特許第5798629号(P5798629)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798629
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】防潮堤
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
   E02B3/06 301
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-530977(P2013-530977)
(86)(22)【出願日】2011年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2011069848
(87)【国際公開番号】WO2013031001
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2014年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】514047113
【氏名又は名称】眞鍋 尚武
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 尚武
【審査官】 富山 博喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−092937(JP,A)
【文献】 特開昭62−055308(JP,A)
【文献】 特開2001−059212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面形状において、海側に突出する膨出部と、前記膨出部の間に配置されて陸側に凹入する樋部を交互に配列して構成されている防潮堤において、
前記膨出部の横断面の輪郭線は、海側に凸の円弧を描いて底部から立ち上がり、前記円弧の頂点に達し、その後、陸側に凸の曲線を描いてオーバーハングするとともに、
前記樋部の横断面の輪郭線は、海側に凸の曲線を描いて底部から立ち上がり、徐々に陸側に倒れて、その後、陸側に凸の曲線を描いてオーバーハングする、
ことを特徴とする防潮堤。
【請求項2】
前記膨出部の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端は、前記樋部の横断面の輪郭線の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端よりも海側にあって、
前記膨出部の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端の接線の仰角は、前記樋部の横断面の輪郭線の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端の接線の仰角よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の防潮堤。
【請求項3】
前記膨出部の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端の接線の仰角は約30°であって、前記樋部の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端の接線の仰角は約60°である
ことを特徴とする請求項2に記載の防潮堤。
【請求項4】
表面に多数のディンプルが形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の防潮堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海岸に設置される防潮堤、特に津波の被害を防ぐ防潮堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による津波は、膨大な人命を奪い、財産を破壊した。かかる巨大な津波による被害を効果的に防ぐ防潮堤が、今、強く求められている。
【0003】
伝統的な防潮堤は、簡単に言えば、津波を押し返す壁であって、防潮堤に押し返されても、津波の持つエネルギーは減少しない。当該防潮堤に押し返された津波は、続いて侵入してくる第二波、第三波と重畳して、さらにエネルギーを増して、再び当該防潮堤に戻って来る。
【0004】
防潮堤は、津波の衝突による衝撃に耐えられる強度を備える必要がある。しかしながら、構造や寸法の変更による強度の向上には限界がある。
【0005】
そこで、津波のエネルギーを防潮堤で減衰させる防潮堤が提案されている。例えば、特許文献1には、堤体の天端面のほぼ中央位置を切欠いて越流開口を設けて、該越流開口の底部に鋸歯状の粗度面を形成して、該越流開口を越流する津波のエネルギーを減衰させる津波防波堤が記載されている。また、特許文献2に記載された堤防は、堤体の頂面にエネルギー消散素子(突起物)を配列して、越堤する津波のエネルギーを減衰させて、被害を減少させることを意図している
【0006】
確かに、津波のエネルギーを減衰させれば、陸上の建物等が受ける衝撃を小さくできるので、被害は多少減少するかもしれない。しかしながら、越流した海水によって生じる浸水被害は解消されない。したがって、津波による被害を防ぐためには、やはり、防潮堤で海水を堰き止める必要がある。
【0007】
そこで、特許文献3には、横断面形において、海側から陸側に向かう上向きの勾配を有する斜面を備え、該斜面の勾配は陸側に向かうにしたがって、放物線を描いて大きくなり、さらには海側に向かって反転してオーバーハング部を形成した防護堤が開示されている。特許文献によれば、このような形態を備えると、斜面に当たる海水の運動方向を徐々に上向きに変えるので、堤体が受ける衝撃を緩和することができ、斜面に当たった海水は空中で飛散して海面に戻る。つまり、海水の越堤を防ぐことができると主張している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平07−113216号公報
【特許文献2】特公平6−63210号公報
【特許文献3】特表2011−500998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3は、防護堤の断面形を陸側に凸に湾曲させることにより、防護堤に衝突する海水の運動方向を変更して、海水の越堤を防ぐことができると主張する。確かに、最初に衝突する海水については、その通りかも知れないが、津波のエネルギーは減衰しないので、海水面は防護堤の正面で盛り上がり、やがては越堤すると考えられる。
【0010】
本発明は、以上のような背景に鑑みて成されたものであり、津波のエネルギーを減衰させて、海水の越堤を防ぐことができる防潮堤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の防潮堤は、平面形状において、海側に突出する膨出部と、前記膨出部の間に配置されて陸側に凹入する樋部を交互に配列して構成される。
【0012】
前記膨出部の横断面の輪郭線は、海側に凸の円弧を描いて底部から立ち上がり、前記円弧の頂点に達し、その後、陸側に凸の曲線を描いてオーバーハングするとともに、前記樋部の横断面の輪郭線は、海側に凸の曲線を描いて底部から立ち上がり、徐々に陸側に倒れて、その後、陸側に凸の曲線を描いてオーバーハングする。
【0013】
前記膨出部の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端は、前記樋部の横断面の輪郭線の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端よりも海側にあって、前記膨出部の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端の接線の仰角は、前記樋部の横断面の輪郭線の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端の接線の仰角よりも小さくしてもよい。
【0014】
前記膨出部の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端の接線の仰角は約30°であって、前記樋部の横断面におけるオーバーハング部の輪郭線の終端の接線の仰角は約60°であるようにしてもよい。
【0015】
また、防潮堤の表面に多数のディンプルを形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、津波の搬送波の位相をずらし互いに干渉させて、津波のエネルギーを減衰することができる。また、津波の運動方向を海側に向かう方向に変えて、津波の越堤を防ぐことができる。そのため、津波による人命、財産の損失を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態の一例を示す防潮堤の概念的な平面図である。
図2】防潮堤の詳細な形態を示す平面図である。
図3】防潮堤を図2のAA’線で切断した断面図である。
図4】防潮堤の作用を説明する平面図である。
図5】防潮堤の作用を説明する平面図である。
図6】防潮堤の表面に形成するディンプルの形状を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のBB’線で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態を示す防潮堤1の概念的な平面図である。図1から明らかなように、防潮堤1は、海岸線2から所定の距離を空けて設置され、海3側に突出する膨出部4を備える。膨出部4は防潮堤1の長さ方向に、所定の間隔を空けて、多数が配列される。また膨出部4とそれに隣接する膨出部4の間には樋部5があって、陸6側に凹入している。防潮堤1は、概略、前記のように構成されて、海3から陸6に接近する津波7を遮って、津波7の上陸を防ぎ、陸6に設置された建物8等を守る。
【0020】
図2は、防潮堤1の一部分を切り出して、その詳細な形態を示す平面図である。膨出部4は、船舶の球状船首に似た立体形状、つまり、先端において半球(下半分を欠くので四半球と言うべきかもしれない)をなすので、膨出部4の先端部の輪郭は、平面図(図2)において、半円形をなす。樋部5は膨出部4とそれに隣接する膨出部4の間にあって、膨出部4よりも低い。つまり、防潮堤1には膨出部4と樋部5が交互に配置され、膨出部4を櫛の歯に例えるならば、樋部5は歯と歯の間の隙間に相当する。あるいは、膨出部4を稜線に例えるならば、樋部5は谷筋に相当する。
【0021】
さて、図3は防潮堤1を図2のA−A’線で切断した断面図である。ここでは、図が煩雑になるのを避けるために、海底9の上に出ている部分の形状だけを示しているが、海底9の中には基礎構造が埋設されて、防潮堤1を海底9に強固に固定していることは言うまでもない。図3に示すように、膨出部4の横断面の輪郭線は、底部aから、海側に凸の円弧bを描いて立ち上がり、円弧bの頂点cに達し、その後、陸側に凸の曲線dを描いてオーバーハング部を形成し、終端eに達する。また、前記オーバーハング部の輪郭線の接線は終端eにおいて30°の仰角を有している。一方、樋部5の横断面の輪郭線は、底部fから、海側に凸の曲線gを描いて立ち上がり、徐々に陸側に倒れて陸側に昇り、その後、陸側に凸の曲線hを描いてオーバーハング部を形成し、終端iに達する。また、前記オーバーハング部の輪郭線の接線は終端iにおいて60°の仰角を有している。
【0022】
なお、円弧b、曲線d及び曲線hの曲率半径は、いずれもrであり、rは防潮堤1の設置場所で想定される津波の高さに等しい。
【0023】
また、図では表現し難いが、防潮堤1の海3側の表面は滑らかで連続した曲面で構成される。膨出部4と樋部5の間も滑らかで連続した曲面で連絡され、段差や不連続は存在しない。もっとも、「滑らかで連続した曲面」とは設計上の目標であって、現実の表面には、工作上の誤差に起因する歪みや、材料の性質に起因する粗面が存在することは言うまでもない。実用上、滑らかで連続していると見なせる曲面を備えていれば、十分である。
【0024】
さて、次に、防潮堤1の機能を説明する。海3から陸6に向かって進行する津波の第1波が防潮堤1に到達すると、海水の一部は膨出部4に衝突し、残りは樋部5に直接流入する。また、膨出部4に衝突した海水は、膨出部4の両側にある樋部5に流れ込む。膨出部4から樋部5に流れ込んだ海水は、樋部5に直接流入した海水と合流し、樋部5の輪郭線(図3参照)に沿って上昇する。つまり、海3から陸6へ水平に流れていた海水は、徐々に上に向かって流れ、さらにオーバーハング部(曲線h)に達すると、陸6から海3に向かって斜め上に流れる。そして、終端iを過ぎると、空中高く放擲される。海水は渦を巻きながら空中に放擲されるので、空中で海水は飛沫となって発散する。飛沫は、やがて海面に落下するが、もはや、特定方向(例えば、陸6から海3へ向かう方向)の速度を持たないから、特定の方向に進行する波を引き起こすことはない。
【0025】
なお、防潮堤1の寸法は、設置場所の条件に応じて決定される。例えば、その場所で想定される津波の高さをrとする場合に、膨出部4の間隔は2rから4rの間で選ぶ。また、樋部5の幅はrから2rの間で選ぶ(図2参照)。防潮堤1の海底からの高さは3rから4rの間で選ぶ(図3参照)
【0026】
ところで、津波は、一般には、非常に波長の長い単一の水面波と捉えられているが、地震による海底の挙動によって生じた、多数の波(ここでは、電気通信の用語を借用して「搬送波」と呼ぶことにする)が重畳して生じる現象であると考えるのが適当である。また、「搬送波」は海底の挙動によって生じた水圧変動であり、伝播中に水深により影響を受けるから、「搬送波」の周期Tは、次式で与えられる。ただし、hは水深であり、Cは海水中の音速(≒1500m/s)である。
【0027】
=4h/C (式1)
【0028】
また、津波の伝播速度Vは、次式で与えられる。ただし、hは水深(m)であり、gは重力加速度(m/s)である。
【0029】
V=√(g*h) (式2)
【0030】
また、「搬送波」の波長λ(m)は次式で与えられる。
【0031】
λ=V*T (式3)
【0032】
以上のようにして、「搬送波」の波長λを推定することができる。例えば、h=100mの時、λ≒8mになる。
【0033】
また、津波のエネルギーは、「搬送波」のエネルギーの総和であって、「搬送波」を減衰させれば、津波のエネルギーを減衰させることができる。
【0034】
さて、図4に示すように、海3から樋部5に直接に到達する行程d1と膨出部4を経由して樋部5に到達する行程d2の差(d2−d1)が「搬送波」の波長λの1/2つまりλ/2になるように、防潮堤1の形状を選べば、行程d1を辿って樋部5に到達した「搬送波」の位相と行程d2を辿って樋部5に到達した「搬送波」の位相は逆になるので、「搬送波」は樋部5において消滅する。このように、「搬送波」を次々に消滅させることによって、津波のエネルギーを消滅させることができる。もちろん、全ての「搬送波」について(d2−d1)をλ/2にすることはできないので、津波のエネルギーを完全に消滅させることはできないが、(d2−d1)を最適化すれば、津波のエネルギーの多くの部分を減衰させることができる。
【0035】
また、図5に示すように樋部5には、左右両隣の膨出部4から海水が流入して、衝突して飛散するから、海水が防潮堤1に対して斜めに(つまり、防潮堤1に平行な速度成分を持って)流入しても、海水が樋部5内で渦を巻いて留まって、その結果海水面が上昇することがない。
【0036】
また、防潮堤1(膨出部4及び樋部5)の表面に図6に示すようなディンプル10、つまり深さd=10〜20mm、直径D=100〜200mmの凹みを多数形成すれば、防潮堤1の表面を流れる海水の境界層を乱して、粘性摩擦抵抗を低減できる。このため、海水をより高く放擲して、飛沫をより広範囲に拡散することができる。
【0037】
このように、防潮堤1は、津波の伝播経路を2つに分けて、各伝播経路を経て樋部5に到達する津波に位相差を与えて、両者を干渉させて津波のエネルギーを減衰させることができる。また、防潮堤1に衝突した海水を空中高く、飛散させるので、減衰されずに残った津波のエネルギーを発散させることができる。その結果、陸上にある生命、財産を効果的に保護することができる。
【0038】
なお、上記実施形態は、本発明の具体的な実施態様を例示するものであって、本発明の技術的範囲は上記実施形態に例示されたものには限定されない。本発明は請求の範囲に示された技術的思想の範囲において、自由に、応用、変形、あるいは改良して実施することができる。
【0039】
例えば、図1において、防潮堤1を海岸線2から離して海3側に設置した例を示したが、防潮堤1を設置する位置はこれには限られない。防潮堤1は海岸線2上に設置されても良いし、海岸線2よりも陸6側に入った位置に設置されてもよい。
【0040】
また、図1に示した防潮堤1は全体として弓形の平面形を有しているが、防潮堤1の平面形は弓形には限定されない。設置場所の地形等に応じて自由に設計できる。
【0041】
また、図3において、膨出部4及び樋部5横断面の輪郭線におけるオーバーハング部の終端の接線の仰角を、それぞれ30°及び60°とする例を示したが、この仰角の値には、工作精度の限界等に起因する誤差が許容される。もっとも、だからと言って30°あるは60°と見なされる範囲が無制限に拡大される訳ではない。許容される誤差の範囲は当業者の技術常識に従う。
【0042】
防潮堤1の素材や構造、構築方法は特に限定されない。設計上の制約等に応じて、最適な素材や構造、構築方法を選択すればよい。防潮堤1の素材はコンクリートが一般的だが、代替的な素材があれば、それを選択しても良い。また、コンクリートは現地で打設されてもよいし、プレキャストされたコンクリート塊を現地で積み上げてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の防潮堤は、海岸に設置されて津波の被害を防ぐ防潮堤として利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 防潮堤
2 海岸線
3 海
4 膨出部
5 樋部
6 陸
7 津波
8 建物
9 海底
10 ディンプル
図1
図2
図3
図4
図5
図6