(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、プラズマを安定的に発生させることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために、以下の形態または適用例を取ることが可能である。
【0007】
[適用例1]
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
自身の先端部が前記絶縁体から露出するように前記軸孔の先端に設けられた中心電極と、
前記絶縁体の周囲を取り囲む筒状の主体金具と、
前記中心電極と電気的に接続され、インダクタンス成分を有するインダクタンス部材と、を有し、
交流電力の供給を受けて前記中心電極の先端部でプラズマを発生させるスパークプラグであって、
前記インダクタンス部材よりも先端側の部分の静電容量は、10pF以下であることを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、スパークプラグに印加される電圧を大きくすることができるので、プラズマを安定的に発生させることができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載のスパークプラグであって、
前記インダクタンス部材は、前記軸孔の内部のうち前記中心電極より後端側に配置されることを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、インダクタンス部材の位置を、スパークプラグ内で安定させることができる。
【0009】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のスパークプラグであって、
前記スパークプラグの先端からインダクタンス部材の後端までの部分の静電容量は、35pF以下であることを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、スパークプラグに印加される電圧を大きくすることができるので、プラズマを安定的に発生させることができる。
【0010】
[適用例4]
適用例1から適用例3のいずれか一項に記載のスパークプラグであって、
前記主体金具は、前記スパークプラグを内燃機関のエンジンヘッドに取り付けるための取付ネジ部を有しており、
前記インダクタンス部材の少なくとも一部は、前記軸孔の内部のうち、径方向外側に前記取付ネジ部が存在している箇所に位置していることを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、インダクタンス部材の熱は、取付ネジ部を介してエンジンヘッドに伝達しやすくなるので、インダクタンス部材の温度の上昇を抑制することができる。この結果、インダクタンス部材の酸化による寿命の低下を抑制することができる。また、温度の上昇に伴うインダクタンスの変化を抑制することができるので、共振周波数がずれることによってプラズマの発生が不安定となってしまうことを抑制することができる。
【0011】
[適用例5]
適用例1から適用例4のいずれか一項に記載のスパークプラグであって、
前記インダクタンス部材の先端は、前記主体金具の先端よりも先端側にあることを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、インダクタンス部材よりも先端側の部分の静電容量をさらに小さくすることができるので、スパークプラグに印加される電圧をさらに大きくすることができ、プラズマをさらに安定的に発生させることができる。
【0012】
[適用例6]
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
自身の先端部が前記絶縁体から露出するように前記軸孔の先端に設けられた中心電極と、
前記絶縁体の外表面に形成された金属皮膜層と、
インダクタンス成分を有し、前記軸孔の内部のうち前記中心電極より後端側に配置されたインダクタンス部材と、を有し、
交流電力の供給を受けて前記中心電極の先端部でプラズマを発生させるスパークプラグであって、
前記インダクタンス部材よりも先端側の部分の静電容量は、10pF以下であることを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、スパークプラグの静電容量を小さくすることができるので、スパークプラグに印加される電圧を大きくすることができ、プラズマを安定的に発生させることができる。
【0013】
[適用例7]
適用例6に記載のスパークプラグであって、
前記金属皮膜層は、少なくとも、前記絶縁体の外表面のうち前記インダクタンス部材の先端よりも先端側に形成されていることを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、絶縁体とエンジンヘッドとの間における放電を抑制することができる。
【0014】
[適用例8]
適用例1から適用例7のいずれか一項に記載のスパークプラグであって、
前記インダクタンス部材は、コイルであることを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、スパークプラグの構成を複雑化することなく、スパークプラグに対してインダクタンス成分を付与することができる。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、スパークプラグの製造方法および製造装置等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を実施形態に基づいて以下の順序で説明する。
A〜E.第1実施形態〜第5実施形態:
F.実験例:
F1.静電容量とプラズマの発生電力との関係についての実験例1:
F2.静電容量とプラズマの発生電力との関係についての実験例2:
F3.コイル70の位置と放熱との関係についての実験例:
G.変形例:
【0018】
A.第1実施形態:
図1は、本発明の一実施形態としてのスパークプラグ100の断面構成を示す説明図である。以下では、
図1においてスパークプラグ100の軸線方向ODを図面における上下方向とし、下側(発火部側)をスパークプラグの先端側、上側(端子側)を後端側として説明する。
【0019】
スパークプラグ100は、軸線方向ODに沿って延びる軸孔12を有する筒状の絶縁碍子10と、この絶縁碍子10の周囲を取り囲む筒状の主体金具50と、絶縁碍子10の後端側に取り付けられた端子金具40と、絶縁碍子10の軸孔12の先端に設けられた中心電極20と、絶縁碍子10の軸孔12に収納されたコイル70とを備える。このスパークプラグ100は、高周波電源150からの交流電力の供給を受け、中心電極20の先端部でプラズマを発生させる。
【0020】
高周波電源150の周波数は共振周波数に設定されており、高周波電源150からの電力は、後述する同軸ケーブル300により、スパークプラグ100に供給される。同軸ケーブル300は、端子金具40及び主体金具50に接続されている。この端子金具40に一端が接続されたコイル70は、絶縁碍子10の軸孔12の内部のうち、中心電極20よりも後端側に配置されている。コイル70の他端は、中心電極20に接続されており、中心電極20に高電圧を印加する回路において、インダクタンス成分を有するインダクタンス部材として機能する。
【0021】
絶縁碍子10は、アルミナ等を焼成することにより形成されており、端子金具40から中心電極20に至る電気回路を他から絶縁している。絶縁碍子10の軸線方向ODの略中央には、外径が最も大きな鍔部19が形成されており、鍔部19より後端側には後端側胴部18が形成されている。鍔部19より先端側には、後端側胴部18よりも外径の小さな先端側胴部17が形成されている。先端側胴部17よりもさらに先端側には、先端側胴部17よりも外径の小さな脚長部13が形成されている。この脚長部13は、スパークプラグ100が内燃機関のエンジンヘッド200に取り付けられた際には、内燃機関の燃焼室内に曝される。脚長部13と先端側胴部17との間には段部15が形成されている。なお、本実施形態では、絶縁碍子10と主体金具50との間における放電を抑制するために、絶縁碍子10の外表面には金属皮膜層110(図中の太線部分)が形成されている。金属皮膜層110は、例えば、ニッケルめっきや金めっき、銅めっき等の金属コーティングを施すことによって形成することができる。
【0022】
中心電極20は、軸孔12内に配置された棒状の電極であり、絶縁碍子10の先端側においてその一部が露出している。中心電極20は、クロム、シリコン、マンガン等を含有したニッケルを主成分とした合金や、インコネル600またはインコネル601等(「インコネル」は商標名)のニッケルまたはニッケルを主成分とする合金から形成されている。中心電極20は、ガラスシール体4及びコイル70を介して、絶縁碍子10の後端側に設けられた端子金具40に電気的に接続されている。なお、ガラスシール体4は省略することとしてもよい。
【0023】
主体金具50は、低炭素鋼材より形成された筒状の金具であり、絶縁碍子10の後端側胴部18の一部から脚長部13の一部にかけての部位を取り囲んでいる。主体金具50には、工具係合部51と、取付ネジ部52とが形成されている。工具係合部51は、スパークプラグレンチ(図示せず)が嵌合する部位であり、軸線方向ODから見た場合に、六角形の形状を有している。取付ネジ部52は、スパークプラグ100をエンジンヘッド200に取り付けるためにネジ山が形成された部位であり、内燃機関の上部に設けられたエンジンヘッド200の取付ネジ孔201に螺合する。このように、主体金具50の取付ネジ部52をエンジンヘッド200の取付ネジ孔201に螺合させて締め付けることより、スパークプラグ100は、内燃機関のエンジンヘッド200に固定される。
【0024】
主体金具50の工具係合部51と取付ネジ部52との間には、径方向外側に膨出するフランジ状の鍔部54が形成されている。取付ネジ部52と鍔部54との間のネジ首59には、板体を折り曲げることによって形成された環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、スパークプラグ100をエンジンヘッド200に取り付けた際に、鍔部54の座面55と取付ネジ孔201の開口周縁部205との間で押し潰されて変形する。このガスケット5の変形により、スパークプラグ100とエンジンヘッド200間が封止され、取付ネジ孔201を介した燃焼ガスの漏出が抑制される。
【0025】
主体金具50の工具係合部51より後端側には、薄肉の加締め部53が形成されている。この加締め部53を内側に折り曲げるようにして加締めることによって、主体金具50と絶縁碍子10とが固定される。この加締め工程は、冷間でも熱間でも行なうことができる。
【0026】
鍔部54と工具係合部51との間には、薄肉の座屈部58が形成されている。主体金具50の工具係合部51から加締め部53にかけての内周面と、絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間には、円環状のリング部材6,7が挿入されている。さらに、両リング部材6,7の間には、主体金具50と絶縁碍子10との間の気密を保持するための充填材として、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。座屈部58は、加締め部53を加締める際に、圧縮力の付加に伴って外向きに撓み変形するように構成されており、タルク9の圧縮長さを確保して主体金具50と絶縁碍子10との間の気密性を高めている。
【0027】
スパークプラグ100の使用時には、上述したように、端子金具40及び主体金具50に同軸ケーブル300が接続され、この同軸ケーブル300に高周波電源150が接続される。同軸ケーブル300は、内部導体302と、内部導体の外周に配置された筒状の外部導体304とを有しており、内部導体302は端子金具40に接続され、外部導体304は主体金具50に接続される。同軸ケーブル300を介して高周波の交流電力が端子金具40と主体金具50との間に供給されると、中心電極20の先端部でプラズマが発生する。なお、内部導体302と外部導体304との間には、例えば、フッ素系の樹脂が充填されている。
【0028】
本実施形態では、絶縁碍子10の形状、具体的には肉厚(径方向における厚さ)を調整することによって、コイル70よりも先端側の部分の静電容量は、10pF以下となっている。このため、本実施形態では、スパークプラグ100に印加される電圧を大きくすることができるので、プラズマを安定的に発生させることができる。この理由について以下説明する。
【0029】
スパークプラグ100の中心電極に印加される電圧V(すなわち、コイル70に印加される電圧)は、以下の式(1)で示される。
【0031】
ここで、f
0は高周波電源150の周波数[Hz]、V
0は高周波電源150の電圧[V]、Cはスパークプラグ100が有する静電容量[F]、Lはスパークプラグ100が有するインダクタンス[H]、Rはスパークプラグ100が有する抵抗値[Ω]である。
【0032】
上記式(1)で示されるように、高周波電源150の電圧V
0を一定としたままでスパークプラグ100に印加される電圧Vを大きくするためには、スパークプラグ100が有するインダクタンスLを大きくすることが考えられる。しかし、インダクタンスLを大きくするためにコイル70の巻き数を増やすと、スパークプラグ100が有する抵抗値Rも大きくなってしまい、結果として、スパークプラグ100に印加される電圧Vを大きくすることは困難となる。
【0033】
そこで、本実施形態では、スパークプラグ100が有する静電容量Cを小さくすれば、高周波電源150の電圧V
0を一定としたままでも、スパークプラグ100に印加される電圧Vを大きくすることができることに着目した。具体的には、本実施形態では、コイル70よりも先端側の部分の静電容量を10pF以下とすることによって、スパークプラグ100に印加される電圧Vを大きくし、プラズマを安定的に発生させている。
【0034】
さらに、本実施形態では、スパークプラグ100の先端20z(すなわち、中心電極20の先端)からコイル70の後端72までの部分の静電容量にも着目し、この静電容量を35pF以下とすることによっても、スパークプラグ100に印加される電圧Vを大きくしている。
【0035】
このように、本実施形態では、絶縁碍子10の形状を調整することによって、スパークプラグ100が有する静電容量Cを小さくしているので、プラズマを安定的に発生させることが可能である。
【0036】
また、本実施形態では、インダクタンス部材としてのコイル70を、絶縁碍子10の軸孔12の内部のうち中心電極20より後端側に配置しているので、コイル70の位置をスパークプラグ100内で安定させることができる。
【0037】
また、本実施形態では、インダクタンス部材としてコイル70を採用しているので、スパークプラグ100の構成を複雑化することなく、スパークプラグ100に対してインダクタンス成分を付与することができる。
【0038】
B.第2実施形態:
図2は、第2実施形態におけるスパークプラグ100bの断面構成を示す説明図である。
図1に示した第1実施形態との違いは、コイル70の少なくとも一部が、軸孔12の内部のうち、径方向外側に取付ネジ部52が存在している箇所に位置している点と、コイル70とガラスシール体4との間に補助電極3が設けられている点であり、他の構成は第1実施形態と同じである。補助電極3は、例えば、中心電極20と同様の材料で形成することができる。なお、本実施形態においても、コイル70よりも先端側の部分の静電容量は、10pF以下となっている。
【0039】
本実施形態では、コイル70が第1実施形態に比べて軸孔12の先端側に位置することにより、コイル70の少なくとも一部が、軸孔12の内部のうち、径方向外側に取付ネジ部52が存在している箇所に位置している。このため、コイル70の熱は、取付ネジ部52を介してエンジンヘッド200に伝達しやすくなっているので、コイル70の温度の上昇を抑制することができる。この結果、コイル70の酸化による寿命の低下を抑制することができる。また、温度の上昇に伴うコイル70のインダクタンスの変化を抑制することができるので、共振周波数がずれることによってプラズマの発生が不安定となってしまうことを抑制することができる。なお、本実施形態においても、補助電極3を省略し、コイル70とガラスシール体4とを直接、接続することとしてもよい。
【0040】
C.第3実施形態:
図3は、第3実施形態におけるスパークプラグ100cの断面構成を示す説明図である。
図2に示した第2実施形態との違いは、コイル70の先端71が主体金具50の先端50zよりも先端側にあるという点であり、他の構成は第2実施形態と同じである。なお、本実施形態においても、コイル70よりも先端側の部分の静電容量は、10pF以下となっている。
【0041】
本実施形態では、コイル70の先端71が主体金具50の先端50zよりも先端側にあるので、コイル70よりも先端側の部分の静電容量をさらに小さくすることができ、プラズマをさらに安定して発生させることができる。
【0042】
D.第4実施形態:
図4は、第4実施形態におけるスパークプラグ100dの断面構成を示す説明図である。
図1に示した第1実施形態との違いは、絶縁碍子10の周囲に主体金具50が存在しておらず、スパークプラグ100dが接続部材400によってエンジンヘッド200に固定されている点であり、他の構成は第1実施形態と同じである。なお、本実施形態においても、コイル70よりも先端側の部分の静電容量は、10pF以下となっている。また、本実施形態においても、絶縁碍子10の外表面には、金属皮膜層110が形成されている。
【0043】
接続部材400は、内周にネジ山402が形成された筒状の導電性部材であり、軸線方向ODから見た場合に、六角形の形状を有している。この接続部材400の側面にスパークプラグレンチ(図示せず)を嵌合させて、接続部材400を回転させると、接続部材400のネジ山402が、エンジンヘッド200に形成された固定部220の外側のネジ溝222と螺合し、スパークプラグ100がエンジンヘッド200に固定される。
【0044】
接続部材400の絶縁碍子10の鍔部19と接続部材400との間には、環状の板パッキン430が配置されており、また、エンジンヘッド200の取付ネジ孔201の先端と絶縁碍子10の段部15との間には、環状の板パッキン440が配置されている。この2つの板パッキン430、440によって、気密が確保されている。
【0045】
本実施形態では、主体金具50が存在していないため、スパークプラグ100の静電容量は、上記の実施形態に比べてさらに小さくなる。また、絶縁碍子10の外表面に形成された金属皮膜層110は、板パッキン430、440等を介してエンジンヘッド200と電気的に接続されるため、絶縁碍子10は、エンジンヘッド200と同電位となる。したがって、絶縁碍子10とエンジンヘッド200との間において放電が発生してしまうことを抑制することができる。
【0046】
さらに、本実施形態では、金属皮膜層110は、少なくとも、絶縁碍子10の外表面のうちコイル70の先端71よりも先端側に形成されている。したがって、絶縁体とエンジンヘッドとの間における放電を抑制することができる。
【0047】
このように、本実施形態では、主体金具50を有しない構成としているため、スパークプラグの静電容量をさらに小さくすることができ、プラズマをさらに安定して発生させることができる。
【0048】
E.第5実施形態:
図5は、第5実施形態におけるスパークプラグ100eの断面構成を示す説明図である。
図4に示した第4実施形態との違いは、スパークプラグ100dのエンジンヘッド200への取り付け手段が異なっている点であり、他の構成は第4実施形態と同じである。なお、本実施形態においても、コイル70よりも先端側の部分の静電容量は、10pF以下となっている。
【0049】
具体的には、本実施形態では、絶縁碍子10の外周に、取付ネジ部10eが形成されている。この取付ネジ部10eがエンジンヘッド200の取付ネジ孔201に螺合することによって、スパークプラグ100eは、エンジンヘッド200に固定される。また、絶縁碍子10の鍔部19とエンジンヘッド200の開口周縁部205との間には、板パッキン450が配置されており、気密が確保されている。
【0050】
このように、本実施形態においても、主体金具50を有しない構成としているため、スパークプラグの静電容量をさらに小さくすることができ、プラズマをさらに安定して発生させることができる。
【0051】
F.実験例:
F1.静電容量とプラズマの発生電力との関係についての実験例1:
本実験例では、スパークプラグ100のうち、コイル70よりも先端側の部分の静電容量と、プラズマの発生のしやすさとの関係を調べた。具体的には、コイル70よりも先端側の部分の静電容量の異なるスパークプラグのサンプルを複数用意し、それぞれのサンプルに対して供給する交流電力を大きくしていき、プラズマが発生したときの最小の電力を測定した。
【0052】
なお、本実験例は大気圧下で行なわれた。また、各サンプルに供給される電力は、50Ωの負荷に対して供給された場合として換算された値を測定した。また、各サンプル内に配置されたコイル70のインダクタンスは20μHである。また、各サンプルのコイル70よりも先端側の部分の静電容量は、絶縁碍子10の形状、具体的には肉厚(径方向における厚さ)を変更することによって、変更した。また、インダクタンス部材(コイル70)の先端において、軸線と直行する断面でスパークプラグを切断することによって、インダクタンス部材よりも先端側の部分とそれよりも後端側の部分とに分離し、LCRメータを用いて、インダクタンス部材よりも先端側の部分の静電容量を測定した。
【0053】
図6は、コイル70よりも先端側の部分の静電容量についての実験結果を示すグラフである。この
図6によれば、コイル70よりも先端側の部分の静電容量が小さいほど、プラズマが発生する最小電力が小さくなることが理解できる。具体的には、コイル70よりも先端側の部分の静電容量が10pF以下であれば、プラズマが発生する最小電力が150W以下となり、コイル70よりも先端側の部分の静電容量が8pF以下であれば、プラズマが発生する最小電力が100W以下となり、コイル70よりも先端側の部分の静電容量が6pF以下であれば、プラズマが発生する最小電力が50W以下となることが理解できる。したがって、コイル70よりも先端側の部分の静電容量は、10pF以下であることが好ましく、8pF以下であることがさらに好ましく、6pF以下であることが最も好ましい。
【0054】
F2.静電容量とプラズマの発生電力との関係についての実験例2:
本実験例では、スパークプラグ100の先端20zからコイル70の後端72までの部分の静電容量と、プラズマの発生のしやすさとの関係を調べた。具体的な実験方法は、上記実験例1と同じである。ただし、コイル70よりも先端側の部分の静電容量を8pFに固定した上で、スパークプラグ100の先端からコイル70の後端までの部分の静電容量を変更した。
【0055】
図7は、スパークプラグ100の先端からコイル70の後端までの部分の静電容量についての実験結果を示すグラフである。この
図7によれば、スパークプラグ100の先端20zからコイル70の後端72までの部分の静電容量が小さいほど、プラズマが発生する最小電力が小さくなることが理解できる。具体的には、スパークプラグ100の先端20zからコイル70の後端72までの部分の静電容量が35pFであれば、プラズマが発生する最小電力が80W程度となり、スパークプラグ100の先端20zからコイル70の後端72までの部分の静電容量が30pFであれば、プラズマが発生する最小電力が60W程度となり、スパークプラグ100の先端20zからコイル70の後端72までの部分の静電容量が26pF以下であれば、プラズマが発生する最小電力が40W程度となることが理解できる。したがって、スパークプラグ100の先端20zからコイル70の後端72までの部分の静電容量は、35pF以下であることが好ましく、30pF以下であることがさらに好ましく、26pF以下であることが最も好ましい。
【0056】
F3.コイル70の位置と放熱との関係についての実験例:
本実験例では、コイル70が配置される位置と、コイル70の放熱との関係を調べた。具体的には、コイル70の位置の異なる2つのサンプル1、2を用意した。そして、各サンプルを水冷チャンバーに取り付けてプラズマを発生させた後、5分後における主体金具50の工具係合部51の温度を測定した。なお、各サンプルに対して供給された高周波電力は、500W、繰返し周波数は、60Hzである。
【0057】
図8は、サンプル1、2の断面構成を示す説明図である。
図8(A)に示されたサンプル1のスパークプラグでは、コイル70は、軸孔12の後端側に配置されている。換言すれば、コイル70は、軸孔12の内部のうち、径方向外側に取付ネジ部52が存在している箇所には位置していない。一方、
図8(B)に示されたサンプル2のスパークプラグでは、コイル70の少なくとも一部は、軸孔12の内部のうち、径方向外側に取付ネジ部52が存在している箇所に位置している。
【0058】
図9は、コイル70の位置についての実験結果を示すグラフである。この
図9によれば、サンプル2の方が、サンプル1に比べて、温度が低下しやすいことが理解できる。この理由は、サンプル2のスパークプラグでは、コイル70の熱が、取付ネジ部52を介して水冷チャンバーに伝達しやすいためであると考えられる。コイル70の温度上昇を抑制することができれば、コイル70の酸化による寿命の低下を抑制することができる。また、温度の上昇に伴うインダクタンスの変化を抑制することができるので、共振周波数がずれることによってプラズマの発生が不安定となってしまうことを抑制することができる。したがって、コイル70の少なくとも一部は、軸孔12の内部のうち、径方向外側に取付ネジ部52が存在している箇所に位置していることが好ましい。
【0059】
G.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0060】
G1.変形例1:
上記実施形態では、インダクタンス部材としてコイル70が用いられていたが、コイル70の代わりに、インダクタンス成分を有する他の形状の部材を用いることも可能である。例えば、インダクタンス成分を有する階段状の導電性の部材を用いることも可能である。また、上記実施形態において、コイルの先端部より先端側の軸孔12の内表面に、導電性の金属めっき(例えば、銅めっき)が形成されていてもよい。
【0061】
G2.変形例2:
図10は、変形例2におけるスパークプラグ100fの先端近傍の断面構成を示す説明図である。この
図10に示すように、絶縁碍子10を主体金具50の先端近傍にのみに配置し、コイル70の周囲を樹脂500で充填することとしてもよい。このようにしても、スパークプラグが有する静電容量Cを小さくすることができる。なお、上記実施形態においても、コイル70の周囲を樹脂で充填することとしてもよい。
【0062】
G3.変形例3:
上記実施形態では、インダクタンス部材としてのコイル70は、絶縁碍子10の軸孔12の内部に配置されていたが、インダクタンス部材は、絶縁碍子10の軸孔12の内部以外に配置されていてもよい。例えば、インダクタンス部材は、
図11に示す変形例3のスパークプラグ100gのように、端子金具40の上部、換言すれば、端子金具40と高周波電源150との間に配置されていてもよい。