(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記投影部は、前記格子点間を等間隔に1/n(n=整数)に分ける点をノードとして前記第2の面へ投影することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のX線分析装置。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. Stanton et al., J. Appl. Cryst. 25, 549-558 (1992)
【非特許文献2】S. Barna et al., Rev. Sci. Instrum. 70, 2927-2934 (1999).
【非特許文献3】G. Huelsen, C. Bronnimann, E.F. Eikenberry, Nucl. Instrum. Methods A548, 540-554 (2005)
【非特許文献4】G. Huelsen, Ph.D thesis (2005)
【非特許文献5】K. Ito, H. Kamikubo, N. Yagi and Y. Amemiya, “Calibration method and software for image distortion and non-uniformity in CCD-based X-ray detectors utilize X-ray image-intensifier”, Jpn. J. Appl. Phys. 44, 8684-8691 (2005).
【非特許文献6】A. P. Hammersley et al., Nucl. Instrum. Methods A346, 312-321 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような問題の解決法として、微小要素に分割する方法が提案されている(非特許文献5参照)。しかし、この方法では精度を上げると計算爆発(O[N4])を起こしてしまう。また、三角形分割による方法も知られているが、(非特許文献6)、精度向上のために分割数を多くする必要が生じ計算量が膨大になってしまう。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、X線強度の積分値を維持して可逆的に変換でき、計算量を低減しつつ高精度にX線強度分布を変換できるX線分析装置、X線分析システム、X線分析方法およびX線分析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のX線分析装置は、画素ごとに決まる離散データのX線強度分布を分布既知の第1の面から分布未知の第2の面へ変換するX線分析装置であって、第1の面上において画素を特定する格子点および前記格子点間の中間点をノードとして、第2の面へ投影する投影部と、前記投影されたノードにより特定される投影画素を表わす多角形が前記第2の面上の各画素と重複する領域の面積を算出することで、前記投影画素を表わす多角形が前記第2の面上の各画素に対して占める占有率を算出する占有率算出部と、前記占有率に基づいて、前記第1の面上の画素内のX線強度を前記第2の面上の画素へ分配し、X線強度分布を変換する変換部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
このように本発明のX線分析装置は、第1の面上の格子点間の中間点をノードとして投影画素を表わす多角形の第2の面の各画素への占有率を算出するため、投影画素の形状に近い多角形を用いて各占有率を計算でき、高精度にX線強度分布を変換できる。また、投影画素を表わす多角形の面積計算の計算量を低減できる。また、空間分解能を保存でき、測定した物理量を維持することで、強度値を可逆的に単射として変換できる。
【0011】
(2)また、本発明のX線分析装置は、前記第1の面上の画素が、座標軸に平行な直線により区画されていることを特徴としている。これにより、効率的にX線強度分布を変換でき、計算量を低減するとともに精度を向上することができる。この場合、第1の面上の画素は、正方形または長方形である。
【0012】
(3)また、本発明のX線分析装置は、前記投影部、占有率算出部、テーブル作成部および変換部が、いずれも実数計算を行なうことを特徴としている。これにより、丸め誤差が生じないため計算の精度を向上できる。
【0013】
(4)また、本発明のX線分析装置は、前記投影部が、前記格子点間を等間隔に1/n(n=整数)に分ける点をノードとして前記第2の面へ投影することを特徴としている。これにより、ノードを用いて表した投影画素の形状を実際の投影画素の形状に近づけることができ、計算の精度が向上する。
【0014】
(5)また、本発明のX線分析装置は、前記占有率に基づいて、前記第1の面上の画素内のX線強度を前記第2の面上の画素へ分配するためのテーブルを作成するテーブル作成部を更に備え、前記変換部は、前記作成されたテーブルを用いて、X線強度を前記第1の面上の分布から前記第2の面上の分布へ変換することを特徴としている。このようにテーブルを用いて変換することで、計算量を低減でき、リアルタイムなX線強度分布の変換が可能になる。
【0015】
(6)また、本発明のX線分析装置は、前記占有率算出部が、並列処理で前記占有率を算出することを特徴としている。これにより、少ないパスでの計算が可能になり、計算効率を向上させることができる。また、その結果、リアルタイム性を向上できる。
【0016】
(7)また、本発明のX線分析装置は、前記第1の面をX線の検出器の実際の検出面とし、前記第1の面上の画素を前記実際の検出面の画素とし、前記第2の面をX線の検出器の理想の検出面とし、前記第2の面上の画素を前記理想の検出面の画素として、前記X線強度分布の変換によりデータの補正を行なうことを特徴としている。これにより、アライメントが十分でない場合でもX線検出データを補正できる。また、任意の場所に検出器を設定して測定し、補正したデータを利用することができる。
【0017】
(8)また、本発明のX線分析システムは、スキャン方向に並列に配置された複数の検出器と、(7)記載のX線分析装置とを備え、前記X線分析装置が、前記検出器により得られたデータに対して前記補正を行なうことを特徴としている。これにより、ゴニオ機構なしで一度にX線回折データを検出して補正したデータを利用することができる。
【0018】
(9)また、本発明のX線分析システムは、半球面上に配置された複数の検出器と、(7)記載のX線分析装置と、を備え、前記X線分析装置が、前記検出器により得られたデータに対して前記補正を行なうことを特徴としている。これにより、ゴニオ機構なしで一度にX線回折データを検出して補正したデータを利用することができる。
【0019】
(10)また、本発明のX線分析方法は、画素ごとに決まる離散データのX線強度分布を分布既知の第1の面から分布未知の第2の面へ変換するX線分析方法であって、第1の面上において画素を特定する格子点および前記格子点間の中間点をノードとして、第2の面へ投影するステップと、前記投影されたノードにより特定される投影画素を表わす多角形が前記第2の面上の各画素と重複する領域の面積を算出することで、前記投影画素が表わす多角形が前記第2の面上の各画素に対して占める占有率を算出するステップと、前記占有率に基づいて、前記第1の面上の画素内のX線強度を前記第2の面上の画素へ分配し、X線強度分布を変換するステップと、を含むことを特徴としている。
【0020】
これにより、投影画素の形状に近い多角形を用いて各占有率を計算でき、高精度にX線強度分布を変換できる。また、投影画素を表わす多角形の面積計算の計算量を低減できる。また、空間分解能を保存でき、測定した物理量を維持することで、強度値を可逆的に単射として変換できる。
【0021】
(11)また、本発明のX線分析プログラムは、画素ごとに決まる離散データのX線強度分布を分布既知の第1の面から分布未知の第2の面へ変換するX線分析プログラムであって、第1の面上において画素を特定する格子点および前記格子点間の中間点をノードとして、第2の面へ投影する処理と、前記投影されたノードにより特定される投影画素を表わす多角形が前記第2の面上の各画素と重複する領域の面積を算出することで、前記投影画素を表わす多角形が前記第2の面上の各画素に対して占める占有率を算出する処理と、前記占有率に基づいて、前記第1の面上の画素内のX線強度を前記第2の面上の画素へ分配し、X線強度分布を変換する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。
【0022】
これにより、投影画素の形状に近い多角形を用いて各占有率を計算でき、高精度にX線強度分布を変換できる。また、投影画素を表わす多角形の面積計算の計算量を低減できる。また、空間分解能を保存でき、測定した物理量を維持することで、強度値を可逆的に単射として変換できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、投影画素の形状に近い多角形を用いて各占有率を計算でき、高精度にX線強度分布を変換できる。また、投影画素を表わす多角形の面積計算の計算量を低減できる。また、空間分解能を保存でき、測定した物理量を維持することで、強度値を可逆的に単射として変換できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0026】
(X線分析装置の構成)
図1は、X線分析装置100の構成を示すブロック図である。X線分析装置100は、たとえば補正値のような与えられた変換情報に基づいて、画素ごとに決まる離散データのX線強度分布を分布既知の第1の面から分布未知の第2の面へ変換する。画素は、変換元または変換先の座標系の単位要素である。X線分析装置100には、PCを用いることができるが専用機を用いてもよい。第1の面は、変換元の面、第2の面は変換先の面を表す。
図1に示すように、X線分析装置100は、変換情報記憶部111、投影部112、占有率算出部113、テーブル作成部114、テーブル記憶部115、データ記憶部117、変換部118および出力部119を備えている。
【0027】
変換情報記憶部111は、第1の面および画素と第2の面および画素の関係を特定する変換情報を記憶する。たとえば、変換情報には、実際の検出面の配置を特定する傾きや回転を表す値、理想的な検出面の配置を特定する値が挙げられる。
【0028】
投影部112は、第1の面上で画素を特定する格子点および格子点間の中間点をノードとして第2の面へ投影する。第1または第2の面上の画素は、座標軸に平行な直線により区画されていることが好ましい。これにより、画素ごとに決まる離散データのX線強度分布を効率的に変換でき、計算量を低減するとともに精度を向上することができる。
【0029】
投影部112は、画素の格子点だけでなく格子点間にある画素の辺上の点も中間点として第2の面へ投影する。これにより、投影されたノードを用いて表した多角形を理想的な投影画素に近づけることができ、計算の精度が向上する。特に、中間点は、格子点間を等間隔に1/n(n=整数)に分ける点であることが好ましい。
【0030】
占有率算出部113は、投影されたノードにより特定される多角形が第2の面上の画素の各辺で切り分けられた形状の面積を算出することで、投影画素を表わす多角形が第2の面上の各画素に対して占める占有率を算出する。これにより、空間分解能を保存でき、測定した物理量を維持することで可逆的に単射として変換できる。
【0031】
テーブル作成部114は、占有率に基づいて、第1の面上の画素内のX線強度を第2の面上の画素へ分配するためのテーブルを作成する。テーブル作成は並列処理で行なうことが好ましく、これにより高速な処理が可能になる。このようにテーブルを用いることで、X線強度分布の変換が容易になる。一度、テーブルを作成しておけば、変換に要する計算量を低減でき、リアルタイムな変換が可能になる。テーブル記憶部115は、作成されたテーブルを記憶する。データ記憶部117は、測定データやその後の変換データを記憶する。
【0032】
変換部118は、占有率に基づいて、第1の面上の画素内のX線強度を第2の面上の画素へ分配し、X線強度分布を変換する。変換部118は、データ記憶部117から変換対象のデータを取得し、読み出したテーブルを用いて、X線強度を第1の面上の分布から第2の面上の分布へ変換する。変換された強度分布は、データ記憶部117に記憶させる。出力部119は、変換後のデータを表示画面等に出力する。
【0033】
なお、投影部112、占有率算出部113、テーブル作成部114および変換部118は、いずれも実数計算を行なう。これにより、丸め誤差が生じないため計算の精度を向上できる。また、内部データ表現を整数ではなく実数とすることで低線量領域においても丸め誤差の影響を受けない小モジュール間境界処理も可能となる。変換の処理は、並列処理により1パスで行なってもよい。その場合には、共有メモリにすべての計算情報を蓄積すればよい。
【0034】
(X線分析装置の動作)
上記のように構成されたX線分析装置100の動作を説明する。
図2は、X線分析装置100の動作を示すフローチャートである。まず、補正値等の変換情報の入力を受け付ける(ステップS1)。次に、第1の面の画素のノードを第2の面に投影する(ステップS2)。投影されたノードで形成された多角形を第2の面の各画素により切り分けた領域の多角形の面積を算出する(ステップS3)。
【0035】
このようにして、投影されたノードで形成された多角形の第2の面の各画素に対する占有率を算出する(ステップS4)。そして、得られた占有率から、第1の面から第2の面へのデータの変更を表すテーブルを作成し(ステップS5)、保存しておく。なお、占有率の計算方法(Overlap計算法)については、後述する。次に、第1の面上のX線強度分布のデータを準備し、保存されたテーブルを読み出し、このテーブルを用いてX線強度分布のデータを第2の面上のデータに変換して終了する(ステップS6)。上記の動作は、コンピュータにプログラムを実行させることで可能となる。
【0036】
(Overlap計算法の概要)
次に、占有率の算出方法としてOverlap計算法の概要を説明する。
図3は、第1の面と第2の面とを示す模式図である。
図3に示す例では、試料位置400に対してX線強度分布が既知の面500(第1の面)、とX線強度分布が未知の面600(第2の面)がある。
【0037】
図4は、画素の投影を示す模式図である。
図4に示すように、面500は、正方形の画素510で区画されており、面600は、正方形の画素610で区画されている。試料位置400に対して、画素510が面600に投影され、歪んだ四辺形として投影画素520が現れている。
【0038】
図5は、ノードの投影を示す模式図である。以下の説明では、変換元の各画素をQa〜Qiで表し、変換先の各画素をRA〜RIで表す。
図5の例では、面500上の画素Qeの格子点511および中間点512が面600上に投影されている。格子点511は、投影点521に投影され、中間点512は、投影点522に投影されている。このように、画素のノードを投影することができる。なお、
図5では、面500上の画素Qa〜Qiを簡略化してa〜iで表している。各a〜iは、後述の(iq,jq)に対応する。また、
図6では、面600上の画素RA〜RIを簡略化してA〜Iで表している。各A〜Iは、後述の(ir,jr)に対応する。
【0039】
図6は、投影画素の多角形を示す模式図である。上記の通り得られた投影点521、522により、面600上の投影画素520を近似した多角形530が得られる。多角形530の各辺は、面600上の画素610を区画する辺と交わっており、交点523の座標および交線631同士が交わる画素の格子点621の座標も算出することができる。
【0040】
図7は、投影画素の多角形が投影先の画素と重複する領域を示す模式図である。さらに多角形530に含まれる画素を特定しておく。上記のように求められた投影点521、522、交点523および格子点621の座標により特定される多角形の面積SA〜SI(後述のS(ir,jr))を計算することが可能になる。そして、投影画素の多角形が投影先の画素と重複する領域の多角形全体に対する面積の割合(占有率)を算出できる。
【0041】
なお、計算を単純化するには画素は正方画素であることが好ましいが、画素は、長方形、平行四辺形、六角形等に形成されていてもよい。また、画素値の分布を平面から曲面へ変換することも可能であるが、曲面においても少なくとも各画素は平面であると仮定して計算すれば面積を算出できる。
【0042】
(Overlap計算法の詳細)
次に、データ変換のアルゴリズムとして用いるOverlap計算法の詳細を、座標を用いて説明する。この計算法では、平面にて格子点およびn分点の変換点の実数座標を与え、画素が変換されて形成された多角形の頂点、内包される変換先画素の格子点、格子との交点をすべて計算する。そして、変換先の画素と重複する多角形の面積をそれぞれ求める。なお、与えられる実数座標はすべて異なる。
【0043】
まず、各画素を原画像の座標系から変換画像の座標系に座標変換する。たとえば、変換元の画素Q(iq,jq)の4つの頂点をそれぞれ以下のように定義する(iq、jqは自然数)。
Q0:(iq,jq)
Q1:(iq+1,jq)
Q2:(iq+1,jq+1)
Q3:(iq,jq+1)
【0044】
変換元の座標(x,y)における変換G(x,y)により、画素Q(iq,jq)が画素R(ir,jr)に変換されるとすると(ir、jrは自然数)、変換画像上で4つの頂点は以下のように表せる。
R0:(iq,jq)+G(iq,jq)
R1:(iq+1,jq)+G(iq+1,jq)
R2:(iq+1,jq+1)+G(iq+1,jq+1)
R3:(iq,jq+1)+G(iq,jq+1)
【0045】
さらに各辺Q0Q1、Q1Q2、Q2Q3、Q3Q0をそれぞれ分割する中間点も含めて変換する(サブピクセル化)。このように、サブピクセル化して計算することで高精度化が可能となり滑らかな画像変換が可能となる。一方で、計算量の増加は小さく抑えることができる。なお、分割は等分が好ましい。また、分割数は、計算量との兼ね合いで決めることができ、回折角の低角側では細かく、高角側では粗くすることが可能である。
【0046】
次に、変換先の座標系において、R0の各座標数値の小数点を切り捨てた最小座標Rmin(irmin,jrmin)およびR2の各座標数値の小数点を切り上げた最大座標Rmax(irmax,jrmax)を求める。各座標と変換先の頂点とは以下の関係を有する。
Rmin=floor(R0)
Rmax=ceil(R2)
1画素の変換先の面積の計算については、上記の2つの座標Rmin,Rmaxによって決まる領域内に限定することができる。
【0047】
次に、変換された画素を表わす多角形のノードおよび交点を抽出する。サブピクセル分割数を
4として2分点(中点)のみを変換する場合には、辺Q0Q1上の点QsをQs:(iq+0.5,jq)とすると、変換画像上では、Rs:(iq+0.5,jq)+G(iq+0.5,jq)と表せる。線分R0Rsと変換画像上の座標格子との交点をRcと表す。また、投影画素を表わす多角形の内部にある格子点をRIと表す。
【0048】
交点は以下のようにして求める。まず、変換された画素を表わす多角形において時計回りに順序付けされた頂点Ri(i=0,・・・,n−1、R0=Rn)から各辺が得られる。そして、Rmin、Rmaxを対角の頂点とし変換先の画素の集合により形成される領域内で画素R(ir,jr)の各辺が上記のn角形の各辺と交差するか否かを判定する。このとき、以下の関係を満たす座標(ir,jr)を中心に(ir,jr)と(ir±1,jr±1)とを結ぶ線分がn多角形の各辺Siと交点を持つかどうかを判定する。
irmin+1≦ir≦irmax−1
jrmin+1=≦jr≦jrmax−1。
【0049】
そして、交点を持つ場合には、交点を持つ線分(交線)にどの領域に属しているかという情報を付与する。交点を持たない場合にはその線分を省く。なお、省かれた線分は、たとえばn多角形に内包されている線分である。
【0050】
次に、変換された画素を表わす多角形を上記の交線および画素の辺で分割し、上記の多角形に囲われた領域が、変換画像上の画素とそれぞれ重なる領域を抽出(Clipping)する。分割により形成された多角形が、変換された画素を表わす多角形が変換先の画素に重複する領域となる。そして、分割により形成された多角形の頂点順のソートを行なう。
【0051】
次に、変換された画素を表わす多角形が変換先の画素に重複する閉領域の面積Sq(ir,jr)を計算する。重複する閉領域(m角形)の面積Sqは、m角形の一方回りの順に頂点を(xk,yk)(k=1〜mの自然数)としたとき以下の公式で求められる。
【数1】
このような計算方法により、従来法と比較して、モンテカルロ計算よりも計算量が少なく、既製の三角形分割よりも高精度な結果を得ることができる。
【0052】
次に、得られた重なり合う閉領域の面積に応じて、原画像上の画素Q(iq,jq)の画素値I(iq,jq)の変換先画素R(ir,jr)の画素値I(ir,jr)への分配(Re−distribution)を算出する。算出は、次の式により行なうことができる。
【数2】
【0053】
これにより、周りから補間処理(interpolation)することなく画素値を変換でき、当初の情報量を減少させずに原画像がもっている空間分解能を適切に保存できる。そして、局所的にも大域的にも画素値が正確に保存される。この計算をすべてのQ(iq,jq)について行なうことで変換G(x,y)による変換画像が得られる。デジカメの写真処理技術等とは異なり、物理量の測定の場面では、画素値の正確な保存に対する要請がある。
【0054】
(テーブルを用いたリアルタイム変換)
画像変換の処理は、テーブルを準備して効率化することができる。
図8は、一連の処理を示すデータフロー図である。まず、予め用意された歪み計測マスクデータと試験的な測定により得られた座標変換情報を用いて、歪み・座標変換計算303を実行する。そして、計算により得られた座標変換の情報に基づいてOverlap計算305を実行し、得られた画像変換テーブル231を保存する。なお、マスクデータとは、板状のマスクで検出面を覆って測定したときのマスクのグリッドの投影を検出したデータを指す。
【0055】
一方で、散乱X線を測定し、座標と座標に対する強度のデータを取得する。そして、保存されている画像変換テーブルを読み出し、これを用いて取得されたデータに対して画像変換処理230を実行する。これにより、測定時にリアルタイムで2次元回折像を補正したり、2次元回折像を1次元データに変換したりすることができる。さらに得られたデータを、別の画像変換テーブルでさらに異なる座標系に変換することも可能である。テーブルを予め用意することで、並列処理が可能になり精度の高い計算を高速に実行できる。本発明では、ノードを用いるというロジック上の特徴だけでなく並列処理を
用いたアルゴリズム上の特徴によっても処理を高速化することができる。
【0056】
一回テーブルを作ってしまえば、そこを通して変換するのは1パスであり計算量を低減できる。なお、測定のコンフィグレーションを変えたときには、コンフィグレーションに合わせてテーブルを変えればよい。積分強度を保存した離散データ間の座標変換(または幾何補正)を高速に計算することによって、複数のモジュールによって構成されるX線検出器のデータ合成や平面座標、円筒座標、球座標の座標間の変換や平面データの球面への投影などの計算を高精度かつ高速に行なうことができる。
【0057】
(X線検出の補正)
図9は、X線分析システム50を示すブロック図である。
図9に示すように、X線分析システム50は、検出器70、検出器制御装置80、計測装置90およびデータ解析装置100を備えている。
【0058】
検出器70は、たとえば半導体検出器であり、外部からのトリガ信号により機能し、X線強度を検出する。検出器制御装置80は、検出器70を制御する装置である。計測装置90は、ユーザにより操作され、計測のための外部制御機器を制御する。データ解析装置100は、実質的にはX線分析装置100を構成する。各装置は、特別な計算機を用意しなくても、通常のPCで十分であるが、専用機を用いればさらに処理速度を上げることもできる。
【0059】
X線分析システム50で検出データを適正に補正するためには、検出器70が理想的な位置からどの程度傾いているか等の補正値(変換情報の一種)を予め把握しておく必要がある。このような補正値は、装置の設計を規定のものとし、出荷時に決めた値を用いることとしてもよいし、使用者が調整したコンフィグレーションの補正値を用いてもよい。
【0060】
補正値には、検出器70の試料からの距離、試料に対する傾きと検出器周りの回転を表す数値が挙げられる。なお、レンズの場合には、板状のマスクの細かいグリッド(穴)の投影のレンズの有無による変化でレンズの収差等を把握することができる。また、正常な位置であればX線はコーン状に散乱されるため、X線回折像の投影が真円から楕円に歪んでいる程度で傾斜を測定できる。なお、ある座標系のデータを他の座標系に移すことをデータの変換といい、何らかの物理情報について理想値からのずれを取り除く変換を補正という。
【0061】
上記の例では、測定前のアライメントを前提としているが、アライメント無しでX線を測定することもできる。測定時の誤差や取り付けによる精度誤差という人間では調整できない部分を補正値で調整することを前提にし、使用者がラフにコンフィグレーションを設定した状態でも、補正値を把握していれば適正な強度補正を行なうことができる。
【0062】
図10は、検出面の補正を示す模式図である。面500(第1の面)を検出器70の検出面とし、面600(第2の面)をX線の検出器の理想の検出面とする。そして、上記のX線強度分布の変換によりデータの補正を行なう。これにより、アライメントが十分でない場合でもX線検出データを補正できる。また、任意の場所に検出器を設定して測定し、補正したデータを利用することができる。
【0063】
(モジュール間の位置補正)
上記の補正処理は、モジュール間の位置補正にも用いることができる。
図11は、モジュールにより得られたデータの補正を示す図である。検出器が、複数のモジュールにより形成されている場合、各モジュールは所定の配置となるように設置されているが、実際のモジュール550は少しずつ位置の誤差を有する。たとえば、
図11の例では、モジュール550の長手方向と短手方向がそれぞれが一致すべきベクトルΔxijとΔyijから回転している。この回転角度のように、理想的なモジュール650の位置に対する実際のモジュール550の位置を予め把握しておき、上記の測定データの変換処理により実際の位置で検出されたデータを理想位置のものに補正することが可能である。
【0064】
また、X線の散乱データからモジュールを再配置することもできる。
図12は、モジュール550(α〜δ)の再配置を示す模式図である。既知のX線の光学系に対して得られた測定データから理想的なX線強度分布になる配置とのずれを把握し、物理的配置に対してモジュールの再配置を行なうことができる。このように多モジュール構成された検出器の効率的かつ高精度な再配置が可能である。
【0065】
(平板から円筒面、球面、またその逆)
上記のように画素値の変換処理は、測定データの補正に応用できるが、さらに補正により得られたデータを必要に応じて異なる面間で変換することができる。
図13は、平面500上のデータの円筒面600上への変換を示す図である。さらに円筒面上のデータを球面上のデータに変換することも可能である。なお、曲面上のデータの変換を扱う場合であっても、各画素は平面であると近似して計算すれば、上記のOverlap計算法を適用できる。
【0066】
(2次元データから1次元データ)
上記のように異なる平面間のデータの変換だけでなく、2次元データを1次元データに変換することもできる。
図14は、2次元データの1次元データへの変換を示す図である。
図14に示す2次元データを円環平均処理によって1次元化する場合のように観測座標系が入射・散乱X線の座標系に対して傾いている場合でも、空間分解能を損なうことなく変換処理を行なうことが可能である。この場合には、2次元上の画素560の画素値を所定の円環領域660内の画素値に変換することで1次元化できる。
図15は、変換された1次元データを示す図である。
【0067】
(複数の検出器の配置例)
複数の検出器をスキャン方向に並列に配置した構成でデバイリング等の測定を行ない、検出器により得られたデータに対して補正を行なってもよい。これにより、ゴニオ機構なしで一度にX線回折データを検出して補正したデータを利用することができる。このように測定光学系として、フリー配置で測定し、データを補正して用いることができる。なお、複数の検出器をスキャニング方向に直交する方向に並べて測定を行なうこともできる。また、複数の検出器を半球面上に並べて測定してもよい。