【文献】
Bioresour. Technol.,2009年12月,vol.101, no.13,pp.4851-4861
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バイオマスが、稲藁、麦藁、綿の茎、サトウキビのバガス、ソルガムのバガス、トウモロコシの穂軸、トウモロコシの茎、トウモロコシの葉茎、トウモロコシ植物体、ヒマの茎、ホテイアオイ、森林廃棄物、紙廃棄物、および草、スイッチグラス、エレファントグラス、ススキ、トウモロコシ(corn)の穀粒、トウモロコシの穀粒外皮、麦の穀粒、麦の穀粒外皮、米の穀粒、米の穀粒外皮、トウモロコシ(maize)の穀粒、ソルガムの穀粒、トウジンビエの穀粒、およびライ麦の穀粒からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
前記所望の化合物が、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタンジオール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、グリセロール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール、フルフリルアルコール、酢酸、乳酸、プロピオン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、酪酸、グルコン酸、イタコン酸、クエン酸、コハク酸、レブリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチオニン、リシン、グリシン、アルギニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、メタン、エチレン、およびアセトンからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
前記微生物が、E. coli、Saccharomyces cerevisiae、Zymomonas mobilis、Pichia stiptis、Candida、Clostridium acetobutylicum、Acetobacter、Rhizopus oryzae、Lactobacillus、およびBacillus stearothermophilusからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
原油価格上昇の全般的傾向、および、来る数十年の間にその十分な供給があるか否かについての不確実さのために、代替の燃料および化学供給原材の探索が促進されている。バイオマス、より具体的にはリグノセルロース系のバイオマス(以下、LBMという)は、持続可能性が保証された、そのような供給原材の一つである。
【0003】
LBMは世界中の全バイオマスの50%を構成する。LBMは、産業廃棄物(紙産業)、林業廃棄物、自治体の固形廃棄物、および農業廃棄物として、大量に発生する。しかしながら、はるかに大きいLBM源は農産物である。穀物、豆類のような産物、および、綿、脂肪種子等のようなその他の産物を収穫した後の農業残余物の大半は、ほとんど使い道がなく、大部分は、棄てられて腐食するか、または一次エネルギーを供給するために直接燃やされる。
【0004】
リグノセルロース系のバイオマスは、植物の細胞壁の構造的成分としての、糖重合体であるセルロースおよびヘミセルロース、ならびに、それら重合体の架橋において結合剤として作用する成分であるリグニンから主に構成されている。リグニンはフェノール性の高分子であり、植物において水を輸送する上で重要な役割を果たす。さらに、リグニンが他の細胞壁構成成分と架橋することによって、微生物のセルロース分解性酵素に対するセルロースおよびヘミセルロースの接触可能性が最小限化され、それによって、有害生物や病原体に対する保護が付与される。
【0005】
セルロースは、β(1, 4)-グリコシド結合によって連結された何千分子ものグルコースからなる、直鎖状重合体である。セルロースにおけるグルコース鎖の直鎖性は、広範な鎖間水素結合をもたらし、ある程度の結晶度を付与し、よって重合体に剛性を提供する。一方でヘミセルロースは、分枝状重合体であり、D-ガラクトース、D-マンノース、D-グルコース、L-ガラクトース、L-ラムノースのようなヘキソース糖残基に加えて、D-キシロースおよびL-アラビノースのようなペントース糖残基、ならびに、D-グルクロン酸のようなウロン酸を含有する。
【0006】
植物の種および細胞の種類によって、LBM中のヘミセルロース、セルロース、およびリグニンの含量は様々であり、セルロースは35〜50%、ヘミセルロースは20〜35%、リグニンは10〜25%である。セルロースの密な結晶的性質、および、ヘミセルロースとリグニンとに対するその結合が、化学的および酵素的加水分解に対してそれを抵抗性にすることは、詳細に報告されている。
【0007】
LBMは、地球上で最大の再生可能供給原材であり、エネルギー、燃料、および化学製品のための貴重な供給原材として役立ち得る。直接的な燃焼によってLBMから一次エネルギーを引き出すことができ、バイオエネルギーのこの側面について、世界中で多大な努力がなされてきた。しかしながら、LBMに由来する燃料および化学製品には、はるかに高い利益があり、この先数十年間における燃料産業および化学産業の重要な一側面を形成する。燃料および化学製品のための基盤としてLBMを利用するためには、LBMを分解して、その重合体性構成成分(すなわち、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニン)のモノマー形態にする必要がある。
【0008】
リグニン、セルロース、およびヘミセルロースは、対応するオリゴマーまたはモノマー形態(例えばフェノール誘導体、およびグルコース、キシロース、アラビノース等のような糖)に加水分解することができ、これらが基盤分子として役立ち、これら基盤分子に基づいて、エタノール、ブタノール、メタンのような数多くの代替燃料、および、乳酸、コハク酸、レブリン酸、フルフラール誘導体、機能性フェノール重合体等のような化学物質を誘導することができる。
【0009】
LBMを燃料および/または化学製品に変換するための技術の開発において、世界中で2つの異なるアプローチが採用されてきた。概して、第1の主要な工程は、何らかの形の物理的、化学的、または物理化学的処理工程を使用してLBMの「隙間無く非浸透性である」性質を「緩ませる」過程を伴い、これは「前処理」過程と一般的に呼ばれる。1つのアプローチでは、LBMを前処理工程に付し、得られたバイオマスを化学的または生化学的変換過程に付し、この過程が、前処理されたLBMの混在した構成成分を所望の産物に変換する。第2のアプローチでは、構成成分(すなわち、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニン)が異なる割合で含まれる2つまたは3つの流れあるいは画分への分離または分画が起こるやり方で、LBMを「前処理」工程に付し、それらの成分が次の化学的および/または生化学的変換の工程に適用されやすいようにする。
【0010】
この前処理過程の主要な目的は、セルロースから糖を産生するための酵素的加水分解、および、その後の糖からエタノールへの発酵を改善させることである。酸加水分解、水熱前処理、自己加水分解、蒸気爆砕、湿式爆砕、脱リグニン化前処理、アルカリ処理、石灰とNaOHとによる前処理、アンモニア繊維爆砕(AFEX)、およびアンモニアリサイクル浸出(ARP)のような、様々な物理・化学・熱的方法が、バイオマスのための前処理技術として開発されてきた(SanchezとCardona, Bioresource Technology 99 (2008), 5270-5295;Florbela Carvallheiro, Luis C. DuarteおよびFrancisco M Girio, 2008, Journal of Scientific and Industrial Research, 67, (2008) 849-864)。
【0011】
これらの方法のそれぞれについて、多くの変型が、付随する利点および欠点とともに報告されてきた。イオン液処理はまだ研究段階にある一方、酸処理および水熱処理(例えば、それぞれ、希釈硫酸処理および蒸気爆砕)は、より安価な選択肢ではあるものの、結果物である糖の損失、および、下流にある過程(例えば酵素反応および発酵)の遂行に影響する副産物の形成を伴うという考えが、一般的に受け入れられている。
【0012】
水酸化ナトリウムおよびアンモニアの両方が、LBMアルカリ前処理に関して試みられてきた。水酸化ナトリウムの使用は広く報告されており、LBMから紙を製造することに用いられている。大量の水酸化ナトリウムが使用されることから、このアルカリをリサイクルすることが必須となる。アルカリリサイクルに付随する高費用は、生産される紙の代価に吸収される。しかしながら、バイオ燃料のような低コスト製品の生産においては、水酸化ナトリウムの使用は非経済的な選択肢となる。一方でアンモニアは、気体状の物質であって、より容易に回収可能であり、また、アンモニアの使用によって望ましい前処理がもたらされることも知られている。アンモニア繊維爆砕(AFEX)技術が、LBM前処理に関して報告されているが、蒸気爆砕過程と同様に、それはLBM構成要素、すなわちセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンの別々の流れを生じない。アンモニアを用いたLBMの前処理は、前処理過程の中でも最も穏やかなものであり、阻害物質の形成を伴うことなく、酵素によってバイオマスを糖へとさらに変換するという観点において高品質のバイオマスをもたらす。酸と比較してアンモニアは腐食性が低いことから、工業規模においてもその使用が有利となる。アンモニアは揮発性なので、水性アルカリ液およびイオン性液のような他の前処理剤と比較して、回収の容易さも提供する。
【0013】
Bishop C. T.とAdams G. A.(Canadian Journal of Research, B, 28 (1950) 753)は、無水液体アンモニアが麦藁に対して有する膨張作用を記述しており、この作用が、圧力解放とバイオマス洗浄の後に、セルロースおよびヘミセルロースを脱リグニン化させる。この著者らは、高圧バッチ接触における無水液体アンモニアが、麦藁中に存在するセルロース繊維を本質的に物理的に膨張させ、それが麦藁を緩ませ、溶媒(液体アンモニア、および麦藁中に生じる可溶性物質を除去するためにさらに使用される)に対する麦藁の可触性を上昇させることを発見した。この過程は、ずっと以前に報告されたものではあるが、後に報告され特許化されたAFEX過程に類似するものである。
【0014】
Bishop C. T.(Canadian Journal of Chemistry, 30 (1952), 4)は、麦藁ホロセルロース(セルロース+ヘミセルロース)に対する無水液体アンモニアの作用、および、麦藁ホロセルロースの8%を除去する無水液体アンモニアによる抽出を記述している。この文献はさらに、ポリウロニド物質の抽出に関しては無水液体アンモニアは良好な溶媒でないことを記述している。
【0015】
KimとLee(Bioresource Technology 96 (2005) 2007- 2013)は、トウモロコシ葉茎を、170℃にて10〜90分間、アンモニア水で前処理し、その後に熱水処理することを含む、アンモニアリサイクル浸出(ARP)過程を記述している。ARPは、本質的に、垂直なカラムまたはタンクの中で微粒子状のバイオマスのベッドを通してアンモニア水溶液を浸出させることを含む。この論文は、熱水処理浸出の後にARPを行って、最初の熱水工程でヘミセルロースの除去、それからARP工程でリグニンの除去をもたらすことを記述している。この2段階過程は、第1段階で84%のキシラン(ヘミセルロース)を、そして第2段階で75%のリグニンを得たことが報告されている。記述されているこの過程は、報告されている程度のリグニンをバイオマスから除去し、また、セルロース系残渣からのヘミセルロースの除去も完全ではない。Teymouriら(Bioresource Technology 96 (2005) 2014-2018)は、トウモロコシ葉茎をアンモニア繊維爆砕(AFEX)処理してバイオマスの消化性を高めることを記述しており、報告されているこの方法は、適度な温度および高圧の下で、数分間、バイオマスを液体無水アンモニアで処理すること、そしてその後に圧力を急速に解放することを含む。この過程は、リグニン-炭水化物複合体の開裂、および、セルロースの脱結晶化をもたらし、このことが、次の工程である糖化のために、バイオマスの表面積を増加させることとなる。報告されているこのAFEX過程では、構成成分、すなわちリグニン、ヘミセルロース、およびセルロースは、分離されないままで、発酵可能な糖を産生するためのさらなる過程に付される。
【0016】
Koら(Bioresource Technology 100 (2009) 4374-4380)は、稲藁のアンモニア水前処理により、リグニンを崩して除去し、稲藁の酵素消化性を高める過程を記述している。記述されているこの過程は、稲藁を、50℃〜70℃で4〜10時間、アンモニア水(12〜28%(w/w))に浸し、その前処理された稲藁を濾過することによってリグニンを除去することを含む。この過程はセルロースとヘミセルロースとを分画せず、さらに、上記過程後に得られたバイオマスを45℃で少なくとも3日間、真空乾燥させて、次に使用する時まで-70℃で貯蔵することを含む。固形スラリーの糖化および発酵を行って、エタノールを産生した。
【0017】
Kimら(Bioresource Technology 99 (2008) 5206-5215)は、蒸留穀物残渣に対する、pH調整液体熱水前処理(LHW)とアンモニア繊維爆砕(AFEX)処理との組合せを記述している。Kimらによって記述されているこの方法は、可溶性物質を伴う乾燥蒸留穀物残渣(DDGS)の酵素消化性を改善させ、24時間以内の加水分解で90%のセルロースをグルコースに変換する結果をもたらす。
【0018】
Liら(Bioresource Technology, 2009)は、エタノールを製造するために、飼料およびスイートソルガムのバガスをアンモニア繊維爆砕(AFEX)処理することを記述している。
【0019】
米国特許(US5037663)は、セルロース含有材料の反応性を増加させ、動物飼料材料を構成する細胞の中からのタンパク質の抽出を増加させ、セルロース含有材料の保水容量を増加させる過程を記述している。記述されたこの過程は、バイオマスを液体アンモニアで処理すること、および、約150〜500 psiaの圧力を適用することを含む。その後、圧力を大気圧まで急速に低下させる。この過程では、リグニン、セルロース、およびヘミセルロースが、処理後のバイオマス内部に残る。この過程は後にAFEXとして知られるようになった。
【0020】
もう一つの特許出願US20080008783は、水および/または熱および/または無水アンモニアおよび/または濃縮水酸化アンモニウムおよび/またはアンモニアガスの組合せでリグノセルロース系バイオマスを前処理して、バイオマス内の構造炭水化物(例えばセルロースおよびヘミセルロース)のセルロース分解性酵素作用に対する反応性を増加させる過程を記述している。
【0021】
US5037663およびUS20080008783に記述されている過程は、基本的にバイオマスの前処理過程であり、バイオマスを、リグニン、セルロースおよびヘミセルロースのような構成成分に分画することを試みていない。
【0022】
特許出願US20070031918、US20070031953、およびUS20090053770は、低濃度アンモニア水(2%(v/v)未満)で前処理したバイオマスを、糖化酵素の組合せを使用して糖化して発酵可能な糖を産生する過程、および、その糖をエタノールにさらに変換することを記述している。特許出願はまた、アンモニア(2%(v/v)未満)で前処理したバイオマスから、糖化酵素の組合せおよび生体触媒を使用して、発酵可能な糖を産生する、エタノール製造過程を記述している。この特許出願は、(2%(v/v)アンモニアを使用して)改善された前処理バイオマス産物を調製する過程を記述しており、そこでは、バイオマスを前処理した溶液を濾過して除去することにより、改善されたバイオマスが産生され、そのバイオマスがさらなる過程に付された。バイオマスを、その構成成分、すなわち、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンに分ける何らかの分画操作を記述することは、試みられていない。
【0023】
上記先行技術より、アンモニアの使用は主に2つの過程、すなわちアンモニア繊維爆砕(AFEX)過程あるいはアンモニア浸出(ARP)過程として、バイオマスの前処理に関して報告されてきたことが明らかとなる。その一方で他の文献は、30%未満の濃度でアンモニアを使用し、後に続く酵素加水分解のためにLBM構造を緩めさせることを試みているだけである。さらに、報告されてきたすべての過程の主要な結果および目的は、バイオマスを分画することではなくて、酵素加水分解および/または発酵のために使用できるような形態および性質のバイオマスを得ることである。従って、酵素加水分解または発酵のためには十分である部分的分離は報告されているものの、これらの過程は、バイオマスを3つの別個の構成要素、すなわちセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンに分離するという結果をもたらすものではない。要するに、先行技術に記述されているバイオマスの前処理の過程は、糖を得てそれをさらにエタノールに変換するために、処理後のバイオマスがセルロース分解性酵素による加水分解を受けやすいようにすることに力点が置かれている。いずれの先行技術においても、唯一の試薬としてアンモニア水を使用して、何らかのLBMから、リグニン、セルロース、およびヘミセルロースを3つの画分として分離することはなされていない。先行技術の過程は、従って、バイオマスを分画することを企図してもいないし含んでもいない。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書で使用される「バイオマス」という用語は、あらゆるセルロース系もしくはリグノセルロース系の物質、または、リグニン、ヘミセルロース、セルロース、もしくはこれらの組合せを含むあらゆる有機物を表す。それは、農業作物、作物残余物、作物の茎、植物、植物残余物、廃紙、産業廃棄物、紙パルプ、紙廃棄物、木綿廃棄物、稲藁、麦藁、トウモロコシ藁、米の穀粒および穀粒外皮、麦の穀粒および穀粒外皮、トウモロコシの穂軸、穀粒および穀粒外皮、草、トウモロコシの皮、ソルガムのバガス、サトウキビのバガス、果実、野菜、豆および穀物の収穫物、木材チップ、木質植物、ならびに藻類を含む。
【0039】
本明細書で使用される「リグノセルロース系」という用語は、リグニンおよびセルロースを含む物質または有機物を表す。リグノセルロース系バイオマスは、リグニンおよびセルロースに加えてヘミセルロースを含み得る。
【0040】
本明細書で使用される「セルロース系」という用語は、セルロースを含むか、またはセルロースおよびヘミセルロースを含む物質または有機物を表す。
【0041】
本明細書で使用される「分画」という用語は、バイオマスからのリグニン、セルロースおよびヘミセルロースの実質的な分離および回収を表す。
【0042】
本発明の主要な目的は、可溶性糖、糖アルコール、酸、フェノール類、燃料、およびその他の望ましい製品またはそれらの誘導体のような各種化合物を製造するために、バイオマスをリグニン、セルロースおよびヘミセルロースに分画するための、効率的で、費用効率が高くて、再現性のある方法を提供することである。
【0043】
本発明は、バイオマス(BM)を、リグニン、セルロース(単数または複数)、および/またはヘミセルロース(単数または複数)のような様々な構成成分に分画する方法を提供する。本発明は、アンモニア水を用いてバイオマスを分画する方法を提供し、ここで、セルロース、ヘミセルロース、および/またはリグニンが上記バイオマスから分画され、それらは、発酵可能な糖、エタノール、ブタノール、各種有機酸、フルフラール、フェノール類、およびその他の化合物のような様々な製品の製造に、さらに使用することができる。
【0044】
本発明は特に、アンモニア水を用いてバイオマスを分画し、3つの別個の流れとしてリグニン、セルロース、およびヘミセルロースの産生をもたらす方法を提供する。本発明の主要な目的は、セルロース、ヘミセルロース、および/またはリグニンのそれぞれを、90%超の純度で高収率にて回収することであり、それによって、これらのそれぞれが、燃料および化学製品用の貴重な構築ブロックを製造するための前駆体あるいは基盤として利用できるようになる。本発明はさらに、アンモニア水を使用してバイオマスを糖化する方法を提供する。さらに本発明は、アンモニア水を使用して、バイオマスからアルコールおよび様々な他の望ましい製品を製造する方法も提供する。
【0045】
本発明で開示される方法によって産生される画分、すなわちセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンの高い純度は、各画分のさらなる処理に関わる反応において、制御の促進、そしてそれゆえに収率の向上、分解産物の減少を保証することにもなる。
【0046】
先行技術に記載されている、糖およびアルコールの製造のためのバイオマスの前処理過程は、非常に遅く、前処理工程(糖化過程および発酵過程を除く)だけで1週間より長くかかるものもあり、有毒性または阻害性の化合物を生じ、所望の化合物(糖類等)を、容易に分離できない混合物として低い収率でもたらし、前処理後の下流過程で使用される酵素および/または微生物の阻害といった問題を呈する。
【0047】
本発明で開示される、リグニン、セルロース、およびヘミセルロースにバイオマスを分画する方法は、安定性があり、規模の変化が可能であり、費用効率が高い方法である。本発明で開示される、バイオマスを分画する方法は、非常に純粋なリグニン、セルロース、およびヘミセルロースを高い収率でもたらし、いかなる有毒性または阻害性の化合物も生じない。驚くべきことに、この方法は、構造的に複雑なバイオマスをリグニン、セルロース、およびヘミセルロースに分画するために1〜120分間しか必要とせず、リグニン、セルロース、およびヘミセルロースの商業的生産のための非常に経済的な方法をもたらし、これはかなりの額の資本設備費用および稼動費用の節約となり得る。このようにして得られたリグニン、セルロース、およびヘミセルロースは、可溶性糖、アルコール、酸、フェノール類、燃料、および様々な他の化合物を製造するために、さらに処理することができる。
【0048】
本発明で開示される、リグニン、セルロース、およびヘミセルロースにバイオマスを分画する方法、バイオマスを糖化する方法、ならびに、バイオマスからいずれかの所望の化合物を製造する方法は、連続式またはバッチ式の操作様式で実施することができる。
【0049】
先行技術よりも有利となる本発明の具体的な特徴は、以下の通りである。
1) バイオマスを、別々の産物としてリグニン、セルロース、およびヘミセルロースに分画する。
2) 実質的に(90%を超えて)純粋なリグニン、セルロース、およびヘミセルロースを産生する。
3) リグニン、セルロース、およびヘミセルロースのそれぞれの高い収率(85%超)をもたらす。
4) (下流の過程で使用される酵素および/または微生物にとって)有毒性または阻害性である物質を生じない。
5) 処理時間の短さのために、より少ない資本で済む。
6) 一貫した連続的過程に適合させることができる。
7) 糖およびアルコールの高い収率をもたらす。
8) 生じる廃液が少ない。
9) 安定性があり、規模を変化させることができる方法である。
10) かなりの処理時間短縮をもたらす。
11) 本発明で開示される方法は、規模を変化させられるため、リグニン、セルロース、ヘミセルロース、糖、アルコール、酸、フェノール類、および様々な他の望ましい製品の大規模商業的生産が可能である。
【0050】
さらに、本発明で開示されるバイオマスの分画方法は、バイオマスの種類に依存せず、この方法の機序はすべての種類のバイオマスについて同じである。
【0051】
バイオマスの上記分画は、別々の流れにおいて非常に純粋なリグニン、セルロースおよびヘミセルロースの産生をもたらすので、リグニン、セルロースおよびヘミセルロースのさらに下流の処理(例えば、所望の化合物を製造するための糖化および発酵)が容易であり、既知の方法と比較して所要時間がより短い。
【0052】
本発明で開示される方法を使用して得られたセルロースおよびヘミセルロースは、加水分解を非常に受けやすい。分画後に得られるセルロースは「オフホワイト」色であり[使用された原材料(麦藁色から濃い茶色まで)よりもはるかに色合いが明るい]、使用された原材料よりもはるかにきめ細かい繊維質感を有している。このセルロース繊維は均質であり、乾燥させると、高度に繊維性の絡み合った塊を形成する。
【0053】
ヘミセルロースは、沈殿させて乾燥させ、明るいベージュ色の細かい粉末を得ることができる。
【0054】
本発明の方法を使用して得たリグニンは、シリンガアルデヒド、安息香酸、およびベンズアルデヒドのような機能性フェノール類に熱化学的に変換させ、これらのフェノール類は、燃料炉油用のエネルギー増進添加剤として使用することができる。リグニンを熱分解または水熱処理して、石油代替物としての可能性を有するバイオ油を製造することもできる。
【0055】
このようにして得られたセルロースは、例えば硫酸のような酸またはセルラーゼのような酵素を用いて、そのオリゴマー(すなわちセロデキストリン)、モノマー(すなわちグルコース)へとさらに加水分解した。モノマーのグルコースは、発酵によってエタノール、ブタノール、およびクエン酸に変換させたり、化学還元によってソルビトールに変換させる等、様々な産物へとさらに変換させた。
【0056】
このようにして得られたヘミセルロースは、酸、またはヘミセルラーゼのような酵素によって、その構成モノマー(例えばキシロース、アラビノース、およびグルコース)へと加水分解した。キシロースのようなモノマーは、発酵によるエタノール製造のために使用することができる。キシロースは、化学的におよび/または生化学的に、非齲蝕原性の甘味料として使われるキシリトールに変換することができ、また、溶媒として使われるフルフラールに変換することができる。
【0057】
第1の実施態様の本発明によれば、バイオマスを分画してリグニン、セルロース、およびヘミセルロースを得る方法が提供され、この方法は、バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜30% (v/v)のアンモニア水と接触させて第1のバイオマススラリーを得ること、上記第1のバイオマススラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液、および、セルロースとヘミセルロースとを含む第1の残渣を得ること、上記第1の残渣を、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、30%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させて第2のバイオマススラリーを得ること、ならびに、上記第2のバイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、および、セルロースを含む第2の残渣を得ることを含む。
【0058】
本発明の第2の実施態様は、バイオマスを分画してセルロースおよびヘミセルロースを得る方法を提供し、この方法は、バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させてバイオマススラリーを得ること、ならびに、上記バイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液と、セルロースおよび/またはヘミセルロースを含む残渣とを得ることを含む。
【0059】
本発明の第3の実施態様は、バイオマスを分画してセルロースおよびヘミセルロースを得る方法を提供し、この方法は、バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させてバイオマススラリーを得ること、ならびに、上記バイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースおよび/またはリグニンを含む濾液と、セルロースおよび/またはヘミセルロースを含む残渣とを得ることを含む。
【0060】
本発明の第4の実施態様は、本発明で開示されているようにアンモニア水を用いてバイオマスを分画してセルロースおよびヘミセルロースを得る方法に関し、ここで、バイオマススラリーのpHは8〜14である。
【0061】
本発明の第5の実施態様は、アンモニア水を用いてバイオマスを分画してリグニン、セルロースおよびヘミセルロースを得る方法に関し、ここで、リグニンは、天然ポリマー、合成ポリマーおよび半合成ポリマー、電解質、ならびに酸からなる群から選択される1つ以上の高分子電解質を用いて沈殿される。
【0062】
本発明の第6の実施態様は、リグニンを沈殿させるための電解質を提供し、ここで、ここの電解質は、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、有機化合物、および無機化合物からなる群から選択される。
【0063】
本発明の第7の実施態様は、リグニン、セルロースおよびヘミセルロースに分画するためのバイオマスを提供し、ここで、このバイオマスは、稲藁、麦藁、綿の茎、サトウキビのバガス、ソルガムのバガス、トウモロコシの穂軸、トウモロコシの茎、トウモロコシの葉茎、トウモロコシの穀粒、トウモロコシ植物体、ヒマの茎、ホテイアオイ、森林廃棄物、紙廃棄物、および草、スイッチグラス、エレファントグラス、およびススキ、トウモロコシ(corn)の穀粒、麦の穀粒、米の穀粒、トウモロコシ(maize)の穀粒、ソルガムの穀粒、トウジンビエの穀粒、およびライ麦の穀粒からなる群から選択される。
【0064】
本発明の第8の実施態様は、バイオマスを分画してセルロースおよびヘミセルロースを得る方法を提供し、この方法は、バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させてバイオマススラリーを得ること、ならびに、上記バイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液と、セルロースおよび/またはヘミセルロースを含む残渣とを得ることを含み、ここで、上記バイオマスは非リグノセルロース系のバイオマスである。
【0065】
上記非リグノセルロース系バイオマスは、紙、紙廃棄物、微生物細胞塊、大型藻類細胞塊、および大型藻類バイオマスからなる群から選択される。
【0066】
本発明の第9の実施態様は、バイオマスを分画してセルロースおよびヘミセルロースを得る方法を提供し、この方法は、バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させてバイオマススラリーを得ること、ならびに、上記バイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液と、セルロースおよび/またはヘミセルロースを含む残渣とを得ることを含み、ここで、上記バイオマスは藻類である。
【0067】
本発明の第10の実施態様は、本発明で開示されているようにバイオマスを分画してセルロースおよびヘミセルロースを得る方法に関し、ここで、上記バイオマスの重量は、上記アンモニア水中0.5%〜25% (w/v)である。
【0068】
本発明の第11の実施態様は、本発明で開示されているようにバイオマスを分画してセルロースおよびヘミセルロースを得る方法に関し、この方法は、バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させてバイオマススラリーを得ることを含み、ここで、アンモニア水中でバイオマスを保持する時間は1〜120分間である。
【0069】
第12の実施態様は、本発明で開示されているようにバイオマスを分画してセルロースおよびヘミセルロースを得る方法に関し、この方法は、バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させてバイオマススラリーを得ることを含み、ここで、アンモニア水中でバイオマスを保持する時間は5〜30分間である。
【0070】
第13の実施態様は、バイオマスを分画してリグニン、セルロースおよびヘミセルロースを得る方法に関し、この方法は、バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜30% (v/v)のアンモニア水と接触させて第1のバイオマススラリーを得ること、上記第1のバイオマススラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液、および、セルロースとヘミセルロースとを含む第1の残渣を得ること、上記第1の残渣を、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、30%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させて第2のバイオマススラリーを得ること、ならびに、上記第2のバイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、および、セルロースを含む第2の残渣を得ることを含み、ここで、アンモニア水中で第1の残渣を保持する時間は1〜120分間であり、好ましくは5〜30分間である。
【0071】
本発明の第14の実施態様は、バイオマスを分画してリグニン、セルロースおよびヘミセルロースを得る方法を提供し、この方法は、バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜30% (v/v)のアンモニア水と接触させて第1のバイオマススラリーを得ること、上記第1のバイオマススラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液、および、セルロースとヘミセルロースとを含む第1の残渣を得ること、上記第1の残渣を、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、30%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させて第2のバイオマススラリーを得ること、ならびに、上記第2のバイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、および、セルロースを含む第2の残渣を得ることを含み、ここで、バイオマスの少なくとも90%のリグニン、少なくとも91%のセルロース、および少なくとも85%のヘミセルロースが得られる。
【0072】
本発明の第15の実施態様は、バイオマスを分画してセルロースおよびヘミセルロースを得る方法を提供し、この方法は、バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させてバイオマススラリーを得ること、上記バイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液と、セルロースおよび/またはヘミセルロースを含む残渣とを得ることを含み、ここで、バイオマスの少なくとも90%のリグニン、少なくとも91%のセルロース、および少なくとも85%のヘミセルロースが得られる。
【0073】
本発明の第16の実施態様は、バイオマスを糖化して可溶性糖を製造する方法を提供し、この方法は、
a) バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜30% (v/v)のアンモニア水と接触させて第1のバイオマススラリーを得ること、
b) 上記第1のバイオマススラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液、および、セルロースとヘミセルロースとを含む第1の残渣を得ること、
c) 上記第1の残渣を、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、30%〜90% (v/v)のアンモニア水で処理して第2のバイオマススラリーを得ること、
d) 上記第2のバイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、および、セルロースを含む第2の残渣を得ること、ならびに、
e) 工程(d)で得られたセルロースおよびヘミセルロースを加水分解して、可溶性糖を得ること
を含む。
【0074】
本発明の第17の実施態様は、バイオマスを糖化して可溶性糖を得る方法を提供し、この方法は、
a) バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させてバイオマススラリーを得ること、
b) 上記バイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液と、セルロースおよび/またはヘミセルロースを含む残渣とを得ること、ならびに、
c) 工程(b)で得られたセルロースおよび/またはヘミセルロースを加水分解して可溶性糖を得ること
を含む。
【0075】
本発明の第18の実施態様は、アンモニア水を使用して、バイオマスを糖化して可溶性糖を製造する方法に関し、ここで、アンモニア水中でバイオマスを保持する時間は1〜120分間であり、好ましくは5〜30分間である。
【0076】
本発明の第19の実施態様は、アンモニア水を使用して、バイオマスを糖化して可溶性糖を製造する方法に関し、ここで、この方法は、バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜30% (v/v)のアンモニア水と接触させて第1のバイオマススラリーを得ること、
a) 上記第1のバイオマススラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液、および、セルロースとヘミセルロースとを含む第1の残渣を得ること、
b) 上記第1の残渣を、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、30%〜90% (v/v)のアンモニア水で処理して第2のバイオマススラリーを得ること、
c) 上記第2のバイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、および、セルロースを含む第2の残渣を得ること、ならびに、
d) 工程(d)で得られたセルロースおよびヘミセルロースを加水分解して可溶性糖を得ること
を含み、ここで、アンモニア水中で第1の残渣を保持する時間は1〜120分間であり、好ましくは5〜30分間である。
【0077】
本発明の第20の実施態様は、アンモニア水を使用して、バイオマスを糖化して可溶性糖を製造する方法に関し、ここで、上記糖は、グルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、ラムノース、セロビオース、およびセロデキストリンからなる群から選択される。
【0078】
本発明の第21の実施態様は、バイオマスから所望の化合物を製造する方法を提供し、この方法は、
a) バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜30% (v/v)のアンモニア水と接触させて第1のバイオマススラリーを得ること、
b) 上記第1のバイオマススラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液、および、セルロースとヘミセルロースとを含む第1の残渣を得ること、
c) 上記第1の残渣を、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、30%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させて、第2のバイオマススラリーを得ること、
d) 上記第2のバイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、および、セルロースを含む第2の残渣を得ること、
e) 工程(d)で得られたセルロースおよびヘミセルロースを加水分解して可溶性糖を得ること、ならびに、
f) 上記可溶性糖を、化学的または生物学的な手段により所望の化合物に変換すること
を含む。
【0079】
本発明の第22の実施態様は、本発明に開示されているようにバイオマスから所望の化合物を製造する方法に関し、工程(b)で得られたリグニンを、従来法を用いて所望の化合物に変換することをさらに含む。
【0080】
本発明の第23の実施態様は、バイオマスから所望の化合物を製造する方法を提供し、この方法は、
a) バイオマスを、50℃〜200℃の範囲内の温度にて、5%〜90% (v/v)のアンモニア水と接触させてバイオマススラリーを得ること、
b) 上記バイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液と、セルロースおよび/またはヘミセルロースを含む残渣を得ること、
c) 工程(b)で得られたセルロースおよび/またはヘミセルロースを加水分解して可溶性糖を得ること、ならびに、
d) 上記可溶性糖を、化学的または生物学的手段により所望の化合物に変換すること
を含む。
【0081】
本発明の第24の実施態様は、バイオマスから所望の化合物を製造する方法に関し、ここで、上記所望の化合物は、トルエン、ベンゼン、バニリン、炭化水素、クレゾール、フェノール類、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタンジオール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、グリセロール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール、フルフリルアルコール、酢酸、乳酸、プロピオン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、酪酸、グルコン酸、イタコン酸、クエン酸、コハク酸、レブリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチオニン、リシン、グリシン、アルギニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、メタン、エチレン、およびアセトンからなる群から選択される。
【0082】
本発明の第25の実施態様は、可溶性糖を変換するための生物学的手段に関し、ここで、生物学的手段は、微生物による、および/または酵素による生体内変換である。
【0083】
本発明の第26の実施態様は、微生物による生体内変換に関し、この生体内変換は、酵母、細菌、および真菌からなる群から選択される微生物を使用することによって実行される。
【0084】
本発明の第27の実施態様は、生体内変換に使用される微生物に関し、ここで、上記微生物は、E. coli、Saccharomyces cervisiae、Zymomonas mobilis、Pichia stiptis、Candida、Clostridium acetobutylicum、Acetobacter、Rhizopus oryzae、Lactobacillus、およびBacillus stearothermophilusからなる群から選択される。
【0085】
本発明の一実施態様は、アンモニア水を使用してバイオマスをリグニン、セルロース、およびヘミセルロースへと分画する方法に関し、ここで、上記アンモニアは、従来法によりリサイクルされる。
【0086】
本発明で開示されるバイオマスの分画方法は、リグニン、セルロース、およびヘミセルロースを、1〜120分間、または30〜60分間、または5〜15分間以内に産生する。
【0087】
本発明の別の実施態様では、バイオマスを分画してセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンを得る方法が提供され、この方法は、
a. バイオマスを、pHが8〜14の範囲内であるアンモニア水と、50℃〜200℃の範囲内の温度にて1分間〜120分間混合し、第1のバイオマススラリーを得ること(ここで、アンモニア水の濃度は、5%〜30%(v/v)の範囲内である)、
b. 上記第1のバイオマススラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液と、セルロースおよびヘミセルロースを含む第1の残渣を得ること、
c. 上記第1の残渣を、pHが8〜14の範囲内であるアンモニア水で、50℃〜200℃の範囲内の温度にて1分間〜120分間処理し、第2のバイオマススラリーを得ること(ここで、アンモニア水の濃度は、30%〜90%(v/v)の範囲内である)、ならびに、
d. 上記第2のバイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、およびセルロースを含む第2の残渣を得ること
を含む。
【0088】
本発明の一実施態様では、バイオマスを分画してセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンを得る方法が提供され、この方法は、
a. バイオマスを、pHが8〜14の範囲内であるアンモニア水と、50℃〜200℃の範囲内の温度にて1分間〜120分間混合し、第1のバイオマススラリーを得ること(ここで、液体アンモニアの濃度は5%〜30%(v/v)に維持される)、
b. いずれかの既知の蒸発手段によって、上記第1のバイオマススラリーからアンモニアを除去すること、
c. 上記第1のバイオマススラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液、および、セルロースとヘミセルロースとを含む第1の残渣を得ること、
d. 上記第1の残渣を、pHが8〜14の範囲内であるアンモニア水で、50℃〜200℃の範囲内の温度にて1分間〜120分間処理し、第2のバイオマススラリーを得ること(ここで、液体アンモニアの濃度は30%〜90%(v/v)の範囲内に維持される)、
e. いずれかの既知の蒸発手段によって、上記第2のバイオマススラリーからアンモニアを除去すること、ならびに、
f. 上記第2のバイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、およびセルロースを含む第2の残渣を得ること
を含む。
【0089】
本発明のさらに別の実施態様では、バイオマスを分画してセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンを得る方法が提供され、この方法は、バイオマスを、pHが8〜14の範囲内であるアンモニア水と、50℃〜200℃の範囲内の温度にて1分間〜120分間混合し、第1のバイオマススラリーを得ること(ここで、アンモニア水の濃度は5%〜30%(v/v)の範囲内である)、上記第1のバイオマススラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液と、セルロースおよびヘミセルロースを含む第1の残渣とを得ること、上記第1の残渣を、pHが8〜14の範囲内であるアンモニア水で、50℃〜200℃の範囲内の温度にて1分間〜120分間処理し、第2のバイオマススラリーを得ること(ここで、アンモニア水の濃度は30%〜90%(v/v)の範囲内である)、ならびに、上記第2のバイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、およびセルロースを含む第2の残渣を得ることを含み、ここで、上記バイオマスの重量は、上記アンモニア水の0.5%〜25%(w/v)である。
【0090】
本発明の別の実施態様では、アンモニアを使用してバイオマスを分画してセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンを得る方法が提供され、ここで、アンモニア水の濃度は0.5%〜90%(w/v)であって1バール〜110バールの範囲内の圧力下に維持される。
【0091】
本発明のさらに別の実施態様では、バイオマスを分画してセルロース、ヘミセルロース、および/またはリグニンを得る方法が提供され、ここで、バイオマスおよび/または反応で得られた第1の残渣は、pHが8〜14の範囲内であるアンモニア水で、50℃〜200℃の範囲内の温度にて30分間処理された。
【0092】
本発明のさらに別の実施態様では、バイオマスを分画してセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンを得る方法が提供され、この方法は、バイオマスを、pHが8〜14の範囲内であるアンモニア水と、50℃〜200℃の範囲内の温度にて1分間〜120分間混合し、第1のバイオマススラリーを得ること(ここで、アンモニア水の濃度は5%〜30%(v/v)の範囲内である)、上記第1のバイオマススラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液と、セルロースおよびヘミセルロースを含む第1の残渣とを得ること、上記第1の残渣を、pHが8〜14の範囲内であるアンモニア水で、50℃〜200℃の範囲内の温度にて1分間〜120分間処理し、第2のバイオマススラリーを得ること(ここで、アンモニア水の濃度は30%〜90%(v/v)の範囲内である)、ならびに、上記第2のバイオマススラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、およびセルロースを含む第2の残渣を得ることを含み、この方法は連続式またはバッチ式の方法である。
【0093】
本発明で開示される、バイオマスを分画してセルロース、ヘミセルロース、および/またはリグニンを得る方法は、そのバイオマスから、少なくとも85%のリグニン、少なくとも91%〜95%のセルロース、および少なくとも85%のヘミセルロースを回収する。
【0094】
さらに、本発明で開示される、バイオマスを分画してセルロース、ヘミセルロース、および/またはリグニンを得る方法は、処理を阻害する化合物、あるいはセルロース分解酵素および発酵過程に対する阻害剤として作用し得る化合物を産生しない。
【0095】
本発明の実施態様の1つでは、酵素的、微生物的、または化学的手段を使用して、セルロースおよび/またはヘミセルロースを糖化して糖を得る方法が提供される。
【0096】
本発明の別の実施態様では、糖発酵の方法が提供され、ここで、糖は、酵母、細菌、または真菌を用いて発酵される。
【0097】
本発明の別の実施態様では、糖発酵の方法が提供され、ここで、糖は微生物を用いて発酵され、この微生物は遺伝子組み換えされている。
【0098】
本発明のさらに別の実施態様では、糖を他の有用な化合物に変換する、化学的または生物学的(微生物的および酵素的)方法が提供される。
【0099】
本発明のさらなる実施態様では、セルロース/ヘミセルロース/リグニンを他の有用な化合物に変換する、化学的または生物学的(微生物的および酵素的)方法が提供される。
【0100】
当業者は、濾液中の所望の化合物の収率を増加させるためには、バイオマスの分画過程の様々な工程で得られる残渣の洗浄を行う必要があることを理解するであろう。
【0101】
さらに、バッチ式においてバイオマスをリグニン、セルロースおよびヘミセルロースへと分画する際に、様々な手段を適用して密閉容器の上部空間を減少させ、密閉容器過程において液相中の総アンモニア量を増加させることは、当業者にとって自明のことである。例えば、窒素のような不活性気体を含ませることで反応装置の上部空間において圧力を維持することにより、バイオマスの分画に必要なアンモニアの量を削減することができる。しかしながら、反応装置(バッチ式または連続式)が満足に作動するために上部空間を必要としないのであれば、この種の行為は必要にはならない。
【実施例】
【0102】
以下の実施例において実施態様をさらに規定する。これらの実施例は、本発明の実施態様を示すものではあるが、実例として提示されているにすぎないことは理解されるべきである。上記の記述およびこれらの実施例から、当業者は実施態様の本質的な特徴を確認することができ、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく実施態様に様々な変更や改変を施して、様々な用法および条件に適応させることができる。従って、本明細書で示され記述されている実施態様に加えて、その実施態様の様々な改変態様も、上記の説明から当業者には明らかとなるであろう。そのような改変態様もまた、添付の特許請求の範囲の範囲内に入ることが意図される。
【0103】
[実施例1]
アンモニア水を使用した、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンへの稲藁の分画
【0104】
[バッチ式]
サイズ低減化した稲藁(平均5mm長、3.5 g)を、水中30%(v/v)の液体アンモニア100mlと、15℃において混合した。得られた稲藁・アンモニアのスラリーを、高圧反応装置に充填した。反応容器中で125℃にて30分間、反応を行い、第1のスラリーを得た。第1のスラリーの温度を少なくとも95℃まで低下させ、続いてこのスラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液、およびセルロースとヘミセルロースとを含む第1の残渣を得た。このようにして得られた第1の残渣を、水中60%(v/v)の液体アンモニアを用いて、125℃にて30分間処理し、第2のスラリーを得た。この第2のスラリーの温度を少なくとも95℃まで低下させ、続いてこのスラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、およびセルロースを含む第2の残渣を得た(
図1、2、および4)。アンモニア水分画過程の結果を、
図1、2、3および4、ならびに表1および2に示す。アンモニア分画の異なる段階におけるバイオマス残渣の組成解析は、稲藁中の主要構成成分(リグニン、セルロース、およびヘミセルロース)が互いに分離される順序を明らかにしている。稲藁は、30%(v/v)アンモニアの処理を受けると、2つの流れ、すなわちリグニンを含む液流と、セルロースおよびヘミセルロースを含む固形残渣とに分画された。この固形残渣は、60%(v/v)アンモニアの処理を受けると、ヘミセルロースを含む液流およびセルロースを含む固形残渣へとさらに分画される(
図1)。
【0105】
アンモニア分画後の稲藁からのセルロースの物理的観察では、蒸気爆砕されたセルロース(色がより濃く、バイオマスがいくらか焦げていることを示している)と比べて、より明るい色およびより優れた質感を有することが示されていた(
図4)。ヘミセルロースは、沈殿させて乾燥させると、明るいベージュ色の粉末を形成する(
図2)。稲藁から得られたヘミセルロースのさらなる組成解析は、グルコース(RT:12.7分)、キシロース(RT:13.6分)、およびアラビノース(RT:16.1分)のピークを示している。キシロース(糖全体の84%(w/w))は、稲藁のヘミセルロースの主要な成分であり、アラビノース(糖全体の16%(w/w))およびグルコース(糖全体の4%(w/w))がそれに続く(
図3)。
【0106】
アンモニア分画後の稲藁からのセルロース、および同様にセルロース+ヘミセルロース残渣は、酵素による糖化を非常に受けやすく、8時間未満で95%超の変換(基質の可溶化に関して)を達成したが、これはワットマンフィルター紙のような標準的な基質と比較してはるかに速い(表1)。
【0107】
[連続式]
適当なサイズ低減化(平均5mm長への低減)をした後の稲藁を、供給容器中で30%(v/v)液体アンモニアと混合し、稲藁のスラリーを得た。このスラリー(固形分3.5%(w/v))を、125℃に維持された連続式高圧反応装置に通し、ここで、反応装置中のスラリーの滞留時間は30分間であった。スラリー産物をインライン冷却装置に通し、ここでスラリーを90℃まで冷やした。それからスラリーを第1のフラッシュタンクに急送(flashed)してアンモニアを放出させ、そのアンモニアは回収してリサイクルした。フラッシュ容器の底からのスラリー産物を濾過し、ヘミセルロースとセルロースとを含む残渣、およびリグニンを含む濾液を得た。
【0108】
上記工程で得られた残渣を、別の供給容器中で水と混合した。得られたスラリーの流れ、および、液体アンモニア濃度を60%(v/v)とするために加えられた既知量の液体無水アンモニアを、125℃に維持された連続式高圧反応装置に一緒に通し、ここで、反応装置中のスラリーの滞留時間は30分間であった。次に、スラリーをインライン冷却装置に通し、そこでスラリーの温度を90℃まで低下させた。スラリーを第2のフラッシュタンクに急送してアンモニアを放出させてそのアンモニアを回収し、スラリーを濾過して、セルロースを含む残渣およびヘミセルロースを含む濾液を得た。
【0109】
[実施例2]
アンモニア水を使用した、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンへの麦藁の分画
【0110】
[バッチ式]
サイズ低減化した麦藁(平均5 mm長、3.5 g)を、水中30%(v/v)の液体アンモニア100 mlと、15℃において混合した。得られた麦藁・アンモニアのスラリーを高圧反応装置に充填した。反応容器中で125℃にて30分間、反応を行い、第1のスラリーを得た。第1のスラリーの温度を少なくとも95℃まで低下させ、このスラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液、およびセルロースとヘミセルロースとを含む第1の残渣を得た。このようにして得られた第1の残渣を、水中60%(v/v)の液体アンモニアを用いて、125℃にて30分間処理し、第2のスラリーを得た。この第2のスラリーの温度を少なくとも95℃まで低下させ、このスラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、およびセルロースを含む第2の残渣を得た。
【0111】
[実施例3]
稲藁からの可溶性糖の製造
【0112】
[バッチ式:生物学的手段]
サイズ低減化した稲藁(平均5 mm長、3.5 g)を、水中30%(v/v)の液体アンモニア100 mlと、15℃において混合した。得られた稲藁・アンモニアのスラリーを高圧反応装置に充填した。反応容器中で125℃にて30分間、反応を行い、第1のスラリーを得た。第1のスラリーの温度を少なくとも95℃まで低下させ、次にこのスラリーを濾過して、リグニンを含む第1の濾液、およびセルロースとヘミセルロースとを含む第1の残渣を得た。このようにして得られた第1の残渣を、水中60%(v/v)の液体アンモニアで、125℃にて30分間処理し、第2のスラリーを得た。この第2のスラリーの温度を少なくとも95℃まで低下させ、次にこのスラリーを濾過して、ヘミセルロースを含む第2の濾液、およびセルロースを含む第2の残渣を得た。
【0113】
セルロースを含む第2の残渣を、酸性にした水(pH 5)に懸濁し、エンドグルカナーゼとエキソグルカナーゼとの混合物(残渣1グラムあたり100 IUの酵素)で50℃にて処理した。8時間以内にセルロースからグルコースへの完全な変換が得られた。このようにした得られたグルコースは、化学的および/または生物学的手段を用いてエタノール、ブタノール、ヒドロメチルフルフラール、乳酸、酢酸等を製造するために使用することができる。
【0114】
ヘミセルロースを含む第2の濾液をpH 5まで酸性化し、50℃にて、ヘミセルラーゼ(ヘミセルロース1グラムあたり100 IUの酵素)で処理した。8時間以内に、ヘミセルロースからキシロース、アラビノース、およびグルコースへの完全な変換が得られた。このようにして形成されたキシロース、アラビノース、およびグルコースは、化学的および/または生物学的手段によってエタノール、乳酸、フルフラールのような所望の化合物を製造するために使用することができる。
【0115】
[連続式:生物学的手段]
適当なサイズ低減化(平均5mm長への低減)をした後の稲藁を、供給容器中で30%(v/v)液体アンモニアと混合し、稲藁のスラリーを得た。このスラリー(固形分3.5%(w/v))を、125℃に維持された連続式高圧反応装置に通し、ここで、反応装置中のスラリーの滞留時間は30分間であった。スラリー産物をインライン冷却装置に通し、そこでスラリーを90℃まで冷やした。それからスラリーをフラッシュタンクに急送してアンモニアを放出させ、そのアンモニアを回収してリサイクルした。フラッシュ容器の底からのスラリー産物を濾過し、ヘミセルロースおよびセルロースを含む残渣と、リグニンを含む濾液とを得た。
【0116】
セルロースおよびヘミセルロースを含む上記残渣を、300mLの50mMクエン酸緩衝液(pH 4.8)に懸濁し、膜反応装置アセンブリ(membrane reactor assembly)中で、50℃にて、エンドグルカナーゼとエキソグルカナーゼとの混合物(残渣1グラムあたり100 IUの酵素)で処理した。この反応装置アセンブリは、管状の限外濾過膜システム(5KDa、0.01平方メートル)を通して反応塊を循環させる蠕動ポンプを備えた撹拌タンク式反応装置(500mL)からなるものであった。上記膜システムからの残余分は撹拌タンクに送り返し、一方で透過分は、グルコースおよびキシロースの含量について解析した。残渣から単糖類(すなわちグルコースおよびキシロース)への95%の変換が、連続的な定常状態に基づいて起こることが見出された。グルコースおよびキシロースから、化学的および/または生物学的手段によって、エタノール、乳酸、およびフルフラールのような所望の化合物を製造することができる。
【0117】
[連続式:化学的手段]
適当なサイズ低減化(平均5mm長への低減)をした後の稲藁を、供給容器中で30%(v/v)液体アンモニアと混合し、稲藁のスラリーを得た。このスラリー(固形分3.5%(w/v))を、125℃に維持された連続式高圧反応装置に通し、ここで、反応装置中のスラリーの滞留時間は30分間であった。スラリー産物をインライン冷却装置に通し、そこでスラリーを90℃まで冷やした。それからスラリーを第1のフラッシュタンクに急送してアンモニアを放出させ、そのアンモニアを回収してリサイクルした。フラッシュ容器の底からのスラリー産物を濾過し、ヘミセルロースおよびセルロースを含む残渣と、リグニンを含む濾液とを得た。
【0118】
上記工程で得られた残渣を、別の供給容器中で水と混合した。得られたスラリーの流れ、および既知量の液体無水アンモニア(結果として液体アンモニア濃度が60%(v/v)となる量)を、125℃に維持された連続式高圧反応装置に一緒に通し、ここで、反応装置中のスラリーの滞留時間は30分間であった。続いて、スラリーをインライン冷却装置に通し、そこでスラリーの温度を90℃まで低下させた。それからスラリーを第1のフラッシュタンクに急送してアンモニアを放出させてそのアンモニアを回収し、スラリーを濾過して、セルロースを含む残渣およびヘミセルロースを含む濾液を得た。
【0119】
セルロースを含む第2の残渣を、別の供給容器中で、酸性にした水と混合した。得られたスラリーの流れを、200℃に維持された連続式高圧管状ハステロイ反応装置に通し、ここで、反応装置中のスラリーの滞留時間は90秒間であった。次に、反応させたスラリー(この時点ではグルコース溶液となっている)をインライン冷却装置に通し、そこで溶液の温度を急速に60℃まで低下させた。このグルコース溶液は、ナノ濾過や蒸留のような既知の方法により濃縮させて純粋なグルコースを得ることができる。
【0120】
ヘミセルロースを含む第2の濾液を、別の供給容器中で、酸性にした水と混合した。得られた溶液流を、170℃に維持された連続式高圧管状ハステロイ反応装置に通し、ここで、反応装置中の溶液の滞留時間は60秒間であった。次に、この反応させた溶液をインライン冷却装置に通し、そこで溶液の温度を急速に60℃まで低下させた。得られた溶液は、84%(w/w)(糖全体に対して)のキシロース、16%(w/w)(糖全体に対して)のアラビノース、および4%(w/w)(糖全体に対して)のグルコースを含むことが明らかとなった。
【0121】
[実施例4]
稲藁からのエタノール製造
【0122】
[バッチ式]
サイズ低減化した稲藁(平均5 mm長)を、水中30%(v/v)の液体アンモニア1 リットルと、15℃において混合した(固形分3.5%(w/v))。得られた稲藁・アンモニアのスラリーを高圧反応装置に充填した。反応容器中で125℃にて30分間、反応を行い、第1のスラリーを得た。この反応させたスラリーの温度を少なくとも95℃まで低下させ、次にこのスラリーを濾過して、リグニンを含む濾液、およびセルロースとヘミセルロースとを含む残渣を得た。
【0123】
上記残渣を、酸性にした水(pH 5)に懸濁し、50℃にて、エンドグルカナーゼとエキソグルカナーゼとの混合物(残渣1グラムあたり100 IUの酵素)で加水分解した。8時間以内で、多糖類からグルコースおよびキシロースへの完全な変換が得られた。得られた加水分解物を、5 KDa膜を使用して限外濾過して酵素を回収し、それからタンパク質非含有のこの加水分解物を、真空蒸留を用いて濃縮して、10%(w/v)の可溶性糖(グルコース+キシロース)最終濃度を得た。
【0124】
100 mlの加水分解物に酵母抽出物(0.25 %)を添加した後に、これを低温滅菌し、30℃にて150 rpm で常時撹拌した500 mlの三角フラスコ中で、グルコース発酵酵母(Sacchromyces sp.)およびペントース発酵酵母(Pichia stipitis)を使用した共発酵に付した。18時間以内に、糖1 gあたり0.46 gのエタノールという収率が達成された。
【0125】
[連続式]
適当なサイズ低減化(平均5mm長への低減)をした後の稲藁を、供給容器中で30%(v/v)液体アンモニアと混合し、稲藁のスラリーを得た。このスラリー(固形分3.5%(w/v))を、125℃に維持された連続式高圧反応装置に通し、ここで、反応装置中のスラリーの滞留時間は30分間であった。スラリー産物をインライン冷却装置に通し、そこでスラリーを90℃まで冷やした。それからスラリーを第1のフラッシュタンクに急送してアンモニアを放出させ、そのアンモニアを回収してリサイクルした。フラッシュ容器の底からのスラリー産物を濾過し、ヘミセルロースおよびセルロースを含む残渣と、リグニンを含む濾液とを得た。
【0126】
上記工程で得られた残渣を、別の供給容器中で水と混合した。得られたスラリーの流れ、および既知量の液体無水アンモニア(結果として液体アンモニア濃度が60%(v/v)となる量)を、125℃に維持された連続式高圧反応装置に一緒に通し、ここで、反応装置中のスラリーの滞留時間は30分間であった。続いてスラリーをインライン冷却装置に通し、そこでスラリーの温度を90℃まで低下させた。その後スラリーを第1のフラッシュタンクに急送してアンモニアを放出させてそのアンモニアを回収し、スラリーを濾過して、セルロースを含む残渣およびヘミセルロースを含む濾液を得た。
【0127】
セルロースを含む上記第2の残渣を、300mLの酸性水(pH 5)に懸濁し、膜反応装置アセンブリ中で、50℃にて、エンドグルカナーゼとエキソグルカナーゼとの混合物(残渣1グラムあたり100 IUの酵素)で処理した。この反応装置アセンブリは、管状の限外濾過膜システム(5KDa、0.01平方メートル)を通して反応塊を循環させる蠕動ポンプを備えた撹拌タンク式反応装置(500mL)からなるものであった。上記膜システムからの残余分は撹拌タンクに送り返し、一方で透過分(以後、「グルコース溶液」と呼ぶ)は、グルコース含量について解析した。連続的な定常状態のもとセルロースからグルコースへの98%の変換が起こることが見出された。
【0128】
上記グルコース溶液を20%(w/v)に濃縮し、酵母抽出物(0.25%(w/v))を添加し、それから、72℃に維持された水浴中に浸したコイル状金属ループにそれを通すことによって低温滅菌し、ここで、加熱ループ中の上記透過分(以後、媒体と呼ぶ)の滞留時間は、少なくとも30秒間であった。それから媒体を、自動の温度調節およびpH調節ならびに光学密度(OD)プローブを備えた被覆ザルトリウス2L BioStat B+発酵装置中で、グルコース発酵ワイン酵母(Sacchromyces sp.)を使用した連続的発酵過程に付した。発酵装置中の媒体の初期体積は1.5 Lであり、pHは塩基の添加により5.5に維持し、温度は30℃に維持した。0.1 hr
-1の希釈率を維持し、定常状態(ODによって決定した)が確立された後に、エタノール含量について試料を解析した。最大5 g/l/hrのエタノールの増収が得られた。
【0129】
[実施例5]
稲藁からのフェノール類モノマーの製造
【0130】
サイズ低減化した稲藁(平均5 mm長、3.5 g)を、水中30%(v/v)の液体アンモニア100 mlと、15℃において混合した。得られた稲藁・アンモニアのスラリーを高圧反応装置に充填した。反応容器中で125℃にて30分間、反応を行い、スラリーを得た。このスラリーの温度を少なくとも95℃まで低下させ、次にこのスラリーを濾過して、リグニンを含む濾液、およびセルロースとヘミセルロースとを含む残渣を得た。
【0131】
得られたスラリーを、無機酸を用いてpH 3まで酸化し、このスラリー由来のリグニンを、カチオン性高分子電解質溶液(1%(v/v))を用いて沈殿させた。沈殿したリグニンを、1000 gにて10分間の遠心分離処理により分離し、乾燥させるために50℃で1時間保持した。このリグニン粉末1 gを、高圧オートクレーブ中において、130℃にて30分間、2%(v/v)硝酸で処理した。得られた脱重合リグニン溶液を、クロロホルム(2倍体積)で15分間抽出して、p-クマリルアルコール、シリンガアルデヒド、シナピルアルコール、およびバニリンのようなフェノール類モノマーを抽出した。これらのモノマーは、燃料添加剤として使用でき、あるいはファインケミカル産業において有用となり得る。
【0132】
表1:蒸気爆砕セルロースおよび標準的な(ワットマンフィルター紙No.1)セルロースの市販試料と比較すると、稲藁のアンモニア分画過程後に得られるセルロースおよびセルロース+ヘミセルロース混合物は、より優れた感受性(amenability)を有することを示す、バイオマスの酵素従順性試験。
【表1】
【0133】
表2:稲藁のアンモニア分画 ― リグニン含量に関しての分画効率(異なる段階における固形バイオマス残渣を、バイオマス解析のための標準的なNREL LAPプロトコールを使用して解析することによって決定した)。
【表2】