【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の構成は、自転車のギアシフトに用いられるアクチュエータ装置に関する。このアクチュエータ装置は:
前記ギアシフトのディレイラを移動させるように変形する作動運動機構と、
モータと当該モータによって回転されるねじ付きの駆動軸を有し、前記作動運動機構の変形を制御する駆動部材と、
前記作動運動機構および前記駆動軸に接続されるナットと、を備え、
当該アクチュエータ装置の第1の動作状態では、前記ナットは、前記駆動軸と係合状態にあり、前記駆動軸が回転すると前記作動運動機構が変形するように設定された自転車のギアシフトのアクチュエータ装置において、
さらに、スナップ機構を備え、
当該アクチュエータ装置の前記第1の動作状態では、前記スナップ機構が、前記ナットを前記係合状態に保持し、
当該アクチュエータ装置が所定の値を超える力を受けると、前記スナップ機構が、前記ナットを解除状態にして、前記駆動軸が回転しても前記作動運動機構が変形しないように設定することを特徴とする。
【0017】
本明細書および特許請求の範囲をとおして、「スナップ機構」とは、第1の動作状態から別の状態への突然の移行またはその逆の移行を制御することが可能な、あらゆる機構を指す。このような突然の移行は、例えば、本明細書および特許請求の範囲に記載されている、「解除」という用語で表現される効果をもたらすものである。
【0018】
有利なことに、ナットと駆動軸との接続にスナップ機構を使用することにより、所定の値を超える力が生じた際に、作動運動機構をアクチュエータ装置から完全に分離することができる。ある程度の衝撃や不所望な一時的変形/位置ずれは、スナップ機構により完全に吸収され、作動運動機構の部品やアクチュエータ装置のほかの部品に伝達しない。
【0019】
スナップ機構は可逆的な機構であるから、ギアシフトの動作を妨げる残留変形が発生せず、しかも部品を交換する必要なしに、元の動作形態に戻す(すなわち、解除前の状態に戻す)ことができる。実際、機械部品が凹んだり破損したりすることがなく、また、機械部品が(損傷して、位置を保持されなくなることにより)何の制限もなく自由に移動し、自転車やギアシフトの部品に衝突してそれを損傷することもない。
【0020】
さらに、前記スナップ機構を使用することにより、ギアシフトが故障したりロックしたりした場合でも、作動運動機構を手動で動かすことができるので、所望の変速比に常に設定することができる。また、後側のギアシフトの場合には、車輪の取付け、取外しが容易になる。実際、前述の解除を利用することにより、チェーンの着脱が容易になる。
【0021】
好ましくは、前記ナットは、
第1方向に沿って延びる第1の空洞、および前記第1方向に直交する第2方向に沿って延びる第2の空洞を備えたチューブ状本体と、
前記チューブ状本体に連結固定され、前記第1方向および前記第2方向の両方に直交する第3方向に沿って延びる2つの対向するピン部と、
前記第2方向に沿って摺動可能に前記チューブ状本体内に挿入され、前記駆動軸と係合するねじ付きのチューブ状スリーブと、
を有し、
前記スナップ機構が、前記チューブ状本体と前記チューブ状スリーブとの間で前記第1方向に沿って動作する。
【0022】
この構成によれば、前記解除がナットの内部で生じるので、アクチュエータ装置の他の構成品に対して特別な変更を施す必要がない。さらに、スナップ機構が、ギアシフト実行時のナットの運動方向に直交する方向に作用するので、解除とギアシフト動作との干渉を避けることができる。
【0023】
そのうえ、そのようなナットは、既存のアクチュエータ装置の動作を妨げることなく従来のナットと置換可能であり、既存のアクチュエータ装置を容易に本発明のアクチュエータ装置に変更することができる。
【0024】
好ましくは、前記スナップ機構が、前記動作状態では、前記チューブ状本体を前記チューブ状スリーブに対して所定の動作位置に保持し、前記解除状態では、前記チューブ状本体(11)を前記所定の動作位置から前記第2方向に沿って自由に移動可能とする。
【0025】
本明細書および特許請求の範囲をとおして、「自由に動く」(または「自由運動」、あるいは、これらと類似した表現)は、反作用(counteraction)のない運動を指す(ただし、摩擦は無視する)。上記の例では、解除状態におけるナットの2つの構成品(チューブ状本体とチューブ状スリーブ)間の所定方向(第2方向)に沿った相対運動のことであり、そのような相対運動は何の反作用も受けない。
【0026】
この構成によれば、前述したスナップ機構により、手動で解除状態にして、元の動作状態に戻すときまで、そのような解除状態(手動で達成した解除状態、あるいは、衝撃または不所望な移動/変形によって引き起こされた解除状態)を維持することができる。例えば、自転車の車両への積み下ろし作業または輸送作業の前、あるいは、自転車の使用前後に、意図的に解除状態とすることもできる。
【0027】
好ましくは、前記スナップ機構は、
前記チューブ状本体の前記第1の空洞内に少なくとも一部が収容されるボールと、
前記チューブ状本体の前記第1の空間内に収容され、前記ボールに作用して当該ボールを前記第1方向に沿って前記チューブ状スリーブに向かって押圧する予圧ばねと、
前記チューブ状スリーブに設けられ、前記動作状態において前記ボールを部分的に収容する第1シートと、
前記チューブ状スリーブにおける前記第2方向に沿って前記第1シートに隣接する位置に設けられ、前記解除状態において前記ボールを部分的に収容する、少なくとも1つの第2シートと、
を有する。
【0028】
「ばね」という用語は、あらゆる種類の弾性的反応を示すことができる部材のことを包括的に指す。そのような弾性的反応として、例えば、引張、圧縮、捻れ、曲げ等が挙げられる。ばねは、例えば、金属製のコイルばね、金属製のねじりばね、金属製の皿ばね、可撓性の金属箔、空気ばね、様々な形状のエラストマーばね等である。「予圧された」という形容詞は、ばねが予め付勢された状態、例えば、予め圧縮された状態、あるいは予め引っ張られた状態で用いられ、静止時でも弾性応力の数値がゼロではなく所望の値の力に等しいことを示す。つまり、ばねは、衝撃を受けた場合に付加された力がその所定の値を超えると弾性変形する。一方で、ギアシフトの通常使用時のように、付加された力が所定の値よりも小さい場合、ばねは全く変形しない。したがって、後者の状態では、ばねは実質的に剛体のように機能し、その変形(yielding)がギアシフトの通常動作に干渉しない。
【0029】
この構成によれば、システムが高速で応答できる動作範囲を広げたい場合、所定の値を高く設定すればよい。一方で、小さい衝撃も吸収するようにアクチュエータ装置を構成したい場合、この場合システムが高速で応答できる範囲は狭まるが、所定の値を低く設定すればよい。所定の値の量は、ばねのサイズを適宜設定すると共に、ばねが正確に圧縮するようにチューブ状本体の長さを適宜選択することによって簡単に決定することができる。特に、様々な厚さのスペーサリングを使用することにより、圧縮量を微調節することができる。
【0030】
この構成によれば、スナップ機構により、前述のボールは第1シートから第2シートに移動する。よって、ナットは、解除状態(ボールが第2シートに位置する状態)においても、構造的に完全な状態を維持したままであり、部品を交換する必要なく元の形態に戻すことができる。
【0031】
好ましくは、前記少なくとも1つの第2シートは、前記第2方向に沿って延びる溝で形成されている。これにより、ボールは、解除状態に移行した場合に前述の第2方向に沿って自由に移動できるので、第2方向に沿った所定の位置に保持されない。
【0032】
より好ましくは、このような溝の長さは、少なくとも前記チューブ状スリーブの半分の長さに等しい。
【0033】
好ましくは、前記第1シートと前記少なくとも1つの第2シートとは、前記チューブ状スリーブの隆起部(すなわち、丘部)により互いに分離されている。
【0034】
好ましくは、前記隆起部は、前記第1シートと前記少なくとも1つの第2シートに、傾斜した接合面を介して接合されている。これにより、動作状態から解除状態への移行またはその逆の移行が容易になり、衝撃または望ましくない移動/変形に対する反力をばねの予圧のみとすることができる。
【0035】
好ましくは、前記チューブ状本体は、前記空洞内で摺動する押圧部材と、前記空洞を閉じるカバーとを有し、前記ばねは、前記押圧部材と前記カバーとの間で押し付けられることによって作用する。
【0036】
この構成によれば、空洞を閉じるカバーは、チューブ状本体に塵やホコリが入るのを防止する機能と、ばねを予圧状態に維持する上側当接部を形成する機能との2つの機能を有する。他方、押圧部材は、ボールを押圧する機能と、ばねを前述の予圧状態に維持する下側当接部を形成する機能とを有する。
【0037】
本発明にかかるアクチュエータ装置の一実施形態において、前記カバーは、ねじによって前記チューブ状本体に接続され、前記チューブ状本体に対する前記カバーの位置が、を回すことでねじ調節可能である。これにより、ばねの予圧が調節可能となり、その結果、所定の値を変化させることができる。
【0038】
本発明にかかるアクチュエータ装置の他の実施形態において、前記カバーは、圧入によって前記チューブ状本体に接続され、前記チューブ状本体に対する前記カバーの位置が、所定の位置となる。この場合、ばねの予圧は、設計段階で設定される固有値となる。
【0039】
好ましくは、前記チューブ状スリーブの少なくとも一部の外側部分が、前記チューブ状本体の多角形状の内側部分と合致する多角形状である。これにより、前記ナットが回転して解除状態に移行するのを防ぐことができる。
【0040】
好ましくは、前記チューブ状スリーブは、一端部において、着脱可能な閉塞キャップを有する。このようなキャップにより、チューブ状スリーブに塵やホコリが入るのを防ぐことができる。
【0041】
好ましくは、前記閉塞キャップは、前記解除状態において前記チューブ状本体が滑り外れるのを防ぐ鍔状当接部を有する。
【0042】
本発明の第2の構成は、自転車のギアシフトのアクチュエータ装置に用いられるナットに関する。このようなナットは、
第1方向に沿って延びる第1の空洞、および前記第1方向に直交する第2方向に沿って延びる第2の空洞が設けられたチューブ状本体と、
前記チューブ状本体に連結固定され、前記第1方向および前記第2方向の両方に直交する第3方向に沿って延びる2つの対向するピン部と、
前記第2方向に沿って摺動可能に前記チューブ状本体内に挿通されたチューブ状スリーブと、
を備え、
前記チューブ状スリーブは内面にねじが切られ、このねじにより、前記チューブ状スリーブが前記アクチュエータ装置のモータの駆動軸と係合する、アクチュエータ装置用のナットにおいて、
さらに、前記チューブ状本体と前記チューブ状スリーブとの間で作用するスナップ機構を備え、
前記スナップ機構により、前記チューブ状本体が前記チューブ状スリーブに対して所定の動作位置に保持される第1の動作状態と、前記チューブ状本体が前記所定の動作位置から前記第2方向に沿って自由に動く解除状態とが設定されることを特徴とする。
【0043】
有利なことに、そのようなナットは、前述の本発明にかかるアクチュエータ装置に使用可能である。
【0044】
好ましくは、前述のナットは、本発明にかかるアクチュエータ装置に関して説明した構造的特徴および機能的特徴の各特徴またはそれらの特徴の組合せを有するので、上述の全ての利点および技術的効果を奏することができる。