【文献】
I.S. MULLA ET AL.,Electron spectroscopic studies on films of Sn02 and Sn02:Sb,SURFACE AND COATINGS TECHNOLOGY,1987年,vol. 31,pages 77 - 88
【文献】
SEUNG-YUP LEE ET AL.,Structural, electrical and optical characteristics of Sn02:Sb thin films by ultrasonic spray pyrolysis,THIN SOLID FILMS,2006年 2月 3日,vol. 510,pages 154 - 158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであり、導電性が高く、赤外線カット特性が高いアンチモンドープ酸化錫粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決したアンチモンドープ酸化錫粉末とその製造方法に関する。
〔1〕(A)Sn
2+、Sn
4+、Sb
3+およびSb
5+からなる群より選択される少なくとも3種を含有し、
(B)Sn
2+のイオン半径とSn
4+のイオン半径の平均であるSn平均イオン半径と、Sb
3+のイオン半径とSb
5+のイオン半径の平均であるSb平均イオン半径が、式(1)で表される割合であり、かつ、
(C)SbとSnの合計100モルに対して、Sbが5〜25モルの割合であることを特徴とする、アンチモンドープ酸化錫粉末。
Sn平均イオン半径:Sb平均イオン半径=1:(0.96〜1.04) (1)
〔2〕原料は、SnCl
2、SnCl
4、SbCl
3およびSbCl
5からなる群より選択される少なくとも3種を含有し、
Sn
2+のイオン半径とSn
4+のイオン半径の平均であるSn平均イオン半径と、Sb
3+のイオン半径とSb
5+のイオン半径の平均であるSb平均イオン半径が、式(2)で表される割合であり、かつ、
SbとSnの合計100モルに対して、Sbが5〜25モルの割合であり、
前記原料の水溶液からSbとSnの水酸化物を共沈させ、
共沈水酸化物を焼成することを特徴とする、アンチモンドープ酸化錫粉末の製造方法。
Sn平均イオン半径:Sb平均イオン半径=1:(0.96〜1.04) (2)
〔3〕SnCl
2とSnCl
4とを含有し、SnCl
2とSnCl
4との合計100モルに対して、SnCl
4を2〜40モルの割合で含有するSn含有水溶液を準備する工程と、
SbCl
3を含有するSb添加水溶液を準備する工程と、
前記Sn含有水溶液と前記Sb添加水溶液とを混合し、Sb添加Sn含有水溶液を作製する工程とを有し、
前記Sb添加Sn含有水溶液からSbとSnの水酸化物を共沈させる、上記〔2〕記載のアンチモンドープ酸化錫粉末の製造方法。
〔4〕SbCl
3とSbCl
5とを含有し、SbCl
3とSbCl
5との合計100モルに対して、SbCl
5を44〜66モルの割合で含有するSb添加水溶液を準備する工程と、
SnCl
4を含有するSn含有水溶液を準備する工程と、
前記Sb添加水溶液と前記Sn含有水溶液とを混合し、Sb添加Sn含有水溶液を作製する工程とを有し、
前記Sb添加Sn含有水溶液からSbとSnの水酸化物を共沈させる、上記〔2〕記載のアンチモンドープ酸化錫粉末の製造方法。
〔5〕上記〔1〕記載のアンチモンドープ酸化錫粉末を溶媒に分散させた、分散液。
〔6〕上記〔1〕記載のアンチモンドープ酸化錫粉末と、樹脂とを含有する塗料。
〔7〕上記〔1〕記載のアンチモンドープ酸化錫粉末を含有する、熱線遮蔽用透明膜。
〔8〕可視光線透過率が83〜87%であるとき、〔(可視光線透過率)/(日射透過率)〕が1.25以上である、上記〔7〕記載の熱線遮蔽用透明膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明〔1〕によれば、導電性が高く、赤外線カット特性が高いアンチモンドープ酸化錫粉末を提供することができる。
【0009】
また、本発明〔2〕によれば、導電性が高く、赤外線カット特性が高いアンチモンドープ酸化錫粉末を簡便に製造することができる。
【0010】
本発明〔5〕または〔6〕によれば、高導電性で、赤外線カット特性が高い塗膜が容易に得られるので、〔5〕の分散液及び〔6〕の塗料は、自動車、電車、船舶、建築機材や飛行機等の車両用の窓材、住宅の窓材、ショーケースに使用されるガラス板等に容易に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量%である。
【0013】
〔アンチモンドープ酸化錫粉末〕
本実施形態のアンチモンドープ酸化錫粉末は、
(A)Sn
2+、Sn
4+、Sb
3+およびSb
5+からなる群より選択される少なくとも3種を含有し、
(B)Sn
2+のイオン半径とSn
4+のイオン半径の平均であるSn平均イオン半径と、Sb
3+のイオン半径とSb
5+のイオン半径の平均であるSb平均イオン半径が、式(1)で表される割合であり、かつ、
(C)SbとSnの合計100モルに対して、Sbが5〜25モルの割合であることを特徴とする。
Sn平均イオン半径:Sb平均イオン半径=1:(0.96〜1.04) (1)
なお、Sn平均イオン半径:Sb平均イオン半径は好ましくは1:(0.98〜1.04)であり、より好ましくは、1:(0.98〜1.02)である。
また、SbとSnの合計100モルに対して、Sbが8〜25モルであることが好ましく、9〜22モルであることがより好ましい。
【0014】
まず、Sn平均イオン半径とSb平均イオン半径との関係について説明する。Sn
4+のイオン半径は、74pmであり、Sn
2+のイオン半径は、93pmであり、Sb
5+のイオン半径は、62pmであり、Sb
3+のイオン半径は、89pmである。アンチモンドープ酸化錫を、Sn
4+とSb
5+から製造する場合には、Sn
4+とSb
5+のイオン半径の比が、約(1:0.84)になり、赤外線カット特性を向上させるためにSb量を増加させると、一部のアンチモンが、酸化錫の結晶格子に取り込まれず、ドーピングされない。また、アンチモンドープ酸化錫の結晶性が低下し、導電率が低下してしまう。一方、Sn
4+とSb
3+から製造する場合には、Sn
4+とSb
3+のイオン半径の比が、約(1:1.20)になり、Sb量を増加させると、一部のアンチモンが、酸化錫の結晶格子に取り込まれず、ドーピングされない。また、アンチモンドープ酸化錫の結晶性が低下し、導電率が低下してしまう。
【0015】
表1に、SnイオンとしてSn
4+を、SbイオンとしてSb
5+とSb
3+を使用する場合の平均イオン半径の比を示す。Sb平均イオン半径は、Sb
5+の割合とSb
3+の割合から、加重平均して求める。ここで、Sb
5+のイオン半径をR
Sb5と、Sb
3+のイオン半径をR
Sb3とし、Sb
5+のモル比が、Sb
5+のモル比とSb
3+のモル比の合計1モルに対して、xモルの割合である場合のSb平均イオン半径:R
Sbを、下記式(2)に示す。
(R
Sb)=(R
Sb5)×(x)+(R
Sb3)×(1−x) (2)
なお、表1に示すSb
5+の割合とSb
3+の割合とは、モル比で示している。
【0016】
また、SnイオンとしてSn
4+を、SbイオンとしてSb
5+とSb
3+を使用する場合の平均イオン半径の比は、式(3)により求める。
(平均イオン半径の比)=(R
Sb)/(Sn
4+のイオン半径) (3)
【0018】
表1からわかるように、SnイオンとしてSn
4+を使用する場合には、Sb
5+とSb
3+の合計1モルに対して、Sb
5+が0.44〜0.66モルであると、Sn平均イオン半径:Sb平均イオン半径=1:(1.04〜0.96)になり、赤外線カット特性を高くするために、Sb添加量を高くしても、アンチモンドープ酸化錫の結晶性が高い、すなわち導電性が高いアンチモンドープ酸化錫粉末を得ることができる。
【0019】
次に、表2に、SbイオンとしてSb
3+を、SnイオンとしてSn
4+とSn
2+を使用する場合の平均イオン半径の比を示す。Sn平均イオン半径は、Sn
4+の割合とSn
2+の割合から、加重平均して求める。ここで、Sn
4+のイオン半径をR
Sn4と、Sn
2+のイオン半径をR
Sn2とし、Sn
4+のモル比とSn
2+のモル比の合計1モルに対して、Sn
4+のモル比がyモルの割合である場合のSn平均イオン半径:R
Snを、下記式(4)に示す。
(R
Sn)=(R
Sn4)×(y)+(R
Sn2)×(1−y) (4)
なお、表2に示Sn
4+の割合とSn
2+の割合とは、モル比で示している。
【0020】
また、SbイオンとしてSb
3+を、SnイオンとしてSn
4+とSn
2+を、使用する場合の平均イオン半径の比は、式(5)により求める。
(平均イオン半径の比)=(Sb
3+のイオン半径)/(R
Sn) (5)
【0022】
表2からわかるように、SbイオンとしてSb
3+を使用する場合には、Sn
4+とSn
2+の合計1モルに対して、Sn
4+が0.02〜0.40モルであると、Sn平均イオン半径:Sb平均イオン半径=1:(0.96〜1.04)になり、赤外線カット特性を高くするために、Sb添加量を高くしても、アンチモンドープ酸化錫の結晶性が高い、すなわち導電性が高いアンチモンドープ酸化錫粉末を得ることができる。
【0023】
次に、表3に、Sbイオンとして、Sb
5+とSb
3+を1:2のモル比(Sb平均イオン半径:80pm)で、SnイオンとしてSn
4+とSn
2+を使用する場合の平均イオン半径の比を示す。Sn平均イオン半径は、Sn
4+の割合とSn
2+の割合から、加重平均して求める。ここで、Sn
4+のイオン半径をR
Sn4と、Sn
2+のイオン半径をR
Sn2とし、Sn
4+のモル比が、Sn
4+のモル比とSn
2+のモル比の合計1モルに対して、pモルの割合である場合のSn平均イオン半径:R
Snを、下記式(6)に示す。
(R
Sn)=(R
Sn4)×(p)+(R
Sn2)×(1−p) (6)
なお、表3に示Sn
4+の割合とSn
2+の割合とは、モル比で示している。
【0024】
Sb平均イオン半径は、Sb
5+の割合とSb
3+の割合から、加重平均して求める。ここで、Sb
5+のイオン半径をR
Sb5と、Sb
3+のイオン半径をR
Sb3とし、Sb
5+のモル比が、Sb
5+のモル比とSb
3+のモル比の合計1モルに対して、qモルの割合である場合のSb平均イオン半径:R
Sbを、下記式(7)に示す。
(R
Sb)=(R
Sb5)×(q)+(R
Sb3)×(1−q) (7)
【0025】
また、SbイオンとしてSb
5+とSb
3+を、SnイオンとしてSn
4+とSn
2+を、使用する場合の平均イオン半径の比は、式(8)により求める。
(平均イオン半径の比)=(R
Sb)/(R
Sn) (8)
【0027】
表3からわかるように、Sbイオンとして、Sb
5+とSb
3+を1:2のモル比で使用する場合には、Sn
4+とSn
2+の合計1モルに対して、Sn
4+が0.51〜0.84モルであると、Sn平均イオン半径:Sb平均イオン半径=1:(0.96〜1.04)になり、赤外線カット特性を高くするために、Sb添加量を高くしても、アンチモンドープ酸化錫の結晶性が高い、すなわち導電性が高いアンチモンドープ酸化錫粉末を得ることができる。Sn
4+とSn
2+の比により、アンチモンドープ酸化錫粉末の導電性を制御することができるので、4種類の原料を使用する場合には、Sn
4+とSn
2+を所望の導電性が得られる比にし、所望のSn平均イオン半径とSb平均イオン半径の比になるように、Sb
5+とSb
3+のモル比を逆算することも可能である。ここで、Sn
2+、Sn
4+、Sb
3+およびSb
5+の定量は、XPS(X-ray photoelectron spectroscopy)により行う。
【0028】
次に、SbとSnの合計100モルに対して、Sbは5〜25モルの割合であり、赤外線カット特性を高くするためには、8〜25モルの割合であると好ましい。ここで、SbとSnの定量測定は、誘導結合プラズマ発光分析法により行う。
【0029】
アンチモンドープ酸化錫粉末は、Lab表色系におけるL値が50以下の色調であると、赤外線カット特性が高くなり、好ましい。さらに、L値が40以下であると、赤外線カット特性が高くなり好ましい。ここで、L値は、スガ試験機社製カラーコンピュータ(型番:SM−7)で測定する。なお、L値は、アンチモンドープ酸化錫粉末を含有する熱線遮蔽用透明膜の透明性の観点から、6以上であると好ましい。
【0030】
アンチモンドープ酸化錫粉末は、BET比表面積が、50m
2/g以上であると、赤外線カット特性が高くなり、好ましい。さらに、BET比表面積が70m
2/g以上であることが好ましい。なお、BET比表面積が、120m
2/g以下であると、アンチモンドープ酸化錫粉末のハンドリング性の観点から好ましい。
【0031】
アンチモンドープ酸化錫粉末は、粉体体積抵抗率を、20Ω・cm以下にすることができる。ここで、粉体体積抵抗率は、試料粉末を圧力容器に入れて980Nで圧縮し、この圧粉をデジタルマルチメーターによって測定する。
【0032】
赤外カット特性は、可視光線透過率(%Tv、波長範囲:380〜780nm)と日射透過率(%Ts、波長範囲:300〜2500nm)を測定し、〔(%Tv)/(%Ts)〕を算出することにより、評価することができる。ここで、可視光線透過率と日射透過率を測定するためには、まず、アンチモンドープ酸化錫粉末を分散し、分散した液を樹脂と混合して塗料化する。次に、得られた塗料を透明フィルムに塗布した後、乾燥して、熱線遮蔽組成膜を作製する。次に、未塗布のフィルムの可視光線透過率と日射透過率とをバックグラウンドとして測定した後、熱線遮蔽組成膜を形成したフィルムの可視光線透過率と日射透過率とを、日立製作所社製分光光度計(型番:U−4000)を用いて測定する。
【0033】
〔アンチモンドープ酸化錫粉末の製造方法〕
本実施形態のアンチモンドープ酸化錫粉末の製造方法は、
原料は、SnCl
2、SnCl
4、SbCl
3およびSbCl
5からなる群より選択される少なくとも3種を含有し、
Sn
2+のイオン半径とSn
4+のイオン半径の平均であるSn平均イオン半径と、Sb
3+のイオン半径とSb
5+のイオン半径の平均であるSb平均イオン半径が、式(9)で表される割合であり、かつ、
SbとSnの合計100モルに対して、Sbが5〜25モルの割合であり、
前記原料の水溶液からSbとSnの水酸化物を共沈させ、
前記共沈水酸化物を焼成することを特徴とする。
Sn平均イオン半径:Sb平均イオン半径=1:(0.96〜1.04) (9)
【0034】
原料に、SnCl
2、SnCl
4、およびSbCl
3を用いる場合には、SnCl
2とSnCl
4とを含有し、SnCl
2とSnCl
4との合計100モルに対して、SnCl
4を2〜40モルの割合で含有するSn含有水溶液と、
SbCl
3を含有するSn含有水溶液と、を混合し、Sb添加Sn含有水溶液を作製し、
Sb添加Sn含有水溶液からSbとSnの水酸化物を共沈させると、式(10)で表される割合になるので、好ましい。
Sn平均イオン半径:Sb平均イオン半径=1:(0.96〜1.04) (10)
このように、SbCl
3を混合するときに、SbCl
3水溶液を使用すると、Sb添加Sn含有水溶液を容易に均一にすることができ、好ましい。
【0035】
また、原料に、SnCl
4、SbCl
3およびSbCl
5を用いる場合には、
SbCl
3とSbCl
5とを含有し、SbCl
3とSbCl
5との合計100モルに対して、SbCl
5を44〜66モルの割合で含有するSb添加水溶液と、
SnCl
4を含有するSn含有水溶液と、を混合し、Sb添加Sn含有水溶液を作製し、
Sb添加Sn含有水溶液からSbとSnの水酸化物を共沈させると、式(11)で表される割合になるので、好ましい。
Sn平均イオン半径:Sb平均イオン半径=1:(0.96〜1.04) (11)
このように、SnCl
4を混合するときに、SnCl
4水溶液を使用すると、Sb添加Sn含有水溶液を容易に均一にすることができ、好ましい。
【0036】
SnCl
2、SnCl
4、SbCl
3およびSbCl
5からなる群より選択される少なくとも3種の水溶液として、塩酸水溶液を用いると、原料の溶解性、共沈反応の均一性の観点から好ましい。また、SnCl
2、SnCl
4、SbCl
3およびSbCl
5の水溶液中での濃度は、1〜80質量%であると、原料の溶解性、共沈反応の均一性、生産性の観点から好ましい。
【0037】
原料の水溶液から、SbとSnの水酸化物を共沈させるために、アルカリ水溶液を用いる。アルカリ水溶液に使用するアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩やアンモニア等が挙げられ、これらを単独でも2種以上を混合して用いてもよい。原料の水溶液に、アルカリ水溶液を滴下する方法は、当業者に公知の方法でよい。滴下するときには、pH10以下で、40〜100℃に加温すると好ましい。
【0038】
なお、上述の原料に、SnCl
2、SnCl
4、およびSbCl
3を用いる場合には、Sn含有水溶液に、SbCl
3を含有させるときに、同時にアルカリ水溶液を添加することができる。また、上述の原料に、SnCl
4、SbCl
3およびSbCl
5を用いる場合には、Sb添加水溶液に、SnCl
4を含有させるときに、同時にアルカリ水溶液を添加することができる。
【0039】
SbとSnの水酸化物を共沈させた後、デカンテーションにより残留塩分を除去して乾燥する。残留塩分を除去する洗浄は、塩酸が僅かに残留する程度、例えば、SbとSnの水酸化物の電気伝導度が、0.4mS/cm未満になるまで、に止めるのが良い。
【0040】
粉末を膜に塗布もしくは基材に練り込む用途に使用する場合の焼成は、400〜900℃で行うことが好ましい。400℃より低いと十分な導電性が得られず、900℃より高いとアンチモンドープ酸化錫粉末の焼結が始まり、粒子径が可視光線域のλ/4以上となり、粉末を膜に塗布もしくは練り込んだ場合は、透明性、ヘーズの劣化が生じるので好ましくない。しかしながら、ターゲット材等の原料として用いる場合には、成形性の観点から適性な粒子サイズとなる。また、焼成を大気中で行うことにより、アンチモンドープ酸化錫粉末の透明度を高めることができる。
【0041】
以上により、導電性が高く、赤外線カット特性が高いアンチモンドープ酸化錫粉末を製造することができる。
【0042】
〔アンチモンドープ酸化錫粉末の応用〕
本実施形態の透明導電性アンチモンドープ酸化錫粉末は、溶媒に分散させて分散液として使用することができる。ここで、溶媒は、各種溶媒を用いることができ、特に限定はないが、水、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール系、メチルエチルケトン等のケトン系、ヘキサン、トルエン等の非極性溶媒が好ましい。
【0043】
分散液中のアンチモンドープ酸化錫粉末の含有量は、質量基準で1〜70質量%、好ましくは10〜60質量%である。1質量%未満では、粉末を添加する効果が少なく、70質量%を超えるとゲル化することがあり、助剤等が必要となる。
【0044】
分散液には、その目的を損なわない範囲内で、慣用の各種添加剤を配合してもよい。このような添加剤として、分散剤、分散助剤、重合禁止剤、硬化触媒、酸化防止剤、レベリング剤、膜形成樹脂等を挙げることができる。
【0045】
また、上記分散液に、樹脂を添加し、塗料として利用することができる。分散液を用いて塗料化すると、塗料化時の分散エネルギー等の軽減を図る上で、好ましい。ここで、樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、塩ビ−酢ビ樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル−スチレン共重合樹脂、繊維素樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、石油樹脂、セラック、ロジン誘導体、ゴム誘導体等の天然系樹脂等が挙げられる。
【0046】
アンチモンドープ酸化錫粉末の樹脂への配合量は、樹脂100質量部に対して0.1〜950質量部、好ましくは0.7〜800質量部である。要求される透明導電膜の電気抵抗率、赤外線カット特性や膜厚によって、好ましい値が変わる。
【0047】
また、アンチモンドープ酸化錫粉末と樹脂を混合し、塗料とすることもできる。この場合には、溶媒を添加してもよい。用いられる樹脂、溶媒、アンチモンドープ酸化錫粉末の樹脂の配合量については上記のとおりであり、溶媒は塗料の粘性を調節するために、適宜添加すればよい。
【0048】
分散液または塗料を、自動車、電車、船舶、建築機材や飛行機等の車両用の窓材、住宅の窓材、ショーケースに使用されるガラス板等に塗布し、乾燥することにより、導電性が高く、赤外線カット特性が高い熱線遮蔽用透明膜を得ることができる。
【0049】
分散液や塗料等のガラス板への塗布は、常法により、例えば、ロールコート、スピンコート、スクリーン印刷、アプリケーター等の手法で行うことができる。その後、バインダー成分を、必要により加熱して溶剤を蒸発させ、塗膜を乾燥させて固化させる。このとき、加熱または紫外線等を照射してもよい。
【0050】
熱線遮蔽用透明膜の厚さは、透明性、導電性、赤外線カット特性の観点から、塗布膜の場合は、0.1〜5μmであると好ましく、0.5〜3μmであるとより好ましい。ただし、樹脂に練り込む場合は、厚さは限定されない。
【0051】
また、熱線遮蔽用透明膜の可視光線透過率が83〜87%であるとき、〔(可視光線透過率)/(日射透過率)〕が1.25以上であると、赤外カット特性を向上させることができる。ここで、可視光線透過率と日射透過率は、アンチモンドープ酸化錫粉末を分散し、分散した液を樹脂と混合して塗料化し、得られた塗料を透明フィルムに塗布した後、乾燥して、熱線遮蔽組成膜を作製する。塗料が未塗布の透明フィルムの可視光線透過率と日射透過率とをバックグラウンドとして測定した後、熱線遮蔽組成膜を形成したフィルムの可視光線透過率と日射透過率とを日立製作所社製分光光度計(型番:U−4000)を用いて測定する。このとき、熱線遮蔽透明膜の可視光線透過率が、83〜87%であれば、熱線遮蔽用透明膜の〔(可視光線透過率)/(日射透過率)〕が、1.25〜1.50になる。
【0052】
このように本実施形態のアンチモンドープ酸化錫粉末を用い、分散液、塗料等の形態で供給が可能である。また、これらによって形成された熱線遮蔽用透明膜は、自動車、電車、船舶、建築機材や飛行機等の車両用の窓材、住宅の窓材、ショーケースに使用されるガラス板等に広く適用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例において、アンチモンドープ酸化錫粉末のL値は、L値は、スガ試験機社製カラーコンピュータ(型番:SM−7)を用いて測定した。BET比表面積は、島津製作所社製流動式比表面積自動測定装置(型番:フローソーブ2310)を用いて測定した。粉体体積抵抗率は、横河電機社製測定装置(型番:DM−7561)を用い、試料5gを、断面積(S:4.9cm
2)の金型に入れ、980Nで加圧し、加圧時の抵抗値(R)と試料の厚み(H)を測定し、R(Ω)×S(cm
2)/H(cm)の式に基づいて求めた。可視光線透過率(%Tv、波長範囲:380〜780nm)と日射透過率(%Ts、波長範囲:300〜2500nm)は、以下のように測定した。まず、アンチモンドープ酸化錫粉末:20gを、イオン交換水:30gで分散し、得られた分散液を、水で2倍(質量比)に希釈した。希釈液:50.0gを、22質量%ウレタン系熱硬化型樹脂水溶液(ディスパージョンタイプ):45.5gと、アンチモンドープ酸化錫粉末と樹脂の質量比率が、1:1になるように混合し、塗料を作製した。混合した塗料を、PETフィルム(厚さ:100μm、ヘーズ:2.0%、全光透過率:90%)に、厚さ:2μmで塗布した。次に、日立製作所社製分光光度計(型番:U−4000)を用いて、未塗布のPETフィルムの可視光線透過率と日射透過率とをバックグラウンドとして測定した後、熱線遮蔽組成膜を形成したPETフィルムの可視光線透過率と日射透過率とを測定し、熱線遮蔽組成膜の可視光線透過率と日射透過率を求め、可視光線透過率/日射透過率の比率(〔(%Tv)/(%Ts)〕)を算出した。
【0054】
〔実施例1:Sn
4+に、Sb
3+とSb
5+を組み合わせた場合〕
SbとSnの合計100モルに対して、Sbのモル比が9.8モルの割合になるように、50質量%SbCl
3水溶液(Sb金属:2.64g(0.022モル)含有):9.9gと40質量%SbCl
5水溶液(Sb金属:3.36g(0.028モル)含有):16.2gを混合し、更に、この塩化アンチモン混合液と50質量%SnCl
4水溶液(Sn金属:54g(0.455モル)含有):237.0gを混合した。この混合液を、NaOH:90g/1.2dm
3の水溶液中に、80℃の加温下で攪拌しながら滴下し、最終pH7にして、SnとSbの水酸化物を共沈させた。次に、静置して、共沈したSnとSbの水酸化物を沈降させ、上澄み液を除去し、イオン交換水を加えて静置・沈降と上澄み液除去の操作を、上澄み液の電気伝導度が200μS/cm以下になるまで、繰り返し実施した。SnとSbの共沈水酸化物の沈殿をろ過し、乾燥後、大気中600℃で2時間焼成した。得られたアンチモンドープ酸化錫粉末の比表面積、色度(L,a,b)、粉体体積抵抗率を測定した。更に、アンチモンドープ酸化錫粉末:20gを、イオン交換水:20gで分散し、得られた分散液を用いて、可視光線透過率(%Tv)と日射透過率(%Ts)を求め、可視光線透過率/日射透過率の比率(〔(%Tv)/(%Ts)〕)を算出した。
【0055】
〔実施例2、3、比較例1、2:Sn
4+と、Sb
3+とSb
5+組み合わせた場合〕
表4に示す割合になるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、アンチモンドープ酸化錫粉末を製造し、得られたアンチモンドープ酸化錫粉末の各特性を測定した。表4に、Sn
4+と、Sb
3+とSb
5+組み合わせた場合の結果を示す。
【0056】
〔実施例4:Sn
4+とSn
2+に、Sb
3+を組み合わせた場合〕
SbとSnの合計100モルに対して、Sbのモル比が9.8モルの割合になるように、40質量%SnCl
2水溶液(Sn金属:52.38g(0.441モル)含有):209.2gと50質量%SnCl
4水溶液(Sn金属:1.62g(0.014モル)含有):7.1gを混合し、更に、この塩化錫混合液と50質量%SbCl
3水溶液(Sb金属:6.0g(0.049モル)含有):22.5gを混合した。後は、実施例1記載の方法で実施した。表5に、これらの結果を示す。
【0057】
〔実施例5、6、比較例3、4:Sn
4+とSn
2+に、Sb
3+を組み合わせた場合〕
表5に示す割合になるようにしたこと以外は、実施例4と同様にして、アンチモンドープ酸化錫粉末を製造し、得られたアンチモンドープ酸化錫粉末の各特性を測定した。表5に、Sn
4+とSn
2+と、Sb
3+の組み合わせたこれらの結果を示す。
【0058】
〔実施例7:Sn
4+とSn
2+に、Sb
3+とSb
5+を組み合わせた場合〕
SbとSnの合計100モルに対して、Sbのモル比が9.8モルの割合になるように、50質量%SbCl
3水溶液(Sb金属:4.0g(0.033モル)含有):15.0gと40質量%SbCl
5水溶液(Sb金属:2.0g(0.016モル)含有):12.3gを混合した塩化アンチモン混合液Aを作製した。次に、40質量%SnCl
2水溶液(Sn金属:16.2g(0.136モル)含有):64.7gと50質量%SnCl
4水溶液(Sn金属:37.8g(0.318モル)含有):165.9gを混合した塩化錫混合液Bを作製した。次に、塩化アンチモン混合液Aと塩化錫混合液Bを混合した。後は、実施例1記載の方法で実施した。表6に、これらの結果を示す。
【0059】
〔実施例8,9、比較例5:Sn
4+とSn
2+に、Sb
3+とSb
5+を組み合わせた場合〕
表6に示す割合になるようにしたこと以外は、実施例7と同様にして、アンチモンドープ酸化錫粉末を製造し、得られたアンチモンドープ酸化錫粉末の各特性を測定した。表6に、Sn
4+とSn
2+に、Sb
3+とSb
5+を組み合わせた場合の結果を示す。
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
表4〜6からわかるように、SbとSnのイオン半径の割合を制御した実施例1〜9の全てにおいて、粉体体積抵抗率が低くなることが確認できた。これは、結晶化度が高くなったためである、と考えられる。また、実施例1〜9の全てにおいて、〔(可視光線透過率)/(日射透過率)〕の比が1.26以上と非常に高い値を示しており、熱線カット性能が著しく向上していることがわかった。なお、実施例1〜9の全てにおいて、L値は50以下、比表面積は50m
2/g以上と、所望範囲内であった。これに対して、SbとSnのイオン半径の割合が所定範囲外の比較例1〜5では、可視光線透過率/日射透過率の比が、1.24以下と低かった。
【0064】
〔実施例10:Sn
4+に、Sb
3+とSb
5+を組み合わせた場合〕
SbとSnの合計100モルに対して、Sbのモル比が22モルの割合になるように、50質量%SbCl
3水溶液(Sb金属:7.81g(0.064モル)含有):29.3gと40質量%SbCl
5水溶液(Sb金属:7.81g(0.064モル)含有):48.0gを混合し、更に、この塩化アンチモン混合液と50質量%SnCl
4水溶液(Sn金属:54g(0.455モル)含有):237.0gを混合した。この混合液を、NaOH:110g/1.2dm
3の水溶液中に、80℃の加温下で攪拌しながら滴下し、最終pH7にして、SnとSbの水酸化物を共沈させた。次に、静置して、共沈したSnとSbの水酸化物を沈降させ、上澄み液を除去し、イオン交換水を加えて静置・沈降と上澄み液除去の操作を、上澄み液の電気伝導度が200μS/cm以下になるまで、繰り返し実施した。SnとSbの共沈水酸化物の沈殿をろ過し、乾燥後、大気中650℃で2時間焼成し、アンチモンドープ酸化錫粉末を得た。得られたアンチモンドープ酸化錫粉末の比表面積、色度(L,a,b)、粉体体積抵抗率、X線回折を測定した。
図1に、X線回折の結果を示す。更に、アンチモンドープ酸化錫粉末:20gを、イオン交換水:30gで分散し、得られた分散液を用いて、可視光線透過率(%Tv)と日射透過率(%Ts)を求め、可視光線透過率/日射透過率の比率(〔(%Tv)/(%Ts)〕)を算出した。表7に、これらの結果を示す。
【0065】
〔比較例6:Sn
4+に、Sb
3+を組み合わせた場合〕
SbとSnの合計100モルに対して、Sbのモル比が22モルの割合になるように、50質量%SbCl
3水溶液(Sb金属:15.6g(0.128モル)含有):58.5gと、この塩化アンチモン混合液と50質量%SnCl
4水溶液(Sn金属:54g(0.455モル)含有):237.0gを混合した。後は、実施例10記載の方法で、アンチモンドープ酸化錫粉末を作製し、アンチモンドープ酸化錫粉末の評価を行った。表7に、これらの結果を、
図2に、X線回折の結果を示す。
【0066】
【表7】
【0067】
図1と
図2を比較するとわかるように、SnとSbの比率が同じであるにもかかわらず、イオン半径を制御した実施例10においては、酸化アンチモンのピークが見られなかったが、比較例6においては、2θで29°の酸化アンチモンのピーク(
図2に、白の三角形で示す)が生じた。このことからも、イオン半径を制御することで、ドーピングの効率が向上することを確認できた。また、表7からわかるように、実施例10では、比較例6より、アンチモンドープ酸化錫粉末の粉体体積抵抗率が低かった。これらのアンチモンドープ酸化錫粉末を含有する熱線遮蔽透明膜は、日射透過率が低く、熱線遮蔽透明膜の可視光線透過率/日射透過率の比率(〔(%Tv)/(%Ts)〕)が高い値を示し、赤外線カット特性が良好であった。なお、比較例6は、可視光線透過率/日射透過率の比率(〔(%Tv)/(%Ts)〕)が1.24であり、粉体体積抵抗率が3.3Ω・cmと高かった。