【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
実施例1 チオエステラーゼ改変体(BTE(T231K))遺伝子を大腸菌に導入した形質転換体の構築及び形質転換体における脂肪酸及び脂質の製造
1.野生型チオエステラーゼ(BTE)遺伝子発現プラスミドの構築
配列番号2に示す塩基配列からなる野生型チオエステラーゼをコードする遺伝子を鋳型として、下記表1に示す配列番号5及び配列番号6のプライマー対を用いたPCR反応により、野生型チオエステラーゼ遺伝子のDNA断片を取得した。なお、配列番号2の塩基配列を有する遺伝子はインビトロジェン(株)の提供する受託合成サービスを利用して取得した。PCR反応により取得した野生型チオエステラーゼ遺伝子断片を制限酵素
XbaIで消化した。また、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)(Stratagene社、サンディエゴ,カリフォルニア州)を
XbaIで消化し、その後に脱リン酸化処理を行った。これら2つの制限酵素消化物をライゲーション反応により連結することでpBluescriptII SK(-)の
XbaIサイトに野生型チオエステラーゼ遺伝子断片(配列番号2に示す塩基配列において、249番目〜1149番目の塩基配列)を挿入し、ベクター由来のLacZタンパク質のN末端側の27番目のアミノ酸と融合する形で野生型チオエステラーゼが発現するプラスミドを構築した。得られたプラスミドは、DNAシークエンス法によって、野生型チオエステラーゼをコードする遺伝子が挿入されていることを確認した。
【0036】
2.チオエステラーゼ改変体(BTE(T231K))遺伝子発現プラスミドの構築
前記1.で構築した野生型チオエステラーゼ発現プラスミドを鋳型として、下記表1に示す配列番号5及び配列番号8のプライマー対、及び配列番号6及び配列番号7のプライマー対を用いたPCR反応により2種類の遺伝子断片を増幅した。これら2種類の断片を鋳型として、再度、配列番号5及び配列番号6のプライマー対を用いてSplicing overlap extension(SOE)PCR反応(Horton et al.,Gene,77,61−68,1989)を行い、配列番号2に示した野生型チオエステラーゼの691〜693番目の塩基配列であるACA(Thr)がAAG(Lys)へと置換されたチオエステラーゼ改変体遺伝子のDNA断片を取得した。取得したチオエステラーゼ改変体遺伝子のDNA断片を制限酵素
XbaIで消化した。また、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)(Stratagene社)を
XbaIで消化し、その後に脱リン酸化処理を行った。これら2つの消化物をライゲーション反応により連結することでpBluescriptII SK(-)の
XbaIサイトにチオエステラーゼ改変体遺伝子断片(配列番号4に示す塩基配列において、249番目〜1149番目の塩基配列)を挿入し、ベクター由来のLacZタンパク質のN末端側27番目のアミノ酸と融合する形でチオエステラーゼ改変体が発現するプラスミドを構築した。得られたプラスミドは、DNAシークエンス法によって、チオエステラーゼ改変体をコードする遺伝子が挿入されていることを確認した。
【0037】
【表1】
【0038】
3.野生型チオエステラーゼ(BTE)遺伝子又はチオエステラーゼ改変体(BTE(T231K))遺伝子を有する形質転換体の構築
前記1.及び2.で構築した野生型チオエステラーゼ又はチオエステラーゼ改変体を発現するプラスミドを用いて、大腸菌突然変異株であるK27株(fadD88)(Overath et al, Eur.J.Biochem.7,559-574,1969)をコンピテントセル形質転換法により形質転換した。形質転換処理をしたK27株を30℃で一晩静置して得られたコロニーをLBAmp液体培地(Bacto Trypton 1%,Yeast Extract 0.5%,NaCl 1%,アンピシリンナトリウム50μg/mL)1mLに接種し、30℃で12時間振とう培養した。12時間後の培養液を別のLBAmp液体培地2.5mLに25μL添加し、30℃で振とう培養し、培養開始から15時間経過した培養液中に含まれている脂質成分を後述の方法にて解析した。また15時間後の培養液の600nmにおける吸光度(OD600)を計測し、培養液に含まれる大腸菌の量を測定した。なお、陰性対照として、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)にて形質転換した大腸菌K27株についても同様に実験を行った。
【0039】
4.大腸菌培養液中の脂質の抽出および脂肪酸分析
培養開始後15時間経過した培養液900μLに、酢酸40μL、および内部標準としてメタノールに溶解した7−ペンタデカノン(0.5mg/mL)を40μL添加した。この液に対してクロロホルム0.5mLとメタノール1mLを添加し、十分に攪拌した後に15分間静置した。さらに、1.5%塩化カリウム水溶液0.5mLとクロロホルム0.5mLを添加し、十分に攪拌した後に15分間静置した。室温、1500rpmで5分間遠心分離を行った後、下層部分を採取し、窒素ガスで乾燥した。乾燥したサンプルに3−フッ化ホウ素メタノール錯体溶液を1mL添加し、80℃で10分間恒温することにより脂肪酸のメチルエステル化処理を行った。その後、飽和食塩水1mLとヘキサン1mLを添加し、十分に攪拌した後に30分間静置した。上層部分を採取し、ガスクロマトグラフィー(Hewlett Packard 6890)解析に供した。使用したガスクロマトグラフィーは[キャピラリーカラム:DB−1 MS 30m×200μm×0.25μm(J&W Scientific)、移動層:高純度ヘリウム、カラム内流量:1.0mL/min、昇温プログラム:100℃(1分間)→10℃/min→300℃(5分間)、平衡化時間:1分間、注入口:スプリット注入(スプリット比:100:1),圧力14.49psi,104mL/min,注入量1μL、洗浄バイアル:メタノール・クロロホルム、検出器温度:300℃]の条件で行った。
【0040】
5.大腸菌培養液中の脂質及び脂肪酸量の解析
ガスクロマトグラフィー解析により得られた波形データのピーク面積より、各脂肪酸のメチルエステル量を定量した。なお、各ピーク面積を内部標準である7−ペンタデカノンのピーク面積と比較することで試料間の補正を行い、培養液1リットルあたりの各脂肪酸量を算出した。さらに、算出した各脂肪酸量を、事前に計測した培養液中に含まれる大腸菌量(OD600)で標準化した。結果を
図1に示す。
また、上記で算出された各脂肪酸生産量を合計して得られた総脂肪酸生産量(脂質量)を
図2に示す。
【0041】
図1から明らかなように、チオエステラーゼ改変体遺伝子を導入した形質転換体では、野生型チオエステラーゼ遺伝子を導入した形質転換体と比較して、各脂肪酸の生産量が大幅に増加することがわかった。具体的には、野生型チオエステラーゼ遺伝子を導入した形質転換体と比べて、ラウリン酸(C12:0)で1.6倍、ラウロイル酸(C12:1)で1.9倍、ミリスチン酸(C14:0)で1.4倍、パルミチン酸(C16:0)で1.3倍、パルミトレイン酸(C16:1)で1.9倍、ステアリン酸(C18:0)で1.6倍、オレイン酸(C18:1)で1.1倍の脂肪酸生産量を示した。
さらに、
図2に示すように、本発明のチオエステラーゼ改変体遺伝子が導入された形質転換体では、野生型チオエステラーゼ遺伝子を導入した形質転換体に比べて、総脂肪酸生産量(脂質量)が約1.6倍と大幅に増加していることがわかった。
【0042】
実施例2 チオエステラーゼ改変体(BTE(T231K))遺伝子をシロイヌナズナに導入した形質転換体の構築及び形質転換体における脂肪酸及び脂質の製造
1.
Napin遺伝子のプロモーター領域及びターミネーター領域のクローニング
茨城県潮来市にて採取した野生のアブラナ様植物から
Brassica rapa由来の
Napin遺伝子のプロモーター領域を、また、栃木県益子町にて採取した野生のアブラナ様植物から
Napin遺伝子のターミネーター領域をそれぞれ下記の手法によって取得した。
上記植物からPowerPlant DNA Isolation Kit(MO BIO Laboratories,USA)を用いてゲノムDNAを抽出し、得られたゲノムDNAをテンプレートとし、DNAポリメラーゼPrimeSTARを用いたPCR反応により各プロモーターとターミネーター領域の増幅を試みた。具体的には表2に示す配列番号12及び配列番号13のプライマー対を用いて
Brassica rapa由来の
Napin遺伝子プロモーター領域を、配列番号14及び配列番号15のプライマー対を用いて
Brassica rapa由来の
Napin遺伝子ターミネーター領域をそれぞれ増幅した。増幅が見られた
Brassica rapaの
Napin遺伝子由来のプロモーター及びターミネーターについて、PCR産物をテンプレートとし、再度PCR反応を行った。この時、
Napin遺伝子プロモーターは表2に示す配列番号16及び配列番号17のプライマー対、
Napin遺伝子ターミネーターは配列番号14及び配列番号18のプライマー対を用いた。PCRにより増幅したDNA断片はMighty TA-cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて両末端にデオキシアデニン(dA)を付加した後、pMD20-T vector(タカラバイオ社製)にライゲーション反応により挿入して、
Napin遺伝子プロモーターを含むプラスミドpPNapin1、及び
Napin遺伝子ターミネーターを含むプラスミドpTNapin1をそれぞれ構築した。これらのプラスミドをシーケンス解析に供し、プロモーター領域の塩基配列(配列番号9)及びターミネーター領域の塩基配列(配列番号10)を決定した。
【0043】
【表2】
【0044】
2.葉緑体移行シグナルペプチド及びチオエステラーゼ遺伝子のクローニング
カリフォルニア・ベイ由来Acyl-ACPチオエステラーゼ(BTE)遺伝子の葉緑体移行シグナルペプチドをコードする遺伝子(配列番号11)を、Invitrogen社(Carlsbad,California)の提供する受託合成サービスを利用して取得した。
上記配列を含むプラスミドをテンプレートとし、表2に示す配列番号19及び配列番号20のプライマー対を用いて葉緑体移行シグナルペプチドをコードする遺伝子断片をPCR反応(PrimeSTARを使用)により増幅した。また、野生型チオエステラーゼ(BTE)遺伝子を含むプラスミドをテンプレートとし、表2に示す配列番号21及び配列番号22のプライマー対を用いてPCR反応(PrimeSTARを使用)によりBTE遺伝子断片を増幅した。2つの増幅断片をテンプレートとし、PrimeSTAR、表2に示す配列番号19及び配列番号22のプライマー対を用いたSplicing overlap extension(SOE)PCR反応(Horton et al.,Gene,1989)により2つの遺伝子断片を連結し、葉緑体移行シグナルペプチドを連結した野生型チオエステラーゼ(BTE)遺伝子の全長に相当する遺伝子断片を構築した。
同様の手法により、チオエステラーゼ改変体(BTE(T231K))遺伝子についても、表2に示す配列番号19及び配列番号22のプライマー対を用いて、葉緑体移行シグナルペプチドを連結したチオエステラーゼ改変体(BTE(T231K))遺伝子の全長に相当する遺伝子断片を構築した。
増幅した遺伝子断片はMighty TA-cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて両末端にデオキシアデニン(dA)を付加した後、pMD20-T vector(タカラバイオ社製)にライゲーション反応により挿入し、BTE遺伝子が挿入されたプラスミドpBTEsig1及びBTE(T231K)遺伝子が挿入されたプラスミドpBTE(T231K)sig1をそれぞれ構築した。
【0045】
3.植物導入用ベクターの構築
植物導入用ベクターとしてpRI909(タカラバイオ社製)を用いた。
pRI909に
Brassica rapa由来の
Napin遺伝子のプロモーターと
Napin遺伝子のターミネーターを導入した。まず、前記1.で作製したプラスミドpPNapin1をテンプレートとし、PrimeSTAR、表2に示す配列番号16及び配列番号23のプライマー対を用いて、PCR反応によりプロモーター領域のDNA断片を増幅した。また、プラスミドpTNapin1をテンプレートとし、PrimeSTAR、表2に示す配列番号18及び配列番号24のプライマー対を用いて、PCR反応によりターミネーター領域のDNA断片を増幅した。増幅断片は、Mighty TA-cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて両末端にデオキシアデニン(dA)を付加した後、pMD20-T vector(タカラバイオ社製)にライゲーション反応により挿入し、プラスミドpPNapin2およびpTNapin2をそれぞれ構築した。プラスミドpPNapin2を
SalIと
NotIで、プラスミドpTNapin2を
SmaIと
NotIでそれぞれ処理し、
SalIと
SmaIで処理したpRI909にライゲーション反応により挿入し、プラスミドp909PTnapinを構築した。
続いて、BTE遺伝子又はBTE(T231K)遺伝子を、
Napin遺伝子プロモーターの下流に導入した。まず、前記2.で作製したプラスミドpBTEsig1又はpBTE(T231K)sig1をテンプレートとし、PrimeSTAR、表2に示す配列番号25及び配列番号26のプライマー対を用いて遺伝子断片をそれぞれ増幅した。増幅した遺伝子断片は、Mighty TA-cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて両末端にデオキシアデニン(dA)を付加した後、pMD20-T vector(タカラバイオ社製)にライゲーション反応により挿入し、プラスミドpBTEsig2およびpBTE(T231K)sig2を構築した。プラスミドpBTEsig2とp909PTnapinをそれぞれ
NotIで処理し、得られた断片をライゲーション反応で連結することで、
Napin遺伝子プロモーターと
Napin遺伝子ターミネーターの間にBTE遺伝子が挿入された植物導入用ベクターp909BTEを構築した。同様の手法で、BTE(T231K)遺伝子が挿入された植物導入用ベクターp909BTE(T231K)を構築した。
【0046】
4.シロイヌナズナの形質転換と育成方法
構築した植物導入用ベクターp909BTE及びp909BTE(T231K)を、インプランタイノベーションズ(株)によるシロイヌナズナ形質転換受託サービスに供し、BTE遺伝子又はBTE(T231K)遺伝子が導入されたシロイヌナズナ(
Arabidopsis thaliana(Colombia株))の形質転換体Pnapin-BTE及びPnapin-BTE(T231K)をそれぞれ得た。
シロイヌナズナの野生株及び形質転換体Pnapin-BTE及びPnapin-BTE(T231K)を、室温22℃で、蛍光灯照明を用いて明期16時間(約4000ルクス)、暗期8時間の条件で育成した。約2か月の栽培の後、種子を収穫した。
【0047】
5.シロイヌナズナ種子中の脂質量及び脂肪酸組成の解析
(1)種子からの脂質抽出と脂肪酸のメチルエステル化
収穫したシロイヌナズナ種子をシードスプーン(200粒用、バイオメディカルサイエンス製)で2杯程度すくい、Lysing Matrix D(MP Biomedicals,USA)に入れた。Lysing Matrix DをFastPrep(MP Biomedicals)にセットし、速さ6.0で20秒間振動させて種子を粉砕し、そこにメタノールに溶解した20μLの7−ペンタデカノン(0.5mg/mL)(内部標準)と20μLの酢酸を添加した。CHCl
3 0.25mL,メタノール0.5mLを加え、十分に攪拌した後に15分間静置した。さらに、1.5%塩化カリウム水溶液0.25mLとCHCl
3 0.25mLとを添加し、十分に攪拌した後に15分間静置した。室温にて1500rpmで5分間遠心分離を行った後、下層部分を採取し、窒素ガスで乾燥した。乾燥したサンプルにメタノールに溶解した0.5N KOH 100μL加え、70℃で30分間恒温することによりトリアシルグリセロールを加水分解した。3−フッ化ホウ素メタノール錯体溶液を0.3mL添加して乾燥物を溶解し、80℃で10分間恒温することにより脂肪酸のメチルエステル化処理を行った。その後、飽和食塩水0.2mLとヘキサン0.3mLを添加し、十分に攪拌した後に30分間静置した。脂肪酸のメチルエステルが含まれるヘキサン層(上層部分)を採取し、ガスクロマトグラフィ(GC)分析に供した。なお種指数計測のためにLysing Matrix Dに入れる直前の種子を薬包紙上に広げデジタルカメラで撮影した。その画像をもとにして脂質解析に供した種子数を計測し、後述の種子100粒あたりの脂質量の補正に用いた。
【0048】
(2)ガスクロマトグラフィ(GC)分析
上記でメチルエステル化した試料を、GCにて分析した。使用したGCはカラム:DB1-MS(J&W Scientific,Folsom,California)、分析装置:6890(Agilent technology,Santa Clara,California)を用いて、[カラムオーブン温度:100℃保持1分→100〜300℃(10℃/分昇温)→300℃保持5分(ポストラン2分)、注入口検出器温度:300℃、注入法:スプリットモード(スプリット比=193:1)、サンプル注入量1−2μL、カラム流速:0.5mL/minコンスタント、検出器:FID、キャリアガス:水素、メイクアップガス:ヘリウム]の条件で行った。GC解析により得られた波形データのピーク面積より、各脂肪酸のメチルエステル量を定量した。なお、各ピーク面積を内部標準である7−ペンタデカノンのピーク面積と比較することで試料間の補正を行い、解析に供した全種子中に含まれる脂肪酸量を算出した。また、算出した脂肪酸量を事前に計測した種子数で除することにより、種子100粒あたりの脂肪酸量を算出した。なお、種子中の各脂質に対応するGCのピークは、各脂肪酸の標準品のメチルエステルの保持時間(Retention Time,RT)、及び下記のGC/MSによる解析により同定した。
【0049】
(3)GC/MS分析
GC分析に供した試料について、必要に応じてGC/マススペクトル(MS)分析を、キャピラリーカラム:DB1-MS、GC分析装置:7890A(Agilent technology)、MS分析装置:5975C(Agilent technology)を用いて以下の条件にて行った。[カラムオーブン温度:100℃保持2分→100〜300℃(10℃/分昇温)→300℃保持5分(平衡時間2分、ポストラン320℃で5分)もしくは100℃保持2分→100〜200℃(10℃/分昇温)→200〜320℃(50℃/分昇温)→320℃保持5分(平衡時間2分、ポストラン320℃で5分)、注入口検出器温度:250℃、注入法:スプリットレスモード、サンプル注入量1μL、カラム流速:1mL/minコンスタント、検出器:FID、キャリアガス:水素、メイクアップガス:ヘリウム、溶媒待ち時間:7分もしくは3.5分、イオン化法:EI法、イオン源温度:250℃、インターフェース温度:300℃、測定モード:スキャンモード(m/z:20〜550若しくは10〜550)]
【0050】
GC解析により得られた種子中の各脂肪酸量を合計し、それを解析に供した種子数により標準化することで、種子100粒あたりの合計脂肪酸量を算出し、総脂肪酸量(脂質量)とした。陰性対照として、シロイヌナズナ野生株の種子についても同様に脂質含有量を求めた。結果を
図3に示す。シロイヌナズナ野生株は、2つの独立した種子の集団より得られた結果の平均値を、BTE又はBTE(T231K)形質転換体においては独立した5ラインの平均値をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差(Standard deviation)を、pの値は形質転換体Pnapin-BTEとPnapin-BTE(T231K)との間のスチューデントのt検定の結果をそれぞれ示す。
【0051】
図3から明らかなように、BTE遺伝子又はBTE(T231K)遺伝子が導入された形質転換体から収穫した種子は、シロイヌナズナ野生株の種子と比べて、脂質含有量(総脂肪酸量)が多いことがわかった。さらに、BTE(T231K)遺伝子を導入した形質転換体Pnapin-BTE(T231K)の種子は、BTE遺伝子を導入した形質転換体Pnapin-BTEの種子と比べて、より多くの脂質を蓄積していることがわかった。
【0052】
参考例1 チオエステラーゼ改変体(BTE(MRR197RRH))遺伝子を導入した形質転換体の構築及び形質転換体における脂肪酸及び脂質の製造
1.チオエステラーゼ改変体(BTE(MRR197RRH))遺伝子発現プラスミドの構築
野生型チオエステラーゼ遺伝子の197〜199位のアミノ酸であるメチオニン−アルギニン−アルギニン(MRR)が、アルギニン−アルギニン−ヒスチジン(RRH)へと置換された2重改変体であるチオエステラーゼ改変体BTE(MRR197RRH)を作製した(配列番号27及び28)。なお、改変体BTE(MRR197RRH)は231番目のアミノ酸がトレオニンであり、本発明で用いるチオエステラーゼ改変体には含まれないものである。
実施例1にて構築した野生型チオエステラーゼ発現プラスミドを鋳型として、実施例1の表1に示す配列番号5及び下記表3に示す配列番号29のプライマー対、並びに実施例1の表1に示す配列番号6及び下記表3に示す配列番号30のプライマー対を用いたPCR反応により2つの遺伝子断片に分けて増幅した。これら2つの断片を鋳型として、再度オリゴヌクレオチドプライマー対(表1に示す配列番号5及び6のプライマー対)を用いてSplicing overlap extension(SOE)PCR反応(Horton et al.,Gene,77,61−68,1989)を行い、配列番号28に示した野生型チオエステラーゼの589〜591番目の塩基配列であるATG(Met)がCGG(Arg)へ、また595〜597番目の塩基配列であるCGT(Arg)がCAT(His)へと置換されたチオエステラーゼ改変体BTE(MRR197RRH)の遺伝子断片を取得した。取得したDNA断片を制限酵素
XbaIで消化した。また、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)(Stratagene社)を
XbaIで消化し、その後に脱リン酸化処理を行った。これら2つの消化物をライゲーション反応により連結することでpBluescriptII SK(-)の
XbaIサイトにチオエステラーゼ改変体遺伝子断片を挿入し、ベクター由来のLacZタンパク質のN末端側27番目のアミノ酸と融合する形でチオエステラーゼ改変体BTE(MRR197RRH)が発現するプラスミドを構築した。
【0053】
【表3】
【0054】
2.チオエステラーゼ改変体(BTE(MRR197RRH))遺伝子を有する形質転換体の発現誘導
前記1.で構築したチオエステラーゼ改変体BTE(MRR197RRH)を発現するプラスミドを用いて、大腸菌突然変異株であるK27株(fadD88)(Overath et al, Eur.J.Biochem.7,559-574,1969)を形質転換した。形質転換処理をしたK27株を30℃で一晩静置して得られたコロニーをLBAmp液体培地(Bacto Trypton 1%,Yeast Extract 0.5%,NaCl 1%,アンピシリンナトリウム50μg/mL)1mLに接種し、30℃で12時間振とう培養した。12時間後の培養液を新鮮なLBAmp液体培地2.5mLに25μL添加し、30℃で振とう培養し、培養開始から15時間経過した培養液中に含まれている脂肪酸成分及び脂肪酸量を前記実施例1の4.及び5.と同様の方法にて解析した。また15時間後の培養液の600nmにおける吸光度(OD600)を計測し、培養液に含まれる大腸菌の量を測定した。なお、コントロール及び比較のために、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)にて形質転換した大腸菌K27株、野生型チオエステラーゼ(BTE)遺伝子又は本発明のチオエステラーゼ改変体(BTE(T231K))遺伝子を有する形質転換体についても同様に実験を行った。
培養液中のC12:0からC18:1までの各脂肪酸生産量を合計して得られた総脂肪酸量を
図4に示す。
【0055】
図4から明らかなように、BTE(MRR197RRH)遺伝子を導入した形質転換体の脂質生産量は、コントロールとほぼ同程度であり、BTE遺伝子を導入した形質転換体と比べて3分の1程度、BTE(T231K)遺伝子を導入した形質転換体と比べて約5分の1程度と大きく低下していることがわかった。