(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798155
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】低い熱膨張率および誘電損失率を有するプリント基板用絶縁樹脂組成物、これを用いたプリプレグおよびプリント基板
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20151001BHJP
C08G 59/20 20060101ALI20151001BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20151001BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20151001BHJP
C08K 3/00 20060101ALI20151001BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08G59/20
C08G59/40
C08J5/24
C08K3/00
H05K1/03 610L
H05K1/03 610R
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-135112(P2013-135112)
(22)【出願日】2013年6月27日
(65)【公開番号】特開2014-210904(P2014-210904A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2013年6月27日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0042135
(32)【優先日】2013年4月17日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100089347
【弁理士】
【氏名又は名称】木川 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】リ,ファ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ジ ヘ
(72)【発明者】
【氏名】チョン,キ ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,キ ソク
【審査官】
小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/008684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08G 59/20
C08G 59/40
C08J 5/24
C08K 3/00
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、
低熱膨張係数を有する第1無機フィラーと、
低誘電損失率を有する第2無機フィラーと、
硬化剤と、
熱可塑性樹脂と、を含んでなり、
前記第1無機フィラーおよび前記第2無機フィラーを含む全体無機フィラーは全体組成物の50〜80重量%をなすとともに、
前記第1無機フィラーはシリカであり、前記第2無機フィラーは三酸化二ホウ素であることを特徴とするプリント基板用絶縁樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1無機フィラーと前記第2無機フィラーは、1:0.5〜1.5の重量比で含まれることを特徴とする請求項1に記載のプリント基板用絶縁樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂20〜30重量%、前記第1無機フィラー25〜40重量%、前記第2無機フィラー25〜40重量%、前記硬化剤5〜10重量%および前記熱可塑性樹脂1〜5重量%を含むことを特徴とする請求項1に記載のプリント基板用絶縁樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂は、ナフタレン系エポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ゴム変性型エポキシ樹脂、およびリン(phosphorous)系エポキシ樹脂から少なくとも1種選ばれることを特徴とする請求項1に記載のプリント基板用絶縁樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂は、ノボラックエポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、ナフタレン系エポキシ樹脂、およびゴム変性型エポキシ樹脂の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のプリント基板用絶縁樹脂組成物。
【請求項6】
前記第1無機フィラーは、5〜10ppm/℃の熱膨張係数を有することを特徴とする請求項1に記載のプリント基板用絶縁樹脂組成物。
【請求項7】
前記第2無機フィラーは、0.0001〜0.001の誘電損失率を有することを特徴とする請求項1に記載のプリント基板用絶縁樹脂組成物。
【請求項8】
前記硬化剤は、活性エステル硬化剤、アミド系硬化剤、ポリアミン系硬化剤、酸無水物硬化剤、フェノールノボラック型硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、第3アミン硬化剤またはイミダゾール硬化剤から少なくとも1種選ばれることを特徴とする請求項1に記載のプリント基板用絶縁樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂は、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチラール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂よりなる群から少なくとも1種選ばれることを特徴とする請求項1に記載のプリント基板用絶縁樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1の組成物にガラス繊維が含浸されて形成されたプリプレグ。
【請求項11】
前記ガラス繊維は、E−ガラス、D−ガラス、T−ガラスおよびNE−ガラスから少なくとも1種選ばれることを特徴とする請求項10に記載のプリプレグ。
【請求項12】
請求項1の絶縁樹脂組成物を含むプリント基板。
【請求項13】
請求項10のプリプレグを含むプリント基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い熱膨張率および誘電損失率を有するプリント基板用絶縁樹脂組成物、これを用いたプリプレグおよびプリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、電子機器の小型化、高性能化が行われるにつれて、プリント基板において絶縁層の役割を果たすビルドアップ層が複層化され、配線の微細化および高密度化が求められる趨勢にある。
【0003】
一方、低熱膨張率および低誘電損失率は、従来からプリント基板の絶縁層に求められる主要特性であり、このような主要特性を充足するために多様な試みが行われている。
【0004】
絶縁層の熱膨張係数(CTE)が大きくなると、基板の反り(warpage)不良が発生し、誘電損失率が大きくなると、回路配線の電気的特性が低下し、不要な電力損失が発生するうえ、回路配線が短絡(short)するなどの問題が発生する。
【0005】
絶縁層の熱膨張係数を低めるために、比較的高いモジュラス(high modulus)を有するエポキシ樹脂を使用し、或いは液晶オリゴマー(liquid crystal oligomer)を添加するが、無機フィラーの種類および添加量によって熱膨張係数を低めようとする試みが最も多く行われている実情である。特に、シリカなどの無機フィラーは、80重量%以上添加する場合、絶縁層の熱膨張係数を10ppm水準まで低めることができると知られている。
【0006】
ところが、このような熱膨張率の低い無機フィラーの添加のみでは、基板のモジュラスを向上させることはできるが、絶縁層が要求する低誘電損失特性を達成することは難しいという問題があるので、基板のモジュラスを向上させるとともに、低誘電損失特性を同時に達成しなければならない必要性が強く求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者は、プリント基板の絶縁樹脂組成物に含まれる無機フィラーとして、低い熱膨張係数を有する無機フィラーと低い誘電損失率を有する無機フィラーとを同時に添加して上述の問題点を解決することができることを見出し、これに基づいて本発明を完成した。
【0008】
したがって、本発明のある観点は、エポキシ樹脂、低熱膨張係数を有する第1無機フィラー、低誘電損失率を有する第2無機フィラー、および硬化剤を含んでなるプリント基板用絶縁樹脂組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の観点は、本発明に係るプリント基板用絶縁樹脂組成物にガラス繊維が含浸されたプリプレグを提供することにある。
【0010】
本発明の別の観点は、本発明に係る絶縁樹脂組成物を含むプリント基板を提供することにある。
【0011】
本発明の別の観点は、本発明に係るプリプレグを含むプリント基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記観点を達成するための本発明に係るプリント基板用絶縁樹脂組成物(以下「第1発明」という)は、エポキシ樹脂、低熱膨張係数を有する第1無機フィラー、低誘電損失率を有する第2無機フィラー、硬化剤、および熱可塑性樹脂を含んでなり、前記第1無機フィラーおよび前記第2無機フィラーを含む全体無機フィラーは全体組成物の50〜80重量%をなす。
【0013】
第1発明において、前記第1無機フィラーと前記第2無機フィラーは、1:0.5〜1.5の重量比で含まれることを特徴とする。
【0014】
第1発明において、前記エポキシ樹脂20〜30重量%、前記第1無機フィラー25〜40重量%、前記第2無機フィラー25〜40重量%、前記硬化剤5〜10重量%、および前記熱可塑性樹脂1〜5重量%を含むことを特徴とする。
【0015】
第1発明において、前記エポキシ樹脂は、ナフタレン系エポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ゴム変性型エポキシ樹脂、およびリン(phosphorous)系エポキシ樹脂から少なくとも1種選ばれることを特徴とする。
【0016】
第1発明において、前記エポキシ樹脂は、ノボラックエポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、ナフタレン系エポキシ樹脂、およびゴム変性型エポキシ樹脂の混合物であることを特徴とする。
【0017】
第1発明において、前記第1無機フィラーは、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、およびジルコン酸カルシウムよりなる群から少なくとも1種選ばれることを特徴とする。
【0018】
第1発明において、前記第1無機フィラーは、5〜10ppm/℃の熱膨張係数を有することを特徴とする。
【0019】
第1発明において、前記第2無機フィラーは、三酸化二ホウ素、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、およびジルコン酸カルシウムよりなる群から少なくとも1種選ばれることを特徴とする。
【0020】
第1発明において、前記第2無機フィラーは、0.0001〜0.001の誘電損失率を有することを特徴とする。
【0021】
第1発明において、前記第1無機フィラーはシリカであり、前記第2無機フィラーは三酸化二ホウ素であることを特徴とする。
【0022】
第1発明において、前記硬化剤は、活性エステル硬化剤、アミド系硬化剤、ポリアミン系硬化剤、酸無水物硬化剤、フェノールノボラック型硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、第3アミン硬化剤およびイミダゾール硬化剤から少なくとも1種選ばれることを特徴とする。
【0023】
第1発明において、前記熱可塑性樹脂は、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチラール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂よりなる群から少なくとも1種選ばれることを特徴とする。
【0024】
本発明の他の観点を達成するためのプリプレグ(以下「第2発明」という)は、第1発明の組成物にガラス繊維が含浸されて形成される。
【0025】
第2発明において、前記ガラス繊維は、E−ガラス、D−ガラス、T−ガラスおよびNE−ガラスから少なくとも1種選ばれることを特徴とする。
【0026】
本発明の別の観点を達成するためのプリント基板(以下「第3発明」という)は、第1発明の組成物を含む。
【0027】
本発明の別の観点を達成するためのプリント基板(以下「第4発明」という)は、第2発明のプリプレグを含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、低熱膨張係数を有する第1無機フィラーを用いてプリント基板の高モジュラスを実現することができると共に、低誘電損失率を有する第2無機フィラーを用いてプリント基板の絶縁層において最も重要に求められる絶縁体としての役割を極大化することができるという利点がある。
【0029】
また、本発明では、このような第1無機フィラーおよび第2無機フィラーの含量を調節してプリント基板の特性に合わせて最も好適な絶縁層を実現することが容易であるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係るプリント基板用絶縁樹脂組成物が適用できる一般なプリント基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明をさらに具体的に説明する前に、本明細書及び特許請求の範囲に使用された用語又は単語は、通常的且つ辞典的な意味に限定されてはならず、発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に立脚して、本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。よって、本明細書に記載された実施例の構成は、本発明の好適な一例に過ぎず、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではない。このため、本出願時点においてこれらを代替することが可能な様々な均等物及び変形例があり得ることを理解すべきである。
【0032】
以下、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を容易に実施し得るように、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。尚、本発明を説明するにあたり、本発明の要旨を不明瞭にする可能性がある係る公知技術についての詳細な説明は省略する。
【0033】
図1を参照すると、絶縁層131は、回路配線間の絶縁の役割を果たすと同時に、その上に配線を形成するための基材層の役割も果たしており、ビルドアップ層130もプリント基板100が複層からなる多層プリント配線板において絶縁層131の役割を果たしており、特に、ガラス繊維が絶縁樹脂組成物に含浸されたプリプレグとは異なり、ビルドアップ層130は、ガラス繊維なしで構成される。
【0034】
最近、このようなプリント基板は、薄膜化・小型化する趨勢にあり、基板の反りを防止し、放熱特性などを高めるために絶縁樹脂組成物に熱膨張係数が低くかつ熱伝達効率に優れる多様な無機フィラーを添加する。このような無機フィラーの中でも最も多く使用されるものがシリカであり、最近は、このようなシリカの添加量が益々増加する趨勢にある。
【0035】
本発明では、前述したように、低熱膨張係数を有する第1無機フィラーと低誘電損失率を有する第2無機フィラーとを混合した多重フィラーシステムが導入されたプリント基板用絶縁樹脂組成物を提供するものである。
【0036】
以下、本発明に係る絶縁樹脂組成物、この絶縁樹脂組成物を用いたプリプレグおよびプリント基板を詳しく説明する。
【0037】
本発明に係るプリント基板用絶縁樹脂組成物は、エポキシ樹脂および硬化剤に、低熱膨張係数を有する第1無機フィラーおよび低誘電損失率を有する第2無機フィラーが含まれ、特に前記無機フィラーの総和は全体組成物の50〜80重量%であることが好ましい。もし、全体無機フィラーの含量が50重量%未満の場合は、熱膨張係数の増加により基板の機械的強度が低下して反り(warpage)不良が発生し、80重量%を超える場合は、無機材料であるフィラーの含量があまり高いため、絶縁層の脆性(brittleness)が増加し、ビルドアップフィルムの形成時に加工性が低下するという問題が発生する。
【0038】
一方、前記第1無機フィラーと前記第2無機フィラーは、1:0.5〜1.5の重量比で本発明に係る絶縁樹脂組成物に含まれることが好ましい。前記第2無機フィラーの含量が第1無機フィラーに対して0.5未満の場合は、プリント基板絶縁層の誘電損失率が高くなって回路の電気的特性が低下するうえ、不要な電力損失を引き起こすという問題が発生し、第1無機フィラーに対して1.5を超える場合は、絶縁層の誘電損失率を効果的に低めることはできるが、熱膨張係数が相対的に高くなって、プリント基板の機械的物性が低下するという問題が発生するためである。
【0039】
次に、本発明に係る絶縁樹脂組成物の各成分の具体的な組成比を考察する。
【0040】
有機マトリクスの役割を果たすエポキシ樹脂は、全体組成物に対して20〜30重量%で含まれることが好ましい。すなわち、エポキシ樹脂が20重量%未満の場合は、絶縁樹脂の脆性が増加して加工性が低下し、メッキによる回路パターン形成の際に絶縁層の表面に露出する無機フィラーの含量が相対的に増加してメッキ密着力が低下するという問題が発生する。一方、エポキシ樹脂の含量が30重量%を超える場合は、絶縁層の熱膨張係数が増加してプリント基板の機械的強度が低下するという問題が発生する。
【0041】
前記第1無機フィラーおよび第2無機フィラーは、それぞれ全体組成物に対して25〜40重量%で含まれることが好ましい。すなわち、第1無機フィラーが25重量%未満で含まれる場合は、熱膨張率の増加により回路の機械的物性が低下し、第2無機フィラーが25重量%未満で含まれる場合は、絶縁層の誘電損失率が増加して回路の電気的特性が良好でなく、不要な電力消耗が発生する。一方、前記第1無機フィラーの含量が40重量%を超える場合は、前記第2無機フィラーの添加量に制限を受けて回路の低誘電損失特性を達成し難いという問題が発生し、第2無機フィラーの含量が40重量%を超える場合は、第1無機フィラーの添加量に制限を受けて低熱膨張特性を達成し難いという問題が発生する。
【0042】
前記硬化剤は、全体組成物に対して5〜10重量%で含まれることが好ましい。すなわち、前記硬化剤の含量が5重量%未満の場合は、絶縁組成物の硬化速度が遅延して製造工程の所要時間が長くなり、かつ未硬化の樹脂組成物が残って回路の機械的物性が低下する原因になることもある。前記硬化剤が10重量%を超える場合は、非経済的であり、エポキシ樹脂および無機フィラーの添加量が制限されるという問題が発生する。
【0043】
前記熱可塑性樹脂は、全体組成物に対して1〜5重量%で含まれることが好ましい。すなわち、前記熱可塑性樹脂の含量が1重量%未満の場合は、絶縁樹脂組成物の熱可塑性が低下する問題および脆性が増加する問題が発生し、5重量%を超える場合は、絶縁層の熱膨張係数が増加して機械的物性が低下するという問題が発生する。
【0044】
本発明に使用されるエポキシ樹脂は、ナフタレン系エポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ゴム変性型エポキシ樹脂、およびリン(phosphorous)系エポキシ樹脂から少なくとも1種選ばれることが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではなく、プリント基板に一般に使用されるエポキシ樹脂であればいずれでも構わない。
【0045】
本発明では、様々な種類のエポキシ樹脂を混合して使用してもよく、特に、ノボラックエポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、ナフタレン系エポキシ樹脂、およびゴム変性型エポキシ樹脂を混合して使用すると、絶縁層の誘電損失率をさらに低めることができるという利点がある。
【0046】
本発明に使用される低熱膨張係数を有する第1無機フィラーは、シリカ(SiO
2)、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、またはジルコン酸カルシウムなどが好ましく、特に、このような第1無機フィラーは、5〜10ppm/℃の熱膨張係数を有することがさらに好ましい。
【0047】
本発明に使用される低誘電損失率を有する第2無機フィラーは、三酸化二ホウ素(B
2O
3)、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、またはジルコン酸カルシウムなどが好ましく、特に、このような第2無機フィラーは、0.0001〜0.001の誘電損失率を有することがさらに好ましい。
【0048】
本発明に係る第1無機フィラーとして、シリカ(SiO
2)を用い、同時に第2無機フィラーとして、三酸化二ホウ素(B
2O
3)を用いることが好ましい。
【0050】
表1に示すように、本発明者は、プリント基板のプリプレグに用いられる様々なガラス繊維の誘電損失率を研究した結果、E−ガラスまたはT−ガラスに比べてD−ガラスまたはNE−ガラスの誘電損失が著しく低いことを見出した。
【0052】
このような結果に基づいて、本発明者は、表2に示すように、D−ガラスまたはNE−ガラスの組成を分析した結果、D−ガラスまたはNE−ガラスにはE−ガラスまたはT−ガラスに比べて共通に三酸化二ホウ素(B
2O
3)の含量が相対的に多く含有されていることを見出した。このような研究結果から、本発明者は、プリント基板のプリプレグではなくビルドアップフィルムに用いられる三酸化二ホウ素を粒子状に樹脂組成物内に均一に分散させて無機フィラーとして使用できることが分かることとなり、従来から一般に使用されているシリカと三酸化二ホウ素を適正の比率で混合して使用する場合、プリント基板の熱膨張率を低めることができるうえ、誘電損失率も画期的に低めることができることを確認することになった。
【0053】
一方、本発明に使用される硬化剤は、活性エステル硬化剤、アミド系硬化剤、ポリアミン系硬化剤、酸無水物硬化剤、フェノールノボラック型硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、第3アミン硬化剤およびイミダゾール硬化剤から少なくとも1種選択して使用することが好ましい。
【0054】
本発明に係るプリント基板用絶縁樹脂組成物は、ビルドアップフィルムとして加工することができるとともに、ガラス繊維を含浸させてプリプレグを製作することに使用することもできる。プリプレグは、樹脂組成物にガラス繊維が含浸されるので、ビルドアップフィルムに比べて熱膨張係数が画期的に低いという利点があり、絶縁層の厚さを薄く製作するには限界があるという欠点がある。
【0055】
本発明に係る組成物に含浸してプリプレグを製作するときに使用されるガラス繊維は、E−ガラス、D−ガラス、T−ガラスまたはNE−ガラスなどが好ましく、特に、D−ガラスまたはNE−ガラスを使用する場合には、熱膨張係数および誘電損失率をさらに低めることができるという利点がある。
【0056】
本発明に係る絶縁樹脂組成物を用いてプリント基板を製作することが可能であり、本発明に係る絶縁樹脂組成物を用いてビルドアップフィルムを製作する場合は、熱膨張係数が低くて機械的特性に優れているうえ、誘電損失率が低く、非常に薄い厚さに多層プリント配線板を製作することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明はこれに限定されない。
【0058】
(実施例1)
ノボラックエポキシ樹脂40g、ナフタレン系エポキシ樹脂40g、およびゴム変性エポキシ樹脂40gを混合して混合エポキシ樹脂を準備した。ここにシリカ無機フィラー150g、三酸化二ホウ素150gおよびアミノトリアジンノボラック硬化剤47.39gを混合し、さらにポリビニルブチラール11.79g、2E4MZ開始剤0.25g、および10.08gのBYK337を添加した。このように準備された組成物を混合し、フィルムキャスティングして硬化させた後、150μm程度の均一な厚さに20×8cmの試片を製作した。このように準備された試片を用いて1〜5GHzで誘電率、誘電損失率および熱膨張係数を測定した。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同様の条件で試片を準備するが、シリカの添加量を130gに変更し、三酸化二ホウ素の添加量を170gに変更し、実施例1と同様の条件で誘電率、誘電損失率および熱膨張係数を測定した。
【0060】
(実施例3)
実施例1と同様の条件で試片を準備するが、シリカの添加量を170gに変更し、三酸化二ホウ素の添加量を130gに変更し、実施例1と同様の条件で誘電率、誘電損失率および熱膨張係数を測定した。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同様の条件で試片を準備するが、三酸化二ホウ素150gの代わりにシリカ150gをさらに添加し、実施例1と同様の条件で誘電率、誘電損失率および熱膨張係数を測定した。
【0062】
(比較例2)
実施例1と同様の条件で試片を準備するが、シリカ150gの代わりに三酸化二ホウ素150gをさらに添加し、実施例1と同様の条件で誘電率、誘電損失率および熱膨張係数を測定した。
【0063】
【表3】
【0064】
表3より、実施例1〜3、比較例1および比較例2の場合、誘電率はほぼ同一に測定されたことが分かる。
【0065】
ところが、誘電損失率を比較すると、実施例1の場合は誘電損失率が0.008と比較的低く、実施例2の場合は0.006とさらに低く、実施例3の場合は0.009と実施例1よりは比較的高く測定された。一方、比較例1の場合は誘電損失率が0.02と非常に高かったが、比較例2の場合は0.004と誘電損失率が最も低く測定されたことが分かる。
【0066】
一方、熱膨張係数を測定した結果を考察すると、低熱膨張係数を有するシリカのみを添加した場合(比較例1)は熱膨張係数が13と最も低く測定され、低誘電損失率を有する三酸化ホウ素のみを添加した比較例2の場合は30と最も高く測定された。ところが、実施例1〜3を参照すると、熱膨張係数が13〜18と比較的良好であることが分かる。
【0067】
前記実験結果をまとめると、プリント基板の絶縁層に要求される低熱膨張係数および低誘電損失を同時に充足させるために実施例1〜3が好ましく、その中でも実施例1が最も好ましいと分析される。これらの実験結果は、本発明に係る効果を直接示しているものと解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、低い熱膨張率および誘電損失率を有するプリント基板用絶縁樹脂組成物、これを用いたプリプレグおよびプリント基板に適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
100 プリント基板
110 絶縁体
120 電子部品
130 ビルドアップ層
131 絶縁層(ビルドアップフィルムまたはPCC)
132 回路層
140 キャパシタ
150 抵抗素子
160 半田レジスト
170 外部接続手段
180 パッド