特許第5799019号(P5799019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5799019極性基含有オレフィン系共重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799019
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】極性基含有オレフィン系共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/00 20060101AFI20151001BHJP
   C08F 4/80 20060101ALI20151001BHJP
   C08F 210/00 20060101ALI20151001BHJP
   C08F 214/14 20060101ALI20151001BHJP
   C08F 216/08 20060101ALI20151001BHJP
   C08F 218/12 20060101ALI20151001BHJP
   C08F 226/02 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   C08F2/00 A
   C08F4/80
   C08F210/00
   C08F214/14
   C08F216/08
   C08F218/12
   C08F226/02
【請求項の数】4
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2012-532888(P2012-532888)
(86)(22)【出願日】2011年7月1日
(86)【国際出願番号】JP2011065170
(87)【国際公開番号】WO2012032836
(87)【国際公開日】20120315
【審査請求日】2014年4月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-119120(P2011-119120)
(32)【優先日】2011年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-198722(P2010-198722)
(32)【優先日】2010年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081086
【弁理士】
【氏名又は名称】大家 邦久
(74)【代理人】
【識別番号】100121050
【弁理士】
【氏名又は名称】林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】奥村 吉邦
(72)【発明者】
【氏名】柳生 大輔
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−046032(JP,A)
【文献】 特開2008−214629(JP,A)
【文献】 特開2003−292524(JP,A)
【文献】 特開2001−002608(JP,A)
【文献】 特開2000−063405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00−2/01
C08F4/80
C08F210/00−210/14
C08F214/14−214/18
C08F216/08
C08F218/12
C08F226/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンと一般式(1)
【化1】
(式中、3〜5個のR1は同じでも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素原子数1〜5の炭化水素基を表し、R2は、−OR2-1、−SR2-1、−OCOR2-1(R2-1は、水素原子、または炭素原子数1〜18の炭化水素基を表す。)、−N(R2-22(2個のR2-2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素原子数1〜18の炭化水素基、−COR2-3または−COOR2-3(R2-3は炭素原子数1〜10の炭化水素基を表す。)を表す。)、またはハロゲン原子を表し、nは0または1である。)
で示される極性基含有モノマーとの共重合体の製造方法において、触媒として一般式(C3)
【化2】
(式中、Mは周期律表第10族の金属原子を表し、Xはリン原子(P)または砒素原子(As)を表し、R3は、水素原子、アシロキシ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、及びアシロキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、R4及びR5はそれぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、R4とR5は結合して環構造を形成してもよく、Y1は、ハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜70の2価の炭化水素基を表し、Qは、Y1[−S(=O)2−O−]M、Y1[−C(=O)−O−]M、Y1[−P(=O)(−OH)−O−]M、またはY1[−S−]Mの「[ ]」の中に示される2価の基を表し(ただし、両側のY1、Mは基の結合方向を示すために記載している。)、L3は電子供与性配位子を表す。)
で示される周期律表第10族の金属錯体触媒を使用し、重合反応後に重合体から分離した触媒溶液を重合反応系へ供給し、循環再使用することを特徴とする重合体の製造方法。
【請求項2】
重合反応後に重合体から分離した触媒溶液を後処理なしに重合反応系へ供給、循環再使用する請求項1に記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
一般式(C3)で示される触媒が、一般式(C4)
【化3】
(式中、4個のR6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜18のアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表し、M、R3、R4、R5、及びL3は一般式(C)と同じ意味を表す。)
で示される請求項1または2に記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
重合反応器と固液分離器を備えた連続重合反応装置を使用して、モノマーの重合反応中に重合反応器から重合反応液の一部を連続的に抜き出し、固液分離器にて触媒溶液と重合体とを分離し、分離した触媒溶液をそのまま重合反応器に戻す請求項1〜のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性基含有オレフィン系共重合体の製造方法に関する。さらに詳しく言えば、周期律表第10族の金属錯体触媒を循環再使用して、オレフィンと極性基含有モノマーとの共重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー工業は石油化学工業において中心的な役割を果たしており、その製造プロセスは、ポリマー工業の動きに対応して、種々の技術革新を経てきた。
ポリマーの製造プロセスは、方式としてバッチ式(回分式)と連続式、反応系の形態として、溶液重合法、懸濁重合法、バルク重合法、気相重合法などがある。また重合触媒を使用して、モノマーを重合させ、ポリマーにするのが一般的である。
【0003】
重合プロセスの進展において、製造コスト低減と省資源・省エネルギー化は、プロセス開発おいて、重要な課題となってきた。製造コスト低減において、従来重要な技術革新は、高活性触媒の開発による時間当たりのポリマー生産量を飛躍的に上げることでなされてきた。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン製造における無脱灰プロセス、気相プロセスへの転換は、その例であると言える。製造コストの低減においては、重合反応後に重合触媒や未反応のモノマー、重合溶媒を回収し、循環再使用することも効果的である。特開2000−063405号公報(特許文献1)には、ポリエチレンのスラリー重合において、重合反応液から重合体を固液分離し、得られた回収液を重合工程に戻して循環再使用する製造方法が記載されている。重合触媒として用いている高活性チタン系触媒は、触媒活性を維持したまま分離回収するのは難しく、回収液の循環再使用は重合溶媒としての利用を目的としている。
【0004】
一方、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィンの重合において、極性基含有モノマーを共重合させて、無極性のポリエチレン、ポリプロピレンに染色性、接着性、エンジニアリングプラスティックとの相溶性など様々な機能を付加させる試みが行われている。
【0005】
オレフィンと極性基含有モノマーを共重合できる重合触媒として、周期律表第10族の金属錯体触媒を使用したBrookhalt(J. Am. Chem. Soc., 118, 267(1996);非特許文献1)、野崎(J. Am. Chem. Soc., 131, 14606(2009);非特許文献2)らの例が知られている。しかしながら、これら錯体触媒は、高価な後周期遷移金属を使用するにも拘わらず、重合活性が低いため、従来の重合プロセスでは製造コストにおける触媒コストが高く、経済的に見合わないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−063405号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 118, 267(1996)
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 131, 14606(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、オレフィンと極性基含有モノマーとの共重合反応において触媒の重合活性が比較的低くとも触媒コストを飛躍的に低減することのできる新規な重合プロセスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、オレフィンと一般式(1)で示される少なくとも1つのモノマーとの共重合反応において、周期律表第10族の金属錯体は、分解することなく重合体から分離・回収可能であり、触媒として使用した後も触媒活性は低下せず、特別な処理をしなくとも再使用可能なことを見出し、当該触媒を循環再使用することにより触媒コストを飛躍的に低減できることを確認して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の[1]〜[7]に関する。
【0010】
[1] オレフィンと一般式(1)
【化1】
(式中、3〜5個のR1は同じでも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素原子数1〜5の炭化水素基を表し、R2は、−OR2-1、−SR2-1、−OCOR2-1(R2-1は、水素原子、または炭素原子数1〜18の炭化水素基を表す。)、−N(R2-22(2個のR2-2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素原子数1〜18の炭化水素基、−COR2-3または−COOR2-3(R2-3は炭素原子数1〜10の炭化水素基を表す。)を表す。)、またはハロゲン原子を表し、nは0または1である。)
で示される極性基含有モノマーとの共重合体の製造方法において、触媒として周期律表第10族の金属錯体触媒を使用し、重合反応後に重合体から分離した触媒溶液を重合反応系へ供給し、循環再使用することを特徴とする重合体の製造方法。
[2] 重合反応後に重合体から分離した触媒溶液を後処理なしに重合反応系へ供給、循環再使用する[1]に記載の重合体の製造方法。
[3] 周期律表第10族の金属錯体触媒が、一般式(C1)
【化2】
(式中、Mは周期律表第10族の金属原子を表し、L1は、窒素原子(N)、リン原子(P)、または砒素原子(As)を有し、前記原子でMと結合する基を表し、L2は、酸素原子(O)または硫黄原子(S)を有し、前記原子でMと結合する基を表し、L3は、電子供与性配位子を表し、R3は、水素原子、アシロキシ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、及びアシロキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
で示される[1]に記載の重合体の製造方法。
[4] 一般式(C1)で示される触媒が、一般式(C2)
【化3】
(式中、Mは周期律表第10族の金属原子を表し、Xはリン原子(P)または砒素原子(As)を表し、R3は、水素原子、アシロキシ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、及びアシロキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、Y、R4、及びR5はそれぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、R4とR5は結合して環構造を形成してもよく、Qは、Z[−S(=O)2−O−]M、Z[−C(=O)−O−]M、Z[−P(=O)(−OH)−O−]M、またはZ[−S−]Mの「[ ]」の中に示される2価の基を表し(ただし、両側のZ、Mは基の結合方向を示すために記載している。)、Zは水素原子、またはハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜40の炭化水素基を表し、YとZは結合して環構造を形成してもよく、R4及び/またはR5はYと結合して環構造を形成してもよく、L3は電子供与性配位子を表す。)
で示される[3]に記載の重合体の製造方法。
[5] 一般式(C2)で示される触媒が、一般式(C3)
【化4】
(式中、Y1は、ハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜70の2価の炭化水素基を表し、Q、M、X、R3、R4、R5、及びL3は一般式(C2)と同じ意味を表す。)
で示される[4]に記載の重合体の製造方法。
[6] 一般式(C3)で示される触媒が、一般式(C4)
【化5】
(式中、4個のR6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜18のアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表し、M、R3、R4、R5、及びL3は一般式(C2)と同じ意味を表す。)
で示される[5]に記載の重合体の製造方法。
[7] 重合反応器と固液分離器を備えた連続重合反応装置を使用して、モノマーの重合反応中に重合反応器から重合反応液の一部を連続的に抜き出し、固液分離器にて触媒溶液と重合体とを分離し、分離した触媒溶液をそのまま重合反応器に戻す[1]〜[6]のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
触媒を循環再使用する本発明の重合体の製造方法によれば、重合活性が比較的低くとも触媒コストを飛躍的に低減することができ、従来の重合方法では、触媒コストが高いため工業的に製造することが困難であった極性基含有のオレフィン系ポリマーを低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の連続重合プロセスの一例を示すフロー図である。
図2】実施例3の酢酸アリル/エチレン共重合反応における、反応時間と累計ポリマー生産性の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る新規重合体の製造方法について、その好ましい形態を具体的に説明する。なお、本発明において「重合」または「重合体」は、「共重合」または「共重合体」を包含する意味で用いられている。また、「炭化水素」は飽和、不飽和の脂肪族及び脂環族炭化水素、芳香族炭化水素を含む意味で用いる。「オレフィン」は、極性基の有無に関わらず、炭素−炭素二重結合を有する化合物(ただし、一般式(1)で示されるモノマーを除く。)を表す。
【0014】
1.重合触媒の回収メカニズム
重合触媒を重合体と分離して、後処理をせずに循環再使用するためには、生長するポリマー鎖と金属錯体触媒との結合を化学的に切断すること、金属錯体触媒と重合体を物理的に分離すること、単離された錯体触媒が分離工程において分解せず安定に存在すること、そしてその錯体触媒が重合条件下で再活性化できることなどの困難な技術課題を同時に解決しなければならない。
【0015】
本発明者らは、上記課題に真摯に取り組んだ結果、触媒として周期律表第10族の金属錯体を使用し、オレフィンと一般式(1)で示される少なくとも1つのモノマーとの重合反応において、金属錯体触媒を重合体と分離し、後処理せずに循環再使用する重合体の製造方法を見出した。なお、「後処理」とは例えば再活性化処理や洗浄操作などを意味する。
【0016】
周期律表第10族の金属錯体触媒は、特に制限されるものではないが、重合反応系中に一般式(1)で示されるモノマーを少なくとも1つ含むことが必要である。以下、R1が水素原子である一般式(1)で示されるモノマーと一般式(C1)で示される金属錯体触媒を例にして、触媒回収機構について説明する。
【0017】
金属錯体(C1)のM−R3結合にモノマーが挿入して、重合が進行する。
【化6】
【0018】
一般式(1)で示されるn=0のモノマーはhead-to-tail挿入し、R2脱離による連鎖移動反応を経て、金属錯体(C1−1)と末端二重結合のポリマーに分離する。n=1のモノマーはtail-to-head挿入し、R2脱離による連鎖移動反応を経て、金属錯体(C1−1)と末端二重結合のポリマーに分離する。挿入形式は、一般式(1)で示されるモノマーは極性基を有するため、一般的にtail-to-head挿入が有利であり、そのため一般式(1)で示されるモノマーとしては、n=1のケースが好ましい。生長ポリマーとの結合が切れた金属錯体(C1−1)は、重合体との分離が可能である。新しく生成した安定なM−R2結合及び電子供与性配位子L3の存在により、金属錯体(C1−1)は、熱などの外的刺激や不純物に対して安定であり、分離工程においても安定に存在し得る。
【化7】
【0019】
金属錯体(C1−1)は、重合体と分離後、再び反応器に戻して反応を行なうと、再活性化されて重合反応が再開される。
【化8】
【0020】
一般的に、錯体触媒と生長ポリマーの結合切断様式としては、β水素脱離反応が知られている。しかし、β水素脱離の場合、生成するヒドリド錯体は、熱などの外的刺激あるいは不純物に対して極めて不安定なため、単離することが困難であり、重合体との分離工程で分解してしまう。また、重合反応後の後処理として、重合停止剤や連鎖移動剤を加えて、錯体触媒と生長ポリマーの結合を切断する方法が知られている。しかし、この方法では触媒について、連鎖移動反応後の安定性、反応停止剤や連鎖移動剤との分離、反応停止後の再活性化などが課題となる。本発明では、このような反応停止剤・連鎖移動剤の添加なしに触媒を重合体と分離し、循環再使用することが可能である。
【0021】
また、重合体に触媒の金属成分が多量に残存すると、重合体の色や物性に悪い影響を与えることが知られているが、本発明の方法に従えば、本質的に重合体中の残存金属を極めて低いレベルにすることが可能である。
加えて、本発明で使用される極性基含有モノマーは、配位アニオン重合で一般的に使用されているアクリル酸エステルなどの極性基含有モノマーと比べて、ラジカル重合性に対する安定性に優れるため、重合系中で溶媒として使用しても、安定に回収・再使用することができる。
【0022】
2.モノマー
本発明の重合体の製造方法(重合プロセス)では、一般式(1)で示される少なくとも1つのモノマーを使用し、これをオレフィンと組み合わせて重合する。
【化9】
(式中、3〜5個のR1は同じでも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素原子数1〜5の炭化水素基を表し、R2は、−OR2-1、−SR2-1、−OCOR2-1(R2-1は、水素原子、または炭素原子数1〜18の炭化水素基を表す。)、−N(R2-22(2個のR2-2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素原子数1〜18の炭化水素基、−COR2-3または−COOR2-3(R2-3は炭素原子数1〜10の炭化水素基を表す。)を表す。)、またはハロゲン原子を表し、nは0または1である。)
【0023】
2で示される基は、一般に脱離基(leaving group)と呼ばれる基であり、特に−OCOR2-1が望ましい。一般式(1)で示されるモノマーとしては、n=0の具体例として、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、塩化ビニル、臭化ビニルが挙げられ、n=1の具体例として、酢酸アリル、アリルアルコール、アリルアミン、N−アリルアニリン、N−t−ブトキシカルボニル−N−アリルアミン、N−ベンジルオキシカルボニル−N−アリルアミン、N−ベンジル−N−アリルアミン、塩化アリル、臭化アリルが挙げられる。これらの中でも、酢酸アリル、アリルアルコール、N−アリルアニリン、N−t−ブトキシカルボニル−N−アリルアミン、塩化アリル、臭化アリル、酢酸ビニルが好ましく、酢酸アリルがさらに好ましい。これら一般式(1)で示されるモノマーは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
また、一般式(1)で示されるモノマーと共重合させるオレフィンとしては炭素数2〜10のオレフィンが好ましく、炭素数2〜10の1−オレフィンがさらに好ましい。その具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンが挙げられる。これらの中でも、特にエチレン及びプロピレンが好ましい。またこれらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
さらに、オレフィン、一般式(1)で示されるモノマーに加えて、その他のモノマーを共重合することも可能である。その他のモノマーとして、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレンなどが挙げられる。
【0026】
オレフィンと一般式(1)で示されるモノマーの組み合わせとしては、エチレンと酢酸アリル、エチレンとアリルアルコール、エチレンと酢酸アリル及びアリルアルコール、エチレンと塩化アリル、エチレンと臭化アリル、エチレンとアリルアミン、エチレンとN−アリルアニリン、エチレンとN−t−ブトキシカルボニル−N−アリルアミン、エチレンとN−ベンジルオキシカルボニル−N−アリルアミン、エチレンとN−ベンジル−N−アリルアミン、プロピレンと酢酸アリル、プロピレンと酢酸アリル、プロピレンとアリルアルコール、プロピレンと酢酸アリル及びアリルアルコール、プロピレンと塩化アリル、プロピレンと臭化アリル、プロピレンとアリルアミン、プロピレンとN−アリルアニリン、プロピレンとN−t−ブトキシカルボニル−N−アリルアミン、プロピレンとN−ベンジルオキシカルボニル−N−アリルアミン、プロピレンとN−ベンジル−N−アリルアミンなどが挙げられる。これらの中でも重合体の性能と経済性の面でエチレンと酢酸アリル、エチレンとアリルアルコール、エチレンと酢酸アリルとアリルアルコール、エチレンと塩化アリル、エチレンとアリルアミンが好ましい。
【0027】
3.重合触媒
本発明で使用できる重合触媒は、周期律表第10族の遷移金属錯体であれば特に制限はない。
周期律表第10族の遷移金属錯体の中でも特に、一般式(C1)で示される金属錯体が好ましい。
【化10】
(式中、Mは周期律表第10族の金属原子を表し、L1は、窒素原子(N)、リン原子(P)、または砒素原子(As)を有し、前記原子でMと結合する基を表し、L2は、酸素原子(O)または硫黄原子(S)を有し、前記原子でMと結合する基を表し、L3は、電子供与性配位子を表し、R3は、水素原子、アシロキシ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、及びアシロキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【0028】
Mは周期律表第10族の元素を表す。周期律表第10族の元素としては、Ni、Pd、Ptが挙げられるが、触媒活性や得られる分子量の観点からNi及びPdが好ましく、Pdがより好ましい。
【0029】
1は、窒素原子(N)、リン原子(P)または砒素原子(As)でMと結合する基を表す。ここで本発明中のL1は、1つの窒素原子(N)、リン原子(P)または砒素原子(As)でMと結合する単座配位子のみではなく、2つの窒素原子(N)、リン原子(P)または砒素原子(As)でMと結合する二座配位子も含まれる。L1が単座配位子の場合の具体例を以下に挙げる。なお、「Ph」はフェニル基を表す。
【化11】
【0030】
1が二座配位子の場合の具体例を以下に挙げる。
【化12】
【化13】
【0031】
2は、酸素原子(O)または硫黄原子(S)でMと結合する基を表す。すなわち、−O−、−C(=O)−O−、−S(=O)2−O−、−P(=O)(−OH)−O−、−S−のような構造を持つ基である。酸素原子(O)で結合する基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、アセトキシ基、トリフルオロアセトキシ基、メシルオキシ基、ベンゼンスルホナト基、トシルオキシ基、トリフルオロメタンスルホナト基、ペンタフルオロベンゼンスルホナト基が、硫黄原子(S)で結合する基としては、メチルチオ基、フェニルチオ基などが挙げられる。
【0032】
また、L1とL2は架橋して1つの二座配位子を形成しても良く、その場合の具体例を以下に挙げる。なお、図中のMは周期律表第10族の元素を表し、二座配位子以外の結合は省略して記した。
【化14】
【0033】
3の電子供与性配位子とは、電子供与性を有し、金属原子Mに配位して金属錯体を安定化させることのできる化合物である。電子供与性配位子(L3)としては、硫黄原子を有するものとしてジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。窒素原子を有するものとして、炭素原子数1〜10のトリアルキルアミン、炭素原子数1〜10のジアルキルアミン、ピリジン、2,6−ジメチルピリジン(別名:ルチジン)、アニリン、2,6−ジメチルアニリン、2,6−ジイソプロピルアニリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、アセトニトリル、ベンゾニトリル、2−メチルキノリンなどが挙げられる。酸素原子を有するものとして、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタンが挙げられる。
【0034】
3は、水素原子、アシロキシ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、及びアシロキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。アシロキシ基としてはアセトキシ基、ピバロキシ基が好ましい。ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、及びアシロキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基において、炭素原子数1〜30の炭化水素基としては、炭素原子数1〜6のアルキル基が好ましい。ハロゲン原子は塩素、臭素が好ましい。アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基が好ましい。アリールオキシ基としてはフェノキシ基が好ましい。アシロキシ基としてはアセトキシ基、ピバロキシ基が好ましい。R3の特に好ましい例として、水素原子、アセトキシ基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、メトキシメチル基、フェノキシメチル基、1−アセトキシフェニル基、1−ピバロキシプロピル基 などが挙げられる。
【0035】
一般式(C1)で示される金属錯体としては、一般式(C2)で示される金属錯体がより好ましい。
【化15】
(式中、Mは周期律表第10族の金属原子を表し、Xはリン原子(P)または砒素原子(As)を表し、R3は、水素原子、アシロキシ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、及びアシロキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、Y、R4、及びR5はそれぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、R4とR5は結合して環構造を形成してもよく、Qは、Z[−S(=O)2−O−]M、Z[−C(=O)−O−]M、Z[−P(=O)(−OH)−O−]M、またはZ[−S−]Mの「[ ]」の中に示される2価の基を表し(ただし、両側のZ、Mは基の結合方向を示すために記載している。)、Zは水素原子、またはハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜40の炭化水素基を表し、YとZは結合して環構造を形成してもよく、R4及び/またはR5はYと結合して環構造を形成してもよく、L3は電子供与性配位子を表す。)
【0036】
以下、一般式(C2)の構造について説明する。
M、L3、R3は一般式(C1)と同じ意味を表す。
Xはリン原子(P)または砒素原子(As)であり、Mに2電子配位している。Xとしては入手が容易であることと触媒コストの面からリン原子(P)が好ましい。
【0037】
Y、R4、及びR5は、それぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。アルコキシ基としては炭素原子数1〜20のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などが挙げられる。アリールオキシ基としては炭素原子数6〜24のものが好ましく、フェノキシ基などが挙げられる。シリル基としてはトリメチルシリル基、アミノ基としてはアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基などが挙げられる。また、R4とR5は同じでも、異なっていてもよい。また、R4とR5は結合して環構造を形成してもよい。R4及び/またはR5はYと結合して環構造を形成してもよい。
【0038】
Y、R4、及びR5が表すハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基おける、炭素原子数1〜30の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、フリル基などが挙げられる。ハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基における、アルコキシ基、アリールオキシ基の具体例としては前記R3と同様のものが挙げられる。ハロゲン原子はフッ素が好ましい。特に触媒活性の観点から、アルキル基及びアリール基が好ましい。
【0039】
以下、XがP(リン原子)の場合の、Y−X−R4、R5部位、すなわち
【化16】
の具体例を挙げる。なお、下記の構造式ではPとMとの結合を省略し、「Me」はメチル基を表す。
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【0040】
XがAs(砒素原子)の場合の、Y−X−R4、R5部位、すなわち
【化21】
の具体例としては、
【化22】
が挙げられる。
【0041】
Qは−S(=O)2−O−、−C(=O)−O−、−P(=O)(−OH)−O−、または−S−で示される2価の基を表し、Mに1電子配位する部位である。前記各式の左側がZに結合し、右側がMに結合している。これらの中でも触媒活性の面から−S(=O)2−O−が特に好ましい。
【0042】
Zは水素原子、またはハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜40の炭化水素基を表す。YとZは結合して環構造を形成してもよい。「ハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜40の炭化水素基」におけるハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基の具体例としては、Y、R4、及びR5について述べたものが挙げられる。炭素原子数1〜40の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、フェニル基、2−i−プロピルフェニル基、2,6−ジ−i−プロピルフェニル基などが挙げられる。
【0043】
Z−Q部位は電気陰性度の大きい酸素原子または硫黄原子で金属原子Mに1電子配位している。Z−Q−M間の結合電子は、MからZ−Qに移動しているため、形式上、Z−Qをアニオン状態、Mをカチオン状態で表記することも可能である。
【0044】
一般式(C2)において、Y部位とZ部位は結合することができる。この場合、一般式(C2)は一般式(C3)で示される。一般式(C3)では、Y−Z部位を一体としてY1で示している。ここで、Y1はQとXとの間の架橋構造を表す。
【化23】
(式中、Y1は、ハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜70の2価の炭化水素基を表し、Q、M、X、R3、R4、R5、及びL3は一般式(C2)と同じ意味を表す。)
【0045】
1におけるハロゲン原子、アルコキシ基、及びアリールオキシ基の具体例はYで説明したものと同様である。炭素原子数1〜70の炭化水素基としてはアルキレン基、アリーレン基等が挙げられる。特にアリーレン基が好ましい。
【0046】
XがP(リン原子)の場合、[(R4)(R5)P]部位としては、具体的に以下の構造が挙げられる。なお、下記の構造式ではPとM及びY1との結合を省略し、「iPr」はイソプロピル基を表し、「tBu」はtert−ブチル基を表す。
【化24】
【化25】
【化26】
【0047】
架橋構造Y1はXとQ部位を結合する架橋部位である。XをP原子で示した架橋構造Y1の具体例を以下に示す。ここで、複数のR7は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子1〜20の炭化水素基、またはハロゲン原子で置換された炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。
【化27】
【0048】
置換基R4及びR5は、Y1部位と結合して環構造を形成してもよい。具体的には以下の構造が挙げられる。
【化28】
【0049】
一般式(C3)で示される触媒の中でも、特に以下の一般式(C4)で示されるものが好ましい。
【化29】
(式中、4個のR6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜18のアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表し、M、R3、R4、R5、及びL3は一般式(C2)と同じ意味を表す。)
【0050】
式(C4)においては、R3は炭素原子数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。R4及びR5は、ともにシクロヘキシル基、シクロペンチル基、またはイソプロピル基であることが好ましい。MはPdが好ましい。
【0051】
一般式(C2)及び(C3)で示される触媒の金属錯体は、公知の文献(例えば、J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 8948)に従って合成することができる。すなわち、0価あるいは2価のMソースと一般式(C2)または(C3)中の配位子とを反応させて合成することができる。
一般式(C4)で示される化合物は、一般式(C3)中のY1及びQを、一般式(C4)に対応する特定の基にすることにより合成することができる。
【0052】
0価のMソースは、パラジウムソースとして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムが挙げられ、ニッケルソースとして、テトラカルボニルニッケル(0):Ni(CO)4、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルが挙げられる。
【0053】
2価のMソースは、パラジウムソースとして、(1,5−シクロオクタジエン)(メチル)塩化パラジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム:PdCl2(CH3CN)2、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム:PdCl2(PhCN)2、(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)ジクロロパラジウム(II):PdCl2(TMEDA)、(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)ジメチルパラジウム(II):PdMe2(TMEDA)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II):Pd(acac)2、トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム(II):Pd(OCOCF32が、ニッケルソースとして、(アリル)塩化ニッケル、(アリル)臭化ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II):Ni(acac)2、(1,2−ジメトキシエタン)ジクロロニッケル(II):NiCl2(DME)、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II):Ni(OSO2CF32が挙げられる。
【0054】
一般式(C2)、一般式(C3)または一般式(C4)で示される金属錯体は、単離して使用することができるが、錯体を単離することなくMを含む金属ソースと配位子前駆体及び電子供与性配位子(L3)を反応系中で接触させて、これをそのまま(in situ)重合に供することもできる。
この場合の配位子前駆体とは、一般式(C2)の場合、
【化30】
(式中の記号は前記と同じ意味を表す。)、及び
【化31】
(式中の記号は前記と同じ意味を表す。)
で示される。
【0055】
一般式(C3)の場合、次式(C3−1)
【化32】
(式中の記号は前記と同じ意味を表す。)
で示される。
【0056】
一般式(C2)におけるMソース(M)と配位子前駆体(C2−1)(X)あるいは配位子前駆体(C2−2)(Z)との比率(X/MあるいはZ/M)またはMソース(M)と配位子前駆体(C3−1)(C3配位子)との比率((C3配位子)/M)は、0.5〜2.0の範囲で、さらには1.0〜1.5の範囲で選択することが好ましい。
【0057】
一般式(C2)、一般式(C3)あるいは一般式(C4)の金属錯体を単離する場合、予め電子供与性配位子(L3)を配位させて安定化させたものを用いることもできる。
【0058】
4.重合体の製造方法
本発明の重合体の製造方法は、金属錯体触媒を用いて重合反応を行なう工程(I)、重合反応液から重合体を分離し、金属錯体触媒を含む回収液を後処理することなく重合反応器に戻して、触媒溶液を循環再使用する工程(II)からなる。本製造方法は、重合反応停止後に触媒溶液の回収を行い、得られた回収液を次回以降の重合反応で再使用するバッチ式(回分式)、重合反応中に重合反応液の一部を抜き出しつつ、触媒と重合体を分離して得られた回収液を再び重合反応器に戻す連続式のいずれでも実施できる。
【0059】
4−1.重合反応工程(I)
重合様式は、特に制限されるものではなく、一般に行われる方法で重合可能である。すなわち、溶液重合、懸濁重合、気相重合、バルク重合のいずれでもよい。重合様式には依存しないが、重合の効率性の観点から、溶液重合法、懸濁重合法、バルク重合法が好ましい。触媒溶液と重合体の分離の観点から、生成したポリマーが、少なくとも重合時の温度から冷却した時に重合溶媒やモノマーに溶解せず、析出することが望ましい。この場合にはろ過などの簡単な操作でポリマーと触媒が溶解している液(回収液)を分離することができる。生成したポリマーが溶液に溶解したままの場合は、再沈殿や溶媒や未反応モノマーの蒸発などの方法によって、重合体を分離することができる。
また、重合反応は一段重合でも、多段重合でも行なうことができる。
【0060】
使用するモノマーは、一般式(1)で示されるモノマーを少なくとも1つ含むことが必要で、これらを単独で、あるいは複数種組み合わせて用いることができる。また、バッチ式(回分式)の場合、一般式(1)以外のオレフィンを重合させた上で、反応の最後に一般式(1)で示されるモノマーを重合反応器内に加えることで、触媒溶液と重合体を分離することも可能である。
【0061】
一般式(C1)、(C2)、(C3)、または(C4)で示される金属錯体触媒とモノマーの総量のモル比は、モノマー/金属錯体の比で、1〜10,000,000の範囲、好ましくは100〜1,000,000の範囲が用いられる。
【0062】
重合温度は、特に限定されない。通常−30〜300℃の範囲で行われ、好ましくは−30〜200℃、より好ましくは0〜180℃、最も好ましくは20〜150℃の範囲で行われる。
重合圧力については、特に限定されない。原料モノマーの性状によるが、常圧から300MPa以上の超高圧まで可能である。好ましくは常圧から20MPaの範囲内、より好ましくは常圧から10MPaの範囲内で行われる。
【0063】
重合時間は、バッチ式の場合触媒の重合活性などにより適宜調整することができ、数分の短い時間も数百時間の長い反応時間も可能である。連続式の場合、滞留時間は数分の短い時間から数十時間の長い時間まで可能であり、触媒の循環再使用を繰り返すことにより数千時間まで連続して運転できる。
【0064】
重合は、触媒の活性低下を防ぐために不活性ガス雰囲気で行なうことが好ましい。また、溶液重合の場合、モノマー以外に不活性溶媒を使用することが可能である。不活性溶媒は、特に限定されないが、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカンなどの脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチルなどの脂肪族エステル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどの芳香族エステルなどが挙げられる。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
4−2.循環再使用工程(II)
金属錯体触媒を含有した重合反応液から重合体を分離する方法は、特に限定されず、一般的な分離方法が適用可能である。例えば、遠心分離、ろ過分離、沈降分離などがあり、分離効率及び所要時間から、遠心分離、ろ過分離が好ましい。
【0066】
触媒と重合体を分離して得られた回収液には、溶媒、金属錯体触媒(C1−1)、未反応のモノマー等が含まれる。なお、金属錯体触媒(C1−1)とは、前記「1.重合メカニズム」の項で説明したように、もとの金属錯体触媒C1等のR3が式(1)のモノマーのR2と置換されたものを意味する。この回収液は全量または一部を重合反応器に戻して重合反応に用いることができる。この際、必要に応じて、重合反応での消費分の重合モノマー、不活性溶媒、金属錯体触媒を追加することも可能である。また、回収液中の金属錯体触媒(C1−1)は、熱などの外的刺激や不純物に対して安定であることから、回収液を不活性雰囲気下の触媒貯槽に一旦貯えておき、必要に応じて重合反応器に戻して使用する方法も採用することができる。
【0067】
図1に、触媒の循環再使用工程を備えた連続反応装置の一例を示す。原料モノマー、金属錯体触媒(必要に応じて不活性溶媒)は、原料供給口5より重合反応器1に供給する。重合反応中、重合反応液は、連続的あるいは断続的に重合体スラリー3として抜き出され、固液分離器2に送られて触媒回収液4と重合体に分離される。得られた回収液4は、再び重合反応器に戻され重合に供する。反応中に消費したモノマーは、原料供給口より適宜供給することができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0069】
[重合体の構造の解析方法]
実施例で得た共重合体の構造は、日本電子(株)製JNM−EX400を用いた各種NMR解析により決定した。一般式(1)で示されるモノマーに由来するモノマーユニットの含有率は、溶媒として重ベンゼンを用い、80℃において1H−NMRにより決定した。
平均分子量及び重量平均分子量は、昭和電工(株)製,AT−806MSカラム(2本直列)を備えた東ソー(株)製高温GPC装置、HLC−8121GPC/HTを用い、ポリスチレンを分子量の標準物質とするサイズ排除クロマトグラフィー(溶離液:1,2−ジクロロベンゼン、温度:145℃)により算出した。
【0070】
[重合体及びろ液中の残存触媒の定量方法]
共重合体については、0.1gを秤量し硫酸2ml中で加熱し炭化させ、さらに透明な溶液が得られるまで硝酸を加えて炭化物を分解した。この溶液を冷却後、硝酸1mlおよび塩酸3mlを加え、溶液が無色ないしは淡黄色になるまで加熱した。得られた溶液を50mlに定容した後、ICP質量分析装置(セイコーインスツルメンツ(株)製,SPQ9000)により触媒構成成分であるPdを定量し、残存触媒量を求めた。ろ液については1mlを量り取り、揮発分を蒸発させた後に、共重合体と同様にして求めた。
【0071】
合成例1:
下記の反応スキームに従って金属錯体触媒1を合成した。
【化33】
【0072】
[化合物1aの合成]
窒素雰囲気下、ベンゼンスルホン酸(Sigma−Aldrich社製、21.7g,137mmol)のテトラヒドロフラン(THF)溶液(400mL)に、n−ブチルリチウム(関東化学(株)製、1.57Mヘキサン溶液,174mL,274mmol)を0℃で加え、室温で3時間撹拌した。反応容器を−78℃に冷却した後にクロロジイソプロピルホスフィン(Sigma-Aldrich社製,19.0g,125mmol)を−78℃で加え、室温で2.5時間撹拌した。反応をトリフルオロ酢酸(東京化成工業(株)製、15.6g,137mmol)で停止した後に、生じた沈殿をろ過によって回収し減圧下乾燥すると、ホスホニウムスルホナート1aが得られた。収量は26.8g(78%)であった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ 1.25 (d, J = 18.0 Hz, 6H), 1.53 (dd, J = 21.0, 6.6 Hz, 6H), 3.45 (br, 2H), 5.72 (br d, 1JPH = 380 Hz, 1H), 7.62-7.65 (m, 2H), 7.85 (br s, 1H), 8.29 (br s, 1H)。
【0073】
[化合物1bの合成]
アルゴン雰囲気下、2−(ジイソプロピルホスフィノ)ベンゼンスルホン酸(2-(diisopropylphosphino)benzenesulfonic acid)1a(16.3g,59.3mmol)とジイソプロピルエチルアミン(和光純薬工業(株)製、38.3g,296mmol)の塩化メチレン溶液(200mL)に、(cod)PdMeCl(文献:Inor. Chem., 1993, 32, 5769-5778に従って合成。cod=1,5−シクロオクタジエン、16.3g,61.5mmol)の塩化メチレン溶液(75mL)を加え、室温で2.5時間撹拌した。その後、溶液を濃縮した。1H−NMRスペクトルによりその残渣が化合物1bであると決定し、その質量は33.7g(>99%)であった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ 0.69 (s, 3H, PdCH3), 1.19-1.45 (m, 27H), 2.53(sept, J = 7.1 Hz, 2H), 3.18 (br., 2H, HNCH2CH3), 3.82 (br., 2H, HNCH(CH3)2), 7.42-7.59 (m, 3H), 8.22 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 9.37 (br s, 1H, NH)。
【0074】
[金属錯体触媒1の合成]
窒素雰囲気下、炭酸カリウム(80.8g,585mmol)と2,6−ルチジン(東京化成工業(株)製、62.7g,585mmol)の塩化メチレン懸濁液(500mL)に、化合物1b(33.7g,58.5mmol)の塩化メチレン溶液(200mL)を加え、室温で2.5時間撹拌した。溶媒を減圧下留去して残った固体を塩化メチレンで抽出した。抽出液をセライト(乾燥珪藻土)でろ過し、ゆっくりとヘキサン(200mL)中に加えた。生じた金属錯体触媒1をろ過によって回収し、ヘキサンで洗浄した後に減圧下乾燥した。収量は27.6g(94%)であった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ 0.35 (s, 3H, PdCH3), 1.28 (dd, J = 14.8, 6.8 Hz, 6H), 1.36 (dd, J = 17.4, 6.6 Hz, 6H), 2.54-2.63 (m, 2H), 3.18 (s, 6H, CH3 of lutidine), 7.13 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 7.45-7.61 (m, 4H), 8.31 (m, 1H)。
【0075】
実施例1:酢酸アリル/エチレン共重合反応における金属錯体触媒の循環再使用
窒素雰囲気下、金属錯体触媒1(0.050mmol)を酢酸アリル(75.0mL,69.8g,696mmol)に溶かし、120mLオートクレーブに加えた。エチレンをその圧力が4.0MPaとなるように充填した後、オートクレーブを80℃で、2時間撹拌して共重合反応を行った(重合反応1−1)。エチレンを脱圧後、重合反応液を室温まで冷却すると、重合体が重合反応液から析出した。重合体のスラリー溶液である重合反応液を、窒素雰囲気下、吸引ろ過し、金属錯体触媒を含有したろ液と重合体に分離し、重合体を減圧下乾燥した。分離された重合体(重合体1−1)の収量は1.94g、触媒当たりのポリマー生産性は、38.9g/mmol−catであった。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量10,000、重量平均分子量21,000と算出した。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H−NMRにより、4.4mol%と決定した。ろ液の1H−NMR分析により、ろ液中の触媒は、金属錯体触媒1のPd−Me結合部分がPd−OAc結合に置き換わった構造である金属錯体(C1−1)であることを確認した。ICP質量分析法によりろ液及び重合体に含まれる触媒構成元素であるPdを定量したところ、仕込み触媒量の99%がろ液に含まれていた。
ろ過により得られた回収液を、再び、120mLオートクレーブに供し、全液量が75.0mLとなるよう酢酸アリルを補充し、エチレンをその圧力が4.0MPaとなるように充填した後、オートクレーブを80℃で、2時間撹拌して共重合反応を行った(重合反応1−2)。エチレンを脱圧後、重合反応液を室温まで冷却すると、重合体が重合反応液から析出した。重合体のスラリー溶液である重合反応液を、窒素雰囲気下、吸引ろ過し、錯体触媒を含有したろ液と重合体に分離し、重合体を減圧下乾燥した。分離された重合体(重合体1−2)の収量は0.99g、触媒当たりのポリマー生産性は、19.7g/mmol−catであった。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量10,000、重量平均分子量22,000と算出した。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H−NMRにより、4.4mol%であり、重合体1−1と重合体1−2は実験誤差範囲内で、同じ重合体であるといえる。
重合反応1−2の結果と同反応条件で触媒の循環再使用をせずに連続で4時間の重合したときの当該時間内(2〜4時間)の生産性21.0g/mmol−catを比較すると、循環再使用後の触媒の活性再現率は93%であった。
【0076】
実施例2:酢酸アリル/エチレン共重合反応における金属錯体触媒の循環再使用
窒素雰囲気下、酢酸アリル(37.5mL,34.9g,348mmol)を含む120mLオートクレーブ中に、金属錯体触媒1(0.10mmol)のトルエン溶液(37.5mL)を加えた。エチレンをその圧力が3.0MPaとなるように充填した後、オートクレーブを80℃で、24時間撹拌して共重合反応を行った(重合反応2−1)。エチレンを脱圧後、重合反応液を室温まで冷却すると、重合体が重合反応液から析出した。重合体のスラリー溶液である重合反応液を、窒素雰囲気下、吸引ろ過し、金属錯体触媒を含有したろ液と重合体に分離し、重合体を減圧下乾燥した。分離された重合体(重合体2−1)の収量は8.19g、触媒当たりのポリマー生産性は、81.9g/mmol−catであった。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量13,000、重量平均分子量28,000と算出した。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H−NMRにより、4.0mol%と決定した。ろ液の1H−NMR分析により、ろ液中の触媒は、金属錯体触媒1のPd−Me結合部分がPd−OAc結合に置き換わった構造である金属錯体(C1−1)であることを確認した。ICP質量分析法によりろ液及び重合体に含まれる触媒構成元素であるPdを定量したところ、仕込み触媒量の96%がろ液に含まれていた。
ろ過により得られた回収液を、再び、120mLオートクレーブに供し、反応消費分の酢酸アリルを追加した後、全液量が75.0mLとなるよう酢酸アリル/トルエン混合液(体積比1:1)を補充し、エチレンをその圧力が3.0MPaとなるように充填した後、オートクレーブを80℃で、24時間撹拌して共重合反応を行った(重合反応2−2)。エチレンを脱圧後、重合反応液を室温まで冷却すると、重合体が重合反応液から析出した。重合体のスラリー溶液である重合反応液を、窒素雰囲気下、吸引ろ過し、錯体触媒を含有したろ液と重合体に分離し、重合体を減圧下乾燥した。分離された重合体(重合体2−2)の収量は5.24g、触媒当たりのポリマー生産性は、52.4g/mmol−catであった。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量13,000、重量平均分子量29,000と算出した。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H−NMRにより、4.0mol%であり、重合体2−1と重合体2−2は実験誤差範囲内で、同じ重合体であるといえる。
重合反応2−2の結果と同反応条件で触媒の循環再使用をせずに連続で48時間の重合したときの当該時間内(24〜48時間)の生産性58.3g/mmol−catを比較すると、循環再使用後の触媒の活性再現率は90%であった。
【0077】
実施例3:酢酸アリル/エチレン共重合反応における金属錯体触媒の循環再使用
窒素雰囲気下、金属錯体触媒1(0.010mmol)を酢酸アリル(75.0mL,69.8g,696mmol)に溶かし、120mLオートクレーブに加えた。エチレンをその圧力が4.0MPaとなるように充填した後、オートクレーブを80℃で、95時間撹拌して共重合反応を行った(重合反応3−1)。その後、実施例1に記載した方法と同様の方法で触媒の循環再使用(吸引ろ過による重合体とろ液の分離および回収したろ液を用いた再重合反応)を3回繰り返した(重合反応3−2〜3−4)。
表1に反応結果を、図2に反応時間に対して累計ポリマー生産性をプロットしたグラフを示す。図2に示すように、反応時間に対してポリマー生産性は、ほぼ直線的に増加した。表1のポリマー中触媒残存率とは、ICP質量分析法により重合体中に残存し、回収できなかった触媒構成元素であるPdを定量し、仕込み触媒量に対するその割合を百分率で表したものである。すなわち、重合反応液の循環再使用を3回繰り返しても、分離できずにポリマーに残存する触媒量は高々5%であり、触媒をろ液中に回収できた。また、重合体中の残存Pd量は、数μg/gであった。このように、長時間反応した場合でも触媒を失活させることなく、重合体分離後のろ液再使用を繰り返しても触媒のロスはほとんど無く、活性を維持できた。
【表1】
【0078】
比較例1:アクリル酸メチル/エチレン共重合反応
窒素雰囲気下、アクリル酸メチル(37.5mL,35.9g,417mmol)を含む120mLオートクレーブ中に、金属錯体触媒1(0.10mmol)のトルエン溶液(37.5mL)を加えた。エチレンをその圧力が3.0MPaとなるように充填した後、オートクレーブを80℃で、3時間撹拌して共重合反応を行った。
エチレンを脱圧後、重合反応液を室温まで冷却した。白色のスラリー溶液である重合反応液を窒素雰囲気下、吸引ろ過し、半透明状のろ液と重合体Aに分離し、重合体Aを減圧下乾燥した。重合体Aの収量は3.14gであった。ろ液中に重合体が溶解したままであったことから、ろ液にメタノール(400mL)を注いで残りの重合体を析出させ、吸引ろ過で重合体Bを回収し、減圧下乾燥した。重合体Bの収量は3.55gであった。
分離された重合体(重合体A、Bの合計)の収量は6.69g、触媒当たりのポリマー生産性は、66.9g/mmol−catであった。サイズ排除クロマトグラフィーにより、重合体Aの数平均分子量9,000、重量平均分子量18,000、重合体Bの数平均分子量7,000、重量平均分子量13,000と算出した。重合体Aおよび重合体Bのアクリル酸メチル含有率は、1H−NMRにより、それぞれ9.2mol%および12.4mol%と決定した。ICP質量分析法により重合体Aおよび重合体B中のPd触媒残存率を定量したところ、それぞれ9%(300μg/g)および22%(672μg/g)であった。
したがって、一度の重合反応で仕込み触媒量の31%が重合体(重合体A、Bの合計)中に残存することから、極性基含有モノマーとして、一般式(1)に含まれないアクリル酸メチルを用いて、触媒の循環再使用を行なうことは困難である。また、重合体中に残る触媒残も多かった。
【0079】
比較例2:エチレンの単独重合反応
窒素雰囲気下、120mLオートクレーブ中に、トルエン75mLに溶解した金属錯体触媒1(0.05mL)溶液を加えた。エチレンをその圧力が3.0MPaとなるように充填した後、オートクレーブを80℃で、1時間撹拌して重合反応を行った。
エチレンを脱圧後、重合反応液を室温まで冷却し、メタノールに反応溶液を注いで得られたスラリー溶液をろ別して、白色固体粉末のポリエチレンを得た。
分離された重合体の収量は、8.3gであり、サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量30,000、Mw/Mn2.3であった。ICP質量分析により、重合体中のPd触媒残を調べたところ、214μg/g(仕込みに対する残存率は33%)であった。
【符号の説明】
【0080】
1 重合反応器
2 固液分離器
3 重合体スラリー
4 触媒回収液
5 原料供給口
6 重合体抜き出しライン
図1
図2