(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798896
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】球状シリカ粒子の製造方法、フィラー含有樹脂組成物の製造方法、及び集積回路封止材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20151001BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20151001BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20151001BHJP
C08K 7/18 20060101ALI20151001BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
C01B33/12 A
C08L101/00
C08K7/18
C09K3/10 Q
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-255608(P2011-255608)
(22)【出願日】2011年11月23日
(65)【公開番号】特開2013-107804(P2013-107804A)
(43)【公開日】2013年6月6日
【審査請求日】2014年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】堀 健太
(72)【発明者】
【氏名】楊原 武
(72)【発明者】
【氏名】榎並 敏行
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−163317(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/028261(WO,A2)
【文献】
特表2006−520736(JP,A)
【文献】
特開2009−263154(JP,A)
【文献】
特開2009−013009(JP,A)
【文献】
特開2008−189545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
C08K 7/18
C08L 101/00
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料シリコン粒子と酸素とを反応させてシリカ粒子を形成する粒子製造工程を有する球状シリカ粒子の製造方法であって、
第1の粗シリコン粒子に対して含有されるボロン含有量を測定した結果から、前記第1の粗シリコン粒子から形成される前記シリカ粒子に含まれるボロンの含有量を求める第1工程と、
前記ボロン含有量がシリカの質量を基準として下限0ppm、上限30ppmに含まれる所定範囲に含まれる場合は、前記第1の粗シリコン粒子をそのまま前記原料シリコン粒子とするか、又は、前記第1の粗シリコン粒子とはボロン含有量が異なる、1又は2以上の調整用粗シリコン粒子を、形成される前記シリカ粒子に含まれるボロンの含有量が前記所定範囲内になるように混合比を設定するかを行い、
前記ボロン含有量が前記所定範囲を外れる場合には、1又は2以上の前記調整用粗シリコン粒子を、形成される前記シリカ粒子に含まれるボロンの含有量が前記所定範囲内になるように混合比を設定する第2工程と、
を備える選別工程を有する球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記所定範囲がシリカの質量を基準として0以上10ppm以下である請求項1に記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記所定範囲がシリカの質量を基準として10ppm以上30ppm以下である請求項1に記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの何れか1項に記載の球状シリカ粒子の製造方法にて球状シリカ粒子を製造する球状シリカ粒子製造工程と、
前記球状シリカ粒子製造工程にて製造された前記球状シリカ粒子を含むフィラーと樹脂組成物とを混合する混合工程と、
を有するフィラー含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のうちの何れか1項に記載の球状シリカ粒子の製造方法にて球状シリカ粒子を製造する球状シリカ粒子製造工程と、
前記球状シリカ粒子製造工程にて製造された前記球状シリカ粒子を含むフィラーと樹脂組成物とを混合する混合工程と、
を有するフィラー含有樹脂組成物からなる集積回路封止材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロン含有量が制御された球状シリカ粒子の製造方法、球状シリカ粒子、フィラー含有樹脂組成物及び集積回路封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン粒子と酸素とを反応させることによりシリカ粒子を製造する方法が知られている(特許文献1)。製造されるシリカ粒子は真球度が高く樹脂組成物への充填性が高いなど、掛け替えのない特徴的な性質を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−298521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、球状シリカ粒子について求められる性能としては多岐にわたるものがある。例えば樹脂組成物に分散させて用いる場合には球状シリカ粒子が凝集しないことや、樹脂組成物への密着性が高いことなどが求められる。球状シリカの性能を制御するために本発明者らが鋭意検討を行った結果、球状シリカ粒子に含まれるボロン含有量を制御することにより球状シリカ粒子の性質が大きく変化することが判明した。そのため、球状シリカ粒子に含まれるボロン含有量を制御しようという新たな要求が発生することになった。
【0005】
本発明は上記実情を鑑みて完成したものであり、ボロン含有量を制御することができる球状シリカ粒子の製造方法を提供することを解決すべき課題とする。また、ボロン含有量が制御され
た球状シリカ粒子をフィラーとして含有させたフィラー含有樹脂組成物、並びに、そのようなフィラー含有樹脂組成物を採用した集積回路封止材を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する請求項1に記載の球状シリカ粒子の製造方法の特徴は、原料シリコン粒子と酸素とを反応させてシリカ粒子を形成する粒子製造工程を有する球状シリカ粒子の製造方法であって、
第1の粗シリコン粒子に対して含有されるボロン含有量を測定した結果から、前記第1の粗シリコン粒子から形成される前記シリカ粒子に含まれるボロンの含有量を求める第1工程と、
前記ボロン含有量がシリカの質量を基準として下限0ppm、上限30ppmに含まれる所定範囲に含まれる場合は
、前記第1の粗シリコン粒子をそのまま前記原料シリコン粒子と
するか、又は、前記第1の粗シリコン粒子とはボロン含有量が異なる、1又は2以上の調整用粗シリコン粒子を、形成される前記シリカ粒子に含まれるボロンの含有量が前記所定範囲内になるように混合比を設定するかを行い、
前記ボロン含有量が前記所定範囲を外れる場合には
、1又は2以上の
前記調整用粗シリコン粒子を、形成される前記シリカ粒子に含まれるボロンの含有量が前記所定範囲内になるように混合比を設定する第2工程と、
を備える選別工程を有することにある。
【0007】
請求項2に記載の球状シリカ粒子の製造方法の特徴は、請求項1において、前記所定範囲がシリカの質量を基準として0以上10ppm以下であることにある。
【0008】
請求項3に記載の球状シリカ粒子の製造方法の特徴は、請求項1において、前記所定範囲がシリカの質量を基準として10ppm以上30ppm以下であることにある。
【0009】
請求項4に記載の
フィラー含有樹脂組成物の製造方法の特徴は、
前述の球状シリカ粒子の製造方法にて球状シリカ粒子を製造する球状シリカ粒子製造工程と、
前記球状シリカ粒子製造工程にて製造された前記球状シリカ粒子を含むフィラーと樹脂組成物とを混合する混合工程と、
を有する。
【0010】
請求項5に記載の
集積回路封止材の製造方法の特徴は、
前述の球状シリカ粒子の製造方法にて球状シリカ粒子を製造する球状シリカ粒子製造工程と、
前記球状シリカ粒子製造工程にて製造された前記球状シリカ粒子を含むフィラーと樹脂組成物とを混合する混合工程と、
を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の球状シリカ粒子の製造方法によれば、形成された球状シリカ粒子におけるボロン(ホウ素)濃度を所定範囲に制御するために原料シリコン粒子に含まれるボロン含有量を調節している。その調節方法としては原料シリコン粒子として採用しうる粗シリコン粒子についてボロン含有量を測定し、その測定値から形成される球状シリカ粒子に含まれるボロン量が所定範囲内になれば、その粗シリコン粒子をそのまま原料シリコン粒子とし、所定範囲から外れる場合には異なる粗シリコン粒子についてボロン含有量を測定し、先の粗シリコン粒子と混合することにより所定範囲内にボロン含有量が収まるようになるまでこの工程を続けるものである。ボロン含有量の測定は粗シリコン粒子について直接測定する場合の他、酸素と反応させてシリカとした後にボロン含有量を測定したり、その他、何らかの方法により粗シリコン粒子に含有されるボロン含有量を測定するものであれば良い。所定範囲としては請求項2や3に示す範囲を採用することにより望ましい性質が付与された球状シリカ粒子を製造することができる。
【0018】
本発明の
製造方法にて製造された集積回路封止材やフィラー含有樹脂組成物によれば
、特異な球状シリカ粒子を採用することにより高い分散性や樹脂への密着性が発揮できる
。
【0019】
このような高い分散性や樹脂への密着性を発揮した球状シリカ粒子は自身をフィラーとして樹脂組成物と混合・分散させることにより高い性能を発揮できるフィラー含有樹脂組成物を提供することができる。このフィラー含有樹脂組成物は集積回路封止材(いわゆるアンダーフィル)として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例において樹脂組成物との密着性を評価するために撮影したSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の球状シリカ粒子の製造方法、球状シリカ粒子、フィラー含有樹脂組成物、及び集積回路封止材について好ましい実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。なお、本明細書においてボロン含有量を測定する記載があるが、その測定方法は特に限定しない。原子吸光度法などの既知の方法により測定できる。
(球状シリカ粒子の製造方法)
本実施形態の球状シリカ粒子の製造方法は製造された球状シリカ粒子に含有されるボロンの量を所定範囲に制御することを特徴とする。所定範囲としては下限値として0ppm、上限値として30ppmの値が採用できる。
【0022】
この範囲内において特に10ppm以上30ppm以下の範囲を所定範囲にすると、得られる球状シリカ粒子は凝集性が小さいものになる。凝集性については球状シリカ粒子2質量部を水90質量部に添加し、遊星式撹拌機を用いて2000rpmで3分間撹拌した後、目開き20μmの篩を用いて篩過したときの篩上に残った残渣の質量が2質量%以下であると、凝集性に優れるものと判断する。ここで、遊星式撹拌機は株式会社シンキー製、品番:ARV−200を用いる。この理由としては明らかではないが、この範囲内に制御することによりゼータ電位が適正範囲になるものと思われる。また、後述する表面処理剤による処理も適正に進行することが可能になり凝集性が抑制される。
【0023】
更に、この範囲内において特に10ppm以下の範囲を所定範囲にすると、得られる球状シリカ粒子は樹脂組成物に対する密着性に優れたものになる。密着性については、球状シリカ粒子60質量部とエポキシ樹脂(東都化成:ZX−1059)36質量部とを混合し、その後イミダゾール系硬化剤(2PHZ,四国化成製)を4質量部混合し、150℃、1時間反応硬化させた硬化物を破断し、その破断面をSEMにより確認することで評価できる。具体的には破断面に球状シリカ粒子が露出していれば樹脂と球状シリカ粒子との界面にて破断したことになり、密着性が充分で無いことが推察される。
【0024】
原料シリコン粒子と酸素とを反応させて球状シリカ粒子を製造する方法(粒子製造工程)はいわゆるVMC法と称される方法である。VMC法は金属シリコンからなる原料シリコン粒子を酸素雰囲気(酸素を含む雰囲気。酸素以外には金属シリコンと反応する気体が実質的に入っていないことが望ましい)下で燃焼させることでシリカとする方法である。金属シリコンを粉末状とし、その粒度分布や燃焼条件を制御することにより、製造される球状シリカ粒子の粒度分布を制御することができる。また、得られた球状シリカ粒子を適正な分級方法により分級することにより適正な粒度分布を実現できる。
【0025】
原料シリコン粒子は製造される球状シリカ粒子に含有されるボロンの量が所定範囲内になるようにボロン含有量が制御される(選別工程)。原料シリコン粒子に含まれるボロンの量はボロン含有量が異なる粗シリコン粒子を必要な混合比にて混合することで制御する。粗シリコン粒子は最初から粉末となっているものの他、塊状の金属シリコンを粉砕などにより粉末状にしたものを採用することもできる。
【0026】
本実施形態の球状シリカ粒子の製造方法にて製造される球状シリカ粒子は真球度が0.8以上であることが望ましく、0.9以上であることが更に望ましい。真球度の測定はSEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(真球度)={4π×(面積)÷(周囲長)
2}で算出される値として算出する。1に近づくほど真円に近い。具体的には画像処理装置(シスメックス株式会社:FPIA−3000)を用いて100個の粒子について測定した平均値を採用する。
【0027】
本実施形態の球状シリカ粒子の製造方法にて製造された球状シリカ粒子は表面処理剤にて表面処理されていても良い。表面処理剤としてはヘキサメチルジシラザン(HMDS)などのシラザン類を含むものが望ましく、シランカップリング剤を含むものが更に望ましい。シランカップリング剤としてはエポキシシランであることが望ましい。シランカップリング剤、シラザン類により導入される官能基としてはエポキシ基、ビニル基などのアルケニル基、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基、アミノ基、水酸基、アクリル基、メタクリル基が例示できる。
(球状シリカ粒子)
本実施形態の球状シリカ粒子は上述した製造方法により製造されることもできるし、他の方法により製造することもできる。他の方法としては、ボロン含有量を制御していない粗シリコン粒子から球状シリカ粒子を製造した後、製造した球状シリカ粒子に含まれるボロン含有量を測定したときに、ボロン含有量が所定範囲を超えている場合に、その球状シリカ粒子を水中に浸漬することで経時的に含有されるボロンの量を低減させることができる。
(フィラー含有樹脂組成物及び集積回路封止材)
本実施形態のフィラー含有樹脂組成物は上述の球状シリカ粒子からなるフィラーと樹脂組成物とを混合したものである。フィラーと樹脂組成物との混合比は特に限定しないが、フィラーの量が多い方が熱的安定性に優れたものになる。
【0028】
樹脂組成物は何らかの条件下で硬化可能な組成物である。例えば、プレポリマーと硬化剤との混合物である。硬化剤は硬貨直前に混合しても良い。樹脂組成物としてはその種類は特に限定しない。例えば、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、ブロックされたイソシアネート基、アミノ基、ハーフエステル基、アミック基、カルボキシ基及び炭素-炭素二重結合基を化学構造中に有することが望ましい。これらの官能基は好適な反応条件を設定することで互いに結合可能な官能基(重合性官能基)であり、適正な反応条件を選択することにより樹脂組成物を硬化させることができる。硬化させるための好適な反応条件としては単純に加熱や光照射を行ったり、熱や光照射によりラジカルやイオン(アニオン、カチオン)などの反応性種を生成したり、それらの官能基間を結合する反応開始剤(重合開始剤)を添加して加熱や光照射を行うことなどである。重合反応に際して必要な化合物を硬化剤として添加したり、その反応に対する触媒を添加することもできる。
【0029】
樹脂組成物としては重合により高分子材料を形成する単量体や、上述したような重合性官能基により修飾した高分子材料が好ましいものとして挙げられる。例えば、硬化前の、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などのプレポリマーが好適である。特にフィラー含有樹脂組成物を集積回路封止材に採用するなど熱的安定性の高いものにする場合にはエポキシ樹脂を主体として組成物を構成することが望ましい。
【実施例】
【0030】
・凝集試験
ボロン含有量が異なる複数の粗シリコン粒子を用いてVMC法により球状シリカ粒子を製造した。結果、ボロン含有量が2ppm、18ppm、22ppm、23ppmであった。
【0031】
これらの試験試料についてHMDS及びエポキシシランにて表面処理を行った。表面処理は球状シリカ粒子100質量部に対してHMDS0.025質量部、エポキシシラン1.0質量部を混合・撹拌することで行った。
【0032】
得られた表面処理済み球状シリカ粒子2gを水90gに分散させ、遊星式撹拌機にて2000rpmで3分間撹拌を行った。その後、そのまま目開き20μmの篩を通過させたときに篩を通過しなかった残渣の量を測定した。特にボロン量が2ppmの試料と22ppmの試料とについて結果を示す。2ppmの試料では18.3%の量が篩を通過できなかった。22ppmの試料では1.6%の量が通過できなかった。
・樹脂との密着性
ボロン含有量が異なる複数の粗シリコン粒子を用いてVMC法により球状シリカ粒子を製造した。結果、ボロン含有量が60ppm、130ppm、33ppm、1ppmであった。
【0033】
これらの試験試料についてHMDS及びエポキシシランにて表面処理を行った。表面処理は球状シリカ粒子100質量部に対してHMDS0.025質量部、エポキシシラン1.0質量部を混合・撹拌することで行った。
【0034】
表面処理を行った球状シリカ粒子60質量部とエポキシ樹脂(東都化成:ZX−1059)36質量部とを混合し、その後イミダゾール系硬化剤(2PHZ,四国化成製)を4質量部混合し、150℃、1時間反応硬化させた硬化物を破断し、その破断面をSEMにより確認した。SEM写真を
図1に示す。
図1より明らかなようにボロンを60ppm及び130ppm含有する球状シリカ粒子では含有させた球状シリカ粒子の形状が破断面で明らかであり、球状シリカ粒子と樹脂組成物との界面にて破断していることが明らかになった。特にボロン含有量が60ppmの試料を用いた硬化物の方が界面での破断が顕著であった。そして、ボロンの含有量が1ppm及び33ppmの試料では破断面における球状シリカ粒子との界面の露出が少なかった。特にボロン含有量が1ppmの試料を用いた硬化物ではほぼ完全に界面における破断は観測されなかった。