特許第5798574号(P5798574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5798574-針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798574
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
   C01F11/18 M
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-557985(P2012-557985)
(86)(22)【出願日】2012年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2012053479
(87)【国際公開番号】WO2012111691
(87)【国際公開日】20120823
【審査請求日】2014年8月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-29945(P2011-29945)
(32)【優先日】2011年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文夫
(72)【発明者】
【氏名】日元 武史
(72)【発明者】
【氏名】藤本 真之
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/111611(WO,A1)
【文献】 特開2009−78970(JP,A)
【文献】 特開2009−1475(JP,A)
【文献】 特開2006−124199(JP,A)
【文献】 特開2006−117487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00−17/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度が1〜20質量%の範囲にある水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液を撹拌しながら、炭素原子数が1〜4の二価の鎖状炭化水素基と、その鎖状炭化水素基の両端のそれぞれに結合したカルボン酸基とを含むジカルボン酸、但し、鎖状炭化水素基は一もしくは二以上の炭素原子数が1〜6のアルキル基で置換されていてもよい、の存在下にて、該水溶液もしくは水性懸濁液に二酸化炭素ガスを水酸化ストロンチウム1gに対して0.5〜200mL/分の範囲の流量にて導入して、水酸化ストロンチウムを炭酸化させることを特徴とする針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法。
【請求項2】
上記ジカルボン酸の鎖状炭化水素基が水酸基と結合していない請求項1に記載の針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法。
【請求項3】
上記ジカルボン酸がメチル基もしくはエチル基で置換された二価の鎖状炭化水素基を含む請求項1に記載の針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法。
【請求項4】
上記ジカルボン酸が炭素原子数1〜6のアルキル基を有するマロン酸もしくは炭素原子数1〜6のアルキル基を有するマレイン酸である請求項1に記載の針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法。
【請求項5】
上記ジカルボン酸が水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液中に、水酸化ストロンチウム100質量部に対して1〜20質量部の範囲にて溶解している請求項1に記載の針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法。
【請求項6】
得られる針状炭酸ストロンチウム粒子が、長径の平均長さが10〜500nmの範囲にあって、平均アスペクト比が2〜10の範囲のサイズを持つ請求項1に記載の針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
針状炭酸ストロンチウム粒子の用途の一つとして、高分子樹脂の充填材として、高分子樹脂の複屈折性を相殺させたり、高分子樹脂に積極的に複屈折性を付与する用途がある。複屈折性を相殺させた高分子樹脂は、非複屈折性光学樹脂材料としてレンズあるいは透明板として利用される。複屈折性が付与された高分子樹脂は、位相差板として利用される。
【0003】
特許文献1には、高分子樹脂中に長軸に沿った平均粒子サイズが500nm以下の針状炭酸ストロンチウム粒子を、高分子樹脂の結合鎖の延伸方向(長手方向)と針状炭酸ストロンチウム粒子の長軸方向(長手方向)とが互いに平行あるいは直角になるように分散させることにより、高分子樹脂の結合鎖の配向により生じる複屈折性をストロンチウム粒子の配向により生じる複屈折性で相殺させて非複屈折性光学樹脂材料とすることが記載されている。そして、この文献には、上記の針状炭酸ストロンチウム粒子を製造する方法として、ストロンチウム塩水溶液に尿素を加えた上で、その液温を氷点以下にして、該水溶液中で尿素を加水分解させることにより炭酸ストロンチウム粒子を生成させる方法、水酸化ストロンチウム懸濁液の液温を氷点以下にして、該懸濁液に炭酸ガスを吹き込むことにより炭酸ストロンチウム粒子を生成させる方法が記載されている。なお、この文献の実施例では、上記の方法を利用して、長径の平均長さが200nm以下の針状炭酸ストロンチウム粒子が得られている(実施例3)。
【0004】
特許文献2には、微細な針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法として、ストロンチウムイオン源を含むアルコール液中に、炭酸源を含有する水溶液を添加して、ストロンチウムと炭酸源とを反応させる際にアルカリ剤を添加する方法が記載されている。この文献の実施例でも、上記の方法を利用して、長径の平均長さが200nm以下の針状炭酸ストロンチウム粒子が得られている。
【0005】
特許文献3には、微細な棒状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法として、水酸化ストロンチウムと、二酸化炭素又は可溶性炭酸塩から選ばれる炭酸源とを、多価アルコール、ピロリン酸、アスコルビン酸、カルボン酸、カルボン酸塩、ポリカルボン酸又はポリカルボン酸塩からなる群より選ばれる粒子成長抑制剤の存在下にて、水溶媒中で反応させて針状炭酸ストロンチウム粒子を得て、得られた針状炭酸ストロンチウム粒子をさらに水中で50℃以上の温度で加熱処理して、棒状炭酸ストロンチウム粒子とすることが記載されている。なお、この文献にポリカルボン酸の例として記載されているのは、ポリアクリル酸である。この文献の実施例によれば、上記の方法を利用することによって、長径の平均長さが200nm以下の棒状炭酸ストロンチウム粒子が得られている。但し、この文献によれば、上記の方法を利用して得られる棒状炭酸ストロンチウム粒子は、くびれにも似た形状の脆い部分を有しており、この脆い部分を有していることによって、気流式粉砕機等で粉砕処理して容易に粒状粒子とすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−35347号公報
【特許文献2】特開2008−247692号公報
【特許文献3】特開2010−254533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載の針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法は、原料のストロンチウム塩水溶液又は水酸化ストロンチウム懸濁液の液温を氷点以下に調整する必要がある。前記特許文献2に記載の針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法は、反応溶媒としてコストの高いアルコールを使用すること、そして反応後のアルコールの処理に費用が掛かるとの問題がある。前記特許文献3に記載の製造方法では得られる棒状炭酸ストロンチウム粒子が粒状になりやすいため、棒状粒子の状態で高分子樹脂中に分散させるのが難しい。
従って、本発明の目的は、微細でかつ容易に粒状になりにくい針状炭酸ストロンチウム粒子を、特には氷点以下の温度とする必要がなく、またアルコールを用いなくとも製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、一もしくは二以上の炭素原子数が1〜6のアルキル基で置換されていてもよい、炭素原子数が1〜4の二価の鎖状炭化水素基、及びその鎖状炭化水素基の両端のそれぞれに結合したカルボン酸基を含むジカルボン酸の存在下にて、水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液に二酸化炭素ガスを導入して水酸化ストロンチウムを炭酸化させることによって、微細でかつ容易に粒状になりにくい針状炭酸ストロンチウム粒子を生成させることが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、濃度が1〜20質量%の範囲にある水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液を撹拌しながら、炭素原子数が1〜4の二価の鎖状炭化水素基と、その鎖状炭化水素基の両端のそれぞれに結合したカルボン酸基とを含むジカルボン酸、但し、鎖状炭化水素基は一もしくは二以上の炭素原子数が1〜6のアルキル基で置換されていてもよい、の存在下にて、該水溶液もしくは水性懸濁液に二酸化炭素ガスを水酸化ストロンチウム1gに対して0.5〜200mL/分の範囲の流量にて導入して、水酸化ストロンチウムを炭酸化させることを特徴とする針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法にある。
【0010】
本発明の好ましい態様は、次の通りである。
(1)上記ジカルボン酸の鎖状炭化水素基が水酸基と結合していない。
(2)上記ジカルボン酸がメチル基もしくはエチル基で置換された二価の鎖状炭化水素基を含む。
(3)上記ジカルボン酸が炭素原子数1〜6のアルキル基を有するマロン酸もしくは炭素原子数1〜6のアルキル基を有するマレイン酸である。
(4)上記ジカルボン酸が水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液中に、水酸化ストロンチウム100質量部に対して1〜20質量部の範囲にて溶解している。
(5)得られる針状炭酸ストロンチウム粒子が、長径の平均長さが10〜500nmの範囲にあって、平均アスペクト比が2〜10の範囲のサイズを持つ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法を利用することによって、原料の水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液を氷点以下の温度に調整したり、反応溶媒に多量のアルコールを使用する必要なく、長径の平均長さが500nm以下、特には200nm以下の微細な針状炭酸ストロンチウム粒子を製造することができる。本発明の製造方法により得られる針状炭酸ストロンチウム粒子は、通常は針状の単結晶粒子からなり、くびれに似た脆い部分を有しないため強度が高く、容易には粒状になりにくい。このため、本発明の製造方法により得られる針状炭酸ストロンチウム粒子は、非複屈折性光学樹脂材料用の充填材として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で製造した炭酸ストロンチウム粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】実施例2で製造した炭酸ストロンチウム粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の針状炭酸ストロンチウム粒子の製造方法では、出発原料として、濃度が1〜20質量%の範囲にある水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液を用いる。水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液の濃度は、好ましくは2〜15質量%の範囲、より好ましくは3〜8質量%の範囲である。
【0014】
本発明では、水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液を撹拌しながら、該水溶液もしくは水性懸濁液に二酸化炭素ガスを水酸化ストロンチウム1gに対して0.5〜200mL/分の範囲の流量にて導入して水酸化ストロンチウムを炭酸化させる。二酸化炭素ガスの流量は、好ましくは0.5〜100mL/分の範囲、より好ましくは1〜50mL/分の範囲である。
【0015】
本発明では、水酸化ストロンチウムの炭酸化を、炭素原子数が1〜4の二価の鎖状炭化水素基と、その鎖状炭化水素基の両端のそれぞれに結合したカルボン酸基とを含むジカルボン酸の存在下にて行なう。ジカルボン酸は、下記式(I)により表されるカルボン酸であることが好ましい。
【0016】
HOOC−L−COOH・・・(I)
【0017】
但し、Lは、炭素原子数が1〜4の二価の鎖状炭化水素基である。鎖状炭化水素基は二重結合を有していてもよい。鎖状炭化水素基の炭素原子数は、1〜3の範囲にあることが好ましく、1または2であることが好ましい。鎖状炭化水素基は、水酸基と結合していないことが好ましい。鎖状炭化水素基は、水素原子の全部もしくは一部が炭素原子数が1〜6のアルキル基、特にメチル基もしくはエチル基で置換されていることが好ましい。
【0018】
ジカルボン酸の例としては、メチルマロン酸、ジメチルマロン酸、エチルマロン酸、ジエチルマロン酸、メチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、メチルマレイン酸(シトラコン酸)及びジメチルマレイン酸を挙げることができる。ジカルボン酸は、水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液中に、水酸化ストロンチウム100質量部に対して1〜20質量部の範囲にて溶解していることが好ましく、2〜15質量部の範囲にて溶解していることがより好ましい。
【0019】
水酸化ストロンチウムを炭酸化させる際の水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液の液温は、一般には1〜100℃の範囲にあり、好ましくは5〜50℃の範囲にある。水酸化ストロンチウムの炭酸化の終点は、一般に水溶液もしくは水性懸濁液のpHが7以下となった時点である。
【0020】
針状炭酸ストロンチウム粒子が生成した後の懸濁液は、スプレードライヤーあるいはドラムドライヤーなどの通常の乾燥機を用いて乾燥して、炭酸ストロンチウム粉末とすることができる。
【0021】
本発明の製造方法により得られる針状炭酸ストロンチウム粒子は、SEM(走査型電子顕微鏡)の画像から求められる長径の平均長さが通常は10〜500nmの範囲、特には10〜200nmの範囲にある。また、SEMの画像から求められる平均アスペクト比(長径/短径)は2〜10の範囲、特には2〜5の範囲にある。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
水温10℃の純水3Lに水酸化ストロンチウム八水和物366gを投入し、撹拌して濃度5.6質量%の水酸化ストロンチウム水性懸濁液を調製した。この水酸化ストロンチウム水性懸濁液にジメチルマロン酸17.2g(水酸化ストロンチウム100質量部に対して10.3質量部)を加えて撹拌して溶解させた。次いで、水酸化ストロンチウム水性懸濁液の液温を10℃に維持しつつ、撹拌を続けながら、該水性懸濁液に二酸化炭素ガスを3.75L/分の流量(水酸化ストロンチウム1gに対して22.4mL/分の流量)にて、該水性懸濁液のpHが7になるまで吹き込んで、炭酸ストロンチウム粒子を生成させた後、さらに30分間撹拌を続けて、炭酸ストロンチウム粒子水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液を乾燥して炭酸ストロンチウム粉末を得た。
【0023】
得られた炭酸ストロンチウム粉末のSEM写真を図1に示す。図1の写真から、得られた炭酸ストロンチウム粉末の粒子形状は針状であることが分かる。得られた炭酸ストロンチウム粉末のBET比表面積は66.3m2/gであった。また、炭酸ストロンチウム粉末のSEM写真から画像解析により300個の炭酸ストロンチウム粒子のアスペクト比と長径の長さを測定し、その平均値を求めたところ、平均アスペクト比は2.99で、長径の平均長さは110nmであった。
【0024】
[実施例2]
ジメチルマロン酸の代わりにメチルマレイン酸8.5g(水酸化ストロンチウム100質量部に対して5.1質量部)を加えたこと、二酸化炭素ガスの流量を0.5L/分の流量(水酸化ストロンチウム1gに対して3.0mL/分の流量)としたこと以外は、実施例1と同様にして、炭酸ストロンチウム粉末を製造した。
【0025】
得られた炭酸ストロンチウム粉末のSEM写真を図2に示す。図2の写真から、得られた炭酸ストロンチウム粉末の粒子形状は針状であることが分かる。得られた炭酸ストロンチウム粉末のBET比表面積は56.0m2/gであった。また、炭酸ストロンチウム粉末のSEM写真から画像解析により300個の炭酸ストロンチウム粒子のアスペクト比と長径の長さを測定し、その平均値を求めたところ、平均アスペクト比は2.78で、長径の平均長さは103nmであった。
図1
図2