【文献】
塚田啓二,生体内電流の無侵襲計測,日本AEM学会誌,日本,日本AEM学会,2005年 6月,vol.13, No.2,p119-124
【文献】
横田沙会子、外5名,アレイ状トンネル磁気抵抗素子の磁気抵抗およびノイズ特性,応用物理学会学術講演会講演予稿集,日本,応用物理学会,2010年 8月30日,2010年秋季第71回応用物理学会学術講演会,14p-J-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁化の向きが固定された固定磁性層、外部からの磁束の影響を受けて磁化の向きが変化するフリー磁性層、及び、前記固定磁性層及び前記フリー磁性層との間に配置された絶縁層を有し、前記固定磁性層の磁化の向きと前記フリー磁性層の磁化の向きとの角度差に従ってトンネル効果により前記絶縁層の抵抗を変化させるトンネル磁気抵抗素子を含む3軸磁気センサモジュールと、前記トンネル磁気抵抗素子が生体に対向するように前記磁気センサを保持する保持手段とを備え、前記3軸磁気センサモジュールは、生体から発生する磁気により変化する前記絶縁層の抵抗値に応じた出力信号を出力する生体磁気計測装置において、
(1)前記3軸磁気センサモジュールは、前記固定磁性層の磁化の向きが第1の方向に固定された第1のトンネル磁気抵抗素子アレイと、前記固定磁性層の磁化の向きが前記1の方向と交差する第2の方向に固定された第2のトンネル磁気抵抗素子アレイと、前記固定磁性層の磁化の向きが前記第1の方向及び前記第2の方向に直交する第3の方向に固定された第3のトンネル磁気抵抗素子アレイとを含み、
(2)前記第1〜第3のトンネル磁気抵抗素子アレイはそれぞれ、複数の前記トンネル磁気抵抗素子が、前記出力信号を出力するための共通の出力2端子間で格子状に接続されてなり、
(3)前記第1のトンネル磁気抵抗素子アレイに含まれる複数の前記トンネル磁気抵抗素子は、それぞれの前記固定磁性層と前記絶縁層との接合面及び/又は前記フリー磁性層と前記絶縁層との接合面が、互いに共通の平面に配置され、
(4)前記第2のトンネル磁気抵抗素子アレイに含まれる複数の前記トンネル磁気抵抗素子は、それぞれの前記固定磁性層と前記絶縁層との接合面及び/又は前記フリー磁性層と前記絶縁層との接合面が、互いに共通の平面に配置され、
(5)前記第3のトンネル磁気抵抗素子アレイに含まれる複数の前記トンネル磁気抵抗素子は、それぞれの前記固定磁性層と前記絶縁層との接合面及び/又は前記フリー磁性層と前記絶縁層との接合面が、互いに共通の平面に配置され、
(6)前記保持手段は、可撓性材料からなる装着支持体で生体表面を被覆するように構成され、当該装着支持体の生体被覆面上に複数の前記3軸磁気センサモジュールが分布配置されるとともに、第1のトンネル磁気抵抗素子アレイの前記共通の平面が前記生体被覆面に垂直な方向とされていることで、前記生体被覆面上のどの位置に配置された前記3軸磁気センサモジュールにおいても生体表面に対して垂直な方向の磁気及び同方向に直交し互いに直交する2軸方向の磁気を検出可能とされた生体磁気計測装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、SQUIDセンサを用いた生体磁気計測装置にあっては、次のような問題がある。
SQUIDセンサを低温に保つための冷媒が蒸発等により減少するので冷媒の管理が煩雑であり、断熱された冷媒槽を構成する必要がある。
計測時に生体に近接させるべきSQUIDセンサを内蔵したセンサユニット、すなわち、デュワが冷媒を貯留しているため大型で重く、これを支持する機械構成が必要となるし、往々にして被検体を安置するベッドや、被検体とSQUIDセンサを内蔵したデュワとの相対位置を制御する位置制御装置が必要となる。
被検者は年齢や性別等によって体の大きさや、体型が様々である。SQUIDセンサの配列を被検者の被検部に合わせて柔軟に対応させるようなデュワを構成することが難しく、被検者によらずにその被検部に対して一定の距離にSQUIDセンサを配置できずに、正確な計測を実行できなかったり、計測不可となったりする。
また、SQUIDセンサは大きく、頭皮などの生体表面に近接させて多数のセンサを高密度に配置することが難しい。このため、生体表面からの垂直方向の発生磁気を計測することしか実現できておらず、垂直方向に加えて生体表面の面内方向の磁気を計測することは難しい。
SQUIDセンサによる磁気計測における生体表面の垂直方向など、生体から発せられる磁気の1軸方向についての磁力のみならず、生体表面の垂直方向である1軸及び生体表面の面内方向の互いに直交する2軸などの3軸方向の磁力を計測可能とすることで、より多くの磁気情報を得て診断に役立たせる可能性が開ける。
とはいえ、磁気記録読取装置などに用いられる冷却機構が不要な磁気センサでは、SQUIDセンサほどの感度が得られず、そもそも脳磁気などの微弱な生体磁気を計測することはできない。
【0006】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、常温で使用可能な磁気センサにより高精度に生体磁気を計測する生体磁気計測装置、
及び生体磁気計測システ
ムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、磁化の向きが固定された固定磁性層、外部からの磁束の影響を受けて磁化の向きが変化するフリー磁性層、及び、前記固定磁性層及び前記フリー磁性層との間に配置された絶縁層を有し、前記固定磁性層の磁化の向きと前記フリー磁性層の磁化の向きとの角度差に従ってトンネル効果により前記絶縁層の抵抗を変化させるトンネル磁気抵抗素子を含む
3軸磁気センサ
モジュールと、前記トンネル磁気抵抗素子が生体に対向するように前記磁気センサを保持する保持手段とを備え、前記
3軸磁気センサ
モジュールは、生体から発生する磁気により変化する前記絶縁層の抵抗値に応じた出力信号を出力する生体磁気計測装置
において、
(1)前記3軸磁気センサモジュールは、前記固定磁性層の磁化の向きが第1の方向に固定された第1のトンネル磁気抵抗素子アレイと、前記固定磁性層の磁化の向きが前記1の方向と交差する第2の方向に固定された第2のトンネル磁気抵抗素子アレイと、前記固定磁性層の磁化の向きが前記第1の方向及び前記第2の方向に直交する第3の方向に固定された第3のトンネル磁気抵抗素子アレイとを含み、
(2)前記第1〜第3のトンネル磁気抵抗素子アレイはそれぞれ、複数の前記トンネル磁気抵抗素子が、前記出力信号を出力するための共通の出力2端子間で格子状に接続されてなり、
(3)前記第1のトンネル磁気抵抗素子アレイに含まれる複数の前記トンネル磁気抵抗素子は、それぞれの前記固定磁性層と前記絶縁層との接合面及び/又は前記フリー磁性層と前記絶縁層との接合面が、互いに共通の平面に配置され、
(4)前記第2のトンネル磁気抵抗素子アレイに含まれる複数の前記トンネル磁気抵抗素子は、それぞれの前記固定磁性層と前記絶縁層との接合面及び/又は前記フリー磁性層と前記絶縁層との接合面が、互いに共通の平面に配置され、
(5)前記第3のトンネル磁気抵抗素子アレイに含まれる複数の前記トンネル磁気抵抗素子は、それぞれの前記固定磁性層と前記絶縁層との接合面及び/又は前記フリー磁性層と前記絶縁層との接合面が、互いに共通の平面に配置され、
(6)前記保持手段は、可撓性材料からなる装着支持体で生体表面を被覆するように構成され、当該装着支持体の生体被覆面上に複数の前記3軸磁気センサモジュールが分布配置されるとともに、第1のトンネル磁気抵抗素子アレイの前記共通の平面が前記生体被覆面に垂直な方向とされていることで、前記生体被覆面上のどの位置に配置された前記3軸磁気センサモジュールにおいても生体表面に対して垂直な方向の磁気及び同方向に直交し互いに直交する2軸方向の磁気を検出可能とされた生体磁気計測装置である。
【0008】
請求項2記載の発明は、
前記第1のトンネル磁気抵抗素子アレイが構成されるチップにおいて基板上に、下部電極を共有する2行2列の4つのトンネル磁気抵抗素子が縦横に繰り返し形成され、これにより下部電極を共有しない2行2列の4つのトンネル磁気抵抗素子が配列し、当該下部電極を共有しない2行2列の4つのトンネル磁気抵抗素子が上部電極を共有し、これにより当該トンネル磁気抵抗アレイの前記共通の出力2端子間で複数の前記トンネル磁気抵抗素子が格子状に接続され、
前記第2のトンネル磁気抵抗素子アレイが構成されるチップにおいて基板上に、下部電極を共有する2行2列の4つのトンネル磁気抵抗素子が縦横に繰り返し形成され、これにより下部電極を共有しない2行2列の4つのトンネル磁気抵抗素子が配列し、当該下部電極を共有しない2行2列の4つのトンネル磁気抵抗素子が上部電極を共有し、これにより当該トンネル磁気抵抗アレイの前記共通の出力2端子間で複数の前記トンネル磁気抵抗素子が格子状に接続され、
前記第3のトンネル磁気抵抗素子アレイが構成されるチップにおいて基板上に、下部電極を共有する2行2列の4つのトンネル磁気抵抗素子が縦横に繰り返し形成され、これにより下部電極を共有しない2行2列の4つのトンネル磁気抵抗素子が配列し、当該下部電極を共有しない2行2列の4つのトンネル磁気抵抗素子が上部電極を共有し、これにより当該トンネル磁気抵抗アレイの前記共通の出力2端子間で複数の前記トンネル磁気抵抗素子が格子状に接続された請求項1に記載の生体磁気計測装置ある。
【0009】
請求項3記載の発明は、
第1〜第3のトンネル磁気抵抗素子アレイは、互いに別チップに構成されて、同一配線基板に搭載された請求項1又は請求項2に記載の生体磁気計測装置である。
【0013】
請求項
4記載の発明は、複数の前記
3軸磁気センサ
モジュールを備えたセンサ集合体
を構成するセンサプラットフォームボードを有する請求項1〜請求項
3のいずれかに記載の生体磁気計測装置である。
【0014】
請求項
5記載の発明は、複数の前記
センサプラットフォームボードを有する請求項
4に記載の生体磁気計測装置である。
【0015】
請求項6記載の発明は、前記絶縁層の層厚は、1nm〜10nmの範囲である請求項1〜請求項5のいずれかに記載の生体磁気計測装置である。
請求項
7記載の発明は、請求項1〜
6のいずれかに記載の生体磁気計測装置と、前記出力信号に基づいて脳磁図を演算する演算装置とを備える生体磁気計測システムである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、生体磁気の計測に適用するトンネル磁気抵抗素子(TMR(Tunnel Magneto Resistive)素子)は、高感度な素子を構成することが可能であるため、生体磁場を精密に測定することができる。しかも、常温で使用可能な磁気センサであるので、計測時に生体に近接させるべきセンサユニットにはトンネル磁気抵抗素子を冷却するための冷媒が不要となり、センサユニットをより軽薄に構成できるという効果がある。
センサユニットをより軽薄に構成できるので、人手で扱って被検者の計測対象部位に覆うように当てたり、被検者に装着させたりできる簡素で柔軟な形態に構成できるという効果がある。また、高感度で冷却機構も不要であるためサイズが大きくならず、生体に配置するに際して制約の小さい磁気センサを構成することができる。
従って、磁気センサを生体に近接して配置することが容易であり、生体磁場をより精密に測定することができる。また、複数の磁気センサを用いてもそれらを密に配置することができるため、生体磁場をさらに精密に測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0025】
本実施形態は、人の頭蓋から発せられる磁気を計測して脳磁図を得る生体磁気計測についてのものである。
図1に示すように本実施形態の生体磁気計測システム100は、生体磁気計測装置1及び演算装置2によって構成される。生体磁気計測装置1は、インターフェース3と、センサユニット4とにより構成される。
演算装置2とセンサユニット4とがインターフェース3を介して接続される。センサユニット4とインターフェース3との間はケーブル5で接続されており、ケーブル5の届く範囲でセンサユニット4を自由に移動可能であり、向きを自由に変えることができる。51は電源線、52は信号線(バス)である。
センサユニット4は、複数のセンサプラットフォームボード41,41,・・・を有しており、それぞれに電源線51によって電源が供給されている。演算装置2からはセンサプラットフォームボード41へコマンド信号が、また、センサプラットフォームボード41からは演算装置2へ出力信号が、それぞれ信号線52を通じて伝送される。センサプラットフォームボード41の数をn(nは2以上の整数)とする。
演算装置2には、演算結果を表示するなどの目的で使用される表示装置21が接続されている。
【0026】
図2に示すようにインターフェース3は、PCI・バス・コントローラ31、コマンド変換・バッファ・コントローラ32、SRAM33、シリアルインターフェースドライバ34により構成される。ドライバ34、コントローラ31、及び、コントローラ32によって、各ボード41内に設けられた後述するコントローラやバスの制御を行い、必要に応じて信号をSRAM33にバッファすることで、各ボード41からシリアルに出力信号が送られるように制御を行う。
【0027】
図3に示すようにセンサプラットフォームボード41には、複数のTMRアレイモジュール6,6,・・・が電気的に接続されるとともに機械的に固定されている。センサプラットフォームボード41が複数の磁気センサを備えたセンサ集合体を構成する。
図3(a)に示すようにセンサプラットフォームボード41は、コントローラ42と、RAM43と、増幅・変換回路44,44,・・・とを備える。増幅・変換回路44はTMRアレイモジュール6ごとに設けられ、TMRアレイモジュール6と一対一で接続されている。増幅・変換回路44は、TMRアレイモジュール6からの出力信号を増幅する増幅器44aと、増幅器44aの出力をデジタル信号に変換してコントローラ42に入力するA/D変換器44bとを有する。RAM43は、コントローラ42に入力された情報やコントローラ42が演算した情報を記憶する記憶装置である。コントローラ42は、演算装置2からのコマンドを受信して、TMRアレイモジュール6,6,・・・を稼動し、その出力信号を所定のフォーマットで信号線52を介して演算装置2に向けて送出する。
【0028】
図4に示すようにTMRアレイモジュール6は、裏面に接続端子61a〜61hを有した配線基板61と、配線基板61の表面上に構成されたTMRアレイモジュール部62とからなる。そして、
図3(b)に示すようにセンサプラットフォームボード41に配線基板61の裏面を合わせた状態で搭載される。センサプラットフォームボード41上にTMRアレイモジュール6,6,・・・が縦横に並べて配列される。
【0029】
図4(a)に示すようにTMRアレイモジュール6には、TMRアレイチップ63X,63Y,63Zが搭載されている。
図4(a)に直交3軸X−Y−Z座標を示した。TMRアレイチップ63Xは、TMRアレイモジュール6の配線基板61の表面に平行な面内におけるX軸方向の磁力を計測するセンサモジュールである。TMRアレイチップ63Yは、TMRアレイモジュール6の配線基板61の表面に平行な面内におけるX軸方向と垂直なY軸方向の磁力を計測するセンサモジュールである。TMRアレイチップ63Zは、TMRアレイモジュール6の配線基板61の表面に垂直なZ軸方向の磁力を計測するセンサモジュールである。
【0030】
TMRアレイチップ63X,63Y,63Z内はそれぞれ
図5に示すように、上部電極65aと、下部電極65bとでTMR素子67を挟み込んだ基本構成がアレイ状に多数並べられた構成をとる。
図6に模式的に示すように、4つのTMR素子67に対して共通の上部電極65aが配置される。そして、4つのTMR素子67のそれぞれが、さらに周囲の3つのTMR素子67とともにグループ化され、各グループの4つのTMR素子67に対して共通の下部電極65bが配置される。
図7に示すように、素子の断面方向においては、隣り合う一対のTMR素子67の一方の面に下部電極65bが対向し、上記一対のTMR素子67のうち一方と他の隣り合うTMR素子67の他方の面に上部電極65aが対向している。このような構造の繰り返しによって多数のTMR素子67が上部電極65a及び下部電極65bによって互いに電気的に接続されている。なお、
図6においては、理解容易のために、上部電極65aは一つのみを図示し、他の上部電極65aは省略してある。
【0031】
TMR素子67を抵抗としてTMRアレイチップ63の等価回路を記載すると、その回路図は
図8(a)に示す通りとなる。この回路が単一の出力信号を出力する磁気センサを構成する。
図5及び
図8に示すようにTMR素子67,67,・・・は、格子配列されてTMRアレイ68を構成する。
図8に示すようにTMR素子67,67,・・・は、一対の電流入力端子69間、一対の電圧検出端子70間において格子配列されている。各端子の取り出し部位は、
図8(b)に示したように、各端子のTMRアレイへの接続点を別々にしたようなTMRアレイチップ63Bの等価回路によるものでも可能であり、
図8(a)に示したような各端子のTMRアレイへの接続点を共通にした形態に限られない。
なお、図
8においては、簡単のため6x6のTMRアレイを記載しているが、実際には50x50程度にすればノイズレベルは1素子のそれに比べて1/50にまで低減されることが判明している。脳磁界の測定では、少なくともノイズレベルを1/50以下に低減させるように、50x50アレイ以上の素子数にすることが望ましく、より好ましくは、100x100アレイ以上の素子数にしてノイズレベルを1/100以下にまで下げるのが好ましい。
【0032】
TMRアレイチップ63X,63Y,63Zの一対の電流入力端子69は、接続端子61a,61eに引き出される。X軸用TMRアレイチップ63Xの一対の電圧検出端子70は、接続端子61b,61fに引き出される。Y軸用TMRアレイチップ63Yの一対の電圧検出端子70は、接続端子61c,61gに引き出される。Z軸用TMRアレイチップ63Zの一対の電圧検出端子70は、接続端子61d,61hに引き出される。各端子の引き出し配線は、図示しないボンディングワイヤ及び配線基板61内の配線パターンによる。
このように、TMRアレイチップ63X、63Y、63Zが、それぞれ一つの磁気センサを構成する。本実施形態では、TMRアレイモジュールが3つの磁気センサを備えることにより、3軸測定可能な磁気センサを構成している。
【0033】
各TMR素子67は、
図9に示す基本構成を備えている。
図9に示すように、基板b1上に、順に下部電極65b、酸化防止層67e、フリー磁性層67d、絶縁層67c、固定磁性層67b、酸化防止層67a、上部電極65aが順次積層された構成を有する。上部電極65aと下部電極65bとの間には、電流を入力するための電流源71に接続される電流入力端子69、及び、絶縁層の抵抗値の変化を電圧値の変化として検知する電圧計72に接続された電圧検出端子70が設けられている。なお、TMR素子に対して電圧を印加し、TMR素子の絶縁層に流れる電流を検出することで絶縁層の抵抗値の変化を検出するようにしても構わない。
【0034】
各TMR素子67のより具体的な素子構造の一例を
図10に示す。
図10に示すように、基板b1上に、下引き層a1、補助固定化層a2、固定化促進層a3、固定磁性層a4〜a6、絶縁層a7、フリー磁性層a8、酸化防止層a9が積層された構成を有する。固定磁性層のうち、a4は固定化層であり、a5は磁気結合促進層であり、a6が強磁性層である。フリー磁性層は強磁性層a8を備えている。固定磁性層は、絶縁層の上面に接合し磁化の向きが固定されている。フリー磁性層は、絶縁層の下面に接合し外部からの磁束の影響を受けて磁化の向きが変化する。
【0035】
基板b1としては、各層の形成に耐え得るものであれば特に材質に限定はないが、成膜時や熱処理等に耐え得る耐熱性と絶縁性とを兼ね備えたものが好ましい。また、磁束の吸い込みを防止するために非磁性であり、表面が比較的滑らかに形成されるものであることが好ましい。このような観点からは、例えば、Si、SiO
2等が使用できる。
下引き層a1は、基板の粗さを整えるためのものであり、例えば、Taが使用できる。下引き層a1の層厚は2nm〜10nm程度とすることが好ましい。
配向補助層a2は、固定化促進層a3の配向を補うためのものであり、Ruやパーマロイを用いることができる。固定磁化層をより強く固定化する観点からはRuが好ましい。配向補助層a2の結晶構造は例えば六方細密充填構造とする。配向補助層a2の層厚は5nm〜20nm程度とすることが好ましい。
固定化促進層a3は、固定化層a4の固定化を促進するためのものであり、IrMn、プラチナマンガンなどの反強磁性膜が好適に用いられる。固定化促進層a3の結晶構造は例えば面心立方晶とする。固定化促進層a3の層厚は5nm〜20nm程度とすることが好ましい。
【0036】
固定磁性層を構成する固定化層a4としては、例えば、CoFeが使用できる。CoとFeの組成比は任意に設定できるが、典型的には、Co:Fe=75:25又はCo:Fe=50:50とすることができる。固定化層a4の結晶構造は例えば面心立方晶である。固定化層a4の層厚としては、0.5nm〜5nm程度とすることが好ましい。
磁気結合促進層a5は、固定化層a4と強磁性層a6とを磁気的に結合させるとともに、後者を前者の結晶構造から切り離すためのものであり、結晶構造を有さない薄膜層を用いるのが望ましい。具体的な材料の例としてはRuが挙げられる。磁気結合促進層a5の層厚は0.5〜1nm程度とすることが好ましい。
【0037】
強磁性層a6としては、各種のものが使用可能であるが、代表的なものとして、Co
40Fe
40B
20をアモルファス構造から熱処理して強磁性を発現させたものが使用できる。この層の結晶構造は例えば体心立方晶である。Feリッチの材料、例えば、Co
16Fe
64B
20を用いることもできる。強磁性層a6の層厚は1〜10nm程度が好ましい。
絶縁層a7としては、各種の絶縁材料を用いることができ、例えば、MgO、AlOx等が使用できる。素子の感度を向上させるという観点からはMgOが好ましい。絶縁層a7の層厚は、1nm〜10nm程度にすることが望ましい。
【0038】
フリー磁性層a8としては、強磁性層a6と同様のもの、例えば、Co
40Fe
40B
20が使用できる。フリー磁性層a8の層厚は1nm〜10nm程度が好ましい。フリー磁性層a8を多層構成にしてもよい。
各層は、例えば、マグネトロンスパッタリング法により形成することができる。また、所望の結晶構造を得る等の目的のために、必要に応じてアニール等の熱処理を施すとよい。
固定磁性層とフリー磁性層の位置は図示したものと逆に配置されていてもよい。また、2つの固定磁性層により、それぞれ絶縁層を介してフリー磁性層を挟んだ構造のダブルジャンクション構造の素子としても構わない。
【0039】
なお、本実施形態においては、マクネトロンスパッタリング装置を用いて、SiO
2基板上に、層a1としてTaを5nm、層a2としてRuを10nm、層a3としてIrMnを10nm、層a4としてCoFeを2nm、層a5としてRuを0.85nm、層a6としてCo
40Fe
40B
20を3nm、層a7としてMgOを2nm、層a8としてCo
40Fe
40B
20を3nm、層a9としてTaを5nm、順次積層してTMR素子を作製した。膜厚は成膜速度と成膜時間から換算して求めた。
このようなTMR素子は、ゼロ磁場近くで高感度な生体磁気計測に好適な素子とすることができ、精密に生体からの磁気を測定することができる。また、常温で使用可能な磁気センサであり、冷却のための冷媒も外部からの熱の侵入を断つための断熱材も不要となり、センサユニットをより軽薄に構成できる。そして、センサユニットをより軽薄に構成できるので、人手で扱って被検者の計測対象部位に覆うように当てたり、被検者に装着させたりできる簡素で柔軟な形態に構成でき、ひいては、被験者の体の大きさや体型によらず、被験部に対して一定の距離にTMR素子が配置され正確な計測を行うことができる。また、SQUIDに比較して安価に構成でき、低消費電力である。
【0040】
各TMRアレイチップ63X,63Y,63Zにおいて、TMR素子67の各々の接合面が同一方向を向いている。また、各TMRアレイチップ63X,63Y,63Zにおいて固定磁性層の磁化の向きは同一方向を向いている。
X軸用TMRアレイチップ63Xに構成されたTMR素子67における固定磁性層の磁化の向きと、Y軸用TMRアレイチップ63Yに構成されたTMR素子67における固定磁性層の磁化の向きと、Z軸用TMRアレイチップ63Zに構成されたTMR素子67における固定磁性層の磁化の向きとは、互いに直交する。
X軸用TMRアレイチップ63XにおけるTMR素子67の接合面、及びY軸用TMRアレイチップ63YにおけるTMR素子67の接合面は、配線基板61に対し平行に配置されている。Z軸用TMRアレイチップ63ZにおけるTMR素子67の接合面は、配線基板61に対し垂直に配置されている。
図4(a)においては、Z軸用TMRアレイチップ63Zを2つに分割しているが、これらを1チップで構成してもよい。
このように、TMR素子は冷却機構が不要であり磁気センサ間の距離を小さくできるため、配置の自由度が高く、異なる方向の磁界を測定するように磁気センサを配置することで、3軸方向の測定を行うことができる。従って、従来のSQUIDセンサによる磁気計測における生体表面の垂直方向など、生体から発せられる磁気の1軸方向についての磁力のみならず、生体表面の垂直方向である1軸及び生体表面の面内方向の互いに直交する2軸などの3軸方向の磁力を計測可能とすることで、より多くの磁気情報を得て診断に役立たせる可能性が開ける。人体から発生する磁束には様々な向きのものがあることが知られているが、SQUIDセンサでは測定できなかった様々な向きの磁界についての情報を得ることができる。
【0041】
図11に示すように、センサユニット4は、人の頭部に対して着脱可能で、かつ、センサプラットフォームボード41を支持する装着支持体45により一体に構成されている。装着支持体45としては、繊維や樹脂などの可撓性材料からなり、例えば
図11に示すように目出し孔45aが設けられ、頭部及び顔面部を覆う目出し帽タイプのものが適用できる。この場合、頭部のほか、顔面部から発せられる脳磁気を計測することが可能となる。目出し孔45aを設けずに目の部分を含めて頭部及び顔面を覆う形態のものを実施しても良い。
装着支持体45に沿って多数のセンサプラットフォームボード41が並べられて搭載されている。これにより、センサユニット4の人の頭部を覆う面を共通の面(
図11の場合、装着支持体45の内面)として、多数の磁気センサが共通の面上に分布することとなる。
そして、
図11に示すように装着支持体45の内面を人体頭部の表面に沿って当てるようにして、センサユニット4が人の頭部に被せられて装着されることで、人の頭部の表面に上記共通の面が沿うこととなって、人の頭部の表面に対して多数のTMR素子67が近接して配置され、多数の磁気センサが人の頭部の表面上に分布する。
なお、本実施形態においては、装着支持体として、複数のセンサプラットフォームボードを支持するとともに、これらが人体頭部の表面に沿って配置されるように、人の頭部に被せられて装着されるものを用いたが、これに限られるものではなく、各センサプラットフォームボードに吸盤や粘着層などの支持部材を設け、各センサプラットフォームボードを生体頭部に貼り付けるようにしても構わない。
【0042】
以上のようにしてセンサユニット4を生体磁気の頭部に装着した状態にて以下の計測を実行する。
まず、生体磁気計測装置1及び演算装置2からなるシステム100全体に電源が投入され、各TMRアレイ68にも電流入力端子69から電流が入力される。人の頭部から発生される磁束の影響を受けてTMRアレイ68中の各TMR素子67にあっては、フリー磁性層の磁化の向きが変化する。これにより、固定磁性層の磁化の向きとフリー磁性層の磁化の向きとの角度差に従ってトンネル効果により絶縁層の抵抗が変化する。したがって、TMRアレイ68の電圧検出端子70間の電圧が変化し、これがTMRアレイ68の抵抗の変化に応じた出力信号となる。ここで、単一のTMR素子67の抵抗の変化の要因は、磁束のみでなく様々な要因があり、熱ノイズ、ショットノイズ等のノイズとして現れる。
しかし、TMRアレイ68の抵抗の変化は、これらのノイズを低減化させた値となり、TMRアレイ68の出力信号は磁束の変化に応じた信頼度の高い値となる。その理論的証明は非特許文献1,2に記載されている。
【0043】
次に、オペレータにより演算装置2に計測実行コマンドが入力される。
演算装置2は、計測実行コマンドをn個のセンサプラットフォームボード41に送出する。各センサプラットフォームボード41にあっては、計測実行コマンドをコントローラ42が受信する。
コントローラ42は、増幅・変換回路44を介してデジタル化された各TMRアレイ68の出力信号を受け、これを各TMRアレイ68のアドレス情報及びX,Y,Z方向を特定する情報にリンクさせた所定のフォーマットで生体磁気計測情報として演算装置2に送出する。
演算装置2は、各コントローラ42からの生体磁気計測情報を解析して、被検者の頭部上の位置と磁気の強さと方向との組み合わせからなる脳磁図を演算し、画像情報化して表示装置21に表示出力する。
また、演算装置2は、生体磁気計測情報の画像と、被検者の頭部のMRI画像や頭部外形の3次元スキャン画像等との位置を合わせた合成画像を生成し、表示装置21に表示出力する。
計測実行コマンドとしては、1回の計測実行コマンドを設けてもよいが、計測開始コマンドと計測終了コマンドを設けてもよい。計測開始コマンドと計測終了コマンドとの間の期間において、一定の時間レートで計測を実行し、リアルタイムに変化する脳磁図を表示装置21に表示することが有効である。
また、生体磁気計測情報や、脳磁図情報、表示のために生成した画像情報は演算装置2によって読出可能に記録しておき、表示装置21に表示や再生を可能にしておく。
【0044】
以上の実施形態にあっては、計測対象を人の頭部としたが、これに限らず生体の他の部位を測定対象としてもよく、例えば、計測対象を人の胸部として胸磁図を取得するように構成してもよい。
以上の実施形態にあっては、生体磁気の3軸方向を検出する構成としたことにより、生体表面からの垂直方向の発生磁気を計測することしか実現できていなかったSQUIDセンサに比べて、より多くの磁気情報を得て診断に役立たせる可能性が開けるようになる。しかしながら、これに限らず、1軸方向あるいは2軸方向を検出するようにしてもよい。1軸方向のみとする場合は、生体表面に対して垂直な方向(Z軸方向)とし、2軸方向とする場合は、生体表面に対して垂直な方向(Z軸方向)に加えて生体表面に対して平行な1軸方向(X軸又はY軸方向)とすることが好ましい。2軸方向とする場合は、磁気センサとして、固定磁性層の磁化の向きが第1の方向に固定された第1のトンネル磁気抵抗素子アレイと、固定磁性層の磁化の向きが前記1の方向と交差する第2の方向に固定された第2のトンネル磁気抵抗素子アレイとを含むものとすればよい。