特許第5799605号(P5799605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799605
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20151008BHJP
   H02K 1/27 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
   H02K15/02 K
   H02K1/27 501D
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-138412(P2011-138412)
(22)【出願日】2011年6月22日
(65)【公開番号】特開2013-9452(P2013-9452A)
(43)【公開日】2013年1月10日
【審査請求日】2014年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】田附 知則
(72)【発明者】
【氏名】早川 和孝
(72)【発明者】
【氏名】関川 岳
(72)【発明者】
【氏名】松下 靖志
(72)【発明者】
【氏名】掛川 徹
【審査官】 鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−272033(JP,A)
【文献】 特開2007−043823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K15/00−15/16
H02K 1/00− 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアの軸心方向に沿って形成されたスロット部に磁石材料を挿入した後に、そのスロット部に樹脂材料を充填して磁石材料を位置決め固定するようにした電動機におけるロータの製造方法において、
上記樹脂材料の充填に先立って、スロット部に挿入してある磁石材料に対してスロット部の外部から電磁石により磁力を及ぼすことで、そのスロット部内での磁石材料の位置決めを行うことを特徴とするロータの製造方法。
【請求項2】
スロット部の外部から磁力を及ぼすことによるスロット部内での磁石材料の位置決めとしてロータコアの径方向での位置決めを行うことを特徴とする請求項1に記載のロータの製造方法。
【請求項3】
スロット部の外部から磁力を及ぼすことによるスロット部内での磁石材料の位置決めとして、ロータコアの径方向での位置決めとともにロータコアの軸心方向での位置決めを行うことを特徴とする請求項2に記載のロータの製造方法。
【請求項4】
上記スロット部に挿入してある磁石材料が、永久磁石として着磁される前の未着磁状態のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のロータの製造方法。
【請求項5】
ロータコアの軸心方向に沿って形成されたスロット部に磁石材料を挿入するとともに、そのロータコアを当該ロータコアの両端面に当接させた型にて加圧拘束した状態で、上記スロット部に樹脂材料を充填して磁石材料を位置決め固定するようにした電動機におけるロータの製造方法において、
上記型に鉄心部とコイルとを備えた電磁石を設け、上記型のうちロータコアの端面に当接する部分に、電磁石の鉄心部のみを予め臨ませておき、
上記樹脂材料の充填に先立って上記電磁石のコイルに通電することにより、スロット部に挿入してある磁石材料に対して電磁石の磁力を及ぼすことで、そのスロット部内での磁石材料の位置決めを行うことを特徴とするロータの製造方法。
【請求項6】
上記型のうちロータコアの双方の端面に当接する部分に、電磁石の鉄心部をそれぞれに予め臨ませてあることを特徴とする請求項5に記載のロータの製造方法。
【請求項7】
いずれか一方の型側の電磁石のコイルへの通電を他方型側の電磁石のコイルへの通電に先行して行うことを特徴とする請求項6に記載のロータの製造方法。
【請求項8】
先行して通電される電磁石の発生磁力が、遅れて通電される電磁石の発生磁力よりも大きいことを特徴とする請求項7に記載のロータの製造方法。
【請求項9】
上記スロット部内での電磁石による磁石材料の位置決めとして、ロータコアの径方向での位置決めを行うことを特徴とする請求項5〜8のいずれか一つに記載のロータの製造方法。
【請求項10】
上記スロット部内での電磁石による磁石材料の位置決めとして、ロータコアの径方向での位置決めとともにロータコアの軸心方向での位置決めを行うことを特徴とする請求項9に記載のロータの製造方法。
【請求項11】
上記スロット部に挿入してある磁石材料が、永久磁石として着磁される前の未着磁状態のものであることを特徴とする請求項5〜10のいずれか一つに記載のロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機におけるロータの製造方法、特にロータに永久磁石を内蔵した永久磁石埋込型同期モータ等におけるロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のロータの製造方法として、例えば特許文献1,2に記載されているように、電磁鋼板等の積層体からなるロータコアにその軸心方向に貫通するスロット部をロータコアの円周方向に沿って所定のピッチで複数個形成し、それらのスロット部に個々に永久磁石を挿入した上で、スロット部と永久磁石の隙間を埋めるべく、永久磁石が挿入されているスロット部に樹脂材料を充填して硬化させることにより、いわゆる樹脂モールドのかたちで各永久磁石を位置決め固定するようにしたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−219992号公報
【特許文献2】特開2008−054376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなロータの製造方法において、ロータが回転する際の磁気的および機械的平衡度を保ちつつ回転精度の安定化を図るために、永久磁石をスロット部のうちでもロータ軸心に近い内周壁面側またはそれとは反対の外周壁面側に積極的に寄せて、各永久磁石のロータ径方向での位置を揃えることが望ましい。特にロータ回転時の遠心力に伴って、永久磁石からスロット部外周壁面側へ入力する応力の集中を防ぐことに着目した場合、永久磁石をスロット部のうちでもロータ軸心に近い内周壁面側に寄せて、永久磁石の外周面とスロット部の外周壁面との間に積極的に樹脂材料を充填して充満させたいとの要請がある。
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載された技術では、スロット部とそれに挿入されることになる永久磁石との間には四周に所定の隙間が存在し、その隙間に対して樹脂材料を充填することになる。そのため、樹脂材料の充填圧を受けてスロット部内で永久磁石が微妙に動いてしまうことが懸念され、永久磁石の最終的な位置や姿勢が安定化せず、上記要請に応えることができないおそれがある。
【0006】
また、仮に上記樹脂材料の充填圧の影響を無視することができたとしても、先に述べたようにスロット部とそれに挿入されることになる永久磁石との間には四周に所定の隙間が存在し、スロット部に永久磁石を挿入しただけではその永久磁石の位置や姿勢が安定せずにばらつくことがある。例えばスロット部に挿入した永久磁石が上記要請とは逆にスロット部の外周壁面側に片寄ったり、あるいはロータの径方向で傾いた姿勢となることがある。したがって、その状態のままでスロット部に樹脂材料を充填しても、永久磁石の外周面とスロット部の外周壁面との間に積極的に且つ均一に樹脂材料を充満させることができず、結果として上記要請に応えることができないことになる。
【0007】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、ロータコアのスロット部に磁石材料を挿入した上でそのスロット部に樹脂材料を充填するにあたり、スロット部内での磁石材料の位置や姿勢の安定化を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ロータコアの軸心方向に沿って形成されたスロット部に磁石材料を挿入した後に、そのスロット部に樹脂材料を充填して磁石材料を位置決め固定するにあたり、樹脂材料の充填に先立って、スロット部に挿入してある磁石材料に対して外部から電磁石により磁力を及ぼすことで、そのスロット部内での磁石材料の位置決めを行うものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スロット部に挿入されている磁石材料に対して外部から磁力を及ぼすことで、そのスロット部内の磁石材料を特定の方向に引き寄せて位置決めすることができる。そのため、磁石材料の位置や姿勢が安定化し、磁石材料の位置決め精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明方法によって製造されるロータコアの一例を示す説明図。
図2図1の要部の拡大図。
図3図1のA−A線に沿う断面説明図。
図4図1に示したロータコアの製造手順を示す図で、下型上にロータコアを位置決めした状態を示す断面説明図。
図5図1のB部の拡大説明図。
図6図1のロータコアを下型と上型とで加圧拘束した状態を示す断面説明図。
図7図6の状態から樹脂材料のペレットを投入する際の断面説明図。
図8図7の状態から軟化溶融した樹脂材料を充填した状態を示す断面説明図。
図9】(A),(B)ともに樹脂材料充填時に本発明によって回避される不具合例を示すロータコアの断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1以下の図面は本発明を実施するためのより具体的な形態を示し、特に図1は例えば永久磁石埋込型同期モータのロータ(回転子)の構造を示し、また図2図1の要部の平面図を、図3図1のA−A線に沿う断面図をそれぞれ示している。
【0012】
図1に示すように、ロータ1は、薄板状の電磁鋼板、より具体的には珪素鋼板等の積層体からなる円筒状のロータコア2を主要素として構成されていて、そのロータコア2の円周方向の等分位置に磁石収納のための穴部として偏平矩形状の複数のスロット部3を形成してある。それぞれのスロット部3はロータコア2をその軸心方向に貫通してロータコア2の両端面に開口していて、各スロット部3には当該スロット部3の形状よりも一回り小さな板状またはバー状の永久磁石4を挿入してある。そして、図2,3に示すように、各永久磁石4はスロット部3と永久磁石4との隙間に充填される熱硬化性の樹脂材料5にていわゆる樹脂モールドのかたちで位置決め固定してある。
【0013】
なお、ロータコア2の中心の軸穴2aには図示外の回転軸が挿入固定される。また、ロータコア2の両端面に円板状のエンドプレート(端板)を積層配置することがあるほか、熱硬化性の樹脂材料5に代えて熱硬化性の接着剤を用いることもある。
【0014】
ここで、ロータ1が回転する際の磁気的および機械的平衡度を保ちつつ回転精度の安定化を図り、且つ特にロータ回転時の遠心力に伴う永久磁石4への応力集中を防ぐことに着目した場合、永久磁石4をスロット部3のうちでもロータ軸心に近い内側壁面に密着するように寄せて、永久磁石4の外側壁面とスロット部3の外側壁面との間に積極的に樹脂材料5を充填して充満させたいとの要請があることは先に述べた。本実施の形態においても、この要請に応えるために、図2,3に示すように、永久磁石4をスロット部3のうちでもロータ軸心に近い内側壁面に密着するように寄せて、永久磁石4のうち反ロータ軸心側の外側壁面とスロット部3の外側壁面(ロータコア2の円筒外周面側の壁面)との間に積極的に樹脂材料5を充填して充満させてある。同時に、スロット部3のうちロータコア2の円周方向両端の壁面とそれに正対する永久磁石4側の壁面との間にも樹脂材料5を充填して充満させてある。
【0015】
この場合において、図2,3に示すように、永久磁石4のうち反ロータ軸心側の外側壁面とスロット部3の外側壁面(ロータコア2の円筒外周面側の壁面)との間に確実に樹脂材料5を充填されているならば、永久磁石4のうちロータ軸心側の内側壁面とスロット部3の内側壁面(ロータ軸心側の壁面)との間に樹脂材料が同時に充填されることは許容される。なお、図3に示すように、ロータコア2の一方の端面(図3では下面)と各永久磁石4の一方の端面とが面一状態となっているのに対して、ロータコア2の他方の端面(図3では上面)に対しては各永久磁石4の他方の端面が一段低くなっていて、各永久磁石4の他方の端面を樹脂材料5にて被覆してある。
【0016】
上記のようなロータコア2の製造方法には、概略的には、(1)磁石挿入、(2)予備加熱、(3)型締め、(4)樹脂タブレットセット、(5)注型(樹脂材料の注入または充填)、(6)キュア(硬化)、(7)型開き・製品取り出し、の各工程が含まれていて、これらの工程を経ることで図1のようなロータコア2が製造されることになる。
【0017】
磁石挿入とは、永久磁石4となるべき未着磁の磁石材料をロータコア2の各スロット部3に挿入する作業である。したがって、永久磁石4としての着磁は後工程にて行われる。
【0018】
予備加熱とは、各スロット部3に磁石材料が挿入されたロータコア2を例えば170℃程度まで加熱するものである。
【0019】
型締めとは、磁石材料が挿入された状態で予備加熱されたロータコア2を、その両端面側から所定の金型にて加圧拘束する作業である。なお、ロータコア2が予備加熱されているのに併せて、そのロータコア2を加圧拘束するための金型は例えば180℃程度に加熱されている。
【0020】
樹脂タブレットセットとは、金型の一部に形成されたポット部に熱硬化性の樹脂材料のタブレットを挿入する作業である。
【0021】
注型とは、金型のポット部に挿入した樹脂材料のタブレットを軟化・溶融させて、各スロット部3に注入または充填する作業である。
【0022】
キュアとは、各スロット部3に注入または充填された樹脂材料を所定の保圧下で硬化させ、もって予め各スロット部3に挿入されている磁石材料を位置決め固定する作業である。
【0023】
型開き・製品取り出しとは、その名のとおり金型による加圧拘束状態からロータコア2を解放して、各スロット部3に磁石材料が位置決め固定されたロータコア2を取り出す作業である。
【0024】
ここで、上記のような一連の製造工程は実質的にトランスファー成形法と同等の手法と理解することができ、その詳細を図4以下に示す。
【0025】
図4に示すように、下型6と上型7との組み合わせからなる金型8を用意し、各スロット部3に予め磁石材料9が挿入されているロータコア2の一方の端面を接触面として、下型6の上に載せて位置決めする。下型6のうちロータコア2側のそれぞれのスロット部3に相当する位置には、一つのスロット部3に対して一つまたは複数の電磁石10が埋設配置されている。詳しくは、図5に示すように、磁性体で形成された鉄心10aと、該鉄心10a外周に巻きまわされたコイル10bとからなり、コイル10bに電流を流す(通電)ことで磁力を発生する電磁石10が下型6のうちそれぞれのスロット部3に相当する位置に埋設されていて、その鉄心10aの端面のみが下型6の上面との面一状態をもってロータコア2側に臨んでいる。これにより、電磁石10の鉄心10aのみがロータコア2の一部と磁石材料9の双方に密着するようになっている。ただし、図5から明らかなように、電磁石10はその鉄心10aが反磁石材料9側に片寄るかたちで配置してある。
【0026】
他方、図4に示す上型7については、互いに重ね合わせた二枚の型板7a,7bとから構成されていて、ポット部11とそれと連通する微細なゲート部12を形成してあるとともに、上型7のうちロータコア2側のそれぞれのスロット部3に相当する位置には、図5のものを天地反転させた状態で同様に電磁石13を埋設配置してある。
【0027】
この場合、下型6側の電磁石10と上型7側の電磁石13とは共に同じ能力のものでも良いが、下型6側の電磁石10の能力(発生磁力)を上型7側の電磁石13の能力(発生磁力)よりも大きくすることが望ましい。なお、下型6側の電磁石10及び上型7側の電磁石13の発生磁力は、例えば電磁石10,13のコイルに通電する電流を制御、あるいはコイルの巻き数を変更する等によって変更することが可能である。
【0028】
したがって、図4に示すように、下型6上にロータコア2が位置決めされた段階で下型6側のそれぞれの電磁石10に通電(ON作動)する。各電磁石10に通電すると、各磁石材料9の下端部がスロット部3のうちロータコア2の軸心寄りの内側壁面に密着するように電磁石10の磁力による引き寄せ力F1にて引き寄せられる。同時に、電磁石10の磁力による引き寄せ力F2にて磁石材料9が下型6側に密着することになる。これにより、ロータコア2のスロット部3に挿入されている各磁石材料9の下部について、ロータコア2の径方向での位置決めと図4の上下方向(ロータコアの軸心方向)での位置決めがなされたことになる。
【0029】
こうして、各磁石材料9の下部について、ロータコア2の径方向での位置決めと図4の上下方向での位置決めがなされたならば、下型6側の各電磁石10の通電状態を維持したままで、図6に示すように上型7を下降させてその上型7をロータコア2の他方の端面に密着させ、下型6と上型7とをもって所定の圧力でロータコア2を軸心方向に加圧拘束する。
【0030】
さらに、この加圧拘束状態のもとで、図6に示すように上型7側のそれぞれの電磁石13に通電(ON作動)する。上型7側の各電磁石13に通電すると、各磁石材料9の上端部がスロット部3のうちロータ軸心寄りの内側壁面に密着するように電磁石13の磁力による引き寄せ力F3にて引き寄せられる。この場合、電磁石13の磁力による引き寄せ力F4にて磁石材料9が上方に引き寄せられようとするが、電磁石13の鉄心は磁石材料9には密着しておらず、しかも先に述べたように上型7側の電磁石13の能力(発生磁力)は下型6側の電磁石10の能力(発生磁力)よりも小さいので、電磁石13の磁力による引き寄せ力F4にて磁石材料9が変位することはない。これにより、ロータコア2のスロット部3に挿入されている各磁石材料9の上部についても、ロータコア2の径方向での位置決めがなされたことになる。
【0031】
なお、本実施の形態では、ロータコア2の径方向における磁石材料9の位置や姿勢精度の向上を主たる目的としているので、各電磁石10,13による上下方向の引き寄せ力F2,F4は必ずしも必須ではない。ただし、各電磁石10,13による上下方向の引き寄せ力F2,F4をも併用すれば、磁石材料9の上下方向(ロータコア2の軸心方向)の位置決め精度も併せて良好なものとなる。
【0032】
その結果、図6に示すように、ロータコア2の各スロット部3に挿入されている磁石材料9のうち少なくとも反ロータ軸心側の外側壁面とスロット部3の外側壁面(ロータコア2の円筒外周面側の壁面)との間には所定の隙間Gが確保される。また、図6から明らかなように、下型6と上型7とでロータコア2を加圧拘束した状態では、各磁石材料9の反ロータ軸心側の外側壁面とスロット部3の外側壁面との間に確保される隙間Gと上型7側のゲート部12が位置的に合致することになる。
【0033】
続いて、図7に示すように、下型6側および上型7側のそれぞれの電磁石10,13の通電状態を維持したままで、上型7側のポット部11に熱硬化性の樹脂材料のペレットPを挿入した上で、ポット部11にプランジャ14を圧入する。この場合において、ロータコア2が予め170℃程度に予備加熱されていて、しかも下型6と上型7との組み合わせからなる金型8が180℃程度に加熱されていることは先に述べたとおりである。したがって、図8に示すように、ポット部Pに挿入された熱硬化性の樹脂材料のペレットPは直ちに軟化溶融(可塑化)して溶融状態の樹脂材料5と化し、そのままプランジャ14の押し込み圧力にて各スロット部3に注入または充填される。
【0034】
より詳しくは、ロータコア2の各スロット部3に挿入されている磁石材料9は、スロット部3のうちロータ軸心寄りの内側壁面に密着するように予め電磁石10,13にて位置決めされていることから、樹脂材料5の注入または充填圧を受けてスロット部3内で磁石材料9が変位してしまうことがない。したがって、磁石材料9のうち反ロータ軸心寄りの外側壁面とスロット部3のうち反ロータ軸心寄りの外側壁面との間にできた隙間Gに樹脂材料5が積極的に注入または充填される。さらに、樹脂材料5は、図2,3に示すように、磁石材料9のうちロータコア2の円周方向両端の壁面とそれと正対するスロット部3側の壁面との間の隙間に注入または充填されるとともに、最終的には磁石材料9の上面側にもこれを被覆するように注入または充填される。この状態で所定のキュア時間をもって樹脂材料5の硬化を待てば、磁石材料9がスロット部3内の所定位置にいわゆる樹脂モールドのかたちで堅固に位置決め固定されることになる。
【0035】
すなわち、樹脂材料5の注入または充填に先立って、それぞれの磁石材料9を電磁石10,13にて予めロータコア2の軸心寄りの位置に位置決めしてあることにより、例えば図9の(A)に示すように、磁石材料9よりもロータ軸心側に樹脂材料5が優先的に注入または充填されてしまったり、あるいは同図(B)に示すように、磁石材料9が傾いたり倒れ姿勢のままでその磁石材料9よりもロータ軸心側に樹脂材料が優先的に注入または充填されてしまうような事態の発生を未然に防止することができる。
【0036】
なお、先にも述べたように、磁石材料9のうち反ロータ軸心寄りの外側壁面とスロット部3のうち反ロータ軸心寄りの外側壁面との間にできた隙間Gに樹脂材料5が優先的に注入または充填されるならば、磁石材料9のうちロータ軸心寄りの内側壁面とスロット部3のうちロータ軸心寄りの内側壁面との間にも同時に樹脂材料5が注入または充填されることは許容される。
【0037】
この後、図8の状態からそれぞれの電磁石10,13への通電を断った上で、下型6と上型7とを型開きしてロータコア2を取り出し、後工程にて公知の方法により各磁石材料9に着磁処理を施して永久磁石4とすれば、図1に示したようなロータコア2が製造されたことになる。
【0038】
このように本実施の形態によれば、スロット部3に挿入されている磁石材料9に対して外部から電磁石10,13による磁力を及ぼすことで、そのスロット部3内の磁石材料9を特定の方向、すなわちロータコア2の軸心側に引き寄せて位置決めすることができるため、磁石材料9の位置や姿勢が安定化し、磁石材料9の位置決め精度が向上する。
【0039】
また、下型6側の電磁石10の通電開始時期と上型側の電磁石13の通電開始時期を異ならせているため、双方の電磁石10,13による引き寄せ力が同時に拮抗してしまうことがなく、各磁石材料9の位置決め精度が一段と向上することになり、かかる効果は、一方の電磁石10または13の能力を他方の電磁石13または10の能力(発生磁力)よりも大きくすることでより一層顕著となる。
【0040】
さらに、電磁石10,13を用いていることにより、必要な時期にだけ磁力を発生させることができるため、例えばハンドリングロボット等による自動化・省力化機器にてスロット部3に対する磁石材料9の自動挿入作業を行う場合に、磁力による磁石材料9のハンドリングへの悪影響を回避することができる。
【0041】
その上、下型6側および上型7側の電磁石10,13はその鉄心10aのみをロータコア2のスロット部3側に臨ませてあるので、電磁石10,13のコイル10bまでもが樹脂材料5にて覆われてしまうトラブルを未然に防止することができる。また、電磁石10,13はその鉄心10aのみをロータコア2のスロット部3側に臨ませてあるので、鉄心10aに付着した樹脂はコイルから鉄心10aのみを取り外して除去することができ、メンテナンスが容易となる。
【0042】
ここで、例えば図9の(A)に示したように、スロット部3内の磁石材料9を積極的にロータコア2の円筒外周面寄りに引き寄せる一方で、その磁石材料9のロータコア2の軸心側に積極的に樹脂材料5を注入または充填させたいとの要請がある場合には、下型6側および上型7側の電磁石10,13の配置を変更することで、本発明を適用してロータを製造することが可能である。
【0043】
さらに、図9の(A)の状態を天地反転させた形状のロータコア2を製造する必要がある場合には、図8において下型6側の電磁石10と上型7側の電磁石13の能力(発生磁力)の大小関係を逆にして、磁石材料9の上面をロータコア2の上面である一方の端面と面一状態とすることで容易に対応することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…ロータ
2…ロータコア
3…スロット部
4…永久磁石
5…樹脂材料
6…下型
7…上型
8…金型
9…磁石材料
10…電磁石
10a…鉄心
10b…コイル
13…電磁石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9