【実施例】
【0039】
以下に実施例を示すことで本発明を詳細に説明するが、使用した菌株、培地、培養方法、プラスミド、プライマー、その他試薬類、実施方法などは一例として挙げたものであり、本発明を実施できるものであればこれらに限定されるものではない。
【0040】
〔実施例1〕該遺伝子の塩基配列の決定
該酵素をコードする遺伝子は下記の通りクローニングし、その塩基配列を決定した。
【0041】
即ち、該生澱粉分解酵素を生産する土壌検索菌が、その16SrDNAの塩基配列の相同性からAeromonas属と推定された(後述の実施例6参照)ことから、同じくAeromonas属の生産するアミラーゼのうち、その塩基配列が既知のもの4種(Aeromonas hydrophila ATCC7966(GenBank NC008570)、A.hydrophila MCC−1(L19299)、A.hydrophila JMP636(L77866)、A.Salmonicida A449(NC009348))のコンセンサス配列より、PCRプライマー(WYTGGTGGACCGTCTAYCARCCBGTCAGCT 及び RTCAYTGCCNSYCARGAKGTTGCAGTACTC)を推定した。
【0042】
本プライマーを用いて50−2株より定法通りコロニーダイレクトPCR(アニーリング温度52℃、25サイクル)を行ったところ、約1kbpのDNAフラグメントを得た。本フラグメントの塩基配列をオートシーケンサーで解析した(解析結果1)。
【0043】
他方、50−2株の染色体DNAをSmaIあるいはSphIで完全に加水分解した後、これをT4リガーゼでセルフライゲーションさせ、環状化した。このうちSmaIでの反応液をテンプレート溶液とした場合、PCRプライマー(TGCACGTAGGGAGAGCCGGTATTGAGGT 及び TATGGCTGGAAGCAGGTGATGTCGGGCT)を用いてインバースPCR(アニーリング温度60℃、25サイクル)を、SphIでの反応液をテンプレート溶液とした場合、PCRプライマー(TCATAGGTGCTCATGTTCTCGAAGCGAT 及び GCCGCCACGGAGACGGTCAGGTTCGATA)を用いてインバースPCR(アニーリング温度53℃、25サイクル)を行ったところ、それぞれ約1.4kbp及び1.6kbpのDNAフラグメントを得た。本フラグメントの塩基配列をオートシーケンサーで解析した(解析結果2)。
【0044】
解析結果1及び2より、開始コドンATGから終止コドンTAGまでの2352塩基がMetから始まる本酵素783アミノ酸残基をコードしていることを見出した。該遺伝子の塩基配列を日本DNAデータバンク(DDBJ)へ登録した(GenBank No.AB593742)。
【0045】
〔実施例2〕発現プラスミドの構築
該酵素遺伝子を含んでなる、E.coliの高発現プラスミドは以下の通り構築した。
【0046】
即ち、該酵素遺伝子の上流に制限酵素EcoRIサイトを持つプライマー(GAAAGAATTCATGCACAGCACACTGCTTCG)及びその下流に制限酵素HindIIIサイトを持つプライマー(AGGTAAGCTTCTAACCAGCGACATGGGGGT)を用いて50−2株より定法通りコロニーダイレクトPCR(アニーリング温度45℃、25サイクル)を行ったところ、本生澱粉分解酵素の構造遺伝子を含み、上流側に制限酵素EcoRIサイト、下流側に制限酵素HindIIIサイトを持つ約2.4kbpのDNAフラグメント(ORFフラグメント)を得た。
【0047】
また、E.coliでの高発現のため市販の発現プラスミドpKK223−3(ファルマシア社製、GenBank M77749)を使用した。これはtacプロモーター、rrnBターミネーター、及びマルチクローニングサイトを含む約4.6kbpのプラスミドである。
【0048】
この発現プラスミドpKK223−3のマルチクローニングサイトのEcoRI−HindIII上に、本酵素の構造遺伝子をコードするところの、先に述べたORFフラグメントを挿入し、本酵素高発現用E.coliのベクターpKK50−2約7.0kbpを得た。該ベクターの模式図を
図3に示す。
【0049】
〔実施例3〕形質転換体の獲得
生澱粉分解酵素生産性の形質転換体は以下の通り獲得した。即ち、高発現ベクターpKK50−2を塩化カルシウム法(前述)にしたがって、E.coli DH5αへ導入した。該形質転換体を独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターへ寄託した。(寄託番号NITE P−1025)
【0050】
〔実施例4〕酵素の製造
該形質転換体から、以下の手法を用いて粗酵素液を調製し、本酵素の製造を行った。
【0051】
[酵素活性の測定法]
酵素活性の測定は、特に断らない限り次の方法で実施した。
すなわち、10mM燐酸緩衝液(pH6.0)及び5mM塩化カルシウムを含む1%生澱粉(通常では粳種のトウモロコシ澱粉)懸濁液0.5mlに酵素液0.05mlを加え、pH6.0、40℃で一定時間(通常では15分間)反応させた後、生じた還元力をソモギー・ネルソン法にて定量した。1分間にマルトース1μmolに相当する還元力を生じる酵素力価を1U(単位)とした。
温度の推移に伴う酵素の相対活性は、上記の方法で測定の際、その反応温度のみを25℃から50℃の各温度に変更したものである。
また、pHの推移に伴う酵素の相対活性は、上記の方法で測定の際、使用する緩衝液を、pH4.0〜6.0の範囲では酢酸緩衝液に、pH5.0〜9.0の範囲では燐酸緩衝液に変更したものである。
一方、温度の推移に伴う酵素の残存活性は、10mM燐酸緩衝液(pH6.0)及び5mM塩化カルシウムを含む酵素液を、所定の温度で30分間加温処理後、残存する活性を上記の方法にて測定したものである。
さらに、pHの推移に伴う酵素の残存活性は、所定のpHを示す10mM緩衝液(pH4.0〜6.0は酢酸緩衝液、pH5.0〜9.0はリン酸緩衝液)及び5mM塩化カルシウムを含む酵素液を、35℃で60分間加温処理後、残存する活性を上記の方法にて測定したものである。
【0052】
(1)粗酵素液の調製
該形質転換体を、抗生物質アンピシリンを培地1mlあたり50μg含むLB培地(前述)を用いて、37℃で16時間培養した後、IPTGを終濃度100μMとなるよう本培養液に加え、さらに4時間培養した。培養終了後、遠心分離(10,000xg、10分間)し、培養上清と菌体とに分けた。菌体は得られた培養上清と同量の蒸留水に懸濁後、超音波処理をし、溶菌せしめた。この培養上清及び溶菌液はそれぞれ1.45U/ml及び0.137U/mlの酵素活性を示した。この結果から、グラム陰性の桿菌であるAeromonas属由来の本菌体外酵素は、同じくグラム陰性の桿菌である宿主大腸菌に於いても効率よく菌体外分泌しており、菌体内の残存量は僅かであることがわかった。以降、この培養上清を粗酵素液として用いた。
【0053】
(2)酵素の精製
上記のようにして得られた粗酵素液はブチルトヨパールカラム(1M硫安で吸着後、10mM燐酸緩衝液で溶出)での濃縮、次いで、トヨパールHW55(S)によるゲル濾過を行い精製した。
【0054】
〔実施例5〕酵素の性質
実施例4で得られた精製酵素の性質について検討した。
【0055】
(1)分子量
実施例4の精製酵素について、Laemmli法(非特許文献13)に準じてSDS−ポリアクリルアミド電気泳動(以下SDS−PAGE)を行った。分子量マーカーはファルマシア社製のものを使用した。
泳動終了後、クーマシーブリリアントブルー(CBB)G−250で染色したところ、SDS−PAGE的に均一な酵素蛋白が得られ、本酵素の分子量は約80kDaであることが明らかとなった。
【非特許文献13】Laemmli,Nature,227,680−685(1970)
【0056】
(2)至適温度
実施例4の[酵素活性の測定法]に従い、温度の推移に伴う相対活性の変化を測定したところ、温度の上昇と共に緩やかに活性が上昇し、40℃付近で最も高い活性が観察された後は緩やかに下降した。この結果から、本酵素の至適温度は40℃付近であることが明らかとなった。(
図4)
【0057】
(3)至適pH
実施例4の[酵素活性の測定法]に従い、pHの推移に伴う相対活性の変化を測定したところ、pHの上昇と共に活性が上昇し、6.0付近で最も高い活性が観察され、その後は緩やかに下降した。このことから、本酵素の至適pHは6.0付近であることが明らかとなった。
【0058】
(4)温度安定性
実施例4の[酵素活性の測定法]に従い、温度の推移に伴う残存活性の変化を測定したところ、40℃で前処理したものは未処理のものとほぼ同等(100%)であり、25℃、30℃、35℃のものにおいても100%に近い残存活性を示した。一方、前処理温度が40℃を超えるとその残存活性は低下し、45℃では30%程度しか示さず、50℃では残存活性は全くなかった。このことから、本酵素は40℃以下で安定であり、50℃以上では完全に失活することが明らかとなった。(
図5)
【0059】
(5)pH安定性
実施例4の[酵素活性の測定法]に従い、pHの推移に伴う残存活性の変化を測定したところ、pH4.0で前処理したものは低い残存活性であったが、pHの上昇と共に残存活性も上昇し、pH5.0〜6.0における相対残存活性は未処理のものとほぼ同等(100%)であった。その後は僅かながら下降したものの、pH9.0においても80%程度の残存活性を示した。この結果から、本酵素はpH5.0〜6.0で最も安定であり、酸性側に比べアルカリ性側でより安定であることが明らかとなった。
【0060】
(6)各種澱粉粒への相対活性
実施例4の[酵素活性の測定法]において、反応基質を各種植物由来の生澱粉に変更した場合の、それぞれの活性を測定し、トウモロコシ澱粉(粳種)の酵素力価を100とした場合の各種澱粉の相対活性を算出した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表2から明らかなように、本発明の生澱粉分解酵素は小麦澱粉に最もよく作用し、次いで米澱粉、餅米澱粉などによく作用した。また、モチトウモロコシ澱粉に対しては、粳種のトウモロコシ澱粉の約1.5倍、よく作用した。一方、馬鈴薯澱粉や甘藷澱粉などの芋類の澱粉にも作用を示した。このことから、本酵素は種々の生澱粉に作用することが明らかとなった。
【0063】
(7)各種金属化合物の添加効果
実施例4の[酵素活性の測定法]において、実施例4の(2)の精製酵素を5mMのEDTAで一夜透析したものを用いたこと、塩化カルシウムの代わりに表2に示す各金属化合物(いずれも金属イオンとして10mM)を用い、それぞれ30分間反応させたこと、並びに酢酸緩衝液の代わりに50mM MES緩衝液(pH6.0)を用いたことの他は、同様の条件で測定した。塩化カルシウム添加の際の酵素力価を100とした場合の、それぞれの相対活性を算出した。
【0064】
【表2】
【0065】
表2から明らかなように、Fe
2+では活性がわずかに上昇したが、それ以外の添加では活性は低下傾向にあり、Zn
2+、Cu
2+、Ni
2+の金属イオンではほとんど酵素活性を示さなかった。また金属化合物を全く加えない場合、ごく僅かながら活性が示された。
【0066】
(8)N末端アミノ酸配列
実施例4の精製酵素を実施例5の(1)と同様の条件でSDS−PAGEを行った後、ウエスタンブロットによりPVDF膜へ転写し、これをCBB染色した。染色により生じたバンド部分のPVDF膜を切り取り、プロテインシーケンサーPPSQ−10(島津製作所)にて解析した。解明したアミノ酸配列はEGVMVHLFQWKFND−であった。
この結果から、本酵素蛋白質のN末端は、
図1に記載のアミノ酸配列25番目の残基からなり、1から24番目まではシグナルペプチドに相当することが明らかとなった。
【0067】
〔実施例6〕酵素生産菌の同定
実施例1で用いた微生物50−2株について、その遺伝的情報により微生物の同定を行った。すなわち、秋田県潟上市の土壌からの検索菌である50−2株を、前述の中性培地で28℃にて2日間静置培養後、集菌し、得られた菌体より斉藤・三浦の方法(非特許文献14)により染色体DNAを抽出した。これを鋳型として、PCRにより16SrDNAの1537bp領域を増幅した(非特許文献15)。この増幅された塩基配列をシーケンシングし、
図2に記載の50−2株の16SrDNAの塩基配列を得た。
【非特許文献14】H.Saito,他、Biochim.Biophys.Acta,20(72),619−629(1963)
【非特許文献15】K. Mori,他、Int.J.Syst.Bacteriol.,47(1),54−57(1997)
【0068】
得られた16SrDNAの塩基配列をBLAST検索した結果、上位100位のうち98位の1菌株がPseudomonas属であり、他の99株すべてはAeromonas属であった。そのうち上位60位までが該50−2株と99%以上の相同性であり、61位のA.salmonicida(AY910844)とは98%の相同性であった。この上位60位の内訳は、A.veronii(AY987746)1株、A.punctata(GU205200)1株、A.media(AY987773、GU174504、FJ940831、他)8株、種の同定まで至っていないもの(GU566305、FM957460、AY987770、他)13株、残り37株がA.hydrophila(GQ184148、DQ207728、CP000462、FJ515776、他)であり、さらに上位10位まではすべてA.hydrophilaであった。よって該50−2株はAeromonas属に分類され、A.hydrophilaに最も近縁と考えられる。
【0069】
本菌株すなわちAeromonas属50−2株を中性培地(前述)1mlに1白金耳植菌し、28℃で1夜静置培養した。これを前培養液として中性培地100mlへ植菌し、28℃下に3日間静置し、本培養を行った。
【0070】
この本培養液を遠心分離機にて除菌し、得られた上清を〔実施例4〕の「(2)酵素の精製」と同様に処理して精製酵素を回収した。本精製酵素を〔実施例5〕に準じてその性質を検討したところ、〔実施例5〕と同様の結果を得た。