(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798640
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】セルロースエステル組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 1/08 20060101AFI20151001BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
C08L1/08
C08K5/11
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-552034(P2013-552034)
(86)(22)【出願日】2013年10月15日
(86)【国際出願番号】JP2013077932
(87)【国際公開番号】WO2014061644
(87)【国際公開日】20140424
【審査請求日】2015年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-231816(P2012-231816)
(32)【優先日】2012年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501041528
【氏名又は名称】ダイセルポリマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】今西 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】奥村 泰男
(72)【発明者】
【氏名】柳井 一伸
【審査官】
安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第03/087031(WO,A1)
【文献】
特開2005−023091(JP,A)
【文献】
特開2008−260895(JP,A)
【文献】
特開2005−146261(JP,A)
【文献】
特開2012−025804(JP,A)
【文献】
特開2007−077300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/08
C08K 5/11
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロースエステルと(B)可塑剤を含んでおり、
前記(B)成分の可塑剤が、下記式(I)、(II)及び(III)でそれぞれ表されるアジピン酸エステルから選ばれる少なくとも一種を含んでいるセルロースエステル組成物。
【化1】
【請求項2】
(B)成分の可塑剤が式(I)表されるアジピン酸エステルを含んでいる、請求項1記
載のセルロースエステル組成物。
【請求項3】
(B)成分の可塑剤が式(I)、(II)、(III)で表されるアジピン酸エステルの混合物である、請求項1記載のセルロースエステル組成物。
【請求項4】
(A)セルロースエステルと(B)可塑剤を含んでおり、
前記(B)成分の可塑剤が、下記一般式(IV)、(V)及び(VI)でそれぞれ表されるアジピン酸エステルから選ばれる少なくとも一種を含んでいるセルロースエステル組成物。
【化2】
(一般式(IV)、(V)、(VI)中、nは縮合度を示す0〜5の整数であり、n=0のものとn=1〜5のものを含んでいる。)
【請求項5】
前記(B)成分の可塑剤が、一般式(IV)、(V)、(VI)で表されるアジピン酸エステルの合計量中、n=0のものを10質量%以上含有している、請求項4記載のセルロースエステル組成物。
【請求項6】
(A)成分のセルロースエステル100質量部に対して、(B)成分の可塑剤1〜50質量部を含有する、請求項1〜5のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物。
【請求項7】
(A)成分のセルロースエステルが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートから選ばれるものである請求項1〜5のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物。
【請求項8】
(A)成分のセルロースエステルが、置換度2.7以下のセルロースアセテートである、請求項1〜5のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテート等のセルロースエステルは一般的に熱可塑性が乏しいため、通常は可塑剤を含む組成物として使用されている。
【0003】
特開平10−306175号公報は、脂肪酸セルロースエステル系樹脂組成物に関する発明であり、公知の可塑剤を配合できることが記載されている(段落番号0023)。
特開2005−194302号公報は、平均置換度2.7以下のセルロースエステル、可塑剤及び充填剤で構成された樹脂組成物に関する発明である。可塑剤としては、リン酸エステル等を使用できることが記載されている(段落番号0020)。
特開2008−260895号公報は、ポリ乳酸樹脂に対して可塑剤として効果のあるベンジルアルキルジグリコールアジペートを配合したポリ乳酸樹脂組成物を含むフィルムの発明である。実施例では、ベンジルメチルジグリコールアジペートが使用されている(段落番号0034)。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、高い熱可塑性を有するセルロースエステル組成物を提供することを課題とする。
【0005】
本発明は、課題の解決手段として、
(A)セルロースエステルと(B)可塑剤を含んでおり、
前記(B)成分の可塑剤が、下記式(I)、(II)及び(III)でそれぞれ表されるアジピン酸エステルから選ばれる少なくとも一種を含んでいるセルロースエステル組成物を提供する。
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、
(A)セルロースエステルと(B)可塑剤を含んでおり、
前記(B)成分の可塑剤が、下記一般式(IV)、(V)及び(VI)でそれぞれ表されるアジピン酸エステルから選ばれる少なくとも一種を含んでいるセルロースエステル組成物を提供する。
【0008】
【化2】
(一般式(IV)、(V)、(VI)中、nは縮合度を示す0〜5の整数であり、n=0のものとn=1〜5のものを含んでいる。Meはメチル基を示す。)
【0009】
本発明のセルロースエステル組成物は、高い熱可塑性を有している。
【0010】
<(A)成分>
本発明の組成物で用いる(A)成分のセルロースエステルは公知のものであり(例えば、特開平10−306175号公報、特開2005−194302号公報に記載されているもの)、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートを挙げることができる。
その他、ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテート、アセチルメチルセルロース、アセチルエチルセルロース、アセチルプロピルセルロース、アセチルヒドロキシエチルセルロース、アセチルヒドロキシプロピルセルロース等も挙げることができる。
【0011】
(A)成分のセルロースエステルは、平均置換度が2.7以下のセルロースアセテートが好ましい。
(A)成分のセルロースエステルの重合度は、粘度平均重合度が100〜1000、好ましくは100〜500である。
【0012】
<(B)成分>
本発明の組成物で用いる(B)成分の可塑剤は、下記式(I)、(II)、(III)で表されるアジピン酸エステルから選ばれるものを含んでいる。なお、「Me」はメチル基を示している。
【0014】
(B)成分の可塑剤は、
式(I)、(II)、(III)で表されるアジピン酸エステル中、
式(I)のアジピン酸エステルのみを含むもの、
式(I)と式(II)のアジピン酸エステルの混合物を含むもの、
式(I)、式(II)および式(III)のアジピン酸エステルの混合物を含むもの、
を使用することができる。
【0015】
(B)成分として式(I)と式(II)のアジピン酸エステルの混合物を含むものを使用するとき、
式(I)のアジピン酸エステルの含有割合は35〜80質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましく、
式(II)のアジピン酸エステルの含有割合は65〜20質量%が好ましく、60〜20質量%がより好ましい。
【0016】
(B)成分として式(I)、(II)、(III)のアジピン酸エステルの混合物を含むものを使用するとき、
式(I)のアジピン酸エステルの含有割合は35〜80質量%が好ましく、40〜75質量%がより好ましく、
式(II)のアジピン酸エステルの含有割合は15〜50質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましく、
式(III)のアジピン酸エステルの含有割合は5〜35質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。
【0017】
本発明の組成物は、(B)成分の可塑剤として、下記一般式(IV)、(V)、(VI)で表されるアジピン酸エステルから選ばれるものを含むものを使用することもできる。
【0018】
【化4】
(一般式(IV)、(V)、(VI)中、nは縮合度を示す0〜5の整数であり、n=0のものとn=1〜5のものを含んでいる。)
【0019】
(B)成分の可塑剤に含まれている一般式(IV)、(V)、(VI)で表されるアジピン酸エステルは、それぞれがn=0のものと、n=1〜5のものとの混合物である。
一般式(IV)、(V)、(VI)で表されるアジピン酸エステルの平均縮合度(N)は0<N<5の範囲であるが、0<N≦4が好ましく、0<N≦3がより好ましい。
【0020】
(B)成分の可塑剤が、一般式(IV)、(V)、(VI)で表されるアジピン酸エステルを含んでいるとき、一般式(IV)、(V)、(VI)で表されるアジピン酸エステルの合計量中のn=0のアジピン酸エステルの含有割合は、10質量%以上が好ましく、10〜70質量%がより好ましく、15〜60質量%がさらに好ましい。
なお、n=0のアジピン酸エステルは、上記した式(I)、(II)、(III)のアジピン酸エステルである。
【0021】
一般式(IV)、(V)、(VI)で表されるアジピン酸エステルに含まれるn=0のアジピン酸エステル中の式(I)、(II)、(III)のアジピン酸エステルは、
式(I)のアジピン酸エステルのみを含むもの、
式(I)と式(II)のアジピン酸エステルの混合物を含むもの、
式(I)、式(II)および式(III)のアジピン酸エステルの混合物を含むもの、
を使用することができる。
【0022】
n=0のアジピン酸エステルが、式(I)と式(II)のアジピン酸エステルの混合物であるとき、
式(I)のアジピン酸エステルの含有割合は35〜80質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましく、
式(II)のアジピン酸エステルの含有割合は65〜20質量%が好ましく、60〜20質量%がより好ましい。
【0023】
n=0のアジピン酸エステルが、式(I)、(II)、(III)のアジピン酸エステルの混合物であるとき、
式(I)のアジピン酸エステルの含有割合は35〜70質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましく、
式(II)のアジピン酸エステルの含有割合は15〜50質量%が好ましく、15〜40質量%がより好ましく、
式(III)のアジピン酸エステルの含有割合は15〜35質量%が好ましく、15〜30質量%がより好ましい。
【0024】
本発明の組成物中の(A)成分と(B)成分の含有割合は、(A)成分100質量部に対して、(B)成分が1〜50質量部であり、好ましくは5〜30質量部である。
【0025】
本発明の組成物は、用途に応じて公知の熱可塑性樹脂を含有することができる。
公知の熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂、AS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612等のポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂等を挙げることができる。
公知の熱可塑性樹脂の含有割合は、(A)成分のセルロースエステルとの合計量中、40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0026】
本発明の組成物は、(B)成分の可塑剤のほかに公知の可塑剤も含有することができる。
例えば、
芳香族カルボン酸エステル[フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシルなどのフタル酸ジC1-12アルキルエステル、フタル酸ジメトキシエチルなどのフタル酸C1-6アルコキシC1-12アルキルエステル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸C1-12アルキル・アリール−C1-3アルキルエステル、エチルフタリルエチレングリコレート、ブチルフタリルブチレングリコレートなどのC1-6アルキルフタリルC2-4アルキレングリコレート、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリエチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリ2−エチルヘキシルなどのトリメリット酸トリC1-12アルキルエステル、ピロメリット酸テトラオクチルなどのピロメリット酸テトラC1-12アルキルエステルなど]、
脂肪酸エステル[アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ブトキシエトキシエチル・ベンジル、アジピン酸ジブトキシエトキシエチルなどのアジピン酸エステル、アゼライン酸ジエチル、アゼライン酸ジブチル、アゼライン酸ジオクチルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチルなどのセバシン酸エステル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチルなど]、
多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなど)の低級脂肪酸エステル[トリアセチン、ジグリセリンテトラアセテートなど]、
グリコールエステル(ジプロピレングリコールジベンゾエートなど)、
クエン酸エステル[クエン酸アセチルトリブチルなど]、
アミド類[N−ブチルベンゼンスルホンアミドなど]、
エステルオリゴマー(カプロラクトンオリゴマーなど)などを含有してもよい。
これらの可塑剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0027】
本発明の組成物は、さらに充填剤を含有することができる。
充填剤としては、繊維状充填剤、非繊維状充填剤(粉粒状又は板状充填剤など)が含まれ、例えば、特開2005−194302号公報の段落番号0025〜0032に記載のものを挙げることができる。
充填剤の含有割合は、(A)成分のセルロースエステル100質量部に対して、5〜50質量部が好ましく、より好ましくは5〜40質量部、さらに好ましくは5〜30質量部である。
【0028】
本発明の組成物は、特開2005−194302号公報の段落番号0035〜0042に記載のエポキシ化合物、段落番号0043〜0052に記載の有機酸、チオエーテル、亜リン酸エステル化合物等の安定化剤を含有することができる。
【0029】
本発明の組成物は、用途に応じて、慣用の添加剤、例えば、他の安定化剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、着色剤(染料、顔料など)、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、分散剤、流動化剤、ドリッピング防止剤、抗菌剤等を含んでいてもよい。
【0030】
本発明の組成物は、例えば、各成分をタンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ニーダーなどの混合機を用いて乾式又は湿式で混合して調製してもよい。
さらに、前記混合機で予備混合した後、一軸又は二軸押出機などの押出機で混練してペレットに調製する方法、加熱ロールやバンバリーミキサー等の混練機で溶融混練して調製する方法を適用することができる。
【0031】
本発明の組成物は、射出成形、押出成形、真空成形、異型成形、発泡成形、インジェクションプレス、プレス成形、ブロー成形、ガス注入成形等によって各種成形品に成形することができる。
【0032】
本発明の組成物は、例えば、OA・家電機器分野、電気・電子分野、通信機器分野、サニタリー分野、自動車等の輸送車両分野、家具・建材等の住宅関連分野、雑貨分野等の各パーツ、ハウジング等に使用することができる。
【実施例】
【0033】
実施例および比較例
湿熱条件下での質量減少率測定用のサンプルは、(株)東洋精機製作所製のバッチ式混練装置”ラボプラストミル“に表2に示す(A)成分のセルロースアセテートと、表1、表2に示す(B)成分の可塑剤、表2に示す比較用成分を投入し、設定温度210℃、ブレードの回転数100r/m、混練時間5分の条件で混練して各組成物を得た。
【0034】
(A)成分
セルロースアセテート:(株)ダイセル製、商品名「L50」、置換度2.5、粘度平均重合度180
【0035】
(B)成分
製造例1(表1のB−1に示す可塑剤)
温度計、攪拌機、コンデンサーおよび水分け装置を備えた1リットルの四つ口フラスコにアジピン酸146.1g(1モル)、ベンジルアルコール 129.8g(1.2モル)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル144.2g(1.2モル)、パラトルエンスルホン酸0.95g、トルエン120gを入れ、水分け装置を用いて生成する水を抜き出しながら、8時間還流して反応させた。
炭酸ナトリウム2.9gと水を用いて中和した後、水洗、脱溶剤、水蒸気蒸留にて残存溶剤、残存アルコールを除去し、表1のB−1に示す組成の目的物を収率96.9%で得た。
【0036】
なお、式(I)、(II)、(III)で示されるアジピン酸エステルの含有割合は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定した。測定条件を次に示す。
カラム: DB-1 30m 0.32mmφ film 0.25μm
温度:試料気化室 200℃
カラム恒温槽 50℃(5min)−15℃/min−250℃(10min)
検出器 280℃
キャリアガス:He(入り口圧 100kPa)
検出器:FID(H2 40.0mL/min, Air 400.0mL/min)
スプリット 54
注入量: 0.5μl(サンプル約0.2g/10mlアセトン)
【0037】
製造例2(表1のB−2に示す可塑剤)
ベンジルアルコールの量を77.9g(0.72モル)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの量を201.8g(1.68モル)にした以外は製造例1と同じ方法で表1のB−2に示す組成の目的物を収率92.3%で得た。
【0038】
製造例3(表1のB−3に示す可塑剤)
温度計、攪拌機、コンデンサーおよび水分け装置を備えた0.5リットルの四つ口フラスコにアジピン酸146.1g(1モル)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル120.2g(1モル)、パラトルエンスルホン酸0.95g、トルエン100gを入れ、水分け装置を用いて生成する水を抜き出しながら4.5時間還流して反応させた。反応液を5℃まで冷却し、析出した未反応のアジピン酸を濾別し除去した。
ろ液をフラスコに戻し、炭酸ナトリウム28.3gと水170gを入れ70℃で30分反応させた。反応溶液を水層と油層に静置分離し、水層を脱水しナトリウム塩145.9gを得た。
得られたナトリウム塩に塩化ベンジル73.4g(0.58モル)、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム12.2g、トルエン130gを加え、80℃で2時間反応させた。その後水洗、中和、脱溶剤、水蒸気蒸留を行い、目的物である式(I)で表される化合物146.3gを得た。
【0039】
製造例4(表1のB−4に示す可塑剤)
温度計、攪拌機、コンデンサーおよび水分け装置を備えた1リットルの四つ口フラスコにアジピン酸146.1g(1モル)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル288.2g(2.4モル)、パラトルエンスルホン酸0.95g、トルエン120gを入れ水分け装置を用いて生成する水を抜き出しながら、8時間還流して反応させた。
炭酸ナトリウム2.9gと水を用いて中和した後、水洗、脱溶剤、水蒸気蒸留にて残存溶剤、残存アルコールを除去し、式(II)で表される化合物を収率94.6%で得た。
上記製造例3で得た式(I)で表される化合物と表1のB−4に示す組成で混合し、目的物を得た。
【0040】
製造例5(表1のB−5に示す可塑剤)
温度計、攪拌機、コンデンサーおよび水分け装置を備えた1リットルの四つ口フラスコにアジピン酸291.9g(2.0モル)、エチレングリコール48.2g(0.8モル)、テトライソプロピルチタネート0.12g、トルエン42.6gを入れ、水分け装置
を用いて生成する水を抜き出しながら、10時間還流して反応させた。
次いで、ベンジルアルコール 161.2g(1.49モル)、ジエチレングリコール
モノメチルエーテル179.0g(1.49モル)を追加し、生成する水を抜き出しながら、11時間還流して反応させた。
脱溶剤、水蒸気蒸留にて残存溶剤、残存するアルコールを除去し、表1の
B−5に示す組成の目的物を収率100%で得た。
【0041】
製造例6(表1のB−6に示す可塑剤)
エチレングリコールの量を105.5g(1.7モル)、ベンジルアルコールの量を
102.7g(0.95モル)、 ジエチレングリコールモノメチルエーテルの量を114.1g(0.95モル)にした以外は製造例
5と同じ方法で表1の
B−6に示す組成の目的物を収率100%で得た。
【0042】
【表1】
【0043】
(B−5)は、式(I-1)、(II-1)、(III-1)のアジピン酸エステル(n=0)を含み、残部として下記の式(IV-1)、(V-1)、(VI-1)を含んでいる。
(B−6)は、式(I-1)、(II-1)、(III-1)のアジピン酸エステル(n=0)を含み、残部として下記の式(IV-2)、(V-2)、(VI-2)を含んでいる。
【0044】
【化5】
【0045】
一般式(IV-1)、(V-1)、(VI-1)、(IV-2)、(V-2)、(VI-2)中の数値は、一般式(IV)、(V)、(VI)中のn=0およびn=1〜5の混合物となったときの平均縮合度(N)を示す。
平均縮合度(N)は次の方法で測定したエステル価より求めた。
サンプル約1gを秤量し、0.5モル/LのKOHのエタノール溶液を25ml追加し、湯浴で1時間分解、その後、0.5モル/L塩酸水溶液にて滴定し、フェノールフタレインを指示薬に消費されたKOH量より算出した。
エステル価は、サンプル1gを鹸化するのに必要な水酸化カリウムのmg数であり、
次式:エステル価=1分子中のエステル結合の数×56.1×1000/分子量、
で求められる。
一般式(IV)、(V)、(VI)の場合、エステル結合の数および分子量は縮合度から求められるので、エステル価の値から、平均縮合度Nを求めることができる。
例えば、一般式(IV)の平均分子量は338.40+172.18×N、エステル結合の平均数は、2N+2となるので、一般式(IV)のエステル価は次の式で求められる。
一般式(IV)のエステル価
=(2N+2)×56.1×1000/(338.40+172.18×N)
表1のB−5やB−6で示される可塑剤は、一般式(IV)、(V)、(VI)の混合物であるが、一般式(IV)が主成分と考えられるため、一般式(IV)として上記式から計算例を示した。
B−5で示される可塑剤の場合、エステル価は392.2であり、上記式からNを計算すると0.45となる。
また、n=0の割合や、n=0中の式(I)、(II)、(III)の割合は、上記したGC測定より求めた。
【0046】
比較用(B)成分:商品名「DRA150」(トリアセチン)(ジグリセリンテトラアセテート),(株)ダイセル製
【0047】
実施例および比較例の各組成物を使用して、以下に示す方法で各評価試験を実施した。評価結果を表2に示す。
ヘンシェルミキサーを用いて、ミキサー内の摩擦熱で70℃以上となるように各組成物を攪拌混合した後、二軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス温度:220℃)に供給し、押し出してペレット化した。
得られたペレットを、射出成形機に供給して、シリンダー温度200℃、金型温度50℃、成形サイクル30秒(射出15秒、冷却時間15秒)の条件で試験片を射出成形して、各評価試験に使用した。
【0048】
(MFR)
ISO1133に基づいて、温度220℃及び荷重10kgで測定した。MFRが大きいほど、熱可塑性が良いことを示している。
【0049】
(引張呼び歪み)
ISO527に準拠して、試験片の引張呼び歪みを測定した(引張呼び歪み単位:%)。
【0050】
(耐衝撃性(シャルピー))
ISO179/1eAに準じてシャルピー衝撃強さ(kJ/m
2)を測定した(単位:KJ/m
2)。
【0051】
(湿熱条件下での質量減少率)
”ラボプラストミル“を用いて得られたセルロースアセテート組成物を、プレス成形機を用い、設定温度210℃で、80×50×2mmの板状サンプルを作製した。この板状サンプルを65℃、85%RHの雰囲気中に500時間放置したときの質量減少率(24時間後の質量に対する減少率)を求めた。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例1〜6は、比較例1と比べてMFR値が大きく、高い熱可塑性を有していた。特に式(I)のアジピン酸エステルの含有量が高く、さらに式(III)のアジピン酸エステルの含有量が少ない方が熱可塑性が高かった。