(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に記載の技術では、チップ本体に接合されるフィルムの上に金属薄膜や導電性インク層などを形成することで、電極層を形成している。この後、電極層を形成されたフィルムとチップ本体とを接合することで、マイクロ流路チップが作製される。
【0008】
図1Aは、電極層を有するマイクロ流路チップの従来の製造方法を説明するための断面図である。
図1Aに示されるように、微細溝10が形成されたチップ本体20と、電極層30が形成されたフィルム40とを熱圧着により接合することで、マイクロ流路チップが作製される。
【0009】
しかしながら、このような製造方法では、
図1Bに示されるように、電極層30の厚みにより電極層30の周囲に隙間50が生じてしまうおそれがある。このように電極層30の周囲に隙間50が生じてしまうと、リザーバ内または流路内の液体が外部に漏出してしまい、安全性の面から問題がある。
【0010】
隙間の発生を防止する手段として、チップ本体とフィルムとを高温で熱圧着することが考えられる。ところが、高温で熱圧着した場合、
図1Cに示されるように、流路の底面を構成するフィルム40が変形してしまうおそれがある。このようにフィルム40が変形してしまうと、流路の断面積が変わってしまい、高精度の分析を行うことができなくなってしまう。
【0011】
また、チップ本体とフィルムとを熱圧着する方法では、チップ本体20の材料(例えば樹脂)と電極層30の材料(例えばカーボンインク)とが異なるため、チップ本体20と電極層30との密着性が低いという問題もある。
【0012】
一方、チップ本体とフィルムとを接合する別の手段として、接着剤を用いて接着することも考えられる。ところが、
図1Dに示されるように、接着剤を用いて接着した場合も、接着剤60がはみ出ることにより、流路の断面積が変わってしまうおそれがある。
【0013】
以上のように、従来の技術では、伝達機能層(例えば電極層)が形成されている流体取扱装置(例えばマイクロ流路チップ)であって、流路やリザーバなどのサイズおよび形状が高精度に制御されており、かつ伝達機能層の周囲に隙間がない流体取扱装置を製造することが困難であった。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、電気または熱を伝達する伝達機能層が形成されている流体取扱装置であって、流路やリザーバなどのサイズおよび形状が高精度に制御されており、かつ伝達機能層の周囲に隙間がない流体取扱装置を提供することを目的とする。また、本発明は、この流体取扱装置を有する流体取扱システムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の流体取扱装置は、貫通孔または凹部が形成された基板と;前記基板の一方の面に接合された、孔を有する中間フィルムと;前記中間フィルム上に配置された下層フィルムと;前記下層フィルムの前記中間フィルム側の面の一部を被覆するように形成された、電気または熱を伝達する伝達機能層と;前記中間フィルムと前記下層フィルムまたは前記伝達機能層との間に配置された、前記中間フィルムと前記下層フィルムまたは前記伝達機能層とを接着する接着層とを有し;前記基板の前記伝達機能層の一端に対応する部分には、第1の領域を形成する貫通孔または凹部が形成されており;前記第1の領域を形成する貫通孔または凹部の前記下層フィルム側の開口部は、前記中間フィルムの前記孔に連通するとともに、前記下層フィルムにより閉塞されており;前記基板の前記伝達機能層の他端に対応する部分には、外部に連通する第2の領域が形成されており;前記伝達機能層は、前記第1の領域と前記第2の領域との間を電気的または熱的に接続しており;前記伝達機能層は、前記接着層と隙間なく接触した状態で、前記接着層と前記下層フィルムとの間に配置されている、構成を採る。
【0016】
本発明の流体取扱システムは、上記流体取扱装置を備える構成を採る。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、流路やリザーバなどから液体が外部に漏出してしまうことがなく、かつ流路やリザーバなどのサイズおよび形状が高精度に制御されている流体取扱装置を提供することができる。本発明の流体取扱装置を用いることで、より高精度かつ安全に試料の分析や処理などを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1Aは従来のマイクロ流路チップの製造方法を説明するための断面図である。
図1B〜
図1Cは従来のマイクロ流路チップの製造方法の問題点を説明するための断面図である。
【
図2】
図2Aは実施の形態1のマイクロチップの平面図である。
図2Bは実施の形態1のマイクロチップの底面図である。
【
図3】
図3Aは
図2Aに示されるマイクロチップのA−A線の断面図である。
図3Bは
図2Aに示されるマイクロチップのB−B線の断面図である。
図3Cは
図2Aに示されるマイクロチップのC−C線の断面図である。
【
図4】実施の形態1のマイクロチップの使用態様を説明するための断面図である。
【
図5】実施の形態1のマイクロチップの製造工程を説明するための断面図である。
【
図6】
図6Aは実施の形態1のマイクロチップのチップ本体の平面図である。
図6Bは実施の形態1のマイクロチップの中間フィルムの平面図である。
図6Cは実施の形態1のマイクロチップの下層フィルムの平面図である。
【
図7】実施の形態1のマイクロチップの別の例の断面図である。
【
図8】
図8Aは実施の形態2のマイクロ流路チップの平面図である。
図8Bは実施の形態2のマイクロ流路チップの底面図である。
【
図9】
図9Aは
図8Aに示されるマイクロ流路チップのD−D線の断面図である。
図9Bは
図8Aに示されるマイクロ流路チップのE−E線の断面図である。
図9Cは
図8Aに示されるマイクロ流路チップのF−F線の断面図である。
【
図10】実施の形態2のマイクロ流路チップの使用態様を説明するための断面図である。
【
図11】
図11Aは実施の形態2のマイクロ流路チップのチップ本体の平面図である。
図11Bは実施の形態2のマイクロ流路チップの中間フィルムの平面図である。
図11Cは実施の形態2のマイクロ流路チップの下層フィルムの平面図である。
【
図12】実施の形態2のマイクロ流路チップの別の例の断面図である。
【
図13】
図13Aは実施の形態3のマイクロ流路チップの平面図である。
図13Bは実施の形態3のマイクロ流路チップの底面図である。
【
図14】
図13Aに示されるマイクロ流路チップのG−G線の断面図である。
【
図15】実施の形態3のマイクロ流路チップの使用態様を説明するための断面図である。
【
図16】
図16Aは実施の形態3のマイクロ流路チップのチップ本体の平面図である。
図16Bは実施の形態3のマイクロ流路チップの中間フィルムの平面図である。
図16Cは実施の形態3のマイクロ流路チップの下層フィルムの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明では、本発明の流体取扱装置の代表例として「マイクロ(流路)チップ」について説明する。
【0020】
なお、本明細書において、「フィルム」とは、薄い平板状の部材を意味する。たとえば、「樹脂フィルム」には、樹脂薄膜(フィルム)だけでなく、樹脂薄板も含まれる。
【0021】
(実施の形態1)
実施の形態1では、試薬や液体試料などの液体を加熱処理することができるマイクロチップについて説明する。
【0022】
[マイクロチップの構成]
図2および
図3は、実施の形態1のマイクロチップの構成を示す図である。
図2Aは平面図であり、
図2Bは底面図である。また、
図3Aは、
図2Aおよび
図2Bに示されるA−A線の断面図であり、
図3Bは、B−B線の断面図であり、
図3Cは、C−C線の断面図である。
【0023】
図2Aおよび
図3Aに示されるように、マイクロチップ100は、有底の凹部を2つ有する板状のデバイスである。後述するように、一方の凹部は、試薬や液体試料などの液体を提供される第1の領域110として機能する。他方の凹部は、電熱ヒータが挿入される第2の領域120として機能する(
図4参照)。
【0024】
図2Aおよび
図3Aに示されるように、マイクロチップ100は、チップ本体(基板)130、中間フィルム140、接着層150、熱伝導層(伝達機能層)160および下層フィルム170を有する。
【0025】
チップ本体130は、透明な略矩形の樹脂基板であり、2つの貫通孔を有する(
図6A参照)。2つの貫通孔は、下層フィルム170により中間フィルム140側の開口部が閉塞されることで、それぞれ有底の凹部(第1の領域110および第2の領域120)となる(
図3A参照)。貫通孔の形状は、特に限定されないが、例えば略円柱状である。チップ本体130の厚さは、特に限定されないが、例えば1mm〜10mmである。また、貫通孔の直径は、特に限定されないが、例えば2mm程度である。
【0026】
チップ本体(基板)130を構成する樹脂の種類は、特に限定されず、公知の樹脂から用途に応じて適宜選択することができる。チップ本体130を構成する樹脂の例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、塩化ビニール、ポリプロピレン、ポリエーテル、ポリエチレンなどが含まれる。
【0027】
中間フィルム140は、チップ本体130の一方の面に接合された、透明な略矩形の樹脂フィルムである。たとえば、中間フィルム140は、熱圧着によりチップ本体130に接合されている。中間フィルム140は、チップ本体130の2つの貫通孔に対応する位置に2つの貫通孔を有する(
図6B参照)。すなわち、チップ本体130の貫通孔は、中間フィルム140の貫通孔と連通している。中間フィルム140の厚さは、特に限定されないが、例えば100μm程度である。また、貫通孔の直径は、特に限定されないが、例えば1.8mm程度である。
【0028】
中間フィルム140を構成する樹脂の種類は、特に限定されず、公知の樹脂から用途に応じて適宜選択することができる。中間フィルム140を構成する樹脂の例は、チップ本体130を構成する樹脂の例と同じである。チップ本体130と中間フィルム140との密着性を向上させる観点からは、中間フィルム140を構成する樹脂は、チップ本体130を構成する樹脂と同一であることが好ましい。
【0029】
接着層150は、中間フィルム140と下層フィルム170または熱伝導層160との間に配置された層である。接着層150は、中間フィルム140と下層フィルム170、および中間フィルム140と熱伝導層160とを接着している。
【0030】
図3Cに示されるように、接着層150の厚みは、熱伝導層160と接触しない領域(下層フィルム170と直接接触する領域)と、熱伝導層160と接触する領域とで異なっていてもよい。たとえば、熱伝導層160と接触しない領域における接着層150の厚みは、熱伝導層160の厚みとその上の接着層150の厚みとの和とほぼ同じ厚さであってもよい。その結果、中間フィルム140と下層フィルム170との間隔は、熱伝導層160の有無に関わらずほぼ一定となる。熱伝導層160と接触しない領域の接着層150の厚みは、熱伝導層160の厚みより大きければ特に限定されないが、例えば20μm程度である。
【0031】
後述するように、接着層150は、接着剤を硬化させることで形成される。接着層150を形成する際に使用される接着剤の種類は、耐熱性を有し、かつ硬化後の剥離強度が強いものであれば特に限定されない。
【0032】
熱伝導層(伝達機能層)160は、接着層150と下層フィルム170との間に配置された、熱伝導性を有する層である。たとえば、熱伝導層160は、金属薄膜などである。熱伝導層160は、一方の端部が第1の領域110で露出し、かつ他方の端部が第2の領域120で露出している(
図2Aおよび
図3A参照)。熱伝導層160は、第1の領域110と第2の領域120とを熱的に接続する。熱伝導層160の厚さは、特に限定されないが、例えば10μm程度である。
【0033】
図3Cに示されるように、熱伝導層160は、接着層150と隙間なく接触した状態で、接着層150と下層フィルム170との間に配置されている。たとえば、熱伝導層160は、接着層150内に埋没した状態で、接着層150と下層フィルム170との間に配置されている。熱伝導層160の周囲は接着層150で充填されており、熱伝導層160の周囲には隙間が存在しない(
図1Bと
図3Cとを比較参照)。
【0034】
下層フィルム170は、中間フィルム140上に接着層150を介して接着された、透明な略矩形の樹脂フィルムである。前述の通り、下層フィルム170は、チップ本体130の貫通孔の一方の開口部を閉塞している。下層フィルム170の厚さは、特に限定されないが、例えば100μm程度である。
【0035】
下層フィルム170を構成する樹脂の種類は、特に限定されず、公知の樹脂から用途に応じて適宜選択することができる。下層フィルム170を構成する樹脂の例は、チップ本体130を構成する樹脂の例と同じである。下層フィルム170を構成する樹脂の種類は、チップ本体130または中間フィルム140を構成する樹脂の種類と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
[マイクロチップの使用方法]
図4は、実施の形態1のマイクロチップ100の使用態様を説明するための断面図である。
図4に示されるように、マイクロチップ100の第1の領域110に試薬や液体試料などの液体180が提供される。また、マイクロチップ100の第2の領域120内に電熱ヒータ190が挿入される。電熱ヒータ190は、熱伝導層160と接触している。この状態で電熱ヒータ190を加熱すると、熱伝導層160を介して熱が第2の領域120から第1の領域110に伝わり、液体180が加熱される。このとき、熱伝導層160の周囲には隙間が無いため(
図3C参照)、第1の領域110内の液体180は、第2の領域120側に漏出しない。
【0037】
[マイクロチップの製造方法]
次に、
図5および
図6を参照して、実施の形態1のマイクロチップ100の製造方法について説明する。
【0038】
まず、
図5Aに示されるように、チップ本体130、接着剤層150’(硬化前の接着剤からなる層)が形成された中間フィルム140、および熱伝導層160が形成された下層フィルム170を準備する。たとえば、接着剤層150’が形成された中間フィルム140は、中間フィルム140の一方の面に接着剤を塗布することで得られる。また、熱伝導層160が形成された下層フィルム170は、下層フィルム170の一方の面に所定のパターンで金属薄膜を形成することで得られる。
図6Aは、チップ本体130の平面図であり、
図6Bは、中間フィルム140の平面図(接着剤層150’が形成されていない面)であり、
図6Cは、下層フィルム170の平面図(熱伝導層160が形成されている面)である。
【0039】
次に、
図5Bに示されるように、中間フィルム140と、熱伝導層160が形成された下層フィルム170とを接着剤層150’を介して接着する。これにより、中間フィルム140、接着層150、熱伝導層160および下層フィルム170からなる積層体を得ることができる。硬化前の接着剤は形状を自由に変えることができるため、下層フィルム170上に形成された熱伝導層160は、接着層150と隙間なく接触する(
図3C参照)。
【0040】
最後に、
図5Cに示されるように、チップ本体130と、中間フィルム140および下層フィルム170を含む積層体とを熱圧着により接合して、マイクロチップ100を形成する。熱伝導層160の周囲に隙間はないため、過剰に高温で熱圧着をする必要はない。したがって、中間フィルム140および下層フィルム170が変形してしまうことはない。
【0041】
チップ本体130と積層体(中間フィルム140、接着層150、熱伝導層160および下層フィルム170)とを接合する前に、チップ本体130の接着面および下層フィルム170の接着面に予めアライメントマーク(図示せず)を形成することが好ましい。チップ本体130の接着面および下層フィルム170の接着面にアライメントマークを形成することで、チップ本体130と積層体との位置合せを容易にすることができる。チップ本体130については、チップ本体130を成形するときにアライメントマークを容易に形成することができる。また、下層フィルム170については、下層フィルム170の上に熱伝導層160を形成するのと同時に、アライメントマークを容易に形成することができる。
【0042】
[効果]
実施の形態1のマイクロチップ100では、中間フィルム140と下層フィルム170または熱伝導層160との間が接着層により隙間なく強固に接着されている。また、チップ本体130と中間フィルム140との間に、金属などの異なる材料からなる部材が存在しないため、チップ本体130と中間フィルム140との間も隙間なく強固に接合される。したがって、実施の形態1のマイクロチップ100では、第1の領域110に提供された液体が第2の領域120や外部などに漏出することはない。
【0043】
なお、これまでの説明では、熱伝導層160の第2の領域120側の端部をチップ本体130の貫通孔内に配置する例について説明したが、熱伝導層160の第2の領域120側の端部はチップ本体130の貫通孔内に配置されていなくてもよい。すなわち、
図7に示されるように、伝達機能層160の第2の領域120側の端部が外部に直接露出していてもよい。
【0044】
(実施の形態2)
実施の形態2では、電気泳動を行うことができるマイクロ流路チップについて説明する。
【0045】
[マイクロ流路チップの構成]
図8および
図9は、実施の形態2のマイクロ流路チップの構成を示す図である。
図8Aは平面図であり、
図8Bは底面図である。また、
図9Aは、
図8Aおよび
図8Bに示されるD−D線の断面図であり、
図9Bは、E−E線の断面図であり、
図9Cは、F−F線の断面図である。
【0046】
図8Aに示されるように、マイクロ流路チップ200は、有底の凹部を4つ有する板状のデバイスである。後述するように、2つの凹部は、流路210cにより互いに接続されており、それぞれ流路210c内への液体の提供および除去に使用される第1の領域210a,210bとして機能する。また、残る2つの凹部は、それぞれ電極棒が挿入される第2の領域220a,220bとして機能する(
図10参照)。
【0047】
実施の形態2のマイクロ流路チップ200は、有底の凹部を4つ有する点、凹部間を接続する流路を有する点、および伝達機能層として電気伝導層を有する点において実施の形態1のマイクロチップ100と異なる。そこで、これらの点を中心にマイクロ流路チップ200について説明する。各構成要素の材料や厚さなどは、実施の形態1のマイクロチップ100と同じである。
【0048】
図8Aおよび
図9Aに示されるように、マイクロ流路チップ200は、チップ本体(基板)230、中間フィルム240、接着層250、電気伝導層(伝達機能層)260a,260b、および下層フィルム270を有する。
【0049】
チップ本体230は、透明な略矩形の樹脂基板であり、4つの貫通孔を有する(
図11A参照)。4つの貫通孔は、下層フィルム270により中間フィルム240側の開口部が閉塞されることで、有底の凹部(第1の領域210a,210bおよび第2の領域220a,220b)となる。
【0050】
また、チップ本体230の中間フィルム240側の面には、第1の領域210aを形成する貫通孔と第1の領域210bを形成する貫通孔とを接続する微細溝が形成されている(
図11A参照)。この微細溝は、中間フィルム240により開口部が閉塞されることで、第1の領域210aおよび第1の領域210bを接続する流路210cとなる(
図9B参照)。微細溝の断面形状は、特に限定されないが、例えば一辺の長さ(幅および深さ)が数十μm程度の略矩形である。
【0051】
中間フィルム240は、チップ本体230の微細溝が形成された面に接合された、透明な略矩形の樹脂フィルムである。中間フィルム240には、チップ本体230の貫通孔に対応する位置に4つの貫通孔を有する(
図11B参照)。すなわち、チップ本体230の貫通孔は、中間フィルム240の貫通孔と連通している。一方、チップ本体230の微細溝に対応する位置には、貫通孔は有していない。したがって、中間フィルム240は、流路210cの底面として機能する(
図9B参照)。
【0052】
接着層250は、中間フィルム240と下層フィルム270または電気伝導層260a,260bとの間に配置された層である。接着層250は、中間フィルム240と下層フィルム270、および中間フィルム240と電気伝導層260a,260bとを接着している。
【0053】
電気伝導層(伝達機能層)260a,260bは、接着層250と下層フィルム270との間に配置された、導電性を有する層である。たとえば、電気伝導層260a,260bは、導電性インク層(例えばカーボンインク層)や金属薄膜などである。電気伝導層260aは、一方の端部が第1の領域210aで露出し、かつ他方の端部が第2の領域220aで露出している。同様に、電気伝導層260bは、一方の端部が第1の領域210bで露出し、かつ他方の端部が第2の領域220bで露出している(
図8A参照)。電気伝導層260aは、第1の領域210aと第2の領域220aとを電気的に接続する。同様に、電気伝導層260bは、第1の領域210bと第2の領域220bとを電気的に接続する。電気伝導層260a,260bは、接着層250と隙間なく接触した状態で、接着層250と下層フィルム270との間に配置されている(
図9C参照)。たとえば、電気伝導層260a,260bは、接着層250内に埋没した状態で、接着層250と下層フィルム270との間に配置されている。
【0054】
下層フィルム270は、中間フィルム240上に接着層250を介して接着された、透明な略矩形の樹脂フィルムである。前述の通り、下層フィルム270は、チップ本体230の貫通孔の一方の開口部を閉塞している。
【0055】
[マイクロ流路チップの使用方法]
図10は、実施の形態2のマイクロ流路チップ200の使用態様を説明するための断面図である。
図10に示されるように、第1の領域210a,210bから流路210c内に電解液や液体試料などの液体280が提供される。また、第2の領域220a,220b内に電極棒290a,290bがそれぞれ挿入される。電極棒290a,290bは、それぞれ、電気伝導層260a,260bと接触している。この状態で電極棒290a,290b間に電圧を印加すると、流路210c内において電気泳動が行われる。このとき、流路210cの所定の位置において蛍光強度を測定することで、電気泳動の結果をリアルタイムに得ることができる。
【0056】
[マイクロ流路チップの製造方法]
実施の形態2のマイクロ流路チップ200は、実施の形態1のマイクロチップ100と同様の手順で製造することができる。
【0057】
図11は、マイクロ流路チップ200を製造する際に用いられる各構成要素の平面図である。
図11Aは、チップ本体230の平面図であり、
図11Bは、中間フィルム240の平面図(接着剤層250’が形成されていない面)であり、
図11Cは、下層フィルム270の平面図(電気伝導層260a,260bが形成されている面)である。
【0058】
中間フィルム240と下層フィルム270とを接着剤層250’を介して接着した後、得られた積層体とチップ本体230とを熱圧着により接合することで、マイクロ流路チップ200を製造することができる。このとき、チップ本体230と接着剤層250’との間に中間フィルム240が存在するため、流路210cのサイズおよび形状が接着剤層250’の影響により変化することはない。
【0059】
[効果]
実施の形態2のマイクロ流路チップ200では、実施の形態1のマイクロチップ100と同様に、第1の領域210a,210bおよび流路210cに提供された液体が第2の領域220a,220bや外部などに漏出しない。また、製造工程において流路210cのサイズおよび形状が変化しないので、流路210cのサイズおよび形状を高精度に制御することができる。
【0060】
なお、これまでの説明では、2つの第1の領域210a,210bがいずれも開口部を有する例について説明したが、2つの第1の領域210a,210bのうちの一方は開口部を有していなくてもよい。すなわち、
図12に示されるように、第1の領域210aが開口部を有していれば、第1の領域210bは開口部を有していなくてもよい。この場合、チップ本体230の第1の領域210aに対応する領域には、貫通孔が形成される。一方、チップ本体230の第1の領域210bに対応する領域には、中間フィルム240側の面に開口部を有する凹部が形成される。流路210c内への液体の導入を容易にするために、第1の領域210bに連通する空気孔を形成してもよい。
【0061】
また、
図7に示される実施の形態1のマイクロチップ100と同様に、電気伝導層260a,260bの第2の領域220a,220b側の端部は外部に直接露出していてもよい。
【0062】
(実施の形態3)
実施の形態3では、電気泳動を行うことができるマイクロ流路チップであって、蛍光強度をより正確に測定するための検出窓を有するマイクロ流路チップについて説明する。
【0064】
実施の形態3のマイクロ流路チップ300は、下層フィルムに貫通孔(検出窓)を有する点において実施の形態2のマイクロ流路チップ200と異なる。そこで、実施の形態2のマイクロ流路チップ200と同じ構成要素については同一の符番を付し、説明を省略する。
【0065】
図13Aおよび
図14に示されるように、マイクロ流路チップ300は、チップ本体(基板)230、中間フィルム240、接着層250、電気伝導層(伝達機能層)260a,260b、および下層フィルム370を有する。
【0066】
下層フィルム370は、中間フィルム240上に接着層230を介して接着された、透明な略矩形の樹脂フィルムである。下層フィルム370は、チップ本体230の貫通孔の一方の開口部を閉塞している。下層フィルム370は、チップ本体230の微細溝に対応する位置に貫通孔372を有する(
図13Bおよび
図16C参照)。
【0067】
[マイクロ流路チップの使用方法]
図15は、実施の形態3のマイクロ流路チップ300の使用態様を説明するための断面図である。
図15に示されるように、第1の領域210a,210bから流路210c内に電解液や試料を含む液体280が提供される。また、第2の領域220a,220b内に電極棒290a,290bがそれぞれ挿入される。この状態で電極棒290a,290bに電圧を印加すると、流路210c内において電気泳動が行われる(図中の矢印参照)。同時に、マイクロ流路チップ300の下層フィルム370側から、流路210cの所定の検出位置に励起光380を照射して、当該位置における蛍光強度をリアルタイムに測定する。このように、流路210c内を泳動されている物質の蛍光強度をリアルタイムに測定することで、電気泳動の結果をリアルタイムに得ることができる。
【0068】
中間フィルム240、接着層250および下層フィルム370は、いずれも樹脂を含むため、蛍光強度を測定する際のノイズとなる自家蛍光を発生することがある。実施の形態3のマイクロ流路チップ300では、下層フィルム370に貫通孔372が設けられているため、励起光380および蛍光(図示せず)は、中間フィルム240のみを通過し、接着層250および下層フィルム370を通過しない。したがって、実施の形態3のマイクロ流路チップ300を用いることで、自家蛍光の影響を抑制して、より高精度に蛍光強度を測定することができる。
【0069】
[マイクロ流路チップの製造方法]
実施の形態3のマイクロ流路チップ300は、実施の形態2のマイクロ流路チップ200と同様の手順で製造することができる。
【0070】
図16は、マイクロ流路チップ300を製造する際に用いられる各構成要素の平面図である。
図16Aは、チップ本体230の平面図であり、
図16Bは、中間フィルム240の平面図(接着剤層250’が形成されていない面)であり、
図16Cは、下層フィルム370の平面図(電気伝導層260a,260bが形成されている面)である。
【0071】
実施の形態2のマイクロ流路チップ200と同様に、中間フィルム240と下層フィルム370とを接着剤層250’を介して接着した後、得られた積層体とチップ本体230とを熱圧着により接合することで、マイクロ流路チップ300を製造することができる。