特許第5799084号(P5799084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5799084血液適合性合成材料を得る方法およびこれにより得られる材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799084
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】血液適合性合成材料を得る方法およびこれにより得られる材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/00 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
   A61L27/00 V
   A61L27/00 Y
【請求項の数】14
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-505520(P2013-505520)
(86)(22)【出願日】2011年4月6日
(65)【公表番号】特表2013-524910(P2013-524910A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】FR2011050768
(87)【国際公開番号】WO2011131887
(87)【国際公開日】20111027
【審査請求日】2014年3月18日
(31)【優先権主張番号】1001724
(32)【優先日】2010年4月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512260750
【氏名又は名称】カルマ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】メロ、マリオン
(72)【発明者】
【氏名】カぺル、アントワーヌ
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−515579(JP,A)
【文献】 特表2005−531355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマである合成基材と、免疫反応を避けるためにグルタルアルデヒドなどを用いて化学的に固定された、動物の心膜から作られたものなどの動物の生体組織とを含み、この脱水された動物の生体組織を、前記合成基材の構成要素の材料を溶媒に分散したものを用い、前記合成基材に貼り付け、その結果、構成要素の材料が前記動物の生体組織に含浸し、その後、前記溶媒が除去されるものであって、
脱水が、ポリエチレングリコールを少なくとも80重量%含む溶媒から作られた溶液に動物の生体組織を浸すことによる化学的方法によってのみ得ることを特徴とする、血液適合性材料を製造する方法。
【請求項2】
前記溶液は、少なくとも90wt%のポリエチレングリコールを含む水溶液で構成されている請求項1に記載の血液適合性材料を製造する方法。
【請求項3】
前記溶液が、少なくとも80重量%のポリエチレングリコールと10重量%のアルコールとを含む水溶液であることを特徴とする、請求項1に記載の血液適合性材料を製造する方法。
【請求項4】
前記溶液のポリエチレングリコールが、100〜800の分子量を示すことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液適合性材料を製造する方法。
【請求項5】
前記溶液に動物の生体組織を浸す時間が約24時間であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液適合性材料を製造する方法。
【請求項6】
前記溶液が、少なくとも室温に等しい温度を示し、前記動物の生体組織を浸す間撹拌されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液適合性材料を製造する方法。
【請求項7】
前記溶液に浸した後に、前記動物の生体組織に過剰なポリエチレングリコール溶液が含浸することを、前記合成基材の上に前記動物の生体組織を貼り付ける前に止めることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の血液適合性材料を製造する方法。
【請求項8】
前記溶液に浸した後で、前記合成基材を貼り付ける前に、前記動物の生体組織を少なくとも室温に等しい温度で数時間乾燥させることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法血液適合性材料を製造する方法。
【請求項9】
前記溶液に浸した後で、前記合成基材を貼り付ける前に、前記動物の生体組織のうち、前記合成基材に近い方の側面に、揮発性であり、脱脂し、乾燥する溶媒を塗布することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の血液適合性材料を製造する方法
【請求項10】
前記脱脂し、乾燥する溶媒が、アセトンおよびエーテルから選択されることを特徴とする、請求項9に記載の血液適合性材料を製造する方法。
【請求項11】
前記合成基材の構成材料の分散物から前記溶媒を除去した直後に、前記血液適合性材料を再水和することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の血液適合性材料を製造する方法。
【請求項12】
前記合成基材の構成材料の分散物から前記溶媒を除去してからしばらくたった後に、前記血液適合性材料を再水和することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の血液適合性材料を製造する方法。
【請求項13】
前記合成基材の構成材料の分散物から前記溶媒を除去した後に、前記血液適合性材料を脱水状態で保持し、使用直前に再水和することを特徴とする、請求項12に記載の血液適合性材料を製造する方法。
【請求項14】
前記合成基材の構成材料の分散物から前記溶媒を除去した後に、血液適合性材料をポリエチレングリコール溶液中で保持し、使用直前に再水和することを特徴とする、請求項12に記載の血液適合性材料を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液適合性複合材料を得る方法およびこの方法を実施することによって得られる血液適合性複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
血液は、非常に感受性のある液体の生体組織であり、化学物質に触れるか、または、機械的な強制力にさらされると(例えば、せん断すると)簡単に変化してしまうことが知られており、血液は、不活性材料の大部分と接触すると凝固し、または血流が止まることによっても凝固する。実際に、血液適合性材料はごくわずかしか存在せず、そのほとんどは、その血液適合性材料を身に付けた患者が抗凝固剤を摂取する必要がある。
【0003】
さらに、(例えば、文献の米国特許第5,135,539号を参照)人工心室が血液適合性材料の可撓性膜を含んでおり、血液を動かすような液体の衝撃によって操作される人工心臓が存在することが知られている。この場合、この膜が可動式であり、複合体と接触し、血流を乱してしまうことが多いという事実のため、この膜は血液適合性であることが特に重要である。
【0004】
最先端技術では、実質的に血液適合性の材料が知られており、この材料は、合成されたものであるか、または生体由来である。
【0005】
合成材料は、一般的に、ポリウレタンまたはシリコンのエラストマであり、この合成材料は、血小板または血液の付着を減らすような平滑面とともに使用されるか、または、生体層が付着し、血液との界面として機能するように変えることができるような多孔性表面とともに使用される。このような合成材料は、優れた可撓性、不浸透性、変形能を示すが、抗凝固剤を使用する必要がある。
【0006】
生体由来の材料は、動物の組織であるか、または、生体材料から再構成したものである(例えば、コラーゲン)。動物系の組織は、ヒトの体内に移植することを目的とする場合、免疫反応を避けるために、化学的に固定しなければならない(ほとんどの場合グルタルアルデヒドを用いることが多い)。このような処理を実施した生体材料は、一般的に、優れた血液適合性を示し、患者は何にせよ抗凝固剤を必要としないが、この材料は完全に不浸透性ではない。
【0007】
これとは対照的に、合成材料(いわゆる、血液適合性のある移植可能な材料)は、一般的に興味深い機械特性と不浸透性をもつが、厳格に抗凝固処置をしなければ、血流に使用できない。
【0008】
合成材料の良好な機械特性と不浸透性、生体由来材料の良好な血液適合性の利点を利用するために、文献の米国特許第5,135,539号は、合成材料膜および生体由来の膜を重ね合わせたものを提示している。しかし、このような配置にすると、膜の間に空間ができてしまい、望ましくない感染や液体が集まる原因となってしまうことがある。
【0009】
上述の技術の欠点を改善するために、欧州特許第1,785,154号には、耐性があり、可撓性かつ不浸透性の合成材料(例えば、ポリウレタンまたはシリコンのエラストマから作られる材料)と動物の生体組織(例えば、動物の心膜)とを含む血液適合性材料が記載されており、この生体組織は、上の基材の構成材料を溶媒に分散させたものを用いて基材と一体化するように作られ、この構成材料を動物の生体組織に含浸している。
【0010】
従って、文献の欧州特許第1,785,154号によれば、複合材料が得られ、この複合材料の血液適合性は、生体組織によって与えられ、一方、機械的な耐性および不浸透性は、合成基材によってもたらされる。さらに、この生体組織が動物の心膜(例えば、ウシ心膜)で構成されているとき、生体組織自体が耐性体であり、上記複合材料の機械的耐性に関与することも注記すべきである。
【0011】
上記分散物を用いて合成基材の上に動物の生体組織を融合させるために、動物の生体組織を脱水することが不可欠である。そのために、文献の欧州特許第1,785,154号には、動物の生体組織を凍結乾燥することが想定されており、凍結乾燥によって、動物の生体組織を脱水するだけではなく、生体組織の三次元構造を脱水後にも保持することができる。実際に、生体組織を従来の条件で脱水すると、構成要素であるコラーゲン繊維が互いに接触し、不可逆な化学反応が起こり、生体組織をその後に再水和することができなくなる。これとは対照的に、凍結乾燥すると、凍結することによって動物の生体組織構造を固定し、その後に非常に低圧で昇華によって水を除去することができるため、繊維が移動したり、再整列してしまう可能性がない。しかし、凍結乾燥工程は長時間であり(少なくとも96時間)、特殊かつ高価な設備で行う必要がある。さらに、完全に脱水してはならないため、凍結乾燥手順は繊細であり、そうしなければ、動物の生体組織が修復できないほど損傷してしまうだろう。ここで、脱水効率は、生体組織の厚みおよび性質によって変わり、その結果、熟練するのが困難であり、凍結工程は、必然的にかなり多くの割合の無駄を伴う。さらに、このように動物の生体組織を不完全に脱水すると、生体組織が不安定になり、その結果、凍結乾燥条件での生体組織の保存および輸送が複雑化し、真空状態で保存する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,135,539号
【特許文献2】欧州特許第1,785,154号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】RAMSHAW J.A.M.et al.“Precipitation of collagens by polyethylene glycols”, Analytical Biochemistry, Academic Press Inc., New York, vol. 141, No. 2, 1st Setember of 1984, pp.361-365, XP000600467)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、この欠点を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的のために、本発明によれば、エラストマである合成基材と、免疫反応を避けるためにグルタルアルデヒドなどを用いて化学的に固定された、動物の心膜から作られたものなどの動物の生体組織とを含み、動物の組織が脱水され、この脱水された動物の生体組織を、この合成基材の構成要素の材料を溶媒に分散したものを用い、合成基材に貼り付け、その結果、構成要素の材料を動物の生体組織に含浸し、その後、溶媒が除去される血液適合性材料を製造する方法は、脱水が、ポリエチレングリコールを少なくとも80重量%含む溶媒から作られた溶液に動物の生体組織を浸すことによる化学的方法によってしか得られないという点で注目に値する。
【0016】
従って、このポリエチレングリコールを少なくとも80重量%含む溶媒によって、動物の生体組織の膜を迅速に(約24時間で)得ることができ、この溶媒は水を含まず、この要件は合成基材に貼り付けるのに必須であるが、組織が変形せず、表面が収縮することなく、完全に再水和することができる。ポリエチレングリコールは、組織の三次元構造を覆うものとして作用し、そのため、埃から保護する透明な包装に入れ、20℃(±2℃)の周囲温度で保存することができる。さらに、ポリエチレングリコールは、簡単に洗い流され、環境にとっても操作者にとっても無毒であり、生体適合性である。最後に、ポリエチレングリコールは、貼り付け操作のときに、エラストマが分散物の状態で生体組織に浸透していくのをいかなる方法でも妨害しない。
【0017】
文献の欧州特許第1,785,154号の方法では、凍結乾燥したときに組織の構造保護性をさらに高めるために、動物の生体組織を前もってポリエチレングリコールで数日間処理することが提示されていることも注記しておく。しかし、この処理は長期間かけて行われ、そのとき、ポリエチレングリコール溶媒を低濃度で(水94重量%中、ポリエチレングリコール約6重量%)用いるのは、単に、凍結乾燥のときに動物の生体組織の構造を保護しやすくする目的であり、動物の生体組織を脱水することには関係なく、この脱水は、完全に凍結乾燥工程によって得られるということを注記しておくべきである。
【0018】
さらに、ラムショウ ジェイ.エイ.エム.らの文献「ポリエチレングリコールによるコラーゲンの沈殿」(ニューヨークのアナリティカル バイオケミストリー アカデミック プレス株式会社による1984年9月1日第2刷発行の第141巻の361〜365ページ、XP000600467参照)(RAMSHAW J.A.M. et al. “Precipitation of collagens by polyethylene glycols”, Analytical Biochemistry, Academic Press Inc., New York, vol. 141, No.2, 1st September of 1984, pp. 361-365, XP000600467)は、
・コラーゲンであり、動物組織ではないこと;
・液体媒体中でコラーゲンが沈殿し、支持体の上に貼り付けないこと;
・ポリエチレングリコールによってコラーゲンが沈殿し、ポリエチレングリコールによって動物の生体組織を脱水しないことに関する。
【0019】
しかし、この文献には、上述の結果を、少なくとも80重量%のポリエチレングリコールの溶媒から作られる溶液に浸して動物の生体組織を脱水することによって、動物の生体組織を凍結乾燥しつつ脱水することと置き換える、同じ結果になるという記載も示唆もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の血液適合性複合材料を得るために、以下の基本的な工程を実施する。
【0021】
1.第1に、既知の方法で、動物の生体組織(好ましくは心膜から作られるもの)を、任意の適切な生成物(例えばアルデヒド)によって化学的に固定する。この場合に、好ましくはグルタルアルデヒドが、例えば、濃度0.625%で用いられる。この化学的な固定によって、生体組織にとって、抗原性がなく、化学的に安定であり、生物学的にも物理学的にも安定であり、特に、温度変化および機械的な強制力に耐性があることが保証される。
【0022】
2.次いで、少なくとも80重量%のポリエチレングリコール溶媒から作られた溶液に浸すことによる化学的な方法によって、動物の生体組織を脱水する。この溶液は、少なくとも90重量%のポリエチレングリコールを含む水溶液、または少なくとも80重量%のポリエチレングリコールと10重量%のアルコールとを含む水溶液であることが有利な点である。さらに、この溶液を作るために使用されるポリエチレングリコール(式HO−CH2−(CH2−O−CH2)n−CH2−OH)は、100〜800の分子量を示すことが有利な点である。
【0023】
動物の生体組織を上述の溶液に浸す時間は、約24時間であり、この浸漬の間、溶液にわずかに撹拌を加え、温度は、少なくとも室温に等しい(例えば、約37℃)であることが有利である。
【0024】
浸漬終了時に、動物の生体組織を溶液から取り出し、生体組織に過剰なポリエチレングリコール溶液が含浸するのを止める。
【0025】
3.さらに、可撓性合成基材、有利なものとしては、ポリウレタンまたはシリコンのエラストマから作られる基材の上に、基材の構成材料が溶媒に分散した層を堆積させる。例えば、基材がポリウレタンエラストマである場合、分散物は、ポリウレタンによって変わる溶媒中に生体適合性ポリウレタンを含み、溶媒は、ジメチルアセトアミドであってもよい。この分散物は、任意の既知の様式(コーティング、噴霧など)で基材に堆積させることができ、生体組織に対する血液適合性付着剤として機能するという目的がある。次いで、この血液適合性付着剤の層の上に、脱水した生体組織(上の分散物を用いて含浸される)を塗布し、基材の上に生体組織を機械的に付着させ、複合材料を得る。
【0026】
4.その後に、血液適合性付着剤の溶媒の除去は、例えば、加温乾燥、減圧下での加温乾燥および/または生理学的血清への加温抽出によって行われる。好ましくは、溶媒を取り除くのは、ゆっくりと加温して抽出(例えば、約40℃)の後、減圧下での抽出によって得られ、生理学的血清への抽出によって完結する。
【0027】
5.最後に、生理学的血清を用い、複合材料を再水和する。
【0028】
上述の基本的な工程1〜5に加え、本発明の方法は、ポリエチレングリコール溶液に動物の生体組織を浸す工程2の後で、可撓性合成基材に動物の生体組織を付着する工程3の前に、以下のような2つの追加工程のうち、1工程または2工程を含むことができる。
【0029】
6.ポリエチレングリコールに浸した動物の生体組織を制御された雰囲気下、数時間(例えば、24時間)かけ、少なくとも室温に近い温度(例えば、37℃)で乾燥させること。
【0030】
7.合成基材に貼り付けられる動物の生体組織の片側に、脱脂し、乾燥させる揮発性溶媒(例えば、アセトンまたはエーテル)を塗布すること。
【0031】
さらに、複合材料を再水和する工程5は、溶媒を除く工程4の直後、またはもっと後で実施することができる。この再水和を工程4の後に遅れて行う場合、複合材料は、
−使用時まで脱水状態で保持され、使用直前に再水和されることができ、または
−使用時まで、脱水工程2の溶媒と同じポリエチレングリコール溶媒中で保持され、使用直前に工程5の再水和を行うことができる。
【0032】
上述の保存様式がなんであれ、例えば、エチレンオキシドまたはγ−β線を用いる滅菌工程によって保存状態を向上させることができる。