特許第5798071号(P5798071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798071
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 15/00 20060101AFI20151001BHJP
   H02K 1/27 20060101ALI20151001BHJP
   H02K 21/16 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   F04C15/00 J
   F04C15/00 L
   F04C15/00 D
   H02K1/27 501A
   H02K1/27 501G
   H02K1/27 501M
   H02K21/16 M
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-67481(P2012-67481)
(22)【出願日】2012年3月23日
(65)【公開番号】特開2013-199848(P2013-199848A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】近岡 貴行
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−180179(JP,A)
【文献】 特開2005−299450(JP,A)
【文献】 特開2008−86117(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0075608(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吸入・吐出するポンプ部と、
前記ポンプ部を回転駆動するモータ部と、を有し、
前記モータ部は、
前記ポンプ部に駆動力を伝達する駆動軸と、
磁性体で形成されたロータコアと、
前記ロータコアの表面に設置され、前記ロータコアにより前記駆動軸と連結される永久磁石と、
から構成されるロータ部と、
界磁機構としてのステータおよびコイルから構成されるステータ部と、を有し、
前記流体の温度が上昇するのに応じて、前記ロータコアの軸方向所定範囲で、前記ロータコアと前記永久磁石との間の隙間が大きくなるよう、前記ロータコアを弾性変形させるエアギャップ調整手段を設けた
ことを特徴とする電動ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ポンプにおいて、
前記ポンプ部は、油圧機器を冷却するための流体を吸入・吐出することを特徴とする電動ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動ポンプにおいて、
前記ロータコアは、内周側が中空に設けられて前記ロータコアの軸方向一方端に開口する円筒部を有し、
前記円筒部の少なくとも一部の軸方向範囲にスリットが設けられて前記円筒部の前記軸方向一方端に開口し、
前記円筒部と前記永久磁石との間に、前記ロータコアよりも線膨張係数が大きい部材が設置されている
ことを特徴とする電動ポンプ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の電動ポンプにおいて、
前記部材は、前記永久磁石に前記ロータコアを固定するための接着剤であることを特徴とする電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体を吸入・吐出するポンプ部と、ロータ部とステータ部とを有してポンプ部を回転駆動するモータ部とを有する電動ポンプが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−180179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術では、温度に応じてモータ部の特性を変化させ、電動ポンプに要求される性能を満足させようとすると、複雑な構成となり、コスト高となったり電動ポンプが大型化したりするおそれがあった。本発明の目的とするところは、より簡易な構成により、温度に応じてモータ部の特性を変化させることができる電動ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の電動ポンプは、好ましくは、温度に応じて、ロータ部とステータ部との間のエアギャップを変化させるエアギャップ調整手段を備える。
【発明の効果】
【0006】
よって、より簡易な構成により、温度に応じてモータ部の特性を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1のトランスミッションケースに設置された電動ポンプの軸方向断面図である。
図2】実施例1のモータ部の分解斜視図である。
図3】実施例1のロータ部の斜視図である。
図4】実施例1のロータ部を開口側から見た軸方向正面図である。
図5】実施例1のロータ部の軸方向断面図である。
図6】実施例1のロータ部の軸方向断面図である(高温時)。
図7】他の実施例のロータ部の軸方向部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の電動オイルポンプを実現する形態を、図面に基づき説明する。
【0009】
[実施例1]
実施例1のポンプ1は、電動モータにより駆動される電動ポンプであり、車両の油圧機器に適用される。具体的には、ポンプ1は、車両(自動車)に搭載される自動変速機(CVT)用の補助電動ポンプであり、流体として自動変速機(CVT)の冷却用のオイル(CVTF)を吸入・吐出する。図1は、トランスミッションケース100に設置されたポンプ1を、その軸心を通る平面で切った断面図である。ポンプ1へ吸入され、ポンプ1から吐出されるオイルの流れを矢印で示す。図2は、ポンプ1のモータ部3の構成要素を分解して示す斜視図である。説明のため、ポンプ1の軸心(シャフト30)が延びる方向にx軸を設け、モータ部3に対しポンプ部2の側を正方向とする。
【0010】
トランスミッションケース100は、自動変速機のハウジングであり、ポンプ1が嵌合設置される有底円筒状の凹部101が形成されている。すなわち、ポンプ1は自動変速機と一体に設けられている。凹部101にはポンプ1の図示しない吸入油路が開口すると共に、凹部101の底部にはポンプ1の吐出油路102が開口する。ポンプ1は、オイルを吸入・吐出するポンプ部2と、ポンプ部2を回転駆動するモータ部3と、ポンプ部2及びモータ部3が収容設置されるハウジング4とを有している。
【0011】
ハウジング4は、第1ハウジング4aと第2ハウジング4bを有している。第1ハウジング4aは、内周側に有底円筒状のポンプ収容孔400を備えるポンプ収容部40と、ポンプ収容部40と一体に設けられてポンプ収容孔400の底部からポンプ収容孔400の軸方向反対側(x軸負方向側)に突出し、内周側にシャフト収容孔410を備える軸受部41と、軸受部41の外周面に対して径方向隙間を介して対向するようにポンプ収容部40の底部と一体に設けられ、内周側にステータ収容孔420を備えるモータ収容部42と、モータ収容部42の軸方向端部(x軸負方向端部)と一体に外径方向に広がるように設けられたフランジ部43と、を有している。ポンプ収容部40には、ポンプ収容孔400の底部に、吸入ポート401と吐出ポート402が凹溝状に設けられている。第2ハウジング4bは、吸入油路440が貫通形成された吸入部44と、吐出油路450が貫通形成された吐出部45とを有している。第2ハウジング4bにおける第1ハウジング4aとの接合面には、有底凹部460が形成されている。
【0012】
ポンプ部2は、ギヤポンプ、具体的には静音性が比較的高い内接型ギヤポンプ(内接歯車ポンプ)であり、ポンプロータとしてインナロータ2aとアウタロータ2bとを有するポンプ構成体である。インナロータ2aはn枚(実施例では6個)の歯数を有する外歯歯車であり、その内周側にシャフト設置孔20が設けられている。シャフト設置孔20には、ポンプ部2(インナロータ2a)に駆動力を伝達する駆動軸としてのシャフト30の一端部(x軸正方向端部)が嵌合して設置され、インナロータ2aに固定される。インナロータ2aの歯形はトロコイド歯形である。アウタロータ2bはn+1枚(実施例では7個)の歯数を有する内歯歯車である。アウタロータ2bは、第1ハウジング4aに形成されたポンプ収容部40(ポンプ収容孔400)内に遊嵌状態で回転自在に収容設置される。アウタロータ2bの外周面はアウタロータ2bの中心軸(x軸)と略平行に設けられており、シャフト収容孔410の軸(x軸)と略平行に設けられたポンプ収容孔400の内周面に対して、径方向の僅かな隙間を介して対向する。アウタロータ2bの歯形はトロコイド歯形である。ポンプ収容孔400が開口する第1ハウジング4aのx軸正方向端面を覆うように第2ハウジング4bが設置され、第1ハウジング4aに対してボルト締結される。第2ハウジング4bの吸入油路440はポンプ部2の吸入領域と連通し、吐出油路450はポンプ部2の吐出領域と連通するように配置される。
【0013】
モータ部3は、ロータ部3aとステータ部3bにより構成されるブラシレスDCモータである。ロータ部3aは、シャフト30と、マグネット31と、これらを連結するヨークとしてのロータコア32とを有する。マグネット31は円筒状の永久磁石(リング磁石)であり、周方向に複数の磁極を有する界磁石である。複数のN極とS極が円周方向に交互に着磁されている。ロータコア32は磁性体であり、鉄系金属材料で形成されている。ロータコア32は、内周側に凹部320が設けられた有底円筒状であり、その底部にはシャフト設置孔321が貫通形成されている。ロータコア32の外周側にはマグネット設置部322が形成されている。マグネット設置部322にマグネット31が設置されることで、マグネット31がロータコア32と同軸にロータコア32に固定される。ステータ部3bは、界磁機構としてのステータ33及びコイル34を有する。ステータ33は、ステータコアと絶縁体(インシュレータ)331を有する。ステータコアは、鉄系金属材料で形成されており、複数の(9個の)スロットを介して周方向に同数のティース330が設けられている。各ティース330は、ステータコアの外周側から軸心側(ロータ部3aの側)に向かって突出する。各ティース330には、絶縁体331を介して巻線コイル34が巻回(集中巻)されている。コイル34に供給される電流によって、各ティース330の内径側(マグネット31の周囲)に回転磁界が形成される。なお、極数やスロットの数は任意である。
【0014】
シャフト30は、軸受部41のシャフト収容孔410内に回転自在に収容設置(支持)される。軸受部41(シャフト収容孔410)は滑り軸受であり、吐出ポート402から切り欠き413を介して送られるオイルにより潤滑される。軸受部41(シャフト収容孔410)のロータ部3a側(x軸負方向側)の端部にはシール部材としてのオイルシール411が設置されている。オイルシール411がシャフト30の外周面に摺接することで、軸受部41(シャフト収容孔410)に供給されるオイルのモータ部3側への流出が遮断される。なお、軸受部41には、吸入ポート401とオイルシール411とを連通する連通路412が形成されており、軸受部41(シャフト収容孔410)に供給されたオイルは、連通路412を介して吸入ポート401へ戻される。シャフト30は、そのモータ部3側(x軸負方向側)の部分が軸受部41に回転可能に軸支されることでハウジング4に片持ち支持される。このように片持ち支持されることで、シャフト30の長さが短縮され、ポンプ1の軸方向寸法が抑制される。シャフト30のポンプ部2側(x軸正方向側)の一端部はインナロータ2aよりも若干x軸正方向側に突出し、第2ハウジング4bの有底凹部460内に収容される。軸受部41からポンプ部2と反対側(x軸負方向側)のモータ収容部42内に突出するシャフト30の他端部は、ロータコア32のシャフト設置孔321に設置され、ロータコア32に固定される。ロータコア32は軸受部41に帽子のように被さって設置される。ロータコア32の凹部320内に軸受部41の一部が収容されることで、シャフト30の長さが短縮され、ポンプ1の軸方向寸法が抑制される。ステータ33は、その外周面がステータ収容孔420の内周面に接するようにモータ収容部42に設置され、その内周面がロータ部3a(マグネット31)の外周面に対して僅かな径方向隙間を介して対向するように配置される。ステータ部3b(ステータコアの各ティース330)とロータ部3a(ロータコア32)の間の空隙(エアギャップ)を通して磁気回路が構成される。コイル34に通電されることでステータ33が回転磁界を発生し、マグネット31により形成される界磁磁束との関係により、ロータ部3a(シャフト30)を回転駆動する。
【0015】
以上のようにポンプ部2とモータ部3を収容したハウジング4は、トランスミッションケース100の凹部101に嵌合設置される。第2ハウジング4bの吐出部45はトランスミッションケース100の吐出油路102に嵌合設置される。ハウジング4のフランジ部43は凹部101を囲むようにトランスミッションケース100にボルト締結される。なお、カバー4cがフランジ部43にボルト締結され、ハウジング4のモータ収容部42の開口を塞ぐことで、モータ収容部42内の気密性が保たれる。ハウジング4の外周面とトランスミッションケース100(凹部101)の内周面との間の隙間(オイルが充填される吸入部)103は、凹部101の開口部に設置されたシール部材104により、自動変速機の外部との連通が遮断される。また、上記隙間(オイルが充填される吸入部)103は、吐出部45の外周面と吐出油路102の内周面との間に設置されたシール部材105により、吐出油路102との連通が遮断される。
【0016】
図3は、モータ部3のロータ部3aの斜視図である。図4は、ロータ部3aを凹部320の開口側(x軸正方向側)からみた軸方向正面図である。図5は、ロータ部3aを、その軸心を通る平面で切った断面図であり、ステータ33の一部を併せて示す。マグネット設置部322は、ロータコア32の外周において、ロータコア32の最大径よりも小径に設けられた凹部である。マグネット設置部322の最大径とロータコア32の最大径との差は、マグネット31の厚さd1と略同じ寸法に設けられている。言換えると、ロータコア32は、凹部320とは反対側(x軸負方向側)の軸方向端部にフランジ部323を有している。フランジ部323の径方向寸法(マグネット設置部322の最大径とロータコア32の最大径との差)は、マグネット31の厚さd1と略同じに設けられている。よって、マグネット31がマグネット設置部322に設置された状態で、ロータ部3aは軸方向全範囲にわたり略同一径となる。マグネット設置部322は、ロータコア32(ロータ部3a)の軸方向における略全範囲にわたって設けられており、この範囲で、マグネット31の外周面が所定の径方向寸法c1の隙間を介してステータ33の内周面と対向している。
【0017】
マグネット設置部322には、マグネット設置部322の最大径よりも小径となる凹部322bが設けられている。すなわち、マグネット設置部322には、最大径となる第1凹部322aが、凹部320の底面320aの位置からフランジ部323までの軸方向範囲にわたって略同一径で設けられていると共に、第1凹部322aよりも小径の第2凹部322bが、底面320aの位置から凹部320の開口部までの軸方向範囲にわたって設けられている。よって、第2凹部322bの外周面とマグネット31の内周面との間の径方向距離d2(なお、図5では便宜的に凹部320の開口端における距離を示す。)は、第1凹部322aの外周面とマグネット31の内周面との間の径方向距離(略ゼロとみなせる)よりも、大きい。このように、第2凹部322bが設けられることにより、マグネット322がマグネット設置部322に設置された状態で、マグネット設置部322(第2凹部322b)の外周面とマグネット322の内周面との間には、軸方向断面が楔形(テーパ状)の円筒状の隙間CL1が形成される。具体的には、第2凹部322bは、底面320aの位置から凹部320の開口部に向かうにつれて徐々に径が小さくなるように設けられている。言換えると、第2凹部322bは、マグネット設置部322の外周面がロータコア32の軸方向一方側(x軸正方向側)に向かって徐々に縮径するテーパ状に形成されることで、構成されている。第2凹部322bがテーパ状に設けられることにより、上記軸方向一方側に向かうにつれて、上記隙間CL1は徐々に拡径し、上記距離d2は徐々に大きくなる。
【0018】
言換えると、ロータコア32には、凹部320を囲んで、底面320aの位置から凹部320の開口部までの軸方向範囲にわたり、内周側が中空に設けられた円筒状の壁部(円筒部)324が設けられている。壁部324は、その内周面(凹部320の内周面)がロータコア32の軸(x軸)と略平行である一方、その外周面(第2凹部322b)がロータコア32の軸に対して傾いている。このため、壁部324の径方向厚さは、ロータコア32の上記軸方向一方側に向かうにつれて徐々に薄くなる。壁部324には、x軸方向に延びる複数(実施例では6個)のスリットCL2(CL2a〜CL2f)が、周方向で略等間隔に設けられている。スリットCL2は壁部324ないし第2凹部322bと略同じx軸方向範囲に設けられており、ロータコア32(壁部324)の上記軸方向一方側(凹部320の開口側)に開口する。複数のスリットCL2a〜CL2fが設けられることにより、壁部324は、一端(x軸負方向端)がロータコア32(底面320aの側)に固定され、他端(x軸負方向端)が自由端となった、複数(実施例では6個)の片持ち梁状構造として、梁部324a〜324fを有する。マグネット31は、接着剤310によりマグネット設置部322(第1凹部322aおよび第2凹部322b)に接着されることで、ロータコア32に固定される。接着剤310は樹脂材料等により形成されており、その線膨張係数(熱膨張率)はロータコア32(鉄系金属材料)に比べて非常に大きい。隙間CL1にも接着剤310が充填され、梁部324a〜324fは接着剤310を介してマグネット31に接着する。
【0019】
[実施例1の作用]
次に、ポンプ1の作用を説明する。ロータコア32とステータ33との間の径方向隙間のうち、マグネット31の分の径方向隙間は、マグネット31の透磁率が空気と略等しいとみなせるため、等価的にエアギャップとみなせる。よって、ロータコア32とステータ33との間の径方向隙間c2(なお、図5では便宜的に凹部320の開口端における隙間を示す。)を、ロータ部3aとステータ部3bとの間の等価エアギャップとする。等価エアギャップc2が大きくなると、ロータ部3a(ロータコア32)からステータ部3b(ステータコアの各ティース330)へ流れる磁束Bが減少し、誘起電圧定数(逆起電力定数)Kwが小さくなる(Kw∝B)。接着剤310は、温度に応じて、等価エアギャップc2を変化させるよう、壁部324(梁部324a〜324f)を弾性変形させるエアギャップ調整手段を構成する。
【0020】
図6は、高温時における図5と同様の断面図であり、接着剤310による壁部324の弾性変形作用を示す。温度が上昇すると、線膨張係数がロータコア32よりも大きい接着剤310の膨張により、複数の梁部324a〜324fは、図6の矢印で示すように、ロータコア32の内径側(シャフト30の側)へ撓む(弾性変形する)。これにより、等価エアギャップc2(ロータコア32とステータ33との間の径方向距離)が増大する。すなわち、温度が基準温度に対して高い場合、マグネット31とステータ33との間の隙間の大きさc1やマグネット31の厚み(径方向寸法)はほとんど変わらない一方、接着剤310の熱膨張によるロータコア32(梁部324a〜324f)の弾性変形のため、マグネット31の内周面と梁部324a〜324f(第2凹部322b)の外周面との間の隙間の大きさd2は、基準温度時よりも大きくなる。言換えると、ロータコア32は、温度上昇に応じて、部分的にマグネット31とのクリアランスd2が大きくなるように設けられている。よって、少なくとも梁部324a〜324fが設けられている軸方向範囲において、ロータコア32とステータ33との間の径方向距離である等価エアギャップc2は、基準温度時よりも、d2の増大分だけ大きくなる。すなわち、実施例1のモータ部3は、ロータ部3aへの永久磁石の装着方法の観点から見ると表面磁石型であり、マグネット31はロータコア32の表面に設置され、所定の隙間c1を介してステータ33と対向し、エアギャップ調整手段は、温度に応じて、ロータコア32とマグネット31との間の距離d2を変化させるよう、ロータコア32を弾性変形させる。なお、埋込磁石型のモータ部に対してエアギャップ調整手段を適用することとしてもよい。
【0021】
このように、温度に応じて等価エアギャップc2を変化させることで、定格が大きなモータを用いずとも、簡易な構成で、モータ部3の特性を変化させ、ポンプ1に要求される性能を満足させることが可能になる。すなわち、油圧機器を冷却するための流体(オイル)を吸入・吐出する冷却用電動ポンプにおいては、高温であるほど冷却量(ポンプ吐出量)が多く必要であるため、同一トルクにおいて高温時に高回転となる(いわば回転型の)モータが必要とされる。一方、低温側では冷却量は少なくてよい代わりに、流体(オイル)の粘度が大きいことによる粘性抵抗が大きいため、同一電流において高トルクとなる(いわばトルク型の)モータが必要とされる。上記2つの特性は相反するものであるため、同一モータにて上記要求を実現する場合、モータの特性を変化させる必要がある。これに対し、実施例1のモータ部3では、エアギャップ調整手段により、温度に応じてモータ部3の特性を変化させる。低温側を基準温度としてモータ特性を設定した上で、エアギャップ調整手段を適用することで、基準温度において同等性能のモータよりも、高温側で高回転が可能であり、低温側で高トルクを出力可能なモータを実現することができる。基準温度は、流体(オイル)の粘度に応じたモータ負荷が所定以上となる温度であり、予め設定しておく。
【0022】
具体的には、温度が上昇すると、エアギャップ調整手段により等価エアギャップc2が増大する。等価エアギャップc2が大きくなると、ロータ部3aからステータ部3bへ流れる磁束が減少し、誘起電圧定数Kwが小さくなる。Kwが小さくなると、同一トルクにおける回転数は大きくなる(N∝1/Kw)。すなわち、トルクTの増大に応じて回転数Nが低下するN−T特性において、温度が基準温度よりも高いときは、Kwが小さくなることで、トルクTに対する回転数Nの減少勾配が大きくなる。よって、高温時には同一トルクにおいて高回転となる特性が実現される。また、温度が低下すると、エアギャップ調整手段により等価エアギャップc2が減少する。等価エアギャップc2が小さくなると、ロータ部3aからステータ部3bへ流れる磁束が増加し、誘起電圧定数Kwが大きくなる。Kwが大きくなると、同一電流におけるトルクは大きくなる(Kw∝T)。すなわち、トルクTの増大に応じて電流Iが増大するI−T特性において、温度が基準温度以下であるときは、誘起電圧定数Kw(すなわちトルク定数)が大きくなることで、トルクTに対する電流Iの増大勾配が小さくなる。よって、低温時には同一電流において高トルクとなる特性が実現される。このように、モータ部3の定格を変えずとも、特性を変化させることで、ポンプ1に要求される性能を満足させることが可能になる。なお、ポンプ1の制御においては、例えば油圧機器(自動変速機)のコントローラからの要求吐出量に応じて、それを満足するような目標回転数等が設定される。例えば高温時には要求吐出量が多くなるため、高い目標回転数が設定される。上記のようにモータ部3の特性を変化させることで、定格が同じであっても実現可能な目標回転数の上限が高くなるため、より多くの要求吐出量に応じることができるようになる。よって、ポンプ1の大型化・コストアップを抑制することができる。
【0023】
ここで、温度に応じてモータの特性を上記のように変化させる手段として、弱め界磁制御や巻線切替を用いることも考えられる。しかし、これらの手段を用いた場合、特殊な制御や高性能(高コスト)な電子部品が必要になる。よって、制御構成が複雑化したり部品点数が増大して、コストが上昇し、またポンプが大型化するおそれがある。これに対し、実施例1のモータ部3では、温度に応じてモータ特性を変化させるために、簡易な構成であるエアギャップ調整手段を備えるだけでよく、弱め界磁制御や巻線切替等の特殊な制御や高性能(高コスト)な電子部品を用いる必要がない。よって、制御構成を簡素化しつつ廉価な部品で上記目的を達成できる。したがって、モータ部3やポンプ1のコスト上昇を抑制することができる。また、部品点数を削減可能であり、モータ部3やポンプ1の小型化やコスト抑制を図ることができる。
【0024】
エアギャップ調整手段(接着剤310)は、ポンプ部2が吸入・吐出するオイルの温度が上昇するのに応じて、ロータコア32(梁部324a〜324f)を弾性変形させる。オイルの温度上昇による熱エネルギーは、ポンプ部2からシャフト30やハウジング4(第1ハウジング4a)等を介して接着剤310に伝達される。これにより、オイルの温度上昇時には、接着剤310が熱膨張してロータコア32(梁部324a〜324f)を弾性変形させ、等価エアギャップc2を大きくする。ここで、ポンプ1は油圧機器(自動変速機)と一体に設けられている。具体的には、ポンプ1のハウジング4はトランスミッションケース100に嵌合して設置される。よって、油圧機器(自動変速機)の冷却量(ポンプ吐出量)が多く必要な高温時には、トランスミッションケース100から熱がポンプ1(接着剤310)に伝わりやすい。このため、ポンプ1が油圧機器(自動変速機)とは別体に設けられた場合に比べ、エアギャップ調整手段(接着剤310)の作動応答性を向上することができる。
【0025】
ロータコア32は、その軸方向所定範囲で、内周側が中空に設けられた壁部324(円筒部)を有する。よって、ロータコア32は、壁部324が設けられた範囲で、弾性変形しやすくなる。また、ロータコア32には、壁部324の少なくとも一部の軸方向範囲(実施例1では軸方向全範囲)で、スリットCL2が設けられている。よって、ロータコア32は、壁部324におけるスリットCL2が設けられた範囲で、より弾性変形しやすくなる。なお、スリットCL2は、ロータコア32の軸方向に限らず、軸方向に対し角度を有して延びていてもよい。また、壁部324はロータコア32の軸方向一方端(x軸正方向端)に開口し、スリットCL2は壁部324の上記軸方向一方端に開口する。このように、壁部324がロータコア32の軸方向一方端に開口することで、壁部324の内周側にシャフト30の軸受部41を収容してポンプ1の軸方向寸法を短縮化することができるだけでなく、スリットCL2が壁部324の上記軸方向一方端に開口することで、壁部324を片持ちの梁部324a〜324fとし、壁部324(梁部324a〜324f)をさらに弾性変形しやすい構造とすることができる。なお、スリットCL2の数や形状、寸法は、実施例1のもの限らない。また、壁部324(梁部324a〜324f)の軸方向寸法は実施例1のものに限らない。実施例1のように壁部324(凹部320)をロータコア32の軸方向範囲の半分以上にわたって設ければ、壁部324(梁部324a〜324f)を弾性変形しやすくし、またその弾性変形量を大きくすることができる。
【0026】
また、マグネット31はリング磁石であり、壁部324(梁部324a〜324f)とマグネット31との間に、ロータコア32よりも線膨張係数が大きい部材(接着剤310)が設置される。よって、上記部材(接着剤310)が膨張して内径側で壁部324(梁部324a〜324f)を弾性変形させる際にその反力を外径側で受ける部材として、リング形状のマグネット31をそのまま利用することができる。すなわち、上記反力を受ける部材としてマグネット31以外の特別な部材が必要でなくなるため、部品点数を削減し、またモータ部3の径方向寸法の増大を抑制することができる。なお、基準温度より高温時に上記部材(接着剤310)が膨張して発生する力の大きさは、マグネット31が破損する程度に大きな荷重未満であって、壁部324(梁部324a〜324f)を最低限必要な量だけ弾性変形させることができる荷重以上に設定することが好ましい。なお、マグネット31は、円筒状の素材に磁極を着磁したものに限らず、円筒状の部材に磁石を固定したものであってもよい。
【0027】
また、壁部324の外周には、マグネット31の設置用の凹部(第1凹部322a)に加え、上記部材(接着剤310)の設置用の凹部(第2凹部322b)が設けられている。よって、壁部324の厚さ(径方向寸法)を上記凹部(第2凹部322b)の分だけ薄くして壁部324をさらに弾性変形しやすくしつつ、上記部材(接着剤310)の体積(体積変化の幅)をある程度確保して、熱膨張により壁部324を弾性変形させる力を大きくすることができる。なお、上記凹部(第2凹部322b)の形状は任意であり、実施例1のように断面テーパ状であってもよいし、図7に示すように、断面矩形状(ストレート形状)であってもよい。ロータコア32よりも線膨張係数が大きい上記部材として、実施例1では接着剤310を用いたが、これに限らず、他の部材ないし材料を用いてもよい。実施例1では、上記部材は、マグネット31の接着剤310であり、上記凹部(第2凹部322b)には接着剤310が充填される。よって、ロータコア32(壁部324)を弾性変形させるための部材と、マグネット31をロータコア32に固定するための部材とを共通化して、部品点数を削減することができる。また、モータ部3の組み立て工数を削減することができる。
【0028】
[実施例1の効果]
以下、実施例1のポンプ1が奏する効果を列挙する。
(1)流体(オイル)を吸入・吐出するポンプ部2と、ポンプ部2を回転駆動するモータ部3と、を有し、モータ部3は、ポンプ部2に駆動力を伝達する駆動軸(シャフト30)と、磁性体で形成されたロータコア32と、ロータコア32の表面に設置され、ロータコア32により駆動軸と連結される永久磁石(マグネット31)と、から構成されるロータ部3aと、界磁機構としてのステータ33およびコイル34から構成されるステータ部3bと、を有し、流体の温度が上昇するのに応じて、ロータコア32の軸方向所定範囲で、ロータコア32と永久磁石(マグネット31)との間の隙間d2が大きくなるよう、ロータコア32を弾性変形させるエアギャップ調整手段(接着剤310)を設けた。
よって、表面磁石型のモータ部3において、高温時には等価エアギャップc2を大きくすることで、簡易な構成により、モータ部3の特性を変化させ、ポンプ1に要求される性能を満足させることができる。
【0029】
(2)ポンプ部2は、油圧機器(自動変速機)を冷却するための流体を吸入・吐出する。
よって、冷却用ポンプに要求される性能を満足させることができる。
【0030】
(3)ロータコア32は、内周側が中空に設けられてロータコア32の軸方向一方端(x軸正方向端)に開口する円筒部(壁部324)を有し、円筒部の少なくとも一部の軸方向範囲にスリットCL2が設けられて円筒部の前記軸方向一方端に開口し、円筒部(梁部324a〜324f)と永久磁石(マグネット31)との間に、ロータコア32よりも線膨張係数が大きい部材(接着剤310)が設置されている。
よって、温度に応じたロータコア32の弾性変形(等価エアギャップc2の増大)を容易化することができる。
【0031】
(4)前記部材は、永久磁石(マグネット31)にロータコア32を固定するための接着剤310である。
よって、部品点数を削減できる等、簡易かつ安価な構成とすることができる。
【0032】
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、本発明のポンプが適用される油圧機器は、自動変速機に限られない。また、実施例1では、冷却用電動ポンプに本発明のエアギャップ調整手段を適用したが、これに限らず、他の用途に用いる電動ポンプに本発明のエアギャップ調整手段を適用し、当該ポンプの要求性能を満足するようにモータ特性を任意に変化させることとしてもよい。例えば、ロータコア32の変形方向を変え、高温時に等価エアギャップc2が小さくなるように設定すれば、実施例1とは反対のモータ特性を得ることができる。
また、実施例1では、高温時にロータコア32を弾性変形させるエアギャップ調整手段として、円筒部(壁部324)と永久磁石(マグネット31)との間にロータコア32よりも線膨張係数が大きい部材(接着剤310)を設置することとしたが、これに限らず、例えば円筒部の形状や材料密度等を調整することで(いわばバイメタルや形状記憶合金のように)、円筒部の線膨張係数をその外径側と内径側とで異ならせ、温度上昇に応じて、円筒部が内径側に撓むようにすることで、等価エアギャップc2が大きくなるようにしてもよい。実施例1では、線膨張係数が大きい部材(接着剤310)を介在させる構成であるため、ロータコア32の材料や製造のコストを低減することができる。実施例1ではインナロータ型のモータに本発明のエアギャップ調整手段を適用したが、アウタロータ型のモータに適用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 電動ポンプ
2 ポンプ部
3 モータ部
3a ロータ部
30 シャフト(駆動軸)
31 マグネット(永久磁石)
310 接着剤(エアギャップ調整手段)
32 ロータコア
324 壁部(円筒部)
3b ステータ部
33 ステータ
34 コイル
CL2 スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7