特許第5797887号(P5797887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5797887耐熱性の超合金からなる部品を溶接する方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797887
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】耐熱性の超合金からなる部品を溶接する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/34 20140101AFI20151001BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20151001BHJP
   B23K 26/32 20140101ALI20151001BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20151001BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20151001BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   B23K26/34
   B23K26/00 N
   B23K26/32
   B23K31/00 B
   B23K31/00 D
   F01D5/28
   F01D25/00 L
   F01D25/00 X
【請求項の数】18
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-232369(P2010-232369)
(22)【出願日】2010年10月15日
(65)【公開番号】特開2011-83822(P2011-83822A)
(43)【公開日】2011年4月28日
【審査請求日】2011年11月9日
【審判番号】不服2013-25463(P2013-25463/J1)
【審判請求日】2013年12月25日
(31)【優先権主張番号】10 2009 049 518.5
(32)【優先日】2009年10月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(73)【特許権者】
【識別番号】504315750
【氏名又は名称】フラウンホーファー‐ゲゼルシャフト ツア フェルデルング デア アンゲヴァンテン フォルシュング アインゲトラーゲナー フェライン
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】ニコライ アルヤキーネ
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルク ボスタンヨグロ
(72)【発明者】
【氏名】ベルント ブルバウム
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ガッサー
(72)【発明者】
【氏名】トルステン ヤムボール
(72)【発明者】
【氏名】シュテファニー リンネンブリンク
(72)【発明者】
【氏名】トルステン メルツァー‐ヨーキッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒァエル オット
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト ピルヒ
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ ヴィルケンヘーナー
【合議体】
【審判長】 平岩 正一
【審判官】 久保 克彦
【審判官】 刈間 宏信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−269784(JP,A)
【文献】 特開2008−128147(JP,A)
【文献】 特開平7−75893(JP,A)
【文献】 特開平5−65530(JP,A)
【文献】 特開2000−301335(JP,A)
【文献】 特開昭63−224888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00,F01D 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性の超合金からなる部品(9)を溶接する方法であって、
部品表面(10)への溶加材(13)の付着が、前記溶加材を溶融するための溶接ビームが照射される領域としての熱注入ゾーン(11)と、
前記熱注入ゾーン(11)へ前記溶加材を供給するための供給ゾーンとにおいて行われ、
一方の前記熱注入ゾーン(11)および前記供給ゾーンと他方の前記部品表面(10)とを互いに相対的に移動させる、前記方法において、
少なくとも溶接出力、プロセス速度、前記溶接ビームの直径の溶接パラメータは、材料が凝固するときの冷却速度が少なくとも1秒あたり8000ケルビン(K/s)であるように選択され、
前記溶接出力は100Wから300Wとし、前記プロセス速度は少なくとも250mm/minとし、さらに、前記溶加材(13)の付着は層状の付着によって行なうことにより、先の付着層と後の付着層との間に多結晶の溶接継目が生成されるようにすることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記溶接出力ならびに前記溶接ビームの直径に関わる前記溶接パラメータは、材料が凝固するときの冷却速度が少なくとも1秒あたり8000ケルビン(K/s)であるように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
先行する層(19)が溶融される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
先に付着された層(19)はその層厚の半分よりも少ない厚さで再度溶融される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
各々の層(19,21)について前記熱注入ゾーン(11)と前記供給ゾーンが溶接方向(S1,S2)に沿って前記部品表面(10)に対して相対的に移動し、
互いに連続する層(19,21)の前記溶接方向(S1,S2)が相互に回転している、請求項1,3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記熱注入ゾーン(11)と前記供給ゾーンとは溶接方向(S1,S2)に沿って該溶接方向を中心として振動する経路(P1,P2)上で前記部品表面(10)に対して相対的に移動する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記部品(9)はγ'含有ニッケル基超合金を有している、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶加材(13)の付着に続いて熱処理が行われる、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記熱注入用の熱源として300Wレーザが用いられる、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
Nd−YAGレーザが用いられる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
レーザ出力は100Wから300Wである、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
レーザビームの直径は500μmから800μmである、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
耐熱性の超合金からなる部品(9)を溶接する溶接装置であって、
部品表面(10)で、溶加材(13)を溶融するための溶接ビームが照射される領域としての熱注入ゾーン(11)を生成するための、出力が100Wから300Wの熱源(3)と、
前記熱注入ゾーン(11)へ前記溶加材(13)を供給するための供給装置(5)と、
一方の前記熱源(3)および前記供給装置(5)と他方の前記部品表面(10)との間で相対運動を生成するための搬送装置(15)とを備えている溶接装置において、
前記溶接のプロセス速度は少なくとも250mm/minとし、材料が凝固するときの冷却速度が少なくとも1秒あたり8000ケルビンであるように溶接パラメータを調整し、かつ前記溶加材(13)の付着は層状の付着によって行われ、先の付着層と後の付着層との間に多結晶の溶接継目が生成されるようにすることができる制御ユニット(17)を有している溶接装置。
【請求項14】
前記制御ユニット(17)は溶接出力ならびに前記溶接ビームの直径に関わる前記溶接パラメータを調整して、材料が凝固するときの冷却速度が少なくとも1秒あたり8000ケルビンであるようにすることができる、請求項13に記載の溶接装置。
【請求項15】
前記制御ユニット(17)における制御プログラムは前記熱注入ゾーン(11)と前記供給ゾーンを溶接方向(S1,S2)に沿って該溶接方向(S1,S2)を中心として振動する経路(P1,P2)上で前記部品表面(10)にわたって移動させる、請求項13または14に記載の溶接装置。
【請求項16】
前記熱源(3)はレーザである、請求項13から15までのいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項17】
前記制御ユニット(17)における制御プログラムは層状の溶接の場合に互いに連続する各層(19,21)の前記溶接方向(S1,S2)を相互に回転させることができる、請求項13から16までのいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項18】
前記熱源(3)として300Wレーザを有している、請求項16または17に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品、特にガスタービン部品、たとえばガスタービン翼を溶接する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの動翼は、運転時に高い温度と強い機械的負荷を受ける。したがってこのような種類のコンポーネントには、特に、γ’相の析出によって強化することができるニッケル基の超合金が使用される。それでも時間がたつと動翼に亀裂が生じる可能性があり、そうした亀裂は時間の経過とともにさらに広がっていく。このような亀裂は、たとえばガスタービン運転時の極端な機械的負荷に基づいて発生することがあり、あるいは、すでに製造プロセス中に生じることもある。タービン翼およびこのような種類の超合金からなるその他の部品の製造には高い費用がかかり、コストが集中するので、製造時の不良品をできるだけ少なくしながら製造をするとともに、製造された製品の長い耐用寿命を確保する努力がなされている。
【0003】
稼働しているガスタービン翼は定期的に保守整備され、運転に起因する負荷に基づいてそのままでは機能を確保することができなくなると、場合により交換される。交換されたタービン翼を引き続いて使用することを可能にするために、このタービン翼はふたたび可能な限り再処理され、そのようにして、あらためてガスタービンで使用できるようになる。このような種類の再処理作業においては、たとえば当初の壁厚を回復させるために、損傷した領域での肉盛溶接が必要になることがある。
【0004】
すでに製造プロセスにおいて亀裂を生じたタービン翼も、たとえば肉盛溶接によって使用可能にすることができ、それにより、製造時の不良品を減らすことができる。
【0005】
しかしながらγ’硬化されたニッケル基超合金は、同種類の溶加材による従来式の溶接方法によっては、現在のところ溶接することが困難である。その原因は、ミクロ偏析すなわち溶融物のミクロな成分分離を防止しなくてはならないことにある。さらに溶接プロセス自体が、後続する熱処理中に溶接部での亀裂生成につながることがある。その原因は、溶接をするときの熱注入中の可塑変形による溶接残留応力である。
【0006】
γ’硬化されたニッケル基超合金の溶接の難しさを回避するために、たとえばγ’硬化されていないニッケル基合金のような延性溶加材を用いて溶接が行われることが多い。このようなγ’硬化されていないニッケル基合金の典型的な代表は、たとえばIN625(登録商標)である。γ’硬化されていない溶加材の延性は、溶接後の最初の熱処理中における可塑変形による溶接応力の低減を可能にする。しかしながら硬化されていない合金は、γ’硬化されたニッケル基超合金に比べて低い耐熱性しか有していない(低い引張強度と低いクリープ破断強さの両方)。したがって、延性溶加材を使わない溶接方法を適用するほうが好ましい。この方法は2つに分けることができ、すなわち、γ’相の粗粒子化による延性向上のために母材の過エージングが行われる方法と、予熱された基材で溶接プロセスが実施される方法とに分けることができる。予熱された基材での溶接プロセスの実施は、溶接プロセス中の回復によって溶接残留応力を低減させる。
前述した過エージングを有する溶接プロセスは、たとえば特許文献1に記載されており、予熱された部品で実施される溶接プロセスは、たとえば特許文献2に記載されている。
【0007】
しかし、延性溶加材を使わない上述した両方の溶接方法も、同じく欠点と結びついている。たとえば溶接プロセス前に実施される過エージングでは、γ’硬化可能なニッケル基超合金の相応の熱処理が溶接前に実施され、それによってγ’相の過エージングを惹起する。このときに基本材料の延性が明らかに増大する。このような延性の増大は、材料を室温で溶接することを可能にする。さらには材料を冷間矯正することができる。さらに、このような種類の熱処理は、たとえば登録商標であるRene41やHaynes282のようなニッケル基超合金を溶加材として使用することを可能にする。これらは組織においてγ’相を形成しているものの、たとえばガスタービン翼のようなガスタービン高温ガスコンポーネントに今日使用されるような典型的なγ’含有ニッケル基超合金(たとえば登録商標であるIN738LC、IN939、Rene80、IN6203DS、PWA1483SX、Alloy247等)よりも、明らかに低い容積割合でしか形成していない。したがって、溶接プロセスの前に過エージングが行われている場合でさえ、完全に構造的な溶接を行うことはできない。
【0008】
タービン翼の予熱が行われると、タービン翼の溶接個所と残りの部分との間の温度差およびこれに伴って生じる応力勾配が少なくなり、それにより、ニッケル基超合金でできたコンポーネントでの溶接割れの形成を防止することができる。しかし、誘導コイルによって900℃から1000℃の温度までタービン翼の予熱が行われるこのような方法は、保護ガスのもとで実施しなくてはならず、このことは溶接プロセスを複雑にし、高コストのものにする。そのうえこの方法は、保護ガス容器の中にある部品へのアクセス性が不足しているために、部品のどの領域でも実施するというわけにはいかない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許6,120,624号明細書
【特許文献2】米国特許5,319,179号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、特にγ’硬化されたニッケル基超合金に適しており、上に挙げた欠点を有しておらず、もしくは低い程度にしか有していない、肉盛溶接をするための上記に代わる溶接方法が求められている。本発明のさらに別の課題は、本発明の方法を実施するのに適した溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の課題は、請求項1に記載の肉盛溶接をする方法によって解決され、第2の課題は、請求項16に記載の溶接装置によって解決される。
従属請求項には本発明の好ましい実施形態が記載されており、好ましくは互いに任意に組み合わせることができる。
【0012】
耐熱性の超合金からなる部品を溶接する本発明の方法では、熱注入ゾーンおよび熱注入ゾーンへ溶加材を供給するための供給ゾーンにおいて、部品表面への溶加材の付着が行われる。熱注入ゾーンと供給ゾーンは、溶接中、部品表面にわたって移動する。この移動は溶接方向に沿って行うことができ、たとえば直線経路で行うことができ、または、溶接方向を中心として振動する経路で行うことができる。本発明の方法では、溶接パラメータは、材料が凝固するときの冷却速度が少なくとも8000K/sであるように選択される。
【0013】
材料が凝固するときの少なくとも8000K/sの冷却速度を調整するために適用される主要パラメータは、たとえばレーザ出力およびレーザビーム直径の形態の溶接出力および熱注入ゾーンの直径に関する方法パラメータ、送り(プロセス速度)、および場合により、供給される溶加材の流である。使用するレーザ源の種類に応じて、これらのパラメータを適切に適合化することで、溶接されるべき材料の求められる冷却速度を調整することができる。このときプロセス速度は少なくとも250mm/min、特に400〜600mm/min、さらに特に500mm/minとすることができる。たとえば500mm/min以上のプロセス速度のとき、溶接出力および熱注入ゾーンの直径に関わる方法パラメータは、材料が凝固するときの冷却速度が少なくとも8000K/sであるように調整することができる。
【0014】
高い冷却速度と高い凝固速度によって、ミクロ偏析すなわち溶融物のミクロな成分分離がほぼ回避される程度まで、分布係数が高くなる。溶着金属中の溶融物がデンドライト凝固し、すなわち樹枝状の構造で凝固し、このデンドライトの成長方向は溶接の軌跡に沿って変化する。デンドライトの可能な成長方向の向きが、凝固前線における温度勾配に対して変化するからである。温度勾配に対して最小の傾きをもつ成長方向、ないし最小の成長速度をもつ成長方向が全体に広がる。さらには、凝固前線の前に複数の核が形成され、これらの核は凝固中に凝固前線に取り込まれる。このような核は、ランダムに分布するデンドライト成長方向を生じさせる。
【0015】
本発明による方法は、たとえばγ’含有のニッケル基超合金からなる部品を、γ’を形成するニッケル基超合金材料である溶加材によって溶接するのに適している。その場合、同一種類の溶加材を使用することによって溶着金属における高い強度が実現され、是認できる溶接品質すなわち非常に少ない数の亀裂と非常に短い平均亀裂長さが実現される。局所的に融液浴に接している保護ガス雰囲気によって室温で溶接プロセスを行うことが可能なので、本発明による溶接方法は高い経済性を実現する。
【0016】
本方法は、特に、溶加材の付着が層状に行われる肉盛溶接方法として構成することができる。この場合、連続する各層の溶接方向は相互に回転していてよく、特に90°だけ回転していてよい。それぞれ異なる層の溶接方向の回転により、各層の間の接合不良を回避することができる。これは特に、熱注入ゾーンと供給ゾーンがさらに溶接方向に沿って、溶接方向を中心として振動する軌道上を部品表面にわたって運動する場合である。
【0017】
不規則に分布するデンドライト配向は、主として溶接の軌跡の上側半分に存在している。したがって本発明の方法では、事前に付着された層がその層厚の半分よりも少ない厚さで再び溶融されるのが好ましい。これにより、前述のような溶加材の層状の付着によって、先に付着された層(先の付着層)と後に付着された層(後の付着層)との間に、溶接継目が生成される。このとき、再び溶融される領域の結晶構造が凝固のときに受け継がれる。小さい再溶融深さにより、デンドライト配向が不規則に分布している領域に凝固前線がかぶさることが保証される。このことは結果として多層溶接において、直径が平均的に非常に小さい複数の粒子をもつ多結晶が生起され、多結晶の溶接継目が生成されることにつながる。粒界は、一般に、溶接プロセス中またはこれに続く熱処理中に過渡的な応力が生じたとき、亀裂形成に関する弱点となる。本発明の方法で溶接された溶着金属では平面における粒界の長さが短く、その配向が不均等であることによって、溶着金属は亀裂形成に対していっそう影響を受けにくくなるので、溶接プロセスを室温で実施することができる。
【0018】
本発明による方法は、多結晶の基材だけでなく、方向性凝固する基材または単結晶の基材でも適用することができる。上述したいずれのケースでも、γ’含有ニッケル基超合金を溶加材として使用することができる。
【0019】
本発明による溶接方法では、溶加材の付着に続いて熱処理を行うことができる。そのようにして、溶着金属に適合化された熱処理により、希望するγ’の形態を調整することができる。このことは、溶着金属の強度のいっそうの改善に役立つ。
【0020】
本発明の方法を実施するのに適した、耐熱性の超合金を溶接する本発明の溶接装置は、部品表面で熱注入ゾーンを生成するための熱源と、熱源へ溶加材を供給するための供給装置と、一方の熱注入ゾーンおよび供給装置と他方の部品表面との間で相対運動を生成するための搬送装置とを備えている。搬送装置は、熱源と供給装置を運動させて相対運動を惹起するために、熱源および溶加材の供給装置と連結されているのが好ましい。このことは、通常、部品を動かすよりもコストが小さい。熱源としては、本発明による溶接装置では特にレーザを適用することができる。さらに本発明の溶接装置は、材料が凝固するときの冷却速度が少なくとも1秒あたり8000ケルビンであるように溶接パラメータを調整する制御プログラムを有する制御ユニットを備えている。特に制御ユニットは、溶接出力ならびに熱注入ゾーンの直径に関わる溶接パラメータを調整して、材料が凝固するときの冷却速度が少なくとも1秒あたり8000ケルビンであるようにする。このとき溶接は、少なくとも1分あたり250mmのプロセス速度で実施することができ、特に、1分あたり500mm以上のプロセス速度で実施することができる。
【0021】
相対運動は、特に、熱注入ゾーンと供給ゾーンが溶接方向に沿って、溶接方向を中心として振動する経路上を部品表面にわたって移動するように制御することができる。さらに制御ユニットは、連続する各層で溶接方向がたとえば90°だけ相互に回転するように、振動のない相対運動または振動のある相対運動を行わせることができる。
【0022】
本発明の溶接装置は、本方法の枠内で説明した溶接パラメータ、たとえば一方の熱源および供給装置と他方の部品との間の相対運動の軌道、プロセス速度、レーザ出力、ビーム直径などを溶接プロセスについて備えている制御プログラムを利用することで、本発明による溶接方法の実施を可能にする。本方法の枠内で説明した方法パラメータおよびメカニズムは、基礎材料や溶融物に凝固亀裂や再溶融亀裂のような亀裂が形成されるのを抑制するのに役立つ。このことは、特に、基礎材料と溶加材が両方ともγ’形成ニッケル基超合金である場合にも成り立つ。その結果として、たとえばタービン翼その他の部品の高い負荷を受ける領域での補修や接合の目的のために構造的な溶接について是認することができる、本発明の方法および本発明の溶接装置により生成可能な溶接の品質が得られる。
【0023】
本発明の上記以外の構成要件、特性、および利点は、添付の図面を参照しながら行う以下の実施例の説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一例としてのガスタービンを示す部分縦断面図である。
図2】タービン翼を示す斜視図である。
図3】ガスタービン燃焼室を示す部分破断斜視図である。
図4】本発明による溶接装置を示す模式図である。
図5】溶加材の第1の層についての溶接軌道である。
図6】溶加材の第2の層についての溶接軌道である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、一例としてガスタービン100を部分縦断面図として示している。
【0026】
ガスタービン100は、タービンロータとも呼ばれる、回転軸102を中心として回転支承された、シャフト101を備えるロータ103を内部に有している。
【0027】
ロータ103に沿って、吸込ハウジング104と、圧縮機105と、同軸に配置された複数のバーナ107を備えるたとえばトーラス形の燃焼室110、特に環状燃焼室と、タービン108と、排ガスハウジング109とが連続している。
【0028】
環状燃焼室110は、たとえば環状の高温ガス通路111と連通している。そこで、たとえば相前後して配置された4つのタービン段112がタービン108を形成する。
【0029】
各々のタービン段112は、たとえば2つの翼リングで形成されている。作動媒体113の流動方向で見て、静翼列115の高温ガス通路111の中には、動翼120で形成される翼列125が続いている。
【0030】
静翼130は、ここではステータ143の内部ハウジング138に取り付けられており、それに対して翼列125の動翼120は、たとえばタービンディスク133によってロータ103に取り付けられている。
【0031】
ロータ103には発電機または作業機械が連結されている(図示せず)。
【0032】
ガスタービン100の運転中、圧縮機105により吸込ハウジング104を通って空気135が吸い込まれ、圧縮される。圧縮機105のタービン側端部で提供される圧縮空気はバーナ107へと案内され、そこで燃料と混合される。そしてこの混合物が、作動媒体113を形成しながら、燃焼室110の中で燃焼される。そこから作動媒体113は高温ガス通路111に沿って静翼130および動翼120のそばを通過する。動翼120のところで作動媒体113は衝撃を伝達しながら膨張し、それによって動翼120がロータ103を駆動し、ロータがこれに連結された作業機械を駆動する。
【0033】
高温の作動媒体113に曝露されるコンポーネントは、ガスタービン100の運転中に熱負荷を受ける。作動媒体113の流動方向で見て第1のタービン段112の静翼130と動翼120は、環状燃焼室110を外装する熱遮断部材と並んでもっとも多く熱の負荷を受ける。
【0034】
そこで生じる温度に耐えるために、これらを冷却剤によって冷却することができる。
【0035】
同様に、これらのコンポーネントの基材は方向性の構造を有することができ、すなわち、これらは単結晶(SX構造)であるか、または縦配向の粒子だけを有している(DS構造)。
【0036】
コンポーネントの材料、特にタービン翼120,130及び燃焼室110のコンポーネントの材料として、たとえば鉄基の超合金、ニッケル基の超合金、またはコバルト基の超合金が用いられる。
このような超合金は、たとえば欧州特許第1204776B1号明細書、欧州特許第1306454号明細書、欧州特許出願公開第1319729A1号明細書、国際公開第99/67435号パンフレット、国際公開第00/44949号パンフレットから知られている。
【0037】
同様に、翼120,130を腐食に対してコーティングすることができる(MCrAlX;Mは鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の群のうちの少なくとも1つの元素であり、Xは活性元素であり、イットリウム(Y)および/またはケイ素、スカンジウム(Sc)および/または希土類のうちの少なくとも1つの元素ないしハフニウムを表す)。このような合金は、欧州特許第0486489B1号明細書、欧州特許第0786017B1号明細書、欧州特許第0412397B1号明細書、または欧州特許出願公開第1306454A1号明細書から知られている。
【0038】
MCrAlXの上に断熱層がさらに設けられていてよく、これはたとえばZrO2、Y23−ZrO2でできており、すなわち、この断熱層は酸化イットリウムおよび/または酸化カルシウムおよび/または酸化マグネシウムによって部分的または全面的に安定化されているのではない。
【0039】
たとえば電子ビーム蒸着(EB−PVD)のような適当なコーティング方法により、柱状の粒子が断熱層に生成される。
【0040】
静翼130は、タービン108の内部ハウジング138側の静翼脚部(ここには図示せず)と、静翼脚部と反対側の静翼頭部とを有している。静翼頭部はロータ103のほうを向いており、ステータ143の取付リング140に取り付けられている。
【0041】
図2は、長軸121に沿って延びる、流体機械の動翼120または静翼130を斜視図として示している。
【0042】
流体機械は、電力を生成するための航空機や発電所のガスタービン、蒸気タービン、またはコンプレッサであってよい。
【0043】
翼120,130は、長軸121に沿って相前後して、取付領域400と、これに接する翼プラットフォーム403と、翼板406と、翼先端部415とを有している。
【0044】
静翼130としての翼130は、翼先端部415にさらに別のプラットフォームを有することができる(図示せず)。
【0045】
取付領域400には、シャフトやディスクに動翼120,130を取り付ける役目をする翼脚部183が形成されている(図示せず)。
【0046】
翼脚部183はたとえばハンマーヘッドとして構成されている。クリスマスツリー形の脚部やダブテール形の脚部としてのこれ以外の構成も可能である。
【0047】
翼120,130は、翼板406のそばを流れていく媒体のために、流入エッジ409と流出エッジ412とを有している。
【0048】
従来型の翼120,130では、翼120,130のすべての領域400,403,406で、たとえば中実な金属材料、特に超合金が使用される。
このような超合金は、たとえば欧州特許第1204776B1号明細書、欧州特許第1306454号明細書、欧州特許出願公開第1319729A1号明細書、国際公開第99/67435号パンフレット、国際公開第00/44949号パンフレットから知られている。
【0049】
このとき翼120,130は、方向性凝固を利用する場合もある鋳造方法、鍛造方法、フライス削り方法、またはこれらの組み合わせによって製作することができる。
【0050】
単結晶の1つまたは複数の構造をもつ部品は、運転時に高い機械的、熱的、および/または化学的な負荷に曝露される機械のコンポーネントとして利用される。
【0051】
このような種類の単結晶部品の製作は、たとえば溶融物からの方向性凝固によって行われる。これは、液体の合金を単結晶構造になるように、つまり単結晶部品になるように、すなわち方向性をもって凝固させる鋳造方法である。
【0052】
このときデンドライト結晶が熱流に沿って結晶方向を整えられ、柱状結晶の粒子構造(柱状構造、すなわち部品の長さ全体にわたって延び、ここでは一般的な用語法に従って方向性凝固と呼ぶ粒子)を形成するか、または単結晶構造を形成し、すなわち部品全体が単一の結晶でてきている。この方法では、球状晶子の(多結晶の)凝固部との移行部を回避しなくてはならない。非方向性の成長により、横方向と長手方向の粒界が必然的に形成され、このような粒界が、方向性凝固したコンポーネントまたは単結晶のコンポーネントの優れた特性を失わせるからである。
【0053】
一般に方向性凝固した組織という言葉が使われるとき、それによって、粒界をもたないまたはせいぜいのところ小角粒界を有するにすぎない単結晶だけでなく、長手方向に延びる粒界を有するが横方向の粒界は有さない柱状結晶構造も意味される。この後者の結晶構造では、方向性凝固した組織(directionally solidified structures)という言い方も用いられる。
このような方法は、米国特許第6,024,792号明細書や欧州特許出願公開第0892090A1号明細書から知られている。
【0054】
同様に、翼120,130は腐食または酸化に対するコーティング、たとえばMCrAlX(Mは鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の群のうちの少なくとも1つの元素であり、Xは活性元素であり、イットリウム(Y)および/またはケイ素および/または希土類のうちの少なくとも1つの元素ないしハフニウム(Hf)を表す)を有することができる。このような合金は、欧州特許第0486489B1号明細書、欧州特許第0786017B1号明細書、欧州特許第0412397B1号明細書、または欧州特許出願公開第1306454A1号明細書から知られている。
【0055】
密度は理論密度の95%であるのが好ましい。
【0056】
(中間層またはもっとも外側の層としての)MCrAlX層の上に、防護をする酸化アルミニウム層(TGO=thermal grown oxide layer)が形成される。
【0057】
層の組成は、Co−30Ni−28Cr−8Al−0.6Y−0.7SiまたはCo−28Ni−24Cr−10Al−0.6Yを有しているのが好ましい。このようなコバルト基の保護コーティングのほか、特に、Ni−10Cr−12Al−0.6Y−3ReまたはNi−12Co−21Cr−11Al−0.4Y−2ReまたはNi−25Co−17Cr−10Al−0.4Y−1.5Reのようなニッケル基の保護層を適用することもできる。
【0058】
MCrAlXの上に断熱層がさらに設けられていてよく、この断熱層はもっとも外側の層であるのが好ましく、たとえばZrO2、Y23−ZrO2でできており、すなわち、この断熱層は酸化イットリウムおよび/または酸化カルシウムおよび/または酸化マグネシウムによって部分的または全面的に安定化されているのではない。
断熱層はMCrAlX層全体を覆う。
【0059】
たとえば電子ビーム蒸着(EB−PVD)のような適当なコーティング方法により、柱状の粒子が断熱層に生成される。
【0060】
これ以外のコーティング方法も考えられ、たとえば大気プラズマ溶射(APS)、LPPS、VPS、CVDなどが考えられる。断熱層は、より良い耐熱衝撃性のために、ミクロ割れまたはマクロ割れの入った多孔性粒子を有することができる。このように、断熱層はMCrAlX層よりも多孔性であるのが好ましい。
【0061】
再処理(Refurbishment)は、使用後にコンポーネント120,130から、場合により防護層を取り除かなくてはならないことを意味している(たとえばサンドブラストによって)。その後、腐食層ないし腐食生成物および/または酸化層ないし酸化生成物の除去が行われる。場合により、コンポーネント120,130にある亀裂もさらに補修される。その後、コンポーネント120,130の再コーティングが行われて、コンポーネント120,130があらためて使用される。
【0062】
翼120,130は中空または中実に施工されていてよい。翼120,130が冷却されるべき場合、翼は中空であり、場合により膜冷却孔418(破線で図示)をさらに有している。
【0063】
図3は、ガスタービンの燃焼室110を示している。燃焼室110は、一例として、回転軸102を中心として円周方向に配置された多数のバーナ107が、火炎156を生成する1つの共通の燃焼室空間154に開口する、いわゆる環状燃焼室として構成されている。そのために、燃焼室110はその総体として、回転軸102を中心として位置決めされた環状の構造として構成されている。
【0064】
比較的高い効率を実現するために、燃焼室110は、作動媒体Mのおよそ1000℃から1600℃の比較的高い温度に備えて設計されている。材料にとって不都合であるこのような運転パラメータのときでも、比較的長い耐用寿命を可能にするために、燃焼室壁153は作動媒体Mのほうを向く側に、遮熱部材155で形成された内張りを備えている。
【0065】
合金からなる各々の遮熱部材155は、作動媒体側で、特別に耐熱性の高い防護層(MCrAlX層および/またはセラミックコーティング)を装備しており、または、高温抵抗性材料(中実なセラミック石)で製作されている。
【0066】
これらの防護層はタービン翼のものと類似のものとすることができ、すなわち例えばMCrAlXとすることができる。ここでMは鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の群のうちの少なくとも1つの元素であり、Xは活性元素であり、イットリウム(Y)および/またはケイ素および/または希土類のうちの少なくとも1つの元素ないしハフニウム(Hf)を表す。このような合金は、欧州特許第0486489B1号明細書、欧州特許第0786017B1号明細書、欧州特許第0412397B1号明細書、または欧州特許出願公開第1306454A1号明細書から知られている。
【0067】
MCrAlXの上に、たとえばセラミックの断熱層がさらに設けられていてよく、これはたとえばZrO2、Y23−ZrO2でできており、すなわち、この断熱層は酸化イットリウムおよび/または酸化カルシウムおよび/または酸化マグネシウムによって部分的または全面的に安定化されているのではない。
【0068】
たとえば電子ビーム蒸着(EB−PVD)のような適当なコーティング方法により、柱状の粒子が断熱層に生成される。
【0069】
これ以外のコーティング方法も考えられ、たとえば大気プラズマ溶射(APS)、LPPS、VPS、CVDなどが考えられる。断熱層は、より良い耐熱衝撃性のために、ミクロ割れまたはマクロ割れの入った多孔性粒子を有することができる。
【0070】
再処理(Refurbishment)は、使用後に遮熱部材155から、場合により防護層を取り除かなくてはならないことを意味している(たとえばサンドブラストによって)。その後、腐食層ないし腐食生成物および/または酸化層ないし酸化生成物の除去が行われる。場合により、遮熱部材155にある亀裂もさらに補修される。その後、遮熱部材155の再コーティングが行われて、遮熱部材155があらためて使用される。
【0071】
さらに、燃焼室110の内部の高い温度に基づき、遮熱部材155ないしその保持部材のために冷却システムが設けられていてよい。その場合、遮熱部材155はたとえば中空であり、場合によりさらに、燃焼室空間154に連通する冷却穴(図示せず)を有している。
【0072】
図4は、本発明による溶接装置1を大幅に模式化した図面で示している。
【0073】
この装置は、レーザ3と、部品9の溶接されるべき領域へ粉末状の溶加材を投入することができる粉末供給装置5とを備えている。レーザ放射により、熱注入ゾーン11が部品表面に形成され、そこへ粉末13も粉末供給装置5により投入される。レーザは300Wレーザであるのが好ましく、特にNd−YAGレーザであり、さらには特に波長λ=1.06μmである。レーザ出力は100Wから300Wの間であり、好ましくは100Wから200Wの間であり、さらには特に100Wから150Wの間である。そのようにして溶接材料が良好に溶融するとともに下地も溶融するという利点があり、それによって稠密な溶接個所、即ち、溶接継目が得られる。
【0074】
レーザ3と粉末供給装置5は、溶接されるべき領域7をもつコンポーネント表面に沿って2つの次元(図4のx方向とy方向)でのレーザ3および粉末供給装置5の移動を可能にするスキャン装置(または搬送装置)15に配置されている。プロセス速度は少なくとも250mm/minであり、特に400mm/min〜600mm/min、さらには特に500mm/minである。そのようにして、溶接材料と基材への好ましい熱注入が可能である。さらに本実施例のスキャン装置15は、コンポーネント表面に対して垂直方向(図4のz方向)へのレーザ3と粉末供給装置5のスライドも可能にする。このように、スキャン装置15を用いて、熱注入ゾーンと粉末の付着ゾーンを所定の経路に沿って移動させることができる。スキャン装置としては、たとえばロボットアームを利用することができる。レーザビームの直径は特に500μmから700μmであり、さらには特に600μmである。それにより、供給される溶接材料を好ましく加熱することができる。
【0075】
スキャン装置15により仲介される運動の制御は、溶接プロセスのその他のパラメータも制御する制御ユニット17によって行われる。あるいは本実施例とは異なり、溶接プロセスのその他のパラメータの制御は追加の制御部によって、すなわち運動の進行制御とは別個に行うこともできる。さらに、図示した実施例とは異なり、レーザ3と粉末供給装置5を移動させるためのスキャン装置15に代えて、可動のコンポーネント保持部を利用することもできる。本発明の枠内において重要なのは、一方のレーザ3および粉末供給装置5と、他方の部品9との間の相対運動だけである。
【0076】
部品表面を肉盛溶接する本発明の方法は、コンポーネント9の溶接されるべき領域7への材料付着のために、特に材料を多層に付着するために適用することができる。このときコンポーネント9を予熱する必要はなく、また、熱処理によって過エージングさせる必要もない。
【0077】
以下においては、部品としてのタービン翼9の表面10での肉盛溶接を取り上げて、本方法について説明する。本実施例のタービン翼はγ’硬化されたニッケル基超合金でできており、たとえばIN738LC、IN939、Rene80、IN6203DS、PWA1483SX、Alloy247等でできている。タービン翼9の表面10で溶接されるべき領域7は層状に肉盛溶接され、熱注入ゾーンは粉末13の付着領域とともに溶接方向に沿って、タービン翼9の溶接されるべき領域7にわたって移動する。粉末13は、本例ではγ’含有ニッケル基超合金から成る粉末であり、たとえばIN738LC、IN939、Rene80、IN6203DS、PWA1483、Alloy247等でできている粉末である。
【0078】
溶接されるべき領域7に第1の層を肉盛溶接するときに熱注入ゾーン11と粉末13の付着領域が進む経路P1が、図5に模式的に示されている。この図面は、溶接されるべき領域7と、第1の層19を肉盛溶接するときの溶接方向S1とともに、タービン翼9を示している。ただし、同時に粉末13の付着領域でもある熱注入ゾーン11は、溶接方向S1に沿って直線的にスライドするのではなく、溶接方向に沿った移動中に、同時に、溶接方向に対して垂直方向へ振動する。それにより、熱注入ゾーン11と粉末13の付着領域は、溶接されるべき領域7にわたって蛇行した経路P1を描く。
【0079】
第2の層21(図4)の肉盛溶接のために、レーザ3と粉末供給装置5はスキャン装置15のz方向へわずかに移動する。さらに本実施例では、溶接方向S2は、第1の層の溶接方向S1に対して90°だけ回転する。第2の層21を肉盛溶接するときの熱注入ゾーン11および粉末13の付着領域の経路P2が、図6に示されている。第2の層21の肉盛溶接のときにも、熱注入ゾーン11は粉末13の付着領域とともに、溶接方向S2に対して垂直な方向へ振動する。したがって全体として、熱注入ゾーン11と粉末13の付着領域の蛇行した経路P2が、溶接されるべき領域7にわたって生じる。
【0080】
実施例の枠内で説明した各経路は、考えられるさまざまな態様のうちの1つにすぎない。原則として、溶接を実施するには複数の選択肢があり、第1は一方向の肉盛溶接、第2は二方向の(たとえば蛇行した)肉盛溶接である。これらの態様の各々において、第2の層の軌跡(経路)を第1の層の軌跡(経路)に対して平行にずらして溶接してもよいし、または直角に溶接してもよい。これらの態様はいずれも本発明による方法の枠内で適用することができる。
【0081】
レーザおよび粉末供給ユニットを移動させるとき、振動は、溶接方向に沿った単一の経路によって、溶接されるべき領域7の全体が通過されるように選択することができ、その様子は図5に示されており、または、溶接されるべき領域7の一部だけが通過され、領域全体を肉盛溶接するために、相並んで延びる複数の経路P2が溶接方向S2に進むように選択することもでき、その様子は図6に示されている。
【0082】
経路P1ないしP2に沿った熱注入ゾーン11および粉末13の付着領域の移動は、本実施例では、少なくとも500mm/minのプロセス速度で行われる。このときレーザ出力、ビーム直径、および粉末流は、通過される領域の冷却速度が凝固時に8000K/sよりも高くなるように選択される。さらに第2の層21に付着するとき、レーザ出力とビーム直径に関わるプロセスパラメータは、第1の層19が再び溶融する再溶融深さが、第1の層19の軌跡高さの50%よりも小さくなるように選択される。再溶融深さは図4に破線で図示されている。原則として、本例で述べたプロセス速度とは異なるプロセス速度も可能であり、その場合、他のパラメータであるレーザ出力、ビーム直径、および粉末流も相応に適合化しなければならない。
【0083】
高い冷却速度と高い凝固速度により、ミクロ偏析がほぼ回避される程度まで分布係数が高くなる。熱注入ゾーン11により引き起こされる溶融はデンドライト凝固し、このときこの結晶構造は、再度溶融した領域に存在する結晶構造によって引き継がれる。このときデンドライトの成長方向は、経路P1、P2に沿って変化する。その原因は、デンドライトの可能な成長方向の向きが温度勾配に対して変化し、成長方向は温度勾配に対する最小の傾きで、ないしは最小の成長速度で、全体に広がるからである。さらには、凝固前線の手前に形成され、凝固中に凝固前線によって追いつかれる核が、ランダムに分布するデンドライト成長方向を生じさせる。このように不規則に分布するデンドライト配向は、主として層19の上側半分に存在している。したがって小さい再溶融深さにより、デンドライト配向が不規則に分布している領域の上に凝固前線が載ることが保証され、このことは多層肉盛溶接において、直径が平均的に非常に小さい粒子をもつ多結晶が生成されることにつながる。それにより、タービン翼9の溶接領域が亀裂形成に対して影響を受けにくくなる。
【0084】
所要数の層19,21への付着が行われた後、タービン翼9に熱処理を施すことができ、この熱処理は、希望するγ’の形態が生じる結果につながる。このことは、タービン翼9の溶接領域の強度のいっそうの向上に役立つ。
【0085】
本発明の方法により、室温で、かつ溶接されるべきコンポーネントの事前の過エージングなしに肉盛溶接を行うことができ、凝固亀裂や再溶融亀裂の発生が抑止される。このことは結果として、特にガスタービン翼あるいはその他のコンポーネントの高い負荷を受ける領域の構造的な溶接について、是認できる溶接品質につながる。それと同時に、小さい熱作用ゾーン(予熱が行われない)および熱作用ゾーンでの再溶融亀裂の抑止に基づき、非常に低い熱注入しか基礎材料に行われないので、基材への非常に小さい影響しか生じない。
【符号の説明】
【0086】
3 熱源
5 供給装置
9 部品
10 部品表面
11 熱注入ゾーン
13 溶加材
15 搬送装置
17 制御ユニット
19 層
21 層
P1 経路
P2 経路
S1 溶接方向
S2 溶接方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6