(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798172
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】歯科器具
(51)【国際特許分類】
A61C 7/08 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
A61C7/08
【請求項の数】20
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-247594(P2013-247594)
(22)【出願日】2013年11月29日
(62)【分割の表示】特願2010-535170(P2010-535170)の分割
【原出願日】2008年11月10日
(65)【公開番号】特開2014-50752(P2014-50752A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2013年12月11日
(31)【優先権主張番号】2007906489
(32)【優先日】2007年11月27日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】510146148
【氏名又は名称】クリアスマイル ホールディングス プロプライアタリー リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(72)【発明者】
【氏名】ギーンティ,ジョセフ
【審査官】
胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/092234(WO,A1)
【文献】
特表2006−500114(JP,A)
【文献】
特表2004−507281(JP,A)
【文献】
特開2003−190185(JP,A)
【文献】
米国特許第4793803(US,A)
【文献】
米国特許第4330273(US,A)
【文献】
米国特許第3975825(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯列を矯正するための歯科器具であって、
器具が歯列弓に着座するための本体部を含み、
本体部は、患者の歯の舌側表面に対面するように形成された舌側壁と、患者の歯の顔側表面に対面するように形成された顔側壁と、舌側壁と顔側壁とを接続する接続壁とを有し、
(i) 舌側壁及び顔側壁のうちの少なくとも一方は、本体部が歯列弓に着座されていない着座前状態から本体部が歯列弓に着座されている着座状態に弾性変形可能であり、
舌側壁及び顔側壁は、前記弾性変形可能である少なくとも一方の壁が着座前状態にあるときに、接続壁によって接続されたそれぞれに対応する第一端において互いに第一の距離だけ離間しており、かつ第一端とは反対側に位置するそれぞれに対応する第二端において互いに第一の距離よりも短い第二の距離だけ離間しており、
(ii) 舌側壁が顔側壁と離間していることにより、本体部が着座前状態にあるときに、要求される矯正後位置にある不揃いな歯、及び矯正前位置にある不揃いな歯のうちの遠位先端のみを収容するように歯を受け取る凹部がもたらされ、
(iii) 本体部は、歯列弓に着座されたときに、前記弾性変形可能である少なくとも一方の壁の弾性変形により1又はそれ以上の不揃いな歯に矯正力を印加し、
矯正力は、1又はそれ以上の不揃いな歯のそれぞれが正しい歯列に移動するような方向に、1又はそれ以上の不揃いな歯の歯肉縁に位置する歯冠の根元に、前記弾性変形可能である少なくとも一方の壁の内面によって印加される、
歯科器具。
【請求項2】
本体部が着座状態にあるときに、その凹部は要求される矯正後位置及び矯正前位置にある不揃いな歯を収容する、請求項1に記載の歯科器具。
【請求項3】
器具の本体部は、着座状態にあるときに、当該凹部が矯正前位置及び要求される矯正後位置にあるそれぞれの不揃いな歯の歯冠全体を収容するように、構成される、請求項2に記載の歯科器具。
【請求項4】
器具は取り外し可能である、請求項1に記載の歯科器具。
【請求項5】
器具は少なくとも部分的に透明である、請求項1に記載の歯科器具。
【請求項6】
器具全体が透明である、請求項5に記載の歯科器具。
【請求項7】
器具が口腔内使用に適している材料で構成される、請求項1に記載の歯科器具。
【請求項8】
器具は、本体部の凹部が歯列弓中の少なくともその大部分を収容するように構成される、請求項1に記載の歯科器具。
【請求項9】
器具は、本体部の凹部が歯列弓中の歯の全体を収容するように構成される、請求項8に記載の歯科器具。
【請求項10】
本体部が着座前状態及び着座状態のいずれにあるときにでも、本体部の凹部は現状の位置で矯正が必要ないそれぞれの歯を収容するように成形されている、請求項1に記載の歯科器具。
【請求項11】
器具の本体部は概ね、平面図の輪郭線で見たときに、歯列弓の概略的な外郭線に追従する殻の形をなしている、請求項1に記載の歯科器具。
【請求項12】
本体部は歯列弓中の歯の輪郭に追従する、薄壁の殻の形状をなしている、請求項11に記載の歯科器具。
【請求項13】
断面を見ると、器具の本体部は上歯列弓に関して使用する場合は概ねU字形状を、
下歯列弓に関して使用する場合は概ね逆U字形状をなす、請求項1に記載の歯科器具。
【請求項14】
器具の本体部が着座前状態から着座状態へ変形するときに、不揃いな歯に関連付けられる本体部の舌側壁と顔側壁の一方又は両方の一つ又は複数の部分は接続壁の回りに他の一方から遠ざかるように弾性変形する、請求項1に記載の歯科器具。
【請求項15】
接続壁のそれぞれの不揃いな歯に関連付けられる部分は、歯が矯正前位置及び要求される矯正後位置にあるときに、それぞれの不揃いな歯の先端を同時に覆うのに十分に広く、
それにより、不揃いな歯を含む歯列弓に器具が適切に着座をすることができるようになる、請求項14に記載の歯科器具。
【請求項16】
歯列を矯正するための歯科器具であって、
器具が、患者の歯の舌側表面に対面するように形成された舌側壁と、患者の歯の顔側表面に対面するように形成された顔側壁と、舌側壁と顔側壁とを接続する接続壁とを有する弾性変形可能な本体部を含み、
舌側壁と顔側壁は、舌側壁及び顔側壁のうちの少なくとも一方の弾性変形可能である壁が着座前状態にあるときに、接続壁によって接続されたそれぞれに対応する第一端において互いに第一の距離だけ離間しており、かつ第一端とは反対側に位置するそれぞれに対応する第二端において互いに第一の距離よりも短い第二の距離だけ離間しており、
舌側壁及び顔側壁の少なくとも一方は、歯列弓の歯が2つの壁の間に画定された凹部に受け取られると共に1又はそれ以上の不揃いな歯を有する歯列弓に本体部の着座を可能にするように、舌側壁及び顔側壁の他方から離れるよう弾性変形可能であり、それにより、使用時に、本体部の少なくとも一方の弾性変形された壁が、歯列弓の少なくとも1本の不揃いな歯に、舌側壁及び顔側壁の他方に向かう方向へ矯正力を印加するようにし、
本体部の前記変形可能な壁は、前記不揃いな歯の歯肉縁に位置する歯冠の根元に前記変形可能な壁によって印加される矯正力が不揃いな歯の歯冠の上部に印加される力を超えるように、構成され、
凹部は、本体部が着座前状態にあるときに、要求される矯正後位置にある不揃いな歯、及び矯正前位置にある不揃いな歯のうちの遠位先端のみを収容する、
歯科器具。
【請求項17】
歯列を矯正するための歯科器具であって、
器具が1又は複数の不揃いな歯を有する歯列弓に着座するための本体部を含み、
本体部は、患者の歯の舌側表面に対面するように形成された舌側壁と、患者の歯の顔側表面に対面するように形成された顔側壁と、舌側壁と顔側壁とを接続する接続壁とを有し、
(i) 舌側壁及び顔側壁のうちの少なくとも一方は、本体部が歯列弓に着座されていない着座前状態から本体部が歯列弓に着座されている着座状態に弾性変形可能であるように構成されており、
舌側壁及び顔側壁は、前記弾性変形可能である少なくとも一方の壁が着座前状態にあるときに、接続壁によって接続されたそれぞれに対応する第一端において互いに第一の距離だけ離間しており、かつ第一端とは反対側に位置するそれぞれに対応する第二端において互いに第一の距離よりも短い第二の距離だけ離間しており、
(ii) 舌側壁が顔側壁と離間していることにより、本体部が着座前状態にあるときに、要求される矯正後位置にある1又はそれ以上の不揃いな歯、及び矯正前位置にある1又はそれ以上の不揃いな歯のうちの遠位先端のみを収容するように歯列弓を受け取る凹部がもたらされ、
(iii) 本体部は、歯列弓に着座されたときに、弾性変形により、1又はそれ以上の不揃いな歯のうちの少なくとも1本を移動させるために、歯列弓内の1又はそれ以上の不揃いな歯のうちの少なくとも1本の歯肉縁に位置する歯冠の根元に、前記弾性変形可能である少なくとも一方の壁の内面によって矯正力を印加し、
(iv) 歯科器具は、1又はそれ以上の不揃いな歯のうちの少なくとも1本をおよそ1mmまで移動させるように構成される、
歯科器具。
【請求項18】
歯列を矯正するための歯科器具であって、
器具が少なくとも1本の不揃いな歯を有する歯列弓に着座するための弾性変形可能な本体部を含み、
本体部は、患者の歯の舌側表面に対面するように形成された舌側壁と、患者の歯の顔側表面に対面するように形成された顔側壁と、舌側壁と顔側壁とを接続する接続壁とを有し、
(i) 舌側壁及び顔側壁のうちの少なくとも一方は、本体部が歯列弓に着座されていない着座前状態から本体部が歯列弓に着座されている着座状態に弾性変形をするように構成されており、
舌側壁及び顔側壁は、舌側壁及び顔側壁のうちの弾性変形可能である少なくとも一方の壁が着座前状態にあるときに、接続壁によって接続されたそれぞれに対応する第一端において互いに第一の距離だけ離間しており、かつ第一端とは反対側に位置するそれぞれに対応する第二端において互いに第一の距離よりも短い第二の距離だけ離間しており、
(ii) 本体部は、歯列弓に着座されたときに、前記弾性変形により、前記弾性変形可能である少なくとも一方の壁の内面によって、歯列弓中の少なくとも1本の不揃いな歯の歯肉縁に位置する歯冠の根元に、不揃いな歯の歯冠の上部よりも大きな矯正力を印加し、
(iii) 舌側壁が顔側壁と離間していることにより、本体部が着座前状態にあるときに、要求される矯正後位置にある少なくとも1本の不揃いな歯、及び矯正前位置にある少なくとも1本の不揃いな歯のうちの遠位先端のみを収容するように歯列弓を受け取る凹部がもたらされる、
歯科器具。
【請求項19】
歯列を矯正するための器具の組であって、
当該組は器具を複数含み、
各器具が歯列弓に着座するための本体部を含み、
本体部は、患者の歯の舌側表面に対面するように形成された舌側壁と、患者の歯の顔側表面に対面するように形成された顔側壁と、舌側壁と顔側壁とを接続する接続壁とを有し、
(i) 舌側壁及び顔側壁のうちの少なくとも一方は、本体部が歯列弓に着座されていない着座前状態から本体部が歯列弓に着座されている着座状態に弾性変形可能であり、
舌側壁及び顔側壁は、舌側壁及び顔側壁のうちの弾性変形可能である少なくとも一方の壁が着座前状態にあるときに、接続壁によって接続されたそれぞれに対応する第一端において互いに第一の距離だけ離間しており、かつ第一端とは反対側に位置するそれぞれに対応する第二端において互いに第一の距離よりも短い第二の距離だけ離間しており、
(ii) 本体部は歯列弓に着座されたときに、前記弾性変形可能である少なくとも一方の壁の弾性変形により1又はそれ以上の不揃いな歯に矯正力を印加し、
矯正力が、1又はそれ以上の不揃いな歯のそれぞれが正しい歯列に移動するような方向に、1又はそれ以上の不揃いな歯の歯肉縁に位置する歯冠の根元に、前記弾性変形可能である少なくとも一方の壁の内面によって印加され、
(iii) 舌側壁が顔側壁と離間していることにより、本体部が着座前状態にあるときに、要求される矯正後位置にある不揃いな歯、及び矯正前位置にある不揃いな歯のうちの遠位先端のみを収容するように歯を受け取る凹部がもたらされる、
器具の組。
【請求項20】
組の器具は、その凹部による、それぞれの不揃いな歯の歯冠の下部又は根元の収容に関する限り、一つの器具の本体部の着座前状態が当該組の次の器具の本体部の着座状態に実質的に相当するように、成形される、請求項19に記載の器具の組。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は歯科器具に関し、より詳細には歯列を矯正するための歯科器具、及び器具の組に関する。この発明は歯列を矯正するための歯科器具を形成する方法、及び歯列を矯正する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
歯列を矯正するために、ブレースのような歯科又は歯列矯正器具が知られている。しかしながらこれらの器具は多くの、特に大人の患者からは見苦しいものと見なされている。
【0003】
ブレースの代用品として知られているものは、マウスガードの一般的なやり方で患者の歯列弓に受け取られ、取り外し可能な器具の形で提供される。当該型の器具は少なくとも部分的に弾性変形をすることができるものであり、その器具が不揃いな1本又は複数の歯を含む歯列弓に受け取られたときに、弾性変形により、不揃いな歯に矯正力を印加するように構成されている。これらの型の器具は患者の外見に影響を殆ど又は全く与えないように、透明構造をしている。
【0004】
しかしながら、これらの器具を構成する材料を理由として、単一の器具による歯の矯正移動は限られ、したがって、特に大幅な歯列矯正が要求される場合には、歯列を矯正するのに多数のつなげられた器具(例えば40個)が必要である。これらの型の器具の他の欠点は、これらの構造が歯列弓に自然と正確に着座しない物質によって構成されていることである。器具を歯列弓に無理に着座させると、一方では器具が損傷するおそれがあり、もう一方では患者の不快感と、組織及び歯の一方若しくは両方の損傷との、一方又は両方を起こすおそれがある。例えば、器具により歯に印加された過度の力は歯根吸収を引き起こし、時としては歯への血液の供給を制限するおそれがあり、それらは歯の重大な退色を伴い歯の活力に悪影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、1点又はそれ以上の前記欠点を実質的に克服し若しくは少なくとも改良すること、又は少なくとも有用な代替策を提供することにある。
【0006】
第1の観点によれば、この発明は、歯列を矯正するための歯科器具であって、器具が歯列弓に着座するための本体部を含み、本体部は少なくとも部分的に弾性変形可能であると共に、器具が弾性変形できることにより歯列弓に固定される着座状態を有し、本体部は歯列弓に着座されたときに不揃いな1又はそれ以上の歯が正しい歯列に移動するような方向に不揃いなそれぞれの歯の歯冠の根元又は隣接箇所に前記弾性力により矯正力が印加されるように構成されている、歯科器具を提供する。
【0007】
好ましくは、器具の本体部は、歯を収容するための凹部を備え、本体部は着座前状態を有し、本体部は前記着座前状態から着座状態に弾性変形可能であり、凹部は、本体部が着座前状態にあるときに、要求される矯正後位置にある不揃いな歯及び矯正前位置にある不揃いな歯の少なくとも一部を収容する。
【0008】
好ましくは、本体部が着座状態にあるときに、その凹部は要求される矯正後位置及び矯正前位置にある不揃いな歯を同時に収容する。
【0009】
好ましくは、器具の本体部は、着座状態にあるときに、当該凹部が矯正前位置及び要求される矯正後位置にあるそれぞれの不揃いな歯の歯冠全体を収容するように、構成される。したがって、器具は歯冠にのみに関連付けられる。
【0010】
器具は取り外し可能である。器具は少なくとも部分的に透明であることが好ましい。器具全体が透明であると都合がよい。したがって、患者により装着されたときに、器具ははっきりとは視認されない。
【0011】
実際に器具は口の中で使用されるものであるから、器具を構成する材料が口腔内使用に適していることは当然のことである。
【0012】
器具は、本体部の凹部が歯列弓中の歯の全体、又は少なくともその大部分を収容するように構成されることが好ましい。
【0013】
本体部が着座前状態及び着座状態のいずれにあるときにでも、本体部の凹部は現状の位置で矯正が必要ないそれぞれの歯を収容するように成形されていることが好ましい。したがって、器具の本体部は歯列弓の歯に着座されたときに、歯列の矯正が必要でない歯に固定される。
【0014】
器具の本体部は概ね、平面図の輪郭線で見たときに、歯列弓の概略的な外郭線に追従する殻の形をなしていることが好ましい。本体部は歯列弓中の歯の輪郭に追従する、比較的薄壁の殻の形状をなしていることが好ましい。
【0015】
以上の構造により、断面を見ると、器具の本体部は上歯列弓に関して使用する場合は概ねU字形状を、下歯列弓に関して使用する場合は概ね逆U字形状をなす。したがって、本体部は、歯の舌側表面に関連付けられる舌側部分と、歯の顔側表面に関連付けられる顔側部分と、歯の先端、つまり臼歯又は小臼歯の場合は咬頭に関連付けられる接続部分であって、舌側部分と顔側部分を接続する接続部分を含むことが、好ましい。器具の本体部が着座前状態から着座状態へ変形するときに、不揃いな歯に関連付けられる本体部の舌側部分と顔側部分の一方又は両方の一つ又は複数の部分は接続部分の回りに他の一方から遠ざかるように弾性変形する。接続部分のそれぞれの不揃いな歯に関連付けられる部分は、歯が矯正前位置及び要求される矯正後位置にあるときに、それぞれの不揃いな歯の先端を同時に覆うのに十分に広いことが好ましく、それにより、不揃いな歯を含む歯列弓に器具が適切に着座をすることができるようになる。
【0016】
使用時に、歯列弓に器具が着座されるのに伴い、それぞれの不揃いな歯に着座された器具により印加される矯正力が、弾性変形している本体部の舌側部分及び顔側部分の前記一方により、歯冠の根元又はその隣接箇所において歯に印加される。このことによって、歯の並進移動、つまり舌側方向又は顔側方向の移動の場合、歯を傾斜移動するのとは対照的に、歯体移動するのが確保される。
【0017】
前述の通りこの発明のこの観点による器具は、上歯列弓又は下歯列弓に関連して使用することができる。
【0018】
当然のことながら、器具は歯の並進矯正移動、回転矯正移動(つまり、歯の長手軸線回りの移動)、横矯正移動、縦上方矯正移動、及び縦下方矯正移動、又はこれら移動の組み合わせを行うのに使用できる。
【0019】
第2の観点によれば、この発明は、歯列を矯正するための歯科器具であって、当該器具が舌側部分及び顔側部分を有する
弾性変形可能な本体部を含み、舌側部分と顔側部分はそれぞれ概ね互いに対面し、歯列弓の歯が2つの部分の間に受け取られると共に1本又は複数本の不揃いな歯を有する歯列弓に本体部の着座を可能にするように、舌側部分及び顔側部分の一方が舌側部分及び顔側部分の他方から離れるよう弾性変形可能であり、それにより、使用時に、本体部の弾性変形された部分が、歯列弓の少なくとも1本の不揃いな歯に、舌側部分及び顔側部分の前記他方に向かう方向へ矯正力を印加するようにし、本体部の前記変形可能な部分は、前記不揃いな歯の歯冠の下部に印加される矯正力が不揃いな歯の歯冠の上部に印加される力を超えるように、構成される、歯科器具を提供する。
【0020】
第3の観点によれば、この発明は、歯列を矯正するための歯科器具であって、器具が1又は複数の不揃いな歯を有する歯列弓に着座するための本体部を含み、本体部は歯列弓に着座されたときに弾性変形をするように構成されると共に、前記弾性変形により、不揃いな歯の移動のために歯列弓内の少なくとも1本の不揃いの歯に矯正力を印加するように構成され、器具は前記少なくとも1本の不揃いの歯をおよそ1mmまで移動させるために構成される、歯科器具を提供する。
【0021】
第4の観点によれば、この発明は、歯列を矯正するための歯科器具であって、器具が少なくとも1本の不揃いな歯を有する歯列弓に着座するための弾性変形可能な本体部を含み、本体部は歯列弓に着座されたときに弾性変形をするように構成されると共に、歯列弓に着座されたときに前記弾性変形により歯列弓中の少なくとも1本の不揃いな歯の歯冠の下部に、不揃いな歯の歯冠の上部よりも大きな力を印加するために構成される、歯科器具を提供する。
【0022】
第5の観点によれば、この発明は、歯列を矯正するための歯科器具であって、器具が少なくとも1本の不揃いな歯を有する歯列弓に着座するための弾性変形可能な本体部を含み、本体部は着座されたときに当該本体部は弾性変形をするように構成されると共に、着座されたときに前記弾性変形により歯列弓中の少なくとも1本の不揃いな歯の歯冠の下部に矯正力を印加して不揃いな歯を移動させるように構成される、歯科器具を提供する。
【0023】
第6の観点によれば、この発明は、歯列を矯正するための器具の組であって、当該組は、これまで述べてきたような器具を複数含み、各器具は、漸進的な歯列矯正のために順次使用される、着座前及び着座状態を有する、組を提供する。
【0024】
好ましくは、その組の器具は、その凹部による、それぞれの不揃いな歯の歯冠の下部又は根元の収容に関する限り、一つの器具の本体部の着座前状態が当該組の次の器具の本体部の着座状態に実質的に相当するように、成形される。
【0025】
第7の観点によれば、この発明は、歯列を矯正するための器具を形成する方法であって、
器具は歯列弓に着座するための本体部を含み、
歯列弓中のそれぞれの不揃いな歯の要求される矯正後位置をも含むように、矯正前位置にある歯列弓の3次元表示を操作する段階、そして、
歯列弓中の歯の操作された3次元表示を基にして当該器具を形成する段階
であって、器具の本体部が歯を受け取るための凹部を備え、凹部が要求されるその矯正後位置にある不揃いな歯と、矯正前位置にある歯の少なくとも一部を収容する、段階
を含む方法を提供する。
【0026】
3次元表示を操作する前記段階は、それぞれの不揃いな歯の部分を除去して、操作された表示が矯正前位置にあるそれぞれの不揃いな歯の部分及び矯正後位置にあるすべての不揃いな歯の表示をするようにする段階を含むことが好ましい。操作モデルは不揃いな位置にあるそれぞれの不揃いな歯の上部を含むことが好ましい。
【0027】
前記方法は、前記3次元表示を操作する段階の前に、矯正前位置にある歯列弓中の歯の3次元表示を作成する段階を含むことが好ましい。その3次元表示は写真、X線などを用いて作成することができる。3次元表示は、コンピュータシミュレーションモデルの形式となるように、デジタル処理で作成でき、又は、物理モデルの形式となるよう手動で作成できる。
【0028】
器具の組を形成すべきとき、前記方法は、個々の器具の形成の後に、3次元表示を操作する段階を含むことが好ましい。
【0029】
この発明の第8の観点によれば、歯列を矯正する方法であって、不揃いな歯の歯冠の下部に弾性変形できる歯列矯正器具により矯正力を印加する段階を含む方法が提供される。
【0030】
当然、矯正力は、歯列が矯正されるように歯が移動される方向に、不揃いな歯に印加される。したがって、不揃いな歯は矯正前位置から矯正後位置に移動することとなる。
【0031】
一実施形態において、その方法は複数の歯を同時に矯正する段階を含む。
【0032】
第9の観点によれば、この発明は上述されたような器具を使う段階を含む、歯列を矯正する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】歯列を矯正するための器具の実施形態の頂面図。
【
図5】
図3に示される歯列弓の側面図上に重ね合わされた、
図1及び
図2に示される器具の部分断面図。
【
図6】
図3に示される歯列の矯正の間のある段階における、この発明による器具の部分断面図。
【
図7】
図3に示される歯列の矯正の間のある段階における、この発明による器具の部分断面図。
【
図8】
図3に示される歯列の矯正の間のある段階における、この発明による器具の部分断面図。
【
図9】
図3に示される歯列の矯正の間のある段階における、この発明による器具の部分断面図。
【
図10】
図3に示される歯列の矯正の間のある段階における、この発明による器具の部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
例示のみを目的として、この発明の好ましい実施形態を、添付の概略図面を参照しながら、以下に説明する。
【0035】
図面を参照すると、歯列を矯正するための器具の実施形態は全体が参照番号20で示されている。器具20は以下で更に記載されるように、使用時にマウスガードの一般的なやり方で歯列弓に着座する取り外し可能な器具であり、歯の不揃いを矯正するため弾性を利用する。以下により明らかになるように、器具20は、矯正を必要とする歯列を有する特定の歯の組に従って作られる特注品である。
【0036】
器具20は、細長い本体部22を具備し、この本体部22は、器具20が歯列弓に着座されたときに歯を収容するための凹部24を画定する。
【0037】
器具20の本体部22は全体的に、透明な薄壁の殻であって、平面図(
図1)の輪郭線で見たときに、歯列弓の概略的な輪郭に追従するように形成された殻の形をなしている。器具は図面では概略的に示されているが、実際は歯列弓中の歯の輪郭を追従するように形成される。この関連で、本体部22は断面図の輪郭線を見ると、当然のことながら実際は、歯の輪郭形状により、臼歯に関連付けられる箇所はほぼU字形状を、前歯に関連付けられる箇所はほぼV字形状を取る。
【0038】
本体部22は舌側部分26、顔側部分28及び舌側部分26と顔側部分28を接続する接続部分30を含む。器具20が単一物として構成されるように、種々の部分26、28及び30は互いに一体として形成されている。したがって本体部22の凹部24は舌側部分26、顔側部分28及び接続部分30の間に画定される。器具20の図示されている実施形態は下の歯列弓に使われるものであり、したがって接続部分30は本体部22の上端又は天面を、本体部22の下端、すなわち舌側部分26と顔側部分28の自由端同士の間に画定される端であって、凹部24内に歯が受け入れられるように開放している端と共に画定する。本体部22の内面、すなわち本体部22の凹部24に向かう面は、以下で言及されているように、歯列弓中の歯の輪郭に概ね追従している。したがって、図示と反して、器具20の本体部22は滑らかに形成される。
【0039】
次に
図3及び
図4を参照すると、患者の2本の下中切歯32、34及び1本の下側切歯36が平面図と側面図で示されている。これらの図中では歯冠のみが示されており、歯茎についても省略されている。同様のことが歯32、34及び36が示されている他の図についても適用される。図中、不揃いな中切歯32の矯正前位置を破線で、矯正後位置を実線で示す。不揃いな歯32は患者の口腔内部に向かう舌側表面32.1と、患者の口腔外部に向かう顔側表面32.2とを有する。同じく、歯34、36は、それぞれ参照番号34.1、34.2、36.1及び36.2で示される舌側表面及び顔側表面を有する。本体部22の舌側部分26は歯32、34、36の舌側表面32.1、34.1、36.1と関連付けられ、顔側部分28は歯32、34、36の舌側表面32.2、34.2、36.2と関連付けられる。図面からわかるように、矢印38で示されるように外側、すなわち顔側へ歯32を移動することにより、歯32の並びを歯34と36に対し矯正することが必要である。
【0040】
器具20は、口腔内使用に適し、かつ、前述の通り少なくとも部分的に弾性変形可能な材料により構成される。具体的には、図示の例では、少なくとも舌側部分26は、本体部22の長手方向に沿って不揃いな歯32と関連する箇所において弾性変形することができる。前記弾性により、本体部22は着座前状態(
図2、
図5及び
図10)を有し、本体部22、特にこの例において舌側部分26は、後述のように歯列弓に器具を適切に着座させることを可能にするために着座前状態から着座状態(
図6)へと弾性変形することができる。着座前状態(特に
図5参照)において、本体部22の凹部24は、矯正後位置にある不揃いな歯32と矯正前位置にある歯32の歯冠の少なくとも先端部分とを同時に収容する。したがって、本体部22の接続部分は、歯32の先端を、矯正前位置及び矯正後位置両方にある歯と同時に覆うのに、この場合はブリッジするのに、十分広くなっている。本体部22が着座前状態にあるときに、本体部22の舌側部分26は顔側部分28に向かって下側に傾いている。本体部22が着座状態に変形するために、舌側部分26は接続部分30回りに変形する。したがって、本体部22が着座状態に向けて変形されると、本体部22の前記開放下端が広げられる。
【0041】
次に特に
図5を参照すると、器具20の形成時、不揃いな歯32の矯正前位置(破線で示されている)も、矯正後位置(実線で示されている)、すなわち要求される歯列位置も、考慮される。詳しくは、器具20の形成のとき、歯列弓の3次元表示が形成され、各歯がその現在の位置、すなわち不揃いな歯の場合は矯正前位置に表現される。その3次元形状は次いで、矯正後位置における歯列弓中のそれぞれの不揃いな歯の表示を含み、かつ、矯正前位置にあるそれぞれの不揃いな歯の下部を除くように、操作される。不揃いな歯の矯正後位置は、要求される矯正の程度に応じて、最終的に要求される矯正位置、又はその中間的な矯正位置であってよい。次いで、(
図5で示すように)本体部が着座前状態にあるときに、凹部24が矯正前位置にある不揃いな歯32の歯冠の先端と矯正後位置にある歯32の全体とを同時に収容するように、そして、本体部22の着座状態にあるときに、凹部24が矯正前位置及び矯正後位置両方にある歯32の歯冠全体を収容するように、器具の本体部22が形成される。
【0042】
ひとつの実施形態では、操作された3次元表示は、器具20の形成のためのネガとして作用する、物理モデル形式のものである。もうひとつの実施形態では、操作された3次元表示はデジタルモデル、つまりコンピュータシミュレーションモデル形式のものであり、器具20を形成するために使われる。
【0043】
使用時に、
図6から
図10で図示されているように、器具20の本体部22が下歯列弓に着座されたときに、本体部22は着座状態に変形される。特に
図6からわかるように、そして上記で簡単に触れたように、本体部22の弾性構造は、矯正後位置にある不揃いな歯32を収容するための空間を同時に提供し続けながら、前記凹部24が着座状態にある本体部22と共に矯正前状態において歯32を収容するようにされており、その空間は歯列が矯正されるにつれて、歯32によって徐々に埋められてゆく。着座状態にあって下歯列弓の歯の着座された器具20の本体部22と共に、本体部22の顔側部分28は歯34及び36の顔側表面34.2及び36.2に係合する。次いで、舌側部分26は、歯32を要求される矯正後位置へ移動させるために、前記弾性変形により歯32の舌側表面32.1、特に歯32の歯冠の根元及び隣接する箇所に、係合し、矢印38の方向へ矯正力を印加する。本体部22が着座前状態から着座状態へ変形するときに、舌側部分26と接続部分30との間に形成される挟み角は増加する。当該本体部が着座前状態に戻り、歯32がその矯正後位置の方向に移動されるにつれて、前記挟み角は減少する。
【0044】
歯32は歯列矯正時に、その先端又はその隣接箇所に大きな矯正力を印加することによって起こり得る歯32の傾斜移動とは対照的に、歯32の歯冠の根元及びその隣接箇所に印加される矯正力によって、歯体移動される。
【0045】
歯の不揃いの程度に応じて、器具20のシリーズであって、各器具20が不揃いな歯を漸進的に移動させるのに設けられる、器具20のシリーズを使うことが必要になり得る。この関連で、1mmまでの歯の移動は、単一の器具20によって達成できると予想される。そのような組において、凹部24によるそれぞれの不揃いな歯の歯冠の下部又は根元の収容に関する限り、一つの器具20の本体部22の着座前状態が実質的には組の後続の器具20、つまり前記一つの器具20の後に使われる別の器具20の本体部22の着座状態に相当するように、器具20は成形される。
【0046】
簡潔に器具の形成に振り返ってみれば、当然のことながら、不揃いな歯の矯正中間位置が作用し始めるように、一組の器具20が形成されるときには、様々の器具20を形成するときに、前記矯正中間位置が考慮される。すなわち、器具20の形成に使われるモデルは、それぞれの器具20の形成後に操作される。
【0047】
ここでは特に下前歯に関連した説明及び図示を例として取り上げているが、当然のことながら、上歯列弓又は下歯列弓いずれの歯列矯正についても適応できる。同様に、この例では不揃いな歯32は顔側方向、つまり口腔外側方向に移動されるが、当然のことながら、器具20を、不揃いな歯を舌側方向、つまり口腔内側方向に移動させるためにも同様に有利に使用できる。実際は、歯列弓内の不揃いな歯はそれぞれ同時に顔側方向にも、舌側方向にも移動することができる。更に当然のことながら、実施形態の図示された例は不揃いな歯の並進移動、つまり舌側方向又は顔側方向への移動を扱っているが、記載されている型の器具を歯の回転移動、つまり歯の長手方向軸周りの移動をするように同様に有利に使用できる。同様に、器具20を、歯を横方向に移動させ、又は、並進、回転及び横方向の移動のうち1つ又はそれ以上の組み合わせを行うのに用いることができる。
【0048】
ここに示された器具の特別な構成により、不揃いの歯の大幅な移動を単一の器具を用いることにより得ることができる。さらには、器具が歯列弓の歯に正確に着座するので、歯列弓中の歯に器具によりかかる矯正力を予想することができ、それにより、過剰の矯正力による、器具及び患者の歯茎の組織の一方又は両方の破損の危険性が低下する。
【0049】
この発明は好ましい実施形態を参照して記載されているが、当業者には当然のことながらこの発明は他の多くの形態を取ってもよい。