特許第5798527号(P5798527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798527
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20151001BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20151001BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20151001BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   C08L9/06
   C08K5/00
   C08K3/00
   B60C1/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-164947(P2012-164947)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2014-24914(P2014-24914A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2013年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 俊生
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−174588(JP,A)
【文献】 特開2008−174586(JP,A)
【文献】 特開2008−174639(JP,A)
【文献】 特開2002−309053(JP,A)
【文献】 特開2006−249406(JP,A)
【文献】 特表2004−505149(JP,A)
【文献】 特開昭62−129324(JP,A)
【文献】 特開昭61−143454(JP,A)
【文献】 特開2005−187599(JP,A)
【文献】 特開2011−052232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンゴム及びブルーイング剤を含み、
ゴム成分100質量部に対する前記ブルーイング剤の含有量が0.2〜50質量部であるサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ブルーイング剤が、顔料又は染料である請求項1記載のサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項3】
黄変色抑制用ゴム組成物として用いられる請求項1又は2記載のサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載のサイドウォール用ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのサイドウォールにおけるクラックの発生を防止するために、サイドウォール用ゴム組成物には老化防止剤が配合されている。しかし、経年により、サイドウォールゴム内部の老化防止剤がサイドウォール表面に移行し、表面に移行した老化防止剤が酸化され、サイドウォールが黄変色してしまう。また、タイヤを構成するゴムは二重結合を多く含むため耐候性が悪く、経年により黄変する場合があった。一方、タイヤは、カーボンブラックが配合されているため、黒色を呈しており、このような、サイドウォールの黄変色は外観上好ましくなく、タイヤの商品価値を維持するため、その対応が必要となる。
【0003】
特許文献1では、特定の分子量のポリエチレングリコールを配合することにより、老化防止剤のサイドウォール表面への移行を抑制する方法が開示されているが、他の方法の提供も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−179067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決し、タイヤの変色を抑制できるタイヤ用ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ブルーイング剤を含むタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0007】
上記ブルーイング剤が、顔料又は染料であることが好ましい。
【0008】
上記タイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対する上記ブルーイング剤の含有量が0.2〜50質量部であることが好ましい。
【0009】
上記タイヤ用ゴム組成物は、サイドウォール用ゴム組成物として用いられることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、上記タイヤ用ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブルーイング剤を含むタイヤ用ゴム組成物であるので、経年によるタイヤの変色を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ブルーイング剤を含む。
【0013】
上述のように、タイヤは、カーボンブラックが配合されているため、黒色を呈しており、経年によりゴムの表面が部分的に黄変すれば非常に目立ち、外観上好ましくない。本発明では、ブルーイング剤を予めゴム組成物に配合しておくことにより、補色の効果によりゴムの変色を目立たなくすることができ、経年によるタイヤの変色を抑制できる。更に、ブルーイング剤を配合した場合であっても、サイドウォールに要求される性能の低下は見られず、良好な耐屈曲亀裂成長性が得られた。
【0014】
タイヤ用ゴム組成物に使用できるゴム成分としては、天然ゴム(NR)、ジエン系合成ゴム(イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)など)が挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、SBRが好ましい。
【0015】
本発明のゴム組成物は、ブルーイング剤を含む。本発明において、ブルーイング剤とは、黄色味を打ち消すことができるものであれば特に限定されず、例えば、橙色から黄色の光線を吸収することにより青色から紫色を呈する着色剤をいう。
【0016】
ブルーイング剤としては、例えば、群青(ウルトラマリン青)、紺青(プロシア青(フェロシアン化鉄カリ))、コバルトブルーなどの無機系の染料や顔料;フタロシアニン系化合物、モノアゾ系化合物、ジアゾ系化合物、トリアリルメタン系化合物、縮合多環系化合物(例えば、インジゴ系化合物、アントラキノン系化合物)などの有機系の染料や顔料などが挙げられる。なかでも、群青が好ましい。
【0017】
ブルーイング剤の具体例としては、一般名:Solvent Violet 13[CA.No(カラーインデックスNo)60725;バイエル社製「マクロレックスバイオレットB」、三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業(株)製「スミプラストバイオレットB」、有本化学工業(株)製「Plast Violet 8840」、紀和化学(株)製「KP Plast Violet 2R」、東京化成工業(株)製「キニザリンブルー」、いずれも商標名]、一般名:Solvent Violet 31[CA.No 68210;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンバイオレットD」]、一般名:Solvent Violet 33[CA.No 60725;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーJ」]、一般名:Solvent Blue 94[CA.No 61500;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーN」]、一般名:Solvent Violet 36[CA.No 68210;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレット3R」]、一般名:Solvent Blue 97[商標名 バイエル社製「マクロレックスブルーRR」]、および一般名:Solvent Blue 45[CA.No 61110;商標名 サンド社製「ポリシンスレンブルーRLS」]が代表例として挙げられる。
【0018】
タイヤが黄変した場合、その変色部の色は、L表色系で表したとき、30<b<60、−20<a<20を満たす場合が多い。従って、ブルーイング剤としては、これらの色を補色可能な色を有することが好ましく、具体的には、ブルーイング剤の色をL表色系で表したとき、bについては、−60<b<5を満たすことが好ましく、−60<b<3.5を満たすことがより好ましく、−60<b<3を満たすことが更に好ましく、−60<b<−30を満たすことが特に好ましい。また、aについては、−60<a<5を満たすことが好ましく、−60<a<−30を満たすことがより好ましい。a又はbが上記範囲内であると、補色の効果が高く、より好適に経年によるタイヤの変色を抑制できる。また、a、bが共に上記範囲内であると、更に補色の効果が高くなり、更に好適に経年によるタイヤの変色を抑制できる。
また、a+bが5より小さいことが好ましく、より好ましくは4以下、更に好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下、最も好ましくは2.5以下である。
なお、L表色系は、物体色を表すのに用いられる方法で、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本ではJIS Z−8729に規定がある。Lは明度を表し、aとbとで色相と彩度を表すものである。Lが大きいほど明るいことを示す。a、bは色の方向を示しており、aは赤方向、−aは緑方向、bは黄方向、−bは青方向を示す。
【0019】
ブルーイング剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上である。0.2質量部未満であると、補色の効果が低く、経年によるタイヤの変色を充分に抑制できない傾向がある。該含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは25質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。50質量部を超えると、サイドウォールゴムとして要求される性能(耐屈曲亀裂成長性、空気遮断性等)が低下するおそれがある。
【0020】
上述のように、ゴム組成物に含まれる老化防止剤は、タイヤ黄変の一因となる。本発明のゴム組成物に使用できる老化防止剤としては、耐熱性老化防止剤、耐候性老化防止剤等としてゴム組成物に通常使用されるものであれば特に限定されないが、例えば、ナフチルアミン系(フェニル−α−ナフチルアミン等)、ジフェニルアミン系(オクチル化ジフェニルアミン、4,4´−ビス(α,α´−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等)、フェニレンジアミン系(N−イソプロピル−N´−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N´−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N´−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン等)等のアミン系老化防止剤;2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;モノフェノール系(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等)、ビス、トリス、ポリフェノール系(テトラキス−[メチレン−3−(3´,5´−ジ−t−ブチル−4´−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等)等のフェノール系老化防止剤等が挙げられる。なかでも、アミン系老化防止剤(好ましくはフェニレンジアミン系)が好ましく、N−(1,3−ジメチルブチル)−N´−フェニル−p−フェニレンジアミンがより好ましい。
【0021】
老化防止剤の含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜3質量部、より好ましくは0.5〜2質量部、更に好ましくは0.5〜1.5質量部である。
【0022】
タイヤ用ゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、補強用充填剤、シランカップリング剤、オイル、ステアリン酸、酸化亜鉛、ワックス、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合できる。
【0023】
補強用充填剤として、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、クレー、マイカ等を使用してもよい。補強用充填剤としては、カーボンブラック、シリカが好ましく、カーボンブラックがより好ましい。補強用充填剤の合計含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10〜150質量部、より好ましくは30〜90質量部である。
【0024】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0025】
本発明のゴム組成物は、黄変の発生が問題となりやすいサイドウォール用ゴム組成物に好適に使用できる。
【0026】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でサイドウォール等の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【0027】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられる。
【実施例】
【0028】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0029】
以下に、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
SBR:住友化学(株)製のスミトモSE2148(S−SBR)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ISAF、NSA:114m/g)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
老化防止剤:フレキシス社製サントフレックス13(N−(1,3−ジメチルブチル)−N´−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
粉末硫黄:鶴見化学工業(株)製の5%オイル処理粉末硫黄(オイル分5質量%含む可溶性硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
ブルーイング剤1:Nubiola社製のNBK−1035 ブルー(群青(顔料))
ブルーイング剤2:中央合成化学社製のOil Black SF(有機系染料)
ブルーイング剤3:中央合成化学社製のOil Black 109(有機系染料)
ブルーイング剤4:中央合成化学社製のSUDAN Black 141(有機系染料)
ブルーイング剤5:中央合成化学社製のNEO SUPER Black C−832(有機系染料)
ブルーイング剤6:中央合成化学社製のOIL BLUE BA(アントラキノン系染料)
ブルーイング剤7:中央合成化学社製のOIL BLUE 8BN(有機系染料)
【0030】
(実施例及び比較例)
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。次に、得られた未加硫ゴム組成物を170℃で15分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物(加硫ゴムシート)を得た。
【0031】
得られた加硫ゴム組成物を下記により評価した。結果を表1に示す。
【0032】
(a、bの測定)
得られた加硫ゴム組成物について、JIS Z−8729に準拠して、色彩色差計CR−400(コニカミノルタ社製)を用いて、a、bを測定した。
【0033】
(変色促進試験)
得られた加硫ゴム組成物について、キセノンアーク(スガ試験機社製)を使用して、ブラックパネル温度63℃、500時間の条件で、変色の促進試験を行い、各加硫ゴム組成物の黄変度合いを目視で観察して評価した。
○:黄変なし ×:黄変あり
【0034】
(耐屈曲亀裂成長試験)
得られた加硫ゴム組成物を用い、JIS K−6260「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−デマッチャ屈曲亀裂試験方法」に基づいてサンプルを作製し、屈曲亀裂成長試験を行い、70%伸張を100万回繰り返してゴムシートを屈曲させたのち、発生した亀裂の長さを測定した。比較例1の結果と同等の場合に、良好(表中では○と記載)と判断した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から、ブルーイング剤を配合した実施例では、経年によるタイヤの変色を抑制できた。