(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電子部品や半導体製品を製造する過程においては、真空装置内で薄膜を形成したりエッチングしたりするプロセスが不可欠である。ここで、真空装置内圧力を一定に保ちながらプロセスを進めるのが普通である。プロセス中における真空装置内の圧力を測定するための圧力計としては、気体の種類に関係無く正確な圧力測定が可能な隔膜型圧力計がしばしば用いられる。
【0003】
図10に従来の隔膜型圧力計の構造の一例を示す(特許文献1)。このような単一のダイヤフラム構造の隔膜型圧力計の圧力測定範囲は、2〜4桁程度である。これは、低い圧力領域側では隔膜の変位量が微少となり、また高い圧力領域側ではダイヤフラムの変異が圧力に比例しなくなるためである。そのため、このような隔膜型圧力計でより広い圧力領域を測定する場合には、測定圧力領域の異なる隔膜型圧力計を複数台用意し、それぞれの圧力計の出力電圧を個々に測定することによって圧力測定を行う必要がある。ところで、特許文献1の隔膜型圧力計では、ダイヤフラム電極4(隔膜型圧力検出素子)の中心から外れた位置に対向して補正電極10を備えている。固定電極5で検出される静電容量を補正電極10で検出される静電容量で補正することで環境温度が圧力測定に与える影響を低減している。しかしながら、この補正電極の機能を動作させても環境温度変動による出力電圧の変動は避けられない。そこで、隔膜型圧力計は、この変動量を修正するためのボリュームやスイッチを備えている。
【0004】
一方、
図11に示すように、2つの隔膜型圧力検出素子を有する隔膜型圧力計が知られている(特許文献2)。特許文献2の隔膜型圧力計は、半導体製造プロセス技術を応用したマイクロマシン技術によって作製されたものである。絶縁基板13とシリコン基板14(弾性構造8と剛性構造11で構成されている)を張り合わせた真空センサチップの大きさは、数mm〜数10mm程度、厚さは1mm程度である。測定レンジの異なる2つの隔膜型圧力検出素子を組み合わせることにより、1台の隔膜型圧力計でより広い圧力領域を測定することができるように構成されている。特許文献2のような隔膜型圧力計では、2つの隔膜型圧力検出素子のそれぞれに設けた補正電極によって、環境温度変動による静電容量を隔膜型圧力検出素子ごとに補正するのが一般的である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
添付図面は明細書に含まれ、その一部を構成し、本発明の実施の形態を示し、その記述と共に本発明の原理を説明するために用いられる。
【
図1】本発明の一実施形態に係る隔膜型圧力計の概略図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る隔膜型圧力計の概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る隔膜型圧力計Gのシステム構成図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る測定圧力と静電容量のデジタル値の関係図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る隔膜型圧力計の測定圧力とI/O出力信号の関係図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る測定圧力と静電容量のデジタル値の関係図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る隔膜型圧力計の測定圧力と圧力のデジタル値の関係図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る隔膜型圧力計のフローチャートである。
【
図9】
図8のS009での処理のフローチャートである。
【
図10】従来の隔膜型圧力計の構造の一例を示す概略図である。
【
図11】従来の隔膜型圧力計の構造の他の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に本発明の一実施形態に係る隔膜型圧力計Gを示す。隔膜型圧力計Gは、真空装置2に内部空間が連通された筐体3、筐体3内に配設された隔膜型圧力検出ユニット18、隔膜型圧力検出ユニット18からの出力値を圧力値として検出する電気回路7を主要な構成要素として有している。筐体3と電気導入端子9によって大気側の空間と真空側の空間とが分離され、隔膜型圧力検出ユニット18のダイヤフラム電極41、42は真空側の空間に配置され、電気回路7は大気側の空間に配置されている。電気回路7は電気出力端子12を介して外部の制御装置や表示装置と接続されている。I/O信号端子17は、電気出力端子12より出力される電気信号が固定電極5a、5bのいずれの固定電極によって測定された出力であるのかを示す情報を外部に出力する。
【0013】
隔膜型圧力検出ユニット18は、例えば、半導体製造プロセス技術を応用したマイクロマシン技術によって作製されうる。単一のシリコン基板上に複数のダイヤフラム電極41、42が形成され、それらのダイヤフラム電極41、42はそれぞれ異なる圧力領域に対して検出感度を持っている。複数のダイヤフラム電極41,42による圧力検出範囲を相互に異ならせるために、それらの面積が相互に異なる。これらのダイヤフラム電極41、42に対向して固定電極5b、5aが絶縁基板13上に配置されており、これらの固定電極5b、5aとダイヤフラム電極41、42との間の静電容量に基づいて圧力が検出される。固定電極5aとダイヤフラム電極42とによって1つの隔膜型圧力検出素子(低圧側センサあるいは第1センサ)が構成され、固定電極5bとダイヤフラム電極41とによって他の1つの隔膜型圧力検出素子(高圧側センサあるいは第2センサ)が構成されている。
【0014】
低圧側センサ(第1センサ)の一部として機能するダイヤフラム電極42は低い圧力領域(第1圧力範囲)で高い感度を有し、高圧側センサ(第2センサ)の一部として機能するダイヤフラム電極41は高い圧力領域(第2圧力範囲)で高い感度を有している。後述するが、本実施形態において低圧側センサでの圧力測定結果を出力する範囲は0.01〜100Paであり、高圧側センサの圧力測定結果を出力する範囲は100〜100000Paとして設定されている。ただし、低圧側センサと高圧側センサでの圧力測定できる範囲(第1圧力範囲と第2圧力範囲)は、それぞれの圧力測定結果を出力する範囲よりも広く、第1圧力範囲と第2圧力範囲は重複範囲を有している。
【0015】
図2に本発明の他の実施形態に係る隔膜型圧力計G2を示す。隔膜型圧力計G2は、互いに分離された2つの隔膜型圧力検出素子を備えている点で
図1に示した隔膜型圧計Gと異なっている。これらの隔膜型圧力検出素子22a、22bは、相互に独立したシリコン基板24a、24b上に形成されており、これらの隔膜型圧力検出素子22a、22bの圧力検出範囲を異ならせるために、ダイヤフラム電極41a、42aは、それらの厚さが相互に異なる。なお、これらのダイヤフラム電極41a、42aの面積は、相互に同じでありうる。
【0016】
図2において、例えば、ダイヤフラム電極42aの大きさを7mm角とし、ダイヤフラム電極42aと固定電極5aとの間の距離を9μmとした場合、ダイヤフラム電極42aの厚さを22μmとすればフルスケール圧力が100Paの隔膜型圧力検出素子22bを得ることができる。同様に、ダイヤフラム電極41aを7mm角、ダイヤフラム電極41aと固定電極5bとの間の距離を9μm、ダイヤフラム電極41aの厚さを200μmとすればフルスケール圧力が100,000Paの隔膜型圧力検出素子22aを得ることができる。隔膜型圧力検出素子22b、22aはマイクロマシン技術で製造されうるが、機械加工によって製造した隔膜型圧力検出素子を使用しても同様の効果が得られる。また、
図4,5は隔膜型圧力計Gについて説明されているが、
図4,5を参照した説明において、隔膜型圧力計G2については「ダイヤフラム電極41,42」の記載を「ダイヤフラム電極41a,42a」と読み替えるものとする。
【0017】
図3に隔膜型圧力計Gのシステム構成図を示す。隔膜型圧力計Gの制御回路は、隔膜型圧力検出素子32、33、C/Dコンバータ21、CPU(中央演算ユニット)23、温度センサ28、測定圧力調整装置27、メモリ25、D/Aコンバータ29、I/O出力端子31を有して構成されている。圧力検出素子32は、隔膜型圧力計Gでは、ダイヤフラム電極42と固定電極5aで構成されているコンデンサ構造(低圧側センサ)を有する。圧力検出素子33は、隔膜型圧力計Gでは、ダイヤフラム電極41と固定電極5bで構成されるコンデンサ構造(高圧側センサ)を有する。一方、隔膜型圧力計G2では、圧力検出素子32は、ダイヤフラム電極42aと固定電極5a構成されるコンデンサ構造を有し、圧力検出素子33は、ダイヤフラム電極41aと固定電極5bで構成されるコンデンサ構造を有する。C/Dコンバータ21は圧力検出素子32、33のそれぞれに対して1つ設けられており、圧力検出素子32、33から出力された静電容量値をデジタル値に変換するものである。メモリ25はCPU23による書き込みと読み出しが可能な記憶装置である。D/Aコンバータ29はCPU23から出力されたデジタル値をアナログ値に変換するものである。
【0018】
圧力検出素子32、33から出力されたアナログ信号(静電容量値)は、C/Dコンバータ21でデジタル値(静電容量値のデジタル値)に変換されてCPU23に送られる。CPU23は、C/Dコンバータ21から供給される静電容量値を示すデジタル値を、温度センサ28による測定値、測定圧力調整装置27からの信号及びメモリ25からの信号に基づいて処理することによって圧力値を示すデジタル値に変換し、それをD/Aコンバータ29に送る。D/Aコンバータ29は、入力された圧力値を示すデジタル値に対応する出力信号(圧力値を示す電圧値)をアナログ値として電気出力端子12から出力する。このとき、電気出力端子12から出力される信号が圧力検出素子32、33のいずれの素子によって測定された出力であるのかを示す情報をI/O出力端子31から併せて外部に出力する。
【0019】
隔膜型圧力検出素子18のダイヤフラム電極41,42は2つに限らず、3以上の数であってもよい。圧力検出素子32、33が圧力値を静電容量値として出力(第1センサまたは第2センサからの出力)する場合、圧力検出素子32、33は、静電容量値をデジタル値に変換するC/Dコンバータ21に接続される。また、圧力検出素子32、33が圧力値を電圧値として出力する素子である場合は、圧力検出素子32、33は、C/Dコンバータ21の代わりにA/Dコンバータに接続され、CPU23には電圧値を示すデジタル値が供給される。
【0020】
各圧力検出素子32、33の出力は、圧力の他に環境温度によっても変化しうる。そのため、各圧力検出素子32、33の環境温度(環境温度は
図3中に示した温度センサ28によって検知される)毎のデジタル値の出力特性を予めデータとして採取しておき、その温度特性データがメモリ25の中に保存されている。なお、測定圧力調整装置27については後述する。
【0021】
図4に、測定圧力と各C/Dコンバータ21から出力される静電容量のデジタル値との関係を示す。図中、特性Aはフルスケール圧力が100Pa、特性Bはフルスケール圧力が100,000Paの圧力検出素子の出力特性である。隔膜型圧力計G、G2では、固定電極5aを有する圧力検出素子(低圧側センサあるいは第1センサ)の出力が特性A、固定電極5bを有する圧力検出素子(高圧側センサあるいは第2センサ)の出力が特性Bである。測定圧力が100Paよりも高い領域では、フルスケール圧力が100,000Paである固定電極5bを有する圧力検出素子によって検出される圧力の出力信号(静電容量のデジタル値)をCPU23で処理して圧力値を示すデジタル値を発生する。一方、測定圧力が100Paよりも低い領域では、フルスケール圧力が100Paである固定電極5aを有する圧力検出素子によって検出される圧力の出力信号(静電容量のデジタル値)をCPU23で処理して圧力値を示すデジタル値を発生する。そして、その圧力値を示すデジタル値をD/Aコンバータ29の出力端子から圧力値を示す電圧値(アナログ値)として出力する。CPU23は、温度センサ28からを提供される温度を示す信号とメモリ25内の温度特性データとに基づいて、圧力値を示すデジタル値を補正して出力する。つまり、CPU23は、環境温度による誤差が低減された圧力値を示すデジタル値を出力する。よって、D/Aコンバータ29の出力端子からは、環境温度による誤差が低減された値(圧力値)が出力される。
【0022】
結果として、隔膜型圧力計Gは、
図4で示した圧力−出力電圧特性を有する。隔膜型圧力計Gは、
図5で示したI/O出力信号をI/O出力端子31から出力する。このI/O出力信号によって固定電極5aを有する圧力検出素子と固定電極5bを有する圧力検出素子のうちいずれの圧力検出素子による検出結果がD/Aコンバータ29の出力端子から出力されているかが示される。
図5中では、低電圧(Low)は、低圧側の圧力検出素子(固定電極5a)の検出結果(第1圧力値)がD/Aコンバータ29から出力されているときのI/O出力信号を示している。一方、高電圧(High)は、高圧側の圧力検出素子(固定電極5b)の検出結果(第2圧力値)がD/Aコンバータ29から出力されているときのI/O出力信号を示している。なお、I/O出力信号が示す圧力検出素子は、この逆であっても問題はない。
【0023】
ところで、
図4中に灰色で示した領域Eは環境温度が±10℃変動したときに、D/Aコンバータ29から出力される圧力検出素子32、33の検出圧力値(静電容量のデジタル値)が変動する範囲を示している。
図4中に領域Zで示した100Paから1000Pa付近の測定圧力の測定誤差が大きいことが分かる。また、高圧側の圧力検出素子(固定電極5b)は100Pa以下では誤差は大きいが圧力測定は可能である。すなわち、高圧側の圧力検出素子と低圧側の圧力検出素子の重複範囲は100Pa以下の領域(0〜100Pa)である。そこで隔膜型圧力計Gは、測定圧力が100Pa以下の圧力領域において、低圧側の圧力検出素子(固定電極5a)の検出圧力値(静電容量のデジタル値、第1圧力値)に基づいて高圧側の圧力検出素子(固定電極5b)の検出圧力値(静電容量のデジタル値、第2圧力値)を常時補正するように構成されている。
【0024】
図6は測定圧力とCPU23から出力される静電容量のデジタル値との関係を示す図であり、固定電極5aを有する圧力検出素子の静電容量のデジタル値に基づいて固定電極5bを有する圧力検出素子の静電容量のデジタル値が補正されている。この補正によって隔膜型圧力計Gは、
図6で示されるように、測定圧力100Paから1000Pa付近の高圧側の圧力検出素子(固定電極5b)の検出圧力値(静電容量のデジタル値)の精度が上昇している。固定電極5bの検出圧力値(第2圧力値)を補正する具体的な構成については後述する。
【0025】
一方、
図7に示すように測定圧力の全域で圧力の対数値に対してCPU23から出力される圧力のデジタル値が直線関係になるように、隔膜型圧力計Gを構成することも可能である。具体的には、CPU23から出力される圧力のデジタル値は、
図4の縦軸(静電容量のデジタル値)の出力電圧の1桁の圧力変化を0.5Vの出力電圧変化に換算して出力させている。なお、
図7においても灰色で示した部分は環境温度変動によって生ずる圧力測定誤差の一例を示しているが、
図7は上述の
図6の特性を元にして算出される圧力なので、
図6で示した100Paから1000Pa付近での圧力測定誤差の増大は解消されている。
【0026】
ここで、測定圧力調整装置27(外部入力手段)について説明する。測定圧力調整装置27は測定圧力がゲージのフルスケール圧力の1/10以下のような低い領域での圧力測定誤差を強制的に調整する装置であり、
図3に示すようにCPU23に接続されている。例えば、圧力が0.01Pa以下の測定圧力においてCPU23からD/Aコンバータ29に出力される圧力のデジタル値が強制的に0〜0.001Vとなるように調整することにより、圧力が1Pa以下での圧力測定誤差を軽減できるようになっている。具体的には、測定圧力調整装置27からの信号をCPU23が受信すると、CPU23は、CPU23からD/Aコンバータ29に出力される圧力のデジタル値を0〜0.001Vに調整する。測定圧力調整装置27がCPU23に対して信号を出力する条件は、例えば、測定圧力調整装置27に設けられているプッシュボタンがユーザーによって押された場合である。
【0027】
すなわち、測定圧力調整装置27はユーザーが外部から強制的に圧力値を設定するために使用される装置である。例えば、隔膜型圧力計Gのゼロ点に誤差が生じている場合は真空チャンバを十分に低い圧力まで排気してプッシュボタンを押す、または、トリマを調整して強制的に低圧側センサ(ダイヤフラム電極42)の圧力測定値を所定の圧力値として再設定するものである。測定圧力調整装置27がプッシュボタンを有する構成であることでゼロ点の調整が簡便に行え、使い勝手が向上する。
【0028】
圧力が0.01Pa以下であることは、例えば、B−Aゲージなどの高真空圧力測定用の真空計を使用して検知することができる。場合によっては、排気系の構成と真空チャンバの大きさから圧力が0.01Pa以下になる時間を推測若しくは測定し、その時間にプッシュボタンが押されるようにしてもよい。もちろん、圧力が0.01Pa以下になったことを真空計で検知して、測定圧力調整装置27がCPU23に対して信号を出力する構成としてもよいことはもちろんである。
【0029】
ところで、隔膜型圧力計Gは低い圧力領域においては出力電圧がマイナス値となることもあり得る。つまり、圧力が0.1Pa以下の圧力領域においては隔膜型圧力計Gの出力電圧値はマイナス出力となり、現実にはありえない測定結果(圧力のマイナス値)を示す可能性がある。そこで、CPU23は、圧力測定値がマイナスの値と計算された場合は、測定値調整装置27を動作させて強制的にその圧力値を限りなくゼロに近い正の値(例えば0.0001Pa等)に換算して自己の実圧力値と測定圧力の誤差を修正する機構とすることができる。
【0030】
次に固定電極5bを有する圧力検出素子の検出圧力値を補正する構成について説明する。
図8は固定電極5bを有する圧力検出素子の検出圧力値を補正するフローチャートを示したものである。なお、
図8の説明において「圧力測定値」は、例えば、検出圧力値(静電容量のデジタル値)であり、固定電極5a、5bなどの静電容量に比例した値(第1圧力値,第2圧力値)とする。隔膜型圧力計Gで測定を開始(S001)すると、S002で測定圧力調整装置27(外部入力手段)からの命令があるか否かが判断される。S002での判断結果がYesの場合、処理はS003に進む。S003では、そのときの低圧側センサ(固定電極5aを有する圧力検出素子)の圧力測定値を強制的に所定の圧力設定値に設定するとともに、その所定の圧力設定値をメモリ25に保存し、S004で圧力測定値を表示装置やパソコンなどに出力する。
【0031】
測定圧力調整装置27をゼロ点設定手段として使用する場合について以下に説明する。所定の圧力設定値を0.01Paとすれば、S004では低圧側センサ(固定電極5a)の圧力測定値が0.01Paに相当する圧力のデジタル値としてCPU23から出力される。本実施形態では、測定圧力調整装置27が動作すると、0.01Paに相当する圧力のデジタル値がCPU23からD/Aコンバータに出力されるとともに、そのときの低圧側センサ(固定電極5a)の圧力測定値が0.01Paに相当する圧力測定値としてメモリ25に保存される。本実施形態では所定の圧力設定値を0.01Paとしたが、0Paや0.001Paでもよいことはもちろんである。測定圧力調整装置27をゼロ点設定手段以外に使用する場合は、この所定の圧力設定値をユーザーが設定変更する。
【0032】
S002での判断結果がNoの場合、S005で低圧側センサ(固定電極5a)の圧力測定値はフルスケール(100Pa)以下か否かが判断され、S005での判断結果がYesの場合、処理はS006に進む。S006では、固定電極5bを有する圧力検出素子(高圧側センサあるいは第2センサ)の圧力測定値から算出した圧力値と固定電極5aを有する圧力検出素子(低圧側センサあるいは第1センサ)の圧力測定値から算出した補正値(圧力の差分に対応する信号量)をメモリ25に保存する処理が行われる。後述するS009において補正値を用いて高圧側センサ(固定電極5bを有する圧力検出素子)の圧力測定値をS005の低圧側センサの圧力測定値を用いて補正する。具体的には高圧側センサの圧力測定値に補正値を加算することで補正している。S007では、低圧側センサ(固定電極5aを有する圧力検出素子)の圧力測定値に相当する圧力のデジタル値をCPUから出力する。S007では温度センサ25とメモリ内のデータを参照するので、CPU23から出力される圧力のデジタル値は環境温度による影響が補正されている。
【0033】
S005での判断結果がNoの場合、処理はS008に進む。S008では高圧側センサ(固定電極5bを有する圧力検出素子)の圧力測定値はフルスケール(100000Pa)以下か否かが判断される。S008での判断結果がYesの場合、処理はS009に進む。S009では、S006でメモリ25に保存された補正値を用いて、高圧側センサ(固定電極5b)の圧力測定値から算出した圧力値を補正してD/Aコンバータ29の出力端子から出力する。S008での判断結果がNoの場合、処理はS010に進む。S010ではオーバーレンジである信号、若しくは、高圧側センサの測定圧力値を出力する。なお、上述したフローチャートの処理(S001〜END)は常時繰り返し実行される。
【0034】
ここで、
図9に基づいてS009の補正処理について説明する。
図9はS009での処理のフローチャートである。まず、CPU23は高圧側センサ(固定電極5bを有する圧力検出素子)33に接続されているC/Dコンバータ21から出力された値D1を読み込み(S102)、次に、温度センサ28からの出力値D2とメモリ25に保存されている補正値δを読み込む(S103,S104)。CPU23はこれらのD1,D2,δの値に基づいて圧力値を計算し(S105)、その圧力値をD/Aコンバータ29を通して外部に出力する(S106)。ここで、低圧側センサ32が動作する毎に、最新の補正値δがメモリ25に上書きされる。すなわち、測定雰囲気の圧力が低圧側センサ32の測定圧力範囲まで低下する毎に補正値δが更新されるため、高圧側センサ33が動作する圧力領域での圧力測定値は安定且つ正確なものとなる。
【0035】
次に高圧側センサ33の圧力値を補正する具体的な構成について説明する。上述のように、補正値(信号量)δは、低圧側センサ32の測定圧力範囲内の任意の圧力で測定された低圧側センサ32の圧力測定値から算出した圧力値と、その圧力での高圧側センサ33の圧力測定値から算出した圧力値の差分に対応する高圧側センサ33の信号量である。補正値δの取得手順について説明すると、まず低圧側センサ32のC/Dコンバータ21から出力されたデジタル値(静電容量のデジタル値)から換算される圧力値を低圧側センサ32の圧力測定値(第1圧力値)とする。一方、高圧側センサ33のC/Dコンバータ21から出力されたデジタル値(静電容量のデジタル値)から換算される圧力値を高圧側センサ33の圧力測定値(第2圧力値)とする。そして、低圧型センサ32の圧力測定値と高圧側センサ33の圧力測定値の差(差分)を取得し、それらの測定圧力差を高圧側センサ33のデジタル値に換算した値が補正値(信号量)δである。
【0036】
補正値(信号量)δを取得する際に測定する圧力(所定圧力)は、低圧側センサ32の測定圧力範囲(第1圧力範囲)内の任意の圧力であるが、高圧側センサ33と切り替わる圧力に近い方、すなわち低圧側センサ32の測定圧力範囲の上限近くであることが望ましい。これは高圧側センサ33の測定誤差を最小にできるからである。なお、本実施形態での低圧側センサ32の測定圧力範囲は100Pa以下であるため、補正値δを取得する際に測定する圧力(所定圧力)は100Paであることが望ましい。これにより、D/Aコンバータ29から出力される値が、低圧側センサ32に基づく測定値から高圧側センサ33に基づく測定値に切り換わる圧力(100Pa)における高圧側センサ33の誤差を最小にできる。
【0037】
本実施形態においては、圧力検出素子(ダイヤフラム電極と固定電極で構成されるコンデンサ構造)を2つとして説明したが、本発明は3つ以上のダイヤフラム電極を有する構成にも適用することができ、より広い範囲の圧力をより正確に求めることが可能となる。
【0038】
本発明の隔膜型圧力計によれば、補正値を取得する際の測定圧力は低圧側センサの測定圧力範囲内の任意の一箇所でよいため、補正値の取得操作を容易にでき、比較的簡便な装置構成で広い圧力範囲に渡り高精度な圧力計を構成することができる。また本発明の隔膜型圧力計が測定する空間の圧力が、低圧側センサに基づく測定値から高圧側センサに基づく測定値に切り換わる圧力(上述の実施形態では100Pa)を通過するときに自動的に補正値を取得するように構成することで補正作業を簡便に行える。そのため、使い勝手のよい隔膜型圧力計を提供できる。
【0039】
本発明の隔膜型圧力計によれば、1台で広い範囲の圧力を測定することができる。また、環境温度変動による測定誤差も補正することができる。更に測定圧力調整装置27を用いることで測定圧力がマイナス値になることを防ぎ、自己の出力電圧値を調整できる。
【0040】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために、以下の請求項を添付する。
【0041】
本願は、2011年10月5日提出の日本国特許出願特願2011−220565を基礎として優先権を主張するものであり、その記載内容の全てを、ここに援用する。