【実施例】
【0065】
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明について更に説明する。但し、本発明が以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0066】
<実施例1>
Na量0.03wt%、S量0.82wt%の電解二酸化マンガンAを入手した。この電解二酸化マンガンAを水酸化ナトリウムによって中和を行い、中和処理後の電解二酸化マンガンAのNa量を0.21wt%、S量を0.38wt%とした。
【0067】
中和処理後の電解二酸化マンガンA5500gと、炭酸リチウム1320gと、酸化マグネシウム6.5gと、水酸化アルミニウム200.3gと、四ホウ酸リチウム21.8gとを秤量し、精密混合機で混合して原料混合組成物を得た。この際、原料混合組成物のNa量0.17wt%、S量0.29wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は1.285であった。
【0068】
得られた原料混合組成物を、焼成容器(アルミナ製のルツボ大きさ=たて*よこ*たかさ=10*10*5(cm))内に、開放面積と充填高さの比(開放面積cm
2/充填高さcm)が100となるように充填した。この際の原料見掛密度は1.1g/cm
3であった。電気炉内にて、840℃(品温)で10時間焼成し、続いて同じ電気炉内にて、500℃(品温)まで5時間かけて降温するようにアニール(降温速度1.1℃/min)し、続いて同じ電気炉内にて常温まで自然冷却させた後、せん断式破砕機で解砕して分級機によって分級を行い、325メッシュアンダーのスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0069】
<実施例2>
実施例1で得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末2500gとイオン交換水(pH5.8)7.4Lとを混合し、10分間攪拌してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物のスラリーとした(スラリー濃度34質量%)。この時の液温は25℃であった。このスラリーを湿式磁選器(スラリーが接触する箇所の磁石の磁力:17000G)内に1.0m/secの速度で流通させた後、減圧ろ過して洗浄及び磁選を行った。濾別したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末の含水率は15%であった。
続いて、強制排気手段と送風手段とを備えた電気炉(排気風量=18m
3/min)において「電気炉出力/1時間当たりの水分蒸発熱量」=2に設定すると共に最高到達温度を350℃に設定し、前記で濾別したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を、アルミナ製るつぼに入れて当該電気炉内に置き、電気炉の送風手段による送風量を調整しつつ、大気雰囲気下で5時間加熱し、続いて同じ電気炉内にて常温まで送風冷却させた後、分級機によって分級を行い、325メッシュアンダーのスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0070】
なお、本実施例で使用した強制排気機構付き電気炉の乾燥能力を確認するために、あらかじめ上記の濾別したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を用いて温度設定350℃での付着水分含水率を測定した結果、60分経過時点で付着水分含水率は0.1%であった。
また、「含水率減少速度」は、乾燥前水分量に対する乾燥前後の水分量差を求め、その変化率を乾燥時間で割り算して求めると、(15.0−0.1)÷15.0×100÷60=1.7%/minであった。
付着水分量の測定は、水分測定器(A&D Company,Limitted製 MOISTURE ANALYZER)において、温度設定=110℃、サンプル量=5.0g、測定モード=標準加熱の条件で乾燥前後の水分量を乾燥時間で除して求めた。
【0071】
<実施例3>
前記の電解二酸化マンガンAをナトリウム化合物で中和し、濾過、乾燥して、電解二酸化マンガンBを得た。得られた二酸化マンガン中のNa量は0.71wt%、S量0.35wt%であった。
電解二酸化マンガンB5500gと、炭酸リチウム1278gと、酸化マグネシウム6.5gと、水酸化アルミニウム200.3gと、四ホウ酸リチウム21.8gと、硫酸リチウム27.5gとを秤量し、精密混合機で混合して原料混合組成物を得た。この際、原料混合組成物のNa量0.48wt%、S量0.34wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は0.523であった。
【0072】
得られた原料混合組成物を、焼成容器(アルミナ製のルツボ大きさ=たて*よこ*たかさ=10*10*5(cm))内に、開放面積と充填高さの比(開放面積cm
2/充填高さcm)が100となるように充填した。この際の原料見掛密度は1.1g/cm
3であった。電気炉内にて、840℃(品温)で10時間焼成し、続いて同じ電気炉内にて、500℃(品温)まで7時間で降温するようにアニール(降温速度0.8℃/min)し、続いて同じ電気炉内にて常温まで自然冷却させた後、せん断式破砕機で解砕して分級機によって分級を行い、325メッシュアンダーのスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0073】
<実施例4>
電解二酸化マンガンB5500gと、炭酸リチウム1278gと、酸化マグネシウム6.5gと、水酸化アルミニウム200.3gと、四ホウ酸リチウム21.8gと、硫酸リチウム63.5gとを秤量し、精密混合機で混合して原料混合組成物を得た。この際、原料混合組成物のNa量0.40wt%、S量0.39wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は0.705であった。
その他は、実施例1と同様にしてスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0074】
<実施例5>
電解二酸化マンガンB5500gと、炭酸リチウム1265gと、酸化マグネシウム6.5gと、水酸化アルミニウム200.3gと、四ホウ酸リチウム21.8gと、硫酸リチウム127.5gとを秤量し、精密混合機で混合して原料混合組成物を得た。この際、原料混合組成物のNa量0.41wt%、S量0.61wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は1.056であった。
その他は、実施例1と同様にしてスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0075】
<実施例6>
実施例5で得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末2500gとイオン交換水(pH5.8)7.4Lとを混合し、10分間攪拌してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物のスラリーとした(スラリー濃度34質量%)。この時の液温は25℃であった。このスラリーを湿式磁選器(スラリーが接触する箇所の磁石の磁力:17000G)内に1.0m/secの速度で流通させた後、減圧ろ過して洗浄及び磁選を行った。濾別したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末の含水率は15%であった。
続いて、強制排気手段と送風手段とを備えた電気炉(排気風量=25m
3/min)において「電気炉出力/1時間当たりの水分蒸発熱量」=2.5に設定すると共に最高到達温度を350℃に設定し、前記で濾別したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を、アルミナ製るつぼに入れて当該電気炉内に置き、電気炉の送風手段による送風量を調整しつつ、大気雰囲気下で5時間加熱し、続いて同じ電気炉内にて常温まで送風冷却させた後、分級機によって分級を行い、325メッシュアンダーのスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0076】
なお、本実施例で使用した強制排気機構付き電気炉の乾燥能力を確認するために、あらかじめ上記の濾別したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を用いて温度設定350℃での付着水分含水率を測定した結果、45分経過時点で付着水分含水率は0.1%であった。
また、「含水率減少速度」は、乾燥前水分量に対する乾燥前後の水分量差を求め、その変化率を乾燥時間で割り算して求めると、(15.0−0.1)÷15.0×100÷45=2.2%/minであった。
付着水分量の測定は、水分測定器(A&D Company,Limitted製 MOISTURE ANALYZER)において、温度設定=110℃、サンプル量=5.0g、測定モード=標準加熱の条件で乾燥前後の水分量を乾燥時間で除して求めた。
【0077】
<実施例7>
電解二酸化マンガンAをナトリウム化合物で中和し、濾過、乾燥して、電解二酸化マンガンCを得た。得られた電解二酸化マンガンC中のNa量は0.98wt%、S量0.35wt%であった。電解二酸化マンガンC5500gと、炭酸リチウム1141gと、酸化マグネシウム6.5gと、水酸化アルミニウム200.3gと、四ホウ酸リチウム21.8gと、硫酸リチウム127.5gとを秤量し、精密混合機で混合して原料混合組成物を得た。この際、原料混合組成物のNa量0.50wt%、S量0.51wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は0.727であった。
その他は、実施例1と同様にしてスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0078】
<実施例8>
電解二酸化マンガンC5500gと、炭酸リチウム1086gと、酸化マグネシウム6.5gと、水酸化アルミニウム200.3gと、四ホウ酸リチウム21.8gと、硫酸リチウム255.2gとを秤量し、精密混合機で混合して原料混合組成物を得た。この際、原料混合組成物のNa量0.57wt%、S量0.98wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は1.24であった。
その他は、実施例1と同様にしてスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0079】
<比較例1>
電解二酸化マンガンB5500gと、炭酸リチウム1284gと、酸化マグネシウム6.5gと、水酸化アルミニウム200.3gと、四ホウ酸リチウム21.8gとを秤量し、精密混合機で混合して原料混合組成物を得た。この際、原料混合組成物のNa量0.48wt%、S量0.25wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は0.381であった。
その他は、実施例1と同様にしてスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0080】
<比較例2>
電解二酸化マンガンC5500gと、炭酸リチウム1259gと、酸化マグネシウム6.5gと、水酸化アルミニウム200.3gと、四ホウ酸リチウム21.8gとを秤量し、精密混合機で混合して原料混合組成物を得た。この際、原料混合組成物のNa量0.56wt%、S量0.24wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は0.333であった。
その他は、実施例1と同様にしてスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0081】
<化学分析測定>
実施例及び比較例で原料混合組成物の硫黄(S)量及びNa量をICP発光分光分析法で測定した。
【0082】
<結晶構造の解析>
X線回折パターンの測定には、Cu‐Kα線を用いたX線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製D8 ADVANCE)を使用した。回折角2θ=10〜120°の範囲より得られたX線回折パターンのピークについて解析用ソフトウエア(製品名「Topas Version3」)を用いて結晶構造を解析し、歪を求めた。パラメータBeq.を1と固定し、酸素の分率座標を変数として、表に示す通り観測強度と計算強度の一致の程度を表す指標Rwp<3.0、GOF<2.0を目安に収束するまで繰り返し計算を行った。なお、解析にはガウス関数を用いた。
【0083】
線源:CuKα、操作軸:2θ/θ、測定方法:連続、計数単位:cps
開始角度:10°、終了角度:120°、
Detector:PSD
Detector Type:VANTEC−1
High Voltage:5585V
Discr. Lower Level:0.25V
Discr. Window Width:0.15V
Grid Lower Level:0.075V
Grid Window Width:0.524V
Flood Field Correction:Disabled
Primary radius:250mm
Secondary radius:250mm
Receiving slit width:0.1436626mm
Divergence angle:0.3°
Filament Length:12mm
Sample Length:25mm
Recieving Slit Length:12mm
Primary Sollers:2.623°
Secondary Sollers:2.623°
Lorentzian,1/Cos:0.004933548Th
【0084】
<電池評価>
(電池の作製)
実施例及び比較例で得たリチウムマンガン含有複合酸化物(サンプル)8.80gと、アセチレンブラック(電気化学工業製)0.60g及びNMP(N-メチルピロリドン)中にPVDF(キシダ化学製)12wt%溶解した液5.0gとを正確に計り取り、そこにNMPを5ml加え十分に混合し、ペーストを作製した。このペーストを集電体であるアルミ箔上にのせ、250μmのギャップに調整したアプリケーターで塗膜化し、120℃一昼夜真空乾燥した後、φ16mmで打ち抜き、4t/cm
2でプレス厚密し、正極とした。電池作製直前に120℃で120min以上真空乾燥し、付着水分を除去し電池に組み込んだ。また、予めφ16mmのアルミ箔の重さの平均値を求めておき、正極の重さからアルミ箔の重さを差し引き正極合材の重さを求め、また正極活物質とアセチレンブラック、PVDFの混合割合から正極活物質の含有量を求めた。
負極は、φ20mm×厚み0.5mmの金属リチウムとし、これらの材料を使用して
図1に示す電気化学評価用セルTOMCEL(登録商標)を作製した。
【0085】
図1の電気化学用セルは、耐有機電解液性のステンレス鋼製の下ボディ1の内側中央に、前記正極合材からなる正極3を配置した。この正極3の上面には、電解液を含浸した微孔性のポリプロピレン樹脂製のセパレータ4を配置し、テフロン(登録商標)スペーサー5によりセパレータを固定した。更に、セパレータ上面には、下方に金属リチウムからなる負極6を配置し、負極端子を兼ねたスペーサー7を配置し、その上に上ボディ2を被せて螺子で締め付け、電池を密封した。
電解液は、ECとDMCを3:7体積混合したものを溶媒とし、これに溶質としてLiPF
6を1mol/L溶解させたものを用いた。
【0086】
(初期放電容量)
上記のようにして準備した電気化学用セルを用いて次に記述する方法で初期放電容量を求めた。すなわち、20℃にて4.3Vまで0.1Cで充電した状態で、正極中の正極活物質の含有量から、0.1C放電レートになるように電流値を算出した。定電流放電した時の3.0Vまでの放電容量(mAh/g)を測定した。
【0087】
(高温サイクル寿命評価)
上記のようにして準備した電気化学用セルを用いて下記に記述する方法で充放電試験し、高温サイクル寿命特性を評価した。
電気化学用セルを充放電する環境温度を45℃となるように設定した環境試験機内に前記セルを入れ、充放電できるように接続し、前記セル温度が環境温度になるように一昼夜静置した後、充放電範囲を、リチウムマンガン含有複合酸化物粉体(サンプル)について3.0V〜4.3Vとし、初回の充電は0.1C定電流、放電は0.1C定電流で1サイクル充放電行った後、1.0C定電流にて充放電を9回行い、10サイクル目は容量確認の為、充放電レート0.1Cにて充放電を行った。
前記の要領で充放電サイクルを50サイクル分まで実施して、50サイクル目の放電容量を初回の放電容量で割り算して求めた数値の百分率(%)を高温サイクル寿命特性値として求めた。
【0088】
【表1】
【0089】
実施例の結果、硫黄(S)元素を含有し、且つ、ナトリウム(Na)元素を0.1質量%以上含有する二酸化マンガンをマンガン原料として用いる場合であっても、原料混合組成物に含有されるSとNaのモル比率(S/Na)を0.40よりも高くなるように調整すると共に、該原料混合組成物を500℃以上で焼成することで、生成物であるリチウムマンガン含有複合酸化物の歪を抑えることができるなど、品質を安定化させることができることが分かった。
これは、前記原料混合組成物の焼成温度を500℃以上に設定することで、この焼成時において、SO
4とLiとの反応よりも、NaとSO
4との反応の方を促進させることができるため、該焼成前に、前記原料混合組成物に含有されるSとNaのモル比率(S/Na)を0.40よりも高くすることで、二酸化マンガン中のNa含有量が多少多くても、Naと反応するSO
4を確実に確保することができ、焼成時にLiが不足するのを防ぐことができると同時に、リチウムマンガン含有複合酸化物の結晶格子内にNaが入り込むことも防ぐことができるものと推察することができる。
さらに、NaとSO
4との反応物である、SとNaを含有する化合物(「S・Na化合物」と称する)は、焼成時にリチウムマンガン含有複合酸化物の表面に生成するものと推察される。リチウムマンガン含有複合酸化物を洗浄することにより、S・Na化合物を除去することができる。これにより歪が小さくなることがわかった。これは表面のS・Na化合物による影響がなくなり、活物質本来の歪を確度高く測定することができるようになった結果と推察することができる。
【0090】
電池評価として、実施例1、2及び比較例1の原料混合組成物から生成したリチウムマンガン含有複合酸化物を使用し、初期容量(mAh/g)、高温サイクル維持率(%)を測定した。実施例1の初期容量は102mAh/g、実施例2の初期容量は103mAh/g、比較例1の初期容量は101mAh/gであった。高温サイクル維持率は、実施例1では95.3%、実施例2では97.5%、比較例1では90.1%であった。以上の結果より、本発明が提案する製造方法によるリチウムマンガン含有複合酸化物は電池特性を向上させるものであることが確認できた。
【0091】
<実施例9>
Na量0.02wt%、S量0.87wt%の電解二酸化マンガンDを入手した。この電解二酸化マンガンDを水酸化ナトリウムによって中和を行った。中和処理後の電解二酸化マンガンDのNa量は0.19wt%、S量0.37wt%であった。
【0092】
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。分散剤の添加量は後述するNi原料、Mn原料、Co原料、Li原料などの合計量に対して、6wt%となるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
炭酸リチウムと、前述の中和処理後の電解二酸化マンガンDと水酸化ニッケル(Na量160ppm)と、オキシ水酸化コバルトとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co=1.01:0.20:0.59:0.20となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ投入し、混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.63μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC−16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行った。得られた造粒粉(原料混合組成物)のNa量0.05wt%、S量0.29wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は4.14であった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。次いで仮焼粉を静置式電気炉を用いて、870℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、目開き53μmの篩で分級し、層構造を備えたリチウムマンガン含有複合酸化物粉体(サンプル)を篩下として回収した。
【0093】
<実施例10>
Na量0.02wt%、S量0.87wt%の電解二酸化マンガンDを入手した。この電解二酸化マンガンEを水酸化ナトリウムによって中和を行った。中和処理後の電解二酸化マンガンEのNa量は0.19wt%、S量0.37wt%であった。
【0094】
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。分散剤の添加量は後述するNi原料、Mn原料、Co原料、Li原料などの合計量に対して、8wt%となるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
炭酸リチウムと、前述の中和処理後の電解二酸化マンガンDと水酸化ニッケル(Na量160ppm)と、オキシ水酸化コバルトとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co=1.01:0.20:0.59:0.20となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ投入し、混合攪拌して固形分濃度60wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、60分間粉砕してD50:を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC−16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行った。得られた造粒粉(原料混合組成物)のNa量0.05wt%、S量0.29wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は4.14であった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中720℃で仮焼を行った。次いで仮焼粉を静置式電気炉を用いて、870℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体を、分級機構付衝突式粉砕機(ホソカワミクロン製カウンタージェットミル「100AFG/50ATP」)を用いて、分級ローター回転数:14900rpm、粉砕空気圧力:0.6MPa、粉砕ノズルφ:2.5×3本使用、粉体供給量:4.5kg/hの条件で粉砕を行い、層構造を備えたリチウムマンガン含有複合酸化物粉体(サンプル)を得た。
【0095】
<実施例11>
Na量0.02wt%、S量0.87wt%の電解二酸化マンガンDを入手した。この電解二酸化マンガンEを水酸化ナトリウムによって中和を行った。中和処理後の電解二酸化マンガンEのNa量は0.19wt%、S量0.37wt%であった。
【0096】
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。分散剤の添加量は後述するNi原料、Mn原料、Co原料、Li原料などの合計量に対して、6wt%となるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
炭酸リチウムと、前述の中和処理後の電解二酸化マンガンDと水酸化ニッケル(Na量160ppm)と、オキシ水酸化コバルトとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co=1.01:0.33:0.33:0.33となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ投入し、混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.58μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC−16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行った。得られた造粒粉(原料混合組成物)のNa量0.07wt%、S量0.35wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は3.78であった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。次いで仮焼粉を静置式電気炉を用いて、960℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、目開き53μmの篩で分級し、層構造を備えたリチウムマンガン含有複合酸化物粉体(サンプル)を篩下として回収した。
【0097】
<実施例12>
Na量0.02wt%、S量0.87wt%の電解二酸化マンガンDを入手した。この電解二酸化マンガンDを水酸化ナトリウムによって中和を行った。中和処理後の電解二酸化マンガンDのNa量は0.19wt%、S量0.37%であった。
【0098】
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。分散剤の添加量は後述するNi原料、Mn原料、Co原料、Li原料などの合計量に対して、8wt%となるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
炭酸リチウムと、前述の中和処理後の電解二酸化マンガンDと水酸化ニッケル(Na量160ppm)と、オキシ水酸化コバルトとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co=1.01:0.20:0.59:0.20となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ投入し、混合攪拌して固形分濃度60wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、60分間粉砕してD50:を0.54μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC−16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行った。得られた造粒粉(原料混合組成物)のNa量0.07wt%、S量0.35wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は3.78であった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中720℃で仮焼を行った。次いで仮焼粉を静置式電気炉を用いて、960℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体を、分級機構付衝突式粉砕機(ホソカワミクロン製カウンタージェットミル「100AFG/50ATP」)を用いて、分級ローター回転数:14900rpm、粉砕空気圧力:0.6MPa、粉砕ノズルφ:2.5×3本使用、粉体供給量:4.5kg/hの条件で粉砕を行い、層構造を備えたリチウムマンガン含有複合酸化物粉体(サンプル)を得た。
【0099】
<比較例3>
Na量0.02wt%、S量0.87wt%の電解二酸化マンガンDを入手した。この電解二酸化マンガンEを水酸化ナトリウムによって中和を行った。中和処理後の電解二酸化マンガンEのNa量は0.19wt%、S量0.37wt%であった。
【0100】
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。分散剤の添加量は後述するNi原料、Mn原料、Co原料、Li原料などの合計量に対して、5wt%となるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
炭酸リチウム(Na量0.92wt%)と、前述の中和処理後の電解二酸化マンガンDと水酸化ニッケル(Na量1.10wt%)と、オキシ水酸化コバルト(Na量0.85wt%)とを、モル比でLi:Mn:Ni:Co=1.01:0.20:0.59:0.20となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ投入し、混合攪拌して固形分濃度40wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.72μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC-16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行った。得られた造粒粉(原料混合組成物)のNa量0.88wt%、S量0.29wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は0.24であった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。次いで仮焼粉を静置式電気炉を用いて、830℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体を、分級機構付衝突式粉砕機(ホソカワミクロン製カウンタージェットミル「100AFG/50ATP」)を用いて、分級ローター回転数:14900rpm、粉砕空気圧力:0.6MPa、粉砕ノズルφ:2.5×3本使用、粉体供給量:4.5kg/hの条件で粉砕を行い、層構造を備えたリチウムマンガン含有複合酸化物粉体(サンプル)を得た。
【0101】
<化学分析測定>
実施例及び比較例で原料混合組成物の硫黄(S)量及びNa量をICP発光分光分析法で測定した。
【0102】
<結晶構造の解析>
層構造を備えたリチウムマンガン含有複合酸化物粉体(サンプル)の場合は、下記の手順で結晶構造の解析を行った。
X線回折パターンの測定には、Cu‐Kα線を用いたX線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製D8 ADVANCE)を使用した。回折角2θ=10〜120°の範囲より得られたX線回折パターンのピークについて解析用ソフトウエア(製品名「Topas Version3」)を用いて解析することにより歪を求めた。なお、結晶構造は、空間群R−3mの六方晶に帰属され、その3aサイトにLiが存在し、3bサイトにNi、Co、Mnなどの遷移元素や置換元素(例えば、Mg、Ti及びFe)、さらには過剰なLi分xが存在し、6cサイトをOが占有していると仮定し、パラメータBeq.を1と固定し、酸素の分率座標を変数として、表に示す通り観測強度と計算強度の一致の程度を表す指標Rwp<10.0、GOF<2.0を目安に収束するまで繰り返し計算を行った。なお、解析にはガウス関数を用いた。
XRD測定条件については、上記実施例1などと同様とした。
【0103】
【表2】
【0104】
(結果・考察)
実施例9〜12及び比較例3及びこれまで発明が行ってきた試験結果から、層構造を備えたリチウムマンガン含有複合酸化物粉体の製造においても、硫黄(S)元素を含有し、且つ、ナトリウム(Na)元素を0.1質量%以上含有する二酸化マンガンをマンガン原料として用いる場合であっても、原料混合組成物に含有されるSとNaのモル比率(S/Na)を0.40よりも高くなるように調整すると共に、該原料混合組成物を500℃以上で焼成することで、生成物であるリチウムマンガン含有複合酸化物の歪を抑えることができるなど、品質を安定化させることができることが分かった。
【0105】
なお、層構造を備えたリチウムマンガン含有複合酸化物の場合、水分を含むと性能が低下するため、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物と同じような方法での洗浄、特に水洗は行わない方が好ましい。
【0106】
<実施例13>
Na量0.03wt%、S量0.82wt%の電解二酸化マンガンAを入手した。この電解二酸化マンガンAを水酸化ナトリウムによって中和を行った。中和処理後の電解二酸化マンガンAのNa量は0.21wt%、S量を0.38wt%であった。
【0107】
炭酸リチウムと、中和処理後の電解二酸化マンガンと、水酸化ニッケルと、酸化チタンと、四硼酸リチウム(Li
2B
4O
7)とを、Li:4.1wt%、Mn:39.6wt%、Ni:15.9wt%、Ti:5.0wt%、B:0.13wt%となるように秤量し、水を加えて混合攪拌して固形分濃度10wt%のスラリーを調製した。
この際、スラリー(原料混合組成物)のNa量0.10wt%、S量0.27wt%、SとNaのモル比率(S/Na)は1.98であった。
得られたスラリー(原料粉500g)に、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(サンノプコ(株)製 SNディスパーサント5468)を前記スラリー固形分の6wt%添加し、湿式粉砕機で1300rpm、20分間粉砕して平均粒径(D50)を0.5μm以下とした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製「i−8」)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量12kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行った。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中950℃で70時間焼成した後、大気中700℃で70時間熱処理した。熱処理して得られた焼成粉を目開き75μmの篩で分級し、篩下粉を回収してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末1kgを、pH6〜7、温度20℃、容量2000mLの水を入れた取っ手付きプラビーカ(容量:2000mL)の中に投入し、撹拌機(プロペラ面積24cm
2)を用いて200〜250rpmの回転で10分間撹拌し、撹拌を停止して撹拌機を水中から取り出し、2分間静置させた。そして、デカンテーションにより、5/12高さまでの上澄み液を除去し、残りを吸引ろ過機(ろ紙131)を使用して沈降物を回収し、回収した沈降物を120℃環境下で24時間静置して乾燥させた後、さらに品温が500℃となるように加熱した状態で24時間静置して乾燥させて、5V級スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物の粉末(サンプル)を得た。
【0108】
<化学分析測定>
実施例で原料混合組成物の硫黄(S)量及びNa量をICP発光分光分析法で測定した。
【0109】
<結晶構造の解析>
5V級スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物の場合は、実施例1などと同様の手順及び条件で結晶構造の解析を行った。
【0110】
【表3】
【0111】
(結果・考察)
実施例13及びこれまで発明が行ってきた試験結果から、5V級スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物の製造においても、硫黄(S)元素を含有し、且つ、ナトリウム(Na)元素を0.1質量%以上含有する二酸化マンガンをマンガン原料として用いる場合であっても、原料混合組成物に含有されるSとNaのモル比率(S/Na)を0.40よりも高くなるように調整すると共に、該原料混合組成物を500℃以上で焼成することで、生成物であるリチウムマンガン含有複合酸化物の歪を抑えることができるなど、品質を安定化させることができることが分かった。