特許第5798513号(P5798513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5798513永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出方法および装置、並びに永久磁石同期電動機の制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798513
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出方法および装置、並びに永久磁石同期電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/00 20060101AFI20151001BHJP
   H02P 27/04 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   H02P5/408 C
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-52533(P2012-52533)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-188042(P2013-188042A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】391019212
【氏名又は名称】株式会社竹中製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100086933
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125117
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】小原 正樹
【審査官】 宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−023937(JP,A)
【文献】 特開2009−273255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出装置であって、
電機子捲線に電流を流して駆動するための電力変換部と、
前記電機子捲線に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された電流をγ軸とδ軸との2相座標における電流に座標変換する3相/2相座標変換部と、
2相座標における電圧指令を発生する電圧発生部と、
前記2相座標における電圧指令に基づいて前記電機子捲線の電流推定値を求める適応モデル部と、
前記3相/2相座標変換部からの2相座標における電流と前記適応モデル部の求めた電流推定値とから、回転子の無極性の磁極位置を推定する位置推定部と、
前記位置推定部によって推定される推定磁極軸をγ軸とした場合の前記3相/2相座標変換部からのγ軸の電流の平均値を求める電流平均部と、
前記位置推定部の推定した無極性の磁極位置と前記電流平均部からの平均値とに基づいて初期磁極位置を検出する初期磁極位置検出部と、
を有することを特徴とする永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出装置。
【請求項2】
前記適応モデル部における前記電流推定値を推定するための適応モデルは、次の(1)式で示される、
【数1】
請求項1記載の永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出装置。
【請求項3】
前記位置推定部は、前記回転子の無極性の磁極位置θ^±を、次の(2)式によって推定する、
【数2】
請求項2記載の永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出装置。
【請求項4】
前記初期磁極位置検出部は、
前記位置推定部からの無極性の磁極位置θ^±と前記電流平均部からの平均値Σiとに基づいて、初期磁極位置θ^を次の(3)式によって検出する、
【数3】
請求項1ないし3のいずれかに記載の永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出装置。
【請求項5】
前記電圧発生部は、初期磁極位置の検出の際に、
δ軸の電圧指令値であるδ軸電圧指令値Vδ*を0とし、
γ軸の電圧指令値であるγ軸電圧指令値Vγ*を、前記回転子が回転しない程度に高い所定の周期で正負に繰り返されるパルス電圧とする、
請求項1ないし4のいずれかに記載の永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出装置。
【請求項6】
永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出方法であって、
γ軸とδ軸との2相座標における電圧指令に基づいて電機子捲線に電流を流すステップと、
前記電機子捲線に流れる電流を検出して2相座標における電流に座標変換するステップと、
前記電圧指令に基づいて、適応モデルを用いて前記電機子捲線の電流推定値を求めるステップと、
検出されて座標変換された電流と前記電流推定値とから、回転子の無極性の磁極位置を推定するステップと、
前記電機子捲線に流れる電流に対応するγ軸の電流の平均値を求めるステップと、
推定された無極性の磁極位置と前記平均値とに基づいて初期磁極位置を検出するステップと、
を有することを特徴とする永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出方法。
【請求項7】
速度指令に基づいてγ軸とδ軸との2相座標における電圧指令を発生する電圧発生部と、
前記電圧指令に基づいて3相座標における指令値に座標変換する2相/3相座標変換部と、
2相/3相座標変換部からの出力に基づいて電機子捲線に電流を流す電力変換部と、
前記電機子捲線に実際に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された電流を2相座標における電流に座標変換する3相/2相座標変換部と、
前記電圧指令に基づいて、適応モデルを用いて前記電機子捲線の電流推定値を求める適応モデル部と、
前記3相/2相座標変換部からの2相座標における電流と前記適応モデル部の求めた電流推定値とから、回転子の回転速度の推定値および無極性の磁極位置を推定する推定部と、
前記位置推定部によって推定される推定磁極軸をγ軸とした場合の前記3相/2相座標変換部からのγ軸の電流の平均値を求める電流平均部と、
前記推定部の推定した無極性の磁極位置と前記電流平均部からの平均値とに基づいて初期磁極位置を検出する初期磁極位置検出部と、
を有することを特徴とする永久磁石同期電動機の制御装置。
【請求項8】
前記回転子の停止状態において、
前記電圧発生部は、δ軸の電圧指令値であるδ軸電圧指令値Vδ*を0とし、γ軸の電圧指令値であるγ軸電圧指令値Vγ*を前記回転子が回転しない程度に高い所定の周期で正負に繰り返すパルス電圧とし、
このときに前記初期磁極位置検出部が検出した初期磁極位置を、前記推定部における磁極位置の初期値として設定する、
請求項7記載の永久磁石同期電動機の制御装置。
【請求項9】
前記電圧指令と前記回転速度の推定値とに基づいて干渉分を除去するための非干渉制御を行う非干渉制御部を有する、
請求項7または8記載の永久磁石同期電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出方法および装置、並びに永久磁石同期電動機の制御装置に関する。特に、磁極位置検出のための位置センサを用いることなく、永久磁石同期電動機の回転子の停止時における磁極位置を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、永久磁石を用いた同期電動機(永久磁石同期電動機、PMSM、以下「同期電動機」または「PMSM」という)は、その性能向上が著しく、小形かつ高効率であるため、家電製品を含めたあらゆる産業分野で用いられている。
【0003】
一般的なPMSMは、回転子に永久磁石を設け、固定子に電機子捲線を設けた回転界磁形の構造である。PMSMの制御には、回転子の回転角度位置を検出することが必要であるが、そのために位置センサを用いた場合には、小型化、耐ノイズ性、および価格などの点で不利になる。
【0004】
したがって、高価な位置センサを使用できない場合、または高い制御精度や高速な応答を要求しない用途では、磁極位置センサレス技術が不可欠である。このような同期電動機の停止時の初期磁極位置の検出方法として、種々の提案がなされている。
【0005】
同期電動機に電圧を供給する場合に、一般に高周波PWMインバータが利用される。非特許文献1には、特別な電圧、電流を重畳することなく、PWMインバータの出力電圧の高調波が発生する高調波電流からインダクタンスを演算し、その変化から磁極位置を推定した後で、磁気飽和現象を起こす電流を再び流し磁極位置の極性を求めて極性を含めた磁極位置を求める手法が開示されている。
【0006】
また、非特許文献2には、非特許文献1と異なって、電圧を注入したときの電圧、電流からフーリェ変換を行うことにより自己インダクタンスを演算し、その変化から磁極位置を推定した後に、非特許文献1と同様にモータに電流を流し磁極位置の極性を求めて最終的な磁極位置を求める手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】小笠原悟司、松澤隆、赤木泰文著、「突極性に基づく位置推定法を用いた位置センサレスIPMモータ駆動システム」、電気学会論文集 D118巻5号 1998
【非特許文献2】山木修、荒隆裕著、「パルス電圧を用いた表面磁石同期モータの初期磁極位置推定法」、電気学会論文集D 125巻3号 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上に述べた従来の方法によると、同期電動機のインダクタンスを演算した後、別の手段によって再度電流を流すことで磁極の極性を判別し、最終的な磁極位置を求めている。つまり、極性を考慮しない無極性の磁極位置(例えば−π/2〜π/2の範囲の値)の推定と、極性判定(磁極がNかSかの判定)とを、別々の手段で行っている。そのため、装置の構成が複雑になるとともに、全体の演算量が増大し処理速度をさらに高速にする必要があり、また記憶容量を大きくする必要があるといった問題がある。また、磁極位置の推定と極性判定との2段階の手段を用いるため、磁極位置の検出に時間がかかるという問題点がある。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、磁極位置の推定と極性判定とを同時に並行して行うことができ、磁極位置の検出を短時間で行うことを目的とする。
【0010】
本発明においては、適応モデルと呼ぶ同期電動機の電流回路モデルと、この適応モデルにより推定した電流値と実際の同期電動機に流れる電流値との差から、無極性の磁極位置と極性とを同時並行的に推定することにより、磁極位置を検出する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る検出装置は、永久磁石同期電動機の初期磁極位置の検出装置であって、電機子捲線に電流を流して駆動するための電力変換部と、前記電機子捲線に流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部により検出された電流をγ軸とδ軸との2相座標における電流に座標変換する3相/2相座標変換部と、2相座標における電圧指令を発生する電圧発生部と、前記2相座標における電圧指令に基づいて前記電機子捲線の電流推定値を求める適応モデル部と、前記3相/2相座標変換部からの2相座標における電流と前記適応モデル部の求めた電流推定値とから、回転子の無極性の磁極位置を推定する位置推定部と、前記位置推定部によって推定される推定磁極軸をγ軸とした場合の前記3相/2相座標変換部からのγ軸の電流の平均値を求める電流平均部と、前記位置推定部の推定した無極性の磁極位置と前記電流平均部からの平均値とに基づいて初期磁極位置を検出する初期磁極位置検出部と、を有する。
【0012】
本発明の一実施形態に係る検出方法は、γ軸とδ軸との2相座標における電圧指令に基づいて電機子捲線に電流を流すステップと、前記電機子捲線に流れる電流を検出して2相座標における電流に座標変換するステップと、前記電圧指令に基づいて、適応モデルを用いて前記電機子捲線の電流推定値を求めるステップと、検出されて座標変換された電流と前記電流推定値とから、回転子の無極性の磁極位置を推定するステップと、前記電機子捲線に流れる電流に対応するγ軸の電流の平均値を求めるステップと、推定された無極性の磁極位置と前記平均値とに基づいて初期磁極位置を検出するステップと、を有する。
【0013】
本発明の一実施形態に係る制御装置は、速度指令に基づいてγ軸とδ軸との2相座標における電圧指令を発生する電圧発生部と、前記電圧指令に基づいて3相座標における指令値に座標変換する2相/3相座標変換部と、2相/3相座標変換部からの出力に基づいて電機子捲線に電流を流す電力変換部と、前記電機子捲線に実際に流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部により検出された電流を2相座標における電流に座標変換する3相/2相座標変換部と、前記電圧指令に基づいて、適応モデルを用いて前記電機子捲線の電流推定値を求める適応モデル部と、前記3相/2相座標変換部からの2相座標における電流と前記適応モデル部の求めた電流推定値とから、回転子の回転速度の推定値および無極性の磁極位置を推定する推定部と、前記位置推定部によって推定される推定磁極軸をγ軸とした場合の前記3相/2相座標変換部からのγ軸の電流の平均値を求める電流平均部と、前記推定部の推定した無極性の磁極位置と前記電流平均部からの平均値とに基づいて初期磁極位置を検出する初期磁極位置検出部と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、磁極位置の推定と極性判定とを同時に並行して行うことができ、磁極位置の検出を短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の初期磁極位置の検出装置の構成の例を示すブロック図である。
図2】PMSMの等価回路である。
図3】電圧指令のパルス波形の例を示す図である。
図4】電流による同期インダクタンスの変化を説明するための図である。
図5】磁極位置を説明するための図である。
図6】モデル誤差を含んだMRASのブロック図である。
図7】磁極位置の推定のシミュレーションの結果を示す図である。
図8】実証実験における各部の波形を示す図である。
図9】実証実験での電圧指令のパルス波形と電流の波形を拡大して示す図である。
図10】本実施形態の制御装置の構成の例を示すブロック図である。
図11】制御装置の処理動作の概略を示すフローチャートである。
図12】初期磁極位置検出の処理動作の概略を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔初期磁極位置の検出装置の構成〕
図1には、モデル規範適応システム(MRAS:Model Reference Adaputive System)に基づくPMSMの初期磁極位置の検出装置のブロック図が示されている。また、図2にはPMSMの等価回路が、図3には電圧指令のパルス波形の例が、図4には電流による同期インダクタンスの変化を説明するための図が、図5には磁極位置を説明するための図が、それぞれ示されている。
【0017】
図1において、PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor)は、回転子(ロータ)に永久磁石が設けられ、固定子(ステータ)に3相の電機子捲線が設けられた回転界磁形の永久磁石同期電動機である。PMSMには、回転子の磁極位置θを検出するための位置センサが設けられていない。つまり、センサレスである。
【0018】
PMSMは、通常の回転時には、速度指令(回転速度指令)ω*(図9参照)に応じて周波数制御され、電力変換器15から出力される3相交流電力Poutによって、その周波数に同期した回転速度ωで回転するよう駆動される。
【0019】
つまり、PMSMの基本モデルは、図2に示されるように、永久磁石のN極の方向をd軸とし、これより電気角でπ/2進んだ方向をq軸とする。つまり、d軸、q軸はモデル軸である。U相の電機子捲線を基準とし、これに対するd軸の進み角をθとする。つまり、d軸−q軸座標系は、U相の電機子捲線を基準としてこれより角度θだけ進んだ位置にある。
【0020】
なお、θは、U相の電機子捲線に対する磁極の実際の角度位置(磁極位置)を示す。角度位置θは、回転速度ωを積分することによっても求めることができる。
【0021】
また、U相の電機子捲線を基準とし、推定された磁極位置の角度θ^に対応してγ軸が決定される。γ軸よりも電気角でπ/2進んだ位置がδ軸である。つまり、γ軸−δ軸座標系は、U相の電機子捲線を基準としてこれより角度θ^だけ進んだ位置にある。また、d軸−q軸座標系とγ軸−δ軸座標系とは極く接近しており、θとθ^とはほぼ等しく、この平衡点近傍において適応制御が行われる。
【0022】
なお、U相、V相、およびW相の各電機子捲線は、それぞれ、漏れインダクタンスl’および有効インダクタンスL’を含む自己インダクタンスL、および捲線抵抗Rを持っている。
【0023】
自己インダクタンスL(同期インダクタンス)は、図4に示す電流−磁束曲線の傾きに比例する。
【0024】
電機子捲線に電流が流れると磁束が発生するが、電機子捲線の磁束は、回転子の永久磁石による磁束の影響を受ける。つまり、回転子の永久磁石の磁極位置θに応じてプラスまたはマイナスの磁束が加算され、これによって電機子捲線の自己インダクタンスLが影響を受け、電機子捲線の正方向または負方向の電流が増大しまたは減少する。つまり、電機子捲線に正方向の電流と負方向の電流とを流した場合に、いずれか一方の電流は加算されて増大し、他方の電流は減算されて減少し、それらの平均値は正方向または負方向にシフトする。
【0025】
したがって、平均値が0となるような正方向と負方向の電流を電機子捲線に流すように指令を出し、電機子捲線に実際に流れた電流の平均値をとることによって、回転子の永久磁石の磁極がN極かS極かを判定することができる。つまり、回転子の永久磁石の磁極位置θが−π/2〜π/2の範囲であるかπ/2〜3π/2の範囲であるかを判定することができ、磁極位置θの範囲を特定することができる。
【0026】
なお、平均値が0となるような指令(電圧指令V*)と実際に流れた電流の平均値とは、互いに同じ軸上とする。また、初期磁極位置θ^の検出の際に回転子が回転しないようにするため、γ軸またはδ軸のいずれか一方に高い周波数の電圧指令V*を出し、他方については0とするのがよい。
【0027】
また、電機子捲線に実際に流れた電流の平均値として、積算値または積分値でもよい。また、そのような平均値は、正負の電流のシフト量を抽出できるものであればよい。
【0028】
なお、自己インダクタンスL(同期インダクタンス)は、表面磁石構造の同期電動機(SPMSM)では、非突極機であるためd軸とq軸とでほとんど変化がないが、埋め込み磁石構造の同期電動機(IPMSM)では、突極機であるためq軸ではd軸よりも大きくなる。
【0029】
本明細書において、記号「*」は、各パラメータにおける指令または指令値などを示す場合に、記号「^」は、各パラメータの推定値または算出値などを示す場合に、それぞれ用いられる。
【0030】
本実施形態の検出装置3は、PMSMの回転子の初期磁極位置θ^、つまり回転子が停止(静止)しているときの磁極位置θを検出する。
【0031】
検出装置3は、γ軸電圧発生部12aおよびδ軸電圧発生部12bを含む電圧発生部12、2相/3相座標変換部14、電力変換部15、電流検出部16、3相/2相座標変換部17、適応モデル部18、推定部19、電流平均部21、および初期位置検出部22などを備える。
【0032】
電圧発生部12は、2相座標における電圧指令V*を発生する。すなわち、γ軸電圧発生部12aは、γ軸の電圧指令値であるγ軸電圧指令値Vγ*を発生し、δ軸電圧発生部12bは、δ軸の電圧指令値であるδ軸電圧指令値Vδ*を発生する。
【0033】
電圧発生部12は、初期磁極位置θ^の検出に際して、δ軸電圧指令値Vδ*を0とし、γ軸電圧指令値Vγ*を、回転子が回転しない程度に高い所定の周期で正負に繰り返されるパルス電圧とする。
【0034】
つまり、初期磁極位置θ^の検出の際には、γ軸電圧指令値Vγ*を、図3(A)に示すようなパルス電圧Vpとする。また、γ軸電圧指令値Vγ*は、図3(B)に示すように、パルス電圧Vpの立ち上げを徐々に行い、その包洛線が正負において滑らかに増加した後に一定値となるようにする。
【0035】
2相/3相座標変換部14は、2相座標の電圧指令値V*に基づいて、3相座標における指令値に座標変換する。つまり、電圧発生部12からのγ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*を、電力変換部15を制御するための、u、v、wの3相の電圧指令値に変換する。
【0036】
電力変換部15は、PWM制御部およびインバータなどを備え値電機子捲線に電流を流してPMSMを駆動する。つまり、電力変換部15は、2相/3相座標変換部14からの出力に基づいてPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成し、PWM信号をインバータのスイッチング素子の各ゲートに印加する。インバータからは、周波数および振幅が制御された3相交流電力Poutが出力され、これによってPMSMのu、v、wの電機子捲線に3相電流が流れ、回転子がそれに同期して回転駆動される。
【0037】
電流検出部16は、PMSMの電機子捲線に流れる電流を検出する。つまり、PMSMに流れている実際の電流(電流検出値)を検出する。図1においては、u、v、wの各相に流れる電流iu、iv、iwを検出しているが、いずれか2相のみを検出して残りの1相については演算で求めるようにしてもよい。
【0038】
3相/2相座標変換部17は、電流検出部16により検出された電流をγ軸とδ軸との2相座標における電流に座標変換する。つまり、電流検出部16からの3相の電流iu、iv、iwを、γ−δ軸座標系におけるγ軸方向の電流iγおよびδ軸方向の電流iδに変換する。電流iγ、iδは、直流であり、変換されたものではあるが、PMSMに実際に流れる電流に対応しているので、これも電流検出値である。したがって、「電流検出値iγ、iδ」と記載することがある。
【0039】
適応モデル部18は、2相座標における電圧指令に基づいて電機子捲線の電流推定値(電流目標値)を求める。つまり、適応モデル部18は、電圧発生部12から出力されるγ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*に基づいて、適応モデル(制御モデル)を用いて適応制御を行うために、d軸およびq軸の電流の目標値となる電流推定値id^、iq^を演算する。
【0040】
なお、適応モデル部18は、適応モデルとして、干渉分を取り除いた理想的な制御モデルを用いることができる。これについては、後で図10において説明する。
【0041】
適応モデル部18で用いられる適応モデルは、その電圧電流方程式を次の(4)式で示すことができる。
【0042】
【数4】
【0043】
推定部19は、3相/2相座標変換部17からの2相座標における電流と適応モデル部18の求めた電流推定値とから、回転子の無極性の磁極位置を推定する。
【0044】
つまり、推定部19は、電流検出部16により検出された電流iγ、iδと、適応モデル部18により算出された電流推定値id^、iq^との差(id^−iγ)、(iq^−iδ)が、いずれも漸近的に零になるように、推定された無極性の磁極位置θ^±を求める。
【0045】
ここで、無極性の磁極位置θ^±とは、回転子に設けられた永久磁石のN極とS極の極性を考慮しない場合の磁極位置θのことである。つまり、図5において、N極の向く方を磁極位置(角度)θとすると、磁極位置θは0〜2πの範囲であり、1回転分の全角度2πの範囲において磁極位置θが特定される。しかし、磁極を考慮しない場合には、N極とS極は互いに点対称の位置にあるため、半回転分の角度πの範囲、例えば0〜πまたは−π/2〜π/2などの範囲において、磁極位置θが特定される。このような無極性の磁極位置を、ここでは「θ^±」のように表す。
【0046】
推定部19は、回転子の無極性の磁極位置θ^±を、次の(5)式によって推定することができる。
【0047】
【数5】
【0048】
ここで、無極性の磁極位置θ^±は、上の(5)式を積分することによって求められるが、その際の積分の初期値は、例えば図7に示されるように時間(Time) が0のときに0とすればよい。
なお、γ−δ軸座標系では、推定部19によって推定されるPMSMの磁極軸がγ軸であり、γ軸から電気角でπ/2だけ進んだ軸がδ軸である。
【0049】
推定された無極性の磁極位置θ^±は、2相/3相座標変換部14および3相/2相座標変換部17における座標変換に用いられる。
【0050】
電流平均部21は、推定部19によって推定される推定磁極軸をγ軸とした場合の3相/2相座標変換部17からのγ軸(γ軸方向)の電流iγの平均値Σiを求める。γ軸の電流iγの平均値Σiは、その正負が、回転子の磁極の正負つまりN極かS極かを示している。そこで、平均値Σiの正負を、推定部19で推定された無極性の磁極位置θ^±の極性の判定に用いるのである。
【0051】
つまり、回転子の永久磁石の磁束の影響によって、固定子の電機子捲線のインダクタンスに差が生じる。その結果、推定磁極軸(この場合はγ軸)の電流の極性によって電流値に差が出るので、これを利用して無極性の磁極位置θ^±の正負を判別する。
【0052】
初期位置検出部22は、推定部19の推定した無極性の磁極位置θ^±と、電流平均部21からの平均値Σiとに基づいて、初期磁極位置θ^を検出する。初期磁極位置θ^は、PMSMの回転子が停止(静止)しているときの回転子の磁極位置(角度)θの推定値である。
【0053】
平均値Σiが正のとき(Σi>0)は、磁極位置はプラスであり、したがって、初期磁極位置θ^は無極性の磁極位置θ^±と等しい角度である。平均値Σiが負のとき(Σi<0)は、磁極位置はマイナスであり、したがって、磁極位置θ^は無極性の磁極位置θ^±にπを加算しまたは減算した角度(θ^±+πまたはθ^±−π)となる。
【0054】
すなわち、初期位置検出部22は、初期磁極位置θ^を次の(6)式によって求めることができる。
【0055】
【数6】
【0056】
適応モデル部18および推定部19は、電流検出値iγ、iδおよび電圧指令値Vγ*、Vδ*に基づいて、制御モデルにおける電流の誤差が漸近的に零になるように適応制御を行うものであり、これらは適応制御部TSを構成する。
【0057】
なお、適応制御部TSは、誤差が漸近的に零になるように適応制御を行うものであるが、誤差が漸近的に零になるようにとは、制御が乱れないよう、急激な変化が起こることをできるだけ避けるように制御が行われることを意味する。
【0058】
検出装置3は、初期磁極位置θ^の検出に際し、電圧指令V*(γ軸電圧指令値Vγ*とδ軸電圧指令値Vδ*)に基づいて電機子捲線に電流を流すとともに、電機子捲線に流れる電流を検出して2相座標における電流iγ,iδに座標変換する。電圧指令V*に基づいて、適応モデルを用いて電機子捲線の電流推定値id^、iq^を求める。
【0059】
そして、座標変換された電流iγ,iδと電流推定値id^、iq^とから、回転子の無極性の磁極位置θ^±を推定する。電機子捲線に流れる電流に対応するγ軸の電流iδの平均値Σiを求め、これを極性判定に用いる。推定された無極性の磁極位置θ^±と平均値Σiとに基づいて、初期磁極位置θ^を検出する。
【0060】
このように、本実施形態の検出装置3では、適応モデルと呼ぶPMSMの簡単な電流回路モデルを用い、その適応モデルにおいて推定した電流値id^、iq^とPMSMに実際に流れる電流iγ,iδとの差から、磁極位置θ^を推定する。
【0061】
なお、PMSMが通常の回転時には、回転速度をも推定して制御を行う。従来に用いられていた位置センサ、速度センサによる検出値に代えて、推定された回転速度ω^および磁極位置θ^を用いて制御を行う。
【0062】
本実施形態によると、磁極位置の推定と極性判定とを同時に並行して行うことができ、磁極位置(初期磁極位置θ^)の検出を短時間で行うことができる。そのため、装置の構成が複雑になることがなく、記憶容量および演算量ををそれほど増大する必要がない。
【0063】
〔検出装置の初期磁極位置の検出原理の説明〕
次に、検出装置3における初期磁極位置の検出原理について説明する。
【0064】
よく知られている永久磁石同期電動機の回転子が作る永久磁石の磁極軸をd軸としたd−q座標軸上の電圧・電流方程式は、次の(7)式で示すことができる。
【0065】
【数7】
【0066】
ここで、初期磁極位置θ^の検出の際には、回転子は停止状態であるため、上の(7)式において回転速度検出値ωを0とすればよい。そのときの入力変数を電圧値、状態変数を電流値とした状態方程式は、次の(8)式で示される。
【0067】
【数8】
【0068】
適応モデル部18は、状態方程式 (8) において、電流値id,iqを電流推定値id^、iq^に変更し、電圧値Vd,Vqを電圧指令値Vγ*,Vδ*に変更した次の(9)式を演算する。
【0069】
【数9】
【0070】
適応モデル部18は、この(9)式を演算して、電流推定値id^,iq^を出力する。
【0071】
上の(9)式を次の(10)式のように書き換えることができる。
【0072】
【数10】
【0073】
推定部19は、適応モデル部18からの電流推定値id^,iq^、および3相/2相座標変換部17からの電流検出値iγ,iδに基づいて、無極性の磁極位置θ^±を推定する。
【0074】
推定部19を実現する一実施例を以下に説明する。
【0075】
上の(8)式を次の(11)式のように書き換えることができる。
【0076】
【数11】
【0077】
U相の電機子捲線を基準位置として、磁極軸であるd軸および磁極推定軸であるγ軸がそれぞれ基準位置からθ,θ^だけずれているとする。d−q座標系とγ−δ座標系との変換式は、次の(12)式で示すことができる。
【0078】
【数12】
【0079】
また、変換式R(θ−θ^)は、次の(13)式で示すことができる。
【0080】
【数13】
【0081】
上の(11)式と(12)式とから、次の(14)式を得ることができる。
【0082】
【数14】
【0083】
ここで、δ軸電圧指令値Vδ*を0とし、γ軸電圧指令値Vγ*を、回転子が回転しないよう、図3に示すようなパルス状の高周波電圧とする。さらに、電圧印加時は、推定動作を中止すると、上の(10)式と(14)式とから、適応モデル部18は次の(15)式となる。
【0084】
【数15】
【0085】
また、PMSMの電流回路モデルは次の(16)式となる。
【0086】
【数16】
【0087】
適応モデル部18からの電流推定値id^,iq^と3相/2相座標変換部17からの電流検出値iγ,iδとの電流誤差εγ、εδを、次の(17)式で示す。
【0088】
【数17】
【0089】
そうすると、上の(15)(16)(17)式から、次の(18)式を得ることができる。
【0090】
【数18】
【0091】
ここで、電流検出の間隔が電流回路の時定数に比べて十分早いと仮定すると、
【0092】
【数19】
【0093】
とみなしてもよいので、上の(18)式は、次の(20)式とすることができる。
【0094】
【数20】
【0095】
ここで、δR={cos( θ−θ^) −1}Rは、巻線抵抗の変動と考えて、δR=0の場合の磁極位置θ^の推定則を求める。δR=0とすると、上の(20)式は、次の(21)式となる。
【0096】
【数21】
【0097】
リヤブノフ関数Vを、次の(22)式とする。
【0098】
【数22】
【0099】
上の(22)式を微分すると、θ=一定であるため、次の(23)式が得られる。
【0100】
【数23】
【0101】
上の(23)式に(21)式を代入すると、次の(24)式が得られる。
【0102】
【数24】
【0103】
上の(24)式において、
【0104】
【数25】
【0105】
であるので、
【0106】
【数26】
【0107】
であるためには、
【0108】
【数27】
【0109】
であればよい。したがって、上の(27)式から、推定部19は、次の(28)式を演算を行えばよい。
【0110】
【数28】
【0111】
電流平均部21は、推定途中のγ軸のプラス側電流の平均値Σi+ とマイナス側電流の平均値Σi- 合計を求めて正負を判定する。
【0112】
初期位置検出部22は、電流平均部21からの正負信号と推定部19からの無極性の磁極位置θ^±とから、次の(29)式によって初期磁極位置θ^を求める。
【0113】
【数29】
【0114】
このようにして、初期磁極位置θ^を求めることができる。求められた初期磁極位置θ^を、PMSMの起動時の電圧指令V*などの設定に用いることにより、回転子を逆転させることなく、PMSMを円滑に迅速に起動することができる。
【0115】
〔安定性〕
ここで、系の安定性について検討する。上の(28)式の推定則で、δR≠0の時の推定系の安定性を求める。
【0116】
図6には、δRをモデル誤差または外乱入力と考えたときの制御系のブロック図が示されている。
【0117】
モデル誤差や外乱が存在する場合に、推定則の(28)式では、それらの信号の性質によってドリフトを生じて適応系が不安定になることが知られている。しかし、前向きの制御ブロックが強正実で、誤差信号εにPE性がある場合には、安定になることが示されている。この条件を、(20)(28)式の磁極位置推定系に当てはめてみると、誤差方程式は一次遅れ系で強正実を満足し、同定信号として一定周期の正負のパルス信号が印加され続けているので誤差信号εのPE性も満足し、δRが存在しても安定である。
【0118】
上の(29)により初期磁極位置θ^が推定され、真値θに近づくとθ−θ^は0に近づき、δRは、δR={cos( θ−θ^) −1}Rによって0になる。このため、δRに対しては何もする必要がない。
【0119】
〔シミュレーションの結果〕
図7には、初期磁極位置θ^の推定のシミュレーションの結果が示されている。
【0120】
図7(A)(B)は、PMSMの回転子の静止時の磁極位置θを30度にセットし、初期磁極位置θ^の推定を行った結果が示されている。約0.8秒で、θ−θ^が0となり、初期磁極位置θ^=30度が検出されることが分かる。
【0121】
図7(C)(D)は、PMSMの回転子の静止時の磁極位置θを−85度にセットし、初期磁極位置θ^の推定を行った結果が示されている。約1.0秒で、θ−θ^が0となり、初期磁極位置θ^=−85度が検出されることが分かる。
【0122】
〔実証実験〕
図8には、実証実験における各部の波形が示され、図9には電圧指令のパルス波形と電流の波形が拡大して示されている。
【0123】
実証実験は、実機を用いて行った。実験に用いたPMSMのパラメータは次のとおりである。
【0124】
極数:4極、定格電力:1Kw、定格電流:3.7A、定格回転数:2000RPM、捲線抵抗:1.1Ω、d軸インダクタンス:8.05mH、 q軸インダクタンス:9.78mH
回転子の磁極位置を所定の角度だけずらした後、回転子が回転しないように高周波のパルス状の電圧をγ軸のみに印可した。磁極位置をずらせる角度として、0度、45度、90度、−45度、−90度、180度について実験した。なお、実験に用いたPMSMでは、磁極位置を所定の角度だけずらせるために、角度検出のためのセンサを取り付けた。γ軸の電圧指令値Vγ*であるパルス電圧は、周波数を800Hz、パルス幅を0.25msとした。
【0125】
図8によると、いずれの角度をずらせた場合でも、初期磁極位置の検出を開始した後、約30〜100msで0に収束している様子がわかる。
【0126】
角度が、45度、90度、−45度の場合に、推定軸であるγ軸の電流の平均値Σi(γaxis average current) がプラスになっており、磁極はN極であることが判別できる。角度が、−90度、180度の場合に、同じく平均値Σi(γaxis average current) がマイナスになっており、磁極はS極であることが判別できる。
【0127】
例えば、角度が45度の場合に、実際の磁極位置θと推定の初期磁極位置θ^との差(θ−θ^)が、45度から開始され、約40msで0度に収束している。
【0128】
また、角度が90度の場合に、実際の磁極位置θと推定の初期磁極位置θ^との差(θ−θ^)が、90度から開始され、約80msで0度に収束している。
【0129】
また、角度が−90度の場合に、実際の磁極位置θと推定の初期磁極位置θ^との差(θ−θ^)が、270度(−90度)から開始され、約100msで180度(−180度)に収束している。この場合は、磁極位置θの−90度に対して、推定の磁極位置θ^が270度(−90度)から180度(−180度)に変位したので、無極性の磁極位置θ^±は、90(=270−180)度である。しかし、平均値Σi(γaxis average current) がマイナスであるので、初期磁極位置θ^は、上の(6)式によって、無極性の磁極位置90度に180度を加算し、270度つまり−90度となって実際の磁極位置θと一致する。
【0130】
また、角度が−180度の場合に、実際の磁極位置θと推定の初期磁極位置θ^との差(θ−θ^)が、0度から開始され、そのまま変動がない。この場合は、磁極位置θの180度に対して、推定の磁極位置θ^が0度で変わらないので、無極性の磁極位置θ^±は、0(=0−0)度である。しかし、平均値Σi(γaxis average current) がマイナスであるので、初期磁極位置θ^は、上の(6)式によって、無極性の磁極位置0度に180度を加算し、180度となって実際の磁極位置θと一致する。
【0131】
このように、無極性の磁極位置θ^±を求める推定動作が終了した時点で、磁極の方向も判別が終わっているので、直ちに初期磁極位置θ^が求められる。
【0132】
なお、図9に示すように、電圧指令を印加する際に、急にパルス波形を加えると、γ軸の電流iγが一時的に正負の一方へ偏位する。これを防ぐために、図3(B)に示すようにパルス電圧Vpの立ち上げを徐々に行えばよい。
【0133】
〔PMSMの制御装置〕
次に、PMSMの制御装置1について説明する。
【0134】
図10には、本実施形態の制御装置1の構成の例が示されている。
【0135】
図10において、上に図1において説明したと同様な要素には同じ符号を附し、説明を省略しまたは簡略化する。
【0136】
制御装置1は、速度調節部11、電流調節部(電圧発生部)12、非干渉制御部13、2相/3相座標変換部14、電力変換部15、電流検出部16、3相/2相座標変換部17、適応モデル部18、推定部19、電流平均部21、および初期位置検出部22を備える。
【0137】
速度調節部11は、速度指令(速度指令値)ω*に基づいた速度調節を行う。つまり、外部から入力された速度指令値ω*と、推定部19から出力された速度推定値ω^との差(ω*−ω^)に基づいて、δ軸電流指令値iδ*を演算する。
【0138】
つまり、速度調節部11は、速度指令値ω*と速度推定値ω^との差(ω*−ω^)を偏差として、比例・積分制御(PI制御)などのフィードバック制御によって速度指令値通りの回転速度(回転速度実際値)ωとなるように(偏差が零になるように)、δ軸電流指令値(トルク電流指令)iδ*を作り出す。
【0139】
電流調節部12には、γ軸電圧発生部(γ軸電流調節部)12aおよびδ軸電圧発生部(δ軸電流調節部)12bが設けられる。
【0140】
PMSMの通常の回転時において、γ軸電圧発生部12aおよびδ軸電圧発生部12bは、それぞれ、γ軸電流指令値iγ*またはδ軸電流指令値iδ*に基づいて電流調節を行う。つまり、γ軸電圧発生部12aは、γ軸電流指令値iγ*とγ軸電流検出値iγとの差(iγ*−iγ)に基づいて、γ軸電圧指令値Vγ*を演算する。δ軸電圧発生部12bは、δ軸電流指令値iδ*とδ軸電流検出値iδとの差(iδ*−iδ)に基づいて、δ軸電圧指令値Vδ*を演算する。
【0141】
つまり、電流調節部12は、差(iγ*−iγ)、(iδ*−iδ)を偏差として、フィードバック制御により指令値通りの電流値になるように(偏差が零になるように)、γ軸またはδ軸の電圧指令Vγ*、Vδ*を作り出す。
【0142】
また、PMSMが停止した状態から起動する際には、図1において説明したように、γ軸電圧発生部12aおよびδ軸電圧発生部12bは、初期磁極位置θ^を検出するために、δ軸電圧指令値Vδ*を0とし、γ軸電圧指令値Vγ*を、回転子が回転しない程度に高い所定の周期で正負に繰り返されるパルス電圧とする。
【0143】
非干渉制御部13は、電流調節部12から出力される電圧指令(γ軸電圧指令値Vγ*、δ軸電圧指令値Vδ*)と、回転速度の推定値(速度推定値ω^)とに基づいて、干渉分を除去するための非干渉制御を行う。つまり、非干渉制御部13は、γ軸電圧指令値Vγ*、δ軸電圧指令値Vδ*、γ軸電流検出値iγ、δ軸電流検出値iδ、および速度推定値ω^に基づいて、γ軸電圧指令値Vγ**およびδ軸電圧指令値Vδ**を演算する。非干渉制御部13の出力するγ軸電圧指令値Vγ**およびδ軸電圧指令値Vδ**は、入力されるγ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*に対して、干渉分が除去されている。
【0144】
なお、非干渉制御部13において、干渉分とは、PMSMの回転子の回転にともなって、電機子捲線のインダクタンスLなどに誘起される電圧成分(逆起電力)ωL、−ωL、ωφmなどである。インダクタンスLおよび回転子磁束φmは予め求めておくことができ、これらと回転速度の推定値(速度推定値)ω^から干渉分を求めることができる。PMSMが停止している状態では、回転速度ωは0であって、干渉分は生じない。
【0145】
なお、非干渉制御それ自体は従来から用いられている技術であり、例えば、杉本英彦編著「ACサーボシステムの理論と設計の実際」(総合電子出版社、1999/05/08発行、77−80頁)を参照することができる。
【0146】
適応モデル部18は、適応モデルとして、干渉分を取り除いた理想的な制御モデルを用いる。その場合に、適応モデル部18は、PMSMの回転速度ωに比例した逆起電力の影響を取り除いた理想的なPMSMの電流回路における電流推定値を演算する。
【0147】
推定部19は、電流検出部16により検出された電流iγ、iδと、適応モデル部18により算出された電流推定値id^、iq^との差(id^−iγ)、(iq^−iδ)が、いずれも漸近的に零になるように、回転速度の推定値(速度推定値)ω^、および磁極位置の推定値(磁極推定値)θ^を求める。
【0148】
推定部19によって求められた速度推定値ω^は、速度調節部11におけるδ軸電流指令値iδ*の演算に用いられる。
【0149】
推定部19には、磁極位置θの初期値θaを格納する初期値格納部191が設けられる。初期位置検出部22で検出された初期磁極位置θ^は、初期値θaとして初期値格納部191に格納される。
【0150】
初期値格納部191に初期値θaが格納されることによって、その初期値θaに応じた電圧指令V*が出力され、回転子が逆転することなく円滑に起動できるように、電機子捲線に電流が流される。これによって、PMSMを円滑に迅速に起動することができる。
【0151】
また、推定部19では、初期値格納部191に初期値θaが格納された後、例えば回転速度を積分することによって任意のタイミングでの磁極位置θを求めることができる。
【0152】
〔フローチャートによる処理動作の説明〕
図11には、制御装置1の処理動作の概略を示すフローチャートが、図12には初期磁極位置検出の処理動作の概略を示すフローチャートが、それぞれ示されている。
【0153】
図11に示すように、停止状態からの起動時に、まず、初期磁極位置θ^を検出する(#11)。検出された初期磁極位置θ^を、推定部19に初期値θaとして設定し、PMSMを起動する(#12)。そして、PMSMの電機子捲線に流れる電流iγ、iδを検出し(#13)、電圧指令Vγ*、Vδ*に基づいて、干渉分を除去した制御モデルにおける電流推定値id^、iq^を算出する(#14)。
【0154】
そして、算出した電流推定値id^、iq^と電流検出値iγ,iδとの差(id^−iγ)、(iq^−iδ)が漸近的に零になるように、回転速度の推定値ω^および磁極位置の推定値θ^を求め(#15)、求めた回転速度の推定値ω^および磁極位置の推定値θ^に基づいて、速度制御および座標変換を行う(#16)。
【0155】
図12において、電圧指令V*に基づいて、初期パルスを発生する(#21)。電機子捲線に流れる電流を検出し(#22)、2相座標における電流iγ,iδに座標変換する(#23)。適応モデルを用いて電機子捲線の電流推定値id^、iq^を求める(#24)。電流iγ,iδと電流推定値id^、iq^とから回転子の無極性の磁極位置θ^±を推定する(#25)。γ軸の電流iδの平均値Σiを求め(#26)、これと推定された無極性の磁極位置θ^±とに基づいて初期磁極位置θ^を検出する。
【0156】
上に述べた実施形態において、埋め込み磁石構造の同期電動機では、q軸のインダクタンスLqがd軸のインダクタンスLdよりも大きくなり(Lq>Ld)、初期磁極位置θ^の検出が容易である。表面磁石構造の同期電動機の場合には、磁気飽和をおこす程度の電流を電機子捲線に流すとインダクタンスが小さくなり、磁束軸のインダクタンスLdとトルク軸のインダクタンスLqとに差が出て、初期磁極位置θ^の検出が容易となる。
【0157】
〔その他〕
上に述べた実施形態においては、回転子が停止(静止)している場合の初期磁極位置θ^の検出について説明した。しかし、回転子は必ずしも静止している必要はなく、逆起電力の影響がでない程度の低速度で回転していてもよい。つまり、超低速度においても、上に述べた実施形態の検出装置3または制御装置1を用いて磁極位置θ^を検出することが可能である。
【0158】
その他、PMSM、電圧発生部12、非干渉制御部13、適応モデル部18、推定部19、電流平均部21、初期位置検出部22、検出装置3、または制御装置1の各部または全体の構成、構造、回路、形状、方式、個数、演算内容、処理内容、処理順序などは、本発明の主旨に沿って適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0159】
1 制御装置
3 検出装置
12 電圧発生部
13 非干渉制御部
14 2相/3相座標変換部
15 電力変換部
16 電流検出部
17 3相/2相座標変換部
18 適応モデル部
19 推定部
21 電流平均部
22 初期位置検出部(初期磁極位置検出部)
θ^ 初期磁極位置
θ 磁極位置
θ^± 無極性の磁極位置
iγ γ軸の電流(電流検出値)
iδ δ軸の電流(電流検出値)
id^ d軸の電流推定値
iq^ q軸の電流推定値
Vγ* γ軸電圧指令値
Vδ* δ軸電圧指令値
Σi 平均値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12