特許第5797906号(P5797906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797906
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】帯電散布ヘッド及び帯電散布装置
(51)【国際特許分類】
   A62C 31/02 20060101AFI20151001BHJP
   A62C 35/68 20060101ALI20151001BHJP
   B05B 5/025 20060101ALN20151001BHJP
   B05B 5/08 20060101ALN20151001BHJP
   B05B 1/34 20060101ALN20151001BHJP
【FI】
   A62C31/02
   A62C35/68
   !B05B5/025 A
   !B05B5/08 B
   !B05B1/34
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-23596(P2011-23596)
(22)【出願日】2011年2月7日
(65)【公開番号】特開2012-130646(P2012-130646A)
(43)【公開日】2012年7月12日
【審査請求日】2014年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-269179(P2010-269179)
(32)【優先日】2010年12月2日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】辻 利秀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲雄
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−106405(JP,A)
【文献】 特開2003−250923(JP,A)
【文献】 実開昭49−135806(JP,U)
【文献】 特表昭63−501692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 31/00−37/50
B05B 1/00−5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
散布区画に設置され、散布剤供給設備により供給された散布剤の噴射粒子に、電圧印加部からの帯電電圧の印加により帯電させて散布する帯電散布ヘッドに於いて、
前記散布剤を対象空間に放出するノズルと、
前記ノズルの内部に配置されて散布剤に対し電気的に導通する散布剤側電極部と、
前記ノズルから放出された散布剤を、螺旋状に偏向して薄膜流を形成した後に分裂分離させて粒子群流に変換し散布する偏向散布部材と、
前記薄膜流の分裂分離部近傍に配置された誘導電極部と、
を備え、
前記偏向散布部材は、先端を頂点側として円錐螺旋状に変化する偏向面により、前記ノズルから放出された散布剤を先端に向かうにつれて偏向角が狭まる螺旋状の薄膜流に拡散偏向し、
前記誘導電極部は、前記薄膜流の螺旋状に連続分布する分裂分離部の所定領域内に連続して位置するように先端を頂点側として円錐螺旋状に形成され、前記円錐螺旋状が前記偏向散布部材の偏向面に対し略同じ位相関係となるように前記偏向散布部材の外側に配置されたことを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項2】
請求項記載の帯電散布ヘッドに於いて、前記誘導電極部は、前記薄膜流の螺旋状に連続分布する分裂分離部の上流方向に10mm以下、下流方向に30mm以下、前記螺旋状の薄膜流の表面から20mm以下となる領域内に配置したことを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項3】
請求項記載の帯電散布ヘッドに於いて、前記誘導電極部は、導電性を有する、金属、樹脂、繊維束、ゴムのいずれか又はこれらの複合体であることを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項4】
請求項記載の帯電散布ヘッドに於いて、前記誘導電極部の一部又は全部を絶縁性材料で被覆したことを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項5】
請求項記載の帯電散布ヘッドに於いて、前記散布剤側電極部は、散布剤供給流路の一部またはノズルであることを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項6】
請求項記載の帯電散布ヘッドに於いて、前記散布剤側電極部の電圧を所定の基準値とし、これに対し、誘導電極部に直流、交流又はパルス状となる所定の帯電電圧を印加することを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項7】
請求項記載の帯電散布ヘッドに於いて、前記散布区画は防護区画であり、前記散布剤供給設備を消火剤供給設備とし、前記散布剤を前記消火剤供給設備により供給された消火剤としたことを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項8】
水系の散布剤を、配管を介して供給する散布剤供給設備と、
散布区画に設置され、前記散布剤供給設備により供給された散布剤の噴射粒子に帯電させて散布する帯電散布ヘッドと、
前記帯電散布ヘッドに帯電電圧を印加する電圧印加部と、
を備えた帯電散布装置に於いて、
前記帯電散布ヘッドは、
前記散布剤を対象空間に放出するノズルと、
前記ノズルの内部に配置されて散布剤に対し電気的に導通する散布剤側電極部と、
前記ノズルから放出された散布剤を、螺旋状に偏向して薄膜流を形成した後に分裂分離させて粒子群流に変換し散布する偏向散布部材と、
前記薄膜流の分裂分離部近傍に配置された誘導電極部と、
を備え、
前記偏向散布部材は、先端を頂点側として円錐螺旋状に変化する偏向面により、前記ノズルから放出された散布剤を先端に向かうにつれて偏向角が狭まる螺旋状の薄膜流に拡散偏向し、
前記誘導電極部は、前記薄膜流の螺旋状に連続分布する分裂分離部の所定領域内に連続して位置するように先端を頂点側として円錐螺旋状に形成され、前記円錐螺旋状が前記偏向散布部材の偏向面に対し略同じ位相関係となるように前記偏向散布部材の外側に配置されたことを特徴とする帯電散布装置。
【請求項9】
請求項記載の帯電散布装置に於いて、前記散布区画は防護区画であり、前記散布剤供給設備を消火剤供給設備とし、前記散布剤を前記消火剤供給設備により供給された消火剤としたことを特徴とする帯電散布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、海水、消火薬剤などを含有した水系の消火剤をヘッドから帯電散布する帯電散布ヘッド及び帯電散布装置に関する。

【背景技術】
【0002】
従来、火災時において、帯電散布ヘッドから散布する消火剤粒子を帯電させることにより、消火剤粒子と被消火物や煙粒子との間に働くクーロン力を利用し、燃焼物への立体的で高効率の濡らし効果や煙補足効果等を高めて、高い消火と消煙性能を得ることができることが知られている(特許文献1)。
【0003】
図7は従来の帯電散布ヘッドを示している。図7において、帯電散布ヘッド100はポンプユニットからの配管に接続した立下り配管134の先端にヘッド本体136をねじ込み固定し、ヘッド本体136の先端内側には、絶縁部材141を介して、円筒状の水側電極部(消火剤側電極部)140が組み込まれている。
【0004】
水側電極部(消火剤側電極部)140に対しては、図示しない電圧印加部より引き出されたアースケーブル150が絶縁部材141を挿通して接続され、水側電極部140をアース側に接続している。
【0005】
水側電極部140の図示下側には噴射ノズル138が設けられ、水側電極部140側の内部に設けたノズル回転子138aと、先端側に設けたノズルヘッド138bで構成される。噴射ノズル138は、加圧供給された消火剤を立下り配管134から受け、ノズル回転子138aにより旋回流に変換した後にノズルヘッド138bから外部に噴射することにより消火剤を粒子群流に変換して散布する。
【0006】
噴射ノズル138に対しては、固定部材143を介して、絶縁性材料を用いたカバー142がネジ止めにより固定され、カバー142の下側の開口部に、リング状誘導電極部144を組み込んでストッパリングと共にネジ止め固定している。リング状誘導電極部144は、リング状本体の中央に噴射ノズル138からの消火剤噴射粒子を通過させる開口を形成している。リング状誘導電極部144に対しては、外部に設けた電圧印加部からの電極印加ケーブル148が接続されている。

【0007】
帯電散布ヘッド100から消火剤を散布する際には、水側電極部140を0ボルトとなるアース側とし、リング状誘導電極部144に対し例えば数KVから十数KV程度の直流、交流又はパルス状となる印加電圧(帯電電圧)を印加する。この電圧印加によって両電極間に外部電界が生じ、噴射ノズル138から消火剤が粒子群流に変換される噴射過程を通じて、消火剤がこの外部電位の作用を受けて帯電され、消火剤がこの外部電界の作用を受けて帯電され、帯電された粒子群流を外部対象領域子(防護区画)に散布することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−106405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような従来の帯電散布(噴霧)ヘッドによる消火剤の帯電散布によれば、例えば消火剤が水の場合に消火や消煙に要する水量を、非帯電の散布ヘッドによる必要散布水量と比較して大きく減少させることができる。しかし、火災の規模が大きい場合などには、帯電散布ヘッドによる必要水量は、非帯電の散布ヘッドによる場合に比べ相当少水量となるものの、火災による発生熱量を所定以上吸収することができる最低限の総比熱と蒸発潜熱が得られる水量の散布は必要であり、水量が不足すると所望の効果を得ることができない。このように、火災規模が大きい時には、当然に水量の多い帯電散布ヘッドが必要となる。
【0010】
しかし、図7に示した従来の帯電散布ヘッド100にあっては、ヘッド本体136のノズル回転子138aで水流に回転を与え遠心力を利用して噴射ノズル138から散布放射することで粒子群流に変換したフルコーン形の散布パターンを得ているが、このような従来の帯電散布にあっては、散布量の増加と共に単位水量当たりの帯電量が減少し、クーロン力による消火消煙効果を高める作用が小さくなってしまうという問題が、本願発明者の実験等によって確認されている。
【0011】
図8図7に示した従来の帯電散布ヘッド100に印加する帯電用電圧を定常的に+5KVとしたときの帯電散布水の単位散布量当たりの平均帯電量をファラディーケージ法で計測した比電荷で示しており、散布量が増すほど(ヘッドが大型になるほど)平均帯電量を示す比電荷は小さい結果となっている。
【0012】
また、従来の水流に回転を与えて噴射ノズル138から遠心力を利用して散布放射する帯電散布ヘッド100では、消火剤の噴射角度(拡がり角度)はせいぜい90°程度であり、且つ飛距離も比較的短いことから、帯電消火剤を広範囲に散布することができないという問題もある。また、例えば図7に示した従来のフルコーン型帯電散布ヘッドによる消火剤の散布にあっては、コーン中心部において、外周部に比べ散布量が少なくなる傾向があり、散布パターンが不均一になるといった問題点もあった。
【0013】
本発明は、散布量が増加しても十分な帯電量を確保してクーロン力を利用した高い消火消煙効果を奏すると共に均一的で広い散布範囲を確保可能な帯電散布ヘッド及び帯電散布装置を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0014】
(帯電散布ヘッド)
本発明は、
散布区画に設置され、散布剤供給設備により供給された散布剤の噴射粒子に、電圧印加部からの帯電電圧の印加により帯電させて散布する帯電散布ヘッドに於いて、
散布剤を対象空間に放出するノズルと、
ノズルの内部に配置されて散布剤に対し電気的に導通する散布剤側電極部と、
ノズルから放出された散布剤を、螺旋状に偏向して薄膜流を形成した後に分裂分離させて粒子群流に変換し散布する偏向散布部材と、
薄膜流の分裂分離部近傍に配置された誘導電極部と、
を備え、
偏向散布部材は、先端を頂点側として円錐螺旋状に変化する偏向面により、ノズルから放出された散布剤を先端に向かうにつれて偏向角が狭まる螺旋状の薄膜流に拡散偏向し、
誘導電極部は、薄膜流の螺旋状に連続分布する分裂分離部の所定領域内に連続して位置するように先端を頂点側として円錐螺旋状に形成され、円錐螺旋状が偏向散布部材の偏向面に対し略同じ位相関係となるように偏向散布部材の外側に配置されたことを特徴とする。
【0016】
誘導電極部は、薄膜流の螺旋状に連続分布する分裂分離部の上流方向に10mm以下、下流方向に30mm以下、螺旋状の薄膜流の表面から20mm以下となる領域内に配置する。

【0017】
誘導電極部は、導電性を有する、金属、樹脂、繊維束、ゴムのいずれか又は複合体である。

【0018】
誘導電極部の一部又は全部を絶縁性材料で被覆する。

【0019】
散布剤側電極部は、散布剤供給流路の一部またはノズルである。

【0020】
散布剤側電極部の電圧を所定の基準値とし、これに対し、誘導電極部に直流、交流又はパルス状となる所定の帯電電圧を印加する。

【0021】
本発明の帯電散布ヘッドにおいて、散布区画は防護区画であり、散布剤供給設備を消火剤供給設備とし、散布剤を消火剤供給設備により供給された消火剤とする。

【0022】
(帯電散布装置)
本発明は、
水系の散布剤を、配管を介して供給する散布剤供給設備と、
散布区画に設置され、散布剤供給設備により供給された散布剤の噴射粒子に帯電させて散布する帯電散布ヘッドと、
帯電散布ヘッドに帯電電圧を印加する電圧印加部と、
を備えた帯電散布装置に於いて、
帯電散布ヘッドは、
散布剤を対象空間に放出するノズルと、
ノズルの内部に配置されて散布剤に対し電気的に導通する散布剤側電極部と、
ノズルから放出された散布剤を、螺旋状に偏向して薄膜流を形成した後に分裂分離させて粒子群流に変換し散布する偏向散布部材と、
薄膜流の分裂分離部近傍に配置された誘導電極部と、
を備え、
偏向散布部材は、先端を頂点側として円錐螺旋状に変化する偏向面により、ノズルから放出された散布剤を先端に向かうにつれて偏向角が狭まる螺旋状の薄膜流に拡散偏向し、
誘導電極部は、薄膜流の螺旋状に連続分布する分裂分離部の所定領域内に連続して位置するように先端を頂点側として円錐螺旋状に形成され、円錐螺旋状が偏向散布部材の偏向面に対し略同じ位相関係となるように偏向散布部材の外側に配置されたことを特徴とする。
【0024】
本発明の帯電散布装置において、散布区画は防護区画であり、散布剤供給設備を消火剤供給設備とし、散布剤を消火剤供給設備により供給された消火剤とする。

【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、帯電散布ヘッドのノズルから噴出した消火剤を偏向散布部材となるデフレクターによって螺旋状に偏向して薄膜流を形成し、薄膜流の分裂分離部近傍に誘導電極を配置して外部電界を印加し帯電させることで、散布量が多いヘッドでありながら、帯電量の大きな帯電散布を行うことができる。
【0032】
また、ノズルから噴射した消火剤を螺旋状に広がる薄膜流に偏向する偏向散布部材の偏向形状の設定により、ノズルから放出された消火剤をノズル放出直後は広角に拡散偏向し、先端に向かうにつれて偏向角が狭まる螺旋状の薄膜流に拡散偏向することで、従来に比べ広角の帯電散布が容易に実現でき、散水量の増加と相俟って十分な飛距離が得られ、更に広範囲に帯電消火剤を散布してクーロン力を利用した高い消火消煙効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明による帯電散布ヘッドを備えた火災防災装置の実施形態を示した説明図
図2図1の防護エリアAを取り出して示した説明図
図3】本発明による帯電散布ヘッドの実施形態を示した断面図
図4図2の帯電散布ヘッドを天井設置状態に於ける下側(床側)から見た説明図
図5】本実施形態による散布量と比電荷の関係を従来ヘッドと対比して示したグラフ図
図6】本実施形態の帯電散布ヘッドに供給する印加電圧を示したタイムチャート図
図7】従来の帯電散布ヘッドを示した断面図
図8】従来の帯電散布ヘッドによる散布量と比電荷の関係を示したグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は本発明による帯電散布ヘッドを備えた火災防災装置(火災防災設備)の実施形態を示した説明図である。図1において、建物内の例えばコンピュータルームなどの防護エリアA及びBの天井側には、螺旋状の帯電散布を行う帯電散布ヘッド10が設置されており、これらの帯電散布ヘッド10から、それぞれの防護エリアに対し消火剤散布を行うようにしている。

【0035】
消火剤貯留・供給設備として機能する水源14に対し設置されたポンプユニット12から手動弁(仕切弁)13を介して配管16が接続され、配管16は分岐後に調圧弁30及び自動開閉弁32を介して、防護エリアA,Bのそれぞれに設置した帯電散布ヘッド10に接続している。水源14は水、海水、或いはその他水系の消火剤を貯留している。
【0036】
防護エリアA,Bのそれぞれには、帯電散布ヘッド10からの消火剤散布を制御する入力信号源となる専用火災検出器18が設置されている。また防護エリアA,Bのそれぞれに対しては連動制御中継装置20が設けられ、信号線に専用火災検出器18が接続されている。連動制御中継装置20には更に帯電散布ヘッド10からの散布制御を手動操作で行うための手動操作箱22が接続されている。
【0037】
連動制御中継装置20に対しては、このように専用火災検出器18及び手動操作箱22からの信号線が接続されると共に、帯電散布ヘッド10に帯電電圧(帯電駆動電圧)を印加制御するための信号線、及び自動開閉弁32を開閉制御するための信号線が引き出されている。
【0038】
更に防護エリアAには自動火災報知設備の火災感知器26が設置され、自動火災報知設備の受信機28から引き出された感知器回線に接続している。なお、防護エリアBについては自動火災報知設備の火災感知器26を設けていないが、必要に応じて設けてもよいことはもちろんである。
【0039】
防護エリアA,Bに対応して設置した連動制御中継装置20は、一方でシステム監視制御盤24に信号線接続されている。システム監視制御盤24には自動火災報知設備の受信機28も接続されている。更にシステム監視制御盤24はポンプユニット12を信号線接続し、ポンプユニット12のポンプ起動停止を制御するようになっている。
【0040】
図2図1の防護エリアAを取り出して示した説明図である。防護エリアAの天井側には帯電散布ヘッド10が設置されている。帯電散布ヘッド10が接続された天井側配管(図3立下り配管34)は、図1に示したポンプユニット12からの配管16に、調圧弁30及び自動開閉弁32を介して接続されている。

【0041】
また帯電散布ヘッド10の近傍上部には電圧印加部15が設置されており、後の説明で明らかにするように、帯電散布ヘッド10に所定の電圧を印加して、帯電散布ヘッド10から螺旋状に偏向して噴射放出される消火剤を帯電させて散布できるようにしている。また防護エリアAの天井側には専用火災検出器18が設置され、併せて自動火災報知設備の火災感知器26も接続されている。なお、電圧印加部15は帯電散布ヘッド10と一体に設けてもよい。
【0042】
図3図1及び図2に示した帯電散布ヘッド10の実施形態であり、その縦断面を示している。また図4には、帯電散布ヘッド10を天井設置状態で下側(床側)から見た説明図を示す。
【0043】
図3及び図4において、帯電散布ヘッド10は上下に分割した金属製のボディ36,38をボルト37で連結固定しており、ポンプユニット12からの配管16に接続した立下り配管34の先端にボディ36をねじ込み固定している。ボディ36,38の内部流路には円筒状の水側(消火剤側)電極部46が絶縁性のスペーサ44を介して組み込まれている。消火剤側電極部46は導電性を持つ金属材料で作られ、更に絶縁材料で被覆されており、金属製のボディ36,38に対し電気的に絶縁されている。
【0044】
消火剤側電極部46に対しては、図2に示したように、外部近傍に設置している電圧印加部15から引き出されたアースケーブル54が接続されている。このアースケーブル54の接続で、消火剤側電極部46を接地するようにしている。
【0045】
下部に配置したボディ38の内部流路先端には絶縁性のスペーサ44を介してノズル部40が形成される。ノズル部40はノズル穴(ノズル開口)41を形成すると共にノズル穴41からの消火剤の噴出側に偏向散布部材として機能するデフレクター42を一体に設けている。
【0046】
デフレクター42は、図示の如く先端側を頂点とする略円錐螺旋状(ヘリカル状)に形成され、この螺旋に沿って偏向面を形成しており、ノズル穴41から噴出された消火剤を偏向面に沿って偏向し、その結果螺旋状に拡散する薄膜流50に変換して放射(散布)する。ここで、デフレクター42は、その偏向作用による薄膜流50の放射面傾きが、ノズル穴側からデフレクター42の先端側に向かうにつれて増加するように形成されている(図示参照)。

【0047】
このためデフレクター42により拡散偏向された薄膜流50は、ノズル穴41の直後では広角に放射され、先端に向かうにつれて放射角が小さくなり、これによってデフレクター42から防護区画の広い範囲に向けて均一的に消火剤を散布することができる。
【0048】
デフレクター42により螺旋状に拡散偏向された薄膜流50は、分裂分離部P付近から分裂分離して粒子化し、粒子群流52となって放射され、模式的に示した散布パターン60のように広範囲を均一的にカバーするように散布される。
【0049】
ボディ38の下部には図4にも示すように電極支持部45が帯電散布ヘッド10の側方に向かって張り出すように設けられており、電極支持部45に固定支持した誘導電極部48を帯電散布ノズル10の散布空間側に位置させている。誘導電極部48は電極支持部45を起点に、先端側を頂点として略円錐螺旋状(円錐ヘリカル状)に電極を形成しており、この電極はデフレクター42から螺旋状に拡散偏向された薄膜流50が分裂分離して粒子群流52となる各分裂分離点Pの近傍となるように配置している。

【0050】
また螺旋状の誘導電極部48はデフレクター42に設けた螺旋状の偏向面に対し、略同じ位相関係となるように配置されている。更に誘導電極部48は導電性の部材で形成されると共に絶縁材料で被覆されており、更に金属製のボディ38及び散布される消火剤に対し電気的に絶縁されている。
【0051】
また誘導電極部48に対しては、図2に示した電圧印加部15から引き出された電圧印加ケーブル53が接続されている。

【0052】
なお図3では、螺旋状の誘導電極部48を例えば薄膜流50の螺旋状に連続分布する分裂分離部Pの上流方向に10mm以下、下流方向に30mm以下、また薄膜流50の表面から20mm以下となる領域内に配置している。
【0053】
また、誘導電極部48は必ずしも図示の如く螺旋状に形成する必要は無く、デフレクター42により偏向されて拡散放射される消火剤粒子を帯電させ得る形状のものであればよい。また、この目的を達成できる限り、誘導電極部48の寸法や配置についても任意に設定できる。
【0054】
ここで、本実施形態の帯電散布ヘッド10に使用している消火剤側電極部46及び誘導電極部48としては、導電性を有する金属以外に、導電性を有する樹脂、繊維束、ゴム等であってもよく、更にこれらを組合せた複合体であってもよい。
【0055】
帯電散布ヘッド10から消火剤を散布する場合には、図2に示した電圧印加部15が図1に示す連動制御中継装置20からの制御信号により動作し、消火剤側電極部46を基準電位(アース)側とし、誘導電極部48に対し例えば数KVから十数KV程度の直流状(定常)印加電圧、交流又はパルス状となる印加電圧を印加する。発明者の実験によれば、印加電圧は20KVを超えない範囲とするのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0056】
このように消火剤側電極部46と誘導電極部48との間に例えば数KVとなる電圧が加えられると、この電圧印加によって外部電界が生じ、この作用により、ノズル部40から放出した消火剤がデフレクター42の螺旋状の偏向面に沿って拡散偏向された薄膜流50となり、薄膜流50が分裂分離部P付近から分裂分離を始めて粒子群流52に変換される過程を通じて帯電され、散布パターン60として模式的に図示するように、帯電された噴射粒子をノズル部40の直下からは散布領域における帯電散布ヘッド10の側方側に向けて広角に、デフレクター42の先端側からは直下側に向けて狭域に散布することができ、全体として広い範囲に対して均一的に散布することができる。

【0057】
なお、ノズル部40から噴射した消火剤をデフレクター42で偏向する場合、剥離や飛散等により消火剤の一部が誘導電極部48に接触する場合があるが、誘導電極部48は絶縁材料で被覆されているため、消火剤が接触して短絡や電荷の中和が問題になることなく、消火剤に帯電させることができる。
【0058】
図5はある条件における散布量と比電荷の関係を、デフレクターを設けた本実施形態による帯電散布ヘッドとデフレクターを設けない従来の帯電散布ヘッドの場合とで対比した例を模式的に示したグラフ図である。
【0059】
図5において、特性Bは従来の帯電散布ヘッドの特性であり、定常的な帯電電圧を印加した場合である。単位時間当りの散布量の増加に対し、帯電量を示す比電荷が大きく減少しているが、これに対し本実施形態の帯電散布ヘッド10にあっては、例えば特性Aのように、散布量の増加に対して比電荷の減少が少ない。図5の例では、本実施形態のノズルの、散布量7[リットル/min]における比電荷(特性Aのa点)は、従来ノズルの散布量1.5[リットル/min]における比電荷(特性Bのb点)に相当するレベルとなっている。
【0060】
このように、本実施形態の帯電散布ヘッド10によれば、従来の帯電散布ヘッドにおける、散布量増加に伴い単位水量当りの帯電量が大きく減少してしまうという問題を解決し、高効率で帯電させることができるので、散布量の多い帯電散布ヘッドでありながら、高効率の帯電散布を行うことができる。
【0061】
また、ノズル部40から噴射した消火剤を螺旋状の偏向面をもつデフレクター42により広範囲にわたる偏向角をもつ薄膜流50を経て粒子群流52に変換して散布するので、従来の帯電散布ヘッドに比べ、均一で広角の帯電散布が容易に実現でき、帯電ロスを抑えつつ散水量を増加させることができるため十分な飛距離が得られ、広範囲に帯電消火剤を散布して高い消火消煙効果を得ることができる。
【0062】
次に図1の実施形態における火災防災設備の監視動作を説明する。いま、防護エリアAにおいて火災Fが発生したとすると、例えば専用火災検出器18が火災を検出して連動制御中継装置20を介しシステム監視制御盤24に火災検出信号を送る。
【0063】
システム監視制御盤24は防護エリアAに設置している専用火災検出器18からの火災検出信号を受信するとポンプユニット12を起動し、水源14から消火用水を汲み上げてポンプユニット12により加圧し、配管16に供給する。
【0064】
同時にシステム監視制御盤24は、防護エリアAに対応して設けている連動制御中継装置20に対し帯電散布ヘッド10の起動信号を出力する。この起動信号を受けて、連動制御中継装置20は自動開閉弁32を開放動作し、これによって、調圧弁30により調圧された一定圧力の水系消火剤が、開放した自動開閉弁32を介して帯電散布ヘッド10に供給され、図2に取り出して示すように、帯電散布ヘッド10から防護エリアAに、円錐螺旋状(ヘリカル状)に放出された噴射粒子(群)として散布されることになる。
【0065】
このとき連動制御中継装置20は、図2に示す帯電散布ヘッド10の近傍に設けている電圧印加部15に対し起動信号を送り、この起動信号を受けて電圧印加部15は、帯電散布ヘッド10に対し例えば基準電位(アース)に対し数KVとなる直流状、交流状又はパルス状となる印加電圧を供給する。
【0066】
このため図3及び図4に示した帯電散布ヘッド10にあっては、ノズル部40から加圧された水系の消火剤を噴射してデフレクター42により偏向した螺旋状の薄膜流50を粒子群流52に変換して散布する際に、デフレクター42の外側に配置している螺旋状の誘導電極部48側に例えば消火剤側電極部46の基準電位(アース)に対し数KVの電圧が所定パターンで印加され、この電圧印加により生じた外部電界を、分裂分離部P付近で消火剤粒子に印加することにより帯電させて散布することができる。
【0067】
図2に示す帯電散布ヘッド10から火災Fが発生している防護エリアAに向けて噴射された消火剤粒子はこのようにして帯電しているため、帯電によるクーロン力により火災Fの燃焼源に効率良く付着する。また回り込み効果により燃焼剤のあらゆる面に対して消火剤粒子の付着が起こり、従来のように非帯電の消火剤粒子を散布した場合に比べ、燃焼剤に対する濡らし効果が大幅に増大し、高い消火能力が発揮される。
【0068】
また、燃焼に伴い発生する煙(火災煙)に対しても同様にして消火剤が付着して落下するため、高い消煙効果が得られる。つまり、このような本実施形態における消煙効果は、従来のような非帯電消火剤粒子の散布による消煙効果が消火剤粒子と煙粒子との確率的な衝突による捕捉作用であることに対し、本実施形態にあっては、帯電散布している消火剤粒子のクーロン力により、反対極性の帯電状態にある煙粒子を捕集し、これによって高い消煙作用が発揮される。
【0069】
更に図3及び図4の帯電散布ヘッド10にあっては、例えば消火剤側電極部46を0ボルト(基準電位)とし、誘導電極部48に対しプラスの電圧を直流的或いはパルス的に印加したような場合には、散布される消火剤粒子はマイナス電荷に帯電することとなる。
【0070】
このようにマイナスの電荷のみに同極性帯電した消火剤粒子を散布した場合には、散布空間中で消火剤粒子間に相互に斥力が働き、これによって消火剤粒子が衝突会合して成長落下する確率が小さくなり、空間中に滞留する消火剤粒子の密度が高くなるため、高い消火能力、消煙能力が発揮される。即ち、消火剤粒子同士を同極性に帯電させることで、粒子間に働く斥力により対流粒子密度を低下させることなく散布することができ、高い消煙消火能力が発揮される。
【0071】
なお、帯電の極性は、散布対象によって適宜選択することができ、単純には、例えば散布対象の極性が概ねプラスである場合には、消火剤粒子をマイナスの極性に帯電させるといった制御を行う。
【0072】
図6は本実施形態の電圧印加部15から帯電散布ヘッド10に加える印加電圧を例示したタイムチャートであり、それぞれ時刻t1から以下のように電圧印加している。
【0073】
図6(A)は+Vの直流状(定常)電圧を印加する場合であり、この場合には、マイナスに帯電した消火剤粒子が連続的に散布される。
【0074】
図6(B)は−Vの直流状(定常)電圧を印加する場合であり、この場合には、プラスに帯電した消火剤粒子が連続的に散布される。
【0075】
図6(C)は±Vの間で変化する交流状電圧を印加する場合であり、この場合には、プラスの半サイクルの期間に電圧の変化に応じてマイナスに帯電した消火剤粒子が散布され、マイナスの半サイクルの期間に電圧の変化に応じてプラスに帯電した消火剤粒子が散布される。
【0076】
図6(D)は+Vのパルス状電圧を所定のインターバルを空けて繰り返し印加する場合であり、この場合には、マイナスに帯電した消火剤粒子が間欠的に散布され、電圧を印加していない期間には、帯電していない消火剤粒子の散布となる。
【0077】
図6(E)は−Vのパルス状電圧を所定のインターバルを空けて繰り返し印加する場合であり、この場合には、プラスに帯電した消火剤粒子が間欠的に散布され、電圧を印加していない期間には、帯電していない消火剤粒子の散布となる。
【0078】
図6(F)は±Vのパルス状電圧を所定のインターバルを空けて交互に繰り返し印加する場合であり、この場合には、マイナスに帯電した消火剤粒子とプラスに帯電した消火剤粒子がインターバルを空けて交互に散布され、電圧を印加していない期間には、帯電していない消火剤粒子の散布となる。このようなインターバルを設けずに±Vのパルス状電圧を交互に繰り返し印加しても良い。
【0079】
図6(C)〜(F)に例示した印加電圧パターンにおける印加周期や転極周期は適宜に定めることができ、また図6(A)〜(F)の各パターンのうち複数を組み合わせたパターンとすること等もできる。
【0080】
図6に例示した各パターンの印加電圧を帯電散布ヘッド10に供給する電圧印加部15としては、制御入力付きの市販の昇圧ユニットを利用することができる。市販の昇圧ユニットには、例えば入力にDC0〜20ボルトを加えると出力にDC〜20キロボルトを出力するものがあり、このような昇圧ユニットが利用できる。
【0081】
また本発明は火災防災装置の散布方法を提供するものであり、その実施形態としては例えば、図1図4に示したように、火災時に水系の消火剤を、配管16を介して防護エリアA,Bに設置された帯電散布ヘッド10に加圧供給し、帯電散布ヘッド10から噴射した消火剤を、螺旋状(ヘリカル状)に偏向して薄膜流50を形成した後に粒子群流52に分裂分離拡散させて、薄膜流50の分裂分離部P近傍に外部電界を印加して帯電させ、散布することになる。
【0082】
なお、帯電散布ヘッドへの印加電圧パターンを、消火剤側電極部に対し誘導電極部側をプラスマイナス交互の印加電圧とするか、プラスのみの印加電圧とするか、あるいはマイナスのみの印加電圧とするかは、散布対象とする燃焼部材側の状況等に応じて適宜に定めることができる。もちろん、印加や転極の周期等も適宜定めることができる。
【0083】
また、本発明の帯電散布ヘッドおよび帯電散布方法は、消火や延焼防止(防火)のみ、或いは消煙のみを目的とした各種の利用も可能である。
【0084】
また、本発明の帯電散布ヘッドにより帯電散布される消火剤は水或いは各種の水系消火剤等の散布剤が適用できる。
【0085】
また本発明は、室内設置用途向けなどとしてユニット化された火災防災装置についても同様に適用できる。
【0086】
また、本発明の帯電散布ヘッドおよび消火剤散布方法は、消火や延焼防止、或いは消煙のうち1つまたは複数を目的とした各種の利用が可能である。もちろん、これ以外の他の目的に使用するものであってもよい。
【0087】
また本発明は、上記に限定されず、適宜の散布対象区画に水系の散布剤を帯電散布する静電散布装置(設備)、帯電散布ヘッド及び帯電散布装置の散布方法を含む。この場合には上記の実施形態における消火剤、消火剤側電極部を、散布剤、散布剤側電極部と読み替えれば良い。
【0088】
また本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0089】
10:帯電散布ヘッド
12:ポンプユニット
13:手動弁
14:水源
15:電圧印加部
16:配管
18:専用火災検出器
20:連動制御中継装置
22:手動操作箱
24:システム監視制御盤
26:火災感知器
28:受信機
30:調圧弁
32:自動開閉弁
34:立下り配管
36,38:ボディ
40:ノズル部
41:ノズル穴
42:デフレクター
45:電極支持部
46:消火剤側電極部
48:誘導電極部
50:薄膜流
52:粒子群流
60:散布パターン
P:分裂分離部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8