【0019】
本発明の悪臭抑制剤の有効成分となるアンタゴニストとしては、下記物質が挙げられる:
エチル 2−tert−ブチルシクロヘキシルカルボネート(Ethyl 2-tert-butyl cyclohexyl carbonate, Floramat (登録商標));
1−(2,3,4,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,6,8,8−テトラメチル−1H−3a,7−メタノアズレン−5−イル)−エタノン(1-(2,3,4,7,8,8a-Hexahydro-3,6,8,8-tetramethyl-1H-3a,7-methanoazulen-5-yl)-ethanone, Acetyl cedrene);
3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール(3-Methyl-5-(2,2,3-trimethyl-3-cyclopenten-1-yl)-4-penten-2-ol, Ebanol (登録商標));
1−(5,5−ジメチル−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン(1-(5,5-Dimethyl-cyclohexen-1-yl)-4-penten-1-one, Dynascone (登録商標));
1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール(1-(2-tert-Butylcyclohexyloxy)-2-butanol, Amber core);
オキサシクロヘキサデカン−2−オン(Oxacyclohexadecan-2-one, Pentalide);
(Z)−シクロヘプタデカ−9−エン−1−オン((Z)-Cycloheptadeca-9-en-1-one, Civettone);
ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチル−ナフト[2.1−b]フラン(Dodecahydro-3a,6,6,9a-tetramethyl-naphtho[2.1-b]fran, Ambroxan (登録商標));
p−tert−ブチルシクロヘキサノール(p-tert-Butylcyclohexanol, 4-(1,1-Dimethylethyl)-cyclohexanol);
1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−4,6,6,7,8,8−ヘキサメチルシクロペンタ−γ−2−ベンゾピラン(1,3,4,6,7,8-Hexahydro-4,6,6,7,8,8-hexamethyl cyclopenta-γ-2-benzopyran, Galaxolide);
γ−ウンデカラクトン(γ-Undecalactone, 5-Heptyl dihydro-2(3H)-furanone);
β−メチル−3−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール(β-Methyl-3-(1-methylethyl)benzenepropanal, Florhydral (登録商標));
3,7−ジメチル−1−オクタノール(3,7-Dimethyl-1-octanol, Tetrahydro geraniol);
5−メチル−2−(1−メチルエチル)−フェノール(5-Methyl-2-(1-methylethyl)-phenol, Thymol);
1−(2,2−ジメチル−6−メチレンシクロヘキシル)−1−ペンテン−3−オン(1-(2,2-Dimethyl-6-methylen cyclohexyl)-1-penten-3-one, Methyl ionone-γ);
3−(1−エトキシ)−3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン(3-(1-Ethoxy)-3,7-dimethyl-1,6-octadiene, Acetaldehyde ethyl linalyl acetal);
4−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン(4-(2,6,6-Trimethyl-1-cyclohexen-1-yl)-3-buten-2-one, Ionone-β);
メチル 2−ペンチル−3−オキソシクロペント−1−イルアセテート(Methyl 2-pentyl-3-oxocyclopent-1-yl acetate, Methyl dihydro jasmonate);
2−メチル−4−フェニルペンタノール(2-Methyl-4-phenylpentanol, Panplefleur);
3,7,11−トリメチル−1,6,10−ドデカトリエン−3−オール(3,7,11-Trimethyl-1,6,10-dodecatrien-3-ol, Nerolidol);
7−メトキシ−3,7−ジメチル−オクタナール(7-Methoxy-3,7-dimethyl-octanal, Methoxycitronellal);
cis−3−ヘキセニルサリシレート(cis-3-Hexenyl salicylate, 3(Z)-Hexenyl-2-hydroxy benzoate);
1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−8,8−ジメチル−2−ナフトアルデヒド(1,2,3,4,5,6,7,8-Octahydro-8,8-dimethyl-2-naphthaldehyde, Cyclemone A);
2−trans−3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オール(2-trans-3,7-Dimethyl-2,6-octadien-1-ol, Geraniol);
3−(4−tert−ブチルフェニル)プロピオンアルデヒド(3-(4-tert-Butylphenyl)propionaldehyde, Bourgeonal);
p−tert−ブチル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド(p-tert-Butyl-α-methyl hydrocinnamic aldehyde, Lilial);
1−(2,6,6−トリメチル−3−シクロヘキセニル)−2−ブテン−1−オン(1-(2,6,6-Trimethyl-3-cyclohexenyl)-2-buten-1-one, δ-Damascone);
7−ヒドロキシ−3,7−ジメチル−オクタナール(7-Hydroxy-3,7-dimethyl-octanal, Hydroxy citronellal);
エチル−2,3−エポキシ−3−メチル−3−フェニルプロピオネート(Ethyl-2,3-epoxy-3-methyl-3-phenyl propionate, Ethyl methyl phenyl glycidate);
8−シクロヘキサデカン−1−オン(8-Cyclohexadecen-1-one, Globanone);
4−(4−メチル−3−ペンテン−1−イル)−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド(4-(4-Methyl-3-penten-1-yl)-3-cyclohexene-1-carboxaldehyde, Myrac aldehyde);
(Z)−2−(2−ペンテニル)−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン((Z)-2-(2-Pentenyl)-3-methyl-2-cyclopenten-1-one, cis-Jasmon);
酢酸ジメチルベンジルカルビニル(α,α-Dimethyl phenylethyl acetate);
トリシクロデセニルアセテート(Tricyclo decenyl acetate, Hexahydro-4,7-methanoinden-5(6)-yl acetate);
3,7−ジメチル−6−オクテン−1−イルアセテート(3,7-Dimethyl-6-octen-1-yl acetate, Citronellyl acetate);
フェニルヘキサノール(Phenyl hexanol, 3-Methyl-5-phenyl-1-pentanol);
3,7−ジメチル−6−オクタナール(3,7-Dimethyl-6-octenal, Citronellal);
4(3)−(4−メチル−3−ペンテニル)−3−シクロヘキセニルメチルアセテート(4(3)-(4-Methyl-3-pentenyl)-3-cyclohexenylmethyl acetate, Myraldyl acetate);
アリルシクロヘキサンプロピオネート(Allyl cyclohexane propionate);
2,6−ジメチル−2−オクタノール又は3,7−ジメチル−3−オクタノール(2,6-Dimethyl-2-octanol又は3,7-Dimethyl-3-octanol, Tetrahydro muguol);
α−メチル−4−(2−メチルプロピル)−ベンゼンプロパナール(α-Methyl-4-(2-methylpropyl)-benzenepropanal, Suzaral (登録商標));
(5E)−3−メチルシクロペンタデク−5−エン−1−オン((5E)-3-methylcyclopentadec-5-en-1-one, Muscenone-δ);
ジメチル−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド(Dimethyl-3-cyclohexene-1-carboxaldehyde, Triplal);
1,3,3−トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オール(1,3,3-Trimethyl bicyclo[2.2.1]heptan-2-ol, Fenchyl alcohol);
2,4,4,7−テトラメチル−6,8−ノナジエン−3−オンオキシム(2,4,4,7-Tetramethyl-6,8-nonadiene-3-one oxime, Labienoxime);
2−シクロヘキシルプロパノール(2-Cyclohexylpropanal, Pollenal(登録商標)II);
ヘキシルサリシレート(Hexyl salicylate, n-Hexyl-o-hydroxy benzoate);及び、
4−(1−メチルエテニル)−1−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド(4-(1-Methyl ethenyl)-1-cyclohexene-1-carboxyaldehyde, Perilla aldehyde)、
【実施例】
【0029】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0030】
実施例1 悪臭に応答する嗅覚受容体の同定
(1)ヒト嗅覚受容体遺伝子のクローニング
ヒト嗅覚受容体はGenBankに登録されている配列情報を基に、human genomic DNA female (G1521:Promega)を鋳型としたPCR法によりクローニングした。PCR法により増幅した各遺伝子をpENTRベクター(Invitrogen)にマニュアルに従って組込み、pENTRベクター上に存在するNot I、Asc Iサイトを利用して、pME18Sベクター上のFlag-Rhoタグ配列の下流に作成したNot I、Asc Iサイトへと組換えた。
【0031】
(2)pME18S-RTP1Sベクターの作製
ヒトRTP1Sはhuman RTP1遺伝子(MHS1010-9205862:Open Biosystems)を鋳型としたPCR法によりクローニングした。PCRに用いるプライマーには、センス側にEcoR I、アンチセンス側にXho Iサイトを付加した。PCR法により増幅したhRTP1S遺伝子(配列番号9)をpME18SベクターのEcoR I、Xho Iサイトへ組込んだ。
同様の手順で、hRTP1S遺伝子(配列番号9)の代わりに、RTP1S変異体(配列番号12)をコードするRTP1S変異体遺伝子(配列番号11)をpME18SベクターのEcoR I、Xho Iサイトへ組込んだ。
【0032】
(3)嗅覚受容体発現細胞の作製
ヒト嗅覚受容体369種をそれぞれ発現させたHEK293細胞を作製した。表1に示す組成の反応液を調製しクリーンベンチ内で15分静置した後、96ウェルプレート(BD)の各ウェルに添加した。次いで、HEK293細胞(3×10
5細胞/cm
2)を100μlずつ各ウェルに播種し、37℃、5%CO
2を保持したインキュベータ内で24時間培養した。
【0033】
【表1】
【0034】
(4)ルシフェラーゼアッセイ
HEK293細胞に発現させた嗅覚受容体は、細胞内在性のGαsと共役しアデニル酸シクラーゼを活性化することで、細胞内cAMP量を増加させる。本研究での匂い応答測定には、細胞内cAMP量の増加をホタルルシフェラーゼ遺伝子(fluc2P-CRE-hygro)由来の発光値としてモニターするルシフェラーゼレポータージーンアッセイを用いた。また、CMVプロモータ下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を融合させたもの(hRluc-CMV)を同時に遺伝子導入し、遺伝子導入効率や細胞数の誤差を補正する内部標準として用いた。
【0035】
上記(3)で作製した培養物から、培地をピペットマンで取り除き、CD293培地(Invitrogen)で調製した匂い物質(スカトール1mM)を含む溶液75μlを各ウェルに添加した。細胞をCO
2インキュベータ内で4時間培養し、ルシフェラーゼ遺伝子を細胞内で十分に発現させた。ルシフェラーゼの活性測定には、Dual-Glo
TM luciferase assay system(promega)を用い、製品の操作マニュアルに従って測定を行った。匂い物質刺激により誘導されたホタルルシフェラーゼ由来の発光値を、匂い物質刺激を行わない細胞での発光値で割った値をfold increaseとして算出し、応答強度の指標とした。
【0036】
(5)結果
OR2W1、OR5K1、OR5P3及びOR8H1の4種類の嗅覚受容体がスカトールに対して応答を示した(
図1)。これらはいずれも、スカトールに応答することが報告されていない新規のスカトール受容体である。
【0037】
実施例2 スカトール受容体の濃度依存性応答
実施例1と同様の手順で、嗅覚受容体OR2W1(配列番号2)、OR5K1(配列番号4)、OR5P3(配列番号6)及びOR8H1(配列番号8)をそれぞれRTP1S変異体(配列番号12)と共にHEK293細胞に発現させ、それらのスカトール(0、3、10、30、100、300、及び1000μM)に対する応答を調べた。その結果、いずれの嗅覚受容体もスカトールに対し濃度依存的な応答を示した(
図2)。
【0038】
実施例3 受容体のスカトール及びインドール応答性
実施例2と同様の手順で、スカトール及びインドール(各々0、3、10、30、100、300、及び1000μM)に対する上記嗅覚受容体の応答を調べた。その結果、これらの受容体は、スカトールだけでなくインドールにも応答する傾向が見られた(
図3)。
【0039】
実施例4 悪臭受容体アンタゴニストの同定
実施例1で同定されたスカトール受容体を対象としてアンタゴニストの探索を行った。
実施例2と同様の手順でHEK293細胞にそれぞれ発現させたOR2W1、OR5K1、OR5P3、及びOR8H1に対して、300μMスカトール刺激下で121種類の試験物質(100μM)を適用し、嗅覚受容体のスカトール応答を抑制するアンタゴニストの探索を行った。
【0040】
試験物質による受容体応答の阻害率は、以下のとおり算出した。スカトール単独での匂い刺激により誘導されたホタルルシフェラーゼ由来の発光値(X)を、同じ受容体を導入しスカトール刺激を行わなかった細胞での発光値(Y)で引き算し、スカトール単独刺激による受容体活性(X−Y)を求めた。同様に、スカトールと試験物質との混合物での刺激による発光値(Z)を、スカトール刺激を行わない細胞での発光値(Y)で引き算し、試験物質添加時の受容体活性(Z−Y)を求めた。以下の計算式により、スカトール単独刺激による受容体活性(X−Y)に対する試験物質添加時の受容体活性(Z−Y)の低下率を算出し、試験物質による受容体活性阻害率を求めた。測定では、独立した実験を二連で複数回行い、各回の実験の平均値を得た。
阻害率(%)={1−(Z−Y)/(X−Y)}×100
結果、表2に示すように、OR2W1では42種類、OR5K1では38種類、OR5P3では42種類、OR8H1では43種類のアンタゴニストが見出された。
【0041】
【表2】
【0042】
実施例5 悪臭抑制能の官能評価試験
実施例4で同定したアンタゴニストの悪臭抑制能を、官能試験によって確認した。
ガラス瓶(柏洋硝子No.11、容量110ml)に綿球を入れ、悪臭としてプロピレングリコールで100000倍に希釈したスカトール、及び試験物質を綿球に20μl滴下した。ガラス瓶を一晩室温で静置し、匂い分子をガラス瓶中に十分揮発させた。官能評価試験はパネラー4名で行い、悪臭を単独で滴下した場合の匂いの強さを5とし、試験物質を混合した場合の悪臭の強さを0から10(0.5刻み)の20段階で評価した。
用いた試験物質は、以下のとおりである:
1−(2,3,4,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,6,8,8−テトラメチル−1H−3a,7−メタノアズレン−5−イル)−エタノン(アセチルセドレン);
エチル 2−tert−ブチルシクロヘキシルカルボネート(フロラマット(登録商標));
オキサシクロヘキサデカン−2−オン(ペンタライド);
(Z)−シクロヘプタデカ−9−エン−1−オン(シベトン);
ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチル−ナフト[2.1−b]フラン(アンブロキサン(登録商標));
1−(5,5−ジメチル−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン(ダイナスコン(登録商標));
p−tert−ブチルシクロヘキサノール;
γ−ウンデカラクトン;
β−メチル−3−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール(フロルヒドラール(登録商標));
3,7−ジメチル−1−オクタノール(テトラヒドロゲラニオール);
1−(2,2−ジメチル−6−メチレンシクロヘキシル)−1−ペンテン−3−オン(γ−メチルヨノン);
3,7,11−トリメチル−1,6,10−ドデカトリエン−3−オール(ネロリドール);
3,7−ジメチル−6−オクテン−1−イルアセテート(シトロネリルアセテート)
8−シクロヘキサデカン−1−オン(グロバノン);及び、
トリシクロデセニルアセテート。
【0043】
結果を
図4に示す。OR2W1、OR5K1、OR5P3又はOR8H1に対するアンタゴニストの存在下でスカトール臭が抑制されることが明らかとなった。
【0044】
実施例6 悪臭抑制効果の特異性
実施例4で同定した受容体応答阻害活性を有する試験物質による悪臭抑制の特異性を調べるため、スカトールと構造の異なる悪臭であるヘキサン酸を用いて、同様の官能試験を行った。実験では、悪臭としてプロピレングリコールで100倍に希釈したヘキサン酸を用い、試験物質としてプロピレングリコールで100倍に希釈したメチルジヒドロジャスモネートを用いた。
試験の結果、メチルジヒドロジャスモネートによってスカトール臭は抑制された一方、ヘキサン酸の匂いは抑制されなかった(
図5)。従って、アンタゴニストによる悪臭抑制効果は匂い特異的であることが示された。