(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化物半導体薄膜が形成された試料に励起光及びマイクロ波を照射し、前記励起光の照射により変化する前記マイクロ波の前記酸化物半導体薄膜からの反射波の最大値を測定した後、前記励起光の照射を停止し、前記励起光の照射停止後の前記マイクロ波の前記酸化物半導体薄膜からの反射波の反射率の時間的な変化を測定する第1の工程と、
前記反射率の時間的な変化から、励起光の照射停止後に見られる遅い減衰に対応するパラメータを算出し、前記酸化物半導体薄膜の電気抵抗率を評価する第2の工程と、を含むことを特徴とする酸化物半導体薄膜の評価方法。
前記第2の工程が、前記反射率の変化から、励起光の照射停止後0.1〜10μsに見られる遅い減衰に対応するパラメータを算出し、前記酸化物半導体薄膜の電気抵抗率を評価するものである請求項1または2に記載の評価方法。
前記酸化物半導体薄膜が、In、Ga、Zn、およびSnよりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る酸化物半導体薄膜の評価方法は、酸化物半導体薄膜が形成された試料に励起光及びマイクロ波を照射し、前記励起光の照射により変化する前記マイクロ波の前記酸化物半導体薄膜からの反射波の最大値を測定した後、前記励起光の照射を停止し、前記励起光の照射停止後の前記マイクロ波の前記酸化物半導体薄膜からの反射波の反射率の時間的な変化を測定する第1の工程と、前記反射率の時間的な変化から、励起光の照射停止後に見られる遅い減衰に対応するパラメータを算出し、前記酸化物半導体薄膜の電気抵抗率を評価する第2の工程と、を含む。上記電気抵抗率として、シート抵抗(Ω・cm/□)または比抵抗(Ω・cm)が挙げられる。比抵抗はシート抵抗に膜厚を掛けたものである。
【0033】
すなわち、本発明は、前述した特許文献2に記載のマイクロ波光導電減衰法を利用したものである。詳細には本発明は、上記特許文献2の方法によって得られるマイクロ波の減衰のうち、励起光の照射停止後に見られる遅いマイクロ波減衰波形、すなわちマイクロ波減衰の程度が、酸化物半導体薄膜の伝導帯下の欠陥準位によって大きく影響を受けること;そのため、この領域の信号を解析すると、酸化物半導体薄膜の電気抵抗率、およびキャリア濃度に係る情報を、正確且つ簡便に評価・予測・測定し得る指標として極めて有用であることを見出したところに特徴がある。
【0034】
本明細書における上記「励起光の照射停止後に見られる遅い減衰に対応するパラメータ」中の「遅い減衰」とは、励起光の照射停止後における、所定範囲の時間を意味する。具体的な時間は、酸化物半導体の種類などによっても相違し、一義的に決定するのは難しいが、おおむね、励起光の照射停止後0.1μs以上、10μs以下の時間を意味する。より好ましい時間範囲は、励起光の照射停止後0.3μs以上、2.5μs以下、更に好ましくは0.5μs以上、1.5μs以下である。
【0035】
なお、通常は試料である酸化物半導体の種類などによって「遅い減衰」の状況が相違する。そのため以下に説明するように、励起光照射停止後の反射率減衰が遅くなってから、すなわち減衰波形の傾きが小さくなってからのマイクロ波反射率の範囲をも含む意味である。励起光の照射停止と同時に急速に減衰する領域の後に観察される、ある一定の傾きを持った減衰が、例えば両対数グラフで、ほぼ直線とみなせる範囲で適宜領域を設定すればよく、必ずしもすべて、同じ範囲に限る必要はない。測定対象とする酸化物半導体薄膜の状態によって、上記の時間範囲は適宜調整可能だからである。
【0036】
上記「遅い減衰」について、
図1を用いて、より詳細に説明する。
図1は、マイクロ波光導電減衰法における過剰のキャリア密度の変化の様子を示す図である。
図1の縦軸は、マイクロ波の反射率に対応する。酸化物半導体薄膜試料に励起光を照射すると、酸化物半導体薄膜に吸収されて過剰キャリア、すなわち励起キャリアが生成される。その際、過剰キャリア密度が増加すると共に、その消失速度も増えるが、キャリア注入速度と消失速度が等しくなったときに過剰キャリア密度は一定のピーク値となる。そして該過剰キャリアの生成と消滅の速度が等しくなると飽和して一定の値を維持するようになる。その状態で励起光の照射を停止すると、過剰キャリアの再結合、消滅により、過剰キャリアが減少し、最終的には励起光照射前の値に戻ることが知られている。
【0037】
図1に示すようにマイクロ波の酸化物半導体薄膜からの反射波の反射率は、一旦最大値を示すが、励起光の照射を停止すると同時に急速に減衰する。その後、ある一定の傾きを持った減衰が見られるが、おおむね、この傾きが上述した「励起光の照射停止後に見られる遅い減衰に対応するパラメータ」に対応する。
【0038】
具体的には、上記傾きとして、例えば、上記範囲の時間と反射波強度、すなわち反射率の傾き、上記範囲の時間を対数変換した値に対する、反射波強度を対数変換した値の傾きなどが挙げられる。後記する実施例では、式(1)中のB値を用いている。なお、前述したように、この傾きには、励起光照射停止後の反射率減衰が遅くなったときの傾きも含まれる。
【0039】
以下、本発明の評価方法を詳しく説明する。繰り返し述べるように本発明は、マイクロ波光導電減衰法を利用するため、本発明に用いられる装置は、試料である酸化物半導体薄膜に対して励起光及びマイクロ波を照射し、その励起光の照射により変化するマイクロ波の試料からの反射波の強度を検出できることが必要である。このような装置として、例えば、後に詳述する
図13に示す装置や、上記特許文献2の
図1に示すライフタイム測定装置が挙げられる。上記特許文献2の装置の説明は、上記特許文献2に詳述しているので、それを参照すればよい。但し、本発明に用いられる装置はこれに限定されない。
【0040】
まず、酸化物半導体薄膜が形成された試料を用意する。
【0041】
上記酸化物半導体薄膜として、In、Ga、Zn、およびSnよりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含む非晶質の酸化物半導体薄膜が好ましく用いられる。これらの元素は単独で含有しても良く、二種以上を併用しても良い。具体的には例えば、In酸化物、In−Sn酸化物、In−Zn酸化物、In−Sn−Zn酸化物、In−Ga酸化物、Zn−Ga酸化物、In−Ga−Zn酸化物、Zn酸化物などが挙げられる。
【0042】
上記酸化物半導体薄膜の厚さは、例えば、数十nm〜500nm程度であることが好ましい。上記厚さの上限について、より好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。また、上記厚さの下限について、より好ましくは10nm以上であり、更に好ましくは30nm以上である。
【0043】
本発明に用いられる上記試料は、基板の上に、上記酸化物半導体薄膜が形成されたものである。上記基板は、本発明の技術分野に通常用いられる各種基板を用いることができるが、例えば、厚み0.7mm程度、大きさが第1世代〜第10世代と呼ばれる数十cm
2から数m
2を超える液晶表示装置用のガラス基板などを用いることができる。
【0044】
このような試料に対し、励起光およびマイクロ波を照射する。
【0045】
前述した
図1を用いて説明したように、酸化物半導体薄膜試料に照射した励起光を照射すると、酸化物半導体薄膜に吸収されて過剰キャリアが生成されるが、該過剰キャリアの生成と消滅の速度が等しくなると飽和して一定の値を維持するようになる。その状態で励起光の照射を停止すると、過剰キャリアの再結合、消滅により、過剰キャリアが減少し、最終的には励起光照射前の値に戻る。
【0046】
本発明において、過剰キャリア密度の変化を解析することで酸化物半導体薄膜のキャリア濃度を判定し得、ひいては、電気抵抗率、すなわちシート抵抗または比抵抗を評価することができるのは、次のような理由に基づくものと思われる。
【0047】
酸化物半導体薄膜試料に照射されたマイクロ波は、酸化物半導体薄膜に存在するキャリアによるプラズマ振動により反射される。この反射率は、酸化物半導体薄膜中のキャリア密度に依存する。しかし、定常状態の酸化物半導体薄膜においては、マイクロ波反射を実用的に観測することができるレベルのキャリア数は存在しない。ところが、励起光を照射すると、膜中に過剰キャリアが生成され、該過剰キャリアのプラズマ振動によりマイクロ波の反射率が増加する。一方で、励起光の照射停止により、過剰キャリア数が減少するに従ってマイクロ波の反射率も減少する。
【0048】
一般に、シリコン半導体などにおけるキャリアは、エネルギーバンド中において伝導帯下部に存在する浅いドナーレベルに起因して発生する。この場合のエネルギー準位は、伝導帯下、数十meV程度であり、室温付近ではほとんど活性化している。一方で、定常状態における酸化物半導体薄膜中のキャリアは、同じく、エネルギーバンド中において伝導帯下部に存在する浅いドナーレベルに起因することが知られているが、酸化物半導体においては、そのレベルは0.1〜0.2eV程度であり、比較的深い。このため、励起光の照射によって生成される過剰キャリアは、励起されたホールと電子が再結合する場合のほか、該ドナーレベルにいったん捕獲されて再放出する場合がある。この捕獲、および再放出の割合は、エネルギーバンド中において伝導帯下部に存在する浅いドナーレベルの量に依存する。したがって、励起光の照射によって生成された過剰キャリアについて、励起光停止後に観測される消滅過程をトレースすることで、ドナーレベルの大小の影響を解析することができる。なお、酸化物半導体薄膜の比抵抗は、電荷と自由電子と移動度の積で表されるが、酸化物半導体薄膜の移動度は、当該酸化物半導体薄膜を構成する金属元素の組成が同じであれば大きく変化しない。例えば、IGZOの移動度は約10cm
2/VS程度である。よって、マイクロ波光導電減衰法において観測されるマイクロ波の反射率の変化、すなわち、過剰キャリア密度の変化は、キャリア濃度および電気抵抗率と、おおむね、相関することになる。
【0049】
なお、酸化物半導体のようなアモルファスな半導体材料においては、例えば、アモルファスシリコン、IGZOなどのように伝導帯〜ドナーレベルの間に連続的な準位を有するものもある。このような場合、マイクロ波光導電減衰法において観測されるキャリアの消滅過程は、各準位間での個々のキャリア遷移挙動を重ね合わせたものとして理解することができる。その結果、減衰過程は、一つの準位間での遷移に比較してある程度長い時間範囲に渡って観測されることになる。また、そのときの時間依存性は、時間に対して、べき乗の関係を有する。
【0050】
したがって、前述した第1の工程の後、おおむね、0.1〜10μsの範囲に渡る時間範囲に見られる遅い減衰に対応するパラメータを算出することによって、酸化物半導体薄膜のキャリア密度を判定することができる。その結果、シート抵抗、比抵抗などの電気抵抗率を評価することができる。
【0051】
以上、本発明に係る酸化物半導体薄膜の評価方法について詳述した。
【0052】
本発明には、上記評価方法を、半導体製造工程のいずれかの工程に適用して酸化物半導体薄膜の品質管理を行なう方法も含まれる。このように上記の評価方法を、上記製造工程のいずれかの工程に適用することによって、酸化物半導体薄膜の電気抵抗率、すなわち、シート抵抗や比抵抗を評価した結果をフィードバックし、製造条件を調整するなどして膜質の管理を行うことができるため、酸化物半導体の品質管理を適切に行うことができる。
【0053】
ここで、上記「いずれかの工程」は、半導体製造工程における任意の工程を意味する。本発明者らの検討結果によれば、ストレス耐性に影響を及ぼす製造工程として、(i)ゲート絶縁膜の成膜工程、(ii)酸化物半導体薄膜の成膜工程、(iii)上記酸化物半導体薄膜成膜後の熱処理(以下、「プレアニール処理」ということがある)工程、(iv)酸化物半導体薄膜の表面に形成され得る保護膜の成膜工程などがあることを知見しており、例えば、これらの工程に上記の評価方法を適用すれば、酸化物半導体薄膜の品質を精度良く管理することができる。
【0054】
ここで上記保護膜(以下、「パッシベーション絶縁膜」ということがある)には、酸化物半導体薄膜の表面を直接保護するための保護膜(以下、「エッチストップ層」ということがある)、および当該保護膜の表面を更に保護するための保護膜(以下、「最終保護膜」ということがある)の両方が含まれる。
【0055】
具体的には、例えば基板上へ、ゲート絶縁膜を形成した後、若しくはゲート絶縁膜を形成せずに直接、酸化物半導体薄膜を形成し、その直後に、上記の評価方法を行っても良い。或いは、基板上またはゲート絶縁膜上へ形成した酸化物半導体薄膜に対して、例えば酸素や水蒸気によるプレアニール処理を行った後に上記の評価方法を行っても良いし、或いは、パッシベーション絶縁膜の形成前に行っても良い。更に上記の評価方法は、上記製造工程の一工程にワンポイントで行なっても良いし、二以上の工程の複数のポイントで行っても良い。後者のように二以上の工程に本発明の評価方法を適用することにより、酸化物半導体薄膜の面内分布、すなわち面内におけるシート抵抗または比抵抗のばらつきを測定することができる。
【0056】
本発明では、例えば、基板の上に酸化物半導体薄膜を形成する場合;ゲート絶縁膜を形成した後、その上に酸化物半導体薄膜を形成する場合;酸化物半導体薄膜を形成した後、プレアニール処理する場合、なお、酸化物半導体薄膜の形成前にゲート絶縁膜を形成しても良いし形成しなくても良い;或いは、上記のいずれかの後、得られた酸化物半導体薄膜の上に保護膜、なお当該保護膜を更に保護するための最終保護膜も含むを形成する場合;或いは、その後に熱処理(以下、「ポストアニール」ということがある)する場合などに、本発明の評価方法を適用することができる。
【0057】
本発明の評価方法を用いれば、酸化物半導体薄膜の材料開発段階において、様々な組成や濃度の酸化物半導体薄膜のストレス耐性を簡易に短時間で、且つ低コストで評価することができる。また本発明の評価方法を用いれば、液晶表示装置などの製造ラインにおいて、酸化物半導体薄膜の電気的特性をインラインで短時間に評価することができ、更に非接触型で行うことができるため、歩留まりの向上など、生産性を向上することができ、酸化物半導体の品質管理を適切に行うことができる。
【0058】
本発明には、上記のいずれかに記載の評価方法に用いられる評価素子も含まれる。上記評価素子は、基板の上に酸化物半導体薄膜が形成されたものであり、前述した(i)〜(iv)の工程などに代表される「いずれかの工程」に対応する構成からなる。
【0059】
具体的には、例えば、(a)酸化物半導体薄膜が基板の表面に直接形成されたもの;(b)酸化物半導体薄膜がゲート絶縁膜の表面に直接形成されたもの;(c)上記(a)または上記(b)の酸化物半導体薄膜の表面に例えば
図8に記載のエッチストップ層や、
図6に記載の最終保護膜などが含まれる保護膜が形成されたもの、などが挙げられる。
【0060】
本発明の評価素子は、上記(a)または上記(b)に記載のように、基板またはゲート絶縁膜の表面に直接、酸化物半導体薄膜が形成されていることが重要である。すなわち、酸化物半導体薄膜の直下に例えばゲート電極などの金属電極は存在しない。酸化物半導体薄膜の直下にゲート電極などが存在すると、ゲート電極の自由キャリアである電子が10
18cm
-3以上と多いため、前記マイクロ波の反射率に対し、該ゲート電極の影響が優性になるからである。
【0061】
本発明に係る評価素子の構成の一例を、
図3〜9に示す。
図3〜9に示すように、酸化物半導体薄膜の直下に金属電極は設置されていない。
【0062】
このうち、例えば
図3は、ガラス基板などの基板上にゲート絶縁膜および酸化物半導体層がこの順序で形成されたものである。なお、酸化物半導体薄膜のパターニングはしていない。
【0063】
図4は、ガラス基板などの基板上にゲート絶縁膜および酸化物半導体薄膜をこの順序で形成した後、酸化物半導体層をパターニングしたものである。
【0064】
図5は、ガラス基板などの基板上にゲート絶縁膜、パターニングされた酸化物半導体層、およびパターニングされた保護膜であるエッチストップ層をこの順序で形成したものである。
【0065】
図6は、ガラス基板などの基板上にゲート絶縁膜、パターニングされた酸化物半導体層、パターニングされた保護膜であるエッチストップ層、最終保護膜をこの順序で形成したものである。
【0066】
図7は、ガラス基板などの基板上に酸化物半導体層を形成したものである。
【0067】
図8は、ガラス基板などの基板上にゲート絶縁膜、酸化物半導体層、および保護膜であるエッチストップ層をこの順序で形成したものである。
【0068】
図9は、ガラス基板などの基板上に酸化物半導体層、および保護膜であるエッチストップ層をこの順序で形成したものである。
【0069】
更に本発明には、上記のいずれかに記載の評価素子が基板上に複数配置された評価装置も含まれる。
【0070】
図10は、上記評価装置の構成の一例を示す概略図である。
図10に示すように、量産ラインで用いられるガラス基板に、複数の評価素子が規則的に配列して設置されている。このような評価装置を用いることにより、酸化物半導体薄膜の品質管理、具体的には基板面内分布、すなわち面内における電気抵抗率のばらつきや、基板間分布、すなわち基板間における電気抵抗率のばらつきを測定することができる。
【0071】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明の評価装置は以下の構成に限定されず、適宜変更を加えることも可能である。
【0072】
図13は、上記酸化物半導体薄膜の評価方法に用いる装置の構成の一例を示す概略図である。
図13に示す評価装置は、基板20aに酸化物半導体薄膜20bが形成された試料20の測定部位に対して励起光を照射して酸化物半導体薄膜中に電子−正孔対を生成する励起光照射手段1、該試料20の測定部位に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射手段3、励起光の照射により変化するマイクロ波の試料20からの反射マイクロ波の強度を検出する反射マイクロ波強度検出手段7、前記反射マイクロ波強度検出手段の検出データに基づいて試料20の電気抵抗率を評価する手段を備えており、該構成により同一の装置で反射率の変化と電気抵抗率を測定・評価できる。
【0073】
励起光照射手段1は、試料20に照射する励起光を出力する光源を有するものであり、励起光の照射により酸化物半導体薄膜中に電子−正孔対を生成させるものである。好ましくは酸化物半導体薄膜のバンドキャップ以上のエネルギーを出力する光源を有するものである。酸化物半導体薄膜のバンドキャップ以上のエネルギーを出力することで効率的にキャリアを発生させ、高感度で測定できるため好ましい。励起光照射手段1としては、例えば光源に紫外線レーザを用いればよい。具体的には波長349nm、パワー1μJ/pulse、パルス幅15ns程度、ビーム径1.5mm程度のパルス状の紫外光、例えばYLFレーザ第三高調波等を励起光として出射するパルスレーザなどの半導体レーザ等である。
【0074】
また、励起光照射手段1は評価手段9から伝送(図中、破線)されてくるタイミング信号の入力をトリガとして励起光(パルス光)を出力する。なお、タイミング信号は、同時に信号処理装置8に対しても伝送される。また励起光照射手段1から出力される励起光は出力調整用パワーモニター16aと出力調整手段16bによって出力を調整することができる。
【0075】
励起光照射手段1から出力された励起光は、ミラーなどの光路変更手段(以下、ミラーということがある)12で反射されると共に、図示しない集光レンズなどの集光手段(以下、集光レンズということがある)によって集光され、第1導波管6aに設けられた微小開口6cを通過し、その第1導波管6aの試料20に近接する端部(開口部6d)を通じて、試料20の例えば、直径5〜10μm程度の測定部位に対して照射される。このように、ミラー12及び集光レンズが、励起光照射手段1から出力された励起光を集光して試料20の測定部位へ導く。これにより、試料20における測定部位である微小な励起光照射領域21において、励起キャリアが発生する。
【0076】
マイクロ波照射手段3は、試料20の測定部位に照射するマイクロ波を出力するマイクロ波照射手段である。このマイクロ波照射手段3は、例えば、周波数26GHzのガンダイオード等のマイクロ波発振器が挙げられる。
【0077】
方向性結合器4は、マイクロ波照射手段3から出力されたマイクロ波を2分岐するものである。分岐後の一方の出力波(以下、第1マイクロ波Op1という)はマジックT(5)側へ伝送され、他方の出力波(以下、第2マイクロ波Op2という)は相位調整器4a、反射マイクロ波強度検出手段7のLO入力端へ伝送される。この方向性結合器4は、例えば、10dBカプラ等が採用される。
【0078】
マジックT(5)は、第1マイクロ波Op1を2分岐すると共に、2分岐された第1マイクロ波各々の試料20に対する反射波各々の差信号Rt1(以下、反射波差信号ということがある)及び和信号を出力するものである。
【0079】
マジックT(5)により2分岐されたマイクロ波Op1の一方(以下、以下、「第1主マイクロ波Op11」ということがある)は、そのマジックT(5)に接続された第1導波管6aにより、試料20の測定部位(励起部を含む部分)に導かれてその先端の開口部6dから放射される。これにより、第1主マイクロ波Op11が試料20の測定部位に照射される。さらに第1導波管6aは、前記第1主マイクロ波Op11を放射するアンテナ(以下、「導波管アンテナ」ということがある)としての機能に加え、測定部位に照射された第1主マイクロ波Op11の反射波をその先端の開口部6dで捕捉し、マジックT(5)まで折り返し導く機能も果たす。
【0080】
一方、マジックT(5)により2分岐された第1マイクロ波Op1の他方(以下、第1副マイクロ波Op12という)は、マジックT(5)に接続された第2導波管6bにより、試料20aの測定部位の近傍(励起光による励起部を含まない部分)に導かれてその先端の開口部6eから放射される。これにより、第1副マイクロ波Op12が、試料20aの測定部位の近傍に照射される。さらに第2導波管6bは、第1副マイクロ波Op12を放射する導波管アンテナとしての機能に加え、測定部位の近傍に照射された第1副マイクロ波Op12の反射波をその先端の開口部6eで捕捉し、マジックT(5)まで折り返し導く機能も果たす。ここで、第1導波管6aがマイクロ波を導く経路長と、第2導波管6bがマイクロ波を導く経路長とは等しい。
【0081】
また第1導波管6a及び第2導波管6bによりマジックT(5)に導かれた2つの反射波、すなわち、2分岐後の第1マイクロ波Op11,Op12各々が試料20に反射したものの差信号、すなわち反射波差信号Rt1が、そのマジックT(5)により出力され、反射マイクロ波強度検出手段7のRF入力端に伝送される。
【0082】
反射マイクロ波強度検出手段7は、第2マイクロ波Op2及び反射波差信号Rt1を混合することによって検波信号Sg1を出力する。この検波信号Sg1は、反射波差信号Rt1の強度、例えば試料20に照射された第1マイクロ波Op1の反射波の強度の一例を表す信号であり、信号処理装置8に取り込まれる。反射波差信号Rt1は、基板保持部によって所定位置に保持された試料20に対する励起光の照射によってその強度が変化する。このように反射マイクロ波強度検出手段7は、反射波差信号Rt1の強度を検出するものであり、この反射マイクロ波強度検出手段7としてはミキサーや、マイクロ波を入力してその強度に応じた電気信号、すなわち電流や電圧を出力するマイクロ波検出器(以下、「検波器」ということがある)が設けられてもよい。
【0083】
反射マイクロ波強度検出手段7により検出される反射波差信号Rt1の強度は、試料20の測定部位に対する励起光の照射により変化する。具体的には、反射波差信号Rt1の強度は、励起光(パルス光)の照射によって一時的に強くなった後に減衰する。また測定部位に不純物や欠陥等が多いほど反射波差信号Rt1の強度のピーク値は小さくなり、その減衰時間、すなわちキャリア寿命も短くなる。
【0084】
ここで励起光(パルス光)の照射により変化する反射波差信号Rt1の強度について、そのピーク値が生じてから励起光照射停止後に見られる遅い減衰に対応するパラメータが、試料20の電気抵抗率を評価する指標となる。
【0085】
信号処理装置8は、反射マイクロ波強度検出手段7により検出される反射波差信号Rt1の強度の変化のピーク値Spを検出し、その検出結果を評価手段9に伝送する装置である。より具体的には信号処理装置8は、評価手段9からのタイミング信号の入力をトリガとして反射波差信号Rt1の変化を所定時間監視し、その間に得られる反射波差信号Rt1のレベルの最高値を反射波差信号Rt1の強度の変化のピーク値Spとして検出する。ここで信号処理装置8は、反射波差信号Rt1に対して遅延処理を施す遅延回路を備え、遅延処理後の信号に対して所定のサンプリング周波数で信号強度を順次検出し、その検出値の変化から反射波差信号Rt1の強度の変化のピーク値Spを検出する。
【0086】
評価手段9としては、CPU、記憶部、入出力信号のインターフェース等を備えたコンピューターを用いることができ、CPUが所定のプログラムを実行することによって各種の処理を実行する。
【0087】
例えば、評価手段9は、励起光照射手段1及び信号処理装置8に対して励起光の出力タイミングを表すタイミング信号を出力すると共に、信号処理装置8によって検出される反射波差信号Rt1のピーク値Spを取り込んで当該評価手段9が備える記憶部に記録する。記録された反射波差信号Rt1(検出データ)は、試料20の電気抵抗率の評価に用いられる。
【0088】
またステージコントローラ10は、評価手段9からの指令に従ってX−Yステージ11を制御することにより、試料20における測定部位の位置決め制御を行う。
【0089】
X−Yステージ11の上側には図示しない試料台が設けられている。試料台は、アルミニウム、ステンレス或いは鉄等の金属又はその他の導体からなる板状の導体部材である。その上側に図示しない基板保持部が設けられ、さらにその基板保持部の上に試料20が載置される。これにより試料台は、試料20に対して前記第1マイクロ波Op11、Op12が照射される側と反対側、すなわち、試料20の下側に配置される。
【0090】
基板保持部は、試料台に対してその上側に固定された固形の誘電体である。基板保持部は基板と試料台との間に挿入される固形の誘電体であり、その材質は、例えばガラスやセラミック等の比較的屈折率の大きな誘電体である。これにより基板保持部を媒質とするマイクロ波の波長が短くなり、基板保持部としてより厚みの薄い軽量なものを採用できる。
【0091】
以上、本発明の電気抵抗率を評価するための構成によれば、励起光照射手段1から照射された励起光によって酸化物半導体薄膜中に光励起キャリアが生成されると共に、マイクロ波照射手段3から照射されたマイクロ波の電界で光励起キャリアが運動し、その運動状態は、半導体中の不純物、欠陥等の存在によって影響を受ける。このため、反射マイクロ波強度検出手段7で、試料からの反射マイクロ波の強度を検出し、評価手段9で既に説明したように過剰キャリア濃度の変化を解析することで、酸化物半導体薄膜のキャリア濃度を判定し、電気抵抗率を評価することができる。この際、評価手段9が、X−Yテーブル11などから成るステージの位置を制御することで、所定の範囲の電気抵抗率を判定するマッピング測定も可能である。
【0092】
更に本発明の上記評価装置に、電気抵抗測定手段を備えることで、上記電気抵抗率の評価だけでなく、酸化物半導体薄膜の電気的特性をインラインで短時間に評価する装置を提供することができる。上記電気抵抗率の評価では、いわゆる遅い減衰に基づいて電気抵抗率を評価するものであるが、本発明者らの研究の結果、遅い減衰は酸化物半導体薄膜の膜中欠陥に起因することがわかっており、膜中欠陥の多少によって、上記マイクロ波光導電減衰法に基づいて測定・評価する電気抵抗率も変化する。
【0093】
また酸化物半導体薄膜の電気抵抗率は同一面内であっても汚染や不純物などに起因して異なる場合があり、測定箇所によって値にバラツキがある。そのため、酸化物半導体薄膜のより適切な品質管理を行うためには、酸化物半導体薄膜の膜中欠陥を評価するためのマイクロ波光導電測定箇所と膜表面欠陥を評価するための電気抵抗率測定箇所が略同一であることが重要となる。
【0094】
そこで、上記評価装置に電気抵抗測定手段を備ければ、X−Yステージを適宜動かすだけで、簡便、かつ正確に略同一箇所を測定することが可能となる。そのため、電気抵抗測定手段を設けた上記評価装置を液晶表示装置などの製造ラインに用いれば、生産性が大きく向上すると共に、酸化物半導体薄膜のより適切な品質管理を行うことができる。
【0095】
図13に基づいて電気抵抗測定手段を設けた装置構成について説明する。
図13は、上記説明したマイクロ波光導電減衰法に基づいて反射率の変化と電気抵抗率を測定・評価する装置に、電気抵抗測定手段30を備えた装置である。具体的な設置箇所は限定されないが、上記したようにX−Yステージ11を動かすことによって、酸化物半導体薄膜のマイクロ波光導電測定箇所と略同一箇所において電気抵抗測定手段30によって電気抵抗率を測定できるように設置することが望ましい。電気抵抗測定手段30は、好ましくは電気抵抗率測定ヘッド31と、電気抵抗率測定ヘッド31の昇降手段32を有する。電気抵抗測定手段30によって試料20の電気抵抗率を測定できる。
【0096】
電気抵抗率測定ヘッド31は、2重リング電極などの測定用プローブなど抵抗値に合った抵抗率測定手段を備えており、JIS K6911に準拠した測定法によって試料20の電気抵抗率を測定することができる。また、電気抵抗率測定ヘッド31は、直線上に針状の4本の電極を配したヘッドであり、JIS K7194に準拠した四探針法による抵抗測定を行うことができる。
【0097】
また電気抵抗率測定ヘッド31の昇降手段32は、試料20の電気抵抗率を測定する際に所望の位置まで電気抵抗率測定ヘッドを降下させる昇降機構である。電気抵抗率を測定する手段としては各種公知の電気抵抗率測定装置を用いることができる。例えば三菱化学アナリテック社製のハイレスタなどの電気抵抗測定装置を用いた場合は、電気抵抗率測定ヘッド31に相当するプローブが試料20の表面と接触するように昇降手段32で降下させて電気抵抗率を測定した後、プローブと試料20とが非接触状態となるように上昇させればよい。測定した電気抵抗率は測定値送信ライン33を通して例えば評価手段9と同様の構成を有する図示しない評価手段に送られて評価することができる。その他にも、JANDEL製プローブヘッドなどの電気抵抗測定装置が同様に評価可能である。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0099】
(実施例1)
本実施例では、マイクロ波光導電減衰法に基づいて算出される酸化物半導体薄膜、ここではInGaZnO、IGZOのパラメータと、シート抵抗値との相関関係を評価するため、以下の実験を行った。
【0100】
(1)試料の作製
まず、ガラス基板として直径100mm×厚さ0.7mmのコーニング社製EAGLE XGを用意した。ガラス基板の上に、下記条件で酸化物半導体薄膜であるIGZOをスパッタリング法で成膜した。本実施例では、酸化物半導体薄膜の膜質を変化させる目的で、スパッタリング時の酸素添加量を変化させた。
スパッタリング装置:(株)アルバック製「CS−200」
スパッタリングターゲットの組成:InGaZnO
4[原子比でIn:Ga:Zn=1:1:1]
基板温度:室温
酸化物半導体層の膜厚:200nm
酸素添加量:O
2/(Ar+O
2)=体積比で0%、4%、8%、12%、16%、20%
ガス圧:1mTorr
【0101】
次に、酸化物半導体薄膜の膜質の改善、すなわち、移動度、スイッチング性能、動作時における特性の安定性などのTFT特性の向上を狙い、プレアニール処理の条件、具体的にはプレアニール時間を変えて種々の試料を作製した。具体的には、プレアニール処理条件として、大気中でプレアニール温度を350℃に固定して、プレアニール時間を0分を処理なしとし、5分、30分、60分、120分と変化させて種々の試料を得た。
【0102】
このようにして得られた各試料について、マイクロ波光導電減衰法における「励起光の照射後に見られる遅い減衰に対応するパラメータ」の測定を行った。具体的には、前述した特許文献2の
図1に示すような構成を有する装置、具体的にはコベルコ科研社製:LTA−1820SP)を用いて、以下の条件でマイクロ波光導電減衰法を実施し、反射率の変化を測定した。
【0103】
レーザ波長:349nmの紫外光
パルス幅:15ns
パルスエネルギー:1μJ/pulse
ビーム径:1.5mmφ
1測定におけるパルス数=64ショット
装置:コベルコ科研社製LTA−1820SP
【0104】
更に上記試料について、別途、三菱化学アナリテック社製のハイレスタを用いてシート抵抗を測定した。なお、このシート抵抗の測定は、マイクロ波光導電減衰法による電気抵抗率の評価と、実測したシート抵抗の測定値との相関関係を評価するためである。
【0105】
図11に、上記マイクロ波光導電減衰法に基づいて測定した結果を示す。図中、縦軸はシート抵抗であり、横軸は、マイクロ波光導電減衰法より得られる反射率−測定時間との関係に基づいて算出されるパラメータ、すなわち本発明で規定する「遅い減衰に対応するパラメータである。詳細には、このパラメータは、反射率と測定時間との関係を下式(1)で表したときの「B」値(傾き)に相当する。本実施例では、測定時間x=0.5〜2.5μsとし、上記測定時間の範囲での傾き(−B)を算出した。
【0106】
【数1】
【0107】
上記図より、シート抵抗と上記B値とは相関していることが分かる。詳細には、シート抵抗が、10
2から10
7と高くなるにつれ、上記B値(絶対値)も大きくなるが、この値を境にして、更にシート抵抗が高くなると、上記B値(絶対値)は小さくなった。また、上記図より、上記B値(絶対値)は、スパッタ時の酸素添加量やプレアニール時間などの影響を受けることが分かる。
【0108】
本発明者らの基礎実験によれば、上記B値(絶対値)が最大になるとき、良好なTFT特性を有することを知見している。よって、上記B値が最大値を有するように、スパッタ時の酸素添加量やプレアニール時間などの条件を適切に調整すれば、良好なTFT特性が発揮されることが期待される。
【0109】
(実施例2)
本実施例では、マイクロ波光導電減衰法に基づいて算出される酸化物半導体薄膜としてここではInGaZnO、IGZOのパラメータと、比抵抗値との相関関係を評価するため、以下の実験を行った。
【0110】
(1)試料の作製
まず、ガラス基板(コーニング社製EAGLE XG、直径100mm×厚さ0.7mm)の上に、下記条件で酸化物半導体薄膜としてIGZOをスパッタリング法で成膜した。スパッタリング装置:(株)アルバック製「SMD−450」スパッタリングターゲットの組成:InGaZnO
4[原子比でIn:Ga:Zn=1:1:1]
基板温度:室温
酸化物半導体層の膜厚:40nm
酸素添加量:体積比でO
2/(Ar+O
2)=4%
ガス圧:1mTorr
【0111】
次に、試料を大気中で、プレアニール温度350℃、プレアニール時間60分で熱処理をした。このようにして得られた各試料における、基板上の任意の測定個所、具体的には等間隔に配置された合計21点の測定箇所について、マイクロ波光導電減衰法における「励起光の照射後に見られる遅い減衰に対応するパラメータ」の測定を行った。マイクロ波光導電減衰法の測定条件は、前述した実施例1と同じであり、上記パラメータとして、上記「B」値を用いた。但し、本実施例では、式(1)の測定時間xをそれぞれ、0.5〜1.5μs、0.5〜1μs、1〜1.5μs、1.5〜2μsに変化させたときの傾き、すなわち上記B値を測定した。
【0112】
更に上記試料について、別途、三菱化学アナリテック社製のハイレスタを用いて比抵抗を測定した。なお、この比抵抗の測定は、マイクロ波光導電減衰法による電気抵抗率の評価と、実測した比抵抗の測定値との相関関係を評価するためである。
【0113】
上記の結果を
図12(a)に示す。図中、横軸は各測定点における比抵抗を、縦軸は各測定点におけるB値を、それぞれ、示す。
【0114】
上記図より、測定時間x=0.5〜1μs、0.5〜1.5μsでは、各測定点における比抵抗と上記B値の間のバラツキは小さいのに対し、測定時間x=1〜1.5μsになると、上記バラツキが大きくなり、1.5〜2μsになると、このバラツキは、一層顕著になった。
【0115】
更に、上記で求めたB値を算出した際の仮想関数として、式(1)と測定したマイクロ波の反射率の減衰波形との相関係数を求めた。この値が1に近いほど、式(1)と減衰波形の測定値との相関性、具体的には、フィッティング性が高いことを示す。すなわち、算出されたB値が、酸化物半導体薄膜の特性評価パラメータとして、より適切であることを示す。一方、この値がゼロ(0)に近いほど、式(1)と減衰波形の測定値との相関性、具体的には、フィッティング性が低いことを示す。すなわち、算出されたB値が、酸化物半導体薄膜の特性評価パラメータとして、不適切、ないし妥当でないことを示す。
図12(b)に、各測定点の比抵抗(横軸)における上記相関係数(縦軸)との関係を示す。
【0116】
この図より、測定時間x=0.5〜1μs、0.5〜1.5μsでは、各測定点における上記相関係数はほぼ1であるのに対し、測定時間x=1〜1.5μsになると相関係数は約0.5〜0.8の近傍に低下し、測定時間x=1.5〜2μsになると、相関係数はほぼ0になった。これは、測定中のノイズの影響により、直線関係からずれることを意味する。この結果は、前述した
図12(a)の結果とも合致している。すなわち、上記
図12(a)においてバラツキが小さいx=0.5〜1.5μsの領域では、
図12(b)における相関係数はほぼ1となるのに対し、上記
図12(a)においてバラツキが大きく見られたx=1.5〜2μs領域では、
図12(b)における相関係数はほぼ0となった。
【0117】
この結果より、本実験の条件下では、本発明に規定する「遅い減衰に対応するパラメータ」として、測定時間x=0.5〜1.5μsの傾きであるB値を採用すれば、酸化物半導体薄膜の比抵抗を、間接的に精度良く評価可能であることが実証された。
【0118】
以上より、マイクロ波光導電減衰法に基づいて算出される遅い減衰と、酸化物半導体薄膜のシート抵抗、および比抵抗とが相関関係にあることがわかる。
【0119】
実施例3
上記マイクロ波光導電減衰法評価装置(コベルコ科研社製LTA−1820SP)に上記電気抵抗測定装置(三菱化学アナリテック社製ハイレスタ)を組み込んだ装置を用いて上記実施例2と同様してマイクロ波光導電減衰測定法によるB値解析を行うと共に、電気抵抗測定装置によって比抵抗の測定を行った。
【0120】
具体的には、
図13に示す構成の装置を用いて、図中電気抵抗率測定手段30以外で構成されているマイクロ波光導電減衰法評価装置(コベルコ科研社製:LTA−1820SP)を用いて、上記実施例2と同一の条件でマイクロ波光導電減衰法を実施し、反射率の変化を測定した。続いて
図13中電気抵抗率測定手段30の構成、すなわち、電気抵抗率測定ヘッド31に該測定ヘッドを上下移動させる昇降手段32が設けている電気抵抗率測定装置(三菱化学アナリテック社製:ハイレスタ)を用いて、上記実施例2と同一の条件で、比抵抗を測定した。比抵抗を測定する際、昇降手段32によって電気抵抗率測定ヘッド31を降下させて酸化物半導体薄膜20bに電気抵抗率測定ヘッド31を接触させて測定し、測定後は昇降手段32によって電気抵抗率測定ヘッド31を上昇させて酸化物半導体薄膜20bから離し、試料の交換を行った。その結果、実施例2と同様に相関関係が認められた。特に実施例3の装置を用いた場合は、実施例2のように別途比抵抗を測定する場合と比べて、より正確に相関関係を評価することができた。またB値は、
図11に示すように、ベストポイントで絶対値が最大になることが示されているが、このポイントより抵抗が高い場合や低い場合をB値だけでは判断できない場合がある。この様な場合には、試料の同じ場所をマイクロ波減衰法で反射率の変化を測定すると共に、電気抵抗率測定装置を用いて抵抗を測定し、両手法の測定結果で比較することにより、より正確、且つその絶対値を評価できる。