【実施例】
【0057】
以下、実施例により、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。
(実施例1)
透光性基板としてサイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を用い、透光性基板上に、まず窒化されたモリブデン及びシリコンからなる光半透過膜を成膜した。
具体的には、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=10mol%:90mol%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:N
2:He=5:49:46)で、ガス圧0.3Pa、DC電源の電力を3.0kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、シリコン及び窒素からなるMoSiN膜を69nmの膜厚で形成した。次いで、上記MoSiN膜が形成された基板に対して、加熱炉を用いて、大気中で加熱温度を450℃、加熱時間を1時間として、加熱処理を行った。なお、このMoSiN膜は、ArFエキシマレーザーにおいて、透過率は6.16%、位相差が184.4度となっていた。
【0058】
次に、上記光半透過膜の上に、以下の遮光膜を成膜した。
具体的には、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO
2)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:CO
2:N
2:He=20:35:10:30)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚30nmのCrOCN層を成膜した。続いて、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.1Pa,ガス流量比 Ar:N
2=25:5)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚4nmのCrN層を成膜した。最後に、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO
2)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:CO
2:N
2:He=20:35:5:30)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚14nmのCrOCN層を成膜し、合計膜厚48nmの3層積層構造のクロム系遮光膜を形成した。
【0059】
この遮光膜は、上記光半透過膜との積層構造で光学濃度(OD)がArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて3.0となるように調整されている。また、前記露光光の波長に対する遮光膜の表面反射率は20%であった。
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記遮光膜の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.56nmであった。さらに、平坦度測定装置(トロッペル社製:UltraFlat200M)を用いて、142mm×142mmにおける平坦度を測定したところ、310nmであった。
【0060】
以上のようにして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を積層したマスクブランクに対し、高濃度オゾンガスとエチレンガスとを供給して、遮光膜の表面近傍で混合し、遮光膜の表面に高濃度オゾンガスとエチレンガスとを作用させる処理を行った。この場合の高濃度オゾンガス(100体積%)とエチレンガスの流量比率は2:1とした。処理時間(高濃度オゾンガスとエチレンガスとを作用させる時間)は10分とし、基板は60℃に加熱した。
以上のようにして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜の積層構造のパターン形成用薄膜を有する位相シフトマスクブランクを作製した。
【0061】
作製された位相シフトマスクブランクの上記積層構造の薄膜の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜の表層部分に厚さ略1nmの被膜(表面改質層)が形成されていた。さらにこの被膜の組成をX線光電子分光法で表面に対する検出器の傾きを30°として詳しく分析したところ、元素組成(原子%比)は、Cr:16.6、O:40.6、N:5.5、C:37.3であった。また、クロム原子数を基準としたときの原子数比は、O/Cr=2.44、N/Cr=0.33、C/Cr=2.24である。
【0062】
また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記薄膜の表面、つまり表面改質層の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.46nmであった。つまり上述の高濃度オゾンガスとエチレンガスによる処理を施す前の遮光膜の表面の表面粗さRa=0.56nmと比べて、表面粗さは処理前後で0.10nm減少しており(減少率は0.10÷0.56×100=18%)、表面粗さの劣化はなく、表面粗さが小さくなった。また、断面TEM観察を行ったところ、処理前後で、表面粗さの低減及びグレインサイズの低減が確認された。
【0063】
さらに、処理後の光半透過膜と遮光膜の積層膜の光学濃度は3.0であり、処理前と変化はなかった。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率についても確認したが、処理前と殆ど変化は認められなかった。
また、平坦度測定装置(トロッペル社製:UltraFlat200M)を用いて、142mm×142mmにおける平坦度を測定したところ、306nmであり、平坦度変化量は4nmであり、ほとんど変化しなかった。
このように、高濃度オゾンガス処理前後において、表面粗さ、光学特性、平坦度が変化(劣化)することなく、表面改質層を形成することが確認できた。
【0064】
また、
図3は、本実施例における表面改質層のX線光電子分光法(XPS)による分析結果を示したものであり、(a)は表面改質層のO(酸素)1sスペクトル、(b)は上述の高濃度オゾンガスとエチレンガスによる処理を施す前の遮光膜の表層部分のO1sスペクトルである。さらに、
図4は、同じく本実施例における表面改質層のX線光電子分光法による分析結果を示したものであり、(a)は表面改質層のC(炭素)1sスペクトル、(b)は上述の高濃度オゾンガスとエチレンガスによる処理を施す前の遮光膜の表層部分のC1sスペクトルである。
【0065】
上記表面改質層は、XPSによって測定されるO1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ532eV付近にある第1のピークと530eV付近にある第2のピークとに分離したときに、第2のピーク面積に対する第1のピーク面積の割合が2.8である。上記第1のピークは、主に有機系酸化物成分や酸化度の高いクロム酸化物(Cr
2O
3など)成分(A成分とする)によるピークであり、上記第2のピークは、主に酸化度の低いクロム酸化物成分やクロム酸窒化物成分(B成分とする)によるピークである。この分析結果から、A成分は74%、B成分は26%であり、パターン形成用の薄膜の表面に上述の高濃度オゾンとエチレンガスによる処理による表面改質層が形成されることにより、この処理を施す前の表面改質層が形成されていない状態(上記
図3(b)のスペクトル)と比べると、上記A成分の割合が増加し、B成分の割合が減少していることが分かる。また、XPSによって測定されるC1sスペクトルにおいて、炭酸塩の割合が増加していることが分かる。また、O1sスペクトルにおいて、高濃度オゾンガス処理を施す前の第1のピーク強度が約7400c/sであるのに対して、高濃度オゾンガス処理を施した後の第1のピーク強度は約9500c/sであり、高濃度オゾンガス処理によって、第1のピークが増加していることが分かる。
【0066】
次に、上記の位相シフトマスクブランクを用いて、ハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。
まず、上記マスクブランク上に、レジスト膜として、電子線描画用化学増幅型ネガレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 SLV08)を形成した。レジスト膜の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布した。上記レジスト膜を塗布後、所定の加熱乾燥処理を行った。レジスト膜の膜厚は165nmとした。
【0067】
次に上記マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。このとき、レジストパターンの倒れや欠けは発生しなかった。LS(ラインアンドスペース)パターン、SRAF(SubResolution Assist Feature)パターンを確認したが、ハーフピッチ32nmの微細パターンが解像されていた。
次に、上記レジストパターンをマスクとして、遮光膜のエッチングを行った。ドライエッチングガスとして、Cl
2とO
2の混合ガスを用いた。続いて、光半透過膜(MoSiN膜)のエッチングを行って光半透過膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとして、SF
6とHeの混合ガスを用いた。
【0068】
次に、残存するレジストパターンを剥離して、再び全面に上記と同じレジスト膜を形成し、マスクの外周部に遮光帯を形成するための描画を行い、描画後、レジスト膜を現像してレジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとして、遮光帯領域以外の遮光膜をエッチングにより除去した。
残存するレジストパターンを剥離して、位相シフトマスクを得た。なお、光半透過膜の透過率、位相差はマスクブランク製造時と殆ど変化はなかった。こうして得られた位相シフトマスクは、32nmハーフピッチの微細パターンが良好なパターン精度で形成されていた。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を積層したマスクブランクに対し、遮光膜の表面に高濃度オゾンガス(100体積%)とエチレンガスを作用させる処理時間を30分としたこと以外は、実施例1と同様にして位相シフトマスクブランクを作製した。
作製した本実施例の位相シフトマスクブランクの上記積層構造の薄膜の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜の表層部分に厚さ略2nmの被膜(表面改質層)が形成されていた。さらにこの被膜の組成をX線光電子分光法で表面に対する検出器の傾きを30°として詳しく分析したところ、元素組成(原子%比)は、Cr:17.9、O:43.1、N:4.6、C:34.4であった。また、クロム原子数を基準としたときの原子数比は、O/Cr=2.41、N/Cr=0.26、C/Cr=1.92である。
【0070】
また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記表面改質層の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.46nmであり、上述の高濃度オゾンガスによる処理を施す前の遮光膜の表面の表面粗さRa=0.56nmと比べて、表面粗さは処理前後0.10nm減少しており(減少率は0.10÷0.56×100=18%)、表面粗さの劣化はなく、表面粗さが小さくなった。また、断面TEM観察を行ったところ、処理前後で、表面粗さの低減及びグレインサイズの低減が確認された。
さらに、処理後の光半透過膜と遮光膜の積層膜の光学濃度は3.0であり、処理前と変化はなかった。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率についても確認したが、処理前と殆ど変化は認められなかった。
【0071】
また、実施例1と同様に、本実施例における表面改質層をXPSにより分析した結果、O1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ532eV付近にある第1のピークと530eV付近にある第2のピークとに分離したときに、第2のピーク面積に対する第1のピーク面積の割合が2.2であった。また、C1sスペクトルにおいて、炭酸塩のピークの割合が増加していた。この分析結果から、表面改質層中の主に有機系酸化物成分や酸化度の高いクロム酸化物(Cr
2O
3など)成分などのA成分の割合は69%、主に酸化度の低いクロム酸化物成分やクロム酸窒化物成分などのB成分の割合は31%であった。また、O1sスペクトルにおいて、高濃度オゾンガス処理を施した後の第1のピーク強度は約10500c/sであり、処理前よりも増加していた。
【0072】
次に、実施例1と同様に、上記の位相シフトマスクブランクを用いて、ハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。
なお、実施例1と同様にして、上記マスクブランク上にレジストパターンを形成したが、このとき、レジストパターンの倒れや欠けは発生しなかった。LSパターン、SRAFパターンを確認したが、ハーフピッチ32nmの微細パターンが解像されていた。
得られた位相シフトマスクは、32nmハーフピッチの微細パターンが良好なパターン精度で形成されていた。
【0073】
(実施例3)
透光性基板としてサイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を用い、この透光性基板上に、実施例1と同様の光半透過膜を成膜し加熱後、以下の遮光膜を成膜した。
具体的には、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:N
2:He=30:30:40)とし、DC電源の電力を0.8kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚24nmのCrN層を成膜した。続いて、アルゴン(Ar)とメタン(CH
4)と一酸化窒素(NO)とヘリウム(He)の混合ガス雰囲気(ガス圧0.3Pa,ガス流量比 Ar+CH
4:NO:He=65:3:40)とし、DC電源の電力を0.3kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚24nmのCrON(C)層を成膜し、合計膜厚48nmの2層積層構造のクロム系遮光膜を形成した。なお、この遮光膜はインライン型スパッタ装置を用いたため、CrN膜及びCrON(C)膜は膜厚方向に組成が傾斜した傾斜膜であった。
この遮光膜は、光学濃度3.0となるように調整されている。原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記遮光膜の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.73nmであった。
【0074】
以上のようにして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を積層したマスクブランクに対し、高濃度オゾンガスとエチレンガスとを供給して、遮光膜の表面近傍で混合し、遮光膜の表面に高濃度オゾンガスとエチレンガスとを作用させる処理を行った。この場合の高濃度オゾンガス(100体積%)とエチレンガスの流量比率は2:1とした。処理時間(高濃度オゾンガスとエチレンガスとを作用させる時間)は10分とし、基板は60℃に加熱した。
以上のようにして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜の積層構造のパターン形成用薄膜を有する位相シフトマスクブランクを作製した。
【0075】
作製された位相シフトマスクブランクの上記積層構造の薄膜の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜の表層部分に厚さ略1nmの被膜(表面改質層)が形成されていた。
また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記表面改質層の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.64nmであった。上述の高濃度オゾンガスとエチレンガスによる処理を施す前の遮光膜の表面の表面粗さRa=0.73nmと比べて、表面粗さは処理前後で0.09nm減少しており(減少率は0.09÷0.73×100=12%)、表面粗さの劣化はなく、表面粗さが小さくなった。また、断面TEM観察を行ったところ、処理前後で、表面粗さの低減及びグレインサイズの低減が確認された。
【0076】
次に、上記の位相シフトマスクブランクを用いて、位相シフトマスクを作製した。
まず、上記マスクブランク上に、レジスト膜として、電子線描画用化学増幅型ネガレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 SLV08)を形成した。レジスト膜の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布した。上記レジスト膜を塗布後、所定の加熱乾燥処理を行った。レジスト膜の膜厚は165nmとした。
【0077】
次に上記マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。このとき、レジストパターンの倒れや欠けは発生しなかった。LSパターン、SRAFパターンを確認したが、ハーフピッチ32nmの微細パターンが解像されていた。
次に、実施例1と同様にして、位相シフトマスクを得た。こうして得られた位相シフトマスクは、32nmハーフピッチの微細パターンが良好なパターン精度で形成されていた。
【0078】
(実施例4)
透光性基板としてサイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を用い、透光性基板上に、遮光膜として、MoSiN膜(遮光層)、MoSiON膜(表面反射防止層)をそれぞれ形成した。
具体的には、MoとSiとの混合ターゲット(Mo:Si=21mol%:79mol%)を用い、ArとN
2との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:N
2=25:28)で、ガス圧0.07Pa、DC電源の電力を2.1kWとして、モリブデン、シリコン、窒素からなるMoSiN膜を50nmの膜厚で形成した。
【0079】
次いで、Mo:Si=4mol%:96mol%のターゲットを用い、ArとO
2とN
2とHe(ガス流量比 Ar:O
2:N
2:He=6:3:11:17)で、ガス圧0.1Pa、DC電源の電力を3.0kWで、モリブデン、シリコン、酸素、窒素からなるMoSiON膜を10nmの膜厚で形成した。遮光膜の合計膜厚は60nmとした。遮光膜の光学濃度(OD)はArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて3.0であった。
【0080】
次に、上記MoSi系遮光膜の上に、以下のCr系エッチングマスク膜を成膜した。
具体的には、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO
2)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:CO
2:N
2:He=20:35:5:30)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚10nmのCrOCN層を成膜した。
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記エッチングマスク膜の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.52nmであった。
【0081】
以上のようにして、ガラス基板上にMoSi系遮光膜とCr系エッチングマスク膜を積層したマスクブランクに対し、高濃度オゾンガス(100体積%)とエチレンガスとを供給して、Cr系エッチングマスク膜の表面近傍で混合し、Cr系エッチングマスク膜の表面に高濃度オゾンガスとエチレンガスとを作用させる処理を行った。この場合の高濃度オゾンガスとエチレンガスの流量比率は2:1とした。処理時間(高濃度オゾンガスとエチレンガスとを作用させる時間)は10分とし、基板は60℃に加熱した。
以上のようにして、ガラス基板上にパターン形成用MoSi系遮光膜およびCr系エッチングマスク膜を有するバイナリマスクブランクを作製した。
【0082】
作製されたバイナリマスクブランクの上記Cr系エッチングマスク膜の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、エッチングマスク膜の表層部分に厚さ略1nmの被膜(表面改質層)が形成されていた。
また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記表面改質層の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.43nmであった。上述の高濃度オゾンガスとエチレンガスによる処理を施す前のエッチングマスク膜の表面の表面粗さRa=0.52nmと比べて、表面粗さは処理前後0.09nm減少しており(減少率は0.09÷0.52×100=17%)、表面粗さの劣化はなく、表面粗さが小さくなった。
また、断面TEM観察を行ったところ、処理前後で、表面粗さの低減及びグレインサイズの低減が確認された。
【0083】
次に、上記のバイナリ用マスクブランクを用いて、バイナリマスクを作製した。
まず、上記マスクブランク上に、レジスト膜として、電子線描画用化学増幅型ネガレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 SLV08)を形成した。レジスト膜の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布した。上記レジスト膜を塗布後、所定の加熱乾燥処理を行った。レジスト膜の膜厚は165nmとした。
【0084】
次に上記マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。このとき、レジストパターンの倒れや欠けは発生しなかった。LSパターン、SRAFパターンを確認したが、ハーフピッチ32nmの微細パターンが解像されていた。
次に、上記レジストパターンをマスクとして、エッチングマスク膜のエッチングを行った。ドライエッチングガスとして、Cl
2とO
2の混合ガスを用いた。続いて、エッチングマスク膜に形成されたパターンをマスクとして、上記MoSi系遮光膜(MoSiN/MoSiON)のエッチングを行って遮光膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとして、SF
6とHeの混合ガスを用いた。
【0085】
次に、残存するレジストパターンを剥離し、さらに上記エッチングマスク膜パターンをエッチングにより除去した。
こうして得られたMoSi系バイナリマスクは、32nmハーフピッチの微細パターンが良好なパターン精度で形成されていた。
【0086】
(比較例)
実施例1において、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を積層したマスクブランクに対し、遮光膜の表面に高濃度オゾンガスとエチレンガスのとを作用させる処理を省いたこと以外は、実施例1と同様にして位相シフトマスクブランクを作製した。
作製した本比較例の位相シフトマスクブランクの上記遮光膜の表層部分の組成をX線光電子分光法で表面に対する検出器の傾きを30°として詳しく分析したところ、元素組成(原子%比)は、Cr:18.5、O:36.1、N:8.5、C:36.9であった。また、クロム原子数を基準としたときの原子数比は、O/Cr=1.94、N/Cr=0.46、C/Cr=1.99である。
光半透過膜及び遮光膜の光学濃度は、3.0であった。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率は20%であった。
また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記遮光膜の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.56nmであった。
【0087】
また、本比較例における上記遮光膜をXPSにより分析した結果を前述の
図3の(b)および
図4の(b)に示しているが、O1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ532eV付近にある第1のピークと530eV付近にある第2のピークとに分離したときに、第2のピーク面積に対する第1のピーク面積の割合が1.4であった。また、C1sスペクトルにおいては、炭酸塩のピークがほとんどなかった。この分析結果から、主に酸化度の高いクロム酸化物(Cr
2O
3など)成分や若干の有機系酸素成分などを含むA成分の割合は58%、主に酸化度の低いクロム酸化物成分やクロム酸窒化物成分などを含むB成分の割合は42%であり、前述の実施例の結果と対比すると、相対的にA成分の割合が低く、B成分の割合が高い。
【0088】
次に、実施例1と同様に、上記の位相シフトマスクブランクを用いて、ハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。
実施例1と同様にして、上記マスクブランク上にレジストパターンを形成したが、このとき、レジストとの密着性が不十分であることが原因であると考えられるレジストパターンの倒れや欠けが一部に発生していた。また、LSパターン、SRAFパターンを確認したが、ハーフピッチ45nmの微細パターンが十分に解像されていなかった。
得られた位相シフトマスクにおいても、位相シフト膜パターンのCD変化量は、上記レジストパターンの欠陥が原因で、10nm以上と大きく、半導体デザインルールhp45世代以降の転写用マスクとして使用することは困難である。
【0089】
(実施例5)
合成石英ガラスからなる透光性基板上に、枚葉式スパッタ装置を用いて、スパッタターゲットにタンタル(Ta)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)の混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、TaN膜(膜組成 Ta=85原子%,N=15原子%)を膜厚42nmで成膜し、引き続いて、Taターゲットを用い、アルゴン(Ar)と酸素(O
2)の混合ガス雰囲気で、TaO膜(膜組成 Ta=42原子%,O=58原子%)を膜厚9nmで成膜することにより、TaN膜とTaO膜の積層からなるArFエキシマレーザー(波長193nm)用遮光膜を形成した。なお、各層の膜組成は、AES(オージェ電子分光法)による分析結果である。
【0090】
ArFエキシマレーザーに対する遮光膜の光学濃度は3.0であった。また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記遮光膜の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.27nmであった。
【0091】
次に、ガラス基板上にTa系遮光膜を成膜したマスクブランクに対し、実施例1と同じ条件で、高濃度オゾンガス(100体積%)とエチレンガスによる処理を施した。
以上のようにして、ガラス基板上にTa系遮光膜を有するバイナリマスクブランクを作製した。
【0092】
作製されたバイナリマスクブランクの上記Ta系遮光膜の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、Ta系遮光膜の表層部分に厚さ略1.5nmの被膜(表面改質層)が形成されていた。
また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記表面改質層の表面の表面粗さを測定したところ、表面粗さの劣化はなかった。
また、断面TEM観察を行ったところ、処理前後で、表面粗さ及びグレインサイズはほとんど変わらないことが確認された。
【0093】
次に、上記のバイナリ用マスクブランクを用いて、バイナリマスクを作製した。
まず、上記マスクブランク上に、膜厚が100nmの電子線描画用化学増幅型ネガレジスト膜を形成した。その後、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。このとき、レジストパターンの倒れや欠けは発生しなかった。LSパターン、SRAFパターンを確認したが、ハーフピッチ32nmの微細パターンが解像されていた。
【0094】
次に、上記レジストパターンをマスクとして、フッ素系(CF
4)ガスを用いたドライエッチングを行い、TaO膜パターンを形成した。続いて、塩素系(Cl
2)ガスを用いたドライエッチングを行い、TaN膜パターンを形成した。さらに,30%の追加エッチングを行い、基板1上にTaO膜パターン及びTaN膜パターンの積層膜からなる遮光膜パターンを形成した。続いて、遮光膜パターン上のレジストパターンを剥離した。
こうして得られたTa系バイナリマスクは、32nmハーフピッチの微細パターンが良好なパターン精度で形成されていた。