【実施例】
【0033】
<試料の製造>
本発明例として、金属間化合物から成る排ガス浄化触媒Ni
3Ti(試料1)、Ni
3Nb(試料2)、Ni
5Y(試料3)を、
図4に模式的に示す手順および条件にて製造した。
【0034】
先ず、金属ニッケル(純度99.9%、フルヤ金属製)、金属チタン(純度99%、フルヤ金属製)、金属ニオブ(純度99%、フルヤ金属製)、金属イットリウム(純度98%、フルヤ金属製)を、それぞれモル比でNi:Ti=3:1(試料1)、Ni:Nb=3:1(試料2)、Ni:Y=5:1(試料3)に総量3g秤量した。
【0035】
次に、各試料を、酸素濃度および水分濃度がいずれも5ppmである純粋アルゴンガス雰囲気下でアーク溶解し、ボタン状のインゴットを得た。
【0036】
比較例として、高純度化学研究所(株)製のアトマイズNi
3Al粉末を、受領したままの状態で用いた。
【0037】
次に、インゴットをタンタル箔に包み、酸素吸収剤としてジルコニウム箔と共に背圧10
−3Paで石英管に封入した。石英管を電気炉内に装入し、950℃×100時間の均質化熱処理を行なった。その後、電気炉から石英管を取り出し、室温まで徐冷した。石英管を割り、試料を取り出した後、メノウ乳鉢で機械粉砕した。得られた粉末試料を63μmメッシュのステンレス製篩にかけ、篩を通過した粉末を回収した。この粉末を更に53μmメッシュのステンレス製篩にかけ、篩に残った粉末を回収した。これにより、53μm〜63μmに粉末粒径を揃えた本発明の排ガス浄化触媒の試料1、2、3を得た。
【0038】
比較例のNi
3Al試料についても同様に篩い分けを行なって粉末粒径を53μm〜63μmに揃えた。
【0039】
<X線回折による試料の同定>
X線回折測定装置(CuKα線:リガク製RIN2000)を用い、常温常圧大気下にて、測定インクリメント=0.02°、スキャン幅2θ=5〜95°の条件で、試料1〜3のX線回折測定を行なった。
【0040】
図5の(a)、(b)、(c)に試料1、2、3の回折結果を示す。ただし、図中の縦線は、Ni
3Ti、Ni
3Nb、Ni
5Yの結晶データを用いて計算したシミュレーション結果である。図から分かるように、各試料の回折ピークとシミュレーションピークとはよく一致しており、試料1、2、3がそれぞれNi
3Ti、Ni
3Nb、Ni
5Yの単相であることが確認できる。比較例の試料についても同様のX線回折測定を行いNi
3Al(Cu
3Au型構造、Fm3m)の単相であることが確認された。
【0041】
図6に、(a)Ni
3Ti、(b)Ni
3Nb、(c)Ni
5Yの結晶構造を示す。それぞれ(a)試料1Ni
3Ti(P6
3/mmc:a、b=0.5109nm、c=0.8299nm)、(b)試料2Ni
3Nb(Pmmm:a、b、c=0.4565nm、0.5116nm、0.4260nm)、(c)試料3Ni
5Y(P6/mmm:a、b=0.4833nm、c=0.3967nm)に対応する。
【0042】
<触媒活性の評価>
図7に示す気流循環式触媒活性評価装置(CO酸化触媒活性測定装置)を用いて、実施例の試料1〜3および比較例の試料のCO酸化触媒活性を測定した。更に、参照試料として、同じく篩い分けによって粉末粒径を53μm〜63μmに揃えたNi粉末(純度99.9%、フルヤ金属製:参照資料1)およびPt粉末(純度99%、フルヤ金属製:参照試料2)についても同様にCO酸化触媒活性を測定した。
【0043】
まず、反応管(Reaction tube)に10mgの石英綿を詰め、その上から試料粉末を50mg投入した。更に、試料粉末の上から10mgの石英綿を詰め、試料粉末を石英綿が挟み込む形にした。
【0044】
反応管を測定装置に装着した後、ヒックマンポンプ(Hickmamnn pump)を用いて、反応管を含む装置全体を背圧10
−3Paまで排気した。反応管とサーキュレーションライン(Circulation line)をつなぐストップコック(Stop cock)を閉じた後、不純物濃度1ppm以下に調整した純粋COガスおよびO
2ガスを高圧ボンベからレギュレータを介し、全圧がそれぞれ8×10
4Paに達するまで、総量3Lのガスリザーバー(Gas reservoir)に充填した。
【0045】
それぞれのガスリザーバーからサーキュレーションライン中に、1.586×10
4PaのO
2ガスを31.60mL、8.44×10
3PaのCOガスw118.8mL、順次導入した。
【0046】
次に、サーキュレーションポンプ(Circulation pump)を駆動し、サーキュレーションライン内部のガスを循環させ混合した。15分後、全圧10
4Pa、総量150.4mLのCO:O
2(モル比)混合反応ガスを得た。
【0047】
混合反応ガスの調整と並行して、反応管を包み込む形で配置した電気炉を用い、毎分5℃の昇温速度で試料温度を上げた。225、275、325℃のいずれかの温度に達した後、30分間保持して安定化させた。
【0048】
サーキュレーションラインと反応管をつなぐストップコックを開き、反応管に混合反応ガスを導いた。これにより、混合反応ガスは、試料粉末の粒子間を通って、サーキュレーションラインを循環する状態となった。サーキュレーションラインに接続されたガスさんプラスチックー(Gas sampler)により、約7分毎に3mLの混合反応ガスを取り出した。ガスクロマトグラフ(Gas chromatograph、Shimadzu GC−10A)によって混合ガスの組成分析を行なった。混合ガス中のCO2濃度とCO濃度との比を求め、これをCO浄化率(Co conversion)とした。
【0049】
図8(a)に、Ni
3Al(比較例)およびNi(参照試料1)のCO酸化触媒活性を示す。縦軸がCO浄化率(CO conversion)、横軸が試料表面に反応ガスが供給された瞬間から経過した時間(Duration)である。
【0050】
225℃においては、Ni
3AlもNiも、全測定範囲に亘り、有意の活性を示さなかった。275℃では、Niは経過時間25分の時点で15%のCO浄化率を示したが、Ni
3Alは同じ時点で1.8%のCO浄化率を示すに留まった。325℃では、Niは経過時間25分の時点で56%のCO浄化率を示したが、Ni
3Alは25%のCO浄化率を示すに留まった。すなわち、275℃以上の温度領域では、Ni
3AlはNiよりも低い触媒活性を示した。
【0051】
図8(b)に、Ni
3Al(比較例)およびPt(参照試料2)のCO酸化触媒活性を示す。225℃においては、Ni
3AlもPtも、全測定範囲に亘り、有意の活性を示さなかった。275℃では、Ptは経過時間25分の時点で15%のCO浄化率を示し、325℃では、Ptは経過時間25分の時点で100%のCO浄化率を示した。275℃以上の温度領域では、Ni
3AlはPtよりも低い触媒活性を示した。
【0052】
図9(a)に、Ni
3Ti(本発明例の試料1)およびNi(参照試料1)のCO酸化触媒活性を示す。225℃においては、Ni
3TiもNiも、全測定範囲に亘り、有意の活性を示さなかった。275℃では、Niは経過時間25分の時点で15%のCO浄化率を示したのに対して、Ni
3Tiは同じ時点で42%のCO浄化率を示した。325℃では、Niは経過時間25分の時点で56%のCO浄化率を示したのに対して、Ni
3Tiは80%のCO浄化率を示した。すなわち、275℃以上の温度領域では、Ni
3TiはNiよりも高い触媒活性を示した。
【0053】
図9(b)に、Ni
3Ti(本発明例の試料1)およびPt(参照試料2)のCO酸化触媒活性を示す。225℃においては、Ni
3TiもPtも、全測定範囲に亘り、有意の活性を示さなかった。275℃では、Ptは経過時間25分の時点で15%のCO浄化率を示したのに対して、Ni
3Tiは同じ時点で42%のCO浄化率を示した。325℃では、Ptは経過時間25分の時点で100%のCO浄化率を示したのに対して、Ni
3Tiは80%のCO浄化率を示した。すなわち、275℃においては、Ni
3TiはPtより高い触媒活性を示すものの、325℃においては、Ni
3TiはPtの8割程度の触媒活性を示すに留まった。
【0054】
図10に、Ni
3Nb(本発明例の試料2)、Ni(参照試料1)、Pt(参照試料2)のCO酸化触媒活性を示す。225℃において、Ni
3Nbは、Ni(
図10(a))およびPt(
図10(b))と異なり、経過時間10分超において有意の活性(経過時間25分で約10%)を示した。325℃においては、経過時間25分において、Ni
3NbはNi(50%)を大きく上回り、Pt(100%)に迫る、83%のCO浄化率を示した。
【0055】
図11に、Ni
5Y(本発明例の試料3)、Ni(参照試料1)、Pt(参照試料2)のCO酸化触媒活性を示す。225℃および275℃においては、Ni
5Yの触媒活性は、Ni(
図11(a))およびPt(
図11(b))のいずれの触媒活性よりも低かった。しかし、325℃においては、Ni
5Yは、Niを大きく上回り、Ni
3Nb(
図10)に匹敵する高い触媒活性(経過時間25分で84%)を示した。
【0056】
図12に、Ni(参照試料1)、Pt(参照試料2)、Ni
3Al(比較例)、Ni
3Ti(本発明例の試料1)、Ni
3Nb(本発明例の試料2)、Ni
5Y(本発明例の試料3)の経過時間10分におけるCO酸化触媒活性を、反応温度の関数として示す。Ni
3Alの触媒活性は、275℃以上の温度において、他の全ての試料の触媒活性よりも低い。325℃におけるCO酸化触媒活性は、Ni
3Al<Ni<Ni
5Y<Ni
3Ti<Ni
3Nb<Ptの順である。
【0057】
〔参考例〕
本発明例の試料1〜3と同様にして、参考例1および参考例2として、Ni
3SnおよびNi
3Bの試料を調製し、CO酸化触媒活性を測定した。
【0058】
図13に、Ni
3Sn(参考例1)、Ni
3B(参考例2)、Ni(参照試料1)の325℃におけるCO酸化触媒活性を示す。図示したように、Ni
3SnはNiよりも僅かに高い触媒活性を示した。一方、Ni
3Bの触媒活性はNiよりも大幅に低かった。前述のようにSn、Bは、Niに対して高χ元素であり、Niと合金することにより高い触媒活性を示す可能性のある元素群に属するが、本実験においては期待した効果が認められない。同じSn、BでもNiとの別の金属間化合物あるいは高χ範囲のうちの他の元素について検討の余地がある。
【0059】
図14に、Ni
3Ti(本発明例の試料1)、Ni
3Nb(本発明例の試料2)、Ni
3Sn(参考例1)、Ni
3B(参考例2)、Ni(参照試料1)の価電子d−バンドを示す光電子分光測定結果を示す。Ni
3Sn、Ni
3B、Niのd−バンドはいずれも、フェルミ準位直下に、Ni3d軌道に由来する鋭いピークが認められる。これに対し、Ni
3Ti、Ni
3Nbにおいては、フェルミ準位直下のピークは認められず、d−バンド全体がNiに比べて高結合エネルギー側(低エネルギー準位側)にシフトする傾向が認められる。Ni
3Ti、Ni
3Nbにおいては、d−バンドのエネルギーシフトによってCO分子の表面吸着力が低下した結果、Ni
3Sn、Ni
3B、Niよりも高いCO酸化浄化活性が発現したものと推測される。
【0060】
図15に、Ni
3Ti(本発明例の試料1)、Ni
3Nb(本発明例の試料2)、Ni
3Sn(参考例1)、Ni
3B(参考例2)、Ni(参照試料1)のd−バンドセンター(d-band center)と、325℃におけるCO浄化反応開始5分後のCO浄化率との関係を示す。ここで、d−バンドセンターとは、d−バンドの状態密度にエネルギーをかけた寮の積分値を、d−バンドの状態密度の積分値で割った値として定義される。図示したように、d−バンドセンターがNiより低いNi
3Sn、Ni
3Ti、Ni
3Nbの場合には、反応開始後5分後で20%以上のCO浄化率が得られたのに対し、d−バンドセンターがNiより高いNi
3Bの場合には、CO浄化率は15%未満に留まっている。
【0061】
なお、Ni
3Snは、前記の
図13に示すように、325℃、30分の浄化率が70%程度であり、
図9、10、11に示すように同じ測定温度および経過時間で80%あるいはそれより高い浄化率を示すNi
3Ti、Ni
3Nb、Ni
5Yに比べて劣る。