【実施例】
【0028】
(A)実験材料
(1)有機合成試薬
D-リジンO-メチルエステル・2HCl((D-LysOMe・2HCl)、3,4,5-トリメトキシベンゾイルクロリド(TMBC)、N-メチルモルホリン(NMM)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、三臭化ホウ素(BBr
3)、フルオロイソチオシアネートFITC)、ウシ胎仔血清(FCS)は、和光純薬工業から、2-[1H-ベンゾトリアゾール-1-イル]-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、N-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)はNova biochem社から、活性化ポリエチレングリコール類(PEG類)は油化産業株式会社から購入した。RPMI培地、他の汎用試薬は日水製薬、和光純薬工業社、シグマ社、渡辺化学社等の製品を用いた。特殊蛍光ラベル輸入抗体はそれぞれの輸入元、和光純薬、タカラバイオ等を通して入手した。
【0029】
(2)細胞
ヒト細胞およびサル腸骨骨髄細胞は常法に従い、フィコールグラゼント法でリンパ球を分離して用いた。TGDKの作用をナチュラルキラー細胞 (NK Cell)およびナチュラルキラーT細胞 (NKT Cell)並びに制御性T細胞(Treg)をそれぞれの細胞マーカーを用いて、フローサイトメーター (FACS)分析を行い、調べた。
【0030】
(B)実験方法
合成方法の概要および各行程の新化合物の略号と化学名を下記に示し、汎用試薬の略号は実験材料の項に記載した。
(1)液相合成によるTGDKの大量合成法の概要
概要をScheme-1に示し、TGDKの化学名はscheme-1の最後に記載した。
【0031】
【化1】
【0032】
(2)各行程の方法
(2−1) Protocol-1 (酸クロリド法)の方法:
D-LysOMe・2HCl(12.8 g, Mw 232.19, 55 mmole)をDMF(脱水)150 mlに懸濁し、NMM(脱水)40 mlを加え、室温で10分撹拌する。この懸濁液にTMBC(28.8 g, MW230.03)を溶解したDCM(脱水, 88 ml)溶液を加え、室温で撹拌する。約48時間後、この懸濁反応液(約280 ml)に水を加えて1 Lとし、室温で30 分間撹拌する。その後、1夜静置し、分離した水層をアスピレータで除き、DCM層を各50 mlチューブに10 mlずつ分注する。このチューブに水を加えて50 mlとし上下混和して、DCM層を水で洗う。この操作を2回繰り返し、DCM層を回収・留去し、少量のCH
3CNを加え、凍結乾燥(2TBOMe)する。この評品をProtocol-2に従って、精製し、生じた3,4,5-Trimethoxybenzoic acidを除く。
【0033】
(2−2) Protocol-2 (ゲル化精製)の方法:
凍結乾燥品(2TBOMe, 3 g)をCH
3CN 12 mlに溶かし、TFA(0.5 ml)を添加し、TFA酸性としたのち、Etherを加えて、50 mlとし、ゲル化するまで、Vortex, Supersonic処理を行う。生じたゲルを分離し、これに Etherを加えて50 mlとして、ゲル層を同様にEtherで4回洗除する。Ether層を除き、少量のCH
3CNを加えて、凍結乾燥する。この操作により、分解で、生じた3,4,5-Trimetoxybennzoic acidをほぼ完全に除去できる。
【0034】
(2−3) Protocol-3 (ケン化)の方法:
精製2TBOMe 1 gをDCM 1 mlに溶かし、KOH飽和MeOH溶液1 mlを加え、室温で30 min放置する。その後、DCM 5 ml および水 5 mlを加え、Vortex, Supersonic処理を行い、濃HCL 1〜2 mlを添加して強酸性にする。この溶液に水を加えて、50 mlとし、上下混和(Vortex,Supersonic処理をしない)し、DCM層を分離して、このDCM層を水で洗除する。この操作を2回行い、分離したDCM層のDCMを留去して、少量のCH
3CNを加えて、凍結乾燥する。
【0035】
(2−4) Protocol-4 (DCC活性化法)の方法:
反応撹拌容器(有機溶媒耐性プラスチック製)に撹拌子を入れ、この容器に2TBOH 2.25 gおよびDMF(脱水) 4.2 mlを加えて、溶かし、HOBT(567 mg/ml DMF)およびDCC(867 mg/ml DMF)を加え、室温で30 分間撹拌する。数分で、活性エステル中間体が析出した懸濁液に、予め、D-LysOMe・2HCl(441 mg/2 ml DMF)にNMM(脱水)460 μLを加え、室温で30分間撹拌した懸濁液をチップの先端をカットしたエッペンドルフのピペットで、不溶物ごと、一緒にできるだけゆっくりと滴下する。滴下終了後、反応撹拌懸濁液を室温で24 時間撹拌する。
【0036】
(2−5) Protocol-5の方法:
前操作の24 時間の反応撹拌後、懸濁液(約DMF 8.2 ml)を撹拌容器から50 mlのポリエチレンチューブに移し、撹拌容器に残っている反応懸濁液残査をDMF 1 mlを加え、沈殿残査ごと、同チューブに移しとり、次に撹拌容器にDCM 1 mlを加えて丹念に洗除し、そのDCM溶液を同様に同チューブに移す。さらにDCM 1 mlを加え、同操作を行い、反応容器から遠心チューブに、丹念に反応懸濁液を沈殿ごと、一緒に移す。このチューブを遠心(3300 x 3 分)して沈殿(DCC Urea)を除き、上清を得る。遠心後、チューブの底に残っている沈殿に、DMF 1 mlおよびDCM 1 mlを加えて、同様な操作を行い、遠心して得た上清を最初に得た上清に加える。この合わせた上清中のDCM とDMF混液中のDMF量に注意を払い、この混液中のDMF量が5 ml以上、10 ml以下の場合、この混液を2本のチーブ(5 ml/tube)に分け、それぞれに水を加えて50 mlとし、遠心(3300 x 3分)してDCM層を分離し、このDCM層を同じように水で3回洗除する。洗除して得られたDCM層のDCMを留去し、少量のCH
3CNを加えて、凍結乾燥(4TBOMe)する。CH
3CN不溶物は痕跡程度のDCC Ureaであるので、遠心して除く。
【0037】
(2−6) Protocol-6の方法:
Protocol-3と同じである。
【0038】
(2−7) Protocol-7の方法:
4TBOH(0.5 g)をCH
3CN 2 mlに溶かし、もし不溶物がある場合は遠心して不溶物を除き、水を加えて、凍結乾燥する。この操作は、不純物をMSチャート上で認めない場合、省略しても差し支えない。
【0039】
(2−8)Protocol-8 (HBTU・EDA solvent法)の方法:
4TBOH(Mw1178, 0.26 g, 0.22 mmole)をDMF(脱水)2 mlに溶かし、ジイソプロピルエチルアミン(MW 129.24, d=0.755)41μLを添加し、HBTU(MW 379.24, 91.8 mg/ml DMF脱水)を加えて、直ちに、予め準備しているEDA(エチレンジアミン)1.1 ml溶媒に1滴/1秒の速度で撹拌しながら滴下する。この滴下中はチューブをドライヤーで加温(触って熱いぐらい)する。滴下終了後、同じようにドライヤーで10分間、加温し、その後、室温で60分間撹拌する。撹拌終了後、不溶物があれば、遠心して除き、その上清を4TBA DMF溶液とする。
【0040】
(2−9)Protocol-9 (4TBAの抽出・分離精製)の方法:
4TBA DMF溶液量と同じ量のDCMを加え、DMF量が10 mlを超えている場合は4TBA DMF溶液を2本のチューブに分ける。これらのチューブに水を加えて50 mlとし、上下混和する。遠心してDCM層を分離し、DCM層を同様に水で洗い、DCMを留去して、CH
3CNを加え、凍結乾燥し、4TBAを得る。
【0041】
(2−10)Protocol-10 (BBr
3分解・Ca-Capture法)の方法:
4TBA(Mw 1221, 0.28 g, 0.299 mmole)をDMF(脱水) 0.5 mlに溶かし、lauric acid DCM溶液(Mw 200.32, 2 mmole, 400 mg/ml DCM:分散剤および後処理支援剤)を滴下し、CaCl
2・2 H
20(Mw 147.01 1 mmole,145 mg、脱メチル基の再メチル化阻害剤および生じたgalloyl基保護剤)の結晶を直接加え、4TBAの反応液とする。BBr
3溶液(10 mmoleBBr
3/10 ml DCM)を1回に10 ml用いて、2回行う。この反応は、BBr
3の試薬の状態(赤く着色した試薬および雨期後、常温で6か月以上保存した試薬は使用不可、未開栓、4 ℃以下で保存した試薬は6ヶ月以上経過した場合でも使用できる)、実験室の湿度の状態(湿度は50 %以下がのぞましい)、操作の手際さの状態(試薬の秤量等に時間をかけず、スピーディに行うことが肝要)が重要である。
【0042】
1) 第一BBr
3分解:
上記の4TBA溶液に BBr
3 (10 mmole/10 ml DCM溶液)を1スポイド単位量(1単位量:ガラス製パスツールピペットに1mlのテプロン帽をはめ、BBr
3溶液を1回の操作で取れる量、約1.6 ml)を激しく撹拌しながら、速やかに4単位量を約3ないし4分間をかけて、加える。4スポイド単位加えた時点(BBr
3溶液10 mlのうち、約7 ml加え終わった状態)で、添加反応液が白濁を生じる直前で止め、チューブを閉栓して、2〜3分間激しく撹拌する。その後、5回目の1スポイド量を少しずつ、2 分間かけて加える、反応液が少しずつ濁り始め、6回目の1スポイド量および残りをすべて加え、この操作を約4分間で終了する。反応液は懸濁状態になり、閉栓し、10分間、激しく撹拌する。第一回のBBr
3添加・撹拌反応時間は約17ないし18分間を要し、反応液は透明・懸濁状態からゲル状・半透明・粘性液体に変化する。
【0043】
2) 第二BBr
3分解:
第一BBr
3分解物に、BBr
3 10 mlを1スポイド単位量で数回に分けて、約2分間をかけて加え、第二BBr
3分解操作を行う。第一BBr
3反応液のゲル状態から淡褐色のサラサラ淡褐色液体になる。添加終了後、5分間、閉栓して激しく撹拌する。5分間の閉栓・撹拌終了後、EDA250 μL(N-メチル化防止剤)を少量ずつ加える。EDA滴下と同時に、爆発的に中和され、白煙を生じる。EDA滴下終了後、3分間撹拌し、次の蒸発・乾固の行程に移る。
【0044】
3) BBr
3分解物の蒸発・乾固操作:
BBr
3分解物の入ったチューブをドライヤーで熱く(手で握れて、熱いと感じる程度)加熱し、蒸発・乾固させる。この加熱・蒸発・乾固操作には約10分間を要する。反応の目安はチューブ内の液がサラサラ半液体からドロドロ乾固、さらにコロコロ乾固の状態に変わり、コロコロ乾固の状態が反応の終焉である。
【0045】
4) BBr
3分解・乾固物の水付加分解:
BBr
3分解物のコロコロ乾固の状態に、水を速やかに加えて、5 mlとする。この反応は水と激しく反応し、発熱・発泡するので、注意深く行う。この水付加分解物を常温に冷却する。この分解物を遠心(3300 x 5分間)し、沈殿と上清に分け、上清をさらに同条件で遠心して得た上清に、それぞれの沈殿物に水1〜2 mlを加え、同様に遠心して得られた上清を加え合わせる。
【0046】
5) Ca-Capture法によるCa塩共沈現象を利用するTGDKの精製:
BBr
3により、3,4,5-トリメトキシ基が脱メチル化しgalloyl基を生成させると同時に、大過剰の BBr
3の分解産物、ホウ酸、HBr等を大量に含む強酸性溶液である。この強酸性溶液に存在するTGDKを短時間に、効率的に精製する方法として、Ca-Capture法を考案した。
【0047】
上記のBBr
3分解物の加え合わせた上清容量(7.5 ml)と同量のNMM(7.5 ml)を加え、まず、強酸性を中和する。この中和反応は発熱反応であるので、この溶液(15 ml, 茶褐色)を室温でしばらく放置(10ないし20分程度)し、冷却する。この溶液に1 M CaCl
2水2 mlを加えて、沈殿を生じさせ、-5 ℃で5 分間、次いで4 ℃で10分間放置し、沈殿を熟成させる。生じた沈殿を遠心して分取する。CaCl
2を加えることにより、lauric acidのCa塩が生成し、同時にTGDKのgalloyl基のCa塩が生じる。Ca-(lauric acid)
2による沈殿物の中にTGDKのCa塩が共沈して存在する。目的物は水に溶けやすいので、この沈殿物の水洗除は不可である。
【0048】
この沈殿物にDCM(1回目)を加えて、30〜35 mlとし、Vortexで撹拌し、Ca-(lauric acid)
2塩をDCM層に移し、除く。この場合、Sonicationは厳禁である。Sonicationにより、目的化合物が重合しやすくなり、不純物除去が困難になる。このDCM添加撹拌溶液を遠心(3300 x 3 分間)し、生じた上部沈殿物(淡ベージュ色)をdecantation(傾斜除去)で採取する。この淡ベージュ色の沈殿物にさらに、DCM (2回目)30〜35 mlを加え、Vortexを行い、遠心する。上部沈殿物に黄色液体が現れるので、この黄色液体をパスツールピペットで丹念に除き、下層のDCM層をdecantationで除去する。この操作をさらに繰り返し、黄色液体が生じなくなるまで行う。黄色液体が出なくなった沈殿(茶褐色)に水5 mlを加え、遠心して沈殿と上清にわけ、それぞれにTFA 100μlを加えて、凍結乾燥を行う。上清からPure-TGDK・TFA塩、沈殿からOligo-TGDK・TFA塩が得られる。
【0049】
(3)合成過程の構造式および化学名並びに略号
【0050】
【化2】
【0051】
【化3】
【0052】
【化4】
【0053】
(4)TGDKの生物学的作用の実験方法:
(4−1)TGDKの前処理:
液相法で合成したTGDKはTFA塩であり、痕跡程度のlauric acidのCa塩を含むので、まず、はじめに、100 %TFAの少量に溶かし、その10倍量のエーテル(脱水)を加え、生じた沈殿に再び100 %TFAの少量に溶かした。この操作を数回繰り返し、生じた沈殿をdry(減圧下、乾燥、TFAの除去)し、3N HCl少量に溶かし、凍結乾燥して、TGDK HCl塩として用いた。なお、試料は70 %エタノール滅菌下、エタノールを除去して滅菌PBS(-)に溶解し、使用濃度に培養液で希釈して用いた。
【0054】
(4−2)TGDKの浮遊骨髄リンパ系細胞に対する作用
サル腸骨骨髄細胞は常法に従い、フィコールグラジエント法で骨髄液からリンパ球系細胞を分離して用いた。得られた骨髄リンパ球系細胞(1 x 10
6/ml in 10%FCS含有RPMI1640)5 mlにTGDKの作用最終濃度0.1 μMになるように調製したTGDK(in培養溶液)100 μlを加え、12日間培養した。その間1日あるいは2日毎に浮遊生細胞の生細胞数および死細胞(トリパンブルー法)で求め、浮遊生細胞に対するTGDKの作用を観察した。
【0055】
(4−3)TGDKの接着骨髄リンパ系細胞に対する作用
培養初期から中期(7日)にかけて、付着細胞は認められなかったが、その後、培養器の底に付着している接着細胞が認められたので、12日間培養し、接着細胞をEGTA法で剥離し、得られた細胞(3 x 10
5 cell/ml)0.5 mlにTGDK(in培養溶液、作用最終濃度25 μM)20 μlを加え、15分間、常温で作用させ、FACS分析を行った。ナチュラルキラー細胞(NK 細胞)およびナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)並びにT細胞の特異的細胞マーカー、CD16(Fc受容体タイプIII)およびCD56(接着因子)ならびにCD3、さらにCD161(C-type lectin family receptor)を用いて行った。
【0056】
(4)TGDKのヒト末梢リンパ球系細胞に対する作用
ヒト末梢血(ヘパリン血)を常法に従い、リンパ球系細胞を分離して、骨髄細胞系の実験条件に準じて行った。
【0057】
(C)結果・考察
(1)液相合成によるTGDKの収量と純度
液相合成法の各行程の収量と最終的に得られたTGDKの質量分析の結果をScheme-3および
図1に示した。
【0058】
【化5】
【0059】
液相合成法で得られたTGDKの質量分析の結果、ほぼ均質であることが確認された(
図1)。液相合成法および固相合成の収率を出発原料に対するMole 収率として表し、比較すると、D-Lys( 12.8 g )からTGDK(4.9 g, mole 収率 8.5 % )が得られ、樹脂を用いる固相合成法(mole収率:2.6 %)にくらべ、高収率であることがわかった(Scheme-3)。製造原価は樹脂法に比べ、約100分の1に抑えることができた。
【0060】
(2)TGDKの生物学的作用
(2−1)TGDKの浮遊骨髄リンパ系細胞に対する作用
図2にTGDK(0.1 μM)の各経時における相対浮遊生細胞数(%)を示す。
TGDKの効果をControlおよびTreatedを比較した場合、Day4,6,7の結果を除いて、双方の浮遊骨髄リンパ系細胞の生細胞数に有意の変化は認められなかったものの、Day4およびDay6,7において、TGDKの効果と考えられる生細胞数の有意の減少が認められた。この減少効果はTGDKの普遍的な細胞毒性によるとは考えにくい。一般に、薬物の細胞毒性による生細胞の減少は培養時間とともに、大きくなり、数日で完全に死滅する。しかし、TGDK処理において、Day4,6,7の培養で、生細胞が減少し、Day9からControl レベルまでに回復、さらにDay12では細胞の増殖が認められているので、TGDKの毒性によるものではないと考えられる。この生細胞数の減少はTGDKにより、NK細胞が活性化され、NK細胞の標的細胞の傷害により、生細胞が減少したと考えられる。
【0061】
(2−2)Day12培養浮遊骨髄リンパ系細胞のFACS1分析
NK細胞のCD16, CD56, CD161およびNKT細胞のCD3, CD16, CD56, CD161の表面マーカーを用いるFACS分析の結果を
図3のA〜Fに示した。
【0062】
CD16+,CD56+の二重陽性細胞の割合(%)は4.24(Control,
図3A)からTGDK処理で4.43(
図3B)に、CD3+, CD16+の二重陽性細胞の割合(%)は2.16(Control,
図3C)からTGDK処理で2.46(
図3D)に、CD3+, CD56+の二重陽性細胞の割合(%)は2.10(Control,
図3E)からTGDK処理で2.50(
図3F)に、いずれも増加していると考えられる。これらの増加した細胞は表面マーカーから、NK細胞あるいはNKT細胞と考えられる。ヒトの場合、NK細胞の総数は約50億個と推定され、ヒトの総細胞数約60兆個と比べるとその数は約1000分の1と極めて少ない。生体の細胞、侵入してきた病原性細胞、生体から変わった異細胞(癌細胞)、年老いた細胞など1000個をNK細胞あるいはNKT細胞1個が常時サーチし、異物を取り除いて、生体は守られている。このことに立脚すると、NK細胞、NKT細胞の0.1%増減は生物学的に極めて意味深いものであり、これらのことから、TGDKはNK細胞およびNKT細胞を刺激し、増殖していると考えられる。
【0063】
(2−3)TGDKの接着骨髄リンパ系細胞に対する作用
骨髄細胞をTGDK(0.1 μM)で処理し、12日間培養して、培養容器の底に付着して増殖している細胞(形態学的には単球由来、樹状細胞、マクロファージ、CD161+、CD16+陽性細胞群)をEGTAで剥離し、TGDK(最終濃度、25 μM)で15分処理し、FACS分析の結果を
図4A、Bに示す。
【0064】
CD161+およびCD16+二重陽性細胞の割合(%)が6.07(Control, day12培養)から、TGDK(25 μM)処理により、1.36%に、CD161+陽性でCD16-陰性細胞は2.11(Control)から、0.3 %に激減した。骨髄細胞は未分化細胞・前駆細胞・ホーミング細胞などの多くの集まりであり、12日間の培養により、それぞれに、分化したマクロファージ、樹状細胞、単球などの細胞は付着性で、培養容器の底に付着して増殖する。また、これらの細胞はC-type lectinを細胞表面に発現し、これらlectinの糖鎖とCaを介してC-type lectin receptorであるCD161を持つNK細胞およびNKT細胞が結合し、培養器の底に付着していると考えられる。このような状態に、EGTAを加えることで、Caが除かれ、付着細胞から浮遊して来た細胞あるいはCD161を持つ付着性の細胞群を実験に供用したと考えられる。この浮遊細胞にTGDK(25 μM)を加えると、TGDKはCD161に結合し、CD161をマスクするので、もはや抗CD161抗体と結合できないので、FACS分析においては、CD161が発現しているNK細胞およびNKT細胞が劇的に減少した結果を示している。これらの結果はTGDKの作用の2面性を暗示していると考えられる。すなわち、血中などの浮遊状態ではNK細胞およびNKT細胞を刺激し、増殖して、生体に侵入してきた病原性細胞や生じた異細胞(がん細胞など、大腸癌ではCD161発現がん細胞が異常に増殖している)を取り除くことができることを示している。また、比較的固定された状態、たとえば粘膜などの自然免疫状態ではNK細胞の作用を制御し、異物が侵入すれば、ただちに活性化し、異物を取り除くと同時に、自然免疫の過剰反応(NK細胞の暴走)を防止している。自然免疫反応の暴走と考えられる潰瘍性大腸炎などの難病にTGDKが非常に有効と考えられる。
【0065】
(2−4)TGDKの末梢リンパ球系細胞に対する作用
TGDK存在下および非存在下、ヒトリンパ球系細胞(PBMC)を3日間培養し、T細胞およびNK細胞並びにNKT細胞のマーカー分子CD3、CD16、CD56を指標に、FACS分析を行った結果を
図5に示した。TGDKの細胞毒性の認められない濃度、0.1 mM(
図5B)でCD16、CD56ダブルポジテイブ細胞数がTGDK 0 μM(
図5A)に比べ、約1.8倍に、TGDK 1 mM(
図5C)では約6倍に上昇した。