【実施例】
【0035】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(1)次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加薬剤(次亜塩素酸ナトリウム安定化剤)の調製
(1−1)PBTCA・Ca・Na(Ca/PBTCAモル比=0.9,Na/PBTCAモル比=5.1)
2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTCA)の50質量%水溶液(キレスト株式会社製、「キレストPH−430」)18.0g(PBTCAとして0.0333モル)に、炭酸カルシウム(関東化学株式会社製、試薬特級)3.0g(0.030モル)を加えて撹拌し、溶解した。これに水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製、試薬特級)6.8g(0.170モル)と脱イオン水を加えて100gとし、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.1,12〜16,19で使用する添加薬剤1を得た。
【0037】
(1−2)PBTCA・Ca・Na(Ca/PBTCAモル比=0.6,Na/PBTCAモル比=5.1)
炭酸カルシウムを2.0g(0.020モル)用いた以外は、添加薬剤1を得るのと同様の方法で、試料No.17で使用する添加薬剤2を得た。
【0038】
(1−3)PBTCA・Ca・Na(Ca/PBTCAモル比=0.3,Na/PBTCAモル比=5.7)
炭酸カルシウムを1.0g(0.010モル)用い、水酸化ナトリウムを7.6g(0.190モル)用いた以外は、添加薬剤1を得るのと同様の方法で、試料No.18で使用する添加薬剤3を得た。
【0039】
(1−4)PBTCA・Mg・Na(Mg/PBTCAモル比=0.8,Na/PBTCAモル比=5.1)
炭酸カルシウムの代わりに酸化マグネシウム(関東化学株式会社製、試薬特級)を1.0g(0.025モル)用いた以外は、添加薬剤1を得るのと同様の方法で、試料No.20で使用する添加薬剤4を得た。
【0040】
(1−5)PBTCA・Na
2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTCA)の50質量%水溶液18.0gに、水酸化ナトリウム9.2g(0.230モル)と脱イオン水を加えて100gとして、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.2,21で使用する添加薬剤5を得た。
【0041】
(1−6)HEDP・Ca・Na
1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)の60質量%水溶液(キレスト株式会社製、「キレストPH−210」)18.0g(HEDPとして0.0524モル)に、炭酸カルシウム4.0g(0.040モル)を加えて撹拌し、溶解した。これに水酸化ナトリウム6.8g(0.170モル)と脱イオン水を加えて100gとし、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.22で使用する添加薬剤6を得た。
【0042】
(1−7)HEDP・Na
1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)の60質量%水溶液18.0g(HEDPとして0.0524モル)に、水酸化ナトリウム9.2g(0.230モル)と脱イオン水を加えて100gとして、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.5,23で使用する添加薬剤7を得た。
【0043】
(1−8)NTMP・Ca・Na
ニトリロトリス(メチレン−ホスホン酸)(NTMP)の50質量%水溶液(キレスト株式会社製、「キレストPH−320」)18.0g(NTMPとして0.0301モル)に、炭酸カルシウム2.0g(0.020モル)を加えて撹拌し、溶解した。これに水酸化ナトリウム6.8g(0.170モル)と脱イオン水を加えて100gとし、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.24で使用する添加薬剤8を得た。
【0044】
(1−9)NTMP・Na
ニトリロトリス(メチレン−ホスホン酸)(NTMP)の50質量%水溶液18.0g(NTMPとして0.0301モル)に、水酸化ナトリウム7.6g(0.190モル)と脱イオン水を加えて100gとして、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.25で使用する添加薬剤9を得た。
【0045】
(1−10)その他の添加薬剤
試料No.3で使用するエチレンジアミン4酢酸カルシウム・2ナトリウム(EDTA・Ca・2Na)は、キレスト株式会社製のキレストCa(結晶状態)を用いた。試料No.4で使用するジエチレントリアミン5酢酸5ナトリウム(DTPA・5Na)は、キレスト株式会社製のキレストP(DTPA・5Naの40質量%水溶液)を用いた。試料No.8,28で使用するメタケイ酸ナトリウム水和物は、関東化学株式会社製の試薬を用いた。試料No.9で使用するアルミン酸ナトリウムは、関東化学株式会社製の試薬1級を用いた。試料No.10で使用するソルビトールは、関東化学株式会社製の試薬1級を用いた。
【0046】
(2)試験方法
(2−1)重金属イオンを添加しない次亜塩素酸ナトリウム水溶液の安定性試験
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5.5%、関東化学株式会社製、試薬1級)30gに、表1の各試料番号に示された添加薬剤を表1に示された割合で加えて試験用試料(試料No.1〜11)を作製し、初期のpHと有効塩素濃度を測定した。次いで、各試料をポリプロピレン製の100mLサンプル瓶に入れて密栓し、遮光した状態で50℃に保たれた恒温槽で保存して、7日間ごとに有効塩素濃度を測定した。表1に、初期のpHと有効塩素濃度、および有効塩素の残存率(所定期間経過後の有効塩素濃度の初期の有効塩素濃度に対する比率)を示す。なお、有効塩素濃度は、食品添加物公定書の次亜塩素酸ナトリウムの定量法によって測定した。
【0047】
(2−2)重金属イオンを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液の安定性試験
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5.5%、関東化学株式会社製、試薬1級)30gに、表2の各試料番号に示された添加薬剤を表2に示された割合で加え、さらに塩化銅(CuCl
2・2H
2Oの0.1%溶液)を試料中のCu
2+イオン濃度が1.9ppmとなるように加え、塩化第二鉄(FeCl
3の0.1%溶液)を試料中のFe
3+イオン濃度が1.7ppmとなるように加えて試験用試料(試料No.12〜29)を作製し、初期のpHと有効塩素濃度を測定した。次いで、各試料をポリプロピレン製の100mLサンプル瓶に入れて密栓し、遮光した状態で50℃に保たれた恒温槽で保存して、7日間ごとに有効塩素濃度を測定した。表2に、初期のpHと有効塩素濃度、および有効塩素の残存率(所定期間経過後の有効塩素濃度の初期の有効塩素濃度に対する比率)を示す。なお、有効塩素濃度は、食品添加物公定書の次亜塩素酸ナトリウムの定量法によって測定した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
(3)試験結果
試験結果を表1および表2に示す。何も添加薬剤を加えなかった場合、重金属イオンを添加しない次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.11)では14〜21日かけて有効塩素が徐々に減少していったのに対し、重金属を添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.29)では7日後には有効塩素残存率が0%となっていた。
【0051】
PBTCA・Ca・NaまたはPBTCA・Mg・Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液では(試料No.1,12〜20)、有効塩素濃度が長期間にわたり高く保たれ、次亜塩素酸ナトリウムの分解が抑制された。また試料No.1,12〜20のいずれも、沈殿は生じず、外観は濁りのない状態であった。試料No.12〜16を比較すると、PBTCA濃度が高いほど次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が高くなるが、PBTCA濃度が高くなると次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が頭打ちになる傾向となる。試料No.12,17〜18を比較すると、Ca/PBTCAモル比が高くなるほど次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が高くなることが分かる。なお表には示されていないが、Ca/PBTCAモル比を高くし過ぎると、カルシウムに由来すると思われる沈殿物が生成した。PBTCA・Ca・Naにさらに25%NaOH溶液を加えて、初期pHを13.1とした試料No.19では、特に良好な次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が見られた。
【0052】
一方、PBTCA・Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.2,21)では、PBTCA・Ca・NaまたはPBTCA・Mg・Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.1,12〜20)よりも次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が低下した。
【0053】
分子内にカルボキシル基を有しホスホン酸基を有しないEDTA・Ca・2NaまたはDTPA・5Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.3〜4)では、7日後には有効塩素残存率が0%となっており、次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果は見られなかった。
【0054】
分子内にホスホン酸基を有しカルボキシル基を有しないHEDP・Ca・Na、HEDP・Na、NTMP・Ca・Na、またはNTMP・Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.5,22〜25)では、PBTCA・Ca・NaまたはPBTCA・Mg・Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.1,12〜20)よりも次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が低下した。
【0055】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液に25%NaOH溶液を添加した(試料No.6〜7,26〜27)場合、重金属を添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.26〜27)では7日後の有効塩素がほとんど残存しておらず、次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が見られなかった。
【0056】
メタケイ酸ナトリウムを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.8,28)では、次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果は見られるものの、重金属を添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液では沈殿物が生成した。アルミン酸ナトリウムを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.9)でも、次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果は見られるものの、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に沈殿物が生成した。このように次亜塩素酸ナトリウム水溶液中で沈殿物が生成すると、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の使用の際にろ過等の操作が必要となり、好ましくない。
【0057】
ソルビトールを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.10)では、7日後には有効塩素残存率が0%となっており、次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果は見られなかった。