(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中心粒子と、当該中心粒子を被覆する中間層と、白金を含み少なくとも当該中間層の一部を被覆する最外層とを備える触媒微粒子をカーボン担体に担持させた燃料電池用触媒の製造方法であって、
Ti及びSnからなる群から選ばれる元素を含み且つ酸素欠陥を有しない、光触媒活性を有する第2の酸化物からなる微粒子の分散液を準備する工程、
白金イオンの分散液を準備する工程、
少なくとも、前記第2の酸化物からなる微粒子の分散液及び前記白金イオンの分散液の混合物にさらに犠牲剤を混合した後、当該混合物に光照射して前記第2の酸化物からなる微粒子を還元することにより、前記第2の酸化物からなる微粒子の表面に、Ti及びSnからなる群から選ばれる元素を含み且つ酸素欠陥を有する第1の酸化物を含有する中間層を形成し、且つ、当該中間層上の少なくとも一部に、前記白金イオンが還元されてなる白金を含む最外層を形成する還元工程、並びに、
前記還元工程後の混合物を加熱する加熱工程を有し、かつ、
前記還元工程において、光照射後の前記混合物にさらにカーボン担体を混合することを特徴とする、燃料電池用触媒の製造方法。
前記還元工程の前に、前記第2の酸化物からなる微粒子の分散液に予備還元手段を実行することにより、少なくとも前記第2の酸化物からなる微粒子を予め還元する予備還元工程を有する、請求項1に記載の燃料電池用触媒の製造方法。
前記第2の酸化物からなる微粒子を含む逆ミセルの分散液及び前記白金イオンを含む逆ミセルの分散液の少なくともいずれか一方は、前記第2の酸化物からなる微粒子の水溶液若しくは水分散液又は前記白金イオンの水溶液と、界面活性剤の有機溶媒溶液とを混合することにより得られる、請求項3に記載の燃料電池用触媒の製造方法。
前記カーボン担体は、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、活性炭、メゾフェースカーボン及び黒鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種類のカーボン材料からなる担体である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.触媒微粒子
本発明の触媒微粒子は、内部粒子と、白金を含み当該内部粒子を被覆する最外層を備える触媒微粒子であって、前記内部粒子は、少なくとも当該粒子表面に、酸素欠陥を有する第1の酸化物を含有することを特徴とする。
【0016】
従来から、コストや資源量の観点から、白金低減を目的に、燃料電池用電極触媒として、シェルに白金、コアに白金以外の金属を用いた触媒が提案されている。しかし、コアに白金よりも卑な金属を用いると、燃料電池運転環境下でコア金属が溶出し、触媒の性能と耐久性が共に低下する問題がある。逆にコアに白金よりも貴な金属を用いると、安定ではあるが貴金属量を低減することはできず、コスト削減につながらない。
発明者らは、鋭意努力の結果、優れた性能及び耐久性、並びに使用する貴金属量の低減を達成できる触媒として、安定な酸化物を内部粒子に用いた触媒微粒子及びその製造方法を完成させた。
以下、本発明の触媒微粒子について、内部粒子、最外層及びその他の事項に分けて、順に説明する。
【0017】
1−1.内部粒子
本発明に使用される内部粒子は、当該粒子の少なくとも表面に、酸素欠陥を有する第1の酸化物を含有する。ここでいう酸素欠陥とは、酸化物中の、酸素原子と酸素原子以外の原子との連続した化学構造において、一部の酸素原子が脱落し、化学構造が途切れた部分のことをいう。酸素欠陥の近傍における、酸素原子以外の原子の酸化数は、酸素欠陥から離れた部分の当該原子の酸化数よりも低いことが多い。
本発明に使用される第1の酸化物は、燃料電池の通常の運転環境下において溶出し難いことが好ましい。
【0018】
内部粒子は、第1の酸化物を表面に含む粒子であってもよく、第1の酸化物のみからなる粒子であってもよい。このうち、内部粒子の表面に第1の酸化物が含まれる態様は、内部粒子が粒子形状を保つことができるため好ましい。内部粒子の表面に第1の酸化物が含まれる態様の例としては、内部粒子が、中心粒子と、当該中心粒子を被覆する中間層を備え、中間層が、第1の酸化物を含有する態様が挙げられる。
【0019】
内部粒子を、中心粒子と中間層の2層構造からなるものとする態様においては、中間層に酸素欠陥を有する第1の酸化物を使用することにより、中間層上に白金を含む最外層を連続層として形成できるという利点がある。また、このような酸化物を使用することにより、触媒微粒子の触媒活性と耐久性向上が実現できる。
【0020】
内部粒子を、中心粒子と中間層の2層構造からなるものとする態様においては、中心粒子は、酸素欠陥を有さず、第1の酸化物に含まれる酸素以外の元素と共通の元素を含む第2の酸化物を含有していてもよい。
図15〜
図19は、それぞれ、チタン−水系、スズ−水系、タンタル−水系、ニオブ−水系及びケイ素−水系の、25℃におけるpH−電位線図(プールベ図:Pourbaix Diagram)である。なお、
図15〜
図19中には、燃料電池の通常の運転環境下におけるpH−電位条件(pH=0〜2、電位=0.4〜1.2V)を満たす範囲を、一点鎖線の枠21で囲って示す。
図15によれば、当該枠21内の条件下においては、チタンは酸化チタン(IV)(TiO
2)の状態で存在する。したがって、TiO
2を含有する中心粒子を用いた場合には、燃料電池の通常の運転環境においては、中心粒子が溶出するおそれはない。同様に、
図16〜
図19によれば、酸化スズ(IV)(SnO
2)、酸化タンタル(V)(Ta
2O
5)、酸化ニオブ(V)(Nb
2O
5)又は二酸化ケイ素(SiO
2)を含有する中心粒子を用いた場合には、燃料電池の通常の運転環境において中心粒子が溶出するおそれはない。
以上より、中心粒子に含まれる第2の酸化物は、Ti、Sn、Ta、Nb又はSiを含むことが好ましい。また、第2の酸化物は、TiO
2、SnO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5又はSiO
2であることが好ましい。同様に、第1の酸化物は、Ti、Sn、Ta、Nb又はSiを含むことが好ましい。また、第1の酸化物は、TiO
p(ただし、pは実数、且つ、0<p<2)、SnO
q(ただし、qは実数、且つ、0<q<2)、Ta
2O
r(ただし、rは実数、且つ、0<r<5)、Nb
2O
s(ただし、sは実数、且つ、0<s<5)又はSiO
t(ただし、tは実数、且つ、0<t<2)であることが好ましい。
【0021】
上記第2の酸化物の候補のうち、特にTiO
2、SnO
2、Ta
2O
5及びNb
2O
5は、SiO
2よりもイオン性の化合物である。したがって、TiO
2、SnO
2、Ta
2O
5及びNb
2O
5は、それぞれの結晶表面及び結晶内部にイオン性の酸素欠陥を生じさせ、生じた酸素欠陥に最外層として配置される触媒である白金を配置させることで高い触媒能を発現することができる。
以上より、中心粒子に含まれる第2の酸化物は、Ti、Sn、Ta又はNbを含むことがより好ましい。また、第2の酸化物は、TiO
2、SnO
2、Ta
2O
5又はNb
2O
5であることがより好ましい。同様に、第1の酸化物は、Ti、Sn、Ta又はNbを含むことがより好ましい。また、第1の酸化物は、TiO
p、SnO
q、Ta
2O
r又はNb
2O
s(p、q、r及びsは、いずれも上記と同様の実数である)であることが好ましい。
【0022】
TiO
2、SnO
2、Ta
2O
5及びNb
2O
5については、安定性の面で優劣はほとんどない。しかし、触媒活性の観点、酸素欠陥に配置された触媒元素への電子供与のしやすさの観点、及びコストの観点から、TiO
2及びSnO
2が、Ta
2O
5又はNb
2O
5に比べてさらに好ましく、さらに埋蔵量、産出量、人体への安全性、及び金属酸化物微粒子分散系(酸化物ゾル)の調製法が確立されているため安定供給が可能といった観点から、TiO
2及びSnO
2がさらに好ましい。
以上より、中心粒子に含まれる第2の酸化物は、Ti又はSnを含むことがさらに好ましい。また、第2の酸化物は、TiO
2又はSnO
2であることがさらに好ましい。同様に、第1の酸化物は、Ti又はSnを含むことがさらに好ましい。また、第1の酸化物は、TiO
p又はSnO
q(p及びqは、いずれも上記と同様の実数である)であることがさらに好ましい。
特に、中心粒子としてTiO
2粒子を選択することは、中心粒子としてPd粒子を選ぶよりも、コスト面で大幅に有利である(Pd:700〜1000円/g、TiO
2:100円/kg)。
【0023】
白金を含む層を中間層上に連続層として形成するためには、白金と、金属又は非金属Mとの結合が、白金−白金結合、及び、M−M結合よりも安定であることが必要である。酸化物上において白金層を形成した例としては、例えば、TiO
2(110)面上に白金を3次元成長させた例が知られている(U.Diebold et al. Surf.Sci.,331,845−854(1995))。しかし、白金とチタン自身との結合は、必ずしも強いものではない。
【0024】
本願発明者らは、酸化物微粒子の表面から酸素を部分的に除去することにより、白金と、金属又は非金属Mとの間により強い相互作用が生じ、白金を酸化物微粒子の表面に固定できることを発見した。具体的には、酸化物微粒子の表面に酸素欠陥を有する中間層を形成することにより、当該中間層上に白金を含む層を連続層として形成できることを見出した。形成された中間層が酸素欠陥を有するものであることは、後述する実施例において詳述する。さらに、このように酸素欠陥と結合した白金を含む層は、後述する実施例において示すように、活性、耐久性共に、従来の白金触媒粒子と比較して高い。
【0025】
後述する最外層の形成が効率よく行われるという観点から、中心粒子に対する中間層の被覆率が、25%〜100%であることが好ましい。仮に、中心粒子に対する中間層の被覆率が25%未満であるとすると、後述する最外層の形成が十分に進行せず、本発明の効果が満足に得られないおそれがある。
本発明のように、酸化物を中心粒子に使用する触媒微粒子においては、電気伝導が良ければ、中心粒子に対する中間層の被覆率が低い場合でも、触媒微粒子全体の耐久性には影響が無い。したがって、当該被覆率が低いことによる背反は、本発明の触媒微粒子を燃料電池の触媒層に配合した場合に、触媒層の厚みが厚くなることのみである。
最外層については、原則として中間層の上、すなわち第1の酸化物の上にしか被覆されないので、中心粒子に対する中間層の被覆率が、内部粒子に対する最外層の被覆率(以下、最終被覆率と称する場合がある)となる。一方、燃料電池の触媒層には、1〜20μmという最適な厚みがある。触媒層の厚みは、最終被覆率と触媒微粒子の平均粒径によって変動する。本発明の触媒微粒子の最適平均粒径は3〜10nmなので、例えば、平均粒径が10nmの触媒微粒子における最終被覆率は90%以上、平均粒径が5nmの触媒微粒子における最終被覆率は45%以上、平均粒径が3nmの触媒微粒子における最終被覆率は25%以上であることが好ましい。
【0026】
1−2.最外層
本発明に使用される最外層は、白金を含み、上述した内部粒子を被覆する層である。
最外層は、白金のみ、又は、イリジウム、ルテニウム、ロジウム及び金からなる群から選ばれる金属材料と白金との合金からなることが好ましい。最外層に白金合金を使用する場合には、合金全体の質量を100質量%としたときの白金の含有割合が80質量%以上100質量%未満であることが好ましい。白金の含有割合が80質量%未満であるとすると、十分な触媒活性及び耐久性が得られないからである。なお、最外層として、Pt
4Irを用いた際に最高比活性を発揮する。
【0027】
内部粒子の溶出をより抑制できるという観点から、内部粒子に対する最外層の被覆率が、70%〜100%であることが好ましい。仮に、内部粒子に対する最外層の被覆率が、70%未満であるとすると、十分に高い触媒活性が得られないおそれがある。
【0028】
なお、ここでいう「内部粒子に対する最外層の被覆率」とは、内部粒子の全表面積を100%とした時の、最外層によって被覆されている内部粒子の表面積の割合のことである。当該被覆率を算出する方法の一例としては、TEMによって触媒微粒子の表面の数か所を観察し、観察された全面積に対する、最外層によって内部粒子が被覆されていることが観察によって確認できた面積の割合を算出する方法が挙げられる。
X線光電子分光(XPS:X−ray photoelectron spectroscopy)や、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS:Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)等を用いて、触媒微粒子の最表面に存在する成分を調べることによって、内部粒子に対する最外層の被覆率を算出することもできる。
【0029】
最外層の厚さは、単原子層以上、3原子層以下であることが好ましい。このような厚さの最外層を備える触媒微粒子は、後述する実施例において示すように、4原子層以上の最外層を備える触媒微粒子と比較して、白金1g当たりの表面積が高いという利点、及び、白金の被覆量が少ないため材料コストが低いという利点がある。
触媒表面積を可能な限り広く確保できるという点、及び、電子伝導性の観点から孤立した白金原子がなく、被覆された白金原子が全て有効に触媒能を発揮するという点から、最外層は連続層であることが好ましい。このように安定性及び触媒活性の確保のためには最外層が連続層であり、3原子層以下であることが好ましい。ただし、最外層は必ずしも内部粒子の全表面を覆う必要はない。触媒機能を発現する最外層によって被覆されず、露出した内部粒子表面を、他の安定な元素で覆うこともできる。
【0030】
1−3.その他
本発明の触媒微粒子の平均粒径は、2〜20nmであることが好ましく、4〜10nmであることがさらに好ましい。触媒微粒子の最外層は上述したように好ましくは3原子層以下であるため、最外層の厚さは、好ましくは0.17〜0.69nmである。したがって、触媒微粒子の平均粒径に対し、最外層の厚さがほぼ無視でき、内部粒子の平均粒径と、触媒微粒子の平均粒径とがほぼ等しいことが好ましい。
本発明における粒子の平均粒径は、常法により算出される。粒子の平均粒径の算出方法の例は以下の通りである。まず、400,000倍又は1,000,000倍のTEM(透過型電子顕微鏡)画像において、ある1つの粒子について、当該粒子を球状と見なした際の粒径を算出する。このようなTEM観察による平均粒径の算出を、同じ種類の200〜300個の粒子について行い、これらの粒子の平均を平均粒径とする。
【0031】
2.カーボン担持触媒微粒子
本発明のカーボン担持触媒微粒子は、カーボン担体に、上記触媒微粒子が担持されていることを特徴とする。
【0032】
触媒微粒子を担持させる導電性担体としては、触媒微粒子を高分散担持させるために十分な比表面積を有し、集電体として十分な導電性を有しているものであれば、特に制限されないが、主成分がカーボンであるのが好適である。それは十分に高い導電率を得ることができ、電気抵抗を低くすることができるからである。導電性担体の電気抵抗が高いと、触媒担持電極の内部抵抗が高くなり、結果として電池性能の低下を招く。
導電性担体としては、具体的には、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、活性炭、メゾフェースカーボン、黒鉛、チャンネルブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック;種々の炭素原子を含む材料を炭化、賦活処理した活性炭;グラファイト化カーボン等のカーボンを主成分とするもの、カーボン繊維、多孔質カーボン微粒子、カーボンナノチューブ、カーボン多孔質体等を使用することができる。BET比表面積は、100〜2000m
2/gであることが好ましく、より好ましくは200〜1600m
2/gである。この範囲であれば、触媒微粒子を高分散担持することができる。特に本発明においては、カーボン材料として、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、活性炭、メゾフェースカーボン、黒鉛等のカーボンブラックを用いることが好ましい。これらのカーボン材料を含む担体は、触媒微粒子を高分散担持することができるため、高い活性を有する電極触媒が得られる。
また、有機相若しくは水相への分散を考慮して、使用する担体表面若しくは担体自体の親水性・疎水性を制御しても良い。
【0033】
燃料電池で標準的に使用されている白金担持カーボンについては、コスト面を考慮すると、比活性と耐久性に優れ、かつ平均粒径が大きい白金微粒子を使用することはできない。これは平均粒径を大きくすると白金1g当りの表面積が減少するため、必要な白金表面積を確保しようとすると、より多くの白金が必要になることが原因である。
また、パラジウムなど貴金属を用いたコアシェル構造では、白金は最表層の1〜3原子層に過ぎないため、白金1g当りの表面積は大きい。しかし、コスト面では内部の貴金属分も考慮しなければならず、白金微粒子と同様に平均粒径を大きくすることには限界がある。パラジウムコアを用いたコアシェル粒子の場合は、コスト面を考慮すると、平均粒径は6nm前後が好適であり、十分な耐久性を有する平均粒径10nmの場合には、コアシェル構造のポテンシャルを十分に発揮できない。
【0034】
一方、本発明の触媒微粒子では、内部粒子に用いる酸化物が貴金属よりも1000分の1以下のコストで済み、極めて安価である。したがって、本発朋の触媒微粒子は、貴金属をコアに用いたコアシェル粒子とは異なり、10nm以上の平均粒径であっても、コアシェル構造のポテンシャルを十分に発揮することが原理的に可能である。
本発明のカーボン担持触媒微粒子の平均粒径は、カーボン担体の平均粒径によって決定される。以下、本発明のカーボン担持触媒微粒子を、燃料電池の触媒層に用いる場合を仮定して説明する。実用的な燃料電池用担体カーボン(例えば、ketjenEC、VulcanXC−72等)の平均粒径は、最大でも30nm程度であり、当該担体カーボンに担持できる触媒粒子の最大平均粒径は10nm程度、担持できる触媒粒子の数は2個である。平均粒径が30nm以上のカーボン粒子であればさらに平均粒径を大きくすることは可能であるが、触媒層の厚みに背反がある。
【0035】
図1は、本発明のカーボン担持触媒微粒子の第1及び第2の典型例を、模式的に示した断面図である。なお、二重波線は図の省略を意味する。また、
図1に描いた中間層、最外層の厚さは、必ずしも実際の層の厚さを反映したものではない。
図1(a)は、本発明のカーボン担持触媒微粒子の第1の典型例の断面模式図である。本典型例のカーボン担持触媒微粒子100aは、触媒微粒子5及びカーボン担体6からなる。触媒微粒子5は、内部粒子1と、当該内部粒子1を被覆する最外層2からなる。本典型例においては、内部粒子1は、さらに、中心粒子3と、当該中心粒子3を被覆する中間層4からなる。中間層4は、中心粒子3を構成する第2の酸化物の化学組成よりも、酸素原子の割合が低い化学組成を有する第1の酸化物を含む。
図1(b)は、本発明のカーボン担持触媒微粒子の第2の典型例の断面模式図である。本典型例のカーボン担持触媒微粒子100bは、触媒微粒子5及びカーボン担体6からなり、当該触媒微粒子5は、内部粒子1と、当該内部粒子1を被覆する最外層2からなるという点において、上記カーボン担持触媒微粒子100aと同様である。しかし、本典型例においては、内部粒子1は、酸素欠陥を有する第1の酸化物のみからなる。
【0036】
3.燃料電池用触媒
本発明の燃料電池用触媒は、上述したカーボン担持触媒微粒子を含むことを特徴とする。
燃料電池に用いる膜・電極接合体の触媒層には最適な厚みがあり、薄すぎても厚すぎても不適である。一般的に、触媒層厚みは1〜100μmが好適であり、最適には10μm前後である。ここで、触媒層の厚みは使用するカーボン担体、触媒粒子の平均粒径、質量、及びアイオノマーの質量で決まる。このことは、酸素供給律速にならない白金表面積を確保しようとすると、平均粒径が大きい触媒微粒子とカーボン粒子との組み合わせでは触媒層が厚くなってしまい、燃料電池用膜・電極接合体としての使用が困難になることを示す。本発明においては、上述したように、担持において、触媒微粒子の平均粒径に適合する平均粒径を有する担体カーボンを選択し、触媒層の厚みを考慮する必要がある。
例えば、触媒層厚みを10μmとし、N/C=0.75(カーボンの質量に対するアイオノマーの質量の比)で、白金被覆率を90%、白金最外層厚みを2原子層分とした場合、本発明の触媒微粒子の平均粒径の上限は10nmである。なお、触媒微粒子が白金最外層とTiO
2の内部粒子からなる場合、カーボン担持率は32質量%である。このカーボン担持率XとはX=(白金質量+TiO
2質量)/(白金質量+TiO
2質量+カーボン質量)×100により算出される。
【0037】
4.触媒微粒子の製造方法
本発明の触媒微粒子の製造方法は、内部粒子と、白金を含み当該内部粒子を被覆する最外層を備える触媒微粒子の製造方法であって、酸素欠陥を有しない第2の酸化物からなる微粒子の分散液を準備する工程、白金イオンの分散液を準備する工程、少なくとも、前記第2の酸化物からなる微粒子の分散液及び前記白金イオンの分散液を混合し、さらに還元手段を実行することにより、前記第2の酸化物からなる微粒子の少なくとも表面を、酸素欠陥を有する第1の酸化物に還元し、且つ、当該第1の酸化物上に、前記白金イオンが還元されてなる白金を含む最外層を形成する還元工程、並びに、前記還元工程後の混合物を加熱する工程を有することを特徴とする。
【0038】
本発明の製造方法により、コアに貴金属を使用したコアシェル構造を有する触媒を製造する場合よりも、貴金属の使用量が低減でき、安価に触媒微粒子が提供できる。また本発明の製造方法により、白金を含む連続した最外層が形成できるため、コアに卑金属を使用したコアシェル構造を有する触媒を製造する場合とは異なり、内部粒子が溶出するおそれがなく、優れた触媒性能と耐久性を有する触媒微粒子が提供できる。さらに、本発明の製造方法により、後述する逆ミセル又は光還元法等を用いた還元工程において、内部粒子となる第2の酸化物からなる微粒子の少なくとも表面における酸素欠陥の形成と、白金の還元とを同時に進行させることができ、最外層の形成を確実に進行させることができる。
【0039】
本発明に係る製造方法は、(1)第2の酸化物からなる微粒子の分散液を準備する工程、(2)白金イオンの分散液を準備する工程、(3)還元工程、及び、(4)加熱工程を有する。本発明は、必ずしも上記4工程のみに限定されることはなく、上記4工程以外にも、例えば、後述するようなろ過・洗浄工程、乾燥工程、粉砕工程等を有していてもよい。
以下、上記工程(1)〜(4)並びにその他の工程について、順に説明する。
【0040】
4−1.第2の酸化物からなる微粒子の分散液を準備する工程
本工程は、酸素欠陥を有しない第2の酸化物からなる微粒子の分散液を準備する工程である。第2の酸化物は、上記「1−1」の項において述べた第2の酸化物と同様である。
【0041】
第2の酸化物からなる微粒子は、結晶性微粒子であってもよく、アモルファスの微粒子であってもよい。ただし、後述する光還元法を用いる場合には、反応条件によって第2の酸化物の結晶化度を選択することが望ましく、第2の酸化物からなる微粒子はアモルファスの微粒子であることが好ましい。また、結晶性微粒子を用いる場合であっても、特にTiO
2微粒子の場合には、アナターセ型結晶微粒子がより好ましいが、ルチル型又はブルッカイト型結晶微粒子でもよい。
後述する逆ミセルを用いる場合には、第2の酸化物は、酸化チタン(IV)(TiO
2)、酸化スズ(IV)(SnO
2)、酸化タンタル(V)(Ta
2O
5)又は酸化ニオブ(V)(Nb
2O
5)であることが好ましい。また、後述する光還元法を用いる場合には、第2の酸化物は、光触媒活性を有するという観点から、酸化チタン(IV)(TiO
2)又は酸化スズ(IV)(SnO
2)であることが好ましい。
【0042】
第2の酸化物からなる微粒子の分散液は、第2の酸化物が均一に分散した液であれば、特に限定されず、溶液であってもよい。ただし、後述する逆ミセルを用いて分散させる場合には、第2の酸化物からなる微粒子を含む逆ミセルの分散液か、逆ミセル内で目的酸化物を得るための目的イオンを含む逆ミセルの分散液を用いる。
分散媒は、第2の酸化物を均一に分散させるものであれば、特に限定されない。取り扱いが容易であることから、分散媒として水を使用することが好ましい。後述する逆ミセルを用いて分散させる場合には、水相には純水、有機相にはオクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン等の有機溶媒を使用する。
【0043】
以下、第2の酸化物としてTiO
2を使用する場合の、分散液の詳細について説明する。
TiO
2のアモルファス微粒子の分散液は、塩化チタン(TiCl
4)等のチタン塩、又はチタンプロポキシド(Ti(OC
3H
8)
4)等のアルコキシドを、水酸化ナトリウム(NaOH)や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド((CH
3)
4NOH:TMAH)等を用いたアルカリ加水分解、又は加水分解処理することにより得られる。
TiO
2の結晶性微粒子の分散液は、常法により合成したTiO
2の結晶性微粒子や、市販の結晶性TiO
2ゾル(多木化学株式会社製、商品名:タイノックM−6)等に、必要であれば水等の分散媒を加えることにより得られる。
TiO
2を含む逆ミセルの分散液については、後述する逆ミセルを用いた還元の説明において詳しく述べる。
【0044】
4−2.白金イオンの分散液を準備する工程
本工程において準備する白金イオンの分散液は、白金イオンが均一に分散した液であれば、特に限定されない。ただし、後述する逆ミセルを用いて分散させる場合においては、白金イオンを含む逆ミセルの分散液を用いる。
分散媒は、白金イオンを均一に分散させるものであれば、特に限定されない。取り扱いが容易であることから、分散媒として水を使用することが好ましい。また、後述する逆ミセルを用いて分散させる場合には、水相には純水、有機相にはオクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン等の有機溶媒を使用する。
【0045】
白金イオンの分散液のうち、白金イオンの水溶液は、塩化白金酸(H
2PtCl
6・6H
2O)等の白金塩を、必要であれば水で希釈することにより得られる。白金イオンを含む逆ミセルの分散液については、後述する逆ミセルを用いた還元の説明において詳しく述べる。
【0046】
4−3.還元工程
本工程は、少なくとも、第2の酸化物からなる微粒子の分散液及び白金イオンの分散液を混合し、さらに還元手段を実行することにより、第2の酸化物からなる微粒子の少なくとも表面を、酸素欠陥を有する第1の酸化物に還元し、且つ、当該第1の酸化物上に、白金イオンが還元されてなる白金を含む最外層を形成する還元工程である。第1の酸化物は、上述した「1−1」の項において記載した第1の酸化物と同様である。
【0047】
本工程においては、第2の酸化物からなる微粒子の表面を、酸素欠陥を有する第1の酸化物に還元してもよいし、第2の酸化物からなる微粒子の全体を、第1の酸化物のみからなる微粒子へ変換してもよい。このうち、第2の酸化物からなる微粒子の表面を第1の酸化物へ還元する例としては、第2の酸化物からなる微粒子の表面に、第1の酸化物を含有する中間層を形成する場合が挙げられる。この場合は、当該中間層上に最外層が形成される。
【0048】
本工程に使用される還元手段の典型例としては、還元性を示す反応試薬を用いた化学還元と、光反応を用いる還元方法が挙げられる。以下、これらの還元手段について説明する。
【0049】
4−3−1.逆ミセル法における還元性を示す反応試薬を用いた化学還元
逆ミセル法における還元性を示す反応試薬を用いた化学還元においては、上述した第2の酸化物からなる微粒子を含む逆ミセルの分散液、及び白金イオンを含む逆ミセルの分散液を用いる。
逆ミセルとは、油溶性の界面活性剤が、炭化水素等の油の中で、親水基を内側、親油基を外側にして作る会合体を指す。逆ミセル内に閉じ込められた水をナノ反応場として利用することにより、第2の酸化物からなる微粒子の少なくとも表面における酸素欠陥の生成、白金イオンの還元、白金と酸素欠陥との結合を、同時に行うことができる。
【0050】
第2の酸化物からなる微粒子を含む逆ミセルの分散液は、例えば、第2の酸化物からなる微粒子と界面活性剤とを混合することにより得ることができる。同様に、白金イオンを含む逆ミセルの分散液は、例えば、白金イオンと界面活性剤とを混合することにより得ることができる。 逆ミセル構造そのものは安定である。しかし、(1)界面活性剤の種類、(2)溶媒の種類、(3)逆ミセル中の水分量、のいずれかのパラメータが少しでも異なるものであったり、或いは、逆ミセルを構成する材料の投入順序が異なったりするだけでも、逆ミセル構造を形成することはできない。
逆ミセルの形成に使用できる界面活性剤は、油溶性、又は両親媒性のものであれば、特に限定されない。逆ミセルを形成する界面活性剤の種類は、カチオン性、アニオン性、ノニオン性のいずれにも特に限定されないが、系中のpH、温度及び各種化学薬品に対して耐性が高く、安定な逆ミセルを維持できる界面活性剤が好ましい。また、逆ミセル内で行う白金塩の化学還元反応及び後述する光還元反応によって逆ミセルが崩壊せず、逆ミセル内で起こる反応を阻害しない界面活性剤がより好ましい。特に、化学反応及び光反応に不活性であることが、プロセスの簡素化には好ましい。さらに好ましくは、界面活性剤の除去が容易なイオン性で、且つ、親油基が比較的短鎖の界面活性剤である。また、逆ミセルを安定化あるいは不安定化させる目的で、2種類以上の界面活性剤を混合して用いることもできる。
【0051】
本発明に使用できる界面活性剤としては、例えば、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(AOT)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ラウリン酸マグネシウム、カプリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、ナトリウムフェニルステアレート、アルミニウムジカプリレート、テトライソアミルアンモニウムチオシアネート、n−オクタデシルトリn−ブチルアンモニウム蟻酸塩、n−アミルトリn−ブチルアンモニウムヨウ化物、ナトリウムジノニルナフタレンスルホネート、カルシウムセチルサルフェート、ドデシルアミンオレイン酸塩、ドデシルアミンプロピオン酸塩、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロマイド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、(2−オクチルオキシ−1−オクチルオキシメチル)ポリオキシエチレンエチルエーテル等が挙げられる。
逆ミセルの形成に使用できる溶媒は、n−ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン等の有機溶媒、及び、水である。アルコールのように、水と有機溶媒のいずれにも親和性がある溶媒は、逆ミセルの形成に使用することができない。
【0052】
図20は、逆ミセル構造の断面模式図である。逆ミセル構造200は、親水基31及び親油基32からなる界面活性剤33が、水相40を取り囲んで略放射状に配置された構造である。逆ミセル構造の外部は油相である。逆ミセル径41は、使用する結晶性TiO
2の粒径、又は、合成するアモルファスの粒径に応じて決定される。
図21は、有機相にデカンを用いた場合の、投入する界面活性剤に対する全水分量のモル比Rwと、逆ミセル径の相関を示したグラフである。
図21は、縦軸に逆ミセル径(水滴径)(nm)、横軸にRwをとったグラフである。図に示すように、逆ミセル径とモル比Rとはリニアな関係にあり(y=1.2484x+6.4794、R
2=0.9996)、したがって、逆ミセル径は、水分量と界面活性剤の量で制御することができる。
【0053】
逆ミセルを構成する材料の投入順序は、デカン等の有機溶媒と、AOT等の界面活性剤とを混合した後、水溶液又は水分散液を加える順序であることが好ましい。逆ミセルの安定性を考慮すると、界面活性剤を有機溶媒に溶解させる際に、室温以下に冷却し、泡立たないよう攪拌することが好ましい。
【0054】
本還元手段においては、第2の酸化物からなる微粒子を含む逆ミセルの分散液及び白金イオンを含む逆ミセルの分散液の混合物に、さらに還元剤を混合する。逆ミセルを用いず、還元剤を単に酸化物微粒子及び白金イオンの混合物の分散液に加えた場合には、還元剤は液内に万遍なく分散してしまい、第2の酸化物からなる微粒子の表面を効率よく還元することができない。本工程の様に、逆ミセル分散液の混合物にさらに還元剤を混合することによって、還元剤を逆ミセル内のナノオーダーの水滴の中に局所的に集合させ、第2の酸化物からなる微粒子表面のナノ構造を制御することができる。
【0055】
本還元手段に使用される第2の酸化物は、TiO
2、SnO
2、Ta
2O
5又はNb
2O
5であることが好ましい。
これら金属酸化物のうち、TiO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液は、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン等の有機溶媒にAOT等の界面活性剤を加えた溶液に、上述したアモルファス微粒子の分散液若しくは結晶性微粒子の分散液、又はTiO
2微粒子の水溶液を加えることにより得られる。なお、先にチタンイオンを閉じ込めた逆ミセルを作製し、逆ミセルのナノ反応場を利用して、アルカリ加水分解によりTiO
2微粒子を合成し、TiO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液を調製してもよい。
また、白金イオンを含む逆ミセルの分散液は、n−ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン等の有機溶媒にAOT等の界面活性剤を加えた溶液に、上述した白金イオンの水溶液を加えることにより得られる。
【0056】
本還元手段において使用できる還元剤としては、還元力の強い還元剤であれば特に限定されず、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)、水素、ヒドラジン、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、ホルムアルデヒド等が挙げられる。
【0057】
還元が終了し、第2の酸化物からなる微粒子の表面に白金を含む最外層が形成された後には、反応混合物にアルコールを加え、逆ミセル構造を破壊する工程を設けることが好ましい。逆ミセル構造を破壊しない場合には、AOT等の界面活性剤が触媒微粒子近傍に残存し、その結果、本製造方法により得られる触媒微粒子を電池に使用する際に、界面活性剤により電気化学反応が阻害されるおそれがある。また、残存する界面活性剤は、最外層と内部粒子との間や、触媒微粒子と後述するカーボン担体との間に入り込むおそれがあり、最外層の形成や、触媒微粒子のカーボン担体への担持が完了しないおそれがある。
逆ミセル構造の破壊に使用できるアルコールは、親水性及び親油性をいずれも備えるアルコールであることが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが挙げられる。
アルコールを加えた反応混合物は、後述する加熱工程に供する。
【0058】
4−3−2.光還元法を用いた還元
光還元法においては、光触媒活性を有する第2の酸化物からなる微粒子の分散液と、白金イオンの分散液の混合物に、さらに犠牲剤を混合した後、光照射を行う。
光還元法を用いることにより、第2の酸化物固有の光触媒作用を利用して、第2の酸化物からなる微粒子の表面でのみ白金の還元を進行させることができる。その結果、高効率で白金を第2の酸化物からなる微粒子の表面に析出でき、無駄な白金が生じず、白金微粒子が単独で生じることもなく、さらに第2の酸化物からなる微粒子を、90〜100%という高い被覆率で白金により被覆できる。
【0059】
本還元手段において使用できる光源は、UV光波長(350〜430nm)の光源であることが好ましい。430nmを超える波長の光源では、エネルギーが小さいため光触媒微粒子中で電荷分離が起きない結果、光触媒反応が進行しないため、使用することが難しい。ただし、可視光領域応答型光触媒や赤外領域応答型光触媒を用いる場合には、光触媒反応を進行させることが可能なため、可視光や赤外光を使用することができる。波長及び波長域の選択は、光触媒反応が進行するかどうかという観点からは、最外層の厚みや物性を制御するパラメータにすぎない。
【0060】
本還元手段において使用できる犠牲剤としては、UV光によって第2の酸化物からなる微粒子の表面において酸化されるものであれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、アスコルビン酸等の多価アルコール;ヘキサノール、デカノール等の高級脂肪酸アルコール;ソルビトール、グルコース等の還元性を有し親水性の高い糖類;等を用いることができる。
【0061】
本還元手段に使用される光触媒活性を有する第2の酸化物は、TiO
2又はSnO
2であることが好ましい。
【0062】
光還元法においては、上述した逆ミセルを用いてもよい。すなわち、光触媒作用を有する第2の酸化物からなる微粒子を含む逆ミセルの分散液と、白金イオンを含む逆ミセルの分散液を混合し、混合物に犠牲剤を加えて光照射を施してもよい。この場合は、第2の酸化物からなる微粒子の少なくとも表面に白金を含む最外層が形成された後に、反応溶液にアルコールを加えて逆ミセル構造を破壊することが好ましい。
【0063】
本光還元法では、上述した還元剤を併用してもよい。還元剤の使用時期は、光還元前、光還元と同時、及び光還元後のいずれの時期であってもよい。
還元剤の使用時期としては、光触媒活性を有する第2の酸化物からなる微粒子の表面を予め還元剤によって還元した後、白金イオンを当該第2の酸化物からなる微粒子と混合して、光照射を施すことが好ましい。また、光触媒活性を有する第2の酸化物からなる微粒子と白金イオンを混合した後、当該混合物に還元剤をさらに混合して、光照射を施してもよい。さらに、光触媒活性を有する第2の酸化物からなる微粒子と白金イオンを混合して、光照射を施した後、光照射後の当該混合物に還元剤をさらに混合してもよい。要するに、光触媒活性を有する第2の酸化物からなる微粒子と白金イオンとの混合物に光照射を施す工程を設けていれば、他のどの段階において還元剤を用いてもよい。ただし、白金イオンのみに還元剤を用いることは、白金微粒子が単独で生成してしまうという観点から好ましくない。
【0064】
光触媒活性を有する第2の酸化物としてTiO
2を用いた場合の、本還元手段の典型例について説明する。
まず、TiO
2分散液に白金イオン溶液を混合する。次に、当該混合液に犠牲剤としてエチレングリコールを入れ、UV光波長350nm〜430nmを照射し、TiO
2表面上のみで白金を還元する。
【0065】
光触媒活性を有する第2の酸化物としてTiO
2を用いた場合の、本還元手段の変形例について説明する。
まず、結晶性TiO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液に、強還元剤である水素化ホウ素ナトリウムを投入し、TiO
2微粒子を部分還元して当該微粒子に酸素欠陥を形成する。次に、白金イオンを含む逆ミセルの分散液を、部分還元処理を行ったTiO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液に混合する。続いて、当該混合液に犠牲剤としてエチレングリコールを加え、UV光波長350nm〜430nmを照射し、TiO
2表面上のみで白金を還元する。
【0066】
4−3−3.予備還元手段
上述した還元工程の前に、第2の酸化物からなる微粒子の分散液に予備還元手段を実行して、少なくとも第2の酸化物からなる微粒子を予め還元する予備還元工程を有していてもよい。
特に、光還元法を用いる場合には、予備還元手段は、光触媒活性を有する第2の酸化物からなる微粒子の分散液に還元剤を混合する手段であってもよいし、光触媒活性を有する第2の酸化物からなる微粒子の分散液に犠牲剤を混合した後、光照射する手段であってもよい。
【0067】
4−4.加熱工程
本工程は、還元工程後の混合物を加熱する工程である。なお、ここで還元工程後の混合物とは、第2の酸化物からなる微粒子の還元された部分に最外層が形成された触媒微粒子、分散媒及び/又は溶媒、並びに、使用した場合には後述するカーボン担体、界面活性剤、還元剤、犠牲剤、及び/又は逆ミセル破壊に用いたアルコール等の、本加熱工程に至るまでに混合した全ての材料の混合物をいう。なお、本加熱工程前に濾過等を行い、分散媒や溶媒等の液体を予め除いてもよい。
加熱方法は、第2の酸化物からなる微粒子の酸素欠陥と白金原子との結合を促進させ、且つ、AOT等の界面活性剤を加えた場合には当該界面活性剤を除去できる程度の温度であれば、特に限定されない。本工程で行う加熱は、焼成であることが好ましい。
焼成の具体的な条件は下記の通りである。
初期条件:室温、不活性ガスを30〜120分間パージする。
温度:250〜1300℃、好ましくは350〜900℃
昇温条件:室温から上記温度まで、60〜180分かけて昇温する。
保持条件:上記温度のまま30〜120分間保持する。
上記温度は、第2の酸化物からなる微粒子中の酸素欠陥と白金原子との間の結合形成に必要な温度である。
【0068】
4−5.その他の工程
加熱工程後には、触媒微粒子のろ過・洗浄、乾燥及び粉砕を行ってもよい。
触媒微粒子のろ過・洗浄は、製造された微粒子の層構造を損なうことなく、不純物を除去できる方法であれば特に限定されない。当該ろ過・洗浄の例としては、純水を溶媒にして、ろ紙(Whatman社製、#42)等を用いて吸引ろ過して分離する方法が挙げられる。
触媒微粒子の乾燥は、溶媒等を除去できる方法であれば特に限定されない。当該乾燥の例としては、60〜100℃の温度条件下、10〜20時間真空乾燥する方法が挙げられる。
触媒微粒子の粉砕は、固形物を粉砕できる方法であれば特に限定されない。当該粉砕の例としては、乳鉢等を用いた粉砕や、ボールミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等のメカニカルミリングが挙げられる。
【0069】
5.カーボン担持触媒微粒子の製造方法
本発明のカーボン担持触媒微粒子の第1の製造方法は、上記製造方法により得られる触媒微粒子をカーボン担体に担持させた、カーボン担持触媒微粒子の製造方法であって、還元剤を用いた上記還元工程において、第2の酸化物からなる微粒子を含む逆ミセルの分散液及び白金イオンを含む逆ミセルの分散液の混合物に還元剤をさらに混合する前、又は当該混合物に還元剤をさらに混合した後に、カーボン担体を混合することを特徴とする。
【0070】
本発明のカーボン担持触媒微粒子の第2の製造方法は、上記製造方法により得られる触媒微粒子をカーボン担体に担持させた、カーボン担持触媒微粒子の製造方法であって、光照射手段を用いた上記還元工程において、第2の酸化物からなる微粒子の分散液及び白金イオンの分散液の混合物にさらに犠牲剤を混合して光照射した後、当該混合物にさらにカーボン担体を混合することを特徴とする。
【0071】
上記2つの製造方法は、いずれも、第2の酸化物からなる微粒子及び白金イオンを含む混合物に、カーボン担体材料をさらに混合する点において共通している。
上記第1の製造方法、すなわち、還元剤を用いる製造方法においては、第2の酸化物からなる微粒子及び白金イオンを含む混合物に、カーボン担体を混合した後に還元剤を混合しても、還元剤を混合した後にカーボン担体を混合しても、得られるカーボン担持触媒微粒子に特に差はない。
一方、上記第2の製造方法、すなわち、光還元手段を用いる製造方法においては、第2の酸化物からなる微粒子及び白金イオンを含む混合物に、カーボン担体及び犠牲剤を混合した後に光照射を行うと、カーボン担体が第2の酸化物の光触媒作用を妨げ、白金の還元反応が進行しなくなるため、好ましくない。したがって、本第2の製造方法においては、第2の酸化物からなる微粒子及び白金イオンを含む混合物に、さらに犠牲剤を混合して光照射をした後に、カーボン担体を混合する。
【0072】
上記第1及び第2の製造方法においては、上述したカーボン担体を用いることができる。その中でも、上記第1及び第2の製造方法においては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、活性炭、メゾフェースカーボン及び黒鉛等のカーボン材料を、1種類のみ、又は2種以上を混合して用いることが好ましい。
【0073】
6.推定メカニズム
以下、本発明の製造方法において製造される触媒微粒子が、高い活性及び高い耐久性を有するメカニズムについて説明する。
図2は、結晶性のTiO
2を還元剤によって還元する前、及び、還元した後の、TiO
2の一部をそれぞれ模式的に示した図である。図中の「Ti(IV)」は+4価のチタン原子を、「Ti(III)」は+3価のチタン原子を、「O」は酸素原子を、直線はこれら原子間の結合を、それぞれ示す。図中の二重波線は図の省略を示す。
図2(a)は、上述した還元手段により、結晶性TiO
2中の一部のTi(IV)がTi(III)に還元される様子を示した模式図である。このとき、酸素が一部脱離し、酸素欠陥60が生じる。このように、還元によって酸素欠陥が生じ、結晶性TiO
2の結晶性が消失することは、後述する参考例3のカーボン担持触媒微粒子の分析においても確認されている。
図2(b)は、還元工程に続く加熱処理により、酸素欠陥部位と白金原子とが結合し、Pt−Ti結合が生じた様子を示す模式図である。このように、加熱によってPt−Ti結合が生じることは、後述する参考例3のカーボン担持触媒微粒子の分析においても確認されている。
【0074】
Pt−Ti結合を形成するチタン原子は、
図2(b)に示すように、Ti(III)よりもTi(IV)の方がより安定であり好ましい。このことはすなわち、Ti(III)がPtに電子を供与し、Ti(IV)へと酸化されることを意味する。このように、TiからPtへの電子供与が起こることにより、Pt5d軌道の電子占有率が上がり、Ptに酸素が吸着し難くなる。
そもそも、白金触媒上における酸素還元反応は、白金への酸素吸着の起こりやすさにより決まる。白金への酸素吸着とは、すなわち、Pt5d軌道と、O2p空軌道との間で結合性軌道が形成されることに等しい。
一般に、金属触媒へ酸素が吸着し難い場合にも、金属触媒へ酸素が吸着し過ぎる場合にも、触媒活性は低い。すなわち、触媒活性を高く保つには、酸素の吸着に一定の最適値が存在する。白金は、金属触媒の中でも酸素吸着が起こりやすい金属であるため、白金に酸素吸着を起こし難くすることが、触媒活性向上に有効である。
【0075】
白金に対し酸素を吸着し難くするには、Pt5d軌道と、O2p空軌道とで形成される反結合性軌道の安定化エネルギーを小さくすることが有効である。安定化エネルギーを小さくするには、白金に電子を供与し、Ptのdバンドセンター(d−band center)を下げることが有効である。
図3は、白金に酸素が吸着する際のエネルギー準位図である。電子供与前のPtのd−バンド61a中のdバンドセンター62aは、フェルミ準位63よりもエネルギー準位が高い。したがって、d−バンド61a中における、フェルミ準位63以下の電子の一部(斜線で示す)は、全てPt5d軌道とO2pのπ
*軌道とで形成される結合性軌道を占める。その結果、白金は酸素を吸着しやすくなる。
一方、Pt5d軌道にTiO
2から電子供与が起こると、フェルミ準位はそのままに、Pt5d軌道のエネルギー準位が下がり、それに伴ってdバンドセンターも下がる。電子供与後のPtのd−バンド61b中のdバンドセンター62bは、フェルミ準位63よりもエネルギー準位が低い。したがって、Pt5d軌道のうち、O2pのπ
*軌道と結合性軌道を形成していた軌道のエネルギー準位が下がる。そのため、結合を形成するPt5d軌道のエネルギー準位とO2pのπ
*軌道のエネルギー準位とのエネルギー差が広がり、その結果、白金に対する酸素の吸着力は、電子供与前と比較して弱まる。
このように、還元されやすい白金層、すなわち、酸化劣化しにくい白金層を酸化物微粒子上に形成することにより、優れた耐久性を発揮する触媒微粒子が得られる。
【0076】
7.その他の応用例
本発明に係る触媒微粒子及びカーボン担持触媒微粒子は、上述した燃料電池用触媒の他にも、従来の白金触媒反応及びその応用に用いることができる。本発明の触媒微粒子等は、粒子内部が酸化物からなるため、白金微粒子を用いる従来の場合と比較して白金使用量を低減でき、画期的な低コスト化が図れる。
他の応用例としては、例えば、窒素酸化物(NOx)の分解還元反応への応用、光触媒及びその助触媒としての水の分解反応への応用、酸化還元反応を基礎とする各種化学反応への応用、バイオマス分解触媒、生体触媒等が挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下に、本発明の具体的態様を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0078】
1.カーボン担持触媒微粒子の製造
1−1.逆ミセルを用いた製造法
1−1−1.アモルファスのTiO
2を用いた製造法
[参考例1]
(a)TiO
2微粒子を含む逆ミセルの調製
まず、TiCl
4の塩酸溶液(16−17%/1.5g/mL)1mLを、精製水49mLで希釈し、0.1mol/LのTiCl
4水溶液を調製した。次に、1000mLビーカーに、デカン183mL及びジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(以下、AOTと称する)17.27gを加え、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。続いて、攪拌後の溶液に0.1mol/LのTiCl
4水溶液3mLを加え、さらに1時間攪拌した。最後に、0.1mol/L NaOH水溶液1.2mLを、攪拌後の溶液にマイクロピペットにて加え、さらに18時間攪拌して、TiO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液を得た。
【0079】
(b)白金イオンを含む逆ミセルの調製
まず、H
2PtCl
6・6H
2O 5.1778gを、精製水98.9mLに溶解させ、0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液を調製した。次に、1000mLビーカーに、デカン183mL及びAOT17.62gを加え、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。続いて、攪拌後の溶液に0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液4.3mLを加え、さらに1時間攪拌し、白金イオンを含む逆ミセルの分散液を得た。
【0080】
(c)逆ミセルの混合及び還元
まず、上記方法で調製したTiO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液及び白金イオンを含む逆ミセルの分散液を混合し、マグネチックスターラーで3時間攪拌した。次に、カーボン担体としてカーボンブラック(Ketjen)0.3029gを加え、10℃で30分間攪拌した。続いて、水素化ホウ素ナトリウム(以下、SBHと称する)粉末0.1589gを加え、2時間攪拌した。さらに2−プロパノール:エタノール=4:1混合溶液を300mL加え、10℃で1時間攪拌した。分散液について吸引ろ過を行い、触媒前駆体である固体を回収した。
回収した固体をデカン:アルコール=4.3:3.0混合溶液500mLで洗浄し、80℃の温度条件下、18時間真空乾燥した。
【0081】
(d)焼成(600℃)
上記方法により得られた触媒前駆体の粉末のうち0.4gを、下記条件下で焼成した。
・初期条件 室温、アルゴンパージ60分間(Ar:750mL/分、Ar純度:99.9999%)
・昇温条件 室温から600℃まで、120分かけて昇温
・保持条件 600℃のまま60分間保持
焼成後の触媒粉末を80℃精製水で洗浄し、参考例1のカーボン担持触媒微粒子を得た。
【0082】
[参考例2]
(e)焼成(500℃)
逆ミセルの混合及び還元までは上記参考例1と同様である。
上記方法により得られた触媒前駆体の粉末のうち0.4gを、下記条件下で焼成した。
・初期条件 室温、アルゴンパージ60分間(Ar:750mL/分、Ar純度:99.9999%)
・昇温条件 室温から500℃まで、120分間かけて昇温
・保持条件 500℃のまま60分間保持
焼成後の触媒粉末を80℃精製水で洗浄し、参考例2のカーボン担持触媒微粒子を得た。
【0083】
1−1−2.結晶性のTiO
2を用いた製造法
[参考例3]
(a)TiO
2微粒子を含む逆ミセルの調製
まず、1000mLビーカーに、デカン462mL及びAOT20.4068gを加え、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。続いて、攪拌後の溶液に、アナターゼ型結晶性TiO
2ゾル(多木化学株式会社製、商品名:タイノックM−6)10gを加え、さらに3時間攪拌し、TiO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液を得た。
【0084】
(b)白金イオンを含む逆ミセルの調製
まず、H
2PtCl
6・6H
2O 5.1778gを、精製水99mLに溶解させ、0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液を調製した。次に、1000mLビーカーに、デカン462mL及びAOT20.89gを加え、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。続いて、攪拌後の溶液に0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液10.16mLを加え、さらに1時間攪拌し、白金イオンを含む逆ミセルの分散液を得た。
【0085】
(c)逆ミセルの混合及び還元
まず、上記方法で調製したTiO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液及び白金イオンを含む逆ミセルの分散液を混合し、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。次に、カーボン担体としてカーボンブラック(Ketjen)0.565gを加え、10℃で30分間攪拌した。続いて、SBH粉末0.38gを加え、5時間攪拌した。さらに2−プロパノール:エタノール=4:1混合溶液を500mL加え、10℃で30分間攪拌した。分散液について吸引ろ過を行い、触媒前駆体である固体を回収した。
回収した固体をデカン:アルコール=4.3:3.0混合溶液500mLで洗浄し、80℃の温度条件下、18時間真空乾燥した。
【0086】
(d)焼成(700℃)
上記方法により得られた触媒前駆体の粉末を、下記条件下で焼成した。
・初期条件 室温、アルゴンパージ60分間(Ar:750mL/分、Ar純度:99.9999%)
・昇温条件 室温から700℃まで、120分かけて昇温
・保持条件 700℃のまま60分間保持
焼成後の触媒粉末を80℃精製水で洗浄し、80℃の温度条件下、18時間真空乾燥して、参考例3のカーボン担持触媒微粒子を得た。
【0087】
1−1−3.SnO
2微粒子を含む逆ミセル及び白金イオンを含む逆ミセルを用いた製造法
[参考例4]
(a)部分還元したSnO
2微粒子を含む逆ミセルの調製
まず、精製水にSnCl
4を溶解させて0.1mol/LのSnCl
4水溶液を調製した。次に、シクロヘキサン75gに界面活性剤AOTを10.29g溶解させ、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。続いて、攪拌後の溶液に上記0.1mol/LのSnCl
4水溶液を、2.5mL加え、2時間攪拌した。このとき、界面活性剤に対する水のモル比([H
2O]/[Surfactant])が6になるように調節した。続いて、8mol/LのNaOHを、SnCl
4中のスズに対するモル比で4倍量(0.25mL)加え、SnO
2を含む逆ミセルを調製した。次いで、SBH粉末を0.047g添加して2時問攪拌し、部分還元されたSnO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液を得た。
【0088】
(b)白金イオンを含む逆ミセルの調製
まず、H
2PtCl
6・6H
2O 2.59gを、超純水49.9gに溶解させ、0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液を調製した。次に、2000mLビーカーに、デカン830mL及びAOT77.1gを加え、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。続いて、攪拌後の溶液に0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液18.75mLを加え、さらに1時間攪拌し、白金イオンを含む逆ミセルの分散液を得た。
【0089】
(c)逆ミセルの混合及びSBHによる還元
上記方法で調製した部分還元されたSnO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液及び白金イオンを含む逆ミセルの分散液を混合し、マグネチックスターラーで1時問攪拌した。その後、溶液が透明になったことを確認し、SBHを白金イオンの10倍モル量加えて、さらに1時間攪拌した。その後、反応溶液に、白金とSnO
2の合計し込み量を100質量%とした際の担持量が40質量%となるように、カーボン担体(キャボットジャパン株式会社製、商品名:VXC−72R)を0.129g加え、さらに1時間攪拌した。その後、反応溶液に2−プロパノール100mLを添加して逆ミセルを破壊し、触媒をカーボンに担持させた。生成物は減圧濾過により回収し、参考例4のカーボン担持触媒微粒子を得た。
【0090】
1−2.光還元法による製造
1−2−1.白金水溶液とTiO
2水溶液を用いた触媒粒子の製造
[実施例5]
(a)白金水溶液とTiO
2水溶液との混合
まず、0.025mol/Lの白金水溶液を50mL調製した。次に、白金水溶液34mLに、1mol/L NaOH水溶液を適宜加えてpH=4に調整した。次に、アナターゼ型結晶性TiO
2ゾル(多木化学株式会社製、商品名:タイノックM−6)35gを、精製水235gで希釈して、TiO
2水溶液を調製した。
pH=4に調整した白金水溶液約34mLと、TiO
2水溶液270gとを500mLビーカーに加え、さらにエチレングリコール0.2gを加え、1時間攪拌した。
【0091】
(b)光還元
図14に、光照射を行った装置の模式図を示す。なお、光照射は暗室内で行った。
容器11内の白金−TiO
2−エチレングリコール混合溶液をスターラー12で均一に攪拌しながら、当該溶液にUV光照射装置13によってUV波長(350〜430nm)を含む光を均一に照射した。
1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、6時間後、12時間後、16時間後、18時間後及び24時間後の溶液を観察し、白金還元が完全に進行し、溶液が黒色化した24時間後の時点で照射を終了した。
詳細な光還元条件は以下の通りである。
UV光照射装置:500W用高圧UVランプ(ウシオ電機製、USH−500SC2)
出力:250W
主なUV波長:436nm、405nm、365nm
光源から試料までの距離:1〜5m
【0092】
(c)カーボン担持
光照射が終了した白金−TiO
2混合溶液に、カーボン担体としてカーボンブラック(Ketjen)1.511gを加え、6時間攪拌した。その後、溶液からエバポレーターによって溶媒を留去し、80℃の温度条件で18時間真空乾燥した。
【0093】
(d)焼成(300℃)
上記方法により得られた触媒前駆体の粉末を、下記条件下で焼成した。
・初期条件 室温、アルゴンパージ60分間(Ar:750mL/分、Ar純度:99.9999%)
・昇温条件 室温から300℃まで、120分かけて昇温
・保持条件 300℃のまま60分間保持
焼成後の触媒粉末を80℃精製水で洗浄し、80℃の温度条件下、18時間真空乾燥して、実施例5のカーボン担持触媒微粒子を得た。
【0094】
1−2−2.TiO
2微粒子を含む逆ミセル及び白金イオンを含む逆ミセルを用いた製造法(白金1原子層)
[実施例6]
(a)表面が還元されたTiO
2微粒子を含む逆ミセルの調製
白金層の厚みの制御は、投入する白金量で制御する方法と、白金被覆後に電位処理にて白金層を薄くする方法の2通りの方法がある。以下の実施例6〜8においては、投入する白金量で白金層の厚みを制御する方法を採用した。この方法は、光還元法においては、内部粒子の表面でのみ白金還元反応が起きるために可能な制御法である。また、投入する白金の量は使用する内部粒子の粒径で決定される。
まず、アナターゼ型結晶性TiO
2ゾル(多木化学株式会社製、商品名:タイノックM−6、0.75mol/L)10gに精製水66mLを加え、0.1mol/Lに希釈したTiO
2水溶液を調製した。次に、ビーカーに、デカン100mL及びAOT2.2gを加え、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。続いて、攪拌後の溶液に上記0.1mol/LのTiO
2水溶液0.53mLを加え、逆ミセル構造を安定化させるために1時間攪拌した。さらにその後3時間攪拌した。続いて、SBH粉末2.5574gを加え、2時間攪拌し、部分還元されたTiO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液を得た。
【0095】
(b)白金イオンを含む逆ミセルの調製
まず、H
2PtCl
6・6H
2O 2.59gを、精製水49.9gに溶解させ、0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液を調製した。次に、ビーカーに、デカン100mL及びAOT2.2gを加え、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。続いて、攪拌後の溶液に0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液0.53mLを加え、さらに1時間攪拌し、白金イオンを含む逆ミセルの分散液を得た。
【0096】
(c)逆ミセルの混合及び光還元
まず、上記方法で調製した、部分還元されたTiO
2微粒子を含む逆ミセルの分散液及び白金イオンを含む逆ミセルの分散液を混合し、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。次に、
図14に示すように、容器11中の混合物をマグネチックスターラー12で均一に攪拌しながら、暗室内において、当該混合物に、UV光照射装置13によって、フィルター(UG11)を用いて、UV光のみを均一に24時間照射した。
詳細な光還元条件は以下の通りである。
UV光照射装置:500W用高圧UVランプ(ウシオ電機製、USH−500SC2)
出力:500W
波長:350〜420nm
光源から試料までの距離:30cm
【0097】
(d)カーボン担持
光照射が終了した白金−TiO
2混合分散液に、カーボン担体としてカーボンブラック(Ketjen)2.13gを加え、10℃以下の温度条件下で30分間攪拌した。次に、2−プロパノール:エタノール=4:1混合溶液を200mL加え、10℃で30分間攪拌して、逆ミセルを破壊し、触媒をカーボンに担持させた。その後、分散液について吸引ろ過を行い、触媒前駆体である固体を回収した。
回収した固体をデカン:アルコール=4.3:3.0混合溶液500mLで洗浄し、80℃の温度条件下、18時間真空乾燥した。
【0098】
(e)焼成(500℃)
上記方法により得られた触媒前駆体の粉末を、下記条件下で焼成した。
・初期条件 室温、アルゴンパージ60分間(Ar:750mL/分、Ar純度:99.9999%)
・昇温条件 室温から500℃まで、120分かけて昇温
・保持条件 500℃のまま60分間保持
焼成後の触媒粉末を80℃精製水で洗浄し、80℃の温度条件下、18時間真空乾燥して、白金1原子層が被覆した実施例6のカーボン担持触媒微粒子を得た。
【0099】
1−2−3.TiO
2微粒子を含む逆ミセル及び白金イオンを含む逆ミセルを用いた製造法(白金3原子層)
[実施例7]
表面が還元されたTiO
2微粒子を含む逆ミセルの調製までは、上記実施例6と同様である。白金イオンを含む逆ミセルの調製を、以下のように行った。まず、H
2PtCl
6・6H
2O 2.59gを、精製水49.9gに溶解させ、0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液を調製した。次に、ビーカーに、デカン150mL及びAOT6.5gを加え、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。続いて、攪拌後の溶液に0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液1.58mLを加え、さらに1時間攪拌し、白金イオンを含む逆ミセルの分散液を得た。
その後の逆ミセルの混合及び光還元、カーボン担持並びに焼成については上記実施例6と同様に行い、白金3原子層が被覆した実施例7のカーボン担持触媒微粒子を得た。
【0100】
1−2−4.TiO
2微粒子を含む逆ミセル及び白金イオンを含む逆ミセルを用いた製造法(白金10原子層)
[実施例8]
表面が還元されたTiO
2微粒子を含む逆ミセルの調製までは、上記実施例6と同様である。白金イオンを含む逆ミセルの調製を、以下のように行った。まず、H
2PtCl
6・6H
2O 2.59gを、精製水49.9gに溶解させ、0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液を調製した。次に、ビーカーに、デカン250mL及びAOT21.7gを加え、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。続いて、攪拌後の溶液に0.1mol/LのH
2PtCl
6水溶液5.28mLを加え、さらに1時間攪拌し、白金イオンを含む逆ミセルの分散液を得た。
その後の逆ミセルの混合及び光還元、カーボン担持並びに焼成については上記実施例6と同様に行い、白金10原子層が被覆した実施例8のカーボン担持触媒微粒子を得た。
【0101】
1−2−5.SnO
2微粒子を含む逆ミセル及び白金イオンを含む逆ミセルを用いた製造法
[実施例9]
部分還元したSnO
2微粒子を含む逆ミセルの調製、及び、白金イオンを含む逆ミセルの調製は、上述した参考例4と同様である。
SnO
2微粒子を含む逆ミセルに、スズに対するモル比0.5でSBHを加えて1時間攪拌した。その後、反応溶液に白金イオンを含む逆ミセルの分散液を混合し、次いで、犠牲剤としてソルビトールを白金に対して2倍モル量添加し、高圧水銀ランプを用いて3日間光照射した。光照射後、参考例4と同様にカーボン担持及び減圧濾過を行って、実施例9のカーボン担持触媒微粒子を得た。
【0102】
2.触媒微粒子の分析
2−1.参考例3のカーボン担持触媒微粒子の分析
参考例3のカーボン担持触媒微粒子について、高角度散乱暗視野法(High−Angle Annular Dark−Field:以下、HAADFと称する)による測定、及び、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:以下、EDSと称する)による測定を行い、得られた触媒微粒子の構造及び組成解析を行った。
【0103】
図4は、参考例3のカーボン担持触媒微粒子のHADDFによる測定結果を、
図5は、参考例3のカーボン担持触媒微粒子のEDS面分析の結果を、それぞれ撮影した電子顕微鏡写真である。
HAADFの測定条件は以下の通りである。すなわち、電界放射型透過電子顕微鏡(日本電子製、JEM−2100F、Cs補正付属)を用いて、加速電圧200kVにて、視野0.3μm×0.3μmの範囲(倍率40万倍、
図4(a))、及び視野8nm×8nmの範囲(倍率1750万倍、
図4(b))で、それぞれ暗視野STEM観察(Scanning Transmission Electron Microscopy)を行った。
図4(b)から、得られた触媒微粒子の1次粒径は、約10〜20nmであることが分かる。
EDSの測定条件は以下の通りである。すなわち、UTW型Si(Li)半導体検出器を備えた電界放射型透過電子顕微鏡(日本電子製、JEM−2100F、Cs補正付属)を用いて、EDSによるマッピング分析を行い、Pt原子とTiO
2が共に存在する領域を検出した。
図5(a)〜(c)は、
図4(a)と同じ視野で元素別に撮影した電子顕微鏡写真である。
図5(a)はTi元素について、
図5(b)はPt元素についてそれぞれ撮影した写真であり、
図5(c)は、
図5(a)及び
図5(b)を重ねた写真である。
図5(c)から分かるように、Ti元素が存在する位置と、Pt元素が存在する位置とはほぼ重なることから、参考例3のカーボン担持触媒微粒子においては、結晶性のTiO
2の表面に白金が存在することが確認できた。
【0104】
参考例3においてSBH粉末を加える直前のTiO
2微粒子、及び、参考例3のカーボン担持触媒微粒子について、STEM観察を行った。
STEM観察条件は以下の通りである。すなわち、電界放射型透過電子顕微鏡(日本電子製、JEM−2100F、Cs補正付属)を用いて、加速電圧200kVにて、視野25nm×25nmの範囲(倍率500万倍、
図6(a))、及び視野12nm×12nmの範囲(倍率1000万倍、
図6(b))で、それぞれ暗視野STEM観察を行った。
【0105】
図6(a)は、参考例3においてSBH粉末を加える直前のTiO
2微粒子の電子顕微鏡写真である。写真中央の枠で囲った部分には、TiO
2特有の格子縞が確認できる。格子間距離は2.89Åであり、この値は、アナターゼ型TiO
2の(101)面の格子定数の値と一致した。
図6(b)は、参考例3のカーボン担持触媒微粒子の電子顕微鏡写真である。写真中央の枠で囲った部分はTiO
2及び結晶化していない白金が占める領域を、当該枠よりも小さい枠で囲った部分は結晶化した白金が占める領域を、それぞれ示す。
図6(b)から分かるように、TiO
2及び結晶化していない白金が占める領域には、
図6(a)に見られたような格子縞が全く確認できない。これは、参考例3のカーボン担持触媒微粒子においては、TiO
2が還元された結果、TiO
2の結晶構造が崩れ、酸素欠陥が生じたことを示す。
【0106】
参考例3において、SBH粉末を加える直前のTiO
2微粒子、SBH粉末を加えた後、焼成する直前のTiO
2微粒子、及び、参考例3のカーボン担持触媒微粒子について、X線回折(X−ray Diffraction:以下、XRDと略す。)測定を行った。XRD測定に用いたハードウェア及び詳細な測定条件は以下の通りである。
・ハードウェア
装置:スペクトリアス製 XPert PRO MPD
ターゲット:Cu(波長 1.541Å)
X線出力:45kV、40mA
単色化(CuK
α):Niフィルタ法
光学系:集中光学系
ゴニオメータ半径:240mm
検出器:半導体アレイ検出器
・測定条件
スキャン方法:連続法
走査軸:2θ・θ(対称反射法)
ステップ:2θ=0.008356°
平均時間/ステップ:29.845sec
スキャン範囲:2θ=4.0〜90.0°
固定発散スリット:1/2°
【0107】
図7(a)は、SBH粉末を加える直前のTiO
2微粒子のXRDスペクトルの一部、及び、SBH粉末を加えた後、焼成する直前のTiO
2微粒子のXRDスペクトルの一部を重ねて示した図である。図から分かるように、SBH還元前においては、2θ=25°近傍にTiO
2(101)の回折を示すピークが現れる。しかし、SBH還元後においては、2θ=25°近傍のピークはほぼ消失している。このことから、SBH還元によって、TiO
2の結晶性が消失したことが分かる。以上の結果は、上述したSTEM観察において、SBH粉末を加えた後の触媒微粒子に、TiO
2の格子縞が観察されなくなることと一致する。
図7(b)は、SBH粉末を加えた後、焼成する直前のTiO
2微粒子のXRDスペクトルの一部、及び、参考例3のカーボン担持触媒微粒子のXRDスペクトルの一部を重ねて示した図である。図から分かるように、焼成前においては、2θ=30〜35°の範囲内にピークは観察されない。しかし、700℃に焼成した後の触媒微粒子においては、2θ=33°近傍にPt
5Ti
3の回折を示すピークが現れる。このことから、焼成することによって、Pt−Ti結合が形成されたことが分かる。
【0108】
2−2.参考例4のカーボン担持触媒微粒子の分析
参考例4のカーボン担持触媒微粒子について、SEM(Scanning Electron Microscopy)観察を行った。
SEM観察条件は以下の通りである。すなわち、走査型電子顕微鏡(日立製、S−5500)を用いて、加速電圧30kVにて、倍率80万倍(
図8(a))、倍率60万倍(
図8(b))、倍率50万倍(
図8(c))で、それぞれSEM観察を行った。
【0109】
図8は、参考例4のカーボン担持触媒微粒子の電子顕微鏡写真である。中央の暗い部分がSnO
2内部粒子を示し、比較的明るい外側の部分が白金最外層を示す。
図8(a)については、触媒微粒子全体の粒径を白い両矢印で示し、白金最外層の厚みを黒い両矢印で示す。
図8(a)〜(c)から分かるように、SnO
2内部粒子の粒径が20nm程度であるのに対し、白金単原子層の厚みは1nm以下である。また、これらのSEM写真から分かるように、白金最外層は、SnO
2内部粒子を隙間なく被覆した連続層である。
以上の結果から、SnO
2微粒子に、高い被覆率で白金の連続層を被覆できることが分かる。
【0110】
2−3.実施例6〜実施例8のカーボン担持触媒微粒子の分析
実施例6〜実施例8のカーボン担持触媒微粒子について、SEM(Scanning Electron Microscopy)観察を行った。
SEM観察条件は以下の通りである。すなわち、走査型電子顕微鏡(日立製、S−5500)を用いて、加速電圧30kVにて、倍率180万倍(
図9(a))、倍率200万倍(
図9(b))、倍率100万倍(
図10(a))、倍率130万倍(
図10(b))で、それぞれSEM観察を行った。
【0111】
図9は、実施例6のカーボン担持触媒微粒子の電子顕微鏡写真である。また、
図10は、実施例7のカーボン担持触媒微粒子(
図10(a))及び実施例8のカーボン担持触媒微粒子(
図10(b))の電子顕微鏡写真である。中央の暗い部分がTiO
2内部粒子を示し、比較的明るい外側の部分が白金最外層を示す。
図9(a)及び(b)から分かるように、TiO
2内部粒子の粒径が16nm程度であるのに対し、白金単原子層の厚みは0.25nm程度である。また、
図10(a)から分かるように、TiO
2内部粒子の粒径が約23nmであるのに対し、白金の3原子層の厚みは約1.0nmである。さらに、
図10(b)から分かるように、TiO
2内部粒子の粒径が約27nmであるのに対し、白金の10原子層の厚みは約3nmである。また、これらのSEM写真から分かるように、白金最外層は、TiO
2内部粒子を隙間なく被覆した連続層である。
以上の結果から、TiO
2の光還元能を利用した白金の選択的な還元によって、TiO
2結晶性微粒子に、高い被覆率で白金の連続層を被覆できることが分かる。さらに、還元条件によって最外層の厚みを制御できることも分かる。
【0112】
3.触媒微粒子の活性及び耐久性の検討
3−1.触媒微粒子に対する電位処理
参考例3のカーボン担持触媒微粒子について、回転ディスク電極による評価を行う前に、白金の清浄を目的として電位処理を行った。
図11(a)は、参考例3の製造方法に基づいて、焼成温度500℃、600℃及び700℃の条件でそれぞれ焼成を行った触媒微粒子のXRDスペクトルの一部である。
図11(a)から分かるように、焼成温度500℃のスペクトルにおける2θ=40°のピーク(Pt(111)を表すピーク)は、焼成温度700℃のスペクトルにおいてはほぼ消失している。一方、
図11(a)から、焼成温度500℃のスペクトルにおいては全く現れない2θ=30°のピーク(PtS(002)(101)を表すピーク)は、焼成温度700℃のスペクトルにおいて強い強度で現れることが分かる。これらの結果は、焼成温度を上げることにより、白金の一部がPtSになり、白金が酸化されることを示す。したがって、高温焼成後のカーボン担持触媒微粒子について正しい電気化学評価を行うためには、白金の清浄が必要であることが分かる。
【0113】
図22は、電位処理を行う装置を示した斜視模式図である。
ガラスセル51に過塩素酸水溶液52を加え、さらに参考例3のカーボン担持触媒微粒子のスラリー53が塗布された回転ディスク電極54をセットした。なお、回転ディスク電極54は、回転計55に接続されている。過塩素酸水溶液52中には、回転ディスク電極54の他にも、対極56、参照極57が過塩素酸水溶液52に十分に浸かるように配置されており、これら3つの電極は、デュアル電気化学アナライザーと電気的に接続されている。また、アルゴン導入管58が過塩素酸水溶液52に浸かるように配置されており、セル外部に設置されたアルゴン供給源(図示せず)から一定時間アルゴンが過塩素酸水溶液52に室温下でバブリングされ、過塩素酸水溶液52中にアルゴンが飽和している状態であった。円59はアルゴンの気泡を示す。
装置の詳細は下記の通りである。
・過塩素酸水溶液:0.1mol/L HClO
4
・回転ディスク電極:グラッシーカーボンからなる電極
・回転計:北斗電工製、HR−201
・対極:白金電極(北斗電工製)
・参照極:水素電極(KMラボ製)
・デュアル電気化学アナライザー:BAS社製、ALS700C
【0114】
図22に示した装置により、電位掃引範囲0.05〜1.2V(vsRHE)、電位掃引速度100mV/秒で電位を120サイクル掃引した。
図11(b)は、電位処理結果を示すサイクリックボルタモグラム(以下、CVと称することがある)である。
図11(b)においては、外側のボルタモグラムであるほど、サイクル数がより多いボルタモグラムを表す。
図11(b)から分かるように、電位処理を繰り返すことで白金のピークが明確になることが分かる。
なお、白金の清浄が完了した後も上記電位処理を延長して行うと、触媒微粒子中の白金最外層が溶解することも分かった。これは、白金層の厚み制御と同様の原理に基づくものである。
【0115】
3−2.参考例3のカーボン担持触媒微粒子に対する評価
(a)ECSAの算出
参考例3のカーボン担持触媒微粒子について、当該微粒子の電気化学的比表面積(Electrochemical Surface Area;以下、ECSAと称する。)を算出した。
図22に示した装置により、電位掃引範囲0.05〜1.2V(vsRHE)、電位掃引速度50mV/秒で電位を2サイクル掃引した。2サイクル目のCVよりECSAを算出した。
図12(a)は、上記サイクリックボルタンメトリーから得られたCVである。当該CVから算出したECSAは30m
2/g−Ptである。この値は、粒径6nmの白金微粒子のECSAに相当する。
【0116】
(b)比活性及び質量活性の測定
参考例3のカーボン担持触媒微粒子について電気化学測定を行い、当該微粒子の酸素還元反応(Oxygen reduction reaction;以下、ORRと称する。)活性の指標となる比活性及び質量活性を測定した。
図22に示した装置において、ガラスセル51中の過塩素酸水溶液52中に酸素をバブリングさせながら、電位掃引範囲0.1〜1.05V(vsRHE)、電位掃引速度10mV/秒で電位を2サイクル掃引した。2サイクル目のORR曲線における0.9Vの電流値より活性支配電流(kinetically−controlled current;以下、IKと称する)を算出した。当該IKを上述したECSAで除した値を比活性とし、当該IKをグラッシーカーボン電極上の白金質量で除した値を質量活性とした。
【0117】
図12(b)は、上記電気化学測定から得られた電気化学曲線である。
当該電気化学曲線から算出した比活性は710μA/cm
2−Ptである。この値は、粒径4.5nmの白金微粒子の比活性の3.5倍、及び粒径3nmの白金微粒子の比活性の4倍に相当する。一方、当該電気化学曲線から算出した質量活性は0.28A/mg−Ptである。この値は、粒径4.5nmの白金微粒子の質量活性の2.3倍、及び粒径3nmの白金微粒子の質量活性の1.7倍に相当する。
【0118】
(c)耐久性の評価
参考例3のカーボン担持触媒微粒子について電気化学測定を行い、耐久性を評価した。
電気化学測定の詳細な条件は以下の通りである。
図22に示した装置において、ガラスセル51中の過塩素酸水溶液52中に酸素をバブリングさせながら、0.65〜1.0V/5secの矩形波の電位サイクルを5,000サイクル(vsRHE)掃引した。5,000サイクル掃引後、上述した「(a)ECSAの算出」の項で説明した方法と同様にCVを行い、ECSAを算出した。再度、同条件で5,000サイクル(合計で10,000サイクル)掃引した。10,000サイクル掃引後、上述した「(a)ECSAの算出」の項で説明した方法と同様にCVを行い、ECSAを算出した。
【0119】
図12(c)は、上記電気化学測定から得られた耐久性評価結果のグラフであり、縦軸にECSA維持率(%)を、横軸にサイクル数(回)をそれぞれとったグラフである。比較例1として、平均粒径が3nmの白金微粒子(田中貴金属社製、TEC10E50E)をカーボンに担持した触媒のデータを併記した。参考例3の評価結果を白四角のプロットで、比較例1の評価結果を黒菱形のプロットで、それぞれ示す。
図12(c)から分かるように、比較例1のサイクル数5000回のECSA維持率は82%であり、サイクル数10000回のECSA維持率は78%である。一方、参考例3のサイクル数5000回のECSA維持率は96%であり、サイクル数10000回のECSA維持率は96%である。したがって、参考例3のカーボン担持触媒微粒子の耐久性は、比較例1のカーボン担持白金微粒子の耐久性を上回り、10000サイクル後のECSAが使用前のECSAとほぼ変わらないことが分かる。
【0120】
さらに、参考例3のカーボン担持触媒微粒子と、パラジウム微粒子に白金を被覆させた従来の触媒微粒子をカーボンに担持した触媒(比較例2)とを、2規定のH
2SO
4に12時間浸漬させた。その結果、比較例2の触媒のパラジウム溶出率は80%であったが、参考例3のカーボン担持触媒微粒子のチタン溶出率は0%であった。この結果から、内部粒子であるTiO
2は全く溶出しないことが分かる。
【0121】
以上より、参考例3のカーボン担持触媒微粒子は、粒径6nmの白金微粒子に相当するECSAを有し、且つ、当該ECSAは、10000サイクル後においても使用前とほぼ変わらないことが分かる。また、参考例3のカーボン担持触媒微粒子は、従来使用されてきた白金微粒子の約4倍の比活性、及び約2倍の質量活性を有することが分かる。このように、本発明のカーボン担持触媒微粒子は、従来から電極触媒として使用されてきたカーボン担持白金微粒子よりも高い触媒活性及び優れた耐久性を有することが分かる。
【0122】
3−3.実施例6のカーボン担持触媒微粒子に対する評価
(a)白金の単位質量当たりの表面積の算出
TiO
2微粒子に白金が被覆した実施例6のカーボン担持触媒微粒子について、被覆している白金が単原子層、2原子層、3原子層及び4原子層である場合についてそれぞれ計算を行い、白金の単位質量当たりの表面積を求めた。
図13(a)は、上記計算結果をまとめたグラフであり、縦軸に白金1g当たりの表面積(m
2/g)を、横軸に内部粒子となるTiO
2微粒子の粒径(nm)をそれぞれとったグラフである。また、グラフ中の波線は、従来の白金担持カーボン(平均粒径4.5nm)の白金1g当たりの表面積(62m
2/g)を示す。
図13(a)から分かるように、内部粒子の粒径が増す程、白金の単位質量当たりの表面積は減る。TiO
2微粒子の粒径のうち、計算結果の中で最大である40nmの結果に着目すると、白金の単位質量当たりの表面積は、白金単原子層の場合は200m
2/gを超え、白金2原子層の場合は100m
2/gを超え、白金3原子層の場合は60m
2/gを超える値であり、いずれも従来の白金担持カーボンの白金の単位質量当たりの表面積よりも高い。しかし、白金4原子層の場合には、内部粒子の粒径が10nmを超えると、従来の白金担持カーボンよりも、白金の単位質量当たりの表面積が小さくなる。
以上より、白金を含む最外層を3原子層以下とすることにより、白金の単位質量当たりの表面積を従来の白金担持カーボンよりも向上させることができる。
【0123】
(b)白金粒径とECSA維持率の関係
図13(b)は、触媒粒径とECSA維持率との相関のシミュレーション結果を示し、縦軸に耐久期間後のECSA維持率(%)を、横軸に粒径(nm)をとったグラフである。なお、耐久試験期間は10年とした。また、触媒量は、膜・電極接合体1cm
2あたり0.1mgの白金が含まれるとして算出している。
図から分かるように、触媒粒径が大きくなる程、ECSA維持率は高くなる。しかし、ECSA維持率の伸び率は、触媒粒径が大きくなる程小さくなる。
【0124】
(c)白金粒径と比活性との関係
図13(c)は、粒径3nmの白金触媒粒子のECSAに対する、所定の粒径を有する白金触媒粒子のECSAの比を示したグラフであり、縦軸に当該比を、横軸に白金触媒粒径(nm)をとったグラフである。
図から分かるように、触媒粒径が大きくなる程、ECSAの比は高くなる。したがって、理論上は触媒粒径が大きい程、活性の高い触媒粒子を得ることができる。しかし、白金触媒微粒子の場合は、粒径が大きい程、コスト当たりの活性が低い。本願発明の様に、酸化物を内部粒子に有する触媒微粒子の場合は、コストによる粒径の制限がないため、粒径を可能な限り大きくすることで活性の向上が図れる。