内歯ギヤが高精度に形成され、内歯ギヤを形成するための金型の耐久性にも優れ、ラチェットの小型化と製造コストの抑制を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】リクライニング機構を構成するラチェットの平面図である。
図2】ラチェットの製造で外形打ち抜きと内歯ギヤの形成を行う金型にセットした状態の工程を示す断面図である。
図3】ラチェットの製造で外形打ち抜きを行う工程を示す断面図である。
図4】ラチェットの製造で内歯ギヤを形成する工程を示す断面図である。
図5図4の一部を拡大した断面図である。
図6】ラチェットに形成される内歯ギヤの一部を拡大した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示すラチェット50は、車両用シートのリクライニング機構を構成するものである。ラチェット50を含むリクライニング機構は周知の構造であり図示を省略しているが、その概略を説明する。リクライニング機構では、シートクッションを構成するシートクッションフレームにベースプレート(ロアアーム)が設けられ、シートバックを構成するシートバックフレームにラチェット50が設けられている。
【0019】
ラチェット50は、図1のように正面視して円形をなしており、有底の凹部52を囲む内歯ギヤ54が形成されている。この内歯ギヤ54が形成されている側(図1で見えている側)をラチェット50の表側、これと反対側をラチェット50の裏側と定義する。凹部52の中央にはラチェット50の表裏を貫通する円形穴56が形成され、円形穴56の周囲には凹部52に対してラチェット50の裏側へ向けて突出する4つの裏面凸部58が形成されている。各裏面凸部58はラチェット50をシートバックフレームに固定する際の溶接部として用いられる。凹部52の周囲には、凹部52の底面を基準としてラチェット50の表側に突出する第1の環状段部(裏側環状部)60が形成されている(図4図5参照)。第1の環状段部60は円形穴56を中心とする環状をなしており、凹部52内には、第1の環状段部60からラチェット50の中心方向に向けて3つのトッピング62が周方向に略等間隔で形成されている。第1の環状段部60の外側には、該第1の環状段部60に対してラチェット50の表側に向けて突出する第2の環状段部(外側環状部)64が形成されている(図4図5参照)。第2の環状段部64は第1の環状段部60と同心で該第1の環状段部60よりも大径の環状をなしており、第2の環状段部64の内周部に内歯ギヤ54が形成されている。第2の環状段部64の外周部はギヤのない平滑な円筒面である回転案内面66になっている。図4図5に示すように、内歯ギヤ54の裏側に位置する第1の環状段部60の外周部は回転案内面66と同心状の外周面68となっており、外周面68に続けて、ラチェット50の外周側に進むにつれて径が大きくなる円錐面70が形成されている。
【0020】
図5に示すように、ラチェット50の凹部52内では、第1の環状段部60の底面部分のうち内歯ギヤ54に囲まれる(隣接する)環状の領域にギヤ隣接凹部72が形成されている。ギヤ隣接凹部72は、その内周側に位置する第1の環状段部60の基準底面74よりも、ラチェット50の裏側方向に向けて深く形成された凹部である。第2の環状段部64のうち、ラチェット50の裏面側を向く裏面76は、ラチェット50の軸線に対して略垂直な環状の平面となっている。ラチェット50の軸線方向(表裏方向)におけるギヤ隣接凹部72の底面位置を図5にL1で示し、裏面76の位置を図5にL2で示した。L1とL2の比較から分かるように、第2の環状段部64の裏面76はギヤ隣接凹部72の底面に比して、ラチェット50の裏側方向にオフセットして位置している。
【0021】
ラチェット50は、ベースプレートに形成した円形状の凹部の内周面に回転案内面66を摺接させることによって、ベースプレートに対して傾動可能に支持される。ベースプレートに形成した軸穴に対してヒンジピンが回転可能に挿入されており、ヒンジピンはラチェット50の円形穴56に対しても挿入されている。ベースプレートの凹部内には、ヒンジピンと一体的に回転するカムと、ヒンジピンを中心とする径方向に移動可能な複数のポールが設けられており、ヒンジピンと共にカムが回転すると、カムの作用によって各ポールが移動される。各ポールにはラチェット50の内歯ギヤ54に対して噛合可能な外歯が形成されている。各ポールは外歯を内歯ギヤ54に噛合させる方向、すなわちヒンジピンから離れる方向に付勢されており、各ポールと内歯ギヤ54が噛合する状態では、ベースプレートに対するラチェット50の傾動が規制される。なお、ポールの一部がトッピング62に当接すると、ポールと内歯ギヤ54が噛み合わず、ラチェット50の傾動は規制されない。ヒンジピンを回転させて各ポールを移動させて内歯ギヤ54との噛合を解除させると、ベースプレートに対するラチェット50の傾動が可能になる。このようにベースプレート側のポールとラチェット50の内歯ギヤ54との噛合状態を制御することによって、シートクッションに対するシートバックの角度調整が行われる。
【0022】
図2以下を参照してラチェット50の製造工程を説明する。金属製の板材からなる被加工材80に対して、順送プレス装置を用いてプレス加工や剪断打ち抜き加工を行うことによりラチェット50が形成される。順送プレス装置では、ラチェット50における円形穴56、裏面凸部58、第1の環状段部60及びトッピング62の形成が先に行われ、図2以下に示す工程で内歯ギヤ54の形成(第2の環状段部64の形成)とラチェット50の外形打ち抜き(回転案内面66の形成)が行われる。
【0023】
図2に示すように、ラチェット50の表面側を上に向けた状態で、上型プレッシャープレート20と下型プレッシャープレート10によって被加工材80が挟持される。裏面凸部58に対して嵌合する凸部を有する上型インナーパンチ34と、裏面凸部58を嵌合させる凹部を有する下型インナーパンチ42によって挟まれて被加工材80の位置決めが行われる。上型インナーパンチ34の形状は3つのトッピング62と干渉せずに第1の環状段部60の内側に嵌るように設定されている。上型インナーパンチ34の外側にはギヤ押し出しパンチ(第1の金型)32が設けられ、下型インナーパンチ42の外側にはギヤエジェクター40が設けられる。ギヤ押し出しパンチ32とギヤエジェクター40はラチェット50における第1の環状段部60の表裏を挟む位置関係にある。ギヤ押し出しパンチ32の外周部には、内歯ギヤ54を形成するための外歯が形成されている。図5に示すように、ギヤ押し出しパンチ32の先端には、この外歯が形成された外周部に隣接する部分(第1の環状段部60のギヤ隣接凹部72に対応する部分)に、それよりも内周側の基準先端面33a(第1の環状段部60の基準底面74に対応する部分)に比して突出量の大きい先端突起33bが形成されている。ギヤ押し出しパンチ32の外側にはフローティングメインパンチ30が設けられ、ギヤエジェクター40の外側にはフローティングダイ(第2の金型)11が設けられる。
【0024】
図2の状態では内歯ギヤ54や第2の環状段部64が未形成であり、ギヤ押し出しパンチ32、フローティングメインパンチ30及び上型プレッシャープレート20の先端が略面一で、ギヤエジェクター40、フローティングダイ11及び下型プレッシャープレート10の先端が略面一の位置にある。図2に続く図3の工程では、フローティングダイ11によってラチェット50の裏面側から背圧付与を行いつつ、下型プレッシャープレート10に対するフローティングメインパンチ30の下方への相対移動によってラチェット50の外形打ち抜き加工が行われる。この段階で回転案内面66が形成される。
【0025】
続いて図4の工程に移る。ギヤ押し出しパンチ32とギヤエジェクター40で挟持される第1の環状段部60と、フローティングメインパンチ30とフローティングダイ11で挟持される第2の環状段部64との間に段差が形成されるように上下方向への金型の相互移動を行い、ギヤ押し出しパンチ32の外周部に形成した外歯によって内歯ギヤ54を形成する。内歯ギヤ54の歯先円、歯底円、ピッチ円をそれぞれ図5図6にd1、d2、d3で示す。
【0026】
内歯ギヤ54の形成に関わる金型のうちフローティングダイ11は、内側にギヤエジェクター40を嵌合させる円形凹部12を有している。円形凹部12は第1の環状段部60の外周面68を形成する部分であり、図5図6に示すように、円形凹部12の内周面の径方向位置が内歯ギヤ54の歯先円d1とピッチ円d3の間に設定される(図5では、円形凹部12の内周面を延長した仮想面をPで示しており、仮想面Pが歯先円d1とピッチ円d3の中間位置に位置している)。また、図5に示すように、円形凹部12の開口部の角部に、面取りによる円錐面13が形成され、円錐面13の外縁は内歯ギヤ54の歯底円d2よりも外側に位置している。このような構成のフローティングダイ11を用いて形成されたラチェット50は、円形凹部12の内周面によって内歯ギヤ54の裏面側に第1の環状段部60の外周面68が形成され、外周面68の径方向位置が内歯ギヤ54の歯先円d1とピッチ円d3の間(中間位置)に設定される。また、フローティングダイ11の円錐面13によって円錐面70が形成され、円錐面70の外周部は歯先円d1よりも外径側に位置する。
【0027】
これにより以下の効果が得られる。フローティングダイ11に、内歯ギヤ54の歯先円d1とピッチ円d3の間に内周面が位置する円形凹部12を設けたことにより、ラチェット50の径方向においてギヤ押し出しパンチ32とフローティングダイ11の互いの一部がオーバーラップした関係になり、ラチェット50において内歯ギヤ54の裏面側に第1の環状段部60の外周面68が位置する半抜き加工となる。そして円形凹部12の内周面が内歯ギヤ54のピッチ円d3よりも内径側(歯先側)に位置していることにより、内歯ギヤ54を形成する際に下方への被加工材80の無駄な流れがフローティングダイ11の内周部分によって防がれて内歯ギヤ54の形成箇所に十分な量の肉が残されるため、プレス加工時の内歯ギヤ54の歯ダレを小さくさせ、また歯断を起きにくくさせることができる。仮に、円形凹部12の内周面がピッチ円d3や歯底円d2よりも外径側に位置していると、内歯ギヤ54を形成するための被加工材80の肉が周囲に流れて素材の量が不足しやすくなり、内歯ギヤ54の歯ダレが大きくなり、歯断のリスクも高まる。歯ダレが大きくなると、内歯ギヤ54における有効噛合量が小さくなってしまうため、必要な噛合強度を確保するために内歯ギヤ54を含むラチェット50の肉厚を大きくする等の対策が必要となり、ラチェット50の小型化が阻害されてしまう。これに対し、本実施形態の構成によると、歯ダレや歯断を抑えて内歯ギヤ54を高精度に形成してラチェット50の小型化を図ることができる。
【0028】
ラチェット50の径方向においてギヤ押し出しパンチ32とフローティングダイ11の互いの一部がオーバーラップする関係にして、内歯ギヤ54の裏面側に第1の環状段部60の外周面68を位置させることによって以上の効果が得られる。一方、ギヤ押し出しパンチ32とフローティングダイ11のオーバーラップ量が大きすぎると、成形時に金型(特にギヤ押し出しパンチ32)への負荷が大きくなり、金型の食いつき等が生じて消耗や破損が生じやすくなる。本実施形態では、内歯ギヤ54のピッチ円d3よりも内径側に円形凹部12の内周面(第1の環状段部60の外周面68)を位置させてギヤ押し出しパンチ32とフローティングダイ11に所定のオーバーラップ量を持たせつつ、円形凹部12の内周面(第1の環状段部60の外周面68)が内歯ギヤ54の歯先円d1を超えて内径側に位置しないようにオーバーラップ量の上限を設定している。これにより、内歯ギヤ54を形成する際にギヤ押し出しパンチ32とフローティングダイ11にかかる負荷が抑制される。つまり、フローティングダイ11における円形凹部12の内周面(ラチェット50における第1の環状段部60の外周面68)の径方向位置を、内歯ギヤ54の歯先円d1とピッチ円d3の間に設定したことによって、内歯ギヤ54の形成精度の向上と金型の耐久性確保を両立させることが可能となった。
【0029】
上下方向の金型の相互移動によって内歯ギヤ54を形成する工程では、ギヤ押し出しパンチ32の基準先端面33aによって第1の環状段部60の基準底面74が形成されると共に、先端突起33bによってギヤ隣接凹部72が形成される。内歯ギヤ54の形成に際しては、ギヤ押し出しパンチ32の先端側、すなわち内歯ギヤ54の根元側において歯ダレが生じやすいが、内歯ギヤ54の根元部分にギヤ隣接凹部72を形成したことによって、基準底面74と同じ深さ位置まで精密な形状の内歯ギヤ54を得ることができる。従って、リクライニング機構を組んだ状態における内歯ギヤ54とポールの噛合不良を防ぐことができ、特に内歯ギヤ54の根本部分をポールが噛み込んでしまう不具合を回避できる。
【0030】
上下方向の金型の相互移動によって内歯ギヤ54を形成する工程では、ギヤ押し出しパンチ32の先端突起33bが、フローティングダイ11の先端位置よりも上方に位置する範囲で金型の相互位置を制御する。このように金型を位置制御することにより、第2の環状段部64の裏面76の位置(図5のL2)が、ギヤ隣接凹部72の底面の位置(図5のL1)よりもラチェット50の裏側方向にオフセットして位置される。この構成及び製法によると、内歯ギヤ54形成の際に金型にかかる負荷を軽減する効果が得られる。なお、先に述べたようにラチェット50にはギヤ隣接凹部72を形成することが好ましいが、仮にギヤ隣接凹部72の形成を省略する場合は、第2の環状段部64の裏面76の位置(図5のL2)が、第1の環状段部60の基準底面74の位置よりもラチェット50の裏側方向にオフセットする関係を満たせば、同様の効果が得られる。
【0031】
以上、図示実施形態に基づき説明したが、本発明は図示実施形態に限定されるものではない。例えば、図示実施形態のラチェット50では4つの裏面凸部58と3つのトッピング62を備えているが、これらの要素は発明の要旨とは関係がないため任意に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上詳述したように、本発明によれば、リクライニング機構のラチェットにおける歯ダレや歯断を防いで形成精度を向上させることができると共に、金型の耐久性確保も実現できる。よって、リクライニング機構の小型化、性能向上、製造コスト抑制に広く寄与することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 下型プレッシャープレート
11 フローティングダイ(第2の金型)
12 円形凹部
13 円錐面
20 上型プレッシャープレート
30 フローティングメインパンチ
32 ギヤ押し出しパンチ(第1の金型)
33a ギヤ押し出しパンチの基準先端面
33b ギヤ押し出しパンチの先端突起
34 上型インナーパンチ
40 ギヤエジェクター
42 下型インナーパンチ
50 ラチェット
52 凹部
54 内歯ギヤ
56 円形穴
58 裏面凸部
60 第1の環状段部(裏側環状部)
62 トッピング
64 第2の環状段部(外側環状部)
66 回転案内面
68 外周面
70 円錐面
72 ギヤ隣接凹部
74 基準底面
76 第2の環状段部の裏面
80 被加工材
d1 歯先円
d2 歯底円
d3 ピッチ円
図1
図2
図3
図4
図5
図6