特許第5799336号(P5799336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5799336圧電配向セラミックスおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799336
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】圧電配向セラミックスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/491 20060101AFI20151001BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20151001BHJP
   H01L 41/39 20130101ALI20151001BHJP
   H01L 41/43 20130101ALI20151001BHJP
   H01L 41/333 20130101ALI20151001BHJP
【FI】
   C04B35/49 A
   H01L41/187
   H01L41/39
   H01L41/43
   H01L41/333
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-549182(P2013-549182)
(86)(22)【出願日】2012年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2012080146
(87)【国際公開番号】WO2013088925
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2014年5月8日
(31)【優先権主張番号】特願2011-271623(P2011-271623)
(32)【優先日】2011年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100079577
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 全啓
(72)【発明者】
【氏名】三輪 恭也
(72)【発明者】
【氏名】川田 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達
(72)【発明者】
【氏名】打越 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】目 義雄
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−24840(JP,A)
【文献】 特開2010−90021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/491
H01L 41/187
H01L 41/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト構造を有するPb(Ti,Zr)O3系化合物を主成分とする圧電配向セラミックスであって、
前記圧電配向セラミックスは、
前記圧電配向セラミックスの所定の断面におけるX線回折パターンに基づいて、Lotgering法により算出した配向度が0.64以上であり、かつ、焼結密度が理論密度の85%以上であることを特徴とする、圧電配向セラミックス。
【請求項2】
前記圧電配向セラミックスを構成する粒子は、球状であることを特徴とする、請求項1に記載の圧電配向セラミックス。
【請求項3】
圧電配向セラミックスの所定の断面におけるX線回折パターンに基づいて、Lotgering法により算出した配向度が0.64以上である圧電配向セラミックスの製造方法であって、
前記圧電配向セラミックスの製造方法は、
ペロブスカイト構造を有するPb(Ti,Zr)O3系化合物を含む単結晶粉末を用意する工程と、
分散相として、前記単結晶粉末を含む、スラリーを作製する工程と、
前記スラリーを磁場中で成形することによって、成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成する工程と、
を含み、
前記成形体を焼成する工程は、
焼成温度の保持時間が3時間の条件で焼成した場合に、焼結密度が理論密度の85%以上となる焼成温度のうち、最も低い焼成温度よりも100℃以上低い温度で24時間以上保持して焼成することを特徴とする、圧電配向セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧電材料、特に結晶配向した圧電配向セラミックスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電体材料や圧電体材料として、ペロブスカイト構造を有する圧電配向セラミックスが使用されている。これらのペロブスカイト構造を有する圧電配向セラミックスにおいては、その結晶を配向させることによって、圧電配向セラミックスの電気特性が向上することが知られている。
【0003】
ペロブスカイト構造を有する圧電配向セラミックスを作製する方法として、例えば、特許文献1に記載の技術が提案されている。特許文献1に記載された技術は、単一の結晶からなる、例えば、PbTiO3を主成分とするペロブスカイト構造化合物を含むスラリーを磁場中で成形することによってセラミック成形体を作製し、その作製した成形体を焼成することによって、結晶配向性の高い圧電配向セラミックスを得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−090021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法をチタン酸ジルコン酸鉛(以下、Pb(Ti,Zr)O3系化合物という)を含む圧電配向セラミックスの作製に適用した場合、焼結過程において、結晶配向性が失われてしまうため、Pb(Ti,Zr)O3系化合物を含む圧電配向セラミックスを得ることができなかった。この理由として、Pb(Ti,Zr)O3系の化合物は、ABO3型結晶のBサイトを占める元素が2種類存在するため、焼結過程において、TiとZrの相互の拡散により、結晶状態が大きく撹乱された結果、結晶配向性が失われたものと考えられる。
【0006】
それゆえに、この発明の主たる目的は、ペロブスカイト構造を有する化合物として、Pb(Ti,Zr)O3系化合物を主成分とした、結晶配向性の高い圧電配向セラミックスおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる圧電配向セラミックスは、ペロブスカイト構造を有するPb(Ti,Zr)O3系化合物を主成分とする圧電配向セラミックスであって、圧電配向セラミックスは、圧電配向セラミックスの所定の断面におけるX線回折パターンに基づいて、Lotgering法により算出した配向度が0.64以上であり、かつ、焼結密度が理論密度の85%以上であることを特徴とする、圧電配向セラミックスである。
また、この発明にかかる圧電配向セラミックスでは、圧電配向セラミックスを構成する粒子が球状であることが好ましい。
この発明にかかる圧電配向セラミックスの製造方法は、圧電配向セラミックスの所定の断面におけるX線回折パターンに基づいて、Lotgering法により算出した配向度が0.64以上である圧電配向セラミックスの製造方法であって、圧電配向セラミックスの製造方法は、ペロブスカイト構造を有するPb(Ti,Zr)O3系化合物を含む単結晶粉末を用意する工程と、分散相として、単結晶粉末を含む、スラリーを作製する工程と、スラリーを磁場中で成形することによって、成形体を得る工程と、成形体を焼成する工程と、を含み、成形体を焼成する工程は、焼成温度の保持時間が3時間の条件で焼成した場合に、焼結密度が理論密度の85%以上となる焼成温度のうち、最も低い焼成温度よりも100℃以上低い温度で24時間以上保持して焼成することを特徴とする、圧電配向セラミックスの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
この発明にかかる圧電配向セラミックスによれば、Pb(Ti,Zr)O3系の化合物を主成分とした、結晶配向性が高く、かつ、焼結密度が高い圧電配向セラミックスを得ることができる。
【0009】
Pb(Ti,Zr)O3系化合物を含む圧電配向セラミックスであっても結晶配向性を失わない理由について、次のように推測することができる。すなわち、Pb(Ti,Zr)O3系化合物を含む成形体を焼成する工程において、焼成温度を抑え、焼成時間を長くすることにより、結晶配向性が失われる程の急激なTiおよびZrの相互の拡散による結晶状態の撹乱を抑えつつ、焼結に十分な物質移動をもたらすことができると考えられる。
【0010】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実験例において作製した試料1に係るPb(Ti0.7Zr0.3)O3粒子のSEM像である。
図2】圧電配向セラミックスの焼成工程において、焼成温度を変化させて3時間保持した条件で焼成した圧電配向セラミックスの焼結体の各焼成温度に対応する焼結密度を示す図である。
図3】各焼成温度に対して得られた圧電配向セラミックスの焼結体の比抵抗ρを示す図である。
図4】圧電配向セラミックスの焼結体の所定の断面におけるXRDチャートであり、(a)は、試料1のXRDチャートであり、(b)は、試料2のXRDチャートであり、(c)は、試料3のXRDチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明にかかる圧電配向セラミックスおよびその製造方法の一実施の形態について説明する。
【0013】
(圧電配向セラミックス)
本発明に係る圧電配向セラミックスは、ペロブスカイト構造を有するPb(Ti,Zr)O3系化合物を主成分とする圧電配向セラミックスである。また、この圧電配向セラミックスを構成する粒子は、球状であることが好ましい。圧電配向セラミックスを構成する粒子を球状の場合、クラックの発生や進展を生じさせにくくすることができるからである。
【0014】
また、本発明に係る圧電配向セラミックスの所定の断面におけるX線回折(XRD)パターンに基づいて、Lotgering(ロットゲーリング)法により算出した第1軸の配向度が0.64以上であり、かつ結晶配向性の高い圧電配向セラミックスである。なお、Lotgering法については、後に詳細に説明する。
【0015】
また、本発明に係る圧電配向セラミックスの焼結密度が、その圧電配向セラミックスにおける理論密度の85%以上である圧電配向セラミックスである。理論密度は、例えば、X線回析法の測定結果を解析して求めた単位格子の大きさ、および原子量から求められる。なお、この理論密度ρtheoは、以下の数式(1)により表される。
【0016】
[数1]
ρtheo=Wunit/Vunit (1)

ここで、Wunitは、単位格子あたりの重量を示し、Vunitは、単位格子あたりの体積を示す。
【0017】
したがって、本発明に係る圧電配向セラミックスは、セラミック粒子の結晶軸の3軸うち、1軸の結晶配向性の高いPb(Ti,Zr)O3系化合物を主成分とする圧電配向セラミックスである。
【0018】
(圧電配向セラミックスの製造方法)
次に、本発明に係る圧電配向セラミックスの製造方法の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明にかかる圧電配向セラミックスを製造するため、ペロブスカイト構造を有しているPb(Ti,Zr)O3系化合物を含む粉末を用意する。Pb(Ti,Zr)O3系化合物を含む粉末を用意するため、例えば、PbO、TiO2およびZrO2などの素原料を湿式混合した後、仮焼乾燥してPb(Ti,Zr)O3系化合物の仮焼物を作製する。そして、この仮焼物を乾式粉砕して仮焼粉末を作製する。続いて、この仮焼粉末をフラックス中で熱処理する。これによって、ペロブスカイト構造化合物が結晶成長し、Pb(Ti,Zr)O3系化合物を含む単結晶粉末が用意される。なお、この単結晶粒子は、球状である。また、フラックスとして、KClおよびNaClの少なくとも一方が有利に用いられる。
【0020】
続いて、分散相として、上記の方法により用意された単結晶粉末を含むスラリーを作製する。そして、作製されたスラリーを使用して磁場中で成形することによって成形体を得る。このようにスラリーを磁場中で成形することによって、成形体に含まれる結晶の結晶軸が、付与された磁場に従って、所定の方向に配向される。
【0021】
次に、上記の方法により製造された成形体を焼成して、圧電配向セラミックスを得る。まず、成形体を焼成温度の保持時間が3時間の条件で焼成した場合に、焼結密度が理論密度の85%以上となる焼成温度のうち、最も低い焼成温度よりも100℃以上低い温度で24時間以上保持して焼成する。
【0022】
すなわち、成形体を焼成温度の保持時間が3時間の条件で焼成した場合、理論密度の85%の焼結密度が得られる焼成温度は、1100〜1150℃である。従って、成形体を、その焼成温度よりも100℃以上低い1000℃で24時間以上保持して焼成することにより、所望の圧電配向セラミックスを作製することができる。なお、このように、24時間以上保持するときの温度は、950℃以上1000℃以下が好ましい。
【0023】
本発明にかかる圧電配向セラミックスの製造方法によれば、ペロブスカイト構造を有する化合物として、Pb(Ti,Zr)O3系化合物を含む圧電配向セラミックスであって、圧電配向セラミックスの所定の断面におけるX線回折(XRD)パターンに基づいて、Lotgering(ロットゲーリング)法により算出した第1軸の配向度が0.64以上である圧電配向セラミックスの焼結体を得ることができる。
【0024】
次に、本発明に係る圧電配向セラミックスの製造方法およびその製造方法により作製された圧電配向セラミックスの効果を確認するために行った実験例について以下に説明する。
【0025】
1.試料の作製
(試料1)
試料1は、以下に記載の作製方法により作製された。
PbO,TiO2,ZrO2をPb,Ti,Zrのモル比が1:0.7:0.3となるように秤量し、ボールミルにて15時間湿式混合した後、900℃にて仮焼乾燥し、Pb(Ti0.7Zr0.3)O3仮焼物を得た。
【0026】
続いて、得られた仮焼物を乾式粉砕し、KClと重量比で1:1となるように混合した。これをアルミナるつぼ中で、1000℃にて12時間熱処理し、室温まで冷却した後、水でKClを溶解・除去し乾燥させて、単結晶で構成される粒子に結晶成長したPb(Ti0.7Zr0.3)O3粒子を得た。ここで、図1において、得られたPb(Ti0.7Zr0.3)O3結晶粒子のSEM像を示す。図1において示されるように、Pb(Ti0.7Zr0.3)O3の結晶粒子は、球状である。
【0027】
次に、結晶成長したPb(Ti0.7Zr0.3)O3粒子を30g取り出し、このPb(Ti0.7Zr0.3)O3粒子100重量部に対し、ポリビニルアルコール0.5重量部、純水40重量部を加えて12時間ボールミル混合し、スラリーを得た。
【0028】
次に、得られたスラリーを12Tの磁場中で鋳込み成形することにより、結晶が配向化した成形体を得た。得られた成形体を焼成温度の保持時間3時間の条件で、1000℃から1200℃の間で焼成温度を50℃ごと変化させて焼成し、各焼成温度における計5つの焼結体を得た。
【0029】
ここで、焼成温度を変化することにより得られた各焼結体の焼結密度を測定したところ、図2の結果が得られた。なお、図2において、理論密度の85%が破線で示されている。また、焼結温度を変化することにより得られた各焼結体の比抵抗ρを図3に示す。ここで、分極処理を行う上で比抵抗ρは1.0×108Ωm以上であることが望ましいが、図3から、必要な比抵抗ρを有する焼結体としては、焼結密度が理論密度の85%以上である必要があることが図2から明らかとなった。また、図2から、理論密度の85%の焼結密度が得られる焼成温度が1100〜1150℃の間であることが明らかとなった。
【0030】
なお、上記の各焼成温度に対して得られた各焼結体の焼結密度は、アルキメデス法を用いて測定した。また、理論密度は、8.05g/cm3であった。すなわち、単位格子あたりの体積であるVunitは、X線回析法による測定結果を解析することにより6.52×10-23cm3が得られ、単位格子あたりの重量であるWunitは、5.25×10-22gであるので、これらに基づいて数式(1)より理論密度は算出された。また、各焼結体の比抵抗ρは、各焼結体に直流電圧100Vを印加し、15秒間プリチャージした後、各焼結体に流れる電流を測定することにより算出した。
【0031】
図2および図3の結果に基づき、上述の方法により得られた成形体を1000℃で24時間保持して焼成することにより、焼結体(試料1)を得た。
【0032】
(試料2)
試料2は、以下に記載の作製方法により作製された。
PbO,TiO2,ZrO2をPb,Ti,Zrのモル比が1:0.7:0.3となるように秤量し、ボールミルにて15時間湿式混合した後、900℃にて仮焼乾燥し、Pb(Ti0.7Zr0.3)O3仮焼物を得た。
【0033】
続いて、得られた仮焼物を乾式粉砕し、KClと重量比で1:1となるように混合した。これをアルミナるつぼ中で、1000℃にて12時間熱処理し、室温まで冷却した後、水でKClを溶解・除去し乾燥させて、単結晶粒子に結晶成長したPb(Ti0.7Zr0.3)O3粒子を得た。
【0034】
次に、上述の方法により得られた結晶成長したPb(Ti0.7Zr0.3)O3粒子を30g取り出し、このPb(Ti0.7Zr0.3)O3粒子100重量部に対し、ポリビニルアルコール0.5重量部、純水40重量部を加えて12時間ボールミル混合し、スラリーを得た。
【0035】
次に、得られたスラリーを12Tの磁場中で鋳込み成形することにより、結晶が配向化した成形体を得た。この成形体を1150℃で3時間保持して焼成することにより、焼結体(試料2)を得た。
【0036】
(試料3)
試料3は、以下に記載の作製方法により作製された。
PbO,TiO2,ZrO2をPb,Ti,Zrのモル比が1:0.7:0.3となるように秤量し、ボールミルにて15時間湿式混合した後、900℃にて仮焼乾燥し、Pb(Ti0.7Zr0.3)O3仮焼物を得た。
【0037】
続いて、得られた仮焼物を乾式粉砕し、KClと重量比で1:1となるように混合した。これをアルミナるつぼ中で、1000℃にて12時間熱処理し、室温まで冷却した後、水でKClを溶解・除去し乾燥させて、単結晶粒子に結晶成長したPb(Ti0.7Zr0.3)O3粒子を得た。
【0038】
次に、上述の方法により得られた結晶成長したPb(Ti0.7Zr0.3)O3粒子を30g取り出し、このPb(Ti0.7Zr0.3)O3粒子100重量部に対し、ポリビニルアルコール0.5重量部、純水40重量部を加えて12時間ボールミル混合し、スラリーを得た。
【0039】
次に、得られたスラリーを12Tの磁場中で鋳込み成形することにより、結晶が配向化した成形体を得た。この成形体を1000℃で3時間保持して焼成することにより、焼結体(試料3)を得た。
【0040】
2.評価
次に、上述の作製方法により得られた各試料に係る焼結体の所定の断面における配向度を、Lotgering(ロットゲーリング)法により、以下の数式(2)から算出した。配向度の計算では、磁場を印加しない状態で成形した成形体を焼成することにより得られたPb(Ti0.7Zr0.3)O3の焼結体を基準試料とした。
【0041】
[数2]
【0042】
ここで、ΣI(HKL)は評価対象の焼結体における特定の結晶面(HKL)のX線ピーク強度の総和であり、ΣI(hkl)は評価対象の焼結体の全結晶面(hkl)のX線ピーク強度の総和である。また、ΣI0(HKL)は基準試料における特定の結晶面(HKL)のX線ピーク強度の総和であり、ΣI0(hkl)は基準試料の全結晶面(hkl)のX線ピーク強度の総和である。
【0043】
また、測定条件は、2θ=20〜60degとした。また、全結晶面(hkl)のX線ピークの強度として、<100>、<110>、<111>、<200>、<210>および<211>の各強度を使用した。特定の結晶面(HKL)として、<100>および<200>の各強度を使用した。
【0044】
また、試料1ないし試料3の焼結体について、上述した方法により焼結密度を測定した。
【0045】
得られた試料1ないし試料3の焼結体の配向度、焼結密度および比抵抗ρの結果について、各試料の焼成条件と共に表1に示す。また、図4は、圧電配向セラミックスの焼結体の所定の断面におけるXRDチャートを示し、(a)は、試料1のXRDチャートであり、(b)は、試料2のXRDチャートであり(c)は、試料3のXRDチャートである。なお、各試料の比抵抗ρは、各試料に直流電圧100Vを印加し、15秒間プリチャージした後、試料に流れる電流を測定することにより算出した。
【0046】
【表1】
表中の※は、本発明の範囲外である。
【0047】
表1より、試料1は、配向度が高く、また、焼結密度が理論密度に対して高い値が得られている。一方、試料2は、焼結密度は試料1と同様に理論密度に対して高い値が得られたものの、得られた焼結体の配向度が低いことがわかる。また、試料3は、配向度は高いものの、理論密度に対して焼結密度は低いことがわかる。さらに、試料3は、分極処理を行うためには、比抵抗ρが1.0×108Ωm以上が望ましいが、その条件が満たされていないことがわかる。
【0048】
本発明にかかる圧電配向セラミックスの製造方法によれば、Pb(Ti,Zr)O3系化合物を含む成形体を焼成する工程において、成形体を焼成温度の保持時間が3時間の条件で焼成した場合に、焼結密度が理論密度の85%以上となる焼成温度のうち、最も低い焼成温度よりも100℃以上低い温度で24時間以上保持して焼成することによって、Pb(Ti,Zr)O3系化合物を含み、かつ高い結晶配向性を有する圧電配向セラミックスを得ることができる。
【0049】
なお、本発明にかかる実施形態においては、Pb(Ti,Zr)O3系化合物であるPZT系化合物を主成分とする圧電配向セラミックスであるが、これに限るものではなく、本発明にかかる圧電配向セラミックスの製造方法は、このPZT系化合物に第3成分としてPb(Ni,Nb)O3を含有したPb{(Ni,Nb),Ti,Zr}O3系化合物を含む圧電配向セラミックスを作製する際にも適用してもよい。
図1
図2
図3
図4