特許第5799069号(P5799069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カヤバ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5799069-緩衝器 図000002
  • 特許5799069-緩衝器 図000003
  • 特許5799069-緩衝器 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799069
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/58 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
   F16F9/58 B
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-210641(P2013-210641)
(22)【出願日】2013年10月8日
(65)【公開番号】特開2015-75147(P2015-75147A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2015年6月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】福井 孝弘
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平3−277841(JP,A)
【文献】 特開2001−50329(JP,A)
【文献】 実開昭57−107608(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00−9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の筒状の外筒と、
上記外筒内に軸方向に移動可能に挿入されるロッドと、
上記外筒から突出する上記ロッドの外周に取り付けられるバンプクッションと、
キャップ状に形成されて上記外筒の軸方向の一端に嵌合され、最圧縮時に上記バンプクッションに突き当たる合成樹脂製のバンプストッパと、
上記外筒と上記バンプストッパとの間に配置されるとともに、上記外筒の金属面に接触する犠牲腐食体を備え、
上記犠牲腐食体は、上記外筒よりもイオン化傾向が高い金属からなる
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
上記外筒は、塗装後に上記金属面が露出する未塗装部分を有し、
上記犠牲腐食体は、上記未塗装部分に接触する
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
上記外筒と上記バンプストッパとの間に介装される中間部材を備え、
上記中間部材に上記犠牲腐食体が形成される
ことを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。
【請求項4】
上記犠牲腐食体が形成される上記中間部材は、インサート成形により、上記バンプストッパと一体化される
ことを特徴とする請求項に記載の緩衝器。
【請求項5】
上記犠牲腐食体が形成される上記中間部材は、上記バンプストッパと上記外筒との間に挟まれて保持される
ことを特徴とする請求項に記載の緩衝器。
【請求項6】
上記外筒と上記中間部材が鉄からなり、上記犠牲腐食体が亜鉛からなる
ことを特徴とする請求項3から請求項5の何れか一項に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
筒状の外筒と、この外筒内に軸方向に移動可能に挿入されるロッドとを備え、外筒とロッドの軸方向の相対移動を抑制する減衰力を発生する緩衝器の中には、外筒から突出するロッドの外周に取り付けられるバンプクッションと、外筒の一端に嵌合されるバンプストッパとを備え、最圧縮時にバンプクッションをバンプストッパに突き当てて、上記最圧縮時の衝撃を吸収するものがある。また、特許文献1には、合成樹脂製のバンプストッパが開示されており、当該バンプストッパを利用することで緩衝器を軽量化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−50329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、外筒が鉄で形成される場合には、その外周面に防錆用の塗装が施されることが一般的である。例えば、上記防錆用の塗装を、安価且つ容易な浸漬塗りで行う場合、外筒内への塗料の浸入を防ぐため、外筒のロッド突出側端部に未塗装部ができる。当該未塗装部は、バンプストッパで覆われるものの、合成樹脂製のバンプストッパには防錆効果がない。このため、鉄が露出する未塗装部分で外筒の腐食が進行し、腐食生成物が滲み出して外観を悪化させたり、バンプストッパを劣化させたりする不具合がある。また、外筒の未塗装部をなくすため、例えば、塗装方法をハケ塗りや、電着塗装、紛体塗装等に替えると、人件費や設備費が格段に高くなる。このような不具合は、外筒が鉄以外の金属であっても、塗装以外の方法で防錆対策をとる場合であっても、バンプストッパを嵌合する外筒の一端に、他の部分と同じ防錆処理が困難である場合に起こり得る。
【0005】
そこで、本発明の目的は、バンプストッパが嵌合する外筒の一端に金属が露出する部分ができたとしても、当該部分の腐食を抑制することが容易に可能な緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段における緩衝器は、金属製の筒状の外筒と、上記外筒内に軸方向に移動可能に挿入されるロッドと、上記外筒から突出する上記ロッドの外周に取り付けられるバンプクッションと、キャップ状に形成されて上記外筒の軸方向の一端に嵌合され、最圧縮時に上記バンプクッションに突き当たる合成樹脂製のバンプストッパと、上記外筒と上記バンプストッパとの間に配置されるとともに、上記外筒の金属面に接触する犠牲腐食体を備え、上記犠牲腐食体は、上記外筒よりもイオン化傾向が高い金属からなることを特徴とする
【発明の効果】
【0007】
本発明の緩衝器によれば、バンプストッパが嵌合する外筒の一端に金属が露出する部分ができたとしても、当該部分の腐食を抑制することが容易に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態に係る緩衝器を部分的に切欠いて示した正面図である。
図2図1の主要部を拡大して示した図である。
図3】本発明の他の実施の形態に係る緩衝器の主要部を拡大し、部分的に切欠いて示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の一実施の形態に係る緩衝器について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0010】
図1に示すように、本実施の形態に係る緩衝器Dは、金属製の筒状の外筒1と、この外筒1内に軸方向に移動可能に挿入されるロッド2と、上記外筒1から突出する上記ロッド2の外周に取り付けられるバンプクッション3と、キャップ状に形成されて上記外筒1の軸方向の一端に嵌合される合成樹脂製のバンプストッパ4とを備え、最圧縮時に上記バンプクッション3を上記バンプストッパ4に突き当てて上記最圧縮時の衝撃を緩和する。さらに、図2に示すように、緩衝器Dは、上記外筒1と上記バンプストッパ4との間に配置されるとともに、上記外筒1の金属面Mに接触する犠牲腐食体5を備えており、当該犠牲腐食体5は、上記外筒1よりもイオン化傾向が高い金属からなる。
【0011】
以下、詳細に説明すると、本実施の形態において、緩衝器Dは、自動車における車体と車輪との間に介装されており、図1に示すように、外筒1から突出するロッド2の突端部が車体側マウント20を介して車体側に連結されるとともに、外筒1がその外周に溶接固定されるブラケット10を介して車輪側に連結されている。このため、路面凹凸による衝撃が車輪に入力されると、ロッド2が外筒1に出入りして緩衝器Dが伸縮作動する。なお、本実施の形態において、ロッド2が車体側に連結されるとともに、外筒1が車輪側に連結されて緩衝器Dが正立型に設定されているが、ロッド2が車輪側に連結されるとともに、外筒1が車体側に連結されて緩衝器Dが倒立型に設定されるとしてもよい。また、緩衝器Dは、自動車以外に利用されるとしてもよい。
【0012】
さらに、具体的に図示しないが、緩衝器Dは、外筒1内に挿入されるロッド2の下端に保持されるとともに外筒1の内周面に摺接するピストンと、外筒1内にピストンで区画され作動流体が充填される二つの部屋と、これらの部屋を連通する通路と、この通路を通過する作動流体の流れに抵抗を与える減衰弁とを備えている。そして、緩衝器Dの伸縮作動時において、縮小される一方の部屋の作動流体が通路を通過して拡大する他方の部屋に移動するので、緩衝器Dは、作動流体が上記通路を通過する際の減衰弁の抵抗に起因する減衰力を発生する。作動流体として、油、水、水溶液等の液体や、気体等、各種流体が利用可能である。また、緩衝器Dは、外筒1内に起立するシリンダを備える複筒型緩衝器であるとしてもよく、ピストンの両側にロッド2が起立する両ロッド型緩衝器であるとしてもよい。
【0013】
さらに、緩衝器Dは、外筒1から突出するロッド2の上部外周に取り付けられるバンプクッション3と、キャップ状に形成されて外筒1の上端に嵌合される合成樹脂製のバンプストッパ4とを備えており、ロッド2が外筒1に最大限進入する緩衝器Dの最圧縮時に、バンプクッション3をバンプストッパ4に突き当てて、最圧縮時の衝撃を吸収して緩和できるようになっている。つまり、緩衝器Dの最圧縮時に、バンプクッション3がバンプストッパ4に衝合して弾性変形することで、運動エネルギを弾性エネルギに変換して、緩衝器Dの最圧縮時の衝撃を吸収緩和する。本実施の形態において、バンプクッション3は、合成樹脂やゴム等で形成されているが、コイルスプリングからなるとしてもよい。
【0014】
つづいて、バンプストッパ4が嵌合する外筒1は、鉄で形成されており、その外周に上記ブラケット10や、懸架ばねSの下端を支持する皿状のばね受け11が溶接固定されている。上記したように、外筒1を鉄で形成することにより、ブラケット10やばね受け11の溶接を容易にすることが可能となり、当該溶接作業の後に防錆用の塗装が施される。当該塗装方法は、如何なる方法であってもよいが、塗装後、外筒1の上端部に金属(本実施の形態においては、鉄)面Mが露出している部分ができる。また、外筒1の上端は、内側に加締められており、当該加締め部1aでロッド2の外周を塞ぐシール12を押さえている。本実施の形態において、金属面Mが露出する未塗装部は、加締め部1aと、この加締め部1aに連なる筒状部1bの上端にかけて形成されている。図1,2,3中点線Lは、外筒1の外周における金属面Mと塗装面(符示せず)の境界を示している。
【0015】
そして、上記外筒1に嵌合されるバンプストッパ4で、上記外筒1の未塗装部分を覆うようになっている。バンプストッパ4は、環板状の頂部4aと、この頂部4aの外周縁に起立する筒状の筒部4bと、この筒部4bの内周に軸方向に延び周方向に複数配置される一以上のリブ4cとを備えて、キャップ状に形成されている。また、上記頂部4aには、中心部にロッド2の挿通を許容する中心孔4dが形成されている。また、リブ4cは、バンプストッパ4を外筒1に嵌合する際、外筒1の外周面に押し付けられ、バンプストッパ4が外筒1から抜けることを阻止できるようになっている。
【0016】
また、本実施の形態において、頂部4aと筒部4bとリブ4cは、同じ合成樹脂で一体形成されているが、異なる合成樹脂で形成され、インサート成形により一体化されるとしてもよい。また、特に、頂部4aは、最圧縮時にバンプクッション3と衝合するので、耐久性と高い強度を実現するべく、合成樹脂にガラス繊維や炭素繊維を混入させた強化合成樹脂材料で形成されるとしてもよく、合成樹脂には、このような樹脂も含まれる。また、リブ4cは、二以上であればよい。
【0017】
上記バンプストッパ4の内側には、外筒1の金属面Mが露出する未塗装部分に接触するように、金属製の中間部材6が取り付けられている。本実施の形態において、中間部材6は、鉄からなり、図2に示すように、その外表面に犠牲腐食体5のめっきが施されるとともに、インサート成形によりバンプストッパ4と一体化されている。具体的には、バンプストッパ4を形成する型内に犠牲腐食体5のめっきが施された中間部材6をインサートしておき、型にバンプストッパ4の素材となる合成樹脂材料を流し込むことで、バンプストッパ4の形成と同時に、バンプストッパ4と中間部材6及び犠牲腐食体5が一体化される。
【0018】
本実施の形態において、犠牲腐食体5は、亜鉛であり、鉄からなる外筒1及び中間部材6よりもイオン化傾向が高い。このため、犠牲腐食体5は、当該犠牲腐食体5と接触する外筒1及び中間部材6よりも優先的に腐食して、外筒1及び中間部材6が腐食することを抑制する。また、本実施の形態において、中間部材6は、キャップ状に形成されており、外筒1の金属面(未塗装部分)Mを覆うようになっているが、外筒1の金属面M全体に犠牲腐食体5が接触している必要はない。このため、犠牲腐食体5のめっきが施される中間部材6が複数パーツからなるとしてもよく、中間部材6の形状は適宜変更することができる。また、中間部材6の外表面全体に、犠牲腐食体5のめっきを施す必要もなく、外筒1の金属面Mと接触する部分に施されていればよい。
【0019】
以下、本実施の形態に係る緩衝器Dの作用効果について説明する。
【0020】
本実施の形態において、外筒1と中間部材6が鉄からなり、犠牲腐食体5が亜鉛からなる。
【0021】
上記構成によれば、犠牲腐食体5が亜鉛からなるので、腐食したとしても、腐食部分が白く変色するのみである。このため、犠牲腐食体5が腐食したとしても、鉄が腐食した時のように、赤茶色に変色したり、腐食生成物が滲み出たりして外観を著しく悪化させることがない。また、外筒1が鉄からなるので、外筒1を安価且つ容易に形成できるとともに、特に、本実施の形態のように、ブラケット10やばね受け11等の周辺部品を外筒1に溶接する場合には、外筒1と周辺部品との溶接性を良好にできるので有効である。また、中間部材6が鉄からなるので、中間部材6を安価且つ容易に形成できるとともに、犠牲腐食体としての亜鉛めっきを容易に施すことができる。
【0022】
なお、外筒1、中間部材6、犠牲腐食体5を形成する金属は、上記の限りではなく、外筒1や中間部材6を形成する金属のイオン化傾向よりも、犠牲腐食体5を形成する金属のイオン化傾向が高ければよい。このため、犠牲腐食体5よりもイオン化傾向が低ければ、外筒1と中間部材6が異なる素材で形成されていてもよい。
【0023】
また、本実施の形態において、犠牲腐食体5からなるめっきが施された中間部材6は、インサート成形により、バンプストッパ4と一体化されている。
【0024】
上記構成によれば、バンプストッパ4を形成した時に、同時に、バンプストッパ4に中間部材6を取り付け、バンプストッパ4と犠牲腐食体5とを一体化できる。このため、外筒1とバンプストッパ4との間に犠牲腐食体5を介装し忘れるといった不具合の発生がなく、外筒1の未塗装部分の腐食を犠牲腐食体5で確実に抑制できる。また、犠牲腐食体5からなるめっきが施された中間部材6が、インサート成形によりバンプストッパ4と一体化されるので、上記中間部材6を複数のパーツで構成するとしてもよく、中間部材6の形状を自由に選択できる。
【0025】
なお、犠牲腐食体5の取り付け方法は、適宜変更することが可能であり、例えば、図3に示すように、バンプストッパ4と、犠牲腐食体5のめっきが施された中間部材6とを別体として形成し、バンプストッパ4と外筒1とで挟んで保持するとしてもよい。この場合、中間部材6を環板状に形成することで、緩衝器Dへの取り付け作業を容易にできるとともに、例えば、中間部材6として、市販の亜鉛めっきワッシャを利用することも可能であり、緩衝器Dを安価にすることが可能である。
【0026】
また、本実施の形態において、緩衝器Dは、外筒1とバンプストッパ4との間に介装される中間部材6を備えており、この中間部材6に犠牲腐食体5からなるめっきが施されている。
【0027】
上記構成によれば、犠牲腐食体5の使用量を抑えることが可能となり、緩衝器Dを安価にすることが可能となる。なお、中間部材6を利用せずに、犠牲腐食体5で形成されるプレートを外筒1とバンプストッパ4との間に挟んで保持したり、外筒1の金属面Mに張り付けたりするとしてもよく、この場合には、中間部材6を廃することができる。
【0028】
また、本実施の形態において、緩衝器Dは、外筒1とバンプストッパ4との間に配置されるとともに、外筒1の金属面Mに接触する犠牲腐食体5を備え、当該犠牲腐食体5は、上記外筒1よりもイオン化傾向が高い金属からなる。
【0029】
上記構成によれば、外筒1の金属面Mに接触する犠牲腐食体5が、外筒1の未塗装部よりも優先的に腐食して、当該未塗装部分の腐食を抑制できる。つまり、バンプストッパ4を嵌合する外筒1の一端に他の部分と同じ防錆処理(本実施の形態においては、塗装)ができず、金属が露出する部分ができたとしても、当該部分の腐食を犠牲腐食体5で容易に抑制することが可能となる。
【0030】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【符号の説明】
【0031】
D 緩衝器
M 金属面
1 外筒
2 ロッド
3 バンプクッション
4 バンプストッパ
5 犠牲腐食体
6 中間部材
図1
図2
図3