(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798480
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】インサート成形物および電気部品用ソケット
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20151001BHJP
H01R 33/76 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
B29C45/14
H01R33/76 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-287180(P2011-287180)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136167(P2013-136167A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 博
【審査官】
越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−173737(JP,A)
【文献】
特開平04−329279(JP,A)
【文献】
特開2009−300184(JP,A)
【文献】
特開2004−028934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
H01R 33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート成形によって枠状の金属プレートが略矩形平板状の樹脂で被覆された電気部品用ソケットのインサート成形物であって、
前記樹脂には、前記金属プレートの内側に位置する部位に複数のコンタクトピン挿通孔が形成され、これらのコンタクトピン挿通孔の周囲で当該樹脂の4辺に沿って細長い形状のスリットが形成されることにより、前記金属プレートが露出していることを特徴とする電気部品用ソケットのインサート成形物。
【請求項2】
前記複数のコンタクトピン挿通孔のうち、互いに隣り合うコンタクトピン挿通孔間に薄肉部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気部品用ソケットのインサート成形物。
【請求項3】
前記スリットは、前記樹脂の表裏両面に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の電気部品用ソケットのインサート成形物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電気部品用ソケットのインサート成形物が用いられていることを特徴とする電気部品用ソケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、射出成形によって枠状の金属プレートが樹脂で被覆されたインサート成形物と、そのインサート成形物を部品として用いた電気部品用ソケットとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の「電気部品用ソケット」としては、「電気部品」であるICパッケージを着脱自在に収容するICソケットがある。
【0003】
このICソケットでは、ソケット本体上にICパッケージが収容されると共に、このソケット本体に多数のコンタクトピンが上下方向に配設されている。また、このソケット本体には、これらのコンタクトピンの弾性片を弾性変形させてICパッケージの端子に接触させるための「インサート成形物」としてのスライドプレート(移動板)が、水平方向(横方向)に移動自在に配設されている。
【0004】
このスライドプレートは、多数のコンタクトピンの弾性片を弾性変形させるための力に抗すべく、インサート成形により、補強用の金属プレートを樹脂に埋設して製造することが提案されている。なお、このスライドプレートでは、樹脂の中央部に多数のコンタクトピン挿通孔を格子状に形成しなければならないため、必然的に金属プレートは、これらのコンタクトピン挿通孔を避けるように枠状に形成せざるを得ない(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−223966号公報(段落〔0030〕〔0059〕〔0060〕の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来のものにあっては、金属プレートと樹脂とがインサート成形によって一体化しているにもかかわらず、両者の膨張率が互いに異なるため、インサート成形後に樹脂に内部応力(残留応力)が発生する。
【0007】
また、ICソケットにおいては、近年、コンタクトピンの狭ピッチ化が進んでおり、この流れに沿って、スライドプレートの格子状のコンタクトピン挿通孔も狭ピッチ化して薄肉部が形成される傾向にある。
【0008】
ところが、かかるスライドプレートの狭ピッチ化に対応すべく、インサート成形物の樹脂の中央部に薄肉部が形成されている場合には、このインサート成形物を所定の温度(例えば、約85℃)で薬品洗浄すると、薬品との相互作用その他の原因により、樹脂にクラック(ひび、割れ等)が生じる恐れがある。その結果、このインサート成形物がICソケットのスライドプレートとして用いられたときに、コンタクトピンの弾性変形に伴ってインサート成形物に力が作用することから、インサート成形物がクラックに起因して損傷する場合があった。
【0009】
なお、薬品洗浄以外の工程においても、こうした不都合が発生する恐れがある。
【0010】
そこで、この発明は、薬品洗浄等に際して樹脂にクラックが生じる事態の発生を抑制することにより、このクラックに起因する損傷を未然に防ぐことが可能なインサート成形物および電気部品用ソケットを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を達成するために、請求項1に記載の発明は、
インサート成形によって枠状の金属プレートが
略矩形平板状の樹脂で被覆された
電気部品用ソケットのインサート成形物であって、前記樹脂に
は、前記金属プレートの内側に位置する部位に複数のコンタクトピン挿通孔が形成され、これらのコンタクトピン挿通孔の周囲で当該樹脂の4辺に沿って細長い形状のスリットが形成されることにより、前記金属プレートが露出している
電気部品用ソケットのインサート成形物としたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、
前記複数のコンタクトピン挿通孔のうち、互いに隣り合うコンタクトピン挿通孔間に薄肉部が形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、
前記スリットは、前記樹脂の表裏両面に設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項
4に記載の発明は、請求項1乃至
3のいずれかに記載の
電気部品用ソケットのインサート成形物が用いられている電気部品用ソケットとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、金属プレートが露出するように樹脂にスリットが形成されているため、このスリットが開くことにより、樹脂の内部応力を逃がすことができる。その結果、インサート成形物の薬品洗浄等に際して、このインサート成形物の樹脂にクラックが生じる事態の発生を抑制し、クラックに起因してインサート成形物が損傷することを未然に防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の実施の形態に係るスライドプレートの平面図である。
【
図2】
図1に示すスライドプレートのA−A線に沿う断面図である。
【
図3】
図1に示すスライドプレートのB−B線に沿う断面図である。
【
図4】
図1に示すスライドプレートの底面図である。
【
図5】
図1に示すスライドプレートの金属プレートを示す図であって、(a)はその平面図、(b)は(a)のC−C線に沿う断面図である。
【
図6】
図1に示すスライドプレートの樹脂の中央部を示す拡大詳細図であって、(a)はその平面図、(b)は(a)のD−D線に沿う断面図、(c)は(a)のE−E線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0019】
図1乃至
図6には、この発明の実施の形態を示す。
【0020】
まず、構成を説明すると、「電気部品用ソケット」である図示省略のICソケットは、図示省略の配線基板上に配設されるようになっており、「電気部品」である図示省略のICパッケージのバーンイン試験等を行うために、このICパッケージと配線基板との電気的接続を図るものである。
【0021】
このICソケットは、ICパッケージが収容されると共に、配線基板上に配設される図示省略のソケット本体を有しており、このソケット本体には多数の図示省略のコンタクトピンが上下方向に配設されている。また、このソケット本体には、
図1乃至
図4に示す「インサート成形物」としての略矩形平板状のスライドプレート(移動板)11が、水平方向(横方向)に移動自在に配設されている。そして、図示省略の操作部材を上下動させることにより、図示省略のリンク機構を介してスライドプレート11を水平方向に移動させると、コンタクトピンの弾性片が弾性変形してICパッケージの図示省略の端子に離接するように構成されている。
【0022】
このスライドプレート11は、
図1乃至
図4に示すように、図示省略の金型のキャビティ内に収容した金属プレート12の周囲に樹脂21を射出することにより、略矩形枠状の金属プレート12が樹脂21で被覆されたものである。
【0023】
この金属プレート12は、例えば、ステンレスから形成されており、
図5に示すように、略矩形平板状のプレート本体13を有しており、プレート本体13の中央部には、略矩形状の貫通孔14が、プレート本体13の厚さ方向(矢印A、B方向)に貫通するように形成されている。また、プレート本体13には、6つの半長円形の切欠き15が貫通孔14に連通する形で形成されていると共に、これら切欠き15の近傍に8つの丸孔16が形成されている。
【0024】
一方、樹脂21は、例えば、PEI(ポリエーテルイミド)から形成されており、
図1乃至
図4に示すように、略矩形平板状の樹脂本体22を有しており、樹脂本体22の中央部、つまり金属プレート12の内側に位置する部位には、金属プレート12と干渉しないように、樹脂本体22の厚さ方向(矢印C、D方向)に貫通する多数のコンタクトピン挿通孔25が格子状に形成されている。これらのコンタクトピン挿通孔25は、
図6に示すように、それぞれ矩形断面を呈しており、各コンタクトピン挿通孔25にはそれぞれ、図示省略のコンタクトピンが挿通されている。そして、樹脂本体22の中央部には、隣り合うコンタクトピン挿通孔25間に、樹脂本体22の面方向(樹脂本体22の厚さ方向に直角な方向)の厚さが薄い多数の薄肉部26が形成されている。また、樹脂本体22には、
図1乃至
図4に示すように、金属プレート12が埋設されており、この金属プレート12の端部(周縁部)17は、露出せず、その全周にわたって樹脂本体22で被覆されている。さらに、樹脂本体22の周縁部には、8つの弾性片27が下向きに突設されており、各弾性片27の下端部には、それぞれ爪部28が外向きに形成されている。
【0025】
また、樹脂本体22には、
図1乃至
図4に示すように、その4辺に沿って細長い長円形のスリット23が表裏両面に4つずつ(合計8つ)対称的に形成されている。そして、これらのスリット23が形成されているため、金属プレート12のプレート本体13の一部が外部に露出した状態となっている。
【0026】
このように、スライドプレート11においては、金属プレート12が露出するように樹脂21に8つのスリット23が形成されている。そのため、インサート成形後に、金属プレート12と樹脂21との膨張率の違いから樹脂21に内部応力が発生したとき、この内部応力の大きさに応じて、
図1,
図4に示すように、これらのスリット23がその幅方向(矢印E、F方向)に適宜開くことにより、樹脂21の内部応力を逃がすことができる。その結果、このスライドプレート11を所定の温度で薬品洗浄等する際には、樹脂21にスリット23が形成されていない従来品と異なり、樹脂本体22の中央部に多数の薄肉部26、すなわち強度的に弱い部分が形成されていても、樹脂21にクラックが生じる事態の発生を抑制することができる。
【0027】
しかも、これらのスリット23は、上述した通り、樹脂本体22の表裏両面に対称的に設けられているため、樹脂21の内部応力を樹脂本体22の表裏両面において均等に逃がすことができる。従って、樹脂本体22の表裏いずれか一方の面にのみスリット23が設けられている場合に比べて、上述したクラック発生の抑制効果を一段と高めることができる。
【0028】
そして、このスライドプレート11が組み込まれたICソケットの使用に際しては、コンタクトピンの弾性変形に伴ってスライドプレート11に力が作用する。このとき、上述した通り、樹脂21にクラックが生じる事態の発生が抑制されているので、樹脂21のクラックに起因してスライドプレート11が損傷することを未然に防ぐことが可能となる。
【0029】
なお、上記実施の形態では、樹脂21に細長い長円形のスリット23が8つ形成されている場合について説明した。しかし、金属プレート12が露出するように設ける限り、スリット23の形状や個数は、別段これに限るわけではない。
【0030】
また、上記実施の形態では、樹脂本体22の4辺に沿ってスリット23が表裏両面に4つずつ形成されている場合について説明した。この場合、スリット23の分割により、樹脂21の成形性が良好になるという利点がある。ただし、樹脂21の成形性の良否が問題とならない場合には、これらのスリット23を樹脂本体22の4辺に沿って1本につなげるように形成しても構わない。
【0031】
また、上記実施の形態では、樹脂21の互いに隣り合うコンタクトピン挿通孔25間に薄肉部26が形成されている場合について説明した。しかし、薄肉部26の形成状況はこれに限るわけではなく、例えば、樹脂21に複数の凹部などの微細構造が形成され、この微細構造によって薄肉部26が形成されている場合にも、この発明を同様に適用することができる。
【0032】
また、上記実施の形態では、この発明のインサート成形物を略矩形平板状のスライドプレート11に適用したが、略矩形平板状以外の形状(例えば、円形平板状、八角形平板状など)のスライドプレート11にこの発明を適用しても、上述した略矩形平板状のスライドプレート11の場合と同様の効果を奏する。
【0033】
さらに、上記実施の形態では、この発明のインサート成形物を「電気部品用ソケット」としてのICソケットのスライドプレート11に適用したが、これに限らず、他の電気部品用ソケットの部品(例えば、ソケット本体、操作部材など)に同様に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
11 スライドプレート(インサート成形物)
12 金属プレート
21 樹脂
23 スリット
26 薄肉部