特許第5798228号(P5798228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798228
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】乗用草刈機
(51)【国際特許分類】
   A01D 34/66 20060101AFI20151001BHJP
   A01D 34/76 20060101ALI20151001BHJP
   A01D 34/64 20060101ALI20151001BHJP
   A01D 34/78 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   A01D34/66 A
   A01D34/76 E
   A01D34/64 A
   A01D34/78 Z
【請求項の数】4
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-185557(P2014-185557)
(22)【出願日】2014年9月11日
(62)【分割の表示】特願2012-553552(P2012-553552)の分割
【原出願日】2011年8月23日
(65)【公開番号】特開2014-223090(P2014-223090A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2014年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-9072(P2011-9072)
(32)【優先日】2011年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-107523(P2011-107523)
(32)【優先日】2011年5月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090893
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 敏
(72)【発明者】
【氏名】八坂 賢史
(72)【発明者】
【氏名】海老原 智幸
【審査官】 植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0059879(US,A1)
【文献】 特開2007−14250(JP,A)
【文献】 特開2010−230083(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/140929(WO,A1)
【文献】 米国特許第6484481(US,B1)
【文献】 特開平8−215554(JP,A)
【文献】 特開2005−223320(JP,A)
【文献】 特開平5−15230(JP,A)
【文献】 特開昭62−55012(JP,A)
【文献】 特開2001−275440(JP,A)
【文献】 特開2011−142842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D34/00−34/90
A01F29/12
F04D27/00−27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのモアブレードと、
前記2つのモアブレードを上方より覆うモアデッキと、
前記2つのモアブレードのそれぞれに対し、それぞれの回転軸が連結された2つのモータとを備え、
前記2つのモアブレードを隣接して備えるとともに、
少なくとも前記2つのモアブレードの回転方向は、互いに逆向きであり、
前記2つのモアブレードの回転数は、それぞれ変更可能であり、
前記2つのモアブレードの少なくともいずれか一方の回転数は、所定の周期で変動可能であり、
前記所定の周期を設定する調節部を備えることを特徴とする、乗用草刈機。
【請求項2】
前記乗用草刈機の走行操作をする走行操作レバーを有し、
前記調節部を前記走行操作レバーに備えることを特徴とする、
請求項に記載の乗用草刈機。
【請求項3】
バッテリーを備え、
前記バッテリーによって走行するとともに、
前記2つのモータは、前記バッテリーによって駆動する電動モータであることを特徴とする、請求項1または2に記載の乗用草刈機。
【請求項4】
エンジンを備え、
前記エンジンによって走行するとともに、
前記2つのモータは、前記エンジンによって駆動する油圧モータであることを特徴とする、請求項1または2に記載の乗用草刈機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モアブレードと、モアブレードを上方より覆うモアデッキと、モアブレードを回転させるモータとを備える乗用草刈機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用のローンモア(乗用草刈機)は、モアデッキ内に略水平に回転自在に備えられた2つのモアブレードをエンジン動力にて回転させて芝を刈っていた。そして、刈った芝を後方に向かって排出するように構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平11−509798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
左右2つのモアブレードは、ローンモアの機体の内側に向かう向きに高速で回転することで芝を切るとともに、モアデッキ内に後方へ向かう風の流れを形成し、刈った芝をその風の流れに乗せてモアデッキの後方から排出するように構成されている。2つのモアブレードは、通常、ローンモアの機体に対して、一方が他方の斜め前方となるように配置される。このため、2つのモアブレードが描くそれぞれの回転軌跡が最接近する箇所における2つの回転軌跡の接線の方向は、ローンモアの車幅方向に対して一定の角度をもつことになる。2つのモアブレードがおこす風が回転軌跡が最接近する箇所において合成され、合成風となって後方へ向かう。この合成風は、上記2つのモアブレード回転軌跡の接線の方向と略一致する。したがって、刈った芝を所望の方向、特に、ローンモアの真後ろに向けて排出することができないという問題があった。
【0005】
そこで、この発明の目的は、刈った草を所望の方向に排出することを可能とした乗用草刈機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の乗用草刈機は、
少なくとも2つのモアブレードと、
前記2つのモアブレードを上方より覆うモアデッキと、
前記2つのモアブレードのそれぞれに対し、それぞれの回転軸が連結された2つのモータとを備え、
前記2つのモアブレードを隣接して備えるとともに、
少なくとも前記2つのモアブレードの回転方向は、互いに逆向きであり、
前記2つのモアブレードの回転数は、それぞれ変更可能であることを特徴とする。
【0007】
更に、前記2つのモアブレードの少なくともいずれか一方にハネを設けることを特徴とする。
【0008】
更に、前記2つのモータは、前記モアデッキ上に載置され、
前記2つのモータのそれぞれの回転軸に、前記2つのモアブレードがそれぞれ固設されることを特徴とする。
【0009】
更に、前記2つのモアブレードの回転数は、前記乗用草刈機の車速に応じて増減することを特徴とする。
【0010】
更に、前記2つのモアブレードの少なくともいずれか一方の回転数は、所定の周期で変動可能であり、
前記所定の周期を設定する調節部を備えることを特徴とする。
【0011】
更に、前記乗用草刈機の走行操作をする走行操作レバーを有し、
前記調節部を前記走行操作レバーに備えることを特徴とする。
【0012】
更に、バッテリーを備え、
前記バッテリーによって走行するとともに、
前記2つのモータは、前記バッテリーによって駆動する電動モータであることを特徴とする。
【0013】
更に、エンジンを備え、
前記エンジンによって走行するとともに、
前記2つのモータは、前記エンジンによって駆動する油圧モータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の乗用草刈機によれば、少なくとも2つのモアブレードと、前記2つのモアブレードを上方より覆うモアデッキと、前記2つのモアブレードのそれぞれに対し、それぞれの回転軸が連結された2つのモータとを備え、前記2つのモアブレードを隣接して備えるとともに、少なくとも前記2つのモアブレードの回転方向は、互いに逆向きであり、前記2つのモアブレードの回転数は、それぞれ変更可能であるので、2つのモアブレードがそれぞれおこす風の合成風に乗せて刈った草を運ぶことができる。そして、この合成風の方向は、2つのモアモータの回転数を変更することで調節することができ、モアブレードの構造を複雑にすることなく、刈った草を所望の方向に排出することができる。また、2つのモアブレードのそれぞれに対応してモータを備えるため、2つのモアブレードの回転数をそれぞれ変更することが容易である。
【0015】
更に、本発明の乗用草刈機によれば、前記2つのモアブレードの少なくともいずれか一方にハネを設けるので、ハネが設けられたモアブレードがおこす風の量を効果的に大きくすることができ、2つのモアモータの回転数が同じであっても刈った草を所望の方向に排出することが可能となる。また、刈った草をより遠方に排出することも可能となる。
【0016】
更に、本発明の乗用草刈機によれば、前記2つのモータは、前記モアデッキ上に載置され、前記2つのモータのそれぞれの回転軸に、前記2つのモアブレードがそれぞれ固設されるので、モアブレードとモータとが直結した簡易な構成であり、製造及びメンテナンス性に優れる。
【0017】
更に、本発明の乗用草刈機によれば、前記2つのモアブレードの回転数は、前記乗用草刈機の車速に応じて増減するので、車速の影響を受けることなく草を確実に刈ることができるとともに、エネルギー効率を向上することができる。
【0018】
更に、本発明の乗用草刈機によれば、前記2つのモアブレードの少なくともいずれか一方の回転数は、所定の周期で変動可能であり、前記所定の周期を設定する調節部を備えるので、刈った草を所定の幅を有する所望の方向に満遍なく排出することが可能となる。そして、刈り取られた草が、一定の方向に向けて排出されことがなくなり、刈り取られた草の畝ができてしまうようなことがなくなる。これによって、刈り取られた草が容易に乾燥して、刈り取られた草の下に位置する草の生育を妨げることがなくなる。
【0019】
更に、本発明の乗用草刈機によれば、前記乗用草刈機の走行操作をする走行操作レバーを有し、前記調節部を前記走行操作レバーに備えるので、乗用草刈機の走行操作と調節部の操作とが同時にかつ容易に行え、乗用草刈機の操作性が向上する。
【0020】
更に、本発明の乗用草刈機によれば、バッテリーを備え、前記バッテリーによって走行するとともに、前記2つのモータは、前記バッテリーによって駆動する電動モータであるので、エンジン駆動の乗用草刈機のようにエンジン燃焼に伴う排気ガスが発生せず、地球温暖化防止など環境問題の改善に貢献することができる。また、モアブレードの回転数の制御を容易に行うことができる。
【0021】
更に、本発明の乗用草刈機によれば、エンジンを備え、前記エンジンによって走行するとともに、前記2つのモータは、前記エンジンによって駆動する油圧モータであるので、電動で駆動する場合の課題、すなわち、バッテリーの重量がかさむ、バッテリー充電ステーションが限られている、モータやバッテリーなどを制御する電装品の加熱によるこれらの誤作動などを回避した乗用草刈機を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明の乗用草刈機の第1実施例としての電動ローンモアの側面図である。
図2図1の平面図である。
図3図1の要部拡大側面図である。
図4】モアデッキ付近の拡大平面図である。
図5】モアデッキの斜視図である。
図6】(a)〜(c)は左側のモアブレードの図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のA矢視側面図、(c)は平面図、(d)は右側のモアブレードの斜視図である。
図7】モアデッキ内の風の流れを説明するための図である。
図8】第2実施例の電動ローンモアのモアデッキ内の風の流れを説明するための図である。
図9】第3実施例の電動ローンモアのモアブレードの斜視図であり、(a)は左側のモアブレード、(b)は右側のモアブレードである。
図10】第3実施例の電動ローンモアのモアデッキ内の風の流れを説明するための図である。
図11】第4実施例の電動ローンモアの、(a)は走行操作レバーの要部拡大平面図、(b)は左側の走行操作レバーに取り付けられたブレード設定ダイヤル付近の平面図、(c)は(b)のX矢視側面図である。
図12図12 (a)は制御部、走行操作レバー、左右のモアブレードの関係を説明するためのブロック図、(b)は左右のモアブレードの回転数の周期的変化を示す図である。
図13】モアデッキ内の一般的な風の流れを説明するための図である。
図14】左側のモアブレードの回転数が右側のモアブレードの回転数よりも大きいときのモアデッキ内の風の流れおよび排出される風の流れを説明するための図である。
図15】右側のモアブレードの回転数が左側のモアブレードの回転数よりも大きいときのモアデッキ内の風の流れおよび排出される風の流れを説明するための図である。
図16】第4実施例の変形例における、左右のモアブレードの回転数差の周期的変化を示す図である。
図17】モアデッキの別の例の構成を説明するための図であり、(a)はモアデッキの底面図、(b)は(a)のA矢視背面図、(c),(d)はそれぞれ案内板の斜視図である。
図18】モアデッキで芝を刈る様子を説明するための図であり、図17(a)の直線L3においてモアデッキの断面を形成して、それを右方向に見た図である。
図19】モアデッキの別の例の構成を説明するための図であり、(a)はモアデッキの底面図、(b)は(a)のA´矢視背面図、(c)は案内板の斜視図である。
図20】モアデッキで芝を刈る様子を説明するための図であり、図19(a)の直線L3においてモアデッキの断面を形成して、それを右方向に見た図である。
図21】第5実施例としてのエンジン駆動のローンモアの左側面図である。
図22図21のローンモアの主要部の油圧回路図である。
図23】第5実施例のローンモアのモアデッキ内の風の流れを説明するための図である。
図24】(a)は制御部、ブレード設定ダイヤル、左右のモアブレードの関係を説明するためのブロック図、(b)は左右のモアブレードの回転数の周期的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。図1,2には、それぞれこの発明の乗用草刈機の第1実施例としての、電動ローンモア10の平面図と左側面図を示す。電動ローンモア10は、左右一対のフレーム状のシャーシ11と、該シャーシ11の下方に、一対の前タイヤ12と、一対の後タイヤ13とを備える。また、前タイヤ12と後タイヤ13との間には、モアデッキ14を備える。モアデッキ14の内側には、不図示のモアブレードを2つ隣接して備える。この2つのモアブレードの回転中心には、別々のモアモータ(モータ)15の回転軸をそれぞれ取り付ける。
【0024】
シャーシ11の上には、カウル20を被せる。カウル20は、シャーシ11全体を覆うものである。後タイヤ13のやや前方でカウル20上には、運転席21を設ける。運転席21の左右側方には、電動ローンモア10の走行操作をするための走行操作レバー22,22をそれぞれ備える。右の走行操作レバー22のさらに外側には、モアデッキ14の地面からの高さを調節するための昇降操作レバー24を備える。運転席21の左右それぞれの下方には冷却口26A,26Aを、運転席21の前側の下方には、冷却口26Bを設ける。冷却口26A,26Bは、後述するバッテリー25を冷却するために空気を取り入れるために設けられる。冷却口26A,26Bは、カウル20に形成される開口である。また、運転席21の後方には排気口27を2つ設ける。排気口27,27は、冷却口26A,26Bから取り入れられた空気が車体内を通過して排出されるために設けられる。排気口27,27は、カウル20に形成される開口である。
【0025】
一対の後タイヤ13,13の内側にはそれぞれ走行モータ16を備え、この走行モータ16によって後タイヤ13,13を駆動させる(なお、走行モータ16は、後タイヤ13,13のホイール内にそれぞれインホイールモータとして備えられていてもよい)。
【0026】
前述の2つのモアモータ15および2つの走行モータ16の電力は、同一のバッテリー25から供給される。バッテリー25は、カウル20内で、かつ、運転席21の下方に6つ備える。詳しくは、バッテリー25を、後タイヤ13,13のアクスル間で、かつ、シャーシ11の上に(電動ローンモア10の直進方向に対して)3つ並べて備え、それら3つのバッテリー25の前後に、これらと直角に1つずつ備える。さらに、後タイヤ13,13の後方で、かつ、シャーシ11の下方に、走行方向と直角にバッテリー25を1つ備える。これら6つのバッテリー25は、不図示のブラケットを介してシャーシ11に固定されている。なお、バッテリー25は3個を直列に接続して1セットとし、この例では、これを2セット備えている。したがって、バッテリー25の数は3個であってもよい。その場合には、シャーシ11の上に(電動ローンモア10の直進方向に対して)3つ並べるものとする。
【0027】
左側の後タイヤ13のフェンダーには、バッテリー25を充電する際にプラグを差し込むための給電口28を備える。給電口28は、カウル20に形成された開口である(開口を塞ぐための給電口扉を備える)。給電口28の内側には給電プラグを備える。給電プラグは、電気コードを差し込んで家庭の電源などでバッテリー25を充電するためのものである。バッテリー25と給電プラグとの間にはACアダプタおよび充電装置を適宜備える。
【0028】
バッテリー25の上には、不図示の制御部を備える。この制御部は、電動ローンモア10の走行モータ16を制御する。制御部は、走行操作レバー22の傾動量(後述)に応じて走行モータ16の回転方向および回転速度を制御する。制御部は、走行モータ16の制御に加えて、モアモータ15の回転制御、さらにバッテリー25の微小な電圧の変動を補正する役割も担っている。なお、モアモータ15の回転は、走行モータ16の回転数と連動するように制御される。すなわち、走行スピードを速めると、モアブレードの回転数も速まり、走行スピードを落とすと、モアブレードの回転数も遅くなる。
【0029】
前タイヤ12,12は独立に従動回転し、それぞれ、シャフトを介して前タイヤブラケット17に取り付けられている。前タイヤブラケット17は、シャーシ11に対して水平に回動自在に取り付けられている。2つの前タイヤブラケット17,17は、それぞれ独立に従動的に回動する。
【0030】
走行操作レバー22は傾動可能に設けられ、運転者がこれを前に倒すと走行モータ16が前進方向に回転する。一方、走行操作レバー22が後に倒されると走行モータ16は後進方向に回転する。さらに、走行操作レバー22の傾動度合いによって走行モータ16の回転速度が変化する。すなわち、走行操作レバー22を大きく前(後)に倒すと、走行モータ16が前進(後進)方向により早く回転し、走行操作レバー22を小さく前(後)に倒すと、走行モータ16が前進(後進)方向にゆっくりと回転する。運転者は、走行操作レバー22,22を前後に適宜操作することで、直後進、左右折、旋回などを行うことができる。
【0031】
そして、右側の走行操作レバー22の端部には、モアデッキ14内の2つのモアブレードの回転を同時にON、OFFする草刈スイッチ23を設ける。草刈スイッチ23は、リミット型のスイッチを用い、運転者が指で押下するとONとなり、再度押下するとOFFとなる。
【0032】
左右のシャーシ11,11の略中央部下側にはそれぞれ、モアデッキ14を昇降させるためのデッキ支持アーム18,18の一端を回動自在に取り付ける。デッキ支持アーム18,18の他端は、後述するステー19a(およびステー19a´)を介してモアデッキ14に取り付けられている。
【0033】
図3,4,5にはこの例の要部を示す。デッキ支持アーム18は断面視で門形のフレーム状に形成される。デッキ支持アーム18の上下端の両側面にはそれぞれ貫通孔を形成する。また、別の貫通孔を下部の両側面に形成する。デッキ支持アーム18の上端の貫通孔をシャーシ11に固設されたステー11aの貫通孔と合わせて、ピン18cを挿入することで、デッキ支持アーム18の上端をシャーシ11に回動自在に取り付ける。
【0034】
モアデッキ14は、天面14Uと側面14Sとで構成され、後部に開口14Eを備える。天面14Uは平面視で前側が円弧状、両側および後側が直線状に形成される。そして、天面14Uには、モアモータ15の回転軸15Aを貫通させるための貫通孔14A,14Aを形成する。また、天面14Uには、ステー19a,19a´,19bを溶接などによって取り付ける。ステー19a,19a´,19bは、矩形の金属板を略L字状に折り曲げて形成され、直立した部分には貫通孔を形成する。モアデッキ14の右前側の側面14Sには、張出部14bを設け、ステー19b´を直立するように固設する。ステー19b´の側面には貫通孔を形成する。なお、天面14Uには別のステー42を設ける。ステー42は矩形の金属板を略L字状に折り曲げて形成され、直立した部分には貫通孔を形成する。
【0035】
このように形成されたモアデッキ14は、ステー19a,19a´の貫通孔と、左右のデッキ支持アーム18,18の下端の貫通孔とを合わせて、ピン18bによってそれぞれ回動自在に取り付ける。また、ステー42の貫通孔にはデッキ支持シャフト41を回動自在に貫通させる。デッキ支持シャフト41の両端には連結部材43をそれぞれ溶接などで固設する。連結部材43には貫通孔を形成する。この貫通孔とステー19b,19b´の貫通孔とをそれぞれ合わせてピンを貫通させることで、デッキ支持シャフト41をモアデッキ14に回動自在に取り付ける。デッキ支持シャフト41の中央部分には一対のシャフトSを延設する。このシャフトSは前方に向けて延びるように取り付けられ、シャフトSの前端部は、シャーシ11に適宜、回動自在に取り付けられる(不図示)。
【0036】
モアデッキ14の天面14Uには、2つのモアモータ15,15を載置してボルトなどで固定する。モアモータ15の回転軸15Aは、天面14Uに形成された貫通孔14Aよりモアデッキ14の内側(すなわち天面14Uの裏面側)に突出される。そして、それぞれの回転軸15Aの先端にはモアブレード40L,40Rを固設する。なお、平面視にて、モアブレード40Lは時計回りに回転し、モアブレード40Rは反時計回りに回転する。
【0037】
デッキ支持アーム18の後端側には、ピン18aを介してリンクプレート32の一端が取り付けられる。リンクプレート32は、Z状のアングル鋼材で形成され、その他端にはピン34を介してリフトアーム33を取り付ける。リフトアーム33は、金属板製で略扇形に形成され、円弧に沿って長孔を形成するとともに、中心側には取付孔を形成する。ピン34はこの長孔内に移動自在に嵌っている。リフトアーム33の取付孔にはリフトシャフト31を貫通させて両者を溶接によって固定する。
【0038】
リフトシャフト31は棒状に形成されその両端部は、連結部材37,37に貫通している。リフトシャフト31は、この連結部材37に対して回動自在である。一方、シャーシ11の下面にはステー36が固設されており、ステー36に形成された貫通孔と連結部材37に形成された貫通孔とを合わせてボルトにて両者を固定する。
【0039】
リフトシャフト31の左端にはレバープレート35を溶接などで固定する。レバープレート35は、リフトシャフト31と昇降操作レバー24を固定するためのものである。レバープレート35は矩形の板状に形成され、その中央部に昇降操作レバー24の下端部を溶接などによって固設する。したがって、昇降操作レバー24を回動させると、これに同期して、リフトシャフト31が回動するようになっている。
【0040】
なお、モアデッキ14は、モアデッキ14の後部両側に取り付けられたステー19a,19a´、前部両側に取り付けられたステー19b,19b´、前部中央に取り付けられたステー42によってシャーシ11の下方に吊り下げられている。したがって、リフトアーム33には、常時、デッキ支持アーム18を介してモアデッキ14の重量が分配されている。したがって、リフトアーム33は、通常状態で、長孔の最下端に位置する。
【0041】
モアブレード40Lは所定の厚みを持った金属板で形成され、図6(a)〜(c)に示すように、両長辺にはそれぞれ、刃40BLとハネ40Wとが形成されている。また、中心には、貫通孔40ALが形成されている。モアブレード40Lの両長辺に形成された刃40BL,40BLは、貫通孔40ALに対して対称な位置にある。モアブレード40Lの両長辺に形成されたハネ40W,40Wも、貫通孔40ALに対して対称な位置にある。ハネ40Wはモアブレード本体40MLに対して斜め上方に向かうように、かつ、モアブレード本体40MLの外側に向かって弧を描くように形成される。図中で符号Rは、モアブレード40Lをモアモータ15に取り付けて芝刈りをするときに回転する方向を示している。
【0042】
モアブレード40Rは所定の厚みを持った金属板で形成され、図6(d)に示すように、両長辺にはそれぞれ、刃40BRが形成されている。また、中心には、貫通孔40ARが形成されている。モアブレード40Rの両長辺に形成された刃40BR,40BRは、貫通孔40ARに対して対称な位置にある。図中で符号Rは、モアブレード40Rをモアモータ15に取り付けて芝刈りをするときに回転する方向を示している。
【0043】
なお、モアブレード40L,40Rは、高速回転することで芝をたたき切るとともに、高速回転することで風をおこし、この風の流れに乗せて刈った芝をモアデッキの外に排出する機能を有する。一般的にモアブレードには板厚があるのでモアブレードが高速で回転すると、モアブレードの厚みによってある一定量の風をおこすことができる。モアブレード40Lにハネ40Wを備えると、モアブレード40Lが回転した際に形成される風の量を効果的に大きくすることができる。
【0044】
モアブレード40Lのハネ40Wを垂直面に投影した時の投影面積は、ハネ40Wを形成しない場合(すなわち、モアブレード40Rの板厚)の投影面積に比べて、100%より大きく700%以下であると、より好適である。したがって、この範囲でハネ40Wの形状を決定することが望ましい。
【0045】
図7に示すように、平面視にてモアデッキ14内の左側に位置するモアブレード40Lの回転中心は、右側に位置するモアブレード40Rの回転中心の斜め左前方に位置している(なお、矢印Fが電動ローンモア10の前進方向である)。具体的には、2つのモアブレード40R,40Lの回転軸15A,15Aの中心を結ぶ直線L1と直交する直線L3が、電動ローンモア10の前進方向Fと角度=θだけ平面視で右側に傾くように配置される。なお、モアブレード40R,40Lの回転軌跡TR,TLは、直線L1上にてわずかな距離=Δαをもって最接近する。そして、その距離=Δαの中点を最接近点Pと称す。最接近点Pにおけるモアブレード40R,40Lの回転軌跡TR,TL間のわずかな距離=Δαは適宜設定することができる。上述のように2つのモアブレードを配置して刈り残しをなくすようにすることは広く知られている技術である(なお、モアブレード40Rの回転中心が、モアブレード40Lの回転中心の斜め右前方に位置するように配置してもよい)。なお、モアブレード40Lは時計回り、モアブレード40Rは反時計回りに回転する。
【0046】
この例では、モアブレード40Lにハネ40Wが設けられているので、モアブレード40Lが時計回りに回転しておこす風WF1の量をモアブレード40Rが反時計回りに回転しておこす風WF2の量よりも大きくすることができる。これら2つの風WF1,WF2は、2つのモアブレード40L,40Rの回転軌跡TL,TRが最接近する箇所、最接近点Pにおいて合成される。合成風WFは、モアデッキ14のほぼ真後ろ(電動ローンモア10のほぼ真後ろ)へと向かい、モアデッキ14の開口14Eより排出される。このとき、2つのモアブレード40L,40Rの回転軌跡TL,TRが最接近点Pにおける2つの回転軌跡の接線L3方向と風の流れWFとのなす角はほぼθとなる(これは、上述の直線L1と、電動ローンモア10の幅方向の直線L2とのなす角とほぼ同じである。言い換えると、直線L1と直交する方向が接線L3の方向となる)。
【0047】
モアブレード40Lがおこす風WF1の運動量のうち車幅方向の成分(図7中で直線L2に沿った右向きの成分)は、モアブレード40Rがおこす風WF2の運動量のうち車幅方向の成分(図7中で直線L2に沿った左向きの成分)よりも大きいため、風WF1と風WF2の合成風WFは、接線L3に向かわずに、角度θだけ半時計回りに傾くことになる。
【0048】
なお、モアブレード40Lにハネ40Wを設けないとすると、左右のモアブレードがおこす風の量はほぼ同一となる。この場合には、左右のモアブレードの回転軌跡TL,TRが最接近する最接近点Pにおける2つの回転軌跡の接線L3方向に向けて合成風が形成されてしまう。このため、刈った芝をモアデッキ14の真後ろへ排出することができない。言い換えると、上述の例では、合成風の方向を接線L3方向から角度θだけ傾けるために、モアブレード40Lのおこす風WF1の量を増やすものである。
【0049】
この例では、左右のモアブレード40L,40Rを回転させるモアモータ15,15の回転数は同一としているが、この発明はこれに限定されるものではなく、左右のモアモータ15,15の回転数は別々に設定してもよい。
【0050】
また、モアブレード40Lに設けられるハネ40Wの形状はこの例に限定されるものではなく、モアブレード40Lがおこす風の量を増やせる形状であればどのようであってもよい。
【0051】
また、モアデッキ14の左側のモアブレードにハネを設けるとともに、左側のモアブレードの回転数を右側のモアブレードの回転数よりも大きくするようにしてもよい。
【0052】
次に、第2実施例について図8を用いて説明する。この実施例では、左右のモアブレード140L,140Rにそれぞれハネ140WL,140WRを備える点で前の実施例と異なる。それ以外の構成については同様であるので、説明を省略する。モアブレード140Rにハネを設けると、右側のモアブレード140Rのおこす風WF12の量を増加させることができる。したがって、モアブレード140Lのおこす風WF11とモアブレード140Rのおこす風WF12の合成風WF13の量を大きくすることができ、刈った芝をより遠方に向けて開口14Eより排出させることができる。なお、合成風WF13がモアデッキ14のほぼ真後ろへと向かうようにするためには、左右のモアブレード140L,140Rの回転数を変える必要がある。具体的には、左側のモアブレード140Lの回転数を右側のモアブレード140Rの回転数よりも相対的に速くして、モアブレード140Lのおこす風WF11の速さをモアブレード140Rのおこす風WF12の速さよりも大きくする。
【0053】
なお、左右のモアモータ15,15の回転数を同じにしたままで、モアブレード140L,140Rのハネ140WL,140WRの大きさや形状を異ならせることで、合成風WF13がモアデッキ14のほぼ真後ろへと向かうようにしてもよい。
【0054】
以下では、第3実施例について説明する。なお、モアブレード40L,40Rの構造以外は第1実施例と同様であるので、説明を省略する。この例のモアブレード40L´,40R´は、図9(a),(b)に示すように構成されている。
【0055】
モアブレード40L´は所定の厚みを持った金属板で形成され、図9(a)に示すように、両長辺にはそれぞれ、刃40BL´が形成されている。また、中心には、貫通孔40AL´が形成されている。モアブレード40L´の両長辺に形成された刃40BL´,40BL´は、貫通孔40AL´に対して対称な位置にある。図中で符号Rは、モアブレード40L´をモアモータ15に取り付けて芝刈りをするときに回転する方向を示している。
【0056】
モアブレード40R´は所定の厚みを持った金属板で形成され、図9(b)に示すように、両長辺にはそれぞれ、刃40BR´が形成されている。また、中心には、貫通孔40AR´が形成されている。モアブレード40R´の両長辺に形成された刃40BR´,40BR´は、貫通孔40AR´に対して対称な位置にある。図中で符号Rは、モアブレード40R´をモアモータ15に取り付けて芝刈りをするときに回転する方向を示している。モアブレード40R´はモアブレード40L´と刃40BR´の形成される位置が異なる以外は、材質、寸法など同一である。
【0057】
なお、モアブレード40L´,40R´は、高速回転することで芝をたたき切るとともに、高速回転することで風をおこし、この風の流れに乗せて刈った芝をモアデッキの外に排出する機能を有する。モアブレード40L´,40R´には所定の板厚があるのでモアブレード40L´,40R´が高速で回転すると、モアブレード40L´,40R´の厚みによって一定量の風をおこすことができる。
【0058】
図10に示すように、平面視にてモアデッキ14内の左側に位置するモアブレード40L´の回転中心は、右側に位置するモアブレード40R´の回転中心の斜め左前方に位置している(なお、矢印Fが電動ローンモア10の前進方向である)。言い換えると、左側のモアブレード40L´の回転中心(回転軸15Aの中心)と右側のモアブレード40R´の回転中心(回転軸15Aの中心)とを結ぶ直線L1は、電動ローンモア10の車幅方向を示す直線L2からやや左前方(角度θ)に傾いている。
【0059】
この例では、時計回りに回転するモアブレード40L´の回転数を、反時計回りに回転するモアブレード40R´の回転数よりも大きくする。この制御は、バッテリー25上に配置された制御部にて行われる。モアブレード40L´とモアブレード40R´の回転数を違えることによって、モアブレード40L´が回転しておこす風WF1´の速度をモアブレード40R´が回転しておこす風WF2´の速度よりも大きくすることができる。これら2つの風WF1´,WF2´は、2つのモアブレード40L´,40R´のそれぞれの回転軌跡TL,TRが最接近する箇所(再接近点)Pにおいて合成される。合成風WF´は、モアデッキ14のほぼ真後ろ(電動ローンモア10のほぼ真後ろ)へと向かい、モアデッキ14の開口14Eより排出される。このとき、最接近点Pにおける2つの回転軌跡TL,TRの接線L3方向と風の流れWF´とのなす角はほぼθとなる(上述の直線L1と直線L2とのなす角とほぼ同じである)。
【0060】
モアブレード40L´のおこす風WF1´の速度ベクトルのうち車幅方向の成分(図10中で直線L2に沿った右向きの成分)が、モアブレード40R´のおこす風WF2´の速度ベクトルのうち車幅方向の成分(図10中で直線L2に沿った左向きの成分)よりも大きいため、風WF1´と風WF2´の合成風WF´は、接線L3に向かわずに、角度θだけ半時計回りに傾くことになる。
【0061】
なお、左右のモアモータ15の回転数を同一とすると、モアブレード40L´,40R´がおこす風の量はほぼ同一となる。この場合には、最接近点Pにおける2つの回転軌跡TL,TRの接線L3方向に向けて合成風が形成されてしまう。このため、刈った芝をモアデッキ14の真後ろへ排出することができない。言い換えると、この例では、合成風の方向を接線L3方向から角度θだけ傾けるために、モアブレード40L´のおこす風の速度を増やすものである。なお、左側に位置するモアブレード40L´の回転数を右側に位置するモアブレード40R´の回転数に対して5〜50%増やようにするとより好適である。
【0062】
この発明は、刈った芝をモアデッキの真後ろに排出するように合成風を形成することに限定されるものではなく、刈った芝を所望の方向(モアデッキ14の後方であればいずれの方向であってもよい)に排出するように合成風を形成することを目的とするものである。したがって、所望の向きに向かうように合成風を形成するために、ハネを適宜形成したり、モアブレードの回転数を適宜設定することができる。例えば、左側のモアブレードを右側のモアブレードの斜め前方に配置し、左側のモアモータの回転数を右側のモアモータよりも小さくするようにしてもよい。このようにすると、刈った芝は、モアデッキの左後方に排出することができる。
【0063】
さらに、上述の2つの例では、合成風を形成するにあたって、左右のモアブレードがおこす風の量を違えるか、または、左右のモアブレードがおこす風の速度を違えるかについて別々の方法を述べてきたが、この発明はこれに限定されるものではない。すなわち、左右のモアブレードがおこす風の量の違いと、左右のモアブレードがおこす風の速度の違いとを合わせたものとして合成風が形成されてもよい。この場合、例えば、左側のモアブレードにのみハネを形成した結果、左側のモアブレードのおこす風の量が右側のモアブレードのおこす風の量よりも大きすぎるときには、左側のモアブレードの回転数を右側のモアブレードの回転数よりも小さくすることで、合成風の方向を適宜調節するようにしてもよい。
【0064】
次に第4実施例について説明する。この実施例では、図9(a),(b)にて説明したモアブレード40L´,40R´を用いる。そして、左右のモアブレード40L´,40R´の回転数を周期的に変動させることができるよう構成する。すなわち、図11(a)〜(c)および図12(a)に示すように、左側の走行操作レバー22の先端部にブレード設定ダイヤル(調整部)Dを備える。ブレード設定ダイヤルDはモアブレード40L´,40R´の回転数を周期的に変化させるにあたり、その周期を設定するためのものである。ブレード設定ダイヤルDは円板状に形成され、その中心部は回転軸DAの先端と固定されている。回転軸DAの後端は回転センサRSと連結された状態で左側の走行操作レバー22内に回動可能に取り付けられている。
【0065】
ブレード設定ダイヤルDの表面には、「OFF」、「1」〜「6」の文字が描かれており、走行操作レバー22に固設された位置合わせのための矢印部22Aにいずれかの文字を合わせることでモアブレード40L´,40R´の回転数の変動周期を設定することができる。ブレード設定ダイヤルDの「OFF」を矢印部22Aに合わせると、モアブレード40L´,40R´の回転数が変動しないように設定される。ブレード設定ダイヤルDの「1」を矢印部22Aに合わせると、モアブレード40L´,40R´の回転数の変動周期が短く設定される。モアブレード40L´,40R´の回転数の変動周期を長くしたいときは、ブレード設定ダイヤルDの数字「2」、「3」・・・「6」を適宜、矢印部22Aに合わせる(したがって、「6」に合わせるとモアブレード40L´,40R´の変動周期を最も長く設定することができる)。
【0066】
回転センサRSは走行操作レバー22内およびカウル20内に配線されたハーネスを介して制御部CTと連結されている。回転センサRSは、ブレード設定ダイヤルDの回動位置を検出して制御部CTに送信するためのものである。制御部CTはカウル20内でバッテリー25の上に配置されている。制御部CTからの信号は不図示のモータドライバへ送信され、モータドライバが左右のモアモータ15,15を回転させる。左右のモアモータ15,15の回転軸にはそれぞれ、モアブレード40L´,40R´が固設されている。
【0067】
制御部CTでは、回転センサRSからの信号に基づいてモアモータ15,15の回転数の変動周期と変動量を制御している。図12(b)に示すように、右のモアモータ15の回転数の変動分は正弦波:sin(2π/T)で表され、周期=T、振幅=b(bは定数)である。この回転数の変動分に不変回転数(a+b)rpmを加えて(aは定数)、右のモアモータ15の回転数NRをy=(a+b)+bsin(2π/T)rpmで変動させる。すなわち、右のモアモータ15は、基準となる回転数:(a+b)rpmに、変動分:y=bsin(2π/T)rpmを加えたものである。
【0068】
一方、左のモアモータ15の回転数の変動分は正弦波:sin[(2π/T)+π]で表され、周期=T、振幅=bである。この回転数の変動分に不変回転数(a+b)rpmを加えて、左のモアモータ15の回転数NLをy=(a+b)+bsin[(2π/T)+π]rpmで変動させる。すなわち、左のモアモータ15は、基準となる回転数:(a+b)rpmに、変動分:y=bsin[(2π/T)+π]rpmを加えたものである。このように左のモアモータ15の回転数の変動周期は、右のモアモータ15の回転数のそれと比べて半周期進んでいる。このため、左右のモアモータ15,15の回転数差をより大きくすることができる。
【0069】
ブレード設定ダイヤルDを「1」から「6」に向かって順次変更すると、左右のモアモータ15の周期=Tが順次短く(小さく)なる。また、ブレード設定ダイヤルDを「OFF」にすると、左右のモアモータ15は不変回転数分(a+b)rpmで回転する。
【0070】
図13に示すように、平面視にてモアデッキ14内の左側に位置するモアブレード40L´の回転中心は、右側に位置するモアブレード40R´の回転中心の斜め左前方に位置している(なお、矢印Fが電動ローンモア10の前進方向である)。具体的には、2つのモアブレード40R´,40L´の回転軸15A,15Aを結ぶ直線L1(左側のモアブレード40L´の回転中心と右側のモアブレード40R´の回転中心とを結ぶ直線L1)と直交する直線L3が、電動ローンモア10の前進方向Fと角度=θだけ平面視で右側に傾くように配置される(言い換えると、直線L1は、電動ローンモア10の車幅方向を示す直線L2に対して、平面視で左前方に角度=θだけ傾いている。)。なお、モアブレード40R´,40L´の回転軌跡TR,TLは、直線L1上にてわずかな距離=Δαをもって最接近する。そして、その距離=Δαの中点を最接近点Pと称す。最接近点Pにおけるモアブレード40R´,40L´の回転軌跡TR,TL間のわずかな距離=Δαは適宜設定することができる。したがって、それぞれのモアブレード40L´,40R´が形成する風WF1´,WF2´は、直線L1上でモアブレード40L´,40R´の回転軌跡TL,TRが最も接近する点:最接近点Pにて合成されて、合成風WF´となる。
【0071】
モアブレード40L´の回転数(すなわち、左側のモアモータ15の回転数)NLとモアブレード40R´の回転数(すなわち、右側のモアモータ15の回転数)NRが一致するとき(すなわち、図12(b)において、t=1/2T,T,3/2T,2T,5/2T・・・のとき)には、モアブレード40L,40Rの回転数はNL=NR=(a+b)rpmとなり、合成風WF´は直線L3方向に排出される。この直線L3は、最接近点Pにおいて直線L1に直交するものである。これによって、刈り取った芝は、モアデッキ14より合成風WF´に乗って直線L3方向に排出される。
【0072】
一方、モアブレード40L´の回転数NLがモアブレード40R´の回転数NRよりも大きいとき(すなわち、図12(b)において、1/2T<t<T,3/2T<t<2T・・・)には、図14に示すように、合成風WF´は直線L3に対して時計回りに角度=αだけ回転した直線L4方向(直線L4は時刻tにより方向が変化する)に形成される。これによって、刈り取った芝は、モアデッキ14より合成風WF´に乗って直線L4方向に排出される。
【0073】
また、モアブレード40R´の回転数NRがモアブレード40L´の回転数NLよりも大きいとき(すなわち、図12(b)において、0<t<1/2T,T<t<3/2T,2T<t<5/2T・・・)には、図15に示すように、合成風WF´は直線L3に対して反時計回りに角度=βだけ回転した直線L4方向(直線L4は時刻tにより方向が変化する)に形成される。これによって、刈り取った芝は、モアデッキ14より合成風WF´に乗って直線L4方向に排出される。
【0074】
このようにして、この実施例では、モアブレード40L´,40R´にて刈り取った芝をモアデッキ14の後方に、かつ、電動ローンモア10の車幅方向に向けてまんべんなく排出することができる。
【0075】
この実施例のように、左のモアモータ15の回転数NLと右のモアモータ15の回転数NRの変動周期を1/2Tだけずらすと、左のモアモータ15の回転数=NL>(a+b)となっているときに、右のモアモータ15の回転数=NR<(a+b)となり、また、左のモアモータ15の回転数=NL<(a+b)となっているときに、右のモアモータ15の回転数=NR>(a+b)となり、左右のモアモータ15の回転数差をより大きくすることができ、合成風WF´を電動ローンモア10の車幅方向の両側方向により効率的に排出することができる。
【0076】
なお、この例では、左右いずれのモアモータ15,15も不変回転数と変動周期による回転数の和としているが、この発明はこれに限定されるものではない。例えば、図16に示すように、左のモアモータ15の回転数NLを一定として不変回転数(a+b)rpmで表し、右のモアモータ15の回転数NRをy=(a+b)+bsin(2π/T)rpmで変動させるようにしてもよい。なお、この場合、左のモアモータ15の回転数を不変回転数(a+b)rpmは、定数a,bに依存することなく、他の定数cを用いてもよい。
【0077】
この場合、ブレード設定ダイヤルDを「1」から「6」に向かって順次変更すると、右のモアモータ15の周期=Tが順次短く(小さく)なる。また、ブレード設定ダイヤルDを「OFF」にすると、右のモアモータ15は左のモアモータ15と同様に不変回転数分(a+b)rpmで回転する。
【0078】
また、右のモアモータ15の回転数NRを一定として不変回転数(a+b)rpmで表し、左のモアモータ15の回転数NLをy=(a+b)+bsin(2π/T)rpmで変動させるようにしてもよい。なお、この場合、右のモアモータ15の回転数を不変回転数(a+b)rpmは、定数a,bに依存することなく、他の定数cを用いてもよい。
【0079】
この場合、ブレード設定ダイヤルDを「1」から「6」に向かって順次変更すると、左のモアモータ15の周期=Tが順次短く(小さく)なる。また、ブレード設定ダイヤルDを「OFF」にすると、左のモアモータ15は右のモアモータ15と同様に不変回転数分(a+b)rpmで回転する。
【0080】
また、左右のモアモータ15,15の回転数を一定にするとともに、それぞれのモアモータ15,15の回転数を別々の回転数に設定することで、モアデッキ14から一定方向に排出するようにしてもよい。この場合、排出方向を設定するための排出方向設定ダイアルと回転センサを走行操作レバー22に設け、回転センサで検出した値を制御部にて判定し、制御部が左右のモアモータ15,15の回転数(すなわち、左右のモアモータ15の回転数は変動せず一定であり、かつ、それぞれのモアモータ15の回転数は異なる)を決定することで、刈った芝を所望の方向に排出するものである。
【0081】
上述の第1〜4実施例に、図17(a)〜(d)に示すような構成のモアデッキを適用してもよい。ここでは、モアデッキ14内の構造が異なる以外は、第3実施例の構成および作用と同様である。図17(a)のモアデッキ14の底面図に示すように、左右のモアブレード40L´,40R´を隣接して備えるとともに、モアブレード(一方のモアブレード)40L´をモアブレード(他方のモアブレード)40R´のやや斜め前方となるように配置している(モアブレード40R´をモアブレード40L´のやや斜め前方となるように配置してもよい)。具体的には、2つのモアブレード40R´,40L´の回転軸15A,15Aを結ぶ直線L1と直交する直線L2が、電動ローンモア10の前進方向Fと角度=θだけ底面視で左側に傾くように配置される。なお、モアブレード40R´,40L´の回転軌跡TR,TLは、直線L1上にてわずかな距離=Δαをもって最接近する。そして、その距離=Δαの中点を最接近点Pと称す。最接近点Pにおけるモアブレード40R´,40L´の回転軌跡TR,TL間のわずかな距離=Δαは適宜設定することができる。また、モアブレード40L´の回転軌跡TLとモアブレード40R´の回転軌跡TRとは背面視にて所定の距離p(通常は5mm程度)だけ重なるように配置される。
【0082】
モアデッキ14の裏面側で、電動ローンモア10の前進方向Fで、さらに、モアブレード40R´,40L´の回転軌跡TR,TLの外側には、一対の案内板51R,51Lを設ける。案内板51R,51Lは、幅=W2の金属板を湾曲して形成し、側面51Rs,51Lsを溶接などによってモアデッキ14の天面14Uの裏側に固定する。案内板51Rと案内板51Lとはそれぞれの先端が、最接近点Pを通る直線L3(この直線L3は電動ローンモア10の前進方向Fに平行である)に対してそれぞれ距離=dだけ離れるように設けられる。したがって、案内板51Rと案内板51Lとは正面視(および背面視)にて距離=2dだけ離れた間隙をもって設けられる(案内板51Rと案内板51Lとの間の間隙の距離2dは、モアブレード40R´,40L´の回転軌跡TR,TL間のわずかな距離=Δαよりも大きくする)。一方、案内板51Rと案内板51Lの後端はそれぞれ、モアデッキ14の前側の側面14Sの裏面側に接するように配置される。案内板51Rと案内板51Lの後端をこのように配置することで、モアデッキ14内に形成する風Wの流れに対する案内板51L,51Rの後端の抵抗を低減させることができ、風Wの流れをスムーズにすることができる。
【0083】
また、案内板51R、案内板51Lはそれぞれ、モアブレード40R´,40L´の回転軌跡TR,TLの外側に一定の距離をもって設けられる。すなわち、案内板51Rは、モアブレード40R´の回転軌跡TRとの距離が全長にわたって一定となるように円弧状に形成する。同様に、案内板51Lは、モアブレード40L´の回転軌跡TLとの距離が全長にわたって一定となるように円弧状に形成する。案内板51R、案内板51Lはモアデッキ14内でモアブレード40R´,40L´が回転することで形成される風Wの流れを所望の方向に案内するためのものであり、この例では、モアデッキ14の略後方に向けて風Wが形成されることを補助するために設けられるものである。ちなみに、底面視においてモアブレード40R´は時計回りに回転し、モアブレード40L´は反時計回りに回転する。なお、案内板51R,51Lは、モアブレード40R´,40L´の回転軌跡TR,TLとの距離が全長にわたって一定となるように円弧状に形成されることに限定されるものではない。
【0084】
モアデッキ14の内側面の高さ=W2であり、案内板51L,51Rの幅=W2と同一である。さらに、モアブレード40R´,40L´は厚さ=tとし、モアブレード40R´,40L´の下端、モアデッキ14の下端、さらに、案内板51L,51Rの下端は地上からの高さが略一致している。なお、符号52R,52Lはモアデッキ14後部に配置された後部案内板を示す。後部案内板52R,52Lは、案内板51L,51Rの幅=W2と同一であり、その側面をモアデッキ14の天面14Uの裏側に溶接などで固定する。後部案内板52R,52Lを設けることで、モアデッキ14内に形成される合成風WSの流れをいっそう正確に案内することができる。なお、合成風WSは、モアブレード40L´が形成する風Wと、モアブレード40R´が形成する風Wとが最接近点P近傍で合成されたもので、モアデッキ14の後方に向かう風である。
【0085】
モアデッキ14の幅=W2と、案内板51L,51Rの幅=W2とは一致することに限定されるものではないが、案内板51L,51Rの幅=W2は、モアブレード40R´,40L´の厚さ=tと同一かそれよりも大きく形成するものとする。なお、図17(a)において、直線L1はモアブレード40L´,40R´の回転軸15A,15Aを結ぶ線、直線L2は直線L1に直交する線、直線L3は、電動ローンモア10の前進方向Fを示す線である。
【0086】
このように構成されたモアデッキ14で芝(草)Gを刈る様子を図18に示す。図18は、図17(a)の直線L3におけるモアデッキ14の縦断面を示す。電動ローンモア10が前進方向Fに向けて走行し、刈り取り前の芝Gの上部がモアデッキ14の先端部14Tの側面14Sに当接すると、前方に向けて撓む。そして、一定距離だけモアデッキ14が前方に進むと芝Gの上部は側面14Sから離れて直立した姿勢に戻る。これは、案内板51Lと案内板51Rとの間に間隙2dが形成されているため、案内板51Lと案内板51Rのいずれにも芝Gが当接しないためである。
【0087】
そして、芝Gが直立した状態でモアデッキ14が更に前方に進み、最接近点Pに差しかかると回転するモアブレード40R´によって芝Gの上部がカットされる。カットされた芝(草)GOはモアブレード40R´が回転して起こす風によって上方に運ばれ、さらに風Wの流れによってモアデッキ14の開口14Eより後方に排出される(刈り取られて短くなった芝(草)を符号G´で示す)。このように、この例のモアデッキ14を用いると最接近点Pにて、芝Gを直立した状態とすることができ、芝Gを適切にカットすることができる。
【0088】
図19(a)〜(c)には図17の変形例の主要部を示す。この例では、図17と比べて案内部51´の形状が異なる。それ以外の構成・作用は図17と同様であるので、説明を省略する。この例の案内部51´は、案内板51´L、連結部51´M、案内板51´Rが一体に形成される。案内板51´Lの形状・寸法、およびモアデッキ14内での配置は、前の例の案内板51Lと同一である。同様に、案内板51´Rの形状・寸法、およびモアデッキ14内での配置は、前の例の案内板51Rと同一である(案内板51´Lと案内板51´Rとで一対の案内板と称す)。連結部51´Mは、案内板51´Lと案内板51´Rとを連結するためのものである。連結部51´Mは、幅=W3(W3<W2)の金属板を曲線状屈曲して形成される。連結部51´Mの幅=W3は案内板51´Rおよび案内板51´Lの幅=W2に対して小さいほどよい。なお、連結部51´Mの直上方で、かつ、案内板51´Lの端部と案内板51´Rの端部と画される部分を切欠部と称す。なお、合成風WSは、モアブレード40L´が形成する風Wと、モアブレード40R´が形成する風Wとが最接近点P近傍で合成されたもので、モアデッキ14の後方に向かう風である。なお、図19(a)において、直線L1はモアブレード40L´,40R´の回転軸15A,15Aを結ぶ線、直線L2は直線L1に直交する線、直線L3は、電動ローンモア10の前進方向Fを示す線である。
【0089】
このように構成されたモアデッキ14で芝Gを刈る様子を図20に示す。図20は、図19(a)の直線L3におけるモアデッキ14の縦断面を示す。電動ローンモア10が前進方向Fに向けて走行し、刈り取り前の芝Gの上部がモアデッキ14の先端部14Tの側面14Sに当接すると、前方に向けて撓む。そして、一定距離だけモアデッキ14が前方に進むと芝Gの上部は側面14Sから離れて直立した姿勢に戻る。これは、芝Gが連結部51´Mに当接して撓むことなく、切欠部を通過するためである。連結部51´Mの幅=W3が右側部51´Rおよび左側部51´Lの幅=W2に対して小さく形成されているため、芝Gに当接しない。
【0090】
そして、芝Gが直立した状態でモアデッキ14が更に前方に進み、再接近点Pに差しかかると回転するモアブレード40R´(またはモアブレード40L´)によって芝Gの上部がカットされる。カットされた芝GOはモアブレード40R´(またはモアブレード40L´)が回転して起こす風によって上方に運ばれ、さらに風Wの流れによってモアデッキ14の開口14Eより後方に排出される(刈り取られて短くなった芝を符号G´で示す)。このように、この例のモアデッキ14を用いると最接近点Pにて、芝Gを直立した状態とすることができ、芝Gを適切にカットすることができる。
【0091】
次に、図21〜24を用いて第5実施例について説明する。エンジン駆動のローンモア300を示す。この実施例では、モアブレード40R´,40L´の駆動源をエンジンEとした。ローンモア300は、シャーシ311の前部にエンジンEを載置する。エンジンEはボンネットBNで覆われる。ボンネットBNの後部に連続してステアリングコラムを設け、ステアリングコラムの上にはステアリングホイールSを回転可能に突設する。ボンネットBNの後部に連続し、かつ、シャーシ311を上方から覆うようにカウル320を設ける。シャーシ311の後部には、運転席321を載置する。
【0092】
シャーシ311の前部の両側には前タイヤ312,312を、シャーシ311の後部の両側には後タイヤ313,313をそれぞれ備える。なお、この実施例では後タイヤ313を駆動輪としてエンジンEからの駆動力を伝達する。前タイヤ312と後タイヤ313との間にはモアデッキ314を備える。モアデッキ314の前部両側には、ブラケット314A,314B(図22参照)を取り付け、該ブラケット314A,314Bには不図示の車軸を介して車輪W2,W2を回転自在に備える。モアデッキ314の後部両側には、不図示の車軸を介して車輪W1,W1を回転自在に備える。モアデッキ314は、その後部を懸架部材318A,318Bによって、また、その前部を不図示の懸架部材によって、シャーシ311に懸架されている。なお、モアデッキ314の後部は開放されており、刈り取った草を放出できるようになっている(いわゆるリアディスチャージ型)。
【0093】
モアデッキ314上には油圧モータケース323L,323Rを設ける。油圧モータケース323L,323R内にはそれぞれ油圧モータ(モータ)ML,MRを備える。油圧モータML,MRは、油圧ポンプP1からの作動油によって回転する。油圧ポンプP1と油圧モータML,MRとの間にはこの油圧回路を入り切りするための電磁弁V2を備える。この電磁弁V2は制御部CLからの指示で動作して油圧回路を開閉する。それぞれの油圧モータML,MRには2つの電磁弁V1が取り付けられる。それぞれの電磁弁V1を作動させることによって油圧モータML、油圧モータMRの回転数をそれぞれ独立して高速・低速に切り替えることができる。この電磁弁V1は制御部CLからの指示で動作する。なお、エンジンE、制御部CL、油圧ポンプP1、電磁弁V1,V2はボンネットBN内に備えられている。また、運転席321近傍には、電磁弁V2を開閉するための不図示の操作ボタンが備えられるとともに、2つの電磁弁V1を作動させるための不図示の2つの回転速度ボタンを備える。
【0094】
エンジンEからの駆動力を油圧ポンプP1に伝達し、油圧ポンプP1から作動油を送り出して油圧パイプ321に充填する。油圧パイプ321は前部にて2系統に分岐し、その分岐した油圧パイプ321の先端には接続部322L,322Rが設けられる。そして、接続部322L,322Rは、油圧モータML,MRに取り付けられる。なお、油圧モータML,MRのそれぞれの回転軸はモアデッキ314内に向けて突出している。油圧モータML,MRのそれぞれの回転軸は、モアブレード40L´,40R´の回転中心にそれぞれ固設する。なお、油圧モータMLの回転軸と油圧モータMRの回転軸の回転方向は反対であり、平面視にて、油圧モータMLの回転軸は時計回りに、油圧モータMRの回転軸は反時計回りに回転する。また、モアブレード40L´,40R´の構成については、図9(a),(b)に示したとおりである。
【0095】
平面視にて(図23)、モアデッキ314内の左側に位置するモアブレード40L´の回転中心は、右側に位置するモアブレード40R´の回転中心の斜め左前方に位置している(なお、矢印Fがローンモア300の前進方向である)。具体的には、2つのモアブレード40R´,40L´の回転軸315A,315Aを結ぶ直線L1と直交する直線L3が、ローンモア300の前進方向Fと角度=θだけ平面視で右側に傾くように配置される(言い換えると、左側のモアブレード40L´の回転中心と右側のモアブレード40R´の回転中心とを結ぶ直線L1は、ローンモア300の車幅方向を示す直線L2からやや左前方(角度θ)に傾いている)。なお、モアブレード40R´,40L´の回転軌跡TR,TLは、直線L1上にてわずかな距離=Δαをもって最接近する。そして、その距離=Δαの中点を最接近点Pと称す。最接近点Pにおけるモアブレード40R´,40L´の回転軌跡TR,TL間のわずかな距離=Δαは適宜設定することができる。
【0096】
この例では、油圧モータMLの回転数を油圧モータMRの回転数よりも大きくする。すなわち、時計回りに回転するモアブレード40L´の回転数を、反時計回りに回転するモアブレード40R´の回転数よりも大きくする。この制御は、回転速度ボタン(前述)を押すことでなされる。モアブレード40L´とモアブレード40R´の回転数を違えることによって、モアブレード40L´が回転しておこす風WF1´の速度をモアブレード40R´が回転しておこす風WF2´の速度よりも大きくすることができる。これら2つの風WF1´,WF2´は最接近点Pにおいて合成されて合成風WF´となる。合成風WF´は、モアデッキ314のほぼ真後ろ(ローンモア300のほぼ真後ろ)へと向かい、モアデッキ314の後部の開口より排出される。このとき、2つのモアブレード40L´,40R´の回転軌跡が最接近する箇所Pにおける2つの回転軌跡の接線L3方向と風の流れWF´とのなす角はほぼθとなる(上述の直線L1と直線L2とのなす角とほぼ同じである)。
【0097】
モアブレード40L´のおこす風WF1´の速度ベクトルのうち車幅方向の成分(図23中で直線L2に沿った右向きの成分)が、モアブレード40R´のおこす風WF2´の速度ベクトルのうち車幅方向の成分(図23中で直線L2に沿った左向きの成分)よりも大きいため、風WF1´と風WF2´の合成風WF´は、接線L3に向かわずに、角度θだけ反時計回りに傾くことになる。
【0098】
なお、左右の油圧モータML,MRの回転数を同じに設定(すなわち、いずれも高速回転、または、いずれも低速回転)すると、モアブレード40L´,40R´がおこす風の量はほぼ同一となる。この場合には、最接近点Pにおける2つの回転軌跡TL,TRの接線L3方向に向けて合成風が形成されてしまう。このため、刈った芝をモアデッキ314の真後ろへ排出することができない。言い換えると、この例では、合成風の方向を接線L3方向から角度θだけ傾けるために、モアブレード40L´のおこす風の速度を増やすものである。なお、左側に位置するモアブレード40L´の回転数を右側に位置するモアブレード40R´の回転数に対して5〜50%増やようにすると好適である。そこで、低速・高速の2段階切替の油圧モータML,MRに代えて、多段階に回転数を変更可能な油圧モータを適用してもよい。このようにする場合には、運転席321に左右の上記油圧モータの回転数を設定するための2つのダイヤルを備えるようにする。
【0099】
また、図12(a),(b)にて説明されたような実施例をローンモア300に適用してもよい。この場合、図24(a)に示すように、運転席321の近傍にブレード設定ダイヤル(調整部)D1を備える。ブレード設定ダイヤルD1はそれぞれモアブレード40L´,40R´の回転数を周期的に変化させるにあたり、その周期を設定するためのものである。ブレード設定ダイヤルD1は円板状に形成され、その中心部は回転軸の先端と固定されている。回転軸の後端は回転センサRSと連結された状態で回動可能に取り付けられている。
【0100】
ブレード設定ダイヤルD1の表面にはそれぞれ、「OFF」、「1」〜「6」の文字が描かれており、別に備える目印部にいずれかの文字を合わせることでモアブレード40L´,40R´の回転数の変動周期を設定することができる。ブレード設定ダイヤルD1の「OFF」を目印部に合わせると、モアブレード40L´,40R´の回転数が変動しないように設定される。ブレード設定ダイヤルD1の「1」を目印部に合わせると、モアブレード40L´,40R´の回転数の変動周期が短く設定される。モアブレード40L´,40R´の回転数の変動周期を長くしたいときは、ブレード設定ダイヤルD1の数字「2」、「3」・・・「6」を適宜、目印部に合わせる(したがって、「6」に合わせるとモアブレード40L´,40R´の変動周期を最も長く設定することができる)。
【0101】
回転センサRSはハーネスを介して制御部CTと連結されている。回転センサRSは、ブレード設定ダイヤルD1の回動位置を検出して制御部CTに送信するためのものである。制御部CTからの信号は多段階に回転数を変更可能な2つの油圧モータFML,FMRのそれぞれに送られ、モアブレード40L´,40R´を回転させる。
【0102】
制御部CTでは、回転センサRSからの信号に基づいて上記2つの油圧モータFML,FMRの回転数の変動周期と変動量を制御している。図24(b)に示すように、右の油圧モータFMRの回転数の変動分は正弦波:sin(2π/T)で表され、周期=T、振幅=b(bは定数)である。この回転数の変動分に不変回転数(a+b)rpmを加えて(aは定数)、右の油圧モータFMRの回転数NRをy=(a+b)+bsin(2π/T)rpmで変動させる。すなわち、右の油圧モータFMRは、基準となる回転数:(a+b)rpmに、変動分:y=bsin(2π/T)rpmを加えたものである。
【0103】
一方、左の油圧モータFMLの回転数の変動分は正弦波:sin[(2π/T)+π]で表され、周期=T、振幅=bである。この回転数の変動分に不変回転数(a+b)rpmを加えて、左の油圧モータFMLの回転数NLをy=(a+b)+bsin[(2π/T)+π]rpmで変動させる。すなわち、左の油圧モータFMLは、基準となる回転数:(a+b)rpmに、変動分:y=bsin[(2π/T)+π]rpmを加えたものである。このように左の油圧モータFMLの回転数の変動周期は、右の油圧モータFMRの回転数のそれと比べて半周期進んでいる。このため、左右の油圧モータFML,FMRの回転数差をより大きくすることができる。
【0104】
ブレード設定ダイヤルD1を「1」から「6」に向かって順次変更すると、左右の油圧モータFML,FMRの周期=Tが順次短く(小さく)なる。また、ブレード設定ダイヤルD1を「OFF」にすると、左右の油圧モータFML,FMRは不変回転数分(a+b)rpmで回転する。
【0105】
なお、モアデッキに備えるモアブレードの数は2つに限定されるものではなく、複数であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
この発明の乗用草刈機は、芝刈りに限定されるものではなく、草を刈るためのあらゆる作業に適用しうる。また、バッテリー駆動、エンジン駆動のいずれにも適用しうる。
【符号の説明】
【0107】
10 電動ローンモア(乗用草刈機)
11 シャーシ
14 モアデッキ
15 モアモータ
15A 回転軸
22 走行操作レバー
25 バッテリー
40L,40R モアブレード
40W ハネ
D ブレード設定ダイヤル(調整部)
E エンジン
WF 合成風
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図24