(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798315
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】コンタクトプローブピン
(51)【国際特許分類】
G01R 1/067 20060101AFI20151001BHJP
G01R 31/26 20140101ALI20151001BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
G01R1/067 J
G01R31/26 J
H01L21/66 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-259507(P2010-259507)
(22)【出願日】2010年11月19日
(65)【公開番号】特開2012-112680(P2012-112680A)
(43)【公開日】2012年6月14日
【審査請求日】2011年11月25日
【審判番号】不服2014-5776(P2014-5776/J1)
【審判請求日】2014年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】平野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】古保里 隆
【合議体】
【審判長】
酒井 伸芳
【審判官】
清水 稔
【審判官】
関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−504962(JP,A)
【文献】
特開平8−166407(JP,A)
【文献】
特開平11−38041(JP,A)
【文献】
特開2002−318247(JP,A)
【文献】
特開2007−24613(JP,A)
【文献】
松村唯伸、山本 剛、鉛フリーはんだによるアセンブリ技術、雑誌FUJITSU、第56巻、第6号、2005年11月、p.545−551
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 1/067, G01R 31/26, H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が2つ以上の突起に分割され、該突起で被検面に繰り返し接触するコンタクトプローブピンであって、少なくとも前記突起の表面には、金属および/またはその炭化物を含有する炭素皮膜が形成されていると共に、前記突起の頂部における曲率半径が30μm以上、100μm以下であり、且つ検査される被検面は、SnAgCu合金からなるものであり、前記突起の頂部を前記被検面に対して5〜40gの荷重をかけて接触したときに、前記炭素皮膜と前記被検面との接触する面の角度が45°以下となるものであることを特徴とするコンタクトプローブピン。
【請求項2】
前記金属は、W、Ta、Mo、Nb、TiおよびCrよりなる群から選択される1種以上である請求項1に記載のコンタクトプローブピン。
【請求項3】
前記金属および/またはその炭化物の含有量は5〜30原子%である請求項1または2に記載のコンタクトプローブピン。
【請求項4】
前記炭素皮膜の厚さは0.1〜5μmである請求項1〜3のいずれかに記載のコンタクトプローブピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の電気特性を検査するために用いられ、先端が複数の突起に分割された形態のコンタクトプローブピンに関するものであり、特に検査の繰り返しによって導電性が劣化しないような耐久性に優れたコンタクトプローブピンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
集積回路(IC)、大規模集積回路(LSI)、発光ダイオード(LED)等の電子部品(即ち、半導体素子を用いた電子部品)は、半導体素子の電極にプローブピンを接触させてその電気特性が検査される。このような検査装置(半導体検査装置)で用いられるプローブピン(コンタクトプローブピン)は、導電性が良好なこと(接触抵抗値が低いこと)は勿論のこと、検査対象としての電極の面(被検面)との繰り返し接触によっても安定した抵抗値(接触抵抗値が変動しないこと)が要求される。
【0003】
コンタクトプローブピンの接触抵抗値は、一般的には100mΩ以下程度に設定されている。しかしながら、被検面との繰り返し検査を行なうことによって、数100mΩから数Ωにまで悪化することがある。
【0004】
その対策として、従来から、接触端子の定期的なクリーニングや交換が行われているが、これらは検査工程の信頼性と稼働率を著しく低下させることがあるので、別の対策が検討されている。特にハンダ材料やSnメッキ電極などでは、柔らかいために削り取られて接触端子表面に付着しやすい特性があり、且つ表面が酸化しやすいために高抵抗となって、安定した抵抗値を維持しつつ接触させることが難しくなる。
【0005】
ハンダ材料(例えば、SnAgCu合金のような鉛フリーハンダ)やSnメッキ電極などのように、表面に抵抗の高い酸化皮膜を形成する金属に対するコンタクトプローブピンの形態としては、その先端部の形状をより尖鋭なものにする傾向があり、またこうした傾向に基づいて開発されている。これは、接触する相手電極の酸化皮膜を効率良く除去して良好な接触状態を維持するためには、鋭い先端部を有することが有利であると考えられているからである。また、鋭い形状に電極材料が付着(以下、「Sn付着」で代表することがある)しても、排斥力が働きやすいとも考えられている。
【0006】
こうした技術として、例えば特許文献1には、特殊な製造方法で先端を鋭利な形状にすると共に、炭素を含む皮膜による表面コーティングによって、Sn付着の低減と相手電極表面酸化膜の効率的な除去を実現する技術が提案されている。また、特許文献2には、鋭利な先端構造で相手電極の非導電性層に切り込みを入れ、コンタクトプローブピン先端への相手電極から削り取られた粒子の堆積を防止する技術が提案されている。このように、コンタクトプローブピン先端を鋭利な形状にすることは、相手電極の酸化皮膜を効率的に除去し、且つ相手電極から削り取られた粒子の堆積を防止するという観点からすれば、有用な形態である。
【0007】
コンタクトプローブピンの素材としては、硬度の高いタングステン(W)やベリリウム銅(Be−Cu)等の基材表面に、AuやPd等をメッキしたものが使用されてきた。しかしながら、これらの素材からなるコンタクトプローブピンでは、ハンダ材料やSnメッキ等の素材からの電極材料(特に、Sn)が、コンタクトプローブピンの先端に付着しやすく、また付着した電極材料は表面酸化する等の理由によって、コンタクトプローブピンによる接触抵抗値が不安定になるという問題がある。
【0008】
上記のようなSn付着による問題を低減し、接触抵抗値を安定化させる方法として、コンタクトプローブピンの先端部近傍(電極と接触する先端部とその近傍)に、炭素皮膜をコーティングする技術も提案されている(例えば、特許文献3〜6)。これらの技術では、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:DLC)に代表される炭素皮膜に対して、タングステン(W)等の合金元素を混入させて、炭素皮膜の持つ被検面(相手電極)に対する低付着性と、混入させた金属(若しくはその炭化物)の働きによる高い導電性を併せ持つ様な表面皮膜とすることが、重要な要件となっている。
【0009】
一方、半導体素子の実装技術として、ボールグリッドアレー(Ball Grid Array:BGA)パッケージが普及している。こうしたBGAパッケージでは、その電極は半割りボール状のハンダの形態となっている。また、半導体ウエハ上にハンダを直接形成した実装形態も増加している。これらの立体的な電極に対しては、2以上の複数の突起(特に、3以上の突起)を有することで、安定な接触を実現できることが可能である。また、従来の電子部品の電極のように、平坦な面を有するものに対しても、複数の頂点(突起の頂部)を有することによって、位置ずれや不測のパーテシィクルの噛み込み等にも対応できる機能を有するものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−38641号公報
【特許文献2】特開2010−73698号公報
【特許文献3】特開平10−226874号公報
【特許文献4】特開2002−318247号公報
【特許文献5】特開2003−231203号公報
【特許文献6】特開2007−24613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
コンタクトプローブピンの先端近傍に、炭素皮膜をコーティングする技術は、Sn付着による問題を低減し、接触抵抗値を安定化させる方法として有用とされている。しかしながら、炭素皮膜をコーティングした場合であっても、電子部品が高温となる条件下、即ち接触する相手電極が高温になるような条件下では、炭素皮膜にSn付着が生じる場合があるという問題がある。
【0012】
炭素皮膜はSn等と反応することはなく、Snが高温になったとしても炭素皮膜表面で合金を形成することはない。このため、従来のAuやPd合金のコンタクトプローブピンと比較して、炭素皮膜を形成したコンタクトプローブピンはSnが表面に付着しにくい傾向があるとされていた。また、炭素皮膜の表面に付着したSnは、機械的、化学的に除去することは比較的容易であり、それほど問題はないとされてきた。ところが、室温では殆ど付着することがないSnが、90℃や130℃の高温条件下では、付着が増加する傾向があり、Sn付着による問題が顕在化することがある。
【0013】
Snやハンダ材料は、元々室温でも柔らかく、コンタクトプローブピンの接触で削り取られてコンタクトプローブピンに付着することが問題となるが、高温になることによって更に硬度が低下し、この傾向が高くなる。このことが、Sn付着が進行する理由であると考えられる。本発明者らが実験によって確認したところによれば、Snは室温(25℃)ではビッカース硬さ:8.9Hvであるが、85℃になればビッカース硬さ:6.8Hvまで低下することが判明している。尚、Sn膜の硬さは、ビッカース硬さとして直接的に測定できないので、上記で示した硬さはナノインデンテーション法によって測定した値を換算したものである(ビッカース硬さ:8.9Hvおよび6.8Hvは、ナノインデンテーション法による0.117GPaおよび0.089GPaに相当)。
【0014】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、導電性と耐久性を兼ね備えた炭素皮膜を、先端が分割された基材に対して形成するようなコンタクトプローブピンにおいて、使用環境が高温になる様な状況下においても、Sn付着を極力低減し、長期間に亘って安定な電気的接触を保つことのできるコンタクトプローブピンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決し得た本発明のコンタクトプローブピンとは、先端が2つ以上の突起に分割され、該突起で被検面に繰り返し接触するコンタクトプローブピンであって、少なくとも前記突起の表面には、金属および/またはその炭化物を含有する炭素皮膜が形成されていると共に、前記突起の頂部における曲率半径が30μm以上である点に要旨を有する。尚、上記「曲率半径」とは、コンタクトプローブピンの軸心を含む面(断面)で見たときの前記頂部における曲率半径Rを意味する。また、この突起の形状については、必ずしも回転対称である必要はないが、そうでない場合には、最も急峻な断面での頂部断面の曲率半径Rで定義するものとする。
【0016】
本発明のコンタクトプローブピンにおいて、炭素皮膜中に含有される金属としては、W、Ta、Mo、Nb、TiおよびCrよりなる群から選択される1種以上であることが
好ましい。また、金属および/またはその炭化物の含有量は5〜30原子%であることが好ましい。更に、炭素皮膜の厚さは、0.1〜5μmであることが好ましい。
【0017】
本発明のコンタクトプローブピンによる効果は、検査される被検面がSnまたはSn合金からなるものであるときに特に有効に発揮されるものとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコンタクトプローブピンでは、先端が2つ以上に分割された突起の表面に、金属および/またはその炭化物を含有する炭素皮膜が形成されていると共に、前記突起の頂部における曲率半径が30μm以上となるようにしたので、使用環境が高温になる様な状況下においても、Sn等の付着を極力低減でき、長期間に亘って安定な電気的接触を保つことのできるコンタクトプローブピンが実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のコンタクトプローブピン(実施例の外観形状の一例を示す概略説明図である。
【
図2】本発明のコンタクトプローブピンを用いたときの電気抵抗値の変化を示すグラフである。
【
図3】比較例1のコンタクトプローブピンを用いたときの電気抵抗値の変化を示すグラフである。
【
図4】比較例2のコンタクトプローブピンを用いたときの電気抵抗値の変化を示すグラフである。
【
図5】比較例3のコンタクトプローブピンを用いたときの電気抵抗値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
コンタクトプローブピンの構成としては、その先端の曲率半径が30μm以上から100μm程度、或はそれ以上の曲率半径を有するものは知られているが、専ら安定な接触面積を確保するために採用される場合が多く、Au電極等のように安定な相手電極向けのものに限られており、相手電極がハンダ材料やSn等からなるものには不利であるとされていた。また、曲率半径の大きなコンタクトプローブピンは、その接触点が1点のみのもの(即ち、複数の突起のないもの)に限られており、複数の突起を有するもの(この形状のものは一般に「クラウン形状」と呼ばれている)には、曲率半径が小さく(例えば、10〜20μm程度、更には10μm未満)、鋭利な先端を有するものが採用されていた。
【0021】
本発明者らは、上記のような既成概念にとらわれることなく、先端が複数の突起に分割されたコンタクトプローブピンにおいて、突起の頂部に形成された炭素皮膜にSn付着を極力低減できる形態について、様々な角度から検討した。その結果、前記突起の表面に、金属および/またはその炭化物を含有する炭素皮膜を形成すると共に、前記突起の頂部における曲率半径を30μm以上とすれば、Sn付着やそれによる抵抗変動を抑制でき、安定したコンタクト抵抗を実現できることを見出し、本発明を完成した。
【0022】
本発明のコンタクトプローブピンにおいては、炭素皮膜の形成と、曲率半径の大きな突起形状の組み合わせによって、高温でSn付着が生じやすい状況下においても、安定的にSn付着を低減し、且つSn系電極の表面酸化皮膜を効率良く除去しつつ、安定した接触を継続的に実現できたのである。
【0023】
本発明が有効である理由、即ち、曲率半径とSn付着低減のメカニズムについては明らかではないが、次のように考えることができる。典型的なクラウン形状のコンタクトプローブピンでは、ハンダ材料やSnに対して、5〜20μm程度の深さの接触痕が形成されることが多い。即ち、先端の曲率半径が10μm程度の典型的なクラウン形状のコンタクトプローブピンでは、曲率半径よりも大きな接触痕が発生する場合があり、プローブの平坦部や緩やかな傾斜部分よりも垂直に近い斜面での相手材への接触が繰り返されることになる。
【0024】
このような箇所では、相手電極が膜面に対して横方向に強く擦り付けられるような接触となり、膜面の僅かな凹凸(基材由来のもの)でSnが削り取られ、転写する可能性が高くなるものと考えられる。また、鋭い形状のプローブでは、基材の機械的な切削加工やその上の薄膜(NiやAu、炭素皮膜も含めて)を形成する際に、平坦部とは条件が異なり、切削疵や膜質の変化等による僅かな凹凸の増加の可能性があり、Sn付着増加が発生するものと考えられる。
【0025】
これに対し、本発明のコンタクトプローブピンのように、突起の頂部における曲率半径を30μm以上とすることによって、接触する面は45°以下の平面に近い角度となり、これがSnの付着を抑制するものと考えることができる。また、金属および/またはその炭化物を含有する炭素皮膜は、それ自体高硬度で耐久性の高い材料であるが、突起の頂部における曲率半径を大きくすることによって、下地金属基材や金属膜の塑性変形を防ぐことができ、更に高い耐久性を発揮できるという効果も発揮される。
【0026】
本発明者らの研究によれば、炭素皮膜と相手電極との接触する面の角度(以下、「接触角度」と呼ぶことがある)が、元々(塑性変形前)の相手電極に対して概ね45°以下の角度となることが、Sn付着を低減する上で重要であることが分かった。ここから角度が急峻になるほど、炭素皮膜であってもSn付着が発生しやすくなる。一方、コンタクトプローブピンでは、接触時に数グラム〜数十グラム程度、より具体的には5〜50g程度の荷重をかけることが一般的であるが、このときの相手電極素材の硬度に対応して、電極が変形して最終的に接触する角度が決まることになる。本発明者らは、5〜40g程度の荷重をかけつつ前記曲率半径を変えた場合に、最大の接触角度を幾何学的に求めた。そのときに、代表的な鉛フリーハンダ材料であるSnAg
3.0Cu
0.5のときには、接触するコンタクトプローブピンの先端(頂部)と相手電極との接触面積は約2000〜3000μm
2程度になり(但し、温度85℃)、このような条件下では、前記頂部の曲率半径が概ね30μmで、接触角度が45°以下になることが判明したのである。
【0027】
本発明のコンタクトプローブピンにおいては、少なくとも突起の頂部における曲率半径は、上記のような接触角度との関係から30μm以上とする必要があるが、好ましくは50μm以上である。また、曲率半径が大きい場合にも、本発明の効果が発揮されるが、相手電極の酸化皮膜除去の観点からすれば、曲率半径は100μm以下であることが好ましい。但し、この曲率半径は、少なくとも突起の頂部がこの要件を満足していればよく、突起における頂部以外の部分については、曲率半径のないテーパ状(コンタクトプローブピンの軸心を含む面(断面)で見たときに直線状)であっても良い。
【0028】
本発明のコンタクトプローブピンは、基材の表面(先端付近の表面)に、金属および/またはその炭化物を含有する炭素皮膜を形成することによって構成されるが、用いる基材としては、例えばベリリウム合金(Be−Cu)、炭素工具鋼のいずれかからなるものが適用できる。但し、これらに限定されるものではない。また、基材にはその表面や電極との接触部分に、AuやPd、Au合金またはPd合金等の貴金属が形成されているものも知られているが、本発明で用いる基材は、そのいずれも適用できる。或は、基材そのものが、AuやPd、Au合金またはPd合金等で構成されていても良い。
【0029】
炭素皮膜は上記各種基材に対して反応性が低い上に、硬く、内部応力も大きいために、基材上に安定に形成することは困難である。こうしたことから、基材と炭素皮膜の密着性を高めるために、両者の間に、CrやWを含む層を介在させ、更に必要によってその傾斜組成層を設けることが有効であることも知られているが、こうした構成も採用できる。このCrやWを含む層と基材表面との密着性を更に改善するために、上記のようなCrやWを含む層の下地層として、更にNiまたはNi合金からなる層を介在させることで、AuやPd等によって構成される基材表面上に炭素皮膜を安定的に密着させることができるものとなるので好ましい。
【0030】
コンタクトプローブピンの基材表面に炭素皮膜を形成する方法としては、CVD法(化学蒸着法)やスパッタリング法等が適用できる。このうちCVD法では、原料ガスとして水素を含むものを使用することから、炭素皮膜中に水素が含有されることになり、炭素皮膜が低いものしか形成できないことになる。これに対して、スパッタリング法を適用した場合には、良好な特性の炭素皮膜が形成できるので好ましい。
【0031】
炭素皮膜中に含有させる金属は、容易に炭化物を形成する金属である場合には、炭素皮膜中に均一に分散し、非晶質で均一な状態に保つことになる。こうした観点から、炭素皮膜中に含有させる金属としては、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、クロム(Cr)等が挙げられ、これらの金属の1種以上を用いることができる。このうち、炭化物の安定性や安価に入手できることを考慮すれば、タングステンが最も好ましい。
【0032】
炭素皮膜中に含有される金属はその製造原理からして、金属単体若しくは炭化物の形態となり(或は、混在した状態)、その含有量によって炭素皮膜の電気抵抗値が決定される。本発明のコンタクトプローブピンで形成される炭素皮膜は、上記のような特性を発揮するものとなり、その値は検査時に要求される接触抵抗値や硬度を満足するものとなる。そして、上記のような特性を満足させるという観点からして、コンタクトプローブピンの先端の炭素膜中の金属および/またはその炭化物の含有量は、5〜30原子%程度が好ましい。
【0033】
本発明のコンタクトプローブピンにおいては、炭素皮膜の厚さが薄過ぎると炭素皮膜を形成する効果が発揮されないので、0.1μm以上とすることが好ましい。しかしながら、炭素皮膜の厚さが厚過ぎると抵抗値が高くなるので、5μm以下であることが好ましい。炭素皮膜の厚さは、0.2μm以上であることがより好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
【0034】
本発明のコンタクトプローブピンによって検査される被検面(相手電極)は、通常ハンダが用いられるが、これは基本的にSnを含むものであり、このSnは特にコンタクトプローブピンの表面に付着しやすいものである。従って、被検面がSnまたはSn合金からなる場合、本発明のコンタクトプローブピンを適用すると、特にその効果が有効に発揮される。
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0036】
コンタクトプローブピンには、
図1(外観形状の一例を示す概略説明図)に示すように、先端が4つの突起に分割され、突起の頂部の曲率半径が50μm(R=0.05mm)のスプリング内蔵プローブを作製した。先端の全体の直径は0.3mm(300μm)である。このコンタクトプローブピンは、その表面がAuメッキされたものであり、基材1はBe−Cu製(市販品)である。尚、
図1は、その先端を側面から投影した状態を模式的に示したものであり、その形状は3つの突起として示されている。またバネの機能により、相手電極に接触して所定のストロークを経て押し込むと30gfの荷重(147N/mm
2)が発生するものである。
【0037】
マグネトロンスパッタリング装置に、炭素(グラファイト)ターゲット、Crターゲット、およびNiターゲットの夫々を配置し、それらに対抗する位置に、コンタクトプローブピン(基材)を配置した。スパッタリングチャンバーを、6.7×10
-4Pa以下まで真空排気した後、Arガスを導入して圧力を0.13Paに調整した。基材に高周波電圧を印加することで、Arイオンエッチングを施した後、基材との密着層としてNiを厚さ50nm、Crを厚さ50nm積層して形成し、更にCrとW含有炭素皮膜を交互に成膜しつつ、徐々に炭素皮膜の比率を増加させる傾斜組成層の中間層を成膜し(厚さ:100nm)、最後に、最表面の炭素皮膜の成膜時には、投入電力密度5.66W/cm
2でWチップを載せたグラファイトターゲットをDCマグネトロン放電させ、基材には−100Vのバイアス電圧を印加し、約400nm(0.4μm)の厚さにコーティングを実施した。このとき、炭素皮膜の最表面のWの含有量が5〜10原子%となるように調整した。
【0038】
形成した炭素皮膜付コンタクトプローブピン(本発明のコンタクトプローブピン)を用いて、SnAg
3.0Cu
0.5の組成の鉛フルーハンダ(千住金属製)を平板に加工した試料に対して、130℃の条件で10万回の接触を行ない、先端(突起)のSn付着状況を観察した。また、電気抵抗値の安定性の有無を確認するために、接触毎に100mAの通電を実施し、電気抵抗値の変化(抵抗値変動)を求めた。但し、抵抗の測定は100回に1回とした。
【0039】
このとき、比較のために、(A)先端の突起部の曲率半径:10μmのクラウン形状であって、所定のストロークにて25gfの荷重を発生させるプローブに炭素皮膜を形成する以外は上記と同様の炭素皮膜付コンタクトプローブピン(比較例1)、(B)比較例1と同様のプローブにAuめっきを施しただけのもの(比較例2)、(C)先端の突起部の曲率半径:80μmの先端突起が単一の形状であって、所定のストロークにて25gfの荷重を発生させるプローブにAuめっきを施しただけのもの(比較例3)についても作製した(基本的な形状は
図1のものと同じ)。そしてこれらのコンタクトプローブピンについても、上記と同様にして、接触後の先端の状況を観察すると共に、電気抵抗値の安定性の有無を調査した。
【0040】
本発明のコンタクトプローブピン(実施例)を用いたときの電気抵抗値の変化(コンタクト回数と電気抵抗値変動の関係)を
図2に示す。比較例1のコンタクトプローブピンを用いたときの電気抵抗値の変化(コンタクト回数と電気抵抗値変動の関係)を
図3に示す。比較例2のコンタクトプローブピンを用いたときの電気抵抗値の変化(コンタクト回数と電気抵抗値変動の関係)を
図4に示す。比較例3のコンタクトプローブピンを用いたときの電気抵抗値の変化(コンタクト回数と電気抵抗値変動の関係)を
図5に示す。
【0041】
これらの結果から次のように考察できる。まず本発明のコンタクトプローブピン(実施例)では、10万回の接触を行なった後においても、初期とほぼ同等の電気抵抗値を維持していることが分かる(
図2)。比較例1のコンタクトプローブピンは、電気抵抗値の変動は小さいが、徐々に抵抗が増加している傾向が見られる(
図3)。仮に、電気抵抗値の変動の許容値が200mΩであるとすれば、本発明のコンタクトプローブピンでは、9万回以上、比較例1のコンタクトプローブピンでは2万回程度まで、クリーニング等の付加的作業を行うことなく、安定な接続が可能であることが分かる。
【0042】
これに対して、炭素皮膜を形成していない比較例2、3のコンタクトプローブピンでは、接触後早期に電気抵抗値の上昇が認められている(
図4、5)。このため、初期1万回までの抵抗推移を
図4、5では示している。
【0043】
一方、コンタクトプローブピンの形状(先端突起部の曲率半径)の効果を見れば、比較例2と比較例3では、比較例3の方が電気抵抗値の変動が大きくなっており、従来のAuめっきプローブでは、曲率半径の小さいものの方が、電気抵抗値が安定傾向であることが分かる。しかしながら、実施例と比較例1で比較すれば、炭素皮膜を形成したコンタクトプローブピンでは、先端突起部の曲率半径の効果が従来よりも逆の傾向を示しており、曲率半径の大きい方が、電気抵抗値が安定することが分かる(
図2、3)。
【0044】
また各コンタクトプローブピンについて、先端部の状態については、次のような結果が得られた。まず、本発明のコンタクトプローブピン(実施例)では、10万回の接触を行なった後においても、500μm
2以上の有効接触面積(元の表面が露出した状態)を保持していることが判明した。
【0045】
また比較例1のコンタクトプローブピンでは、1万回の接触を行なった後は500μm
2以上の有効接触面積を保持しているものの、10万回の接触を行なった後には、平坦面の殆どが、付着したSn化合物で覆われた状態となっていた。更に、比較例2、3のコンタクトプローブピンでは、1万回の接触までに、平坦面の殆どが、付着したSn化合物で覆われた状態となっていた。
【0046】
尚、上記のような評価を行うに当って、その基準を500μm
2としたのは、500μm
2の接触面積が確保されていれば、金属に比較して電気抵抗の高い炭素皮膜が形成されている場合であっても、概ね接触部の抵抗を10mΩ以下の低い値に保てるためである。