(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1以下の図面は本発明を実施するためのより具体的な第1の形態を示し、特に
図1は例えば永久磁石埋込型同期モータのロータ(回転子)の構造を示し、また
図2は
図1の要部の平面図を、
図3は
図1のA−A線に沿う断面図をそれぞれ示している。
【0010】
図1に示すように、ロータ1は、薄板状の電磁鋼板、より具体的には珪素鋼板等の積層体からなる円筒状のロータコア2を主要素として構成されていて、そのロータコア2の円周方向の等分位置に磁石収納のための穴部として偏平矩形状の複数のスロット部3を形成してある。それぞれのスロット部3はロータコア2をその軸心方向に貫通してロータコア2の両端面に開口していて、各スロット部3には当該スロット部3の形状よりも一回り小さな板状またはバー状の永久磁石4を挿入してある。そして、
図2,3に示すように、各永久磁石4はスロット部3と永久磁石4との隙間に注入または充填される熱硬化性の樹脂材料5にていわゆる樹脂モールドのかたちで位置決め固定してある。樹脂材料5はスロット部3と永久磁石4との間の四周に介装され、同時に
図3に示すようにスロット部3の高さよりも永久磁石4の高さの方がわずかに小さく設定されていることから、永久磁石4の上面も樹脂材料5にて被覆される。
【0011】
なお、本実施の形態においてはスロット部3の高さよりも永久磁石4の高さの方をわずかに小さく設定しているが、これに限定されず、例えばスロット部3の高さと永久磁石4の高さとが同等であっても良い。また、ロータコア2の中心の軸穴2aには図示外の回転軸が挿入固定される。さらに、ロータコア2の両端面に円板状のエンドプレート(端板)を積層配置することがあるほか、熱硬化性の樹脂材料5に代えて熱硬化性の接着剤を用いることもある。
【0012】
このようなロータコア2の製造方法には、概略的には、
図4に示すように、(1)磁石挿入、(2)予備加熱、(3)型締め、(4)樹脂タブレット挿入、(5)注型(樹脂材料の注入または充填)、(6)キュア(硬化)、(7)型開き・製品取り出し、の各工程が含まれていて、これらの工程を経ることで
図1のようなロータコア2が製造されることになる。
【0013】
「磁石挿入」とは、永久磁石4そのもの、または永久磁石4となるべき未着磁の磁石材料をロータコア2の各スロット部3に挿入する作業である。したがって、後者の場合には永久磁石4としての着磁は後工程にて行われる。
【0014】
「予備加熱」とは、各スロット部3に永久磁石4が挿入されたロータコア2を例えば170℃程度まで加熱するものである。
【0015】
「型締め」とは、永久磁石4が挿入された状態で予備加熱されたロータコア2を、その両端面側から所定の金型にて加圧拘束する作業である。なお、ロータコア2が予備加熱されているのに併せて、そのロータコア2を加圧拘束するための金型は例えば180℃程度に加熱されている。
【0016】
「樹脂タブレット挿入」とは、金型の一部に形成されたポット部に熱硬化性の樹脂材料のタブレットを挿入する作業である。
【0017】
「注型(樹脂注入)」とは、金型のポット部に挿入した樹脂材料のタブレットを軟化・溶融させて、各スロット部3に注入または充填する作業である。
【0018】
「キュア(硬化)」とは、各スロット部3に注入または充填された樹脂材料を所定の保圧下で硬化させ、もって予め各スロット部3に挿入されている永久磁石4を樹脂モールドのかたちで位置決め固定する作業である。
【0019】
「型開き・製品取り出し」とは、その名のとおり金型による加圧拘束状態からロータコア2を解放して、各スロット部3に永久磁石4が位置決め固定されたロータコア2を取り出す作業である。
【0020】
ここで、上記のような一連の製造工程は実質的にトランスファー成形法と同等の手法と理解することができ、その詳細を
図5以下に示す。
【0021】
図5に示すように、型板としての下型6と同じく上型7との組み合わせからなる金型8を用意し、各スロット部3に予め永久磁石4が挿入されているロータコア2の一方の端面を接触面として、下型6の上に載せて位置決めする。さらに、上型7を下降させてその上型7をロータコア2の他方の端面に密着させ、下型6と上型7とをもって所定の圧力でロータコア2を軸心方向に加圧拘束する。この場合において、上型7には後述するポット部9に連通するゲート部10を形成してあり、上記のような型締め状態ではゲート部10は永久磁石4が予め挿入されている各スロット部3に臨んで連通することになる。ここまでが
図4の「磁石挿入」、「予備加熱」、「型締め」の各工程に相当する。
【0022】
図5のようなロータコア2の加圧拘束状態において、上型7側のポット部9に熱硬化性の樹脂材料のペレットPを挿入した上で、ポット部9にプランジャ11を圧入する。この場合において、ロータコア2が予め170℃程度に予備加熱されていて、しかも下型6と上型7との組み合わせからなる金型8が180℃程度に加熱されていることは先に説明したとおりである。
【0023】
したがって、
図6に示すように、ポット部Pに挿入された熱硬化性の樹脂材料のペレットPは直ちに軟化溶融(可塑化)して溶融状態の樹脂材料5と化し、そのままプランジャ11の押し込み圧力にて各スロット部3に注入または充填される。すなわち、
図2,3に示したように、永久磁石4とスロット部3との間の四周の隙間にフルに樹脂材料5が注入または充填されるほか、永久磁石4の上面側にもこれを被覆するように注入または充填される。この状態で所定のキュア時間をもって樹脂材料5の硬化を待てば、永久磁石4がスロット部3内の所定位置にいわゆる樹脂モールドのかたちで堅固に位置決め固定されることになる。ここまでが
図4の「樹脂タブレット挿入」、「注型(樹脂注入)」、「キュア(硬化)」の各工程に相当する。
【0024】
所定のキュア時間の経過をもって樹脂材料5が硬化したならば、型開きに先立って、スロット部3側に注入または充填された樹脂材料5をゲート部10側に残されている樹脂材料であるところのゲート部跡10aから破断させる。このゲート部跡10aからの破断が
図4の「相対移動によるゲート部破断」の工程に相当する。このゲート部跡10aからの樹脂材料5の破断は、
図7に示すようにロータコア2の他方の端面と上型7との接触面において、そのロータコア2と上型7とを相対移動させることで行う。より具体的には、例えばロータコア2を固定側として、そのロータコア2の他方の端面と上型7との接触面において、ロータコア2の軸心と直交する方向(
図7の矢印a方向、すなわちロータコア2の端面に沿った方向)に上型7のみを所定量だけスライド移動させるものとする。
【0025】
こうすることにより、上型7側に残るゲート部跡10aは平面視にて例えば極細円柱状のものとみなし得ることから、ロータコア2と上型7との相対移動に基づくせん断力をもって、上型7側に残るゲート部跡10aから各スロット部3側の樹脂材料5が破断される。なお、
図7では両者の破断面を波線bで示している。
【0026】
この後、
図8に示すように、下型6と上型7とを型開きするとともに、プランジャ11を抜き上げた上で、ロータコア2を取り出せば、
図1に示したようなロータコア2が製造されることになる。なお、永久磁石4に代えて未着磁の磁石を用いた場合には、後工程にて公知の方法により磁石に着磁処理を施して永久磁石化することになる。
【0027】
したがって、この第1の形態によれば、そのロータコア2の他方の端面と上型7との接触面において、ロータコア2と上型7とのスライド移動に基づくせん断力をもって、上型7側に残るゲート部跡10aから各スロット部3側の樹脂材料5が破断されることになるので、樹脂材料5側の破断面が綺麗に仕上がるとともに、従来のように一旦はスロット部3に充填された樹脂材料5までも剥離させてしまったり、あるいは逆に本来はゲート部跡10aとなるべき余分な樹脂材料がスロット部3側に余盛り状に残ってしまうこともない。その結果として、樹脂材料5の充填品質が良好なロータコア2の製造が可能となるとともに、後工程である仕上げ工程での工数を削減できることになる。
【0028】
ここで、
図5〜8に示した型構造のうち上型7側のポット部9とスロット部3とを連通するゲート部10は、所期の目的を達成できるならばその形状は特に問わないものとする。ただし、
図9に示すように、ゲート部10のうち成形品部たるスロット部3側の樹脂材料5との境界部を括れさせて狭窄部10bを形成すると、ロータコア2と上型7との相対移動に基づくせん断力が集中しやすくなって、ゲート部10側に残る樹脂材料からのスロット部3側の樹脂材料5の破断が容易となるとともに、樹脂材料5側の破断跡が目立ちにくいものとなる利点がある。
【0029】
また、上記実施の形態においてはロータコア2を固定側として、ロータコア2の軸心と直交する方向に上型7を所定量だけスライド移動させることにより、各スロット部3の樹脂材料5をせん断力をもって破断している。この方式に代えて、例えば上型7を固定側として、ロータコア2を該ロータコア2の軸心と直交する方向にスライド移動させることによっても同様に各スロット部3の樹脂材料5をせん断力をもって破断することができる。すなわち、ロータコア2と上型7とをロータコア2の軸心と直交する方向に所定量だけ相対的にスライド移動させれば良く、ロータコア2と上型7とのいずれを固定側とするかは特に限定されない。
【0030】
さらにまた、上記実施の形態においてはロータコア2と上型7との相対移動方向をロータコア2の軸心と直交する方向としているが、この相対移動方向は各スロット部の樹脂材料5にせん断力を付与できる方向であれば良く、ロータコア2の軸心と直交する方向に厳密に規定されるものではない。すなわち、相対移動方向は各スロット部3の樹脂材料5にせん断力を付与できる方向である限り、ロータコア2の軸心と直交する方向に対して角度を持った方向であっても良い。
【0031】
図10は本発明を実施するためのより具体的な第2の形態を示す図で、
図7と同等の断面図、すなわち相対移動によるゲート部破断の工程を示しているとともに、
図7と同等部位には同一符号を付してある。
【0032】
図10に示す第2の形態では、所定のキュア時間の経過をもって樹脂材料5が硬化した後であって型開き前に樹脂材料5をゲート部跡10aから破断させる点で
図7の第1の形態と共通している。
【0033】
その一方、このゲート部跡10aからの樹脂材料の破断は、
図10に示すようにロータコア2の他方の端面と上型7との接触面において、そのロータコア2と上型7とを相対回転させることで、ロータコア2と上型7とをロータコア2の軸心と直交する方向(すなわちロータコア2の端面に沿った方向)に相対移動させるものとする。より具体的には、例えば金型6側を固定側として、ロータコア2の他方の端面と上型7との接触面において、所定の回転駆動手段によりロータコア2の軸心周り(
図10の矢印c方向)にそのロータコア2を所定量だけ回転させるものとする。こうすることにより、上型7側に残るゲート部跡10aは平面視にて例えば極細円柱状のものとみなし得ることから、ロータコア2と上型7との相対回転に基づくせん断力をもって、上型7側に残るゲート部跡10aから各スロット部3側の樹脂材料5が破断される。なお、
図10でも両者の破断面を波線bで示している。
【0034】
この第2の形態では、ロータコア2の平面視において、同じく平面視にて例えば極細円柱状のものとみなし得る各スロット部3ごとのゲート部跡10aが同一サークル上に位置していることから、各ゲート部跡10aに作用するところのせん断力が均等なものとなって、各ゲート部跡10aからの樹脂材料5の破断がより安定して行われることになる。
【0035】
図11は本発明を実施するためのより具体的な第3の形態を示す図である。
【0036】
この第3の形態では、
図4と比較すると明らかなように、「相対移動によるゲート部破断」、すなわちロータコア2と上型7との相対移動に基づくゲート部跡10aと各スロット部3側の樹脂材料5との破断を、樹脂材料5が硬化する前に行うようにしたものである。
【0037】
ロータコア2と上型7との相対移動に基づくゲート部跡10aと各スロット部3側の樹脂材料5との破断は、
図7に示したようにロータコア2と上型7との相対的なスライド移動、または
図10に示したようにロータコア2と上型7との相対回転によって行われるものであるが、
図11の第3の形態では、キュア(硬化)の前、すなわち各スロット部3に溶融した樹脂材料5を注入または充填した後であって、且つそれらの樹脂材料5の硬化が完了する前に、
図7のような相対的なスライド動作または
図10のような相対回転をもって、ゲート部10側に残る樹脂材料と各スロット部3に注入または充填された樹脂材料5とを破断させるようにしたものである。
【0038】
図7のような相対的なスライド動作または
図10のような相対回転をもって、ゲート部10側に残る樹脂材料と各スロット部3に注入または充填された樹脂材料5とを破断させたならば、
図11に示すようにその状態のままで静置してキュア(硬化)を進行させ、キュアの完了をまって
図8と同様の形態で型開きしてロータコア2を取り出すものとする。
【0039】
この第3の形態によれば、各スロット部3に注入または充填された樹脂材料5が硬化する前に破断させることにより、その破断が容易に且つ安定して行えるようになり、スロット部3側の樹脂材料5の仕上がりが一段と良好なものとなる。