特許第5799033号(P5799033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799033
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】インクジェット用インクおよび印刷方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/36 20140101AFI20151001BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20151001BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20151001BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20151001BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20151001BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20151001BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20151001BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   C09D11/36
   C09D11/38
   B41M5/00 E
   B41M5/00 A
   B41M5/00 B
   B41J2/01 501
   H01L21/02 A
   H01L21/66 A
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-8491(P2013-8491)
(22)【出願日】2013年1月21日
(65)【公開番号】特開2014-139277(P2014-139277A)
(43)【公開日】2014年7月31日
【審査請求日】2013年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】391040870
【氏名又は名称】紀州技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100117097
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 充浩
(72)【発明者】
【氏名】堀口 竜助
(72)【発明者】
【氏名】栗田 雅章
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 智章
(72)【発明者】
【氏名】飯田 保春
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−086206(JP,A)
【文献】 特開2005−225907(JP,A)
【文献】 特開2008−248237(JP,A)
【文献】 特開2004−262986(JP,A)
【文献】 特開2005−200599(JP,A)
【文献】 特開平02−276871(JP,A)
【文献】 特開2012−040742(JP,A)
【文献】 特開2011−174075(JP,A)
【文献】 特開平02−043275(JP,A)
【文献】 特開2008−239937(JP,A)
【文献】 特開2011−148910(JP,A)
【文献】 特開昭63−152680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/36
B41J 2/01
B41M 5/00
B41M 5/50
B41M 5/52
C09D 11/38
H01L 21/02
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、沸点が120℃以上である溶剤、樹脂、およびブロックイソシアネートを含んで成り、60℃のインク粘度が8mPa・s以上15mPa・s以下であるインクジェット用インクであって、
前記ブロックイソシアネートに組み込まれているブロック剤がジメチルピラゾールであり、且つ、前記樹脂が、ブチラール樹脂、または、ブチラール樹脂およびロジン変性マレイン酸樹脂であり、且つ、前記溶剤が、2−フェノキシエタノールを主成分として含んでいることを特徴とするインクジェット用インク
【請求項2】
インク総重量に対して、着色剤を1〜10重量%、樹脂を0.3〜20重量%、ブロックイソシアネートを0.1〜7重量%、それぞれ含有し、残部が溶剤である請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
ドロップ・オン・ディマンド式インクジェットプリンタを用いて、請求項1または請求項2に記載のインクジェット用インクのインク滴を半導体ウエハーの表面に噴きつけて印刷体を形成する印刷工程と、前記半導体ウエハー表面の印刷体を180℃以上250℃以下の温度雰囲気下で10分間を超え60分間以下に加熱する加熱工程と、を備えている印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷に必要なインク滴だけをその都度ノズルから噴きつける、いわゆるドロップ・オン・ディマンド(以下、多くの場合に「DOD」と略称される)式のインクジェットプリンタに使用されるインクに係り、詳しくは、被印刷物の表面に、耐溶剤性を有する印刷体を形成することができ、更に詳しくは、半導体ウエハー等への製造プロセスで生じた欠格品へのマーキングを行なうことができるインクジェット用インク、およびこれを用いた印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラスチックス、ガラス、金属等への記録方式として、可変情報を非接触で容易に印字できるインクジェットプリンタが汎用されている。このようなインクジェットプリンタに用いられるインクとしては、油性の染料、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂等が、メチルエチルケトン、アルコール等の溶剤に溶解されたものが知られている。因みに、特許文献1には、フェノールアルデヒド樹脂が使用されたインクジェット用インクが示されている。特許文献2には、ガラスおよびガラス被覆のセラミックへ印字するためのインクが示されている。特許文献3には、ポリアミド樹脂が溶剤で溶解されたインクが示されている。ところで、これらの樹脂が用いられるインクは、インクジェットプリンタ内での安定性や再溶解性を充分付与するような設計がなされているため、プリンタ内での安定性が非常に良くなる反面、被印刷物の表面に形成された印刷体の耐溶剤性については、インクの充分な乾燥が実施されたとしても、容易に溶け出すインクとなってしまう。
【0003】
このような耐溶剤性を得るために、インクの成分として、乾燥後に不溶解となるような成分が使用されたインクの技術がある。この技術を用いたインクとしては、紫外線や電子線が照射されることによりモノマーが架橋する、いわゆるUV(紫外線)硬化型のインクやEB(電子線照射)硬化型のインクが知られている。例えば、特許文献4には、低分子量多官能のモノマーや単官能のモノマーが用いられるUV硬化型ないしEB硬化型のインクが示されている。特許文献5には、プリントサーキットボードや耐エッチング性への対応ができるUV硬化型インクが示されている。しかしながら、UV硬化型インクについては、UV照射装置が比較的高価であり、またUV照射時にオゾンの発生等を伴うため、印字環境としては複雑で高価な構成を必要とする。一方、EB硬化型のインクについては、EB装置が更に高価であるうえ、真空系ないし窒素雰囲気下での調整が必要になるため、装置の採用が容易でないという不具合がある。また、紫外線や電子線を用いる方法において、半導体関連への特定の用途に関しては、部品の損傷を招くことも疑われている。
【0004】
また、耐溶剤性を付与するような方法として、硬化剤が用いられ、触媒や熱の作用で樹脂が反応して耐溶剤性等が付与されることも行われている。例えば、特許文献6には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂が記載されており、エポキシ樹脂用の硬化剤を併用する方法が示されている。また、特許文献7には、チタントリブチルフォスフェートのような反応促進助剤を用いる方法が示されている。しかしながら、エポキシ樹脂と硬化剤は、印字後の硬化性は良好であるが、インクジェットプリンタ内での温度変化等によりインクのゲル化を引き起こしやすく、安定なインクは容易に得られない。
【0005】
このような観点からの対応として、特許文献8には、低温加熱による硬化性を持たせるための表面処理剤として、ブロックイソシアネートと触媒を使用する方法が示されている。この表面処理剤は、インクジェットプリンタの構成の一部に表面処理として使用されるもので、インクジェット用インク自体に応用したという記載はない。一方で、インクジェット用インクについては、特許文献9に、活性水素基透明樹脂とブロックイソシアネートを用いるカラーフィルタ用のインクが示されている。しかしながら、水性タイプのウレタン樹脂を用いたものであり、触媒の併用が必須であるカラーフィルタに特化した方法であった。すなわち、触媒等をあえて用いずに行う、半導体ウエハー等へのマーキングに用いられるインクとは、技術分野が異なる。また、特許文献10には、捺染用のインクとしてDOD式インクジェットプリンタ用の水系のインクが示されている。特許文献11には、100℃以下で開裂するブロックイソシアネートが使用された水性のインクが示されている。これら特許文献10,11に記載された技術はいずれも、DOD用の水系のインクに関するものであり、沸点120℃以上の溶剤を用いるインクへの応用はできない。また、半導体ウエハー等へのマーキング用のインクとは、技術分野が異なる。
【0006】
一方、半導体ウエハー等の微小チップの欠格部へのマーキングは、従来、キャピラリー方式による打点方式が一般的に用いられていた。しかしながら、この方式は、処理速度が非常に遅いため、インクジェットによる方式の検討が進められてきた。そして、このような技術は、特許文献12,13,14,15,16、17,18.19等に開示されている。しかしながら、これら特許文献記載の技術においても、半導体ウエハー等の微小チップの欠格部への対応ができるインクジェット用のインクについては、具体的に記載されていない。また、示唆させるような一部の記載があったとしても、半導体検査装置内での環境変化に対応できるものでなく、印字後の耐溶剤性を持たないものであり、印字後の工程への適性が示されていない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】英国特許第1524881(A)号公報
【特許文献2】英国特許第1541937(A)号公報
【特許文献3】特表平09−507521号公報
【特許文献4】米国特許第4303924(A)号公報
【特許文献5】米国特許第5270368(A)号公報
【特許文献6】英国特許第1595453(A)号公報
【特許文献7】英国特許第2161817(A),(B)号公報
【特許文献8】特開平09−011465号公報
【特許文献9】特開2009−086206号公報
【特許文献10】特開2003−268271号公報
【特許文献11】特開2004−269823号公報
【特許文献12】特開平11−163061号公報
【特許文献13】特開2000−293809号公報
【特許文献14】特開2001−267380号公報
【特許文献15】特開2002−280276号公報
【特許文献16】特開2006−351772号公報
【特許文献17】特開2009−105210号公報
【特許文献18】特開2009−170712号公報
【特許文献19】特開2010−219133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来、溶解性の優れた樹脂を充分に含有しインクジェットプリンタでの安定性を備えているインクでありながら、密着性の向上と印刷後の耐溶剤性を充分に有するインクを得ることを目的とする。また、前記のようなインクにおいて、経時による反応の進行を充分制御し、プリンタ内部でのインクの増粘やゲル化を防止するとともに、DOD式インクジェットプリンタにおいても安定した印字ができるインクを得ることを目的とする。また、半導体検査装置内での温度変化に適応可能な対応性のあるインクジェット用インクを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、インクジェット用インクに好ましく配合される溶解性の高い高沸点溶剤と、ブロックイソシアネートとをうまく適合させることに成功し、これによって、被印刷物表面への高い密着性と、印刷後の耐溶剤性を充分に有するインクジェット用インクを実現できたものである。
【0010】
すなわち、本発明に係るインクジェット用インクは、着色剤、沸点が120℃以上である溶剤、樹脂、およびブロックイソシアネートを含んで成り、60℃のインク粘度が8mPa・s以上15mPa・s以下であるインクであって、前記ブロックイソシアネートに組み込まれているブロック剤がジメチルピラゾールであり、且つ、前記樹脂が、ブチラール樹脂、または、ブチラール樹脂およびロジン変性マレイン酸樹脂であり、且つ、前記溶剤が、2−フェノキシエタノールを主成分として含んでいることを特徴とするものである。
【0011】
そして、前記構成において、インク総重量に対して、着色剤を1〜10重量%、樹脂を0.3〜20重量%、ブロックイソシアネートを0.1〜7重量%、それぞれ含有し、残部が溶剤であるものである。
【0012】
また、本発明に係る印刷方法は、ドロップ・オン・ディマンド式インクジェットプリンタを用いて、請求項1または請求項2に記載のインクジェット用インクのインク滴を半導体ウエハーの表面に噴きつけて印刷体を形成する印刷工程と、前記半導体ウエハー表面の印刷体を180℃以上250℃以下の温度雰囲気下で10分間を超え60分間以下に加熱する加熱工程と、を備えているものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るインクジェット用インクは、樹脂とブロックイソシアネートを含んで成るので、ガラス、金属、またはそれらの表面に施された塗装面であっても、インクジェットプリンタによる印刷、および所定の加熱処理を施すことにより、密着性の高い印刷体を得ることができる。また、本発明のインクジェット用インクはヘッドでのインクの吐出安定性および再溶解性にも優れるものであり、従来汎用されている溶剤を含有したインクジェット用インクと同様に用いることができる。しかも、加熱によりインクの熱硬化が生じ、耐溶剤性、界面活性剤による洗浄耐性等を発揮させることができる。さらに、耐熱特性も良好となる。
【0014】
また、本発明に係る印刷方法は、本発明のインクジェット用インクを用いる印刷工程と、この印刷工程で形成された半導体ウエハー表面の印刷体を加熱する加熱工程とを備えているので、簡素な構成で実現することができる。このように簡素な構成でありながら、半導体ウエハー表面に対する印刷体の良好な密着性等の印刷特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1に係るインクをDOD式インクジェットプリンタによりシリコンウエハーの表面に噴きつけて円形状の黒点を印刷し、印刷した黒点を加熱処理により硬化させた状態を示す写真の図である。
図2】DOD式インクジェットプリンタに一般に汎用される低粘度のインクを、実施例1と同じDOD式インクジェットプリンタによりシリコンウエハーの表面に円形状の黒点の印刷を目差した場合の状態を示す写真の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一形態に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
本発明に用いられる着色剤としては、顔料または染料が挙げられる。これら両者は単類で、または二つの類を混合して用い得る。そのうちの顔料は、無機顔料と有機顔料を使用することができる。用いられる無機顔料の具体例としては、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化鉄、コバルトブルー等が挙げられる。有機顔料としては、例えばキナクリドン系、フタロシアニン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、縮合アゾ系、イソインドリン系、ジケトピロロピロール系等の顔料が挙げられる。上記に示された各顔料は耐光性が良好なものであり好ましいが、耐光性を特に必要としない用途においては上記の顔料の使用に限られない。尚、酸化チタンについては、顔料の表面がアルミ系、亜鉛系、またはシリカ系の表面処理剤で処理されたものが、分散性、沈降性防止、経時での増粘、凝集防止などに関して、後記される樹脂およびブロックイソシアネートとの安定性において好ましい。
【0017】
上記された有機顔料の具体例としては、トルイジンレッド,トルイジンマルーン,ハンザエロー,ベンジジンエロー,ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド,ヘリオボルドー,ピグメントスカーレット,パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン,インダントロン,チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体,フタロシアニンブルー,フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系、キナクリドンレッド,キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系、ペリレンレッド,ペリレンスカーレット等のペリレン系、イソインドリノンエロー,イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系、ピランスロンレッド,ピランスロンオレンジ等のピランスロン系、チオインジゴ系、縮合アゾ系、ベンズイミダゾロン系、その他の顔料として、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット、ジケトピロロピロール等が挙げられる。
【0018】
上記された顔料は、例えば下記のカラーインデックス・インターナショナル(C.I.)のカラーインデックス名で表される。すなわち、C.I.のカラーインデックス名は、ピグメントエロー12,13,14,17,20,24,74,83,86,93,109,110,117,125,128,129,137,138,139,147,148,151,153,154,181,166,168,185、C.I.ピグメントオレンジ16,36,43,51,55,59,61、C.I. ピグメントレッド9,48,49,52,53,57,97,122,123,149,168,177,180,192,202,206,215,216,217,220,223,224,226,227,228,238,240、C.I.ピグメントバイオレット19,23,29,30,37,40,50、C.I.ピグメントブルー 15,15:1,15:3,15:4,15:6,22,60,64、C.I.ピグメントグリーン7,36、C.I.ピグメントブラウン23,25,26等である。
【0019】
これらの顔料は、粒度分布計により計測された平均粒径(累積分布のメジアン径(D50))が10〜300nmの範囲内であって最大粒径が1μm以下となるように調製される。そして、これらの顔料の平均粒径は0.3μm以下が好ましい。平均粒径が0.3μmよりも大きいと、インクの分散の安定性が悪く、沈降物の発生が多くなる。特に最大粒径が1μm以上になると、顔料の沈降が著しくなり、印字の安定性が損なわれる。一方、平均粒径が10nm以下の場合は、特段の問題があるわけではないが、粒径が細かすぎるために、耐光性に関して劣化を生じ易くなるおそれがある。このように、本発明に用いる顔料は微細な顔料粒子が好ましいが、インクジェット用インクとするには、更に加える分散剤とともに分散用機械で高速撹拌を行なって、安定な分散液にしておくことが好ましい。このような顔料は、画像の十分な濃度および記録後の十分な耐光性を得るために、インクジェットインクの総重量に対して0.5〜20重量%含まれていることが望ましい。
【0020】
また、本発明では、印字環境の温度変化から染料を用いることが好ましい。斯かる染料としては、前記した沸点120℃以上の溶剤に溶解し得るものであれば特に限定されない。但し、耐溶剤性の観点からは、印刷体硬化後の接触対象となる溶剤がアルコールであるとすると、アルコールに対して不溶解性のものが好ましい。そのような染料としては、例えば下記のカラーインデックス名で示される、ソルベントエロー2,14,16,19,21,34,48,56,79,88,89,93,95,98,133,137,147、ソルベントオレンジ5,6,45,60,63、ソルベントレッド1,3,7,8,9,18,23,24,27,49,83,100,111,122,125,130,132,135,195,202,212、ソルベントブルー2,3,4,5,7,18,25,26,35,36,37,38,43,44,45,47,48,51,58,59,59:1,63,64,67,68,69,70,78,79,83,94,97,98,99,100,101,102,104,105,111,112,122,124,128,129,132,136,137,138,139,143、ソルベントグリーン5,7,14,15,20,35,66,122,125,131、ソルベントブラック1,3,6,22,27,28,29、ソルベントヴァイオレット13、ソルベントブラウン1,53等が挙げられ、これらを単独で、または2種以上混合して用いることができる。
また、塩基性の油性染料を用いることも可能である。このような塩基性の油性染料としては、例えば、C.I.Basic Violet3、C.I.Basic Red1,8、C.I.Basic Black2等が挙げられる。
尚、後工程である光学的読み取り工程において、近赤外領域での反射濃度を必要とする場合は、カーボンブラック、またはアジン系染料(ニグロシン染料)などを用いることが好ましい。
【0021】
上記したブロックイソシアネートは、イソシアネート化合物と保護化合物(ブロック剤)とを常法により反応させて得られる化合物である。すなわち、保護されたイソシアネート基を有する化合物である。このようなブロックイソシアネートは常温で不活性であるが、加熱されることにより保護基が解離してイソシアネート基が再生される性質を持っている。そのため、加熱されない条件下であれば、活性水素基を有する化合物に予め配合しておくことが可能である。
【0022】
イソシアネート基を有する化合物としては、1分子中に1個あるいは2個以上のイソシアネート基を含有していればよく、脂肪族、芳香族あるいは脂環式のモノあるいはジイソシアネート、トリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0023】
イソシアネート基を保護するブロック剤としては、例えば、アルコール化合物、フェノール化合物、ラクタム化合物、オキシム化合物、アセト酢酸アルキルエステル化合物、マロン酸アルキルエステル化合物、フタルイミド化合物、イミダゾール化合物などが挙げられる。
【0024】
本発明に用いられるブロックイソシアネートは、インクの状態においては、主たるインクの溶剤成分である沸点120℃以上の溶剤に充分に溶解して安定になっている。そして、このブロックイソシアネートは、印字されたのちの乾燥工程、ないし、その後の加熱工程において、任意の熱が加えられたときに、後で詳述される樹脂成分とともに、あるいは樹脂成分の一部と反応して、あるいは被印刷物の一部と反応して、印字されたインクの皮膜を強固にする働きを呈する。一般的なイソシアネートは反応性に富んでいるため、熱を加えなくても反応の進行が起こりやすい。しかしながら、ブロックイソシアネートは、或る温度を超えたときに反応を生じるので、経時での自然反応による粘度増加やゲル化といった問題を生じさせないようにできる。
【0025】
このようなブロックイソシアネートは、ジメチルピラゾール、ジエチルマロネート、メチルエチルケトンオキシム、カプロラクタム等により例示されるブロック剤を、イソシアネート分子構造内に取り込んでいるものが知られている。これらのブロック剤は、種類によってそのブロックが解離する温度を調整することが可能である。但し、インクジェットプリンタ内の温度、保存温度適性、あるいは実際の後処理の工程等を考慮すると、100℃以上で解離をし、かつ、エネルギー効率の観点から250℃以下で解離するという状態をもたらすものが好ましい。
【0026】
このような条件への適性を付与させるためには、ブロック剤として、ジメチルピラゾールを選択することが好ましい。因みに、ジエチルマロネート系は、硬化後の塗膜が結晶化しやすくなり、塗膜の特性として好まれない場合がある。また、メチルエチルケトンオキシム系は比較的高温で解離するので、硬化のためのエネルギーが若干多く必要となる。また、カプロラクタム系は、硬化処理用の設備内にて、付着物(ヤニ)を生成しやすいという難点がある。また、ジメチルピラゾールとともに、ジエチルマロネート、メチルエチルケトンオキシム、またはカプロラクタムを一部混合した系のブロックイソシアネートは、ジメチルピラゾールの適度な硬化性や硬化時の特性を望ましく調整できるために好ましい。これらのブロック剤の選択は、プリンタでの長期循環や、印字後の加熱処理環境に対応させる必要がある。また、被印刷物の基材が熱硬化性材料で予め塗装されているものでは、その硬化条件を逸脱しない範疇の設定が必要であるが、このような調整にマッチしやすい広い許容値に設定しやすいものとして、ジメチルピラゾールが使用され得る。すなわち、解離温度と密着性、耐溶剤性の効果を発揮させるうえで、好ましいブロック剤の選択が必要である。
【0027】
上記したブロックイソシアネートのインクへの添加は、添加量を多くすれば、後述される耐溶剤性や塗膜硬度の向上につながる。しかしながら、ブロックイソシアネートの使用量が多いと、インクの安定性低下(例えば、粘度の増加、凝集、ゲル化等)を生じやすくなるため、インク全体重量に対し0.1〜7重量%の範囲で用いることが好ましい。ブロックイソシアネートの添加量がインク全体重量の7重量%を超えると、インク自体の安定性が不足する。一方、ブロックイソシアネートの添加量がインク全体重量の0.1重量%未満の場合は、耐溶剤性等から判断され得る皮膜強度の向上が見られない。すなわち、ブロックイソシアネートの添加量は、温度とのバランス、またはインク粘度とのバランスから判断されるが、インク全体重量の0.5〜7重量%が好ましく、更には0.5〜5重量%がより好ましい。
【0028】
本発明に用いる樹脂成分としては、ブチラール樹脂、または、ブチラール樹脂およびロジン変性マレイン酸樹脂を用いることができる。これらの樹脂は、各種の被印刷物への密着性を良くする。また、着色剤として染料が用いられるとき、樹脂は、染料を充分に溶解し相溶して定着性を良くする。また、顔料が用いられる場合、樹脂は、顔料の定着性ばかりでなく、顔料を分散させる分散剤としての役割の一部分も担う。これらの樹脂は、本発明の主溶剤である沸点120℃以上の溶剤に対して良好な溶解性を有するものであることが好ましい。しかしながら、印字後および乾燥後の状態においては、プリンタ内部での再溶解性とは逆の性質である、不溶解性も必要とされる。このため、前記ブロックイソシアネートとの適切な組み合わせが選定されなければならず、また適度な加熱処理を施すことにより、溶解し易かった溶剤に対する耐溶剤性を持たせなければならない。
【0029】
ブロックイソシアネートと樹脂との組み合わせにおいて、上記の樹脂のなかでブチラール樹脂またはロジン変性マレイン酸樹脂と組み合わせる場合、ブロックイソシアネートにおけるブロック剤解離後のイソシアネート部との反応がしやすいことから、ブチラール樹脂の使用が好ましい。この場合、ブチラール樹脂は、平均分子量が20000以下、水酸基が20%以上、更に好ましくは30%以上含まれているものが、粘度特性の良さおよびイソシアネートとの反応性が高い点で適している。
また、ロジン変性マレイン酸樹脂は、ブチラール樹脂と同様に顔料の良好な分散に寄与する。このロジン変性マレイン酸樹脂は、インクジェットプリンタにおけるインクの再溶解性においても良好な特性を有している。従って、ブチラール樹脂およびロジン変性マレイン酸樹脂を用いることにより、インクジェットプリンタ用のインクとして溶解および分散の安定化を維持することができる。すなわち、顔料を分散させる系で安定な分散性を保持する上からも、好ましい組み合わせとなっている。これらの樹脂は、粘度をインクジェットプリンタ用のインクの適性に合わせる必要から、それぞれインク重量全体の1〜15重量%を用いることが好ましい。
尚、分子量が10000〜30000、好ましくは15000〜20000、水酸基が20〜40%、更に好ましくは35〜40%、ブチラール化度が60〜80であるブチラール樹脂を用いることが、被印刷物に対する適用性の広い汎用のインクを得るうえで好ましい。尚、その他の樹脂として、例えばアミン樹脂(メラミンとホルムアルデヒドの縮重合樹脂)、ポリエステル樹脂(多価カルボン酸とポリアルコールとの重縮合体、不飽和基を有する不飽和ポリエステル等)、フェノール樹脂(例えば、荒川化学社製のタマノールPA,135,340,350,386)、アクリル樹脂(例えば、DIC社製のACRYDIC A−322,A−405,A−452、三菱樹脂社製のダイヤナールRB50)等も使用され得る。
【0030】
本発明に係るインクは、沸点120℃以上の溶剤を主溶剤として用いるものであり、インクジェットプリンタ、特にDOD式であるピエゾ素子利用型インクジェットプリンタに好適に用いることができる。
【0031】
本発明に用いられる溶剤は沸点120℃以上の溶剤を主体とするものであり、DOD式インクジェットプリンタのノズル部分のインクの乾燥を極力抑えることができる。また、インク吐出時の温度が比較的高温であったとしても、ノズル部分の乾燥をできるだけ抑えることができる。また、染料として近赤外領域での吸収をもつアジン系染料の溶解性を高めることも可能である。尚、使用環境が高温となる場合もあるため、溶剤臭気を少なくするために臭いの少ない溶剤系が好ましい。
このような溶剤としては、例えばダイアセトンアルコール、ベンジルアルコール、2−フェノキシエタノールなどが挙げられる。これらのうちの2−フェノキシエタノールを主成分とする溶剤を用いることができる。そして、これらの溶剤を用いることにより、半導体ウエハーへの良好なドット形成が可能となる。すなわち、これらは樹脂類の溶解性、顔料の分散性、およびインク乾燥性の観点から、DOD式インクジェットプリンタのインク用の溶剤として、好ましく用いることができる。
【0032】
更には、例えば酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、イソプロピルアルコール、ブタノール、ジオキサン、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、液体ポリエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、低分子量ポリプロピレングリコール、シクロペンタノン等をダイアセトンアルコール、ベンジルアルコール、2−フェノキシエタノール、トリヘキサンジオールのうちの少なくとも一種を、溶剤の一部として用いることも可能である。
【0033】
本発明に使用される樹脂は、密着性とともに分散性を良好にする能力を備えているが、顔料の更なる分散性の向上を図るために、分散剤を用いても構わない。
このような顔料の分散剤としては、例えば水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合体、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物塩、特殊芳香族スルフォン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。具体的には、BYK Chemie社製のAnti−Terra−U,Anti−Terra−203/204,Disperbyk−101,107,110,130,161,162,163,164,165,166,170,400,Bykumen,BYK−P104,P105,P104S,240S,Lactimon、Efka CHEMICALS社製のエフカ44,46,47,48,49,54,63,64,65,66,71,701,764,766,エフカポリマー100,150,400,401,402,403,450,451,452,453,745、共栄社化学社製のフローレンTG−710,フローノンSH−290,SP−1000,ポリフローNo.50E,No.300、味の素ファインテック社製のアジスパーPB821、楠本化成社製のディスパロンKS−860,873SN,874,#2150,#7004、花王社製のデモールRN,N,MS,C,SN−B,EP,ホモゲノールL−18,エマルゲン920,930,931,935,950,985,アセタミン24,86、ルーブリゾール社製のSolsperse5000,7000,13240,13940,17000,22000,24000,28000,32000,38500、日光ケミカル社製のニッコールT106,MYS−IEX,Hexagline 4a−U等が例示される。
【0034】
更に、ドットの形成状態を調整するための調整剤として、シリコン系界面活性剤やフッ素系界面活性剤を使用することも可能である。尚、酸化チタンや酸化鉄のように比重の大きな無機系顔料を用いる場合は、沈降に伴うハードケーキ化を防止するため、不飽和カルボン酸系のハードケーキ防止剤を用いることができる。本発明に係る印字の対象である被印刷物としては、金属、ガラス、プラスチックス、または、これらの材料の表面に塗装された塗工物であり、耐熱温度が100℃以上のものが挙げられる。
このような半導体ウエハーのような被印刷物に対し、前記されたインクがインクジェットプリンタにより噴きつけられて、文字やバーコード、データマトリックスコード等の種々のコードの印字(本発明に係る印刷体の例)が形成され、その後、100℃以上の加熱雰囲気中を10分〜60分かけて通過させる加熱処理が行われる。好ましい加熱温度は120〜250℃であり、更に好ましくは150〜210℃である。好ましい加熱時間は15〜30分程度である。このような加熱条件を採用することが、耐溶剤性、密着性、界面活性剤水溶液による洗浄耐性を得る観点から好ましく、マーキングの有無の認証確認をはじめとし、バーコードやデータマトリックス等を読み取る読み取り機での読み取り率の正確性を充分に発揮させることができる。また、後工程でのアルコール洗浄や、ふきとり等にも対応できる。
【0035】
本発明に係るインクの粘度は、インクジェットプリンタでの適切な印字可能領域を広げるため、8〜130mPa・sの範囲内に調整することが好ましい。インクの粘度が8mPa・sを下回ると、プリンタ設置の環境が低温環境と限られてしまう点で不利となる。また、被印刷物表面でのインクのドットの形成が不良となり、ドットが形成されたとしても印刷体の濃度(印字濃度)が薄くなるような不具合がでる。一方、インクの粘度が130mPa・sを上回ると、ヘッドでの加温温度がさらに高くしなければならず、インクの安定性が得られなくなる。また、インク滴の吐出不良や印字後の乾燥不良の問題を生じやすくなる。従って、印刷目的が、例えば半導体ウエハーを対象とするような半導体検査装置内での使用においては、環境温度変化に対応できるようにするため、60℃における粘度が8〜15mPa・sに調製されたインクが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明をいくつかの実施例によって更に詳細に説明する。
[実施例1]
ブチラール樹脂(分子量=19000、水酸基含有率=36%、アセチル基含有率=3%、ブチラール化度=63%)1.8重量部を、2−フェノキシエタノール89.1重量部に溶解させて溶解液とし、この溶解液にニグロシンベースEX(オリエント化学社製)4.1重量部を加え60℃に加温して攪拌混合し、混合溶解液を得た。この混合溶解液を室温まで冷却後、これにジメチルピラゾールをブロック剤とするブロックイソシアネート5重量部を加えて混合し高速攪拌混合を行なった。その後、混合溶解液を目開き1.0μmのフィルタで濾過して、インクジェットプリンタ用のインクを得た。このインク全体の60℃での粘度は11.7mPa・sであり、20℃での粘度は94.6mPa・sであった。因みに、DOD式インクジェットプリンタに使用される一般的なインクの20℃での粘度は3〜6mPa・s程度といったように比較的低い。
尚、インクの試作においては、インクを構成する全成分をひとつの容器内に入れ一括して溶解させることも可能であるが、染料、樹脂および溶剤の一部だけを用いて染料の溶解を濃縮系として行ない、その溶解後にブロックイソシアネートを加えて混合、溶解させるように調製することが、安定な状態のインクを得るうえで好ましい。
【0037】
得られたインクは、シリコンウエハーにDOD式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の製品名:HQ、インクジェットヘッド型式:KJ1、ノズル径=50μm)により合計210滴(7つのノズルから各々30滴)が噴きつけられ、複数のドットで構成される円形状の黒点(印刷体の例)を形成した。このDOD式インクジェットプリンタのインクジェットヘッドは60℃に設定されている。前記の黒点が形成されたシリコンウエハーは180℃のオーブン中で20分間加熱された。加熱処理後のシリコンウエハーは、下記に詳述する各種物性試験に供された。また、加熱処理後のシリコンウエハー表面の黒点の状態は、図1の写真に示した通りである。
【0038】
[実施例2]
ブチラール樹脂(分子量=19000、水酸基含有率=36%、アセチル基含有率=3%、ブチラール化度=63%)2重量部を、2−フェノキシエタノール90.5重量部に溶解させて溶解液とし、この溶解液にニグロシンベースEX(オリエント化学社製)2.5重量部を加え60℃に加温して攪拌混合し、混合溶解液を得た。この混合溶解液を室温まで冷却後、これにジメチルピラゾールをブロック剤とするブロックイソシアネート5重量部を加えて混合し高速攪拌混合を行なった。その後、混合溶解液を目開き1.0μmのフィルタで濾過して、インクジェットプリンタ用のインクを得た。
【0039】
[実施例3]
ブチラール樹脂(分子量=21000、水酸基含有率=22%、アセチル基含有率=3%、ブチラール化度63%)2.5重量部、ソルスパーズ24000(分散剤:ルーブリゾール社製)0.5重量部、ソルスパーズ5000(分散剤:ルーブリゾール社製)0.2重量部、およびロジン変性マレイン酸樹脂1重量部を、2−フェノキシエタノール92.3重量部に溶解して溶解液とし、この溶解液にカーボンブラック(REGAL330R:キャボット社製)2.5重量部を加えて攪拌混合し、この混合液を横型サンドミルに供してカーボンブラックを分散させた。この分散液に、ジメチルピラゾールをブロック剤とするブロックイソシアネート1重量部を加えて混合し、高速攪拌混合を行なった。その後、混合分散液を目開き1.0μmのフィルタで濾過して、インクジェットプリンタ用のインクを得た。
【0040】
[実施例4]
ブチラール樹脂(分子量=19000、水酸基含有率=36%、アセチル基含有率=3%、ブチラール化度63%)2.6重量部、ソルスパーズ24000(分散剤:ルーブリゾール社製)0.6重量部、ソルスパーズ5000(分散剤:ルーブリゾール社製)0.1重量部、およびロジン変性マレイン酸樹脂0.6重量部を、2−フェノキシエタノール90重量部に溶解して溶解液とし、この溶解液にカーボンブラック(PRINTEX45:エボミック社製)2重量部を加えて攪拌混合し、この混合液を横型サンドミルに供してカーボンブラックを分散させた。この分散液に、ジメチルピラゾールをブロック剤とするブロックイソシアネート3重量部を加えて混合し、高速攪拌混合を行なった。その後、混合分散液を目開き1.0μmのフィルタで濾過して、インクジェットプリンタ用のインクを得た。
尚、実施例3,4のような顔料を用いるインクの試作においては、インクを構成する全成分をひとつの容器内に入れ一括して分散させることも可能であるが、顔料、分散剤、樹脂および溶剤の一部だけを用いて顔料の分散を濃縮系として行ない、その分散後にブロックイソシアネートを加えて混合、溶解させるように調製することが、安定な状態のインクを得るうえで好ましい。
前記の実施例2〜4で得られたインクは、実施例1と同様に、既述した紀州技研工業社製のDOD式インクジェットプリンタ(製品名:HQ)によりシリコンウエハーに印刷されたのちに加熱処理され、下記に詳述される各種物性試験に供された。
【0041】
[実施例5]
実施例5のインクは実施例1と同様に染料を用いたものであり、表1に示された組成のインクが得られている。そして、実施例1と同様に、シリコンウエハーの表面にインクが噴きつけられたのち同様に評価された
そして、比較例1〜6のインクは、ブロックイソシアネートが使用されないこと以外、概ね実施例1〜とほぼ同様の処理により得られた。これら比較例1〜6のインクは、実施例1〜の熱硬化による効果との比較を明確にするため、実施例1〜のインクと同程度の粘度に調整されている。
前記の実施例5で得られたインクも、実施例1と同様に、既述した紀州技研工業社製のDOD式インクジェットプリンタ(製品名:HQ)によりシリコンウエハーに印刷されたのちに加熱処理され、下記に詳述される各種物性試験に供された。
【0042】
これらの実施例1〜のインクの処方および物性試験結果は下記の表1に示される。比較例1〜6のインクの処方および物性試験結果は下記の表2に示される。各表中に示された物性試験の概要は以下に説明される。
[粘度]は、EH型粘度計により60℃で測定されたものである。
[分散性]は、顔料の樹脂液が横型サンドミルにより分散されたときに、ダマや粗粒の残留が少なく流動性を有する状態であるか否かが評価されたものである。ドローダウン塗膜の表面状態や分散時の流動性が良かったものが「○」とされ、分散しなかったものが「×」とされ、凝集状態のものが「凝集」とされた。尚、染料を含有するインクでは、「溶解」しているか否かが判断された。
【0043】
[吐出安定性]は、各例で示されたインクがDOD式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の製品名HQ−KJ1、ノズル径=50μm)によって、ガラス基材表面に印字され、その印刷体の状態が目視評価されたものである。また、噴射特性も、連続印字中のノズルの噴射状態が、得られた印刷体の状態を観察することによって合わせて評価された。各印字ドットが所定位置に正確に連続印字されていたものが「○」と評価され、連続印字が行なわれたにも拘わらず途中にドットの欠損が生じたり、各印字ドットが所定位置に印字されたりしなかったものが「×」とされた。
[再溶解性]は、連続式インクジェットプリンタのノズルプレートにインクが付けられて風乾され、翌日、乾燥インクに別のインクが振り掛けられて、乾燥インクの溶解が確認されたものである。溶解性が良かったものが「○」と評価され、溶解性が不良であったものが「×」とされた。
[保存安定性]は、インクが密封容器内に封入されて45℃の条件下で保管され、2ケ月経過後にインクの外観や粘度変化が確認されたものである。外観および粘度が所定以上(8%以上の粘度増加)に変化しなかったものが「○」と評価され、所定以上に変化したものが「×」とされた。
【0044】
[熱硬化性]は、印字された印刷体が熱により硬化する条件として、150℃中30分間での硬化性、170℃中30分間での硬化性、200℃中15分間での硬化性がそれぞれ確認されたものである。この熱硬化性は、熱により硬化した硬化面にエタノールが塗布されて、熱硬化した印刷体が溶解するか否かの有無で確認される。溶解しなかったものが「○」と評価され、一部分が溶解したものが「×」とされた。
[耐アルコール性]は、印刷体が熱硬化した後の被印刷物の表面が、エタノールが浸された綿棒で10回擦られ、被印刷物表面における印字ドットの溶解や剥離が確認されたものである。剥落がなかったものが「○」と評価され、剥落があったものが「×」とされた。
[洗浄性]は、印刷された被印刷物が0.25%ノニオン活性剤水溶液中に浸漬されて、15分間の超音波照射による洗浄テストを行われ、印刷されたマークが読み取り機で読み取られるか否かが評価されたものである。読み取り異常がなかったものが「○」と評価され、読み取り異常があったものが「×」とされた。
[密着性]は、印刷された被印刷物の表面にセロハンテープが貼り付けられ、そのセロハンテープが引き剥がされたときに、印字ドット(印刷体)の剥離が有るか否かが評価されたものである。印字ドット印刷体の剥離がなかったものが「○」と評価され、剥離があったものが「×」とされた。
尚、各表において、処方欄中に示された数値はいずれも、インク全体重量に対する重量%を表している。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
上記された実施例1〜により得られたインクは、被印刷物表面への印字後・加熱処理前は、上記したいずれの物性試験の結果が不良であった。しかしながら、表1に示されるように、これらはブチラール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ブロックイソシアネート、および、主溶剤であるフェノキシエタノールが好適な処方割合で含まれているので、加熱処理後は良好な特性を示した。同時に、保存時の安定性、プリンタ内での長期の印字安定性も良好な特性を示している。このように、実施例1〜に係るインクは、半導体検査装置などによる処理時の60℃といった熱のかかる場所で、熱硬化性のインクを使用するという特異的な使用態様であっても、支障なく優れた特性を呈することがわかる。
【0048】
そして、図1の写真に示すように、実施例1のインクを用いてシリコンウエハーSの表面に印刷され加熱処理により硬化したドット(黒点)B1は、直径が約1.5mmの正しい円形に形成されている。すなわち、きれいな認識のしやすい大きさの1つのドットB1を形成することができた。従って、目視または光学的判別手段のいずれによっても、マーキングの有無の判別を、精度よく確実に行なうことができる。尚、図1の写真中に表示された1,2,3などの数値は、プロファイルの測定のために付されたものであり、長さを表すものでない。後述される図2の写真中に表示された数値も同様である。
【0049】
それに対し、比較例1〜6のインクは、表2に示されるように、ブロックイソシアネートが使用されず当然に熱硬化処理も施されていないために耐エタノール性が不良であり、熱硬化自体も生じないために耐エタノール適性も不良であった。
【0050】
一方で、図2は、DOD式インクジェットプリンタに汎用される一般的な低粘度のインク(25℃で4mPa・s)が、正しい円形の1つのドットの形成を目指して、常温に設定されたインクジェットヘッドにより実施例1と同様処理によってシリコンウエハーSの表面に噴きつけられて印刷されたものを写真で示している。図2の写真から明らかなように、4つに分かれたドットB2,B2,B2,B2が形成されていた。これらのうち、3つの小さなドットB2,B2,B2の直径は約0.5mmである。すなわち、きれいな認識のしやすい大きさの1つのドットを形成できていない。このように分かれたドットの印字形態であると、マーキングの形や大きさが不均一であるため、識別が困難になる。
【0051】
尚、上記した実施例1〜のインクはいずれも、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合樹脂などに代表される塩素含有樹脂を使用していないため、半導体検査装置内で使用されても、シリコンウエハーにとって有害な塩素ガスを発生することがない。
【符号の説明】
【0052】
B1,B2 ドット
S シリコンウエハー(半導体ウエハーの例)
図1
図2