(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、第1の樹脂と、前記第1の樹脂と相容しない第2の樹脂と、前記第1の樹脂と反応し得る反応性基を有する変性エラストマーと、を配合してなる樹脂組成物である。
【0018】
<第1の樹脂>
本発明に係る第1の樹脂は、本発明の樹脂組成物において、連続相Aを形成する樹脂である。このような第1の樹脂としては、本発明において、本発明に係る第2の樹脂からなる連続相Bと共連続相が形成され、優れた剛性及び耐衝撃性が発揮されるという観点から、本発明に係る第2の樹脂と相容しない樹脂である必要がある。また、溶融状態で混合しやすい傾向にあるという観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0019】
このような第1の樹脂としては、ポリアミド樹脂、PPS樹脂、PPE樹脂、PS樹脂、PC樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、PET樹脂、PBT樹脂、PTT樹脂、PLA樹脂、PHB樹脂、P(HB−co−HV)樹脂、P(HB−co−HH
X)樹脂が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、本発明に係る第2の樹脂としてポリオレフィン樹脂を用いた場合により優れた耐衝撃性が発揮されるという観点から、ポリアミド樹脂であることが好ましい。
【0020】
前記ポリアミド樹脂は、アミド結合(−NH−CO−)を介して複数の単量体が重合されてなる鎖状骨格を有する重合体である。前記ポリアミド樹脂を構成する単量体としては、アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノ酸;ε−カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ω−ラウリルラクタム等のラクタム等が挙げられる。これらの単量体としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
また、前記ポリアミド樹脂としては、ジアミンとジカルボン酸との共重合によっても得ることができる。単量体としての前記ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノぺンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1、19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、2−メチル−1,8−ジアミノオクタン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン;キシリレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。これらのジアミンとしては1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
単量体としての前記ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。これらのジカルボン酸としては1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
このようなポリアミド樹脂としては、炭素原子数が11である単量体を用いたポリアミド樹脂(以下、場合によりこのポリアミド樹脂を「PA11(ポリアミド11)系樹脂」と総称する)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド12、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミドM5T、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミド10T、ポリアミドMXD6、ポリアミド6T/66、ポリアミド6T/6I、ポリアミド6T/6I/66、ポリアミド6T/2M−5T、ポリアミド9T/2M−8T等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記ポリアミド樹脂の中でも、本発明においては、本発明に係る第2の樹脂としてポリオレフィン樹脂を用いた場合により優れた耐衝撃性が発揮される傾向にあるという観点から、PA11系樹脂、PA6、PA66、PA6Tが好ましい。
【0025】
前記PA11系樹脂は、前記単量体として炭素原子数が11である単量体を用いて得られたポリアミド樹脂であって、炭素原子数が11であるアミド結合含有単位を主鎖に含む。前記炭素原子数が11である単量体としては、11−アミノウンデカン酸、ウンデカンラクタムが好ましく、中でも、11−アミノウンデカン酸を単量体として単独重合させたポリアミド11(PA11)は、該11−アミノウンデカン酸がヒマシ油から得られる化合物であるため、環境保護の観点(特にカーボンニュートラルの観点)から望ましい。
【0026】
また、前記PA11系樹脂としては、炭素原子数が11未満である単量体に由来する構成単位、炭素原子数が12以上である単量体に由来する構成単位、及び他の構成単位を単独で又は2種以上を組み合わせて含有していてもよいが、前記炭素原子数が11である単量体に由来する構成単位の含有量が、前記PA11系樹脂中の全構成単位のうちの50モル%以上であることが好ましく、100モル%であることがより好ましい。
【0027】
前記PA6は、炭素数が6である単量体のうち、ε−カプロラクタムを単独重合させて得られるポリアミド樹脂であり、前記PA66は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との共重合により得られるポリアミド樹脂であり、前記ポリアミド6Tは、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との共重合により得られるポリアミド樹脂である。
【0028】
本発明に係る第1の樹脂としては、本発明に係る第2の樹脂としてポリオレフィン樹脂を用いた場合により優れた耐衝撃性が発揮されるという観点から、前記PA11系樹脂、前記PA6、前記PA66及び前記PA6Tが、合計で、前記第1の樹脂の全体量に対して40質量%以上含有されていることが好ましい。
【0029】
また、本発明に係る第1の樹脂としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)は、特に限定されないが、5,000〜100,000であることが好ましく、7,500〜70,000であることがより好ましく、10,000〜50,000であることがさらに好ましい。
【0030】
<第2の樹脂>
本発明に係る第2の樹脂は、本発明の樹脂組成物において、連続相Bを形成する樹脂である。このような第2の樹脂としては、本発明において、本発明に係る第1の樹脂からなる連続相Aと共連続相が形成され、優れた剛性及び耐衝撃性が発揮されるという観点から、本発明に係る第1の樹脂と相容しない樹脂であることが必要である。また、溶融状態で混合しやすい傾向にあるという観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。このような第2の樹脂としては、本発明に係る第1の樹脂としてポリアミド樹脂を用いた場合により優れた耐衝撃性が発揮されるという観点から、ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0031】
前記ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されるものではなく、種々のポリオレフィンを用いることができ、例えば、エチレン単独重合体(ポリエチレン樹脂)、プロピレン単独重合体(ポリプロピレン樹脂)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられる。前記α−オレフィンは、通常、炭素数3〜20の不飽和炭化水素化合物であり、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。
【0032】
このようなポリオレフィン樹脂としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、中でも、樹脂組成物の剛性がより向上する傾向にあるという観点から、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂が好ましく、ポリプロピレン樹脂がより好ましい。また、このようなポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂としては、プロピレン又はエチレンに由来する構成単位の含有量が、それぞれ、ポリプロピレン樹脂又はポリエチレン樹脂中の全構成単位のうちの50モル%以上であることが好ましい。前記含有量が前記下限未満である場合には、樹脂組成物の剛性が低下する傾向にある。
【0033】
本発明に係る第2の樹脂としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による重量平均分子量(標準ポリスチレン換算、温度:140〜150℃)は、特に限定されないが、10,000〜500,000であることが好ましく、50,000〜450,000であることがより好ましく、100,000〜400,000であることがさらに好ましい。
【0034】
なお、本発明に係る第2の樹脂は、本発明に係る第1の樹脂からなる連続相Aと相容性がなく、且つ、前記第1の樹脂と反応し得る反応性基を有していないという点において、後述する変性エラストマーとは異なる。
【0035】
<変性エラストマー>
本発明に係る変性エラストマーは、前記第1の樹脂と反応し得る反応性基を有する変性エラストマーであり、前記第1の樹脂と前記第2の樹脂とを相容化させる相容化剤として機能する。前記エラストマーとしては、反応性が高く、本発明に係る第2の樹脂としてポリオレフィン樹脂を用いた場合により相容しやすいという観点から、熱可塑性エラストマーが好ましく、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0036】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ぺンテン、1−オクテン等のα−オレフィンを2種以上共重合せしめてなるものが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、樹脂組成物の剛性及び耐衝撃性がより向上する傾向にあるという観点から、エチレン又はプロピレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体、すなわち、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体、及び、プロピレンと炭素数4〜8のα−オレフィンとの共重合体が好ましい。このようなオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、例えば、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−1−ブテン共重合体(EBR)、エチレン−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体(EOR)、プロピレン−1−ブテン共重合体(PBR)、プロピレン−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−オクテン共重合体(POR)が挙げられ、これらの中でも、樹脂組成物の剛性及び耐衝撃性がさらに向上する傾向にあるという観点から、EBR、EOR、PBRがさらに好ましい。
【0037】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体、及びその水添体が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記スチレン系化合物としては、例えば、スチレン;α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等のアルキルスチレン;p−メトキシスチレン;ビニルナフタレンが挙げられる。また、前記共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、ピぺリレン、メチルぺンタジエン、フェニルブタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン等が挙げられる。
【0038】
このようなスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)が挙げられる。これらの中でも、樹脂組成物の剛性及び耐衝撃性がより向上する傾向にあるという観点から、SEBSが好ましい。
【0039】
前記第1の樹脂と反応し得る反応性基としては、酸無水物基(−CO−O−OC−)、カルボキシル基(−COOH)、エポキシ基[−C
2O(2つの炭素原子と1つの酸素原子とからなる三員環構造)]、オキサゾリン基(−C
3H
4NO)、イソシアネート基(−NCO)等が挙げられる。これらの中でも、前記第1の樹脂としてポリアミド樹脂を用いる場合には、反応性が高い傾向にあるという観点から、前記反応性基としては、酸無水物基が好ましい。
【0040】
また、前記反応性基を前記エラストマーに付与する方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、前記エラストマーに前記酸無水物基を付与する方法としては、酸無水物を単量体として用いる方法が挙げられ、前記酸無水物としては、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ブテニル無水コハク酸が挙げられる。前記酸無水物としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよく、中でも、反応性が高い傾向にあるという観点から、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0041】
本発明に係る変性エラストマーとしては、具体的には、無水マレイン酸変性EPR、無水マレイン酸変性PBR、無水マレイン酸変性EBR、無水マレイン酸変性EOR、無水マレイン酸変性POR等の無水マレイン酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマー;無水マレイン酸変性SEBS、無水マレイン酸変性SBS、無水マレイン酸変性SIS、無水マレイン酸変性SEPS等の無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。このような変性エラストマーとしては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよく、中でも、本発明に係る第2の樹脂としてポリオレフィン樹脂を用いた場合により相容しやすいという観点から、無水マレイン酸変性PBR、無水マレイン酸変性EBR、無水マレイン酸変性EORが好ましい。
【0042】
また、本発明に係る変性エラストマーとしては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による重量平均分子量(標準ポリスチレン換算、温度:140〜150℃)は、特に限定されないが、重量平均分子量が大きい方が樹脂組成物の耐衝撃性が向上する傾向にあるという観点から、10,000〜500,000であることが好ましく、20,000〜500,000であることがより好ましく、25,000〜400,000であることがさらに好ましい。
【0043】
<第1の樹脂と変性エラストマーとの反応物>
本発明に係る前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物とは、前記変性エラストマーが有する前記反応性基が前記第1の樹脂と反応することにより生じる成分である。
【0044】
このような前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物を得る方法としては、特に制限されず、本発明の樹脂組成物の製造において、前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとを含む混合材料を加熱溶融混練することにより、本発明の樹脂組成物中に得ることができる。前記加熱溶融混練の条件としては、特に制限されず、後述の本発明の樹脂組成物の製造方法においても詳述するが、混練装置等を用いて、温度100〜350℃において0.01〜1.0時間行うことが好ましい。
【0045】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、前記第1の樹脂からなる連続相Aと前記第2の樹脂からなる連続相Bとからなる共連続相を有しており、且つ、前記連続相A中に分散された分散相a、前記分散相a中に分散された微分散相a’、前記連続相B中に分散された分散相b、及び前記分散相b中に分散された微分散相b’を有している。
【0046】
本発明において、前記樹脂組成物の相構造は、電子顕微鏡を用いて観察することができ、このような観察方法としては、例えば、射出成形せしめた樹脂組成物の断面に100Wで1分間酸素プラズマエッチング処理を施した後、この断面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM、(株)日立ハイテクマニファクチャ&サービス製、「S−4300 TYPE II」、加速電圧3kV)を用いて観察する方法が挙げられる。なお、前記樹脂組成物における各相は、前記電界放射型走査電子顕微鏡観察時にエネルギー分散型X線分析(EDX)を行い、各樹脂に由来するピークの有無を確認することにより判別することができる。
【0047】
本発明の樹脂組成物は、前記第1の樹脂からなる連続相Aと前記第2の樹脂からなる連続相Bとからなる共連続相を有している。本発明において、共連続相とは、2種以上の連続相(本発明においては連続相A及び連続相B)が3次元的に連続してつながっている構造をいう。
【0048】
このような共連続相において、前記連続相Aの含有量(後述の分散相a及び微分散相a’を含む全量)と前記連続相Bの含有量(後述の分散相b及び微分散相b’を含む全量)との比(連続相Aの質量:連続相Bの質量)としては、5:1〜1:5であることが好ましく、3:1〜1:3であることがより好ましい。前記連続相Aに対する前記連続相Bの含有量が前記下限未満である場合及び前記上限を超える場合にはいずれも、共連続相が形成されない傾向にある。
【0049】
(連続相A)
本発明の樹脂組成物において、少なくとも1つの前記連続相A中には、該連続相中に分散された分散相aが存在する。前記分散相aは、前記第2の樹脂、及び前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物からなる群から選択される少なくとも1種からなる分散相である。このような分散相aとしては、連続相A中により分散されやすい傾向にあるという観点から、前記第2の樹脂からなる分散相、及び前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物からなる分散相であることが好ましい。
【0050】
このような分散相aの含有量としては、成形せしめた樹脂組成物の断面における前記連続相Aの全面積(分散相a及び微分散相a’を含む面積)に対して1〜50面積%であることが好ましく、5〜40面積%であることがより好ましい。前記分散相aの含有量が前記下限未満である場合には、耐衝撃性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、分散相aの形成が困難となる傾向にある。
【0051】
また、前記分散相aとしては、後述の微分散相a’を有する分散相a及び微分散相を有さない分散相aを含めた全ての分散相aの平均径が0.05〜8μmであることが好ましく、0.1〜4μmであることがより好ましい。分散相aの全平均径が前記下限未満である場合には、剛性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、分散相aの形成が困難となる傾向にある。
【0052】
さらに、前記分散相aとしては、後述の微分散相a’を有する分散相aの平均径が0.1〜10μmであることが好ましく、0.2〜6μmであることがより好ましい。微分散相a’を有する分散相aの平均径が前記下限未満である場合には、微分散相a’を有することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、分散相aの形成が困難となる傾向にある。
【0053】
なお、本発明において、これらの分散相aの平均径は、成形せしめた樹脂組成物における任意の100個以上の分散相を走査型電子顕微鏡(SEM)により測定して各分散相の直径を求め、その値を平均化することにより求めることができる。また、このような直径は、各分散相の断面の最大直径を意味し、分散相の断面が円形ではない場合には、その断面の最大の外接円の直径とする。
【0054】
さらに、本発明の樹脂組成物において、少なくとも1つの前記分散相a中には、該分散相a中に分散された微分散相a’が存在する。前記分散相aが前記第2の樹脂からなる分散相である場合、前記微分散相a’は、前記第1の樹脂、前記変性エラストマー、及び前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物からなる群から選択される少なくとも1種からなる微分散相である。また、前記分散相aが前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物からなる分散相である場合、前記微分散相a’は、前記第1の樹脂、前記第2の樹脂、及び前記変性エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種からなる微分散相である。このような微分散相a’としては、より相容しやすいという観点から、前記第2の樹脂からなる分散相a中に存在することが好ましく、前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物からなる微分散相であることがより好ましい。
【0055】
このような微分散相a’の含有量としては、成形せしめた樹脂組成物の断面における前記分散相aの全面積(微分散相a’を含む全面積)に対して1〜50面積%であることが好ましく、5〜40面積%であることがより好ましい。前記微分散相a’の含有量が前記下限未満である場合には、耐衝撃性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、微分散相a’の形成が困難となる傾向にある。
【0056】
また、前記微分散相a’の平均径としては、5〜500nmであることが好ましく、10〜450nmであることがより好ましく、15〜400nmであることがさらに好ましい。前記平均径が前記下限未満である場合には、剛性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、微分散相a’の形成が困難となる傾向にある。なお、本発明において、このような微分散相a’の平均径は、前述の分散相aの平均径と同様にして求めることができる。
【0057】
(連続相B)
本発明の樹脂組成物において、少なくとも1つの前記連続相B中には、該連続相中に分散された分散相bが存在する。前記分散相bは、前記第1の樹脂、及び前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物からなる群から選択される少なくとも1種からなる分散相である。このような分散相bとしては、連続相Bとより相容しやすいという観点から、前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物からなる分散相であることが好ましい。
【0058】
このような分散相bの含有量としては、成形せしめた樹脂組成物の断面における前記連続相Bの全面積(分散相b及び微分散相b’を含む全面積)に対して1〜50面積%であることが好ましく、5〜40面積%であることがより好ましい。前記分散相bの含有量が前記下限未満である場合には、耐衝撃性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、分散相bの形成が困難となる傾向にある。
【0059】
また、前記分散相bとしては、後述の微分散相b’を有する分散相b及び微分散相を有さない分散相bを含めた全ての分散相bの平均径が0.05〜8μmであることが好ましく、0.1〜4μmであることがより好ましい。分散相bの全平均径が前記下限未満である場合には、剛性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、分散相bの形成が困難となる傾向にある。
【0060】
さらに、前記分散相bとしては、後述の微分散相b’を有する分散相bの平均径が0.1〜10μmであることが好ましく、0.2〜6μmであることがより好ましい。微分散相b’を有する分散相bの平均径が前記下限未満である場合には、微分散相b’を有することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、分散相bの形成が困難となる傾向にある。なお、本発明において、このような分散相bの平均径は、前述の分散相aの平均径と同様にして求めることができる。
【0061】
さらに、本発明の樹脂組成物において、少なくとも1つの前記分散相b中には、該分散相中に分散された微分散相b’が存在する。前記分散相bが前記第1の樹脂からなる分散相である場合、前記微分散相b’は、前記第2の樹脂、前記変性エラストマー、及び前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物からなる群から選択される少なくとも1種からなる微分散相である。また、前記分散相bが前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物からなる分散相である場合、前記微分散相b’は、前記第1の樹脂、前記第2の樹脂、及び前記変性エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種からなる微分散相である。このような微分散相b’としては、より相容しやすいという観点から、前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物からなる分散相b中に存在することが好ましく、前記変性エラストマーからなる微分散相であることがより好ましい。
【0062】
このような微分散相b’の含有量としては、成形せしめた樹脂組成物の断面における前記分散相bの全面積(微分散相b’を含む全面積)に対して1〜50面積%であることが好ましく、5〜40面積%であることがより好ましい。前記微分散相b’の含有量が前記下限未満である場合には、耐衝撃性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、微分散相b’の形成が困難となる傾向にある。
【0063】
また、前記微分散相b’の平均径としては、5〜500nmであることが好ましく、10〜450nmであることがより好ましく、15〜400nmであることがさらに好ましい。前記平均径が前記下限未満である場合には、剛性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、微分散相b’の形成が困難となる傾向にある。なお、本発明において、このような微分散相b’の平均径は、前述の分散相aの平均径と同様にして求めることができる。
【0064】
さらに、本発明の樹脂組成物としては、耐衝撃性がより向上する傾向にあるという観点から、前記連続相A及び前記連続相Bからなる群から選択される少なくとも1種の連続相中に、前記変性エラストマーからなる分散相をさらに有していることが好ましい。このような変性エラストマーからなる分散相が含有される場合、その含有量としては、その分散相が含まれる連続相の全量(分散相及び微分散相を含む全量)に対して1〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。前記変性エラストマーからなる分散相の含有量が前記下限未満である場合には、耐衝撃性の向上効果が発揮されない傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、剛性が低下する傾向にある。
【0065】
また、本発明の樹脂組成物としては、前記第1の樹脂、前記第2の樹脂、前記変性エラストマー及び前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとの反応物の他に、さらに、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて他の成分を含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば、上記成分以外の他の熱可塑性樹脂、抗酸化剤、抗紫外線剤、熱安定化剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、着色剤、抗菌剤、帯電防止剤が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら他の成分を樹脂組成物に含有せしめる場合、その含有量としては、前記樹脂組成物の全量に対して40質量%以下であることが好ましい。
【0066】
前記他の熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸)、ポリカーボネート樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
前記難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤(ハロゲン化芳香族化合物等)、リン系難燃剤(窒素含有リン酸塩化合物、リン酸エステル等)、窒素系難燃剤(グアニジン、トリアジン、メラミン、及びこれらの誘導体等)、無機系難燃剤(金属水酸化物等)、ホウ素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、硫黄系難燃剤、赤リン系難燃剤等が挙げられる。
【0068】
前記難燃助剤としては、各種アンチモン化合物、亜鉛を含む金属化合物、ビスマスを含む金属化合物、水酸化マグネシウム、粘度質珪酸塩等が挙げられる。
【0069】
前記充填剤としては、ガラス成分(ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク等);シリカ;無機繊維(ガラス繊維、アルミナ繊維、カーボン繊維);黒鉛;珪酸化合物(珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー等);金属酸化物(酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、アルミナ等);カルシウム、マグネシウム、亜鉛等の金属の炭酸塩及び硫酸塩;有機繊維(芳香族ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維、ポリイミド繊錐、植物性繊維等)が挙げられる。前記着色剤としては、顔料、染料等が挙げられる。
【0070】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、前記第1の樹脂及び前記変性エラストマーを特定の比率で予め反応させた後に、前記第2の樹脂と複合化させることによって得ることができる。このような製造方法としては、前記変性エラストマーをより効果的に機能させることができ、本発明の樹脂組成物を効率よく且つ確実に得ることができるという観点から、先ず前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとを溶融混練して混合樹脂を調製し、次いで、前記混合樹脂と前記第2の樹脂とを溶融混練する方法が好ましい。
【0071】
前記混合樹脂の調製方法としては、混練装置を用いて前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとを溶融混練する方法が挙げられる。なお、このようにして得られる混合樹脂としては、ペレット化等により固形化された固形物であってもよいし、溶融物であってもよい。
【0072】
前記混練装置としては、例えば、押出機(一軸スクリュー押出機、二軸溶融混練押出機等)、ニーダ、ミキサ(高速流動式ミキサ、パドルミキサ、リボンミキサ等)が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、2種以上を組み合わせて用いる揚合には、連続的に運転してもよく、回分的に(バッチ式で)運転してもよい。さらに、前記第1の樹脂及び前記変性エラストマーは一括して混練してもよいし、いずれか一方を複数回に分けて添加投入(多段配合)して混練してもよい。
【0073】
前記混合樹脂の調製における溶融混練の温度としては、特に制限されず、前記第1の樹脂及び前記変性エラストマーの種類によって適宜調整されるものであるため一概にはいえないが、本発明に係る各化合物が溶融された状態で混合されることができるという観点からは、100〜350℃であることが好ましく、180〜320℃であることがより好ましく、200〜300℃であることがさらに好ましい。
【0074】
前記混合樹脂と前記第2の樹脂とを溶融混練する方法としては、前記混合樹脂の調製方法において挙げた混練装置を用いる方法と同様の方法が挙げられる。また、このような溶融混練においては、前記混合樹脂と前記第2の樹脂とを一括して混練してもよいし、いずれか一方を複数回に分けて添加投入(多段配合)して混練してもよい。さらに、前記混合樹脂と前記第2の樹脂とを溶融混練する温度としては、前記混合樹脂の調製における溶融混練において述べた通りである。
【0075】
また、本発明の樹脂組成物の製造方法としては、前記固形物及び/又は溶融物として得られる混合樹脂と前記第2の樹脂とを溶融混練してもよいし、多段配合式の混練装置等を用いて、上流側で前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとを溶融混練した後に下流側で前記第2の樹脂を添加して溶融混練することにより樹脂組成物を得てもよい。
【0076】
本発明の樹脂組成物の製造方法においては、前記第1の樹脂の仕込み量を、前記第1の樹脂、前記第2の樹脂及び前記変性エラストマーの仕込み量の合計質量に対して特定の比率とすることが大切である。本発明者らは、前述のような前記第1の樹脂と前記変性エラストマーとを溶融混練して混合樹脂を調製した後、前記混合樹脂と前記第2の樹脂とを溶融混練する方法において、前記第1の樹脂、前記第2の樹脂及び前記変性エラストマーの仕込み量の合計質量に対する前記第1の樹脂の仕込み量が特定の範囲内にあるとき、前記特定の構造を有する本発明の樹脂組成物が得られ、著しく優れた耐衝撃性が発揮されることを見出した。
【0077】
本発明において、例えば、前記第1の樹脂が前記PA11系樹脂であり、前記第2の樹脂がポリオレフィン樹脂である場合、前記PA11系樹脂の仕込み量としては、前記PA11系樹脂、前記ポリオレフィン樹脂及び前記変性エラストマーの仕込み量の合計質量に対して、40〜69質量%であることが好ましく、50〜65質量%であることがより好ましく、59〜63質量%であることがさらに好ましい。また、例えば、前記第1の樹脂が前記PA6であり、前記第2の樹脂がポリオレフィン樹脂である場合、前記PA6の仕込み量としては、前記PA6、前記ポリオレフィン樹脂及び前記変性エラストマーの仕込み量の合計質量に対して、26〜44質量%であることが好ましく、30〜40質量%であることがより好ましく、33〜37質量%であることがさらに好ましい。前記第1の樹脂の仕込み量が前記下限未満である場合には、樹脂組成物において共連続相が形成されず、耐衝撃性が低下する傾向にある。他方、前記上限を超える場合にも、樹脂組成物において共連続相が形成されず、耐衝撃性が低下する傾向にある。
【0078】
また、本発明において、例えば、前記第1の樹脂が前記PA11系樹脂であり、前記第2の樹脂がポリオレフィン樹脂である場合、前記ポリオレフィン樹脂の仕込み量としては、前記PA11系樹脂、前記ポリオレフィン樹脂及び前記変性エラストマーの仕込み量の合計質量に対して、20〜50質量%であることが好ましく、25〜40質量%であることがより好ましい。また、例えば、前記第1の樹脂が前記PA6であり、前記第2の樹脂がポリオレフィン樹脂である場合、前記ポリオレフィン樹脂の仕込み量としては、前記PA6、前記ポリオレフィン樹脂及び前記変性エラストマーの仕込み量の合計質量に対して、45〜65質量%であることが好ましく、50〜60質量%であることがより好ましい。前記ポリオレフィン樹脂の仕込み量が前記下限未満である場合及び前記上限を超える場合にはいずれも、共連続相の形成が困難となる傾向にある。
【0079】
さらに、本発明において、例えば、前記第1の樹脂が前記PA11系樹脂であり、前記第2の樹脂がポリオレフィン樹脂である場合、前記変性エラストマーの仕込み量としては、前記PA11系樹脂、前記ポリオレフィン樹脂及び前記変性エラストマーの仕込み量の合計質量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。また、例えば、前記第1の樹脂が前記PA6であり、前記第2の樹脂がポリオレフィン樹脂である場合、前記変性エラストマーの仕込み量としては、前記PA6、前記ポリオレフィン樹脂及び前記変性エラストマーの仕込み量の合計質量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。前記変性エラストマーの仕込み量が前記下限未満である場合には、十分な耐衝撃性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、剛性が低下する傾向にある。
【0080】
このような製造方法により、本発明の樹脂組成物を効率よく且つ確実に得ることができる。得られる樹脂成形体としては、ペレット化等により固形化された固形物であってもよいし、溶融物であってもよい。
【0081】
<成形体>
本発明の樹脂組成物はどのように成形してもよく、その方法は特に制限されない。また、得られる成形体の形状、大きさ及び厚さ等も特に制限されず、その用途も特に制限されない。例えば、前記成形体は、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の外装材、内装材及び構造材等として用いることができる。また、前記自動車用材としては、自動車用外装材、自動車用内装材、自動車用構造材、自動車用衝撃エネルギー吸収材、自動車用歩行者保護材、自動車用乗員保護材、エンジンルーム内部品等が挙げられ、具体的には、例えば、耐衝撃吸収部品、バンパー、スポイラー、カウリング、フロントグリル、ガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド、フェンダーパネル、ドアパネル、ルーフパネル、インストルメントパネル、ドアトリム、クオータートリム、ルーフライニング、ピラーガーニッシュ、デッキトリム、トノボード、パッケージトレイ、ダッシュボード、コンソールボックス、キッキングプレート、スイッチベース、シートバックボード、シートフレーム、アームレスト、サンバイザ、インテークマニホールド、エンジンヘッドカバー、エンジンアンダーカバー、オイルフィルターハウジング、エアフィルターボックス、車載用電子部品(ECU、TVモニター等)のハウジングが挙げられる。
【0082】
さらに、前記成形体は、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材、具体的には、例えば、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥等)の表装材、構造材等としても用いることができ、その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材、パーティション部材、家電製品(薄型TV、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、携帯電話、携帯ゲーム機、ノート型パソコン等)の筐体及び構造体としても用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において得られた樹脂組成物の性能評価はそれぞれ以下に示す方法により行った。
【0084】
<樹脂組成物の性能評価>
(シャルピー衝撃強度の測定)
各実施例及び比較例で得られた物性測定用試験片を用いて、JIS K7111−1に準拠して、シャルピー衝撃強度(kJ/m
2)を測定した。なお、測定は、温度:23℃、打撃方向:エッジワイズ、ノッチタイプ:Aの条件で行った。
【0085】
(曲げ弾性率の測定)
各実施例及び比較例で得られた物性測定用試験片を用いて、JIS K7171に準拠して、曲げ弾性率(MPa)を測定した。なお、測定は、支点間距離(L)を64mmとした2つの支点(曲率半径5mm)で支持しつつ、支点間中心に配置した作用点(曲率半径5mm)から速度2mm/分にて荷重を負荷して行った。
【0086】
(モルフォロジー観察)
先ず、前記シャルピー衝撃強度の測定に供した物性測定用試験片の破断面に対して、プラズマリアクタ(ヤマト科学(株)製、「PR300」)を用いて、100Wで1分間酸素プラズマエッチング処理を施した。次いで、前記破断面に対して、オスミウムコーター((株)真空デバイス製、「HPC−1S」)を用いて、5秒間オスミウムコート処理を施した。次いで、前記破断面を、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM、(株)日立ハイテクマニファクチャ&サービス製、「S−4300 TYPE II」)を用いて、加速電圧3kVの条件で観察した。
【0087】
また、観察された各相について、前記FE−SEMに備わるエネルギー分散型X線分析(EDX)装置を用いて元素分析を行い、各相を構成する成分を判別した。さらに、得られた画像において、それぞれ任意の100個の各分散相及び各微分散相の直径を求め、その値を平均化することにより各分散相及び各微分散相の平均径を求めた。なお、前記直径は、各分散相及び各微分散相の断面の最大直径とし、断面が円形ではない場合には、その断面の最大の外接円の直径とした。
【0088】
(実施例1)
先ず、ポリアミド11(PA11、アルケマ(株)製、「リルサンBMNO」、重量平均分子量:18,000)と、無水マレイン酸変性エチレン−1−ブテン共重合体(m−EBR、三井化学(株)製、「タフマーMH7020」)とを、質量比(PA11の質量:m−EBRの質量)が60:10となるようにドライブレンドにより予め混合し、スクリュー径15mm、L/D=59の二軸溶融混練押出機((株)テクノベル製、「KZW15−60MG」)を用いて、温度210℃、押出速度2kg/時間、スクリュー回転数200rpmの条件で加熱溶融混練した。次いで、押し出された溶融混練物をペレタイザーを用いて裁断し、ペレット状の樹脂混合物を得た。
【0089】
次いで、得られた樹脂混合物と、ポリプロピレン(PP、日本ポリプロ(株)製、「ノバテックMA1B」、重量平均分子量:312,000)とを、質量比(樹脂混合物の質量:PPの質量)が70:30となるようにドライブレンドにより混合し、前記二軸溶融混練押出機を用い、温度210℃、押出速度2kg/時間、スクリュー回転数200rpmの条件で加熱溶融混練した。次いで、押し出された溶融混練物をペレタイザーを用いて裁断し、ペレット状の樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物)を得た。次いで、射出成形機(日精樹脂工業(株)製、「PS40E2ASE」)を用いて、設定温度200℃、金型温度58℃の射出条件で、得られた樹脂組成物を射出成形して物性測定用試験片(長さ80mm×幅10.0mm×厚さ4.0mm)を作製した。
【0090】
得られた物性測定用試験片を用いて、シャルピー衝撃強度の測定及び曲げ弾性率の測定を行った。得られた結果を樹脂組成物の仕込み量と共に表1に示す。また、前記シャルピー衝撃強度の測定に供した物性測定用試験片を用いて、モルフォロジー観察を行った。
図1には、得られた前記物性測定用試験片の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真を示す。また、
図2には、エネルギー分散型X線分析(EDX)の結果の一例として、PA11及びm−EBRのエネルギー分散型X線分析(EDX)パターンを示す。なお、
図2中の左図はPA11のEDXパターンを示し、右図はm−EBRのEDXパターンを示し、両図の縦軸のスケールは同じである。さらに、観察された微分散相を有する分散相及び微分散相の平均径を表2に示す。
【0091】
(比較例1)
m−EBRに代えて無水マレイン酸変性ポリプロピレン(m−PP、三洋化成(株)製、「ユーメックス1001」、重量平均分子量:40,000)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物)及び物性測定用試験片を得た。得られた物性測定用試験片を用いて、シャルピー衝撃強度の測定及び曲げ弾性率の測定を行った。得られた結果を樹脂組成物の仕込み量と共に表1に示す。
【0092】
(比較例2)
先ず、m−EBRとPPとを、質量比(m−EBRの質量:PPの質量)が10:90となるようにドライブレンドにより混合し、実施例1と同様の条件で加熱溶融混練して溶融混練物を得た。この溶融混練物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物)及び物性測定用試験片を得た。得られた物性測定用試験片を用いて、シャルピー衝撃強度の測定及び曲げ弾性率の測定を行った。得られた結果を樹脂組成物の仕込み量と共に表1に示す。また、前記シャルピー衝撃強度の測定に供した物性測定用試験片を用いて、モルフォロジー観察を行った。
図3には、前記物性測定用試験片の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真を示す。得られた樹脂組成物の構造は、PPからなる連続相中にm−EBRからなる分散相を有する構造(海島構造)であった。
【0093】
(比較例3)
PA11とm−EBRとの質量比(PA11の質量:m−EBRの質量)を20:10としたこと以外は実施例1と同様にして樹脂混合物を得た。次いで、得られた樹脂混合物とPPとの質量比(樹脂混合物の質量:PPの質量)が30:70となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物)及び物性測定用試験片を得た。得られた物性測定用試験片を用いて、シャルピー衝撃強度の測定及び曲げ弾性率の測定を行った。得られた結果を樹脂組成物の仕込み量と共に表1に示す。また、前記シャルピー衝撃強度の測定に供した物性測定用試験片を用いて、モルフォロジー観察を行った。
図4には、前記物性測定用試験片の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真を示す。得られた樹脂組成物の構造は、PPからなる連続相と、前記連続相中に分散されたPA11からなる分散相と、前記分散相中に分散されたPP又はPA11とm−EBRとの反応物からなる微分散相とを有する構造(サラミ構造)であった。
【0094】
(比較例4)
PA11とm−EBRとの質量比(PA11の質量:m−EBRの質量)を70:10としたこと以外は実施例1と同様にして樹脂混合物を得た。次いで、得られた樹脂混合物とPPとの質量比(樹脂混合物の質量:PPの質量)が80:20となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物)及び物性測定用試験片を得た。得られた物性測定用試験片を用いて、シャルピー衝撃強度の測定及び曲げ弾性率の測定を行った。得られた結果を樹脂組成物の仕込み量と共に表1に示す。また、前記シャルピー衝撃強度の測定に供した物性測定用試験片を用いて、モルフォロジー観察を行った。
図5には、前記物性測定用試験片の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真を示す。得られた樹脂組成物の構造は、PA11からなる連続相中にPPからなる分散相を有する構造(相反転した海島構造)であった。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
(実施例2)
ポリアミド11に代えてポリアミド6(PA6、宇部興産製、商品名:「1010X1」、数平均分子量:10,000)を用い、PA6とm−EBRとの質量比(PA6の質量:m−EBRの質量)を35:10としたこと以外は実施例1と同様にして樹脂混合物を得た。次いで、前記樹脂混合物とPPとの質量比(樹脂混合物の質量:PPの質量)が45:55となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物)及び物性測定用試験片を得た。得られた物性測定用試験片を用いて、シャルピー衝撃強度の測定及び曲げ弾性率の測定を行った。得られた結果を樹脂組成物の仕込み量と共に表3に示す。また、前記シャルピー衝撃強度の測定に供した物性測定用試験片を用いて、モルフォロジー観察を行った。
図6及び
図8には、得られた前記物性測定用試験片の任意の2箇所の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真をそれぞれ示す。また、
図7には、
図6に示す写真のPA6からなる相の部分を除いた電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真を示す。
【0098】
(比較例5)
PA6とm−EBRとの質量比(PA6の質量:m−EBRの質量)を25:10としたこと以外は実施例2と同様にして樹脂混合物を得た。次いで、得られた樹脂混合物とPPとの質量比(樹脂混合物の質量:PPの質量)が35:65となるようにしたこと以外は実施例2と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物)及び物性測定用試験片を得た。得られた物性測定用試験片を用いて、シャルピー衝撃強度の測定及び曲げ弾性率の測定を行った。得られた結果を樹脂組成物の仕込み量と共に表3に示す。また、前記シャルピー衝撃強度の測定に供した物性測定用試験片を用いて、モルフォロジー観察を行った。
図9には、前記物性測定用試験片の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真を示す。得られた樹脂組成物の構造は、PPからなる連続相と、前記連続相中に分散されたPA6からなる分散相と、前記分散相中に分散されたm−EBRからなる微分散相とを有する構造(サラミ構造)であった。
【0099】
(比較例6)
PA6とm−EBRとの質量比(PA6の質量:m−EBRの質量)を45:10としたこと以外は実施例2と同様にして樹脂混合物を得た。次いで、得られた樹脂混合物とPPとの質量比(樹脂混合物の質量:PPの質量)が55:45となるようにしたこと以外は実施例2と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物)及び物性測定用試験片を得た。得られた物性測定用試験片を用いて、シャルピー衝撃強度の測定及び曲げ弾性率の測定を行った。得られた結果を樹脂組成物の仕込み量と共に表3に示す。また、前記シャルピー衝撃強度の測定に供した物性測定用試験片を用いて、モルフォロジー観察を行った。
図10には、前記物性測定用試験片の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真を示す。得られた樹脂組成物の構造は、PPからなる連続相中にPA6又はm−EBRからなる分散相を有する構造(相反転した海島構造)であった。
【0100】
(比較例7)
先ず、PA6とPPとを、質量比(PA6の質量:PPの質量)が39:61となるようにドライブレンドにより混合し、実施例2と同様の条件で加熱溶融混練して溶融混練物を得た。この溶融混練物を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ペレット状の樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物)及び物性測定用試験片を得た。得られた物性測定用試験片を用いて、シャルピー衝撃強度の測定及び曲げ弾性率の測定を行った。得られた結果を樹脂組成物の仕込み量と共に表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
図1に示した結果から明らかなように、実施例1で得られた樹脂組成物はPA11からなる連続相(連続相A−PA11、符号2)とPPからなる連続相(連続相B、符号7)とからなる共連続相を有していることが確認された。さらに、前記連続相A−PA11中には、PPからなる分散相(分散相a−PP、符号10)、及びPA11とm−EBRとの反応物からなる分散相(分散相a−PA11反応物、符号4)がそれぞれ分散されており、前記分散相a−PP中には、PA11からなる微分散相(微分散相a’−PA11、符号1)、及びPA11とm−EBRとの反応物からなる微分散相(微分散相a’−PA11反応物、符号6)がそれぞれ分散されていることが確認された。また、前記連続相B中には、PA11からなる分散相(分散相b−PA11、符号3)及びPA11とm−EBRとの反応物からなる分散相(分散相b−PA11反応物、符号5)が、それぞれ分散されており、前記分散相b−PA11反応物中には、PPからなる微分散相(微分散相b’−PP、符号9)及びm−EBRからなる微分散相(微分散相b’−mEBR、符号8)がそれぞれ分散されていることが確認された。さらに、表1に示した結果から明らかなように、このような構造を有する本発明の樹脂組成物は、優れた剛性を有すると共に、著しく優れた耐衝撃性を有することが確認された。
【0103】
また、
図6〜7に示した結果から明らかなように、実施例2で得られた樹脂組成物はPA6からなる連続相(連続相A−PA6、符号11)とPPからなる連続相(連続相B、符号7)とからなる共連続相を有していることが確認された。さらに、前記連続相A−PA6中には、m−EBRからなる分散相(分散相a−mEBR、符号12)が分散されており、前記連続相B中には、PA6からなる分散相(分散相b−PA6、符号13)が分散されており、前記分散相b−PA6中には、m−EBRからなる微分散相(微分散相b’−mEBR、符号8)が分散されていることが確認された。また、
図8に示した結果から明らかなように、実施例2で得られた樹脂組成物においては、連続相A−PA6(符号11)中に、PPからなる分散相(分散相a−PP、符号10)及びPA6とm−EBRとの反応物からなる分散相(分散相a−PA6反応物、符号17)がそれぞれ分散されており、分散相a−PP中にm−EBRからなる微分散相(微分散相a’−mEBR、符号15)、PA6からなる微分散相(微分散相a’−PA6、符号14)及びPA6とm−EBRとの反応物からなる微分散相(微分散相a’−PA6反応物、符号18)がそれぞれ分散されていることも確認された。さらに、連続相B中に、PA6とm−EBRとの反応物からなる分散相(分散相b−PA6反応物、符号16)及びm−EBRからなる分散相がそれぞれ分散されており、前記分散相b−PA6反応物中に微分散相b’−mEBR(符号8)及び微分散相b’−PP(符号9)が、それぞれ分散されていることも確認された。また、表3に示した結果から明らかなように、このような構造を有する本発明の樹脂組成物は、優れた剛性を有すると共に、著しく優れた耐衝撃性を有することが確認された。