(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明によるピストン構造について説明し、併せて、この発明によるピストンリングについても説明する。
【0022】
この発明によるピストン構造は、
図1に示すところでは、油圧緩衝器に具現化され、油圧緩衝器は、シリンダ1と、ロッド2と、ピストン3とを有し、このピストン3は、外周側部(符示せず)にピストンリング10を装着させる。
【0023】
なお、図示するところでは、油圧緩衝器が単筒型に形成されてなるが、この発明が意図するところからすると、複筒型に形成されてなるとしても良い。
【0024】
シリンダ1は、図示するところでは、下端側部材とされ、この油圧緩衝器が車両に搭載されるとき車軸側に連結され、内部には作動流体としての作動油を収容してなる。
【0025】
そして、このシリンダ1にあって、図示しない下端開口は、たとえば、ボトムキャップで閉塞され、このボトムキャップは、車両の車軸側への連結を可能にするアイなどの取付ブラケットを有する。
【0026】
また、このシリンダ1にあって、図示しない上端開口は、たとえば、ロッドガイドおよびヘッドキャップで閉塞され、このロッドガイドおよびヘッドキャップは、軸芯部にロッド2を貫通させる。
【0027】
ロッド2は、図示するところでは、上端側部材とされ、この油圧緩衝器が車両に搭載されるとき車体側に連結され、図示しないが、車両における車体側あるいはマウントを連結させる上端螺条部を有する。
【0028】
そして、このロッド2は、
図1中で下端側部となる先端側部(符示せず)をシリンダ1内に入出自在に挿通させ、シリンダ1内に位置決めされる先端部2aにピストン3を保持する。
【0029】
ちなみに、上記したところでは、油圧緩衝器が正立型とされるから、シリンダ1が下端側部材とされ、ロッド2が上端側部材とされるが、この発明の具現化の観点からすると、油圧緩衝器が倒立型に設定されて、シリンダ1が上端側部材とされ、ロッド2が下端側部材とされても良い。
【0030】
ピストン3は、図示するところでは、環状に形成されてシリンダ1内に摺動自在に挿入され、このシリンダ1内にロッド側室たる一方室R1とピストン側室たる他方室R2とを隔成し、この一方室R1と他方室R2との連通を許容する通路3aを有する。
【0031】
そして、このピストン3は、外側通路3aの図中で上端となる下流側端を開放可能に閉塞する背面バルブ31を積層させる。
【0032】
また、図示するピストン3は、減衰バルブ32を積層させ、この減衰バルブ32は、上記の外側通路3aに並行して一方室R1と他方室R2との連通を許容する内側通路(図示せず)の図中で下端となる下流側端を開放可能に閉塞する。
【0033】
そしてまた、このピストン3は、外周側部に形成の環状溝3b(
図2(A)参照)にこの発明によるピストンリング10を装着させ、このピストンリング10は、外周面13(
図2(A)参照)をシリンダ1の内周面に摺接させる(
図1および
図2(A)参照)。
【0034】
このことから、ピストンリング10は、ピストン3によってシリンダ1内に隔成される一方室R1と他方室R2との間における作動油の漏れを阻止するシール性を保障すると共に、ピストン3のシリンダ1に対する摺動性を保障する。
【0035】
なお、図示する油圧緩衝器にあって、ピストン構造は、ロッド2の先端部2aと軸部(符示せず)との境部たる段部2bと、ロッド2の先端螺条部(符示せず)に螺着されるピストンナット21との間に挟持された態勢に具現化される。
【0036】
すなわち、ピストン構造は、バルブストッパ33,背面バルブ31,ピストン3,減衰バルブ32およびバルブストッパ34を積層してなり、これらが上記の段部2bとピストンナット21との間に挟持される。
【0037】
また、以上のように形成される油圧緩衝器が単筒型に設定される場合には、シリンダ1内にピストン3で隔成される他方室R2が、図示しないが、たとえば、フリーピストンを有して、他方室R2と隔成される気室を有してなるとし、あるいは、シリンダ1の外に設けられて気室と分離される油室に連通されてなるとしても良い。
【0038】
そして、油圧緩衝器が複筒型に設定される場合には、図示しないが、シリンダ1の外に外筒を有し、この外筒とシリンダ1との間をリザーバにして、このリザーバがシリンダ1内の他方室R2に連通してなるとしても良い。
【0039】
さらに、図示しないが、油圧緩衝器が減衰バルブを外に設ける減衰部に有する場合には、この外の減衰部にあって減衰バルブを有する言わば隔壁体が上記したピストン3に相当することになり、したがって、このことからすると、上記したピストン3は、必ずしもシリンダ1内に設けられていること要しない。
【0040】
そしてさらに、この発明の具現化にあっては、ピストンリング10を有するピストン3が減衰バルブを有することを要せず、このとき、減衰バルブは、たとえば、一方室R1と他方室R2とをシリンダ1の外で連通する流路中に設けられるなどとしても良い。
【0041】
以上のように形成された油圧緩衝器にあっては、シリンダ1内でピストン3が下降する収縮作動時には、他方室R2からの作動油がピストン3の外側通路3aを通過し、また、背面バルブ31を開放作動させて一方室R1に流入する。
【0042】
そして、この油圧緩衝器にあっては、シリンダ1内でピストン3が上昇する伸長作動時には、一方室R1からの作動油が図示しないピストン3の内側通路を通過し、また、減衰バルブ32を開放作動させて他方室R2に流出し、このとき、減衰バルブ32で所定の減衰作用がなされる。
【0043】
上記の油圧緩衝器における収縮作動時および伸長作動時に、ピストンリング10は、ピストン3とシリンダ1との間における摺動性を保障すると共に、ピストン3とシリンダ1との間におけるシール性を保障する。
【0044】
ところで、ピストンリング10は、
図2(A)にも示すように、
図2(A)中で上下方向となる軸線方向に基準となる長さ寸法Wを有すると共に、
図2(A)中で左右方向となる径方向に基準となる肉厚寸法Dを有する環状に形成される。
【0045】
ちなみに、この発明に言うピストンリング10における軸線方向投影面積は、たとえば、
図2(A)中で上下方向となる軸線方向から見たピストンリング10の端面における面積を言う。
【0046】
また、ピストンリング10は、図示するところでは、周上に合口を有しないエンドレスタイプに形成されてなるが、この発明が意図するところからすると、ピストンリング10は、
図4以下に示す実施形態のように、周上に合口(符示せず)を有するカットタイプに形成されても良い。
【0047】
戻って、このピストンリング10は、この発明にあって、たとえば、ポリフェニレンサルファイド樹脂などの合成樹脂材で、型成形などで形成され、金属製とされる場合に比較して、いわゆるメタルタッチを回避できるとしている。
【0048】
そして、このピストンリング10は、ピストン3の外周側部(符示せず)に形成されてシリンダ1(
図1参照)の内周面(符示せず)に対向する環状溝3bに装着される。
【0049】
このとき、環状溝3bは、
図2(A)中で上方となりシリンダ1内の一方室R1(
図1参照)側となる一方の内壁面、すなわち、一方の側壁面3cと、
図2(A)中で下方となりシリンダ1内の他方室R2(
図1参照)側となる他方の内壁面、すなわち、他方の側壁面3dと、一方の側壁面3cと他方の側壁面3dとの間に設けられてシリンダ1の内周面に対向する内底面3eとを有してなる。
【0050】
一方、ピストンリング10は、環状溝3bにおける一方の側壁面3cに当接可能に対向する一端面11と、環状溝3bにおける他方の側壁面3dに当接可能に対向する他端面12と、シリンダ1の内周面に摺接する外周面13と、環状溝3bにおける内底面3eに対向する内周面17とを有してなる。
【0051】
ところで、凡そ、ピストンリングがピストンの環状溝に装着されるときには、ピストンリングの軸線方向の端面、つまり、シリンダの軸線方向に沿う方向となる軸線方向の両端面が両方とも環状溝の側壁面に接することはなく、ピストンリングの端面が側壁面から隙間を有して離れる遊嵌状態に収容される。
【0052】
このことから、この発明にあっても、ピストンリング10は、環状溝3bに遊嵌状態に収容されるとし、したがって、シリンダ1の軸線方向に沿う方向となるピストンリング10における軸線方向の一端面11および他端面12のうち一方または両方が環状溝3bの一方の側壁面3cおよび他方の側壁面3dのうち一方または両方に当接されることになる。
【0053】
ちなみに、
図1および
図2(A)に示すピストンリング10の状態は、ピストン3がシリンダ1内を下降するときにピストンリング10がおかれる状態であって、この状態からピストン3が反転してシリンダ1内を上昇するようになると、図示しないが、ピストンリング10が環状溝3bで下降して、ピストンリング10の下端面たる他端面12が環状溝3bの他方の側壁面3dに当接される状態になる。
【0054】
なお、ピストンリング10がピストン3の外周側部に形成の環状溝3bに遊嵌状態に装着されるとき、
図2(A)に示すように、ピストンリング10の内周面17が環状溝3bの内底面3eから離れてなるのが常態である。
【0055】
また、以上のようにして環状溝3bに収容されたピストンリング10にあっては、この環状溝3bに装着された状態で外周面13をシリンダ1の内周面(符示せず)に摺接させて(
図1参照)、このピストンリング10とシリンダ1との間における摺動性を保障する。
【0056】
そして、このピストンリング10にあっては、環状溝3bに装着された状態で、一端面11および他端面12の一方を環状溝3bにおける一方の側壁面3cおよび他方の側壁面3dの一方に当接させて、シリンダ1と環状溝3bとの間、つまり、シリンダ1とピストン3との間における作動油の漏れを阻止してシール性を保障する。
【0057】
一方、このピストンリング10にあっては、一端面11が一方の側壁面3cに当接する際の、あるいは、他端面12が他方の側壁面3dに当接する際の、打音たるコツコツ音の発生を抑制するために、以下の特徴を有している。
【0058】
具体的には、ピストンリング10における一端面11の環状溝3bにおける一方の側壁面3cへの接触面積と、ピストンリング10における他端面12の環状溝3bにおける他方の側壁面3dへの接触面積のうち一方または両方をピストンリング10における軸線方向投影面積よりも小さくして、打音の発生を抑制するようにしている。
【0059】
以下に詳述すると、
図2(A)に示すところでは、ピストンリング10は、シリンダ1の内周面に摺接する外周面13と、環状溝3bにおける一方の側壁面3cに当接可能に対向する一端面11と、環状溝3bにおける他方の側壁面3dに当接可能に対向する他端面12と、外周面13と一端面11および他端面12の一方または両方との間の湾曲面14とを有してなる。
【0060】
ところで、ピストンリング10が、たとえば、型利用で形成されるとき、いわゆる角部にバリが残る傾向になり易く、このバリが残る場合には、ピストンリング10のシリンダ1に対する摺動性が劣る。
【0061】
そこで、ピストンリング10を形成する際には、いわゆる角部のバリを取るのが常套手段とされ、
図2(A)に示す実施形態にあっては、このバリ取り作業の延長として湾曲面14が形成されるのが良い。
【0062】
ピストンリング10が外周面13と一端面11および他端面12のうち一方または両方との間に湾曲面14を有する場合には、一端面11および他端面12のうち一方または両方の環状溝3bにおける一方の側壁面3cおよび他方の側壁面3dのうち一方または両方に当接する際の接触面積がピストンリング10における軸線方向投影面積より小さくなる。
【0063】
すなわち、前記したが、
図2(A)中で左右方向となるシリンダ1の径方向に沿うピストンリング10における径方向の肉厚寸法をDとするとき、この肉厚寸法Dが軸線方向投影面積を設定することになる。
【0064】
これに対して、湾曲面14が外周面13と一端面11および他端面12のうち一方または両方との間に設けられることで、一端面11および他端面12のうち一方または両方の径方向となる長さ寸法がdとなり、この長さ寸法dが一方の側壁面3cおよび他方の側壁面3dのうち一方または両方に対する接触面積を設定することになる。
【0065】
その結果、一端面11の一方の側壁面3cへの当接の際の接触面積が、あるいは、他端面12の他方の側壁面3dへの当接の際の接触面積が、ピストンリング10の軸線方向投影面積よりも小さくなり、この小さくなる分、ピストンリング10の環状溝3bに対する衝撃を小さくして打音を発生し難くすることになる。
【0066】
ちなみに、湾曲面14は、ピストンリング10における外周面13と一端面11あるいは他端面12との間に設けられていれば足り、ピストンリング10における内周面17と両端面11,12との間に設けられなくても良いが、
図2(A)のように、内周面17と両端面11,12との間に設けられても良い。
【0067】
また、湾曲面14は、外周面13と一端面11との間、あるいは、外周面13と他端面12との間のいずれか一方にのみ設けられるとしても良いが、いわゆる上下の両方に設けられる場合には、油圧緩衝器の伸縮作動時に環状溝3bでピストンリング10が上下動する際の打音発生を抑制できるのはもちろんのこと、環状溝3bにピストンリング10を収容する際の天地を逆にする誤組を回避できる点で有利となる。
【0068】
ちなみに、ピストンリング10が外周面13,一端面11および他端面12のうち一方または両方、および、湾曲面14を有してなる場合には、ピストンリング10における外周面13のシリンダ1の内周面に対する摺接面が小さくなる。
【0069】
すなわち、
図2(A)中で上下方向となるシリンダ1の軸線方向に沿うピストンリング10における軸線方向の長さ寸法をWとするとき、湾曲面14がいわゆる角部となる外周面13と一端面11あるいは他端面12との間に設けられることで、外周面13の軸線方向の長さ寸法wがピストンリング10の軸線方向長さ寸法Wより小さくなり、シリンダ1の内周面に対する摺接面が小さくなる。
【0070】
したがって、ピストンリング10の外周面13の面積が小さくなる分、シリンダ1に対する摺動抵抗が小さくなって、ピストンリング10のシリンダ1に対する摺動性が向上される。
【0071】
図2(B)に示すところは、ピストンリング10が外周面13と、一端面11および他端面12のうち一方または両方と、外周面13と一端面11および他端面12のうち一方または両方との間に設けられてピストンリング10における内周側部(符示せず)側に向けて凹む段差部15とを有してなる。
【0072】
ピストンリング10が外周面13と一端面11および他端面12のうち一方または両方との間に段差部15を有することで、一端面11および他端面12のうち一方または両方の環状溝3b(
図2(A)参照)における一方の側壁面3c(
図2(A)参照)および他方の側壁面3d(
図2(A)参照)のうち一方または両方への当接の際の接触面積がピストンリング10における軸線方向投影面積より小さくなる。
【0073】
その結果、この
図2(B)に示すところにあっても、油圧緩衝器にあって、シリンダ1内でピストン3が摺動する際に、環状溝3bに対してピストンリング10が当接する際の衝撃を小さくして打音を発生し難くする。
【0074】
なお、この
図2(B)に示すところにあっても、ピストンリング10の外周面13の長さ寸法wがピストンリング10の軸線方向の長さ寸法Wより小さくなり、したがって、外周面13の面積が小さくなる分、ピストンリング10のシリンダ1に対する摺動性が向上される。
【0075】
図2(C)に示すところは、ピストンリング10が外周面13と、一端面11および他端面12のうち一方または両方と、外周面13と一端面11および他端面12のうち一方または両方との間の傾斜面16とを有してなる。
【0076】
ピストンリング10が外周面13と一端面11および他端面12のうち一方または両方との間に傾斜面16を有することで、一端面11および他端面12のうち一方または両方の環状溝3b(
図2(A)参照)における一方の側壁面3c(
図2(A)参照)および他方の側壁面3d(
図2(A)参照)のうち一方または両方への当接の際の接触面積がピストンリング10における軸線方向投影面積より小さくなる。
【0077】
その結果、この
図2(C)に示すところにあっても、油圧緩衝器にあって、シリンダ1内でピストン3が摺動する際に、環状溝3bに対してピストンリング10が当接する際の衝撃を小さくして打音を発生し難くする。
【0078】
なお、この
図2(C)に示すところにあっても、ピストンリング10の外周面13の長さ寸法wがピストンリング10の軸線方向の長さ寸法Wより小さくなり、したがって、外周面13の面積が小さくなる分、ピストンリング10のシリンダ1に対する摺動性が向上される。
【0079】
ちなみに、上記した
図2(B)および
図2(C)に示すいずれの実施形態にあっても、段差部15あるいは傾斜面16がいわゆる上下に形成されるから、環状溝3bにピストンリング10を収容する際に天地を逆にする誤組をあらかじめ回避できる。
【0080】
また、
図2(B)および
図2(C)に示すピストンリング10にあっては、いわゆる角部がバリ取り仕上げされるが、このバリ取り仕上げされた部位は、
図2(A)中の湾曲面14に相当しない。
【0081】
以上からすると、この発明におけるピストンリング10にあっては、一端面11および他端面12のうち一方または両方と外周面13との間を面取りする、すなわち、湾曲面14仕上げとしたり、段差部15形成としたり、あるいは、傾斜面16仕上げとしたりすることで構成されるが、上記したところ以外の態様に形成されても良い。
【0082】
図3は、前記した
図2(B)および
図2(C)に示すピストンリング10と線対称になる縦断面形状を呈する別のピストンリング10の実施形態を示すもので、
図3(A)は、
図2(B)に示すピストンリング10と線対称になる縦断面形状を呈し、
図3(B)は、
図2(C)に示すピストンリング10と線対称になる縦断面形状を呈してなる。
【0083】
そして、
図3(A)に示すピストンリング10は、環状溝3b(
図2(A)参照)の内底面3e(
図2(A)参照)に対向する内周面17と、一端面11および他端面12のうち一方または両方と、内周面17と一端面11および他端面12のうち一方または両方との間に設けられてピストンリング10における外周側部側に向けて凹む段差部18とを有してなる。
【0084】
また、
図3(B)に示すピストンリング10は、環状溝3bの内底面3eに対向する内周面17と、一端面11および他端面12のうち一方または両方と、内周面17と一端面11および他端面12のうち一方または両方との間の傾斜面19とを有してなる。
【0085】
なお、図示しないが、
図3(A)および
図3(B)に示すところに代えて、段差部18あるいは傾斜面19が湾曲面とされても良い。
【0086】
すなわち、前記した
図2に示すピストンリング10にあっては、湾曲面14あるいは段差部15もしくは傾斜面16がピストンリング10における外周側部(符示せず)に設けられるとしたが、この
図3に示すところにあっては、段差部18あるいは傾斜面19および図示しない湾曲面がピストンリング10における内周側部(符示せず)に設けられるとする。
【0087】
そして、この
図3に示す実施形態のピストンリング10にあっても、内周面17と一端面11および他端面12のうち一方または両方との間に段差部18あるいは傾斜面19もしくは図示しない湾曲面を有することで、一端面11および他端面12のうち一方または両方の環状溝3bにおける一方の側壁面3c(
図2(A)参照)および他方の側壁面3d(
図2(A)参照)のうち一方または両方への接触面積をピストンリング10における軸線方向投影面積より小さくでき、環状溝3bに対してピストンリング10が当接する際の衝撃を小さくして打音を発生し難くする。
【0088】
ちなみに、この
図3に示す実施形態による場合には、ピストンリング10におけるシリンダ1の内周面に摺接する外周面13の図中で上下方向となる軸線方向の長さ寸法が基準長さ寸法Wとされるので、シリンダ1の内周面を摺動する際の安定性が良くなる。
【0089】
また、この
図3に示す実施形態のピストンリング10にあって、段差部18あるいは傾斜面19もしくは図示しない湾曲面を、たとえば、切削加工で形成する場合には、ピストンリング10の外周側部を治具で保持し、その状態で内周側部に段差部18あるいは傾斜面19を形成し得るから、上記した
図2に示す実施形態の場合、つまり、ピストンリング10の内周側部を治具で保持して外周側部に湾曲面14あるいは段差部15もしくは傾斜面16を形成する場合に比較して加工性を良くする利点がある。
【0090】
図4に示すピストンリング10にあっては、環状溝3b(
図2(A)参照)の側壁面3c,3d(
図2(A)参照)への当接の際の打音を抑制するため、
図4(A)および
図4(B)に示すように、一端面11に径方向に湾曲を繰り返す
波状リブ111を有してなり、詳しくは図示しないが、
図4(C)に示すように、他端面12にも、波状リブ112を有してなる。
【0091】
ちなみに、この
図4および後述する
図5,
図6に示すピストンリング10は、合口(符示せず)を有するカットタイプに形成されてなるが、この発明が意図するところからすると、合口を有しないエンドレスタイプに形成されていても良い。
【0092】
戻って、この
図4に示すピストンリング10にあって、波状リブ111および波状リブ112の先端面積が環状溝3bにおける一方の側壁面3cおよび他方の側壁面3dへの接触面積とされ、ピストンリング10における軸線方向投影面積よりも小さくされてなる。
【0093】
その結果、この
図4に示すところにあっても、環状溝3bに対してピストンリング10が当接する際の衝撃を小さくして打音を発生し難くすることが可能になる。
【0094】
なお、図示する実施形態にあっては、
図4(C)に示すように、波状リブ111と波状リブ112とが、
図4(B)中のX−X線位置の上下で、異相に設けられてなるが、これに代えて、図示しないが、同相に設けられてなるとしても良い。
【0095】
図5に示すピストンリング10にあっては、環状溝3b(
図2(A)参照)の側壁面3c,3d(
図2(A)参照)への当接の際の打音を抑制するため、
図5(A)および
図5(B)に示すように、一端面11に周方向に適宜の間隔で凹陥部11aが複数設けられてなるとするもので、詳しくは図示しないが、
図5(C)に示すように、他端面12にも凹陥部12aが複数設けられてなるとする。
【0096】
この
図5(A),
図5(B)および
図5(C)に示すピストンリング10にあっては、一端面11および他端面12に複数の凹陥部11aおよび凹陥部12aを設けてなるので、環状溝3bにおける一方に側壁面3cおよび他方の側壁面3dに当接する接触面積は、凹陥部11aおよび凹陥部12aを設けない言わば本来の一端面11および他端面12の面積、つまり、軸線方向投影面積より小さくなる。
【0097】
その結果、この
図5に示すところにあっても、環状溝3bに対してピストンリング10が当接する際の衝撃を小さくして打音を発生し難くすることが可能になる。
【0098】
ところで、この
図5に示すところにあっては、ピストンリング10における一端面11に設けた凹陥部11aおよび他端面12に設けた凹陥部12aに作動油を浸入させることが可能になる。
【0099】
そして、この作動油を浸入させた凹陥部11aおよび凹陥部12aは、ピストンリング10と環状溝3bとの間の相対移動でピストンリング10の一端面11および他端面12のうち一方または両方が環状溝3bの一方の側壁面3cおよび他方の側壁面3dのうち一方または両方に当接するとき、凹陥部11aおよび凹陥部12aのうち一方または両方に作動油を閉じ込める。
【0100】
したがって、ピストンリング10が環状溝3bに当接するとき、作動油を閉じ込める凹陥部11aあるいは凹陥部12aを有するがゆえに減衰作用がなされ、ピストンリング10の環状溝3bへの当接の際の衝撃を小さくする。
【0101】
そして、このことから、ピストンリング10が環状溝3bに高速で当接しなくなり、ピストンリング10が環状溝3bに対して当接する際の衝撃を小さくして打音を発生し難くすることが可能になる。
【0102】
一方、この
図5に示す実施形態にあって、上記したところは、
図5(C)に示すように、ピストンリング10が縦断面形状をほぼ矩形にして、一端面11あるいは他端面12に円板状に形成される凹陥部11aあるいは凹陥部12aを有してなるとしたが、以下のような変形をなし得る。
【0103】
すなわち、先ず、
図5(D)に示すように、環状溝3b(
図2(A)参照)の側壁面3c,3d(
図2(A)参照)への当接の際の打音を抑制するため、縦断面形状を上下方向に伸びる長円形にすることを提案し得るし、次に、同じく
図5(D)に示すように、一端面11および他端面12の一方または両方に形成される凹陥部11aおよび凹陥部12aの一方または両方の断面形状をほぼ半円状にすることを提案し得る。
【0104】
この
図5(D)に示すピストンリング10にあっても、一端面11および他端面12のうち一方または両方の環状溝3bにおける一方の側壁面3cおよび他方の側壁面3dのうち一方または両方への当接の際の接触面積を小さくするから、環状溝3bにピストンリング10が当接する際の衝撃を小さくして打音を発生し難くすることが可能になる。
【0105】
図6に示すピストンリング10にあっては、これを平面図として見るときには、
図6(A)に示すように、合口を有するCリング状の態様になるが、これを正面図としてみるときには、
図6(B)に示すように、ピストンリング10自体が上下方向に湾曲を繰りして全体に波状に折り曲げられたウェーブワッシャの態様になる。
【0106】
すなわち、このピストンリング10は、環状溝3b(
図2(A)参照)の側壁面3c,3d(
図2(A)参照)への当接の際の打音を抑制するため、一端面11および他端面12のうち一方または両方を上下方向に湾曲を繰り返して連続する波面にしてなる。
【0107】
それゆえ、このピストンリング10にあっては、拡大した展開図たる
図6(C)に示すように、一端面11および他端面12において山形に隆起する部位たる先端部Mを有することになる。
【0108】
この先端部Mは、
図6(A)および
図6(B)に示すように、一端面11および他端面12にあって周方向に適宜の間隔で複数設けられる。
【0109】
戻って、このピストンリング10にあっては、先端部Mが一端面11および他端面12のうち一方または両方の環状溝3bにおける一方の側壁面3cおよび他方の側壁面3dのうち一方あるいは両方への当接の際の接触部位に設定される。
【0110】
そして、この先端部Mは、図示しないが、原理的には、一端面11および他端面12において径方向に延びる線状に出現するので、環状溝3bに対する当接面が線状となり、その際の接触面積がピストンリング10における軸線方向投影面積より小さくなる。
【0111】
その結果、この
図6に示すピストンリング10にあっても、環状溝3bにピストンリング10が当接する際の衝撃を小さくして打音を発生し難くすることが可能になる。
【0112】
図7に示すピストンリング10にあっては、環状溝3bの側壁面3c,3dへの当接の際の打音を抑制するため、周方向の一箇所で切り離され、切り離された一端10aおよび他端10bを離間させる弾性を有し、軸線方向に圧縮された状態で環状溝3bに装着されてなる。
【0113】
このことから、このピストンリング10は、合口を有するカットタイプからなるとしても良い。
【0114】
一端10aおよび他端10bを離間させる弾性については、任意の方策で具有させることができ、たとえば、環状に形成されたものを任意の箇所で切り離した後にバネ力を具有するように捻り加工するとしても良い。
【0115】
そして、環状溝3bに装着されたピストンリング10にあっては、切り離された一端10aが環状溝3bにおける一方の側壁面3cに係止され、切り離された他端10bが環状溝3bにおける他方の側壁面3dに係止される。
【0116】
そしてまた、切り離された一端10aおよび他端10bは、一方室R1と他方室R2との間で差圧を発生していない状態のときに具有する弾性でシリンダ1の軸線方向に沿って互いに反対方向に離される。
【0117】
戻って、このピストンリング10にあっては、切り離された一端10aおよび他端10bと、環状溝3bにおける一方の側壁3cおよび他方の側壁面3dとで環状溝への当接の際の打音を抑制する。
【0118】
すなわち、この
図7に示すピストンリング10にあっては、ピストン3がシリンダ1(
図1参照)内で静止状態にあるとき、つまり、一方室R1と他方室R2との間で差圧が発生していない状態にあるときには、環状溝3bで一端10aにおける
図7中での下端が環状溝3bの
図7中で下方となる他方の側壁面3dに、また、環状溝3bで他端10bにおける
図7中での上端が環状溝3b
図7中で上方となる一方の側壁面3cに当接していないことになる。
【0119】
そして、この
図7に示す実施形態にあっては、ピストン3が摺動して一方室R1と他方室R2との間に差圧を発生する状態になると、ピストンリング10に油圧が作用し、ピストンリング10にあって受圧側となる一端10aおよび他端10bのうち一方が反対側端側に移動してピストンリング10が環状になる。
【0120】
このピストンリング10が環状になるとき、シリンダ1の内周面とピストンリング10の外周面13との間における作動油の通過を阻止すると共に、ピストンリング10のシリンダ1に対する摺動性が保障される。
【0121】
このように、静止時に環状溝3bで環状になっていないピストンリング10も、油圧作用があると、環状溝3bで移動して環状になるから、このことからすると、この
図7に示すピストンリング10にあっても、シリンダ1の軸線方向に沿って移動自在に収容されることになり、所定のシール性および摺動性の保障を可能にする。
【0122】
そして、シリンダ1内でピストン3が反転して静止状態から移動を開始すると、油圧が作用するのにしたがって、ピストンリング10の一端10aが弾性に抗して環状溝3bにおけるいわゆる反対側となる他方の側壁面3dに、または、ピストンリング10の他端10bが弾性に抗して環状溝3bにおける一方の側壁面3cに、それぞれ徐々に当接することになる。
【0123】
このとき、一端10aは、一端面11(
図2(A)参照)の言わば先端になり、また、他端10bは、他端面12(
図2(A)参照)の言わば先端になる。
【0124】
したがって、一端10aの他方の側壁面3dへの接触面積と、他端10bの一方の側壁面3cへの接触面積をピストンリング10における軸線方向投影面積よりも小さくすることになる。
【0125】
その結果、この
図7に示すところにあっても、環状溝3bに対してピストンリング10が当接する際の衝撃を小さくして打音を発生し難くすることが可能になる。
【0126】
ちなみに、この
図7に示すピストンリング10の縦断面形状については、前記した
図2(A)に示す形状はもちろんのこと、
図2(B)および
図2(C)に示す縦断面形状、さらには、
図3(A)および
図3(B)に示す縦断面形状を有するように形成されても良い。
【0127】
以上のように形成された合成樹脂材からなるピストンリング10を有するピストン構造を備える油圧緩衝器にあっては、シリンダ1に対してロッド2が入出すると、シリンダ1内でピストン3が摺動してシリンダ1内の一方室R1と他方室R2とが膨縮する。
【0128】
この一方室R1と他方室R2との膨縮に際しては、ピストンリング10がシリンダ1の内周に摺接してこのピストンリング10とシリンダ1との間における作動油の漏れを阻止し、背面バルブ31あるいは減衰バルブ32の設定通りの作動を保障する。
【0129】
そして、
図2乃至
図6に示す実施形態のピストンリング10を有するピストン構造にあっては、ピストン3が、すなわち、ピストン3に形成の環状溝3bに装着のピストンリング10がシリンダ1に対する摺動抵抗を低減させない場合に比較して、反転時にピストンリング10の摺動を容易にして、その分、ロッド加速度を大きくしない。
【0130】
また、この
図2乃至
図6に示す実施形態にあっては、ピストンリング10の一端面11あるいは他端面12の一方または両方が環状溝3bにおける一方の側壁面3cあるいは他方の側壁面3dの一方または両方に対する接触面積をピストンリング10における軸線方向投影面積より小さくするから、接触面積が大きい場合に比較して当接音たる打音を小さくすることが可能になる。
【0131】
そしてまた、
図7に示す実施形態のピストンリング10を有するピストン構造にあっては、ピストンリング10があらかじめ環状溝3bに係止された状態にあるから、反転時にピストンリング10の一端10aあるいは他端10bが環状溝3bにおける一方の側壁面3bあるいは他方の側壁面3dに徐々に当接することになり、打音の発生を抑制できる。
【0132】
その結果、合成樹脂材からなるこの発明によるピストンリング10を有するピストン構造によれば、車両に搭載などされる油圧緩衝器にあって、環状溝3bとピストンリング10との当接音たるコツコツ音が発生され難くなり、あるいは、発生されなくなり、油圧緩衝器における打音となって発音されない。
【0133】
前記したところでは、この発明によるピストン構造が油圧緩衝器に具現化されるとして説明したが、この発明によるピストンリング10の構成からすれば、これが油圧シリンダに具現化されるとしても良いと言い得る。