(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799092
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】ヒトに安全に刺激を与えるための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/08 20060101AFI20151001BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
A61N1/08
A61N1/36
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-517034(P2013-517034)
(86)(22)【出願日】2010年6月30日
(65)【公表番号】特表2013-529983(P2013-529983A)
(43)【公表日】2013年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2010059296
(87)【国際公開番号】WO2012000546
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2013年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】509175908
【氏名又は名称】エーベーエス テヒノロギーズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】EBS TECHNOLOGIES GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルシャウスク、ウド
(72)【発明者】
【氏名】フィーゲンバウム、ラルス
【審査官】
宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0082829(US,A1)
【文献】
国際公開第2002/073526(WO,A2)
【文献】
国際公開第2005/030025(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
A61N 1/08
A61B 5/0476 − A61B 5/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト(2)を刺激するための装置(1)であって、
(a)前記ヒト(2)に印加される刺激信号を発生させる、少なくとも1つの刺激信号発生部(3)と、
(b)前記刺激信号に反応して前記ヒト(2)から送られてきた少なくとも1つの生理学的信号を検出するための、少なくとも1つの検出部(7)と、
(c)検出された前記生理学的信号によって前記ヒト(2)の重篤状態を認識すると、安全スイッチ(5)を制御して、前記ヒト(2)への前記刺激信号の印加を自動的に停止させる、監視部(6)と、
を備え、
前記刺激信号発生部(3)が、電気刺激信号を発生させ、それを、前記安全スイッチ(5)を介して、前記ヒト(2)の皮膚に取り付け可能な1又は複数の電極(15)に提供し、
前記検出部(7)は、前記ヒト(2)の血圧、表皮抵抗、又は心電信号を含む前記生理学的信号の検出に適用される、バイオフィードバック信号検出部(7−2)を備えており、
前記監視部(6)は、20〜40Hzの範囲の周波数を持ったベータ周波数帯で、検出された前記生理学的信号の処理をウェーブレット解析またはパターン解析により行い、
前記ベータ周波数帯にあるポリスパイクが、前記ヒト(2)の起こり得る重篤状態を示す、
ことを特徴とするヒトを刺激するための装置。
【請求項2】
前記刺激信号発生部(3)が、視覚刺激信号を発生させ、それを、ビデオモニタまたは電気的な視覚刺激装置によって、ヒト(2)に印加する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記監視部(6)が、前記ヒト(2)の重篤状態を認識すると、検出された前記ヒト(2)の前記生理学的信号を直ぐに処理し、直ちに安全スイッチ(5)を起動させる、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記監視部(6)が、検出された前記ヒト(2)の生理学的信号を、時間領域及び周波数領域のいずれか一方または両方において評価する、請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記監視部(6)が、選択可能な周波数帯において、スライディング時間窓毎に、検出された前記生理学的信号の出力密度を測定する、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記安全スイッチ(5)が、測定された前記出力密度が調整可能な閾値を超えている場合に、監視部(6)によって起動される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記監視部(6)が、検出されたヒト(2)の前記生理学的信号についての、パターンに基づく評価および統計的な評価のうち、いずれか一方または両方を行なう、請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記検出部(7)が、EEG信号検出部(7−1)を備えている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記監視部(6)が、少なくとも1つの変更可能な基準が満たされている場合に、前記ヒト(2)の重篤状態を認識する、請求項1〜8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
ヒト(2)を刺激するための装置(1)の作動方法であって、前記ヒト(2)への刺激信号の印加は、前記ヒト(2)の検出された生理学的信号に反応して前記ヒト(2)の重篤状態が認識されると、自動的に停止され、検出された前記生理学的信号は、前記ヒト(2)の血圧、表皮抵抗、又は心電信号を含み、
ここで、前記ヒト(2)を刺激するための装置(1)は、
(a)前記ヒト(2)に印加される刺激信号を発生させる、少なくとも1つの刺激信号発生部(3)と、
(b)前記刺激信号に反応して前記ヒト(2)から送られてきた少なくとも1つの生理学的信号を検出するための、少なくとも1つの検出部(7)と、
(c)検出された前記生理学的信号によって前記ヒト(2)の重篤状態を認識すると、安全スイッチ(5)を制御して、前記ヒト(2)への前記刺激信号の印加を自動的に停止させる、監視部(6)と、
を備え、
前記刺激信号発生部(3)が、電気刺激信号を発生させ、それを、前記安全スイッチ(5)を介して、前記ヒト(2)の皮膚に取り付け可能な1又は複数の電極(15)に提供し、
前記検出部(7)は、前記ヒト(2)の血圧、表皮抵抗、又は心電信号を含む前記生理学的信号の検出に適用される、バイオフィードバック信号検出部(7−2)を備えており、
前記監視部(6)は、20〜40Hzの範囲の周波数を持ったベータ周波数帯で、検出された前記生理学的信号の処理をウェーブレット解析またはパターン解析により行い、
前記ベータ周波数帯にあるポリスパイクが、前記ヒト(2)の起こり得る重篤状態を示す、
ことを特徴とする作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にてんかん発作などの重篤状態を避けるための安全メカニズムを有したヒトを刺激するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの脳は、軸索と樹状突起とによって互いに通信し合う数十億の神経細胞を備え、更に、これら神経細胞は活動電位と呼ばれる連続した信号パルスを運ぶ。脳は、頭蓋骨によって守られ、脳脊髄液によって囲まれ、そして、血液脳関門によって血流から分離されているにも拘わらず、そのデリケートな性質のため、多数の細胞を失わせるような、多くの疾患及びいろいろな脳障害などの損傷を受けやすくなっている。また、このような脳細胞の脱落は、他の神経変性障害によっても起る可能性がある。脳障害は、認知障害及びその他の機能的変化を引き起こしてしまう。更に、脳障害または脳疾患によって引き起こされる可能性のある障害は、運動障害、記憶障害、または他の機能性神経障害である。更に、視覚、聴覚といった感覚器官のいずれも、このような脳疾患または網膜疾患(視覚の場合)の影響を受ける。
【0003】
ヒトの脳を治療するため、特に脳疾患のあるヒトにおいて、刺激信号によって脳を刺激する治療機器が提案されている。例えば、ヒトの脳に電気刺激信号によって刺激を行なうと、眼内閃光、即ち、稲妻の閃光に類似する視覚的な感覚が生じる。しかし、従来からの装置では、特に、脳が既に損傷を受けている場合に、刺激の過程で、健常者または患者への脳刺激がてんかん発作を引き起こすという危険性がある。実際、閃光や過呼吸が、てんかん発作の誘因となる場合もある。ヒトにおいては、どのようなてんかん発作であっても、深刻な障害につながってしまう。更に、治療を受ける際にかかるストレスによって、ヒトが重篤状態に陥る可能性もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、電気的な刺激を脳に送った場合、ある種のリスクが存在するので、結果、こういったリスクを自動的に監視するための方法及び手段を見つけることが求められている。
【0005】
それゆえ、本発明の目的は、健常者または患者において、刺激を原因または誘因とする上述したリスクを抑制または回避し得る、ヒトに刺激を与えるための装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、請求項1の特徴を備えた装置によって達成される。
本発明は、ヒトに刺激を与えるための装置を提供する。
当該装置は、前記ヒトに印加される刺激信号を発生させる、少なくとも1つの刺激信号発生部と、前記刺激信号に反応して前記ヒトから送られてきた生理学的信号を検出するための、少なくとも1つの検出部と、検出された前記生理学的信号によって前記ヒトの重篤状態を認識すると、安全スイッチを制御して、前記ヒトへの前記刺激信号の印加を自動的に停止させる、監視部と、を備えている。
【0007】
本発明における装置の他の一実施形態においては、刺激信号発生部は、電気刺激信号を発生させ、それを、安全スイッチを介して、皮膚、好ましくはヒトの頭に取り付け可能な1又は複数の電極に印加する。
【0008】
本発明における装置の一実施形態においては、刺激信号発生部は、視覚刺激信号を発生させ、それを、ビデオモニタまたは電気的な視覚刺激装置によって、ヒトに印加する。
【0009】
更なる一実施形態では、刺激信号発生部は、電気刺激信号と視覚刺激信号との両方を発生させる。
【0010】
本発明における装置の更なる一実施形態においては、監視部は、ヒトの重篤状態を認識すると、検出されたヒトの生理学的信号を直ぐに処理し、直ちに安全スイッチを起動させる。
【0011】
本発明における装置の一実施形態においては、監視部は、検出された生理学的信号を、時間領域及び周波数領域のいずれか一方または両方において評価する。
【0012】
本発明における装置の更なる一実施形態においては、監視部は、選択可能な周波数帯において、スライディング時間窓毎に、検出された生理学的信号の出力密度を測定する。
【0013】
本発明における装置の一実施形態においては、測定された出力密度が調整可能な閾値を超えている場合に、安全スイッチは、監視部によって起動される。
【0014】
本発明における装置の可能な一実施形態においては、監視部は、検出されたヒトそれぞれの生理学的信号についての、パターンに基づく評価および統計的な評価のうち、いずれか一方または両方を行なう。
【0015】
本発明における装置の可能な一実施形態においては、検出部は、バイオフィードバック信号検出部を備えている。
【0016】
本発明における装置の可能な一実施形態においては、バイオフィードバック信号検出部が、EEG(脳波)信号検出部である。
【0017】
本発明における装置の可能な一実施形態においては、バイオフィードバック信号検出部は、ヒトそれぞれの、血圧、表皮抵抗、又は心電信号の検出に適用される。
【0018】
本発明における装置の一実施形態においては、少なくとも1つの変更可能な基準が満たされている場合に、監視部は、ヒトの重篤状態を認識する。
【0019】
本発明における装置の一実施形態においては、監視部は、少なくとも1つの選択可能な周波数帯で、検出された生理学的信号の処理を行なう。
【0020】
本発明における装置の可能な一実施形態においては、周波数帯は、20〜40Hzの範囲の周波数を持ったベータ周波数帯である。
【0021】
本発明は、更に、ヒトに安全に刺激を与えるための方法を提供する。当該方法において、ヒトへの刺激信号の印加は、ヒトそれぞれの所定の生理学的信号によってヒトの重篤状態が認識されると、自動的に停止される。
【0022】
以下に、ヒトに安全に刺激を与えるための装置及び方法の実施の形態を、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明における、ヒトに刺激を与えるための装置の可能な実施形態を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明における、ヒトに刺激を与えるための装置の可能な実施形態の更なる構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明における装置の対象となったヒトの頭蓋への電極の取り付けを示す概略図である。
【
図4】
図4は、本発明における装置の対象となったヒトに取り付けられた電極それぞれから送られてきた信号波形を示す図である。
【
図5】
図5は、ヒトから送られてきたEEG(脳波)信号における、異なる種々の信号波形についての一般的な電位とてんかん発作時の電位とを示す図である。
【
図6】
図6は、EEG(脳波)信号の発生時におけるヒトの目の動きによって引き起こされたアーチファクトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1から分かるように、ヒト2を刺激するための装置1は、刺激信号を発生させる少なくとも1つの刺激信号発生部3を備えている。
【0025】
発生した刺激信号は、ヒト2に印加される。この刺激信号は、刺激装置4によって印加される。刺激装置4は、ヒト2の皮膚に取り付け可能な1また複数の電極によって構成可能である。刺激装置4は、ビデオモニタ、電気的な視覚刺激装置、または聴覚刺激信号を提供するオーディオ刺激装置によっても構成可能である。
【0026】
更に、
図2の構成に示すように、刺激信号発生部3によって発生した刺激信号は、安全スイッチ5を介して刺激装置4に提供される。安全スイッチ5は、監視部6によって制御されている。
【0027】
更に、
図1に示すように、本発明における装置1は、刺激装置4によってヒト2に印加された刺激信号に反応してヒト2から送られてくる、生理学的信号を検出するため、少なくとも1つの検出部7を備えている。
【0028】
検出された生理学的信号は、検出部7によって、信号線8を介して、監視部6へと送られる。監視部6は、制御信号線9を介して安全スイッチ5を制御する。監視部6は、検出された生理学的信号に反応してヒト2の重篤状態を認識すると、安全スイッチ5を制御して、自動的にヒト2への刺激信号の印加を停止する。
【0029】
図1に示された実施形態では、安全スイッチ5は、リレーといった電気的要素によって構成されている。他の実施形態では、この電気的なスイッチ5は、監視部6に接続されたコントロールゲートを有するトランジスタによって構成されていても良い。更に、安全スイッチ5は、刺激信号発生部3に含まれていても良い。監視部6は、また、刺激信号発生部3のスイッチを切ることによっても、ヒト2への刺激信号の印加を停止することができる。
【0030】
本発明の装置1の一実施形態では、刺激信号発生部3は、電気的な刺激信号を発生させる。この刺激信号は、安全スイッチ5を介して、ヒト2の皮膚に取り付け可能な1または複数の電極4に提供される。これらの電極は、所定の取り付けスキームによれば、ヒトの頭に取り付け可能である。
【0031】
本発明の装置1の可能な一実施形態では、更に、刺激信号発生部3は、ビデオモニタまたは電気的な視覚刺激装置によってヒト2に印加する視覚又は光刺激信号を発生させる。ビデオモニタまたは電気的な視覚刺激装置は、刺激装置4を構成している。
【0032】
監視部6は、ヒト2の重篤状態を認識すると、検出したヒト2の生理学的信号を直ぐに処理し、直ちに安全スイッチ5を起動させる。可能な一実施形態においては、監視部6は、検出されたヒト2の生理学的信号を、その時間領域において評価する。他の一実施形態では、監視部6は、検出されたヒト2の生理学的信号を、その周波数領域において評価する。
【0033】
監視部6は、例えば、選択可能な周波数帯において、スライディング時間窓毎に、検出された生理学的信号の出力密度を測定し、そして、生理学的信号を評価する。可能な一実施形態においては、測定された出力密度が調整可能な閾値を超えている場合に、安全スイッチ5は、監視部6によって起動される。この調整可能な閾値は、監視部6に接続されたユーザインターフェイスから、操作者によって設定される。
【0034】
また、可能な一実施形態においては、監視部6は、検出されたヒト2の生理学的信号についてパターンに基づく評価を行なう。更に可能な一実施形態においては、監視部6は、検出されたヒト2の生理学的信号の統計的な評価を行なう。
【0035】
1または複数の検出部7が、刺激信号に反応したヒト2の生理学的信号の検出のために設けられている。検出部7は、バイオフィードバック信号検出部を備えることができる。好ましい実施形態では、バイオフィードバック信号検出部は、EEG信号検出部である。
【0036】
加えて、更なるバイオフィードバック信号検出部7が設けられていても良い。バイオフィードバック信号検出部7は、ヒト2の血圧測定のための検出装置によって構成されていても良い。更なるバイオフィードバック信号検出部7は、ヒト2の表皮抵抗を測定するために設けられていても良い。更に、バイオフィードバック信号検出部7は、ヒト2それぞれの心電信号を得るために設けられていても良い。これらバイオフィードバック信号検出部7は、可能な一実施形態においては、全て、対応する信号線を介して監視部6に接続されている。
【0037】
監視部6は、バイオフィードバック信号検出部7によって提供された生理学的信号を評価して、ヒト2の重篤状態を認識することができる。監視部6は、少なくとも1つの変更可能な基準に従って、ヒト2の重篤状態を認識する。少なくとも1つの変更可能な基準が満たされている場合に、ヒト2の重篤状態であると認識される。
【0038】
好ましい実施形態では、監視部6は、前もって、例えば、ヒト2が、すぐ先で重篤状態に達するであろう兆候を見せた場合に、ヒト2の重篤状態を認識する。例えば、刺激装置4によってヒト2に刺激信号が印加されて治療が行なわれた場合、監視部6は、治療を受けているヒト2がてんかん発作になりやすいと判断する。
【0039】
可能な実施形態においては、監視部6は、少なくとも1つの選択可能な周波数帯FBで、EEG(脳波)信号のような、検出した生理学的信号の処理を行なう。周波数帯FBは、装置1のユーザインターフェイスから、操作者によって、選択可能であっても良い。可能な実施形態においては、周波数帯FBは、所定の周波数帯、例えば、20−40Hzの範囲の周波数を持ったベータ周波数帯であっても良い。
【0040】
可能な実施形態では、周波数帯FBは、治療対象となっている障害、またはヒト2に印加されている刺激信号に応じて自動的に選択される。検出された生理学的信号の評価は、1または複数の予め設定されたEEG(脳波)信号の周波数帯FBにおいて行なわれるか、または小さな皮質電位SCPを評価することによって行なわれる。
【0041】
図2は、本発明における、ヒト2に刺激を与えるための装置1の可能な実施形態を示すブロック図である。
図2に示された実施形態は、治療装置を構成する個人用のユニット10を備えている。治療装置は、刺激信号に反応したヒト2からの生理学的信号を検出するための検出部7−1と7−2とを備えている。刺激信号は、個人用のユニット10に含まれる刺激信号発生部3で発生している。
【0042】
個人用のユニット10は、少なくとも1つの信号プロセッサを有するコントロールユニットを備え、コントロールユニットは監視部6を構成している。また、検出部7−1及び7−2も、
図2の実施形態では、個人用のユニット10に含まれている。
【0043】
図2の実施形態では、個人用のユニット
10は、検出された生理学的信号に反応して、ヒト2の重篤状態が監視部6によって認識されたときに、ヒト2への刺激信号の印加を自動的に停止するために、安全スイッチ5も備えている。生理学的信号は、EEG信号検出部7−1と、更にはバイオフィードバック信号検出部7−2とによって提供されている。
【0044】
図2の実施形態では、バイオフィードバック信号検出部7−2は、ヒト2の体に取り付けられた電極
17から、ヒト2の心電信号を受信する。EEG信号検出部7−1は、ヒト2の頭に取り付けられた電極12、13、14から、EEG(脳波)信号を受信する。
【0045】
図2の実施形態では、電気刺激信号は、信号発生部3によって発生され、安全スイッチ5を介して、ヒト2の目の近くに取り付けられた刺激電極15に提供される。更に、参照電極16も、ヒト2の頭に取り付けられる。
【0046】
更なる実施形態では、個人用のユニット10は、統合された電力供給ユニットを備えている。監視部6は、一体型のコントローラ、例えば、信号プロセッサ、固体メモリディスク、RAMなどを備えることもできる。更に、個人用のユニット10は、個人用のユニット10をデータネットワークに接続するためのネットワークアダプタを備えることもできる。可能な実施形態では、個人用のユニット10は、刺激信号に反応してヒト2が操作できる個人用の反応ボタンに接続させることもできる。
【0047】
個人用のユニット10は、データネットワークを介して、コントロールユニット11に接続されている。コントロールユニット11は、インターネットといったデータネットワークを介して個人用のユニット10に接続される遠隔のコントロールユニットであっても良い。
【0048】
個人用のユニット10とコントロールユニット11は、共に、操作者のために、グラフィカルユーザインタフェースGUIを備えている。中央のコントロールユニット11は、システムの動作状態についての測定データを記録し、視覚化することができ、更に、データ分析と後処理のためのツールを提供することができる。コントロールユニット11は、科学者または医師といったユーザに、インターフェイスを提供し、そして、1以上の個人用のユニット10を管理する。
【0049】
個人用のユニット10及び中央のコントロールユニット11は、互いに、ネットワークを介して接続されていても良い。また、ネットワークは、無線ネットワークであっても良いし、有線ネットワークであっても良い。
【0050】
中央のコントロールユニット11は、マウスおよびキーボード、またはタッチスクリーンを有するワークステーションで構成されていても良い。また、いくつかのモニターが、システムステータス、及びヒトのモニタリングデータを表示させるために、備えられていても良い。更に、個人用のデータベースを構成し、且つ、データ記録に用いられる一時保存用ではない記憶装置が、中央のコントロールユニット11に接続されていても良い。
【0051】
可能な実施形態では、個人用のユニット10は、モバイルデバイスであり、ヒト2に取り付け可能であって良い。このモバイルデバイス10は、無線ネットワークリンクを介して中央のコントロールユニット11と通信する。持ち運びできるように個人用のユニット10の電力供給は、再充電可能なバッテリーによって行なうことができる。
【0052】
各個人用のユニット10は、データ処理のため、ローカルメモリを備えることができる。このメモリは、個人用のユニット10と中央のユニット11との通信において制限及び障害が発生した場合に、測定データの安全を確保するために用いることができる。可能な実施形態では、個人用のユニット10は、SDチップといった交換可能な記憶装置を備えることもできる。
【0053】
図2に示した実施形態では、監視部6は、検出された生理学的信号に反応してヒト2の重篤状態を認識するための手段を備えている。また、他の実施の形態では、ヒト2の重篤状態の検出が、中央のコントロールユニット11によって行なわれても良い。リアルタイムの処理は、中央のコントロールユニット11によって提供されても良い。この処理は、例えば、ヒト2がてんかん発作を起こしている場合といった、ヒト2の危険な健康状態の検出も含んでいる。
【0054】
更に、複数のサブユニットが、他のサブユニットによって測定された状態の変化に応じて、直接制御されていても良い。他のサブユニットは、例えば、EEGウェーブレットパターンに応じた刺激パルスを測定する。更に、測定データに基づいて、ゼロ交差、スペクトル変化といった、高度情報の算出を行なうこともできる。また、入ってくるトリガー信号を処理することもできるし、トリガー信号を生成することもできる。
【0055】
信号プロセッサの処理を柔軟に行なうことができるように、監視部6は、中央のコントロールユニット
11から、命令(スクリプト)を受け取ることができる。命令は、中央のコントロールユニット11のプロセッサによって実行されるプログラムの断片であっても良い。
【0056】
可能な実施形態では、刺激信号に反応したヒト2からの生理学的信号は、個人用のユニット10における監視部6の信号プロセッサによって処理される。他の実施形態では、検出された生理学的信号は、中央のコントロールユニット11によって処理される。
【0057】
EEG(脳波)データといった生理学的信号を、個人用のユニット10によってローカルで処理した場合には、個人用のユニット10と遠隔のコントロールユニット11との接続が途切れても、個人用のユニット10の監視部6によって安全スイッチ5が起動されるという利点がある。
【0058】
図2に示した実施形態では、電気刺激信号は、電極15によってヒト2に印加される。他の実施形態では、ヒト2は、複数のLEDから出射された光パルスによる光刺激信号によって刺激される。ライトエミッティングダイオード(LED)は、ヒトの目の近くにあるゴーグルに配置される。
【0059】
更に、個人用の反応ボタンは、刺激の閾値または付与されたタスクに応じたヒトのフィードバックを受け取るために用いられる。そのヒトの反応ボタンによって生じた信号は、刺激処理の開始または停止させるためのトリガー信号として用いられる。更に、反応ボタンの信号は、他の測定された信号と同期されて記録される。可能な実施形態では、検出された生理学的信号は、サンプリングレートが高く、且つ32チャンネルを有するEEG(脳波)信号を含んでいる。
【0060】
図3は、ヒト2の頭にEEG電極と同様の刺激電極を取り付けるための配置を示している。
【0061】
図4は、記録電極と記録電極との間の電位の時間変化の記録を示している。図から分かるように、前頭葉てんかん(FLE)が発生すると、ヒト2においては、複数のフロンタルスパイク(前頭棘波)が度々見受けられ、また、フロンタルスパイクは、うとうとしている間の特発性全般てんかんにおいて、断片化されたスパイク及び徐波の発射として表われることもある。
【0062】
前頭領域の反対側で反射されたスパイクが、高振幅で広範な発射の状態で、度々発生する。記録された電位を監視することにより、監視部6は、切迫したてんかん状態を予測することができる。
【0063】
図5は、異なる周波数帯における、EEG(脳波)信号における一般的な電位を、てんかん状態でのスパイクの電位と対比して示している。例えば、ベータ周波数帯にあるポリスパイクは、各ヒト2の起こり得る重篤状態を示している。
【0064】
ヒトの目の動きは、測定されるEEG電位を変化させる。しかし、
図6に示すように、このような目の動きは、主に、各ヒト2の頭の前側に位置する前頭電極FP1、FP2、F3において、電位を変化させるだけである。従って、本発明における装置1の監視部6は、目の動きによっては、重篤状態を検出できない。
【0065】
一般に、監視部6は、各ヒト2の脳の状態の変化を監視する。このような変化を検出するための方法は、ウェーブレット解析またはパターン解析を含む。例えば、統計的分析により、独立した信号成分を検出することができ、信号内の特定のパターンを探索することができるようになる。
【0066】
本発明における装置1は、特に、ヒト2のてんかん性発作において、ヒト2の安全を著しく増加させ、重篤状態のリスクを避ける。