特許第5798658号(P5798658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5798658
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】車両の車線逸脱防止制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20151001BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20151001BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20151001BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20151001BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20151001BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20151001BHJP
   B62D 133/00 20060101ALN20151001BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20151001BHJP
【FI】
   B62D6/00ZYW
   G08G1/16 C
   B60R21/00 624F
   B60R21/00 624C
   B60R21/00 626B
   B60R21/00 626E
   B62D5/04
   B62D101:00
   B62D113:00
   B62D133:00
   B62D137:00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-69710(P2014-69710)
(22)【出願日】2014年3月28日
【審査請求日】2014年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 武
(72)【発明者】
【氏名】玉置 健
【審査官】 重田 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−243783(JP,A)
【文献】 特開2010−030387(JP,A)
【文献】 特開2008−207805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60R 21/00
B62D 5/04
G08G 1/16
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 133/00
B62D 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行している車線を検出する車線検出手段と、
上記車線における車両の位置情報と走行状態に基づき上記車線からの逸脱予想を行う逸脱予想手段と、
上記車線からの逸脱予想に基づいて上記車線からの逸脱を防止するのに必要な車両に付加する目標旋回量を算出する目標旋回量算出手段と、
上記目標旋回量に追従するように車両にヨーモーメントを発生させる目標ヨーモーメント算出手段と、
上記目標ヨーモーメントの変化率を観測し、該目標ヨーモーメントの変化率が予め設定する閾値を超える場合に、上記目標旋回量の変化率を少なくとも上記車両が走行している車線情報に応じて可変設定した変化率制限値で制限して出力する目標旋回量変化率制限手段と、
を備えたことを特徴とする車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項2】
上記変化率制限値は、少なくとも車速に応じて可変設定するものであって、車速が高いほど大きな値に設定することを特徴とする請求項1記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項3】
上記変化率制限値は、少なくとも上記車線のカーブでの逸脱方向と車線曲率とに応じて可変設定するものであって、上記車線のカーブ外側に逸脱する場合は、車線曲率が大きくなるほど上記変化率制限値を大きな値に設定する一方、上記車線のカーブ内側に逸脱する場合は、車線曲率が大きくなるほど上記変化率制限値を小さな値に設定することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項4】
上記変化率制限値は、少なくとも上記車線のカント角に応じて可変設定するものであって、車両が上記カントの下り方向に逸脱する場合は、上記カントが大きくなるほど上記変化率制限値を大きな値に設定する一方、上記カントの登り方向に逸脱する場合は、上記カントが大きくなるほど上記変化率制限値を小さな値に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項5】
上記変化率制限値は、少なくとも上記車線幅に応じて可変設定するものであって、上記車線幅が広いほど上記変化率制限値を小さな値に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が走行車線から逸脱しそうな場合に、アクチュエータを作動させることにより、車両にヨーモーメントを付与させることで車線からの逸脱を防止する制御を行う車両の車線逸脱防止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、運転を支援する様々な装置が開発、実用化されており、車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御装置もそのような装置の一つである。例えば、特開平7−105498号公報(以下、特許文献1)では、自車両の推定進行路と車線の側縁との交点までの距離と、交点における推定進行路と側縁とのなす角度とに基づき、車線からの逸脱状態を予測し、該予測に基づいて逸脱を防止すべく自動的な修正操舵を行う自動車の走行状態判定装置の技術が開示されている。また、特開2008−195402号公報(以下、特許文献2)では、車線逸脱判定手段により、走行中の車両が車線を逸脱すると判断したときに車両に警報トルクを付加して車線逸脱を防止する運転支援装置において、車両に付加する警報トルクの最大値に基づいて警報トルクの最大値に到達するまでの警報トルクの変化率を、警報トルクが最大値に到達するまでの時間が一定となるように警報トルクの変化率を設定する運転支援装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−105498号公報
【特許文献2】特開2008−195402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
すなわち、上述の特許文献1に開示される走行状態判定装置の技術において、車線逸脱を防止するために車両に付加する目標旋回量の変化率の値が一定の値で、設定した目標旋回量が唐突に出力されると操舵系や車両挙動が急激に変動してドライバに違和感を与えてしまう課題がある。このため、上述の特許文献2では、発生させる警報トルク(目標旋回量)の変化率を変化させてドライバが感じる車両挙動が大きくならないようにしている。しかしながら、このような目標旋回量の変化率の変更のみでは、例えばカーブ外(内)側逸脱時や、外乱作用による逸脱時に変化率抑制の影響を受け、車両挙動変動の抑制のみならず、車両の逸脱防止が困難になってしまう虞もある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、車線逸脱制御により生じる車両挙動の変動を抑制してドライバに違和感を与えることがなく、確実に車線からの逸脱を防止することができる車両の車線逸脱防止制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の車線逸脱防止制御装置の一態様は、車両が走行している車線を検出する車線検出手段と、上記車線における車両の位置情報と走行状態に基づき上記車線からの逸脱予想を行う逸脱予想手段と、上記車線からの逸脱予想に基づいて上記車線からの逸脱を防止するのに必要な車両に付加する目標旋回量を算出する目標旋回量算出手段と、上記目標旋回量に追従するように車両にヨーモーメントを発生させる目標ヨーモーメント算出手段と、上記目標ヨーモーメントの変化率を観測し、該目標ヨーモーメントの変化率が予め設定する閾値を超える場合に、上記目標旋回量の変化率を少なくとも上記車両が走行している車線情報に応じて可変設定した変化率制限値で制限して出力する目標旋回量変化率制限手段とを備えた。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両の車線逸脱防止制御装置によれば、車線逸脱制御により生じる車両挙動の変動を抑制してドライバに違和感を与えることがなく、確実に車線からの逸脱を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の一形態に係る車両の操舵系の構成説明図である。
図2】本発明の実施の一形態に係る車線逸脱防止制御プログラムのフローチャートである。
図3】本発明の実施の一形態に係る目標ヨーモーメント制限処理ルーチンのフローチャートである。
図4】本発明の実施の一形態に係るX−Z座標上における自車両及び車線と各パラメータの説明図である。
図5】本発明の実施の一形態に係る車速感応ゲインの特性の一例を示す説明図である。
図6】本発明の実施の一形態に係る曲率感応ゲインの特性の一例を示し、図6(a)はカーブ外側に逸脱する場合の特性の一例を示し、図6(b)はカーブ内側に逸脱する場合の特性の一例を示す。
図7】本発明の実施の一形態に係るカント感応ゲインの特性の一例を示し、図7(a)は車両がカントの下り方向に逸脱する場合の特性の一例を示し、図7(b)は車両がカントの登り方向に逸脱する場合の特性の一例を示す。
図8】本発明の実施の一形態に係る車線幅感応ゲインの特性の一例を示す説明図である。
図9】本発明の実施の一形態に係る図6の説明図である。
図10】本発明の実施の一形態に係る図7の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は操舵角をドライバ入力と独立して設定自在な電動パワーステアリング装置を示し、この電動パワーステアリング装置1は、ステアリング軸2が、図示しない車体フレームにステアリングコラム3を介して回動自在に支持されており、その一端が運転席側へ延出され、他端がエンジンルーム側へ延出されている。ステアリング軸2の運転席側端部には、ステアリングホイール4が固設され、また、エンジンルーム側へ延出する端部には、ピニオン軸5が連設されている。
【0010】
エンジンルームには、車幅方向へ延出するステアリングギヤボックス6が配設されており、このステアリングギヤボックス6にラック軸7が往復移動自在に挿通支持されている。このラック軸7に形成されたラック(図示せず)に、ピニオン軸5に形成されたピニオンが噛合されて、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤ機構が形成されている。
【0011】
また、ラック軸7の左右両端はステアリングギヤボックス6の端部から各々突出されており、その端部に、タイロッド8を介してフロントナックル9が連設されている。このフロントナックル9は、操舵輪としての左右輪10L,10Rを回動自在に支持すると共に、車体フレームに転舵自在に支持されている。従って、ステアリングホイール4を操作し、ステアリング軸2、ピニオン軸5を回転させると、このピニオン軸5の回転によりラック軸7が左右方向へ移動し、その移動によりフロントナックル9がキングピン軸(図示せず)を中心に回動して、左右輪10L,10Rが左右方向へ転舵される。
【0012】
また、ピニオン軸5にアシスト伝達機構11を介して、電動パワーステアリングモータ(電動モータ)12が連設されており、この電動モータ12にてステアリングホイール4に加える操舵トルクのアシスト、及び、設定された目標旋回量(例えば、目標ヨーレート)となるような操舵トルクの付加が行われる。電動モータ12は、後述する操舵制御部20から制御出力値としての目標トルクTpがモータ駆動部21に出力されてモータ駆動部21により駆動される。
【0013】
操舵制御部20は、ドライバの操舵力を補助する電動パワーステアリング制御機能、車両を目標進行路に沿って走行させるレーンキープ制御機能、車線の車線区画線(左右白線)からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御機能等を有して構成され、本実施の形態では、車線逸脱防止制御機能の構成について説明する。
【0014】
操舵制御部20には、車線区画線(左右白線)を検出し、車線区画線から車線情報と、車線に対する車両の姿勢角・位置情報を取得する車線検出手段としての前方認識装置31が接続され、車速Vを検出する車速センサ32、操舵角(実舵角)θpを検出する操舵角センサ33、ヨーレートγを検出するヨーレートセンサ34、車線のカント角θcaを検出するカント角検出センサ35が接続されている。
【0015】
前方認識装置31は、例えば、車室内の天井前方に一定の間隔をもって取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像する1組のCCDカメラと、このCCDカメラからの画像データを処理するステレオ画像処理装置とから構成されている。
【0016】
前方認識装置31のステレオ画像処理装置における、CCDカメラからの画像データの処理は、例えば以下のように行われる。まず、CCDカメラで撮像した自車両の進行方向の1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から距離情報を求め、距離画像を生成する。
【0017】
白線データの認識では、白線は道路面と比較して高輝度であるという知得に基づき、道路の幅方向の輝度変化を評価して、画像平面における左右の白線の位置を画像平面上で特定する。この白線の実空間上の位置(x,y,z)は、画像平面上の位置(i,j)とこの位置に関して算出された視差とに基づいて、すなわち、距離情報に基づいて、周知の座標変換式より算出される。自車両の位置を基準に設定された実空間の座標系は、本実施の形態では、例えば、図4に示すように、ステレオカメラの中央真下の道路面を原点として、車幅方向をX軸(左方向を「+」)、車高方向をY軸(上方向を「+」)、車長方向(距離方向)をZ軸(前方向を「+」)とする。このとき、X−Z平面(Y=0)は、道路が平坦な場合、道路面と一致する。道路モデルは、道路上の自車両の車線を距離方向に複数区間に分割し、各区間における左右の白線を所定に近似して連結することによって表現される。尚、本実施の形態では、車線の形状を1組のCCDカメラからの画像を基に認識する例で説明したが、他に、単眼カメラ、カラーカメラからの画像情報を基に求めるものであっても良い。
【0018】
また、カント角検出センサ35は、例えば、以下の(1)式により、カント角θcaを算出するようになっている。
θca=sin−1((G’−G)/g) …(1)
ここで、Gは横加速度センサ(図示せず)で検出した横加速度値で、G’は、例えば、以下の(2)式により算出される計算横加速度値で、gは重力加速度である。
G’=(1/(1+As・V))・(V/Lw)・θp …(2)
ここで、Asは車両固有のスタビリティファクタで、Lwはホイールベースである。
【0019】
尚、カント角θcaは、他に、図示しないナビゲーションシステムの地図情報等から得られるものであっても良い。
【0020】
そして、操舵制御部20は、上述の車線区画線位置情報、各センサ信号を基に、車線の幅方向の車両位置(車線幅方向車両横位置)xvを算出し、車線に対する車両のヨー角θyawを算出し、車線幅方向車両横位置xvとヨー角θyawと車速Vに基づいて車線から逸脱する車線逸脱予想時間Tttlcを算出し、ヨー角θyawと車線逸脱予想時間Tttlcとに基づいて車線からの逸脱を防止する目標ヨーレートγtを算出し、該目標ヨーレートγtと実際のヨーレートγを基に車線からの逸脱を防止するのに必要な車両に付加する目標旋回量としての目標ヨーモーメントMztを算出し、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtを観測し、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtが予め設定する閾値ΔMztc以上の場合に、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtを少なくとも走行路情報に応じて可変設定した変化率制限値Δrate以下になるよう制限して出力(今回の目標ヨーモーメントMzt(i))し、この今回の目標ヨーモーメントMzt(i)を基に目標トルクTpを算出してモータ駆動部21に出力する。また、車線逸脱予想時間Tttlcは、警報制御装置40に対しても出力され、警報制御装置40で、車線逸脱予想時間Tttlcと予め設定しておいた閾値とが比較され、車線逸脱予想時間Tttlcが閾値より短くなった場合には、音声、チャイム音等の聴覚的な警報や、モニタ表示等の視覚的な警報により、ドライバに対して車線逸脱警報が発せられる。このように、操舵制御部20は、逸脱予想手段、目標旋回量算出手段、目標ヨーモーメント算出手段、目標旋回量変化率制限手段の機能を有して構成されている。
【0021】
以下、図2のフローチャートを基に、操舵制御部20で実行される車線逸脱防止制御を説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、前方認識装置31で取得した左右白線の近似処理を実行する。
【0022】
自車両の左側の白線は最小自乗法により、以下の(3)式により近似される。
x=AL・z+BL・z+CL …(3)
また、自車両の右側の白線は最小自乗法により、以下の(4)式により近似される。
x=AR・z+BR・z+CR …(4)
ここで、上述の(3)式、(4)式における、「AL」と「AR」は、それぞれの曲線における曲率を示し、左側の白線の曲率κは、2・ALであり、右側の白線の曲率κは、2・ARである。また、(3)式、(4)式における、「BL」と「BR」は、それぞれの曲線の自車両の幅方向における傾きを示し、「CL」と「CR」は、それぞれの曲線の自車両の幅方向における位置を示す(図4参照)。
【0023】
次いで、S102に進み、自車両の対車線ヨー角θyawを、以下の(5)式により算出する。
θyaw=(BL+BR)/2 …(5)
次に、S103に進み、車線の中央からの自車両位置である車線幅方向車両横位置xvを、以下の(6)式により算出する。
xv=(CL+CR)/2 …(6)
次いで、S104に進み、車線車両間距離Lを、以下の(7)式により算出する。
L=((CL−CR)−TR)/2−xv …(7)
ここで、TRは車両のトレッドであり、本発明の実施の形態では、タイヤ位置を車線逸脱判定の基準に用いるものとする。
【0024】
次に、S105に進み、車線から逸脱する車線逸脱予想時間Tttlcを、例えば、以下の(8)式により算出する。
Tttlc=L/(V・sin(θyaw)) …(8)
そして、S106に進み、上述の車線逸脱予想時間Tttlcが警報制御装置40に出力され、この警報制御装置40で、車線逸脱予想時間Tttlcと予め設定しておいた閾値とが比較され、車線逸脱予想時間Tttlcが閾値より短くなった場合には、音声、チャイム音等の聴覚的な警報や、モニタ表示等の視覚的な警報により、ドライバに対して車線逸脱警報が発せられる。
【0025】
次に、S107に進み、車線からの逸脱を防止する目標ヨーレートγtを、以下の(9)式により算出する。
γt=−θyaw/Tttlc …(9)
次いで、S108に進み、上述のS107で算出した目標ヨーレートγtを基に、車線からの逸脱を防止するのに必要な車両に付加する目標旋回量としての目標ヨーモーメントMztを、以下の(10)式により算出する。
Mzt=Kp・(γt−γ)+Ki・∫(γt−γ)
+Kd・d(γt−γ)/dt …(10)
ここで、Kpは比例ゲイン、Kiは積分ゲイン、Kdは微分ゲインである。
【0026】
次に、S109に進み、後述の図3のフローチャートで説明する、目標ヨーモーメント制限処理を行って、今回の目標ヨーモーメントMzt(i)を算出する。
【0027】
そして、S110に進んで、以下の(11)式により目標トルクTpを算出してモータ駆動部21に出力する。
Tp=K・Mzt(i) …(11)
ここで、Kは予め設定しておいたトルク変換ゲインである。
【0028】
次に、上述のS109で実行される目標ヨーモーメント制限処理を、図3のフローチャートで説明する。
まず、S201で、目標ヨーモーメントの変化率(時間微分値)dMzt/dtを算出する。
【0029】
次に、S202に進み、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtと予め設定する閾値ΔMztcとを比較し、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtが閾値ΔMztcより小さい場合(dMzt/dt<ΔMztcの場合)は、そのまま目標ヨーモーメントMztを車両に付加しても車両挙動が大きく変動することがなく、確実に車線逸脱を防止できると判断し、S203に進んで、今回の目標ヨーモーメントMzt(i)に目標ヨーモーメントMztを設定してルーチンを抜ける。
【0030】
逆に、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtが閾値ΔMztc以上の場合(dMzt/dt≧ΔMztcの場合)は、このままの変化率で目標ヨーモーメントを出力すると大きな車両挙動を生じ、また確実な車線逸脱防止もできない虞もあると判断し、S204に進み、変化率制限値Δrateを算出する。この変化率制限値Δrateは、例えば、以下の(12)式により算出する。
Δrate=Gv・Gκ・Gca・Gw・Δrate0 …(12)
ここで、Δrate0は、実験、演算等により予め設定しておいた変化率基準値である。
【0031】
また、Gvは車速感応ゲイン、Gκは曲率感応ゲイン、Gcaはカント感応ゲイン、Gwは車線幅感応ゲインである。これら各ゲインGv,Gκ,Gca,Gwは、実験、演算等により予め設定しておいた特性マップから読み込んで設定されるもので、以下、各ゲインGv,Gκ,Gca,Gwの特性について説明する。
【0032】
車速感応ゲインGvの特性は、例えば、図5に示すように、車速Vが高いほど高い値に設定されている。これは、たとえ車速Vが高くなっても大きくなるセルフアライニングトルクに対して早い操舵を許容して車両挙動の大きな変動を抑制しつつ車線からの逸脱防止を確実に図るためである。
【0033】
また、曲率感応ゲインGκの特性は、例えば、図6に示すように、カーブ外側に逸脱する場合(図6(a)参照)と、カーブ内側に逸脱する場合(図6(b)参照)に分けて設定されている。すなわち、図9の走行軌跡Aに示すように、カーブ外側に逸脱する場合は、曲率κ(=(2・AL+2・AR)/2)の大きな車線では、この曲率κの大きな車線から逸脱しないように走行するには大きな目標ヨーモーメントMztが必要になる。このような目標ヨーモーメントMztの車両への付加を的確に実行できるようにするため、図6(a)に示すように、曲率感応ゲインGκは、曲率κが大きな値になるほど大きな値に設定される。逆に、図9の走行軌跡Bに示すように、カーブ内側に逸脱する場合は、曲率κの大きな車線では、車線の曲率κに沿って制御するよりも小さな目標ヨーモーメントMztで走行する方が滑らかな制御となって、ドライバに与える違和感も少なく、安定した制御が行える。従って、図6(b)に示すように、曲率感応ゲインGκは、曲率κが大きな値になるほど小さな値に設定される。
【0034】
更に、カント感応ゲインGcaの特性は、例えば、図7に示すように、車両がカントを下って走行していく場合(図7(a)参照)と、カントを登って走行していく場合(図7(b)参照)に分けて設定されている。すなわち、図10の下り方向の軌跡に示すように、カントを下って走行していく場合は、車体には、車線を逸脱しないように作用する目標ヨーモーメントMztとは逆方向に、路面のカントにより発生する力が作用する。このような路面のカントにより発生する力を相殺して確実に車線からの逸脱防止ができるように、図7(a)に示すように、カント感応ゲインGcaは、カント角θcaが大きくなるほど大きな値になるように設定される。逆に、図9の登り方向の軌跡に示すように、カントを登って走行していく場合は、車体には、車線を逸脱しないように作用する目標ヨーモーメントMztとは同じ方向に、路面のカントにより発生する力が作用する。従って、このような目標ヨーモーメントMztと同じ方向に目標ヨーモーメントMztを付加してしまうと、急な制御となってドライバに違和感を与える虞があるため、図7(b)に示すように、カント感応ゲインGcaは、カント角θcaが大きくなるほど小さな値になるように設定される。
【0035】
また、車線幅感応ゲインGwは、図8に示すように、車線幅w(=CL−CR)が広いほど、小さな値になるように設定される。これは、車線幅Wが広いほど、小さな目標ヨーモーメントMztの変化率に制限し、広い車線での緩やかで安定した走行が行えるようにするためである。逆に、車線幅が狭いほど、大きな目標ヨーモーメントMztの変化率が設定されるようにして、狭い車線での急操舵を許容できるようにして、確実な車線逸脱制御が行えるようにするためのものである。
【0036】
S204に進み、変化率制限値Δrateを算出した後は、S205に進み、例えば、以下の(13)式により、今回の目標ヨーモーメントMzt(i)を設定してルーチンを抜ける。
【0037】
Mzt(i)=Δrate+Mzt(i-1) …(13)
ここで、Mzt(i-1)は、メモリしておいた前回の目標ヨーモーメントである。
【0038】
このように、本実施の形態によれば、車線幅方向車両横位置xvを算出し、車線に対する車両のヨー角θyawを算出し、車線幅方向車両横位置xvとヨー角θyawと車速Vに基づいて車線から逸脱する車線逸脱予想時間Tttlcを算出し、ヨー角θyawと車線逸脱予想時間Tttlcとに基づいて車線からの逸脱を防止する目標ヨーレートγtを算出し、該目標ヨーレートγtと実際のヨーレートγを基に車線からの逸脱を防止するのに必要な車両に付加する目標ヨーモーメントMztを算出し、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtを観測し、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtが予め設定する閾値ΔMztc以上の場合に、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtを少なくとも走行路情報に応じて可変設定した変化率制限値Δrate以下になるよう制限して出力し、この今回の目標ヨーモーメントMzt(i)を基に目標トルクTpを算出してモータ駆動部21に出力する。このため、車線逸脱防止制御により設定される目標ヨーモーメントMztの目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtが走行路情報としてのカーブでの逸脱方向と車線曲率κ、車線のカント、車線幅w等により算出される変化率制限値Δrate以下となるように制限されるので、車線逸脱制御により生じる車両挙動の変動を抑制してドライバに違和感を与えることがなく、確実に車線からの逸脱を防止することが可能となる。
【0039】
尚、本実施の形態では、変化率制限値Δrateを、走行路情報として、カーブでの逸脱方向と車線曲率κ、車線のカント、車線幅wの3つを用いて設定するようになっているが、これに限ること無く、何れか一つ、或いは、何れか二つにより設定するものであっても良い。
【符号の説明】
【0040】
1 電動パワーステアリング装置
2 ステアリング軸
4 ステアリングホイール
5 ピニオン軸
10L、10R 車輪
12 電動モータ
20 操舵制御部(逸脱予想手段、目標旋回量算出手段、目標ヨーモーメント算出手段、目標旋回量変化率制限手段)
21 モータ駆動部
31 前方認識装置(車線検出手段)
32 車速センサ
33 操舵角センサ
34 ヨーレートセンサ
35 カント角検出センサ
40 警報制御装置
【要約】
【課題】車線逸脱制御により生じる車両挙動の変動を抑制してドライバに違和感を与えることがなく、確実に車線からの逸脱を防止する。
【解決手段】車線幅方向車両横位置xv、車線に対する車両のヨー角θyawを算出し、車線幅方向車両横位置xvとヨー角θyawと車速Vに基づいて車線から逸脱する車線逸脱予想時間Tttlcを算出し、ヨー角θyawと車線逸脱予想時間Tttlcとに基づいて車線からの逸脱を防止する車両に付加する目標ヨーモーメントMztを算出し、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtを観測し、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtが予め設定する閾値ΔMztc以上の場合に、目標ヨーモーメントの変化率dMzt/dtを少なくとも走行路情報に応じて可変設定した変化率制限値Δrate以下になるよう制限する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
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図10