(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799002
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】カーテンエアバッグ装置およびカーテンエアバッグ装置製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 21/232 20110101AFI20151001BHJP
B60R 21/231 20110101ALI20151001BHJP
【FI】
B60R21/232
B60R21/231
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-243821(P2012-243821)
(22)【出願日】2012年11月5日
(65)【公開番号】特開2014-91452(P2014-91452A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2014年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 崇善
(72)【発明者】
【氏名】浅田 輝幸
【審査官】
柳元 八大
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0253055(US,A1)
【文献】
特開2006−168665(JP,A)
【文献】
特開2003−011767(JP,A)
【文献】
米国特許第06260878(US,B1)
【文献】
米国特許第06447003(US,B1)
【文献】
特開2012−086721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/232
B60R 21/231
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋状であってガスを受給して膨張展開するクッション部と、
前記クッション部に前記ガスを供給するシリンダ型のインフレータと、
管状に形成した基布から成り、一端に前記インフレータが挿入される開口部を有し、他端が前記クッション部に連絡されているインフレータ取付部と、
を備え、
前記インフレータ取付部は、前記開口部から前記クッション部まで基布を接合することで前記管状を形成している接合領域を有し、
前記接合領域は、基布を縫い合わせた縫製ラインと、重なった基布の間を埋める樹脂層とを含み、
前記樹脂層は、前記開口部の近傍で、前記インフレータ取付部の径の中心から見て外側の方向へ前記縫製ラインから離れ互いの間を広げて延びるように設けられていることを特徴とするカーテンエアバッグ装置。
【請求項2】
袋状であってガスを受給して膨張展開するクッション部と、
前記クッション部に前記ガスを供給するシリンダ型のインフレータと、
管状に形成した基布から成り、一端に前記インフレータが挿入される開口部を有し、他端が前記クッション部に連絡されているインフレータ取付部と、
を備え、
前記インフレータ取付部は、前記開口部から前記クッション部まで基布を接合することで前記管状を形成している接合領域を有し、
前記接合領域は、基布を縫い合わせた縫製ラインと、重なった基布の間を埋める樹脂層とを含み、
前記樹脂層は、前記開口部の近傍で、前記縫製ラインから離れ互いの間を広げるように延び、
前記樹脂層のうち前記インフレータ取付部の内側に位置する内縁が該インフレータ取付部の径の中心から見て外側の方向へ延びていることを特徴とするカーテンエアバッグ装置。
【請求項3】
袋状であってガスを受給して膨張展開するクッション部と、
前記クッション部に前記ガスを供給するシリンダ型のインフレータと、
管状に形成した基布から成り、一端に前記インフレータが挿入される開口部を有し、他端が前記クッション部に連絡されているインフレータ取付部と、
を備え、
前記インフレータ取付部は、前記開口部から前記クッション部まで基布を接合することで前記管状を形成している接合領域を有し、
前記接合領域は、基布を縫い合わせた縫製ラインと、重なった基布の間を埋める樹脂層とを含み、
前記樹脂層は、前記開口部の近傍で、該インフレータ取付部の内径を広げる方向へ前記縫製ラインから離れ互いの間を広げるように延びて形成されていることを特徴とするカーテンエアバッグ装置。
【請求項4】
袋状であってガスを受給して膨張展開するクッション部と、
前記クッション部に前記ガスを供給するシリンダ型のインフレータと、
管状に形成した基布から成り、一端に前記インフレータが挿入される開口部を有し、他端が前記クッション部に連絡されているインフレータ取付部と、
を備え、
前記インフレータ取付部は、前記開口部から前記クッション部まで基布を接合することで前記管状を形成している接合領域を有し、
前記接合領域は、基布を縫い合わせた縫製ラインと、重なった基布の間を埋める樹脂層とを含み、
前記樹脂層は、前記開口部の近傍で、前記縫製ラインから離れ互いの間を広げるように延び、
前記樹脂層のうち前記インフレータ取付部の内側に位置する内縁が該インフレータ取付部の内径を広げる方向へ延びていることを特徴とするカーテンエアバッグ装置。
【請求項5】
袋状のクッション部を形成する工程と、
基布を接合して管状とし、一端にインフレータが挿入される開口部を設け、他端を前記クッション部に連結させるインフレータ取付部を形成する工程と、
を備え、
前記インフレータ取付部を形成する工程では、
前記開口部から前記クッション部まで、基布を縫い合わせた縫製ラインと、重なった基布の間を埋める樹脂層とを設けることで前記管状を形成し、
前記樹脂層を、前記開口部の近傍で、前記インフレータ取付部の径の中心から見て外側の方向へ前記縫製ラインから離れ互いの間を広げて延びるように設けることを特徴とするカーテンエアバッグ装置製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側面衝突時やロールオーバ(横転)時に、乗員保護を目的として車室内の側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグ装置およびカーテンエアバッグ装置製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアバッグは、車両衝突時などに乗員とステアリングホイールとの間、または乗員と車室側壁との間などに膨張展開して乗員を保護する装置である。エアバッグは、ガスを利用して膨張展開する構成となっていて、ガスの発生源としてインフレータと呼ばれるガス発生装置が備えられている。インフレータには、ガス発生剤の燃焼ガスを噴出するタイプや圧縮ガスを噴出するタイプなどがあり、多くはセンサ等による衝撃の検知に起因してガスを供給する構成となっている。
【0003】
インフレータには、円盤形状のディスク型インフレータや、円筒形状のシリンダ型インフレータなどの複数の異なる形状のものが存在している。これらは、エアバッグの種類に応じて使い分けられている。例えば、ディスク型インフレータは、ステアリングホイールに設置されるフロントエアバッグなど、立体的な形状に膨張するエアバッグで主に採用されている。一方、シリンダ型インフレータは、車室内の側面上部に設置されるカーテンエアバッグなど、やや扁平な形状のエアバッグに採用されることが多い。
【0004】
上記のように、ガスを利用して膨張展開するエアバッグは、気密性を保つ必要がある。そこで、例えば特許文献1には、クッション部(膨張展開する部分)の縫目の付近にシール剤を塗布し、これによって基布同士を接合して気密性を保つ旨が記載されている。特許文献1では、シール剤として、無溶材の接着性シリコーンが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−3041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カーテンエアバッグには、シリンダ型のインフレータを取り付けるために、インフレータ取付部が設けられていることが多い。一般的なインフレータ取付部は、端が開口した筒形状であって、カーテンエアバッグのクッション部の上縁付近に設けられ、開口からインフレータが挿し込まれて取り付けられる。このインフレータ取付部は、クッション部の膨張展開の初期段階において大きな衝撃力を受ける部位である。例えば特許文献1には、インフレータ取付部(文献中では「インフレータ取付口」と記載されている)では、衝撃力が吸収できるようにシール剤の塗布厚さを厚くするなどしてもよい旨が記載されている。
【0007】
しかし、インフレータ取付部の付近では、無闇にシール剤を塗布してしまうと、シール剤がはみ出てインフレータを挿入する際の障害となり、インフレータの組付性を低下させかねない。特に、インフレータ取付部を形成する工程は、まずシール剤を塗布して基布同士を接合し、そこを縫い合わせる(縫製する)という順番で行われる。この縫製を行うにあたって、シール剤が塗布された接合領域には、機器によって圧力がかかる。その際、インフレータ取付部の長手方向の中腹に比べてその端である開口付近は、周囲に支えとなる領域が少ないため、より厚み方向に押しつぶされやすい。そのためシール剤もまた、インフレータ取付部の開口付近では押し拡げられやすい。すると、場合によってはシール剤が予定よりもはみ出てインフレータ取付部の内径を狭めてしまい、極端な場合にはインフレータの取付位置がずれてしまうなどの影響が出かねない。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、インフレータ取付部付近の気密性および耐久性を保ちつつ、インフレータの組付性も保持可能なカーテンエアバッグ装置およびカーテンエアバッグ装置製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかるカーテンエアバッグ装置の代表的な構成は、袋状であってガスを受給して膨張展開するクッション部と、クッション部にガスを供給するシリンダ型のインフレータと、管状に形成した基布から成り、一端にインフレータが挿入される開口部を有し、他端がクッション部に連絡されているインフレータ取付部と、を備え、インフレータ取付部は、開口部からクッション部まで基布を接合することで管状を形成している接合領域を有し、接合領域は、開口部の近傍で、インフレータ取付部の径の中心から見て外側の方向へ延びるように設けられていることを特徴とする。
【0010】
上記の接合領域が開口部の近傍でインフレータ取付部の径の外側へ延びているため、インフレータ取付部の内径は開口付近で次第に広くなる。したがって、上記インフレータ取付部は、インフレータをよりスムーズに挿入することが可能になっている。
【0011】
上記の接合領域は、重なった基布の間を埋める樹脂層を有してもよい。樹脂層を有することで、接合領域の強度および気密性を高めることができる。また、接合領域は開口部の近傍でインフレータ取付部の径の外側へ延びているため、樹脂層を設ける際に樹脂が基布同士の間で予定よりも広く拡がってしまったとしても、インフレータの組付性に影響を及ぼすことが避けられる。
【0012】
上記の樹脂層は、樹脂層のうちインフレータ取付部の内側に位置する内縁が、開口部の近傍でインフレータ取付部の径の中心から見て外側の方向へ延びていてもよい。樹脂層の内縁こそがインフレータ取付部の内径を決定づけるため、これによってインフレータをよりスムーズに挿入して組付け可能なインフレータ取付部が実現できる。
【0013】
上記のインフレータ取付部は、接合領域に沿って基布を縫い合わせた縫製ラインをさらに有し、樹脂層は、開口部の近傍で、インフレータ取付部の径の中心から見て外側の方向へ延びていてもよい。
【0014】
このように、樹脂層に加えて縫製ラインも設けることで、ガス圧に対するインフレータ取付部の気密性および耐久性を効率よく向上させることができる。そして上記構成では、開口部の近傍において、樹脂層が縫製ラインから離れる程度に、インフレータ取付部の径の外側に向かって延びている。これにより、インフレータの挿入時に樹脂層が干渉することがなくなり、インフレータがよりスムーズに挿入できるインフレータ取付部が実現できる。
【0015】
上記の樹脂層は、開口部の近傍で、インフレータ取付部の内径を広げる方向へ延びて形成されていてもよい。この構成によって、インフレータをよりスムーズに挿入して組付け可能なインフレータ取付部が実現できる。
【0016】
上記の樹脂層は、樹脂層のうちインフレータ取付部の内側に位置する内縁が、開口部の近傍でインフレータ取付部の内径を広げる方向へ延びていてもよい。樹脂層の内縁こそがインフレータ取付部の内径を決定づけるため、これによってインフレータをよりスムーズに挿入して組付け可能なインフレータ取付部が実現できる。
【0017】
上記のインフレータ取付部は、接合領域に沿って基布を縫い合わせた縫製ラインをさらに有し、樹脂層は、開口部の近傍で、インフレータ取付部の内径を広げる方向へ延びていてもよい。
【0018】
樹脂層に加えて縫製ラインも設けることで、ガス圧に対するインフレータ取付部の気密性および耐久性を効率よく向上させることができる。そして上記構成では、開口部の近傍において、樹脂層が縫製ラインから離れる程度に、インフレータ取付部の内径を広げる方向へ向かって延びている。これにより、インフレータがよりスムーズに挿入できるインフレータ取付部が実現できる。また、この構成であれば、予め樹脂層がインフレータ取付部の径の外側等に向かって延びているため、仮にシール剤が予定よりも拡がってしまったとしてもインフレータの挿入や組付性に影響をおよぼすことが避けられる。
【0019】
上記の接合領域は、縫製によって形成されていてもよい。縫製によって形成された接合領域であっても、開口部の近傍でインフレータ取付部の径の外側へ延びていることで、インフレータを組み付ける際にインフレータをよりスムーズに挿入することができる。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明にかかるカーテンエアバッグ装置製造方法の代表的な構成は、袋状のクッション部を形成する工程と、基布を接合して管状とし、一端にインフレータが挿入される開口部を設け、他端をクッション部に連絡させるインフレータ取付部を形成する工程と、を備え、インフレータ取付部を形成する工程では、開口部からクッション部まで、重なった基布の間を樹脂層で埋めて基布を接合させた接合領域を設けることで管状を形成し、接合領域を、開口部の近傍で、インフレータ取付部の径の中心から見て外側の方向へ延びるように設けることを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、インフレータ取付部におけるインフレータの組付性、さらには強度および気密性を高めたカーテンエアバッグ装置の製造方法を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、インフレータ取付部付近の気密性および剛性を保ちつつ、インフレータの組付性を保持可能なカーテンエアバッグ装置およびカーテンエアバッグ製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態にかかるカーテンエアバッグ装置を例示した図である。
【
図2】
図1(a)のクッション部の非膨張時における展開状態を例示した図である。
【
図4】
図3のインフレータ取付部と従来例とを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態にかかるカーテンエアバッグ装置を例示した図である。
図1(a)はカーテンエアバッグ装置(以下、「エアバッグ100」と記載する。)のクッション部102の収納形態を例示し、
図1(b)はクッション部102の展開時をそれぞれ例示している。なお、本発明の技術的思想は、カーテンエアバッグに限らず、シリンダ型インフレータを備えるエアバッグ装置に広く利用することができる。
【0026】
図1(a)に例示するクッション部102は、緊急時に膨張展開して乗員を保護する部位である。このクッション部102は、巻回されて車両前後に細長い収納形態となって、車両室内の側面部上方の壁部(ルーフサイドレール104)に取り付けられ、設置される。通常、ルーフサイドレール104はその上をルーフトリム(図示省略)が覆うため、収納されたクッション部102は車両室内からは視認不能である。なお、本実施形態のクッション部102の収納形態は巻回により実現されているが、他にも、折り畳みによって収納形態を実現することも可能である。
【0027】
エアバッグ100はガス発生装置であるインフレータ106を備えている。クッション部102は、インフレータ106から供給されるガスの圧力により膨張して乗員を拘束する。本実施形態で採用しているインフレータ106は、シリンダ型(筒型)のものである。現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプなどがある。インフレータ106としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0028】
図1(a)の状態において、車両108に側面衝突時やロールオーバ(横転)等が発生すると、まず車両108に備えられたセンサ(図示省略)が衝撃を感知し、これに起因してインフレータ106へ信号が発信される。この信号を受けることでインフレータ106は作動し、ガスをクッション部102へ供給する。クッション部102は、インフレータ106からのガスを受給すると、
図1(b)に例示するように、車室の側面部(
図1(a)のサイドウィンドウ110等)に沿うように下方へ向かって膨張展開し、乗員の保護を行う。
【0029】
図2は、
図1(a)のクッション部102の非膨張時における展開状態を例示した図である。
図2に例示するクッション部102は、表裏の2枚の基布を重ねて縫い合わせることで、袋状に形成されている。クッション部102の膨張領域は、乗員が接触しうる位置などを考慮して、複数の小部屋(チャンバ)に区画されている。例えば、車幅方向の中央やや前方には、前部座席112(
図1(b)参照)の乗員を受け止めることを目的としてメインチャンバ114が設けられている。そのほか、メインチャンバ114のさらに車両前方にフロントチャンバ116、車両後端側にはリアチャンバ118などが設けられている。
【0030】
クッション部102の上縁120には、クッション部102を車両108(
図1(b)参照)に取り付けるために、複数のタブ122が設けられている。タブ122は帯状に形成されていて、このタブ122にボルトやブラケット(ともに図示省略)を使用するなどして、クッション部102はルーフサイドレール104に取り付けられる。
【0031】
クッション部102の上縁120には、さらに、インフレータ106(
図1(b)参照)を取り付ける部位として、インフレータ取付部124が設けられている。
図3は、
図2のインフレータ取付部124の拡大図である。インフレータ取付部124は、基布同士を接合することで、管形状に形成されている。インフレータ取付部124の一端側は開口部126になっていて、他端側はクッション部102に連絡している。インフレータ106はこの開口部126から挿入されて、取り付けられる。
【0032】
接合領域134a・134bは、開口部126からクッション部102にかけて、重なった基布の間を埋めるよう、樹脂製のシール剤が線状に塗布されて樹脂層128a・128bが形成され、表裏の基布同士が接合している箇所である。接合領域134a・134bは、互いに並行して設けられ、これによってインフレータ取付部124が管形状に形成される。樹脂層128a・128bに用いるシール剤としては、シリコン樹脂等が挙げられる。これらシール剤の塗布による基布の接合は、接合強度や気密性向上の点で有効であり、インフレータ取付部124以外にもクッション部102の各輪郭線にて行われる。
【0033】
接合領域134a・134bには、樹脂層128a・128bに加えて、縫製ライン130a・130bも設けられている。縫製ライン130a・130bは、樹脂層128a・128bにほぼ沿って設けられた、基布同士を縫い合わせた縫目である。縫製ライン130a・130bを設けることで、樹脂層128a・128bと共に、インフレータ106(
図1(b)参照)から噴出するガスの圧力に耐え得る耐久性が実現されている。縫製ライン130a・130bを設ける工程は、樹脂層128a・128bを設けて基布同士を接合する工程の後に行われる。
【0034】
本実施形態では、インフレータ106が挿入しやすいよう、樹脂層128a・128の構成を工夫している。樹脂層128a・128bの端部132a・132bは、インフレータ106が挿入しやすいよう、開口部126の近傍では、開口部126へ向かって、インフレータ取付部124の径の中心線C1から見て外側の方向へ延びている。言い換えると、樹脂層128a・128bは、その端部132a・132bが、開口部126へ向かって、インフレータ取付部124の径を広げる方向へ延びている。これらによって、開口部126の径は広がり、インフレータ106が挿入しやすくなっている。
【0035】
ここで重要なことは、樹脂層128a・128bのうちの特に内縁129a・129bが、上記の方向へ延びていることである。内縁129a・129bは、インフレータ取付部124の内側に位置し、インフレータ取付部124の内径を決定づける要素である。この内縁129a・129bが上記構成を採ることで、インフレータ106(
図1(b)参照)をよりスムーズに挿入可能なインフレータ取付部124が実現できる。
【0036】
図4は、
図3のインフレータ取付部124と従来例とを比較した図である。まず、
図4(b)は、従来例であるインフレータ取付部10である。このインフレータ取付部10では、樹脂層12a・12bの全体が縫製ライン130a・130bに沿っている。ここで、通常、縫製ライン130a・130bは樹脂層12a・12bの後に設けられ、その縫製を行うにあたって樹脂層12a・12bには機器によって圧力がかかる。その際、インフレータ取付部10の中腹に比べてその端である開口部126付近は、周囲に支えとなる領域が少ないため、より厚み方向に押しつぶされやすい。そのため、樹脂層12a・12に塗布されているシール剤もまた、開口部126付近では押し拡げられやすい。すると、場合によっては、例えば樹脂層12a・12bの端部14a・14bのように、シール剤が予定よりもはみ出てインフレータ取付部10の内径を狭めてしまう。極端な場合には、インフレータ106に干渉して、組付時の作業効率を低下させたり、組み付ける位置の精度を低下させたりと、インフレータ106の組付性を低下させてしまう。
【0037】
そこで、
図4(a)に例示する本実施形態におけるインフレータ取付部124では、樹脂層128a・128bは、全体的には縫製ライン130a・130bと重なって設けられているものの、開口部126の近傍では縫製ライン130a・130bからそれぞれ離れて互いの間を広げるように延びている。この構成によって、インフレータ取付部124の内径は十分に広くなる。これにより、本実施形態では、インフレータ106がよりスムーズに挿入可能になっている。また、予め樹脂層128a・128bがインフレータ取付部124の径の外側等に向かって延びていることで、仮にシール剤が予定よりも拡がってしまったとしても、インフレータ106の挿入時に干渉したり、またインフレータ106の組付位置をずらしたりすることが防止でき、インフレータ106の組付性を保持することができる。
【0038】
これら説明した当該エアバッグ100(
図3参照)を、その製造方法としてまとめると、袋状のクッション部102を形成する工程と、インフレータ取付部124を形成する工程とを含んで構成されることになる。まず、クッション部102は、表裏の基布を接合すること、またはOPW(One-Piece Woven)を用いての紡織などによって、袋状に形成することが可能である。次に、インフレータ取付部124は、基布を管状に接合して一端に開口部126を設け、他端側をクッション部102に連絡させて形成する。この基布を管状に接合する際には、開口部126からクッション部102まで、基布の重ねた部分の間を樹脂層128a・128bで埋めて接合領域134a・134bを設ける。特に、樹脂層128a・128bは、開口部126の近傍でインフレータ取付部124の径の中心線C1から見て外側の方向へ延びるように設ける。これにより、上述したように、インフレータ106の組付性を向上させることが可能になる。
【0039】
なお、樹脂層128a・128bを設けた後には、縫製ライン130a・130bを設けることで接続領域134a・134bの接合強度をさらに高めることができる。その場合、開口部126の近傍では、樹脂層128a・128bが中心線C1から見て外側へ延びることで、樹脂層128a・128bが縫製ライン130a・130bから離れていてもよい。しかしながら、樹脂層128a・128bを形成するシール剤は、機器からの圧力によって拡がることもあり得る。その点も踏まえたうえで、樹脂層128a・128bと縫製ライン130a・130bとが開口部126の近傍にて重なっているか離れているかは、任意に設定してよい。
【0040】
上記一連の説明では、接合領域134a・134bは、樹脂層128a・128bおよび縫製ライン130a・130bを含んで構成されていると説明した。しかし、接合領域は縫製ラインを設けることのみによっても形成可能であり、例えばその縫製ラインを開口部126の近傍でインフレータ取付部124の径の外側へ延びるよう設けることでも、インフレータ106をスムーズに挿入させることが可能になる。
【0041】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。例えば、本実施形態では、車両前後方向のやや中央側にインフレータを取り付ける、いわゆるセンターフィルタイプのカーテンエアバッグを例示した。しかし、これに限らず、車両後方にインフレータを取り付けるいわゆるエンドフィルタイプのカーテンエアバッグにも、本発明の技術的思想は利用可能である。
【0042】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0043】
また、上記実施形態においては本発明にかかるカーテンエアバッグを自動車に適用した例を説明したが、自動車以外にも航空機や船舶などに適用することも可能であり、同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、車両の側面衝突時やロールオーバ(横転)時に、乗員保護を目的として車室内の側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグ装置およびカーテンエアバッグ装置製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
100 …エアバッグ、102 …クッション部、104 …ルーフサイドレール、106 …インフレータ、108 …車両、110 …サイドウィンドウ、112 …前部座席、114 …メインチャンバ、116 …フロントチャンバ、118 …リアチャンバ、120 …クッション部の上縁、122 …タブ、124 …インフレータ取付部、126 …開口部、128a・128b …樹脂層、129a・129b …内縁、130a・130b …縫製ライン、132a・132b …端部、134a・134b …接合領域、C1 …インフレータ取付部の径の中心線、10 …従来例のインフレータ取付部、12a・12b …従来例の接合領域、14a・14b …従来例の接合領域の端部